第1話 堕ちてきた少女 

 宇宙世紀0085。一年戦争の傷跡もようやく癒えかけた地球に、新たな火種が舞い降りた。
 その火種が生まれたのは、人類の第二の故郷たる宇宙である。地球に残った人々にとって、宇宙とは常に災いの源でしかないのだろうか。そうだとするなら、宇宙時代の到来は、人類にとって不幸であったというしかない。そして少なくとも、人類のニュータイプへの革新を絵空事としか考られない重力に魂を縛られた人々にとって、宇宙に住む人々とは地球に仇なす危険な存在でしかなかった。
 人と人が分かり合えないこと。それが不幸の源であるなら、これから語る戦いもまた、その不幸が招いた結果の一つといえるかもしれない。人は皆、信念を持って生き、その信念が相容れない時、戦いという最悪の選択をする。その、最悪の選択の中から何が生まれ、何が失われていったのか。この戦いの記録が、貴方がそれを知るための一助となってくれるなら、ジャーナリストとしてこれ以上の喜びはない。

カイ・シデン著『永遠の遺産』より

機動試験部隊

 富士山麓上空を、駆け抜ける巨大な影があった。
 全長20mに達しようかというその影は、人型のシルエットを持っていた。人は、そのような鋼の巨人を称して“MS(モビルスーツ)”と呼んだ。
 だが、その名を知る者は、今眼前に広がる光景を異常なものと捉えることだろう。眩しそうに手を目の上にかざしながら空を見上げているフリージャーナリスト──カイ・シデンもまた、その一人だった。
「噂にゃ聞いていたが……まさか自力で空を飛ぶMSとはなあ」
 そう、単独飛行可能なMSなど、それまでの常識では考えられないものだったのだ。だが、今確かに1機のMSが、遥か天空に巨大な翼を思わせるブースターを広げて、雄雄しく飛翔している。
「RX-161スカイナイト・ガンダムか……。まったく、ガンダムって名のつくMSに縁があるね、オレも」
 カイ・シデンの呟きは、スカイナイト・ガンダムの振るわせた樹々のざわめきの前に、かき消されていった。

 宇宙世紀0085.6.7。この日、地球連邦軍極東方面軍所属機動試験部隊は、富士山麓にて試作MSの機動試験に当たっていた。
 機動試験部隊は、その名の通り新兵器の機動試験を行うために編成された特別部隊である。だが、連邦軍内において機動試験部隊といえば、専ら“島流し部隊”として通っている。隊員のほとんどが、以前に何らかの問題を起こした末にこの部隊に配属させられた者ばかりだからだ。もっとも、当の隊員達はそのような評判など全く気にしていないのだが。
 そして今、機動試験部隊は連邦初の単独飛行能力を持った試作MSスカイナイト・ガンダムと、無線操作式のフライサポート・システム、ドダイ改に乗ったパワードジムの実戦演習を行っていた。パワードジムはデータ収集用にジムの装甲やバックパックを改修し、機動性を高めた機体だ。 
 そのパワードジムの構えたマシンガンが、火を噴いた。赤い軌跡が、飛翔するスカイナイト・ガンダムに迫る。だがスカイナイト・ガンダムは肩に取り付けられたシールドで、マシンガンの攻撃を防いだ。次の瞬間には、2機のMSは遥か互いの武器の射程外まで離れてしまっている。これまでのMS戦の常識では考えられない、空中での高速戦闘が富士の樹海の遥か上空で繰り広げられていた。

