牧野広義著『哲学と知の現在ーー人間・環境・生命』文理閣、2004年、2800円
各章は、著者がこの10年ほどの間に発表した論文等をもとにしており、全体を統一するテーマは特に設定されていない。その意味では論文集であるが、単なる再録ではなく、著者による加筆が施され、現在時点で世に問うにふさわしいかたちに改められている。各章の内容は、「20世紀の時代と哲学をふり返って21世紀の哲学の課題を考えること、意識と脳、環境倫理学、生命倫理学、人権思想、自己決定権などの現代の問題を論じること、そして哲学の古典研究としてへーゲルを論じ、また大学改革と知の問題を論じること」(はしがき)と要約されているとおりである。本書の特徴は、とりわけ応用倫理学の議論において欠落しがちな、人々の権利と生活を足場に考える民主主義の視点が貫かれていることである。序論と最後の第8章が、大学における知のあり方を主題にしていることも、知の民主主義・民主主義の知を追求する著者の姿勢を表わしている。
『全国唯研ニュース』No. 90, 2004.