美達大和『死刑絶対肯定論―無期懲役囚の主張―』(新潮新書)


発行:2010.7.20



 殺人や人殺しは、時代を問わず、小説やドラマでは最大のテーマになっています。メディアには毎日のように殺人事件の報道が溢れていますが、現在の殺人事件の発生件数は、決して増加傾向にあるわけではありません。戦後は、昭和二〇年代半ばから三〇年にかけて年間三〇〇〇件強をピークとして減少し、(中略)、皆さんの周囲に、被害者やその家族がいるということは、本当に稀な筈です。つまり、ほとんどの皆さんは、「殺人犯の生態を知ることはない」ということです。
 平成二一年五月から始まった裁判員制度とも相俟って、現在、国会議員の中で仮釈放のない終身刑を創設しようという動きが出てきています。また、それに合わせて、学者・専門家・ライターが、著書で持論を展開したり、状況を報告したりしています。
 私は、学者でも専門家でもなく、書くためのトレーニングを積んだライターでもありませんが、それらの著書に目を通して、いつも感じることがありました。それは、肝心な殺人犯・受刑者、刑務所内の生活について極端に情報が不足していること、そして誤った情報と認識が流布されていることです。
(中略)
 そこで受刑者たち、とりわけ殺人犯とはどういう人間か、服役後の暮らしはどのようになっているのかを正確に伝え、その実状を踏まえて真に効果のある施策を提案できないだろうかと考え、この本を書きました。
(中略)
 塀の中のことを、脚色せず、あるがままに叙述しました。皆さんが今後、殺人とは、罪とは、裁判員になった場合にどうするか……等を刊行する際に参考にしていただけるなら、幸甚の至りです。

(「はじめに」より一部引用)



【目 次】
はじめに
第一章 ほとんどの殺人犯は反省しない
第二章 「悪党の楽園」と化した刑務所
第三章 殺人罪の「厳罰化」は正しい
第四章 不定期刑および執行猶予付き死刑を導入せよ
第五章 無期懲役囚の真実
第六章 終身刑の致命的欠陥
第七章 死刑は「人間的な刑罰」である
第八章 無期懲役囚から裁判員への実践的アドバイス
あとがき


 LB刑務所服役中の現役無期懲役囚が書いた『人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白』で話題になった作者の最新刊。かなり刺激的というか、死刑廃止論者に喧嘩を売っているようなタイトルだが、中身はそこまで「ひどい」ものではない。一部の死刑廃止論者なら思考回路を停止したまま「ナンセンス」と切り捨てるかもしれないが、とりあえず主張を聞いてみようという人だったら読んでみた方がよいということを最初に書いておく。

 第一章、第二章は刑務所における殺人者たちの「真実」、第五章は無期懲役囚の「真実」を記載している。多くの殺人者が「反省していない」ことについては、どこまで信用すればよいのかわからない。周りにいる同じ殺人者たちへのポーズがあるのかもしれないし、後悔していたとしても四六時中反省している人なんか、それこそいないだろう。どこまでが懲役囚の内面を表しているのかはわからないが、多かれ少なかれ反省していない人が間違いなくいることも事実だろう。犯罪の効率がよいかどうかはともかく、職を失ったりホームレスとなったりするよりは、衣食住が確保されている刑務所を終の棲家と考える犯罪者も多いだろう。特に第二章を読んで「人権派」がどう思うか、聞いてみたいところではある。
 第三章については、頷いてしまうところもある。死刑の適用基準を下げるかどうかは人それぞれかもしれないが、幼児虐待に対する罪が軽いとか、三振法の導入などは検討の余地があると思う。犯人にもそれぞれ事情があることは否定しないが、だからといって同情ばかりするのは間違いだし、社会の責任だとばかり訴えるのは真面目に働いている人への冒涜だ。
 第六章などの意見でも同調してしまうところは多い。「終身刑」を導入すれば受刑者は反省しなくなるだろうし、何をしても刑が変わらないのだから風紀が悪化することは間違いない。それは死刑でも同じだろうという人がいるかもしれないが、絶対数が違う。現在の死刑確定囚のみが終身刑となるわけではない。現在の無期懲役囚の中にも、存在すれば間違いなく「終身刑」を受けていたであろう受刑者は多く存在することは、裁判所の判決文を読んでも明らかだ。ましてや、執行を重ねることによって人数が減る死刑囚とは異なり、終身刑の受刑者は間違いなく年々増えていく。維持管理にかかる負担は年々増加していく。日本国民は、そんな多額の負担を担うために税金を払っているわけではない。弱者への視線は大事だが、多くの犯罪者は弱者ではない。その事実を受け入れようとしないものばかりが声を上げるから、終身刑や死刑廃止論が広がらないことをもっと真剣に考えるべきだろう。
 第八章には見るべきところはない。少なくとも裁判員裁判がどういうものかを目の当たりにしたものでない限り、「実践的アドバイス」などということはできないと考えるからだ。被告の証言時、一挙手一投足を見続けることなど不可能だろう。

 さて、この本のタイトルにある「死刑絶対肯定論」に当てはまるのは第四章と第六章である。"絶対"とまで書いているが、結局のところ「執行猶予付き死刑」の導入を提唱しているわけで、それほど目新しい論ではない。被害者への賠償の法制化なども、過去に言われてきたことだろう(多分)。死刑が「人間的な刑罰」かどうかはともかく、死と向き合うことで改悛の情が生まれるというのは昔から一部で言われていることだ。また犯罪抑止効果が条件によって変わるのも当然であるし、遺族の苦しみが一生続くことや執行を粛々と行うこともよく言われていることだ。一つ一つの意見は、インターネット上でも探し当てることができるだろう。それほど目新しい意見があるわけではない。
 ただ、その論に説得力があるように見えるのは、やはり自らの境遇と体験が論の強化に繋がっているからであろう。死刑存続論にしろ廃止論にしろ、犯罪被害者が声を大にして叫ぶと耳を傾けてしまうのと同じように、当の犯罪者自身、それも凶悪な罪を犯した人物が声を挙げたという点が、今回の肯定論に繋がってくる。少なくとも、経験者が語ったという点で、この本を、この論を無視することはできないだろう。十年一日全く進歩のない死刑廃止論よりは勉強になった。

 殺人や犯罪者処遇というテーマを扱っている以上、内容に残酷なところ、挑発的なところがあるのは仕方がない。ただ書き方自体はソフトであり、とても女性2人を殺した犯罪者とは思えない。所々でよく勉強しているよなと思わせる知識もさらりと出してくる。もっとも一作目、二作目の粗筋を読むと似たような単語が出てくることから、この人の引き出しがそんなにあると思えない。それに「はじめに」あたりを読むと、この本のタイトルを意図して書いたものとも思えないのだ。もしかしたら編集者によって文章がまとめられたり文体が描き換えられているのかもしれない。まあそれはともかく、この人からはスマートさが感じられる。作者には死刑廃止論の本を読んでもらい、議論を戦わせてほしいものだ。

 作者の美達大和は1959年生まれ。無期懲役囚。現在、刑期十年以上かつ犯罪傾向が進んだもののみが収容される『LB級刑務所』で服役中。罪状は二件の殺人。著書に、『人を殺すとはどういうことか』『ドキュメント長期刑務所』がある。


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