「う〜ん、どっちが優勢っすかねぇ、イアン准尉」
 樹海の開けた一角に設けられた演習キャンプで、双眼鏡を目に当てて戦いの様子を見守っていた青年が、隣で腕を組んで空を見上げている下士官に声をかけた。 
「オレの目にはマルス少尉のガンダムが優勢に見えるな。空中戦では、射程の短いマシンガンしか飛び道具のないジムは不利だ。……で、お前はどう見る?アレク軍曹」
 イアンと呼ばれた、長身の逞しい体つきをした青年下士官が、腕を組んで空を見つめたまま逆に問い返す。どちらかというと軍人というより学者の卵といった印象を受けるアレクサンドル・ボルジア軍曹は、眼鏡に手をあて、しばし考え込んだ。
「うーん。やっぱ、ガンダムが勝つんじゃないっすかねぇ。マシントラブルが起きなきゃの話っすけど」
 スカイナイト・ガンダムは、新機軸の試作機だけあって、マシントラブルが多い。先日もブースターの出力が急に下がり、あわや墜落という事態になりかけたばかりでもある。
「それはそうとイアン准尉、一つ賭けでもしないっすか?」
 双眼鏡から目を離し、アレクが再びイアンに目を向けた。
「賭け?どちらが勝つかという賭けか?」
「いや、レイジが自分のMSを壊すかどうか」
「……」
 パワードジムを駆るレイジ・オハラ軍曹は、入隊からわずか2ヶ月で早くも“クラッシャー”という二つ名を賜っていた。演習のたびに、MSを破壊して帰ってくるからだ。それも、相手のMSではなく自分の乗るMSを。
「参考までに聞くが、お前はどっちに賭けるんだ、アレク軍曹?」
「当然、壊す方に」
 イアンの問いに、さも当然のように胸を張ってアレクは答えた。
「ならオレは……」
 イアンが口を開きかけた時。
「……わたしも壊す方に1票」
 突然二人の背後から、囁くような女性の声が流れてきた。
「わあっ!」
「うおっ!?」
 いきなりの背後からの声に、アレクは飛びあがって驚き、イアンは思わず腰の銃に手を当てていた。そんな二人の様子を見て、声の持ち主たる黒髪の女性が、クスクスと陰気な笑いをもらす。
「サ、サリア少尉、いきなり背後から声をかけるのは止めてください!心臓に悪いっすよ」
 アレクの抗議に、サリア・ロフォウ少尉は再びクスクスと笑った。そんな様子を見ながら、イアンは溜息を吐いて腰の拳銃から手を離した。
 機動試験部隊で通信班の班長を務めるサリア・ロフォウ少尉は、元諜報部員という隊内でも屈指の怪しい経歴の持ち主だ。腰まで伸ばされた黒髪と、病的なまでに白い肌が見事な対照をなしている。かなりの美人なのだが、目を覆うほどに伸ばされた前髪と、陰気さを感じさせる声のせいで、どこか儚げで不気味な印象を人に与える。
「……賭けをしているのでしょう?わたしも、レイジ軍曹がMSを壊す方に賭けるわ」
 イアンとアレクの顔を上目遣いに見比べながら、サリアは囁くような声でそう言った。ようやく落ち着きを取り戻したイアンが、そのサリアの言葉を聞いて逞しい肩をすくめる。
「オレも、壊す方に1票だ。……これでは、賭けにならんな」

 部下達がそのような賭けにうつつを抜かしているとは露知らず、機動試験部隊の幹部3人は、真剣な面持ちで演習の様子を見守っていた。
「なかなか、勝負がつきませんねぇ」
 機動試験部隊司令クチュト・ヤムヤ少佐が、整えられた口髭を撫でながら呟く。一見ぼうっと空を眺めているように見えるが、サングラスの奥に隠れた瞳は的確に空中戦を繰り広げる2機のMSの姿を捕らえていた。
「スカイナイトガンダムのブースターと姿勢制御用バーニヤの連動がうまくいっていないようです。動きにぎこちなさが感じられます。それに、パワードジムの方は武器の射程が短すぎて、間合いを詰めるのに精一杯でしょう。せめてバズーカぐらいはジムに持たせておいてもよかったのではありませんか?」
 MS部隊の小隊長を務めるソーク・レダ大尉が冷静に戦況の分析をしてみせる。秀麗で整った顔立ちと切れ長の青い目を持ったこの美男子の意見に口を挟んだのは、整備班の班長たるクルパ・ジェンド中尉である。
「いかんいかん!レイジの阿呆にバズーカなど持たせられるか。奴のことじゃ、バズーカでガンダムに殴りかかりかねんぞ。これ以上整備班の仕事を増やされてはたまらんわい」
 もうすぐ初老の域に差し掛かろうとしているとは思えない見事な体躯のこの黒人男性は、いかつい顔をさらにしかめて空を見上げていた。

