やっぱりミュージカルシーン

インド映画といえば、歌って踊って・・・ってまあそのとおりだったりします。
平均で約3時間にもわたる映画の中に、通常数曲のミュージカルシーンがあります。
突然歌ったり踊ったりは、日本人からしてみれば少し奇異な印象があるかもしれません。
でもやっぱりインド映画にはこのミュージカルシーンがなくては始まらないのです。

なぜ歌う?なぜ踊る?

インド映画がいまいち好きになれないと言う人は、
この歌って踊って・・・というのが苦手なのかもしれません。
確かに、なぜ映画のシーンで急に歌いだすのか?
これらのミュージカルシーンさえなければ、2時間で終わるのに・・・
と思われる人も多いでしょう。

なぜ歌って踊るミュージカルシーンが挿入されているのか?
これはひとことで言ってしまえば、インド映画の歴史的伝統ということになるのですが、
実は昔の日本でも美空ひばりが出演するような映画などで
ミュージカルシーンが盛り込まれた映画がいくつもありました。
昔の日本映画については詳しくないのでこれ以上の言及はできませんが、
ハリウッド映画にもミュージカル映画はあるし、
決してインドだけの特殊なものではないということです。

芸術映画や映画祭出品作品などはミュージカルシーンなしの映画もあります。
最近では海外マーケットを視野に入れてか、娯楽映画でもミュージカルシーンがない映画も出てきました。
もともと入っていたミュージカルシーンを世界にむけて、あえてカットした映画を見たことがありますが、
その映画はかなり上質のミュージカルシーンがあっただけに、カットした作品にはもの足りなさが残りました。
(ちなみに「ディル・セ」。ロードショー時は挿入されていました。)
やはりミュージカルシーンあってこそ、インド娯楽映画だと思います。

インド映画は映画自体を楽しむに加え、この映画はどのようなミュージカルシーンを見せてくれるのかも
楽しみの一つとなります。
いくら良い作品でも、ミュージカルシーンの出来が悪いと、やや評価が下がる。
逆にミュージカルシーンを見て良さそうだと、映画を見てみようという気になります。

それほどインド映画の中でミュージカルシーンの占める重要性が高いということです。
ミュージカルというと日本人には大げさでちょと気恥ずかしい感じがしますが、
映画の中にミュージッククリップが含まれている感覚で見てください。

ストーリーとの関連性

唐突に始まったかのように見えるミュージカルシーンですが、決してそんなことはなく、
時には言葉よりも饒舌に登場人物たちの気持ちを伝えてくれたりします。

言葉にできない「愛している」という気持ちを表現する時、
くどくどセリフで説明するよりもミュージカルシーン1曲の方が効果的だったり、
「すごくうれしい」という感情も、ダンスの力を借りればこちらまでうれしさが伝わってきます。

つまりインド映画はその時々の想いをミュージカルシーンという表現方法を借りて表しているのです。
時としてそれは言葉の壁を越え、直感的・視覚的に理解でき、私たちの心を打ちます。
一目惚れのカップルが1曲が終わる頃にはなぜかつき合っていたりして、
時間の経過をあらわすこともあります。

ヒロインが歌手やダンサーだったり、結婚式や学園祭、あるいはお祭りのシーンなども
インド映画には多いパターンです。
こういった場合はさほど違和感なく、ミュージカルシーンに入っていけます。
もちろん、とってつけたようなミュージカルシーンがあることも事実ですが、
「ここで来たか」とこちらをうならせるような、うまい挿入の仕方もあります。
むしろあまりストーリーが淡々としていると、「そろそろ入らないかな」とさえ思います。

こう考えると、ミュージカルシーンも映画の映像表現の一つということになるでしょう。
そしてテレビのコマーシャルタイムのように、ほっと一息つける休憩の役割でもあります。
3時間集中しっぱなしではなく、ところどころでリラックスしながらインド映画を楽しんでください。

歌単独でも楽しめる・・・脳裏に浮かぶあのシーン

インド音楽界は映画挿入歌が大きな割合を占めています。
映画の公開前には挿入歌が先行発売され、映画の前評判の一端を担っています。

インドに行かれたことがある人は耳にしたことがあるかもしれませんが、
オートリキシャ、あるいはタクシーのラジオから流れてくる、
いかにもインドっぽい音楽はたいていがインド映画の挿入歌だったりします。

そして映画の挿入歌を後になって聞いた時、
その映画の1シーンが鮮やかに脳裏に浮かんでくるのです

「シャー・ルク・カーンのDDLJラブゲット大作戦」(以下DDLJ)という映画がありますが、
この映画の挿入歌「Tujhe Dekha To」という曲が流れてくると
一面の菜の花畑でヒーローとヒロインが再会する感動のシーンが
よみがえってくるのは、決して私だけではないはずです。
この曲を聴くにつれ、映画の感動が再び思い起こされるのです。


