放物運動
初等力学の未解決問題:速度の2乗に比例する空気抵抗を持つ放物運動
初等力学の中で落体の運動と放物運動の解に関してまとめておく。初等力学といえども未解決問題は存在する。その典型が下記[F]の場合である。本ウェブページでは放物運動とその周辺に関して書き記しておく。

運動の種類 解析解の有無 コメント
[A] 真空中の自由落下運動 高校の物理で学習する。
積分の知識があれば解を求めることができる。
[B] 速度に比例する空気抵抗を持つ落体の運動 大学学部の初等力学で学習する。
大学学部の常微分方程式の知識で解が求まる。
[C] 速度の2乗に比例する空気抵抗を持つ落体の運動 大学の初等力学で学習する場合もある。
求積可能な非線形常微分方程式である。
[D] 真空中の放物運動 高校の物理で学習する。
積分の知識があれば解を求めることができる。
[E] 速度に比例する空気抵抗を持つ放物運動 大学の初等力学で学習する。
大学学部の常微分方程式の知識で解が求まる。
[F] 速度の2乗に比例する空気抵抗を持つ放物運動 × 軌道が書ける求積法による解析解は存在しない。
ホドグラフ解は知られている。

落体の運動
[A] 真空中の自由落下運動
 高校の物理でもおなじみの質点が真空中を自由落下する運動である。数学的には積分を理解していれば解を求めることができる。高校の教科書など多くの本で紹介されている[1][2][3]。式で説明

[B] 速度に比例する空気抵抗を持つ落体の運動
 大学学部1年生で学習することも多い。解析解を求めることができる。速度に比例する空気抵抗[1]は流体力学的にはストークス流れ[1]に相当し、大変小さな規模で、微小な速度を持つときに成立する。例えば、粉体の空気中の運動や、霧の粒の運動に相当する。よってボールを落とした時の運動など日常的に体験する落下運動は含まない。物理の演習問題として、速度に比例する空気抵抗を持つボールを落下させたときの問題が出題されるが、これは非現実的問題である。
 また、問題によっては式を簡単にするために空気抵抗は質量に比例するという問題が散見されるが、空気抵抗は物体の形にのみ関係があり、質量とは関係がない。もし方程式を簡単化するのであれば、無次元化を行うべきである。
 数学的には大学学部の常微分方程式の知識で十分解くことができ、多くの教科書で解説されている[1][2][3]。式で説明

[C] 速度の2乗に比例する空気抵抗を持つ落体の運動
 運動方程式が非線形常微分方程式となるため、大学学部で習わないことも多い。しかしこの非線形常微分方程式は求積法でとくことができる。投げ上げの解はtan関数となり、投げ下げの解はtanh関数で表される。
 流体力学的にはボールの落下など日常的に体験する落下運動の空気抵抗はボールの周りのながれが乱流になる前は速度の2乗に比例することが知られている。また乱流になっても空気抵抗はおおむね速度の2乗に比例することが知られている。そういう意味では大変実用的な解である。空気抵抗の係数の値は実験から求められたものを使う。
 教科書によっては解説を見つけることができる[1][2][3]。式で説明

放物運動
[D] 真空中の放物運動
 高校の物理でもおなじみの質点の真空中における放物運動である。数学的には積分を理解していれば解を求めることができる。高校の教科書など多くの本で紹介されている[1][2][3]。式で説明

[E] 速度に比例する空気抵抗を持つの放物運動
 大学学部1年生で学習することが多い。[B]で解説した空気抵抗の性質を持つ。よってボールを投げたときの軌道など日常的に経験する放物運動に適用することはできないが、解を解析的に導くことができるので度々ボールの投射の問題として出題されることが多い。詳しくは参考文献[1][2]で解説される。式で説明

[F] 速度の2乗に比例する空気抵抗を持つの放物運動(運動方程式)
[F-1] 求積法による解
 速度の2乗に比例する空気抵抗を持つ放物運動の軌道を描くことができる解析解を求積法で求めることはできない[2]。つまり初等力学の未解決問題の1つである。

[F-2] ホドグラフの解
 速度の大きさとその水平からの角度の関係を表すホドグラフの厳密解は存在する。ただし、軌道を描くためのx,y,tを求めるための積分を解析的に実行することはできない。最近ホドグラフ解を解説した教科書は少ない。参考文献[4]がくわしい。ホドグラフ法の解は1711年にベルヌーイにより見出されたという情報もある。式で説明