「もう、しつこいなあ!」
 スカイナイトガンダムを駆る栗色の髪の青年士官、エリオット・マルス少尉は、しつこく追撃してくるドダイ改に乗ったパワードジムをモニターの隅に捕らえ、舌打ちした。本来スカイナイトガンダムの加速度と機動性なら、試作型のドダイ改など軽く振り切れるはずだったのだが、姿勢制御バーニヤの調子が悪く、うまく振り払うことができずにいる。
「ええーい、こうなったら!」
 マルスは背中に背負っていたハイパーバズーカを両腕で構え、パワードジムの乗るドダイ改に向けた。本来なら反動の大きいバズーカは空中で使うものではないのだが、ガンダムの武器の中で最大の射程を誇るのはこのハイパーバズーカである。スカイナイトガンダムは、出力の大半を飛行用ブースターに取られてしまうため、ビーム兵器は使用できないのだ。
「この高度なら、レイジだってうまく着地してくれるはず!」
 そう祈りながら、マルスはドダイ改目掛けハイパーバズーカを発射しようとした。が、
「え!?」
 突如、スカイナイトガンダムの機体がガクンと揺れる。急激な姿勢の変化に、バーニヤに過負荷がかかったのだ。
「やっぱり調整が完全じゃない!こんな程度で過負荷なんて……」
 そして、ガンダムが姿勢を崩すのを見逃すほど、パワードジムのパイロット、レイジ・オハラ軍曹も甘くはなかった。精悍な中にも幼さの残る顔立ちのこの黒髪の少年は、ここぞとばかりにリモートコントロールのドダイ改に全速を出させた。
「もらったぜ!」
 ガンダムとの間合いを一気に詰めたレイジが勝利を確信して叫ぶ。彼はまだ、自分が大きな過ちを犯していることに気付いていなかった。
「うわ!バカ!レイジ……」
 マルスが状況をいち早く悟って何か言いかけた時。ガンダムとドダイ改は見事に正面激突していた。調子に乗っていたレイジはドダイ改を全く減速させなかったのである。
「うっそぉーっ!」
 激突の衝撃でドダイ改から投げ出されたパワードジムは、真っ逆さまに樹海へと落ちていった。
「あーあ、やっちゃった……」
 何とか衝撃を堪えたマルスは、落ちていくパワードジムを呆れと心配が入り混じった複雑な表情で見つめていた。
「……やはりレイジ軍曹は、ジムを壊したな」
 戦いの様子を眺めていたイアン准尉がぼそりと呟く。
「それにしても、毎回よく懲りもせずにやるっすね、レイジは」
 アレク軍曹の隣で、イアンが同感だというように強く頷いた。

「痛つつつつ……」
 墜落したパワードジムのコクピットから、レイジは落下時に傷めた首を押さえながら何とか這い出した。
 必死で墜落寸前に姿勢を建て直し、辛うじて被害を最小限に抑える形で着陸をしたものの、ジムの受けた損害は半端なものではない。
「参ったなあ。これじゃまたおやっさんの雷が落ちちまうぜ……」
 頭を掻き掻き空を見上げたレイジは、ふと心の中に、何かとても懐かしい想いが広がっていくのを感じた。
「!?」
 レイジは思わず空の一点を注視した。その瞬間レイジが見たのは、富士山を背景に真昼の空に流れていく巨大な流星の姿だった。
「……オレを、呼んでいる?」
 我知らず、そんな呟きが漏れる。それは、無限に意識が拡大していくような、妙に懐かしくも思える不思議な感覚だった。誰か、遠い昔に出会っていた大切な誰かの意識に触れた、そんな感触……。そして、確かに相手も自分を探しているのだという確信。
 そんなレイジの視界を、何とか先程の激突の衝撃から立ち直ったらしいスカイナイトガンダムがかすめていった。

