セレニティ・プレイヤー

 わたしが今までラインホルド・ニーバーの「セレニティ・プレイヤー」に出逢った経緯を以下に記します。ニーバーについてはチョムスキーが批判をしていますが、このセレニティ・プレイヤー自身にはいろいろと考えさせられます。


■ 80年代
□ 『スローターハウス5』(カート・ヴォネガット・ジュニア/ハヤカワ文庫)
 「神よ願わくばわたしに変えることのできない物事を受けいれる落ち着きと、変えることのできる物事を変える勇気と、その違いを常に見分ける知恵とをさずけたまえ。
 God grant me the serenity to accept the things I cannot change, courage to change the things I can, and wisdom always to tell the difference.


■ 1990年 12月 7日
□ 友人FYからの私信
 PS.『変えられるものを変えようとする勇気と、変えられないものをうけ入れる包容力(serenity)をもちなさい。そして、それらのものを見極める賢さをもちなさい』というのがあります。核心ついてるでしょ。

■ 1993年 1月はじめ
□ 『自己愛と献身』(ハビエル・ガラルダ/講談社現代新書)
 この点に関しては、テレジアとニーバー先生の小さな祈りの内容を、深く望むしかないであろう。それは、『仕方のないことに対しては落ち着き、何とかなることに対しては勇気、この二つの中の正しい状態を見分けるために、知恵が与えられますように』という祈りのことである。

■ 1993年 1月 4日 
□ 『自己愛とエゴイズム』(ハビエル・ガラルダ/講談社現代新書)
 R・ニーバ先生は、昔アビラのテレジアが書いた言葉を、ある有名な祈りにしたのである。(中略)それで、R・ニーバ先生の小さな祈りとは次のようなものである。『仕方のないことに対しては落ち着きを。何とかなることに対しては勇気を。その二つを見分けることに対しては知恵を』という、簡単明瞭な祈りなのである。

■ 1993年 1月9日
□ 不明/S田市立図書館
 ラインホルド・ニーバー  1892-1971
 現代の指導的な神学者であるニーバーは、デトロイトの工業地帯の教会の牧師として宣教活動を始めましたが、ニューヨークのユニオン神学大学の教授として招かれ、伝統的なキリスト教信仰が現代世界とどういう関係をもちうるか、という問題と取り組みつづけました。牧師として労している間に、ニーバーは一時、社会党に入党しましたが、後に離党し、共産主義と、アメリカの極端な理想主義との間の中間的な道を摸索しつづけました。ニーバーは二つの団体を設立しました。一つは、「キリスト教と危機」、もう一つは「民主主義的行動のためのアメリカ人の連合」です。二つとも、クリスチャンの立場から世界のかかえている諸問題に対する、またアメリカの直面している国際情勢に対する、現実的なアプローチを考えようという試みです。ニーバーは積極的に政治的発言をし、神学と社会問題について多くの書物を書いています。
 ――見わけさせて下さい――
 神よ、かえることのできないものを受けいれる潔さ、変えることのできるものを変える勇気、そして両者の違いを見分ける知恵を、私たちにお与え下さい。」


■ 1993年 7月4日
□ 『生きることの質』(日野原重明/岩波書店)
 『苦しくて辛い化学療法でしたが、聖書のみことばに支えられて主の御使いとしか思えないような時を得た見舞いに力づけられました。入院中友人から届いた『こころの友』誌(日本キリスト教団出版局発行)に先生が紹介されたニーバーの祈りを心に唱えながら時を送ったのであります」とありました。ニーバーの祈りというのは、アメリカの神学者ラインホルト・ニーバーの「冷静さを求める祈り(セレニティ・プレーヤー)」として有名です。それは次のようなものです。
  神よ、
  変えることのできるものについて、
  それを変えるだけの勇気(カレッジ)をわれらに与えたまえ。
  変えることのできないものについては、
  それを受け入れるだけの冷静さ(セレニティ)を与えたまえ。
  そして、
  変えることのできるものと、変えることのできないものとを、
  識別する知恵(ウイズダム)を与えたまえ。
         (大木英夫『終末論的考察』より)
 これは一九四三年、第二次世界大戦のさなか、戦線にいる数十万人の兵士にこのニーバーの祈りがクリスマスの祈りとして配布されたものです。