[F-3]数値解
 ルンゲ・クッタ法など簡単な数値計算法で数値解を求めることは簡単である。

[F-4]微小投射角近似解
 投射角が微小のときに成立し、高精度な解である。摂動法から作られている。y=f(x)の形に解が整理されていて便利である。誰が最初の理論を作ったのか不明だが、少なくとも1923年時点で知られていて参考文献[5]に詳しく解説されている。読者の方でご存知の方は情報を教えていただける助かます。投射角が小さいときの解なので時間が経ち、水平からの角度が大きくなると誤差が大きくなる。式で説明

[F-5]Parkerの解(1977)[6]
 short time近似解は上記微小投射近似解と同じものであり、long time近似解が示してある。これは物体の角度が水平から90度近くになったときの解である。どちらも摂動法により求められている。式で解説

[F-6]坪井の解(1996)[7]
 この解は投射角が小さいものとし、かつ空気抵抗と質量の比が小さいとし摂動法を適用している。Parkerの解とは別の解を与えている。文献[8]もあげておく。式で解説

[F-7]Chudinovの解(2001-2004)[9][10][11][12]
 ホドグラフ解を発展させている。投射角の制限はない。軌道がy=f(x)の形で与えられ、最大到達距離が最大の投射角、そのときの最大高さやそのxも位置などが求まり、解として理想的である。ただし、数値積分を行う必要があり、数値解の1つであると解釈できる[13]。

[F-8]級数解
 投射角に因らない摂動法による級数解(形式解)をつくることはできるが、この解はわずかな時間で有効な解で投射してすぐに発散する。解析解は、その解の形をみればその解の性質が分かるところが利点の1つであるが、級数解(解析解の1つ)からそのような解の性質を見出すことはできない。式で解説

[F-9]ホモトピー解析法による解
 本ウェブページの作者らは2007年、ホモトピー解析法を用いてすぐに発散する級数解の延長を試み、物体が投射後地面に着くまでの軌道を求めることができた[14]。この解には投射角の制限はない。しかしながらその解はべき級数解であり、解の観察から解の性質を見出すことは難しい。また、その解は延長されているが、べき級数解であるので有限の時間の解であり、いつかは解は発散する。

お知らせ

[A]-[E]の数式を使った解説は[1]の中で述べられている。[1]を入手するためには登録が必要となる。

以上、放物運動に関して概要を述べたが、本ウェブページ作者が見逃している情報をお送り願いたい。
YABU[a]NDA[dot]AC[dot]JP
[a]は@に置き換えて、[dot]は.に置き換えてメールください。

参考文献
[1] 藪下和樹 : 途中式のある流体力学ノート

[2] 原島鮮 : 力学I, 裳華房, 1973

[3] 藤原邦男 : 物理学序論としての力学, 東京大学出版会, 1984

[4] 後藤憲一, 詳解力学演習, 共立出版

[5] Lamb H : Dynamics (London: Cambridge University Press) p 294 ,1923

[6] Parker G W : Projectile motion with air resistance quadratic in the speed American Journal of Physics 45 606, 1977

[7] Tsuboi K : On the optimum angle of takeoff in long jump Trans. Japan Soc. Ind. Appl. Math. 6 393, 1996

[8] 坪井一洋 : 着地時の重心低下を考慮した走り高跳びの最適踏切角、 日本機械学会論文集C 743 , 1841, 2008

[9] Chudinov P S : The motion of a point mass in a medium with a square law of drag, Journal of Applied Mathematics and Mechanics, 65, 3, 421-426, 2001

[10] Chudinov P S : The Motion of a Heavy Particle in a Medium with Quadratic Force, International Journal of Nonlinear Sciences and Numerical Simulation 3 2 121-129, 2002

[11] Chudinov P S : An optimal angle of launching a point mass in a medium with quadratic drag force, Indian J. Phys. 77B (4), 465-468, 2003

[12] Chudinov P S : Analytical investigation of point mass motion in midair, Eur. J. Phys., vol. 25, 73-79, 2004

[13] http://leonhard.cocolog-nifty.com/eulerian/2008/05/chudinov_6c20.html

[14] Kazuki Yabushita, Mariko Yamashita and Kazuhiro Tsuboi : An analytic solution of projectile motion with the quadratic resistance law using the homotopy analysis method, Journal of Physics A Mathematical and Theoretical, 40, 8403-8416, 2007
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2008/12/16カウンタ設置