 ほとんど機能停止したパワードジムの左脚部をひきずるように歩いて、なんとか演習キャンプに戻ってきたレイジを待ちうけていたのは、整備班班長クルパ・ジェンドの、大気を震わす怒声だった。
「レーイジッ!このバカタレがーっ!!貴様は一体何度ジムを壊せば気がすむんじゃ!もう勘弁ならん、今日こそその腐った性根を叩き直してくれるわ!!」
 ごつごつした指の骨をボキボキ鳴らしているクルパの姿に、レイジは血の気が退くのを覚えた。
「ちょ、ちょっと待って下さいよ、おやっさん!ジムはそんなに壊れちゃいませんって。ほら、ここまで歩いて来れたんだから嘘じゃないですって」
 必死に弁解するレイジに、クルパが引きつった凄みのある笑みを向ける。
「……なーるほど。ジムは思ったより壊れてはおらんようじゃな。だがしかし!ドダイ改はどうしたんじゃ、ドダイ改は!?」
「え……と、ジムに潰されてたかな?大丈夫、大破ってほどひどくないですって」
「ばっかもーん!!」
 とても初老の域に達している人間のものとは思えない力で、クルパはレイジの頭部を殴りつけた。
「ドダイ1機直すのがどれだけ大変か、おぬしは分かっておるのか?いーや、分かっておるまいな。なら分かるまで体に教え込んでくれるわぁっ!」
「……ついでに、ドダイとジムの修理にどれだけ経費がかかるかも知っておいてもらいたいものですねぇ」
 先程から他の隊員達にまぎれて二人のやりとりを見守っていた部隊司令のヤムヤ少佐が、サングラスに指を当てながら会話に割って入る。
「ま、レイジ軍曹には反省の意味も込めて、基地に戻ったら懲罰房にでも入ってもらいましょうか」
「そんなー!またですか!?」
「当然でしょう。それとも、もっとひどい処分の方がお好みですか?」
 何を考えているのかまるで読めない表情と声でさらりと言い返され、レイジは言葉に詰まった。
「う……。た、たのむ、皆も何か言ってくれ。いくらなんでも懲罰房はひどすぎだよな?」
 レイジは藁にもすがる気持ちで、遠巻きにやりとりを見守っている隊員達の方へ目を向けた。
 が、
「懲罰房か。まあ、妥当な処置だろう」
 とイアン准尉が言えば、
「ひどいとは思うけど……。ガンダムだって結構ダメージを受けたんだ。責任はとらなきゃいけないよ」
 とマルス少尉が気の毒そうな目をレイジに向ける。そしてレイジと同期のアレク軍曹は、
「レイジ、入隊以来二ヶ月ちょいで7回目の懲罰房入りだね。連邦軍での新記録じゃないかな、これ」
 などと言いながらニコニコしている。
 追い詰められたレイジはすがるような目をMS部隊の隊長であるソーク・レダ大尉に向けた。レダ大尉は長い髪をかき上げ、青く澄んだ真剣な眼差しをレイジに返した。
「確かに、懲罰房入りというのは適当ではないかも知れない」
「そ、そうでしょう、レダ大尉!」
 思わず意気込んだレイジに、しかしレダ大尉は真顔でとどめを差した。
「……本来なら、テストパイロットを辞めさせられても不思議ではないくらいだ。それが懲罰房入りで済んだのだから、感謝するべきだろうな」 
「そ、そんな……」
 わずかな希望も打ち砕かれ、思わずレイジが肩を落とした時。
「おやっさん!」
 スカイナイトガンダムの整備をしていたメカニック達が、どやどやと現れた。
「何事じゃ、騒々しい」
 クルパににらまれ、メカニック達が一斉に姿勢を正し、敬礼する。
「は!不審な人物がガンダムの周りをうろついていたので捕まえましたが、いかがいたしましょう?」
「怪しい人物?」
 全員の視線が、メカニックに周囲を囲まれた人物の上に集中した。白い上質のスーツを着こなした、不敵な東洋系の顔立ちの青年である。
「じろじろ見るなよ。オレは怪しい人間じゃないって。うん?あんたが司令官殿で?」  
 白スーツの青年はメカニック達を巧みにかわすと、ヤムヤに歩み寄った。
「どーも、はじめまして。オレ、こういう者ね。決して怪しい者じゃなくてさ」
 差し出された名刺を反射的に受け取ったヤムヤが、さっとそれに目を通す。
「……フリージャーナリスト、カイ・シデン?」
「そ、よろしくな」
 白スーツの青年──カイ・シデンはニヤッと笑みを浮かべた。
「カイ・シデン!?まさか、あのニュータイプ部隊と呼ばれたホワイトベース隊のカイ・シデンっすか!?ガンキャノンのパイロットをしてたっていう……」