 DDLJ「とぅじぇ でかといぇ じゃなーさなーむ♪」
このイントロが流れてくると、上のシーンが走馬灯のようによみがえる。

なお、インド映画の音楽はインド版こぶしがきいたとでもいうか、耳にまとわりつくような旋律で、
甲高いソプラノと甘ったるいテノールでのデュエットが多く、
どれを聞いても同じように聞こえるかもしれませんが、
実際同じ人が歌っていることも多いのです。

通常は役者が歌っているわけではなく、
プレイバックシンガーと呼ばれる吹き替えの歌手が歌っています。
ラター・マンゲーシュカルはその言語と曲数の多さでギネスブックにも載った
超有名女性プレイバックシンガーです。
高齢にもかかわらず、今でも少女の声で歌っています。

いかにもという感じのインドっぽい音楽も、最近はだいぶ様変わりしてきました。
その代表がARラフマーンです。
彼の音楽もインドっぽいと言えばインドっぽいのですが、
それまでのインド独特のメロディーラインに革新をもたらしました。
現在インド音楽界の第一人者です。
また、最近では音楽だけ聴いたら欧米のものかと間違えるような、ロックやラップ調の曲も多くなりました。

人気映画の挿入歌は違う映画にも登場することがよくあります。
それはさりげなくヒーローが口ずさむ歌だったり、結婚式のBGMだったり。
「モンスーン・ウェディング」で結婚式の余興に踊ったダンスは
「Biwi(奥様) No.1」の挿入歌でした。

「あ、これはあの映画のあの歌だ」と一人ほくそ笑むのも、
マニアならではのインド映画の楽しみ方の一つです。

おすすめミュージカルシーン

一番多いのはヒーローとヒロインが2人で踊るミュージカルシーンで、
草原や湖などのきれいなロケーションを舞台に愛を歌うことが多いです。

海外のロケーションも多く、「ジーンズ」という映画の「Ajoobi Hai」では1曲の中にエジプトのピラミッドから中国の万里の長城、パリのエッフェル塔、ニューヨークまで、一体この1曲のためにどれだけ時間とお金を費やしたのか、想像を絶します。
美しいアイシュワリア・ラーイがその場所に合せた衣装とメイクで登場し、インドミュージカルシーンの贅沢さを感じることができます。

「ジーンズ」


dilse また、普通は手をつないだりなどの軽いダンスが多い中、「ディル・セ」の
「Satrangi Re」ではフィギュアスケートのトップクラスのアイスダンスペアの演技のように、芸術的なダンスを見せてくれます。
この映画は「Chaiyya Chaiyya」というダンスも有名。
なお、「ジーンズ」も「ディル・セ」も音楽はARラフマーンです。


「ディル・セ」

しかし何と言ってもミュージカルシーンの醍醐味は集団群舞でしょう。
色とりどりの衣装を身にまとい、カット割りをうまくつなぎながら、
大人数が様々にフォーメーションを変えて繰り広げられるダンスは、
しばし観客を陶酔させてくれます。
これは本当に機会があれば大きなスクリーンで見てほしい。
感動が全く別物です。

 独断で選ぶ集団群舞ベスト3

数え切れないほどのインド映画ミュージカルシーンですが、
下にあげたものは有名かつ必見の集団ミュージカルシーンです。

khalnayak 「Khalnayak」 Choli Ke Peeche Kya Hai

1993年の作品とちょっと古いですが、ダンスのうまさはピカイチのマードゥリー・ディークシトのダンスが十分に堪能できます。
あまり刻まないロングカットはダンスのうまさの証拠。
彼女の名ダンスは数々あれど、最も有名なダンスのひとつ。

ddlj1 「DDLJ」 Mehndi Laga Ke Rakhna

実際のインドの結婚式で今も使われる結婚式ソング。
若きシャー・ルク・カーンが体当たりで踊っています。
幸せ感が画面からあふれんばかりに伝わってくる、これぞインドミュージカルシーン。

nimbooda 「ミモラ」 Nimbooda

色とりどりの衣装とそれらが様々に変化するフォーメーションの見事さ。
色彩の変化に目が奪われ、見るものを陶酔させます。
きちんと計算された映像効果はすばらしい。
完成度が高いミュージカルシーン。

何はともあれ、歌もダンスも国境はありません。インドミュージカルシーンにあなたも酔いしれてみませんか?