知 の 音 楽
ゴ ー ル ド ベ ル ク 変 奏 曲
1997年1月18日 藤田伊織
E-mail address: mocfujita@aol.com
音楽は「知」の対象となりうるかどうかを最初に問わなければなりません。しかし、音楽全体、すなわちクラシック、ポピュラー、ジャズ、演歌など全部を検討の対象にしたのでは、その解答を得るのは困難です。「知の音楽」といっているのは、ここでは特定の曲、すなわちバッハのゴールドベルク変奏曲であって、他の多くの曲を対象とするのではありません。ゴールドベルク変奏曲が、どのように「知の音楽」としての実体を持ち、「知」の対象となり得るかを考えていきます。ただし、音楽の専門家の分析、評論等の形式はとりません。実をいえば、音楽の専門家でない筆者にとってそのような形式はとりようがないのです。そのかわりに、SMF(スタンダードMIDIファイル)のデータを扱うことができれば、自由に「知」による取組みが可能になるようにしてみたいのです。
ゴールドベルク変奏曲を知の音楽として考えてみようということになったきっかけは、やはり、グレン・グールドの演奏です。グールドのデビューレコードのゴールドベルク変奏曲は、1955年の録音ですが、いかにも、「知」の挑戦といった感じで、逆に筆者には曲そのものの姿が見えてこず、最初は正直いって余り好きになれませんでした。その後、他のグールドの演奏では、バッハの平均律クラヴィア曲集第2巻第14番で感銘を受け、さらにモーツアルトのピアノソナタで引き込まれ、すっかりグールドのファンになってしまいました。そして、ゴールドベルク変奏曲のことは暫くの間、すっかり忘れていたのです。
1981年に再度、ゴールドベルク変奏曲を録音したグレン・グールドは、そのあとすぐ、1982年に、亡くなってしまいました。享年50才でした。グールドの多くのファンの同様、私もその死に強い衝撃を受け、奇しき運命によりもたらされた1981年のゴールドベルク変奏曲にとりつかれてしまいました。1955年と1981年に録音された演奏は同じものではありません。録音技術そのものも1955年にはアナログ・モノラルでしたが1981年にはデジタル・ステレオ録音となりました。演奏についても、1981年の演奏は、知が宇宙の精神と合体したかのような大きな拡がりのあるもので、1955年の鋭角的な知の挑戦とは異なっています。
1981年以降、CDプレーヤが普及してきました。筆者が生まれて初めて買ったCDが、グールドのゴールドベルク変奏曲でした。このCDは友人にプレゼントしました。その後も他の友人にあげるなどして現在のグールドのゴールドベルク変奏曲のCDはたしか5枚目になっています。
この曲は、百回、二百回と繰り返し聴いてきましたが、聴いたり、一歩進んで楽譜をみたりするだけでは、この曲がいかに「知の音楽」であっても、具体的に取組みようがありません。そこに大変役に立つ道具が現れました。コンピュータ、MIDIそしてデジタルピアノです。こうした道具の力を使うことによって、筆者にも「知の音楽」への挑戦のための道具が準備できたのです。
さあ、ここから皆さん、ひとりひとりの「知の音楽」を一緒に求めていきましょう。
はじめに
第1部
- 眠りの音楽
- 知の音楽
- 眠り」から「知」へ
- 知の対象としてのグレン・グールド
- 知の技法
- 音楽としての存在は
- ピアニストからの自由
- 楽器からの自由
- スタンダードMIDIファイルとは
- 参考:作成システムの変遷
- 音楽の分析
- 楽譜の分析
- 楽譜
- 演奏の楽器及び調律
- 楽譜における表現(MIDIにより演奏を聴く)
- 調声
- 音域
- 構成
反復/小節数/拍子/カノン(CANON)
- 演奏の分析
- 誰が演奏
- いつ録音
- ピアノかチェンバロか、どちら
- 1955年のグールドの録音のテンポ
- 反復の取扱い
- テンポの設定
- 知の音楽への取組み
- 反復の組合せ
- テンポの設定
- ダイナミクスの設定
- 装飾音等の変化
- 音の長さ
- ペダリング
- 曲と曲との間の長さ
- 移調(トランスポーズ)
- 音律
- カノンの分析
- 繰り返し聴く
- 再び眠りのゴールドベルク変奏曲
- ゆっくりおやすみ
- フォルケルの「バッハ伝」
- ヨハン・ゴットリープ・テオフィルス・ゴールドベルク
- ヘルマン・カール・カイザーリンク伯爵
- 不眠症
- ト長調
- 変奏曲
- 豊かな眠りを体験しよう!
-
第2部
- バッハの予感とグールドの回想
- 参考資料
- 演奏CDリスト
- 参考文献リスト
- グレン・グールドによるコンサートでのゴールドベルク変奏曲演奏の記録
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