 アレクが大声を張り上げてカイ・シデンに目を向ける。自他共に認める軍事マニアのアレクは、こういったことが異常に詳しい。そのいかにも興味深げな視線を受けて、カイ・シデンの笑みは苦笑に変わった。
「……ま、そんなこともあったっけな。それよりオレは、あのスカイナイトガンダムの取材をさせてもらいたいのよ。ねえ、許可していただけません、司令官殿?」
「それはできない」
 そう答えたのはヤムヤ少佐ではなくレダ大尉だった。
「スカイナイトガンダムに限らず、我が部隊で扱っているMSはみな軍の機密事項だ。外部に情報をもらすわけにはいかない」
「機密ねえ……やっぱGAIAシステムの存在とかが外部に漏れたらまずいってわけだ」
「!!なぜその名を知っている!?」 
 GAIAシステムとは、スカイナイトガンダムに搭載された新しいコンピューターシステムだ。RX−78ガンダムに搭載されていた教育型コンピューターの発展型であり、パイロットの戦闘パターンや癖を学習し、そのパイロットに最適な操縦環境を作り出すことができる。さらに、記憶した戦闘パターンを利用して、ある程度までオートで戦闘を行うことができる画期的な補助システムである。そして当然このシステムの存在は、軍の重要機密事項になっている。
「へへ、蛇の道は蛇ってね。案外軍内部にコネが多いんだよね、オレ」
 カイ・シデンはヘラヘラ笑いながら、ヤムヤ少佐とレダ大尉の顔を見比べた。ヤムヤは困ったように口髭を撫で、レダは険悪な色をその青い瞳に浮かべ、カイ・シデンを睨んでいる。
「…………お取り込み中のところ失礼ですが」
 緊張に満ちた沈黙を破ったのは、突然どこからともなく発せられた陰気な声だった。いつの間にかサリア・ロフォウ少尉が、ヤムヤの真後ろにぼうっと立っていたのである。 
「ロ、ロフォウ少尉、頼むから気配を消して人の背後に立つのは止めて下さい。心臓に悪いですから」
 ビクッと振り向いたヤムヤの抗議に黙って頷くと、サリアは何事もなかったかのように手元に持っているメモを読み上げた。
「……たった今、ヨコハマ基地司令部より緊急通信がありました。機動試験部隊は今すぐ、富士山西方のB−38ポイントに急行し、その地点に落下したザクUのパイロットを生きたまま捕らえよ、とのことです」
 その通信内容に、場の空気が一変した。緊張と困惑とが、瞬時に辺りに満ちていく。
「どういう意味の命令でしょう?ザクが落下したというのは?」
 マルス少尉の問いに、サリアは淡々と答えた。
「……先程、ヨコハマ基地のレーダーが大気圏を突破し落下する物体を捉えたそうです。データ照合の結果、その物体がバリュート・システムを装備したザクUであるということが判明した……司令部はそう言っていました」 
「それで、もっとも落下地点に近い場所に展開している我々に回収命令が出たわけか。だが、パイロットを生きたまま捕らえよというのはどういうことだ?」
 イアン准尉が納得がいかないといったように太く逞しい首をひねる。
「まるで、司令部はそのザクのパイロットが誰か知ってるみたいっすね。しかも、生きたまま捕らえよっていうからには、結構重要な人物ってことっすかね?もしそうなら……」
 アレクも自分なりの推理を展開し、どうにかこの不可解な命令の真意を理解しようとした。と、ヤムヤが手をパンパンと叩き、皆の注目を促した。
「はいはい、余計な推測はそこまで。いいですか、我々は軍人です。あれこれ考えるのは上のお仕事。私達は、上から受けた命令を忠実にこなせばいいんですよ。ささ、ぼさっとしてないで移動の準備をして下さい」
 この一声で、皆ようやく我に帰り、慌てて出立の準備に移っていった。
 そんな中、パワードジムのコクピットに向かって走り出したレイジは、ふと先程見た流星のことを思い出していた。
(あの流星……あれが命令にあったザクだってのは充分考えられる話だ。なら、そのパイロットってのはどういう奴なんだ?)
 レイジには、先程流星を見たときに感じた懐かしさの原因が、そのパイロットにあるのではないかと思えたのである。
 一方、慌しく出発の準備に追われるキャンプ内で、取り残された形のカイ・シデンは、不敵な笑みをその顔に浮かべていた。
「機密だらけの島流し部隊に下された不可解な命令、か。何やらきな臭い感じになってきたな。面白い、とんだ特ダネを掴めるかもしれないぜ」

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