■ 1995年 7月12日
□ 『あかるく拒食 ゲンキに過食』(斉藤 学・伊藤比呂美共著)
   God, Grant me the serenityは「セレニティ・プレイヤー」(平安の祈り)の最初の一行。
   神様、わたしにお与えください
   変えられないものを受け入れる平安(おちつき)を
   変えられるものを変える勇気を
   そしてその二つを見分ける賢さを
 1940年代のはじめごろ、ニューヨークのAAサービス・オフィスの壁にこの祈りが貼られていた。新聞で紹介されたこの言葉に魅力を感じた一人のAAメンバーが切り抜いて貼ったものだという。やがて、AAミーティングの終わりに、この祈りをメンバーたち全員が唱えるようになり、その慣習はAl Anon(アラノン:アルコホリックの家族のグループ)、NA、GA(ギャンブラーズ・アノニマス)など他の自助グループにも伝播した。この祈りの出典は明らかではないが、紀元500年ごろのイタリアの哲学者、ポエティウスの「哲学の慰め」にまでさかのぼれるであろうと言われている。ポエティウスは東ゴート王テオドリクスに仕え、その執政官となるが、東ローマ帝国との通報を疑われて獄死した。「哲学の慰め」は獄中で書かれた弁明書であったという。


■ 1999年 7月18日
□ 『魯迅に学ぶ批判と抵抗』(佐高 信/現代教養文庫)
 この文章を読むと、アメリカのプロテスタント神学者、ラインホルト・ニーバーの「祈り」を想起します。「神よ、われに与えたまえ。変えることのできないものを受け入れる冷静さと、変えるべきものを変える勇気とを。そしてその二つを識別することのできる知恵をわれに与えたたまえ」という言葉です。「できないこととしようとしないこと」の峻別もまた、魯迅らしい話です。

■ 2000年  1月16日(日)くもり
□ 『道をてらす光』(日野原重明/春秋社)
 これは、74歳で亡くなったプロテスタントの神学者、ラインホルト・ニーバー牧師(1892〜1976)が、40歳の時(1934年)にマサチューセッツ州のある田舎の教会の礼拝で捧げた祈りの言葉である。
 避けられるものをどう避け、変えられることのできないものをどう受容するか、これは病気についても言えるが、戦争も含め、生きる営みすべてについて問われていることではなかろうか。
 この祈りの言葉は、その後、第二次世界大戦中に、クリスマス・カードに印刷されて前線に立つ兵士へ送られたという。日本では、戦後間もなく、作家の石川達三氏(1905〜85)が、「この言葉は私を驚かした。この言葉を発見した人物がどういう人であるかわからないが、素晴らしい達人である」という感銘深い文章を残していたという(神学者、大木英夫教授の著書『終末論的考察』中央公論社より)。


■ 2001年 7月23日
□ 『ラインホルド・ニーバーとアメリカ』(鈴木有郷/新教出版社、3200円)1998年発行。S良高校図書館
 この頃、アメリカはナチスの悪に対してそれまでの中立主義をかなぐり捨て、ヒトラーに蹂躙されている国々の側に立つべきであるというニーバーの立場は、彼の下で学んでいた神学生たちに大きなインパクトを与えずにはおかなかった。彼らの中には後にアメリカが第二次世界大戦に参戦した時徴兵免除の特典を拒否して従軍牧師や一兵卒として戦列に加わった者もいた。その中でも、後にユニオン神学大学院の同僚となったロジャー・シンやアメリカにおける解放の神学の提唱者メバート・マカフィー・ブラウンの名前は特に良く知られている。彼らの心を強く引きつけたもの、それは何と言っても、ニーバー自身の罪の汚れを自覚しつつ神の摂理の貧しき器として生きようとする真摯な態度であった。その意味で一九四三年に活字になった「平和の祈り」は、歴史の曖昧さの中でキリストに連なる者として生きようとしたニーバーの信仰の表白であったと言えよう。
 神よ、願わくは、変えることのできるものについては、それを変えるだけの勇気が与えられんことを。変えることのできないものについては、それを受け入れるだけの冷静が与えられんことを。そして、変えることのできるものと、変えることのできないものとを識別する知恵が与えられんことを。


■ 参考文献
● 『聖学院大学紀要1994 ラインホールド・ニーバー特集』
 聖学院大学は埼玉県上尾市に所在する比較的新しいキリスト教主義大学。シンポジウムを採録したものだが、最近のニーバー研究の成果がわかりやすく書かれ、「ニーバーの祈り」についても二本の論文を所収。
● 『キリスト教人間観』1941 武田清子訳(新教出版社刊)
● 『道徳的人間と非道徳的社会−倫理学と政治学の研究』大木英夫訳(白水社刊)
● 『光の子と闇の子−キリスト教人間観によるデモクラシー及びマルキシズムの批判』武田 清子訳(新教出版社刊)
● 『義と哀れみ−祈りと説教』梶原 寿訳(新教出版社刊)
● 『現代プロテスタントの政治思想−R.ニーバーとJ.モルトマンの比較研究』千葉 真著(新教出版社刊)
● Charle, C, Brown, Niebuhr and His Age (Philadelphia: Trinity Press International,1992) p112-113 p278-279
● Richard Fox, Reinhold Niebuhr: A Biography (New York: Pantheon Books, 1985) p290-291