*最大限に楽しみたい場合はどっかで「古畑任三郎」のテーマのMIDIか何か拾ってきて、  オリキャラが出てきたときにそれを流し、イライラしながら読んで下さい。 霊夢と魔理沙が二人、博麗神社の縁側でお茶を啜っている。 「もうすっかり秋だなー」 冷たい秋風に奪われた体温を取り戻すように、魔理沙は湯飲みを両手でぎゅっと握り締めて呟いた。 「なんだかしんみりするわよねぇ」 「そうだなー」 秋空を雲が覆っている、天気は良いとは言えなかった。 雲まで含めて秋空というのならば、秋空を雲が覆っているという表現は的確ではないかもしれない。 「食欲の秋ね」 「読書の秋だ」 「スポーツの秋」 「芸術の秋」 二人はぼけーっとしながら、一般的に言われる『秋』を羅列していく。 そこに突如、不協和音。 「変態の秋」 平和を打ち砕く不気味な声。二人は驚いて声のする方……彼女らの後方、博麗神社の中に目を向ける。 そこに立っていた男の姿は二人には見慣れないもの、こちらの世界では『スーツ』と呼ばれるものである。 男は薄ら笑いを浮かべ、顎に手を当てて二人……いや、霊夢に視線を向けていた。 「だ、誰よあんた……」 「え〜……どうも〜……VENI畑です〜」 「酔狂な名前だぜ」 「ン〜フフ〜……」 「何がおかしいのよ」 「ちょっと待ってください……」 VENI畑は懐からガサガサと何枚かの紙を取り出した……何かを印刷したもののようである。 視線を霊夢からその紙へ移し、片目を閉じながらマジマジと見つめている。 「はい、出ました……え〜これなんですけど〜……ショートストーリー」 「ショートストーリー?」 「小説のようなものだと思っていただければ結構です〜、ン〜フフ〜」 「腹立つなこいつ、殴って良いか霊夢?」 「ちょっと待ちなさいよ、人間はまずいわ」 「ちっ」 VENI畑は出し惜しみするような仕草をしつつ、それを霊夢に渡した。 受け取った霊夢は手で簡単にそれをまとめて読み始める。横にいた魔理沙も身体をひねってそれを覗き込んだ。 「『お茶にしましょ』……?」 「おい霊夢、これ……」 「あのときのこと……?」 それは花の異変の直後に起こった出来事……。 「ちょ! ちょっと待て霊夢!! 読むな!!」 「え? え?」 魔理沙にとっては都合の悪い内容である。魔理沙の苦悩や霊夢へのライバル心、そんなものが書かれているからだ。 魔理沙はそんな姿を霊夢に知られたくない。霊夢から紙の束を乱暴にひったくり、胸に抱えてそれを隠した。 「な、なんてもの持ってくるんだよ……」 フーフーと鼻息を噴きながら、魔理沙はその紙束をVENI畑に突き返した。 VENI畑はちょっと驚いたような表情を浮かべ、のけぞりながらそれを受け取る。 そんな態度までがわざとらしく、魔理沙の怒りをくすぐった。 「え〜……霧雨魔理沙、さん……変わったお名前ですね〜」 「なんだよ、お前の名前の方がよっぽどありえないぜ」 「ン〜フフ〜」 「あーほんと腹立つわぁぁぁ!!」 怒りのあまり魔理沙は、歯を食いしばって乱暴に髪の毛をかきむしった。顔も真っ赤である。 だがそんな状態でも……一瞬、VENI畑が真剣な面差しになったことを見逃さなかった。 「霧雨魔理沙さん……貴女が被害者です〜、ン〜フフ〜」 「は?」 「何よ被害者って、別に魔理沙はなんともないでしょ」 「確かにそう見えます〜……でも違うんです〜……」 「何が違うのよ、日常的よ、ノーマル魔理沙だわ」 「なぁ?」 わけもわからず魔理沙は両腕を頭の上に上げてブンブンと振り回してみせる。 若干錯乱気味だが、肉体的には至って正常だということのアピールのようだ。 薄暗い室内にいるにも関わらず、VENI畑の目はいやらしく輝いていた。 そして、戸惑う二人など気にせずに話を続ける。 「え〜……ここを見て下さい〜」 VENI畑が、ある一行を指差した。 霊夢は訝しげに、魔理沙は少し困ったような顔でその箇所を覗き込む。 『今は女の方が強い時代なのよ!!』 二人は顔を見合わせて小首を傾げた。この一行に一体何の意味があるのだろうか、そんな疑問を抱いて。 VENI畑は少し眉間にしわを寄せつつ目を閉じ、こめかみをぽりぽりとかいた。 そのまま手を額にそえて、怪しい視線を二人に向けて口を開く。 「確かに……昔は『男尊女卑』が常識的でした〜、男女差別も甚だしい……  私もこの文化が素晴らしいものとは思いません〜……ですが、気の強すぎる女性もまた……問題を生むのです〜」 「お前の存在の方がよっぽど問題だと思うぜ」 「魔理沙、しっ!」 「ン〜フフ〜……ではお次はここをご覧ください〜」 二人から向けられる冷たい視線を鼻で笑い飛ばし、不敵にもVENI畑は次の問題箇所を指差した。 『あんたに食べさせるご飯なんて無いって言いたいけど、病み上がりだから特別よ。はい』 そこを見た二人はやはり釈然としない様子だ、VENI畑の言いたいことがまったく見えてこない。 そもそもこいつの存在は何だ、むしろこいつの存在意義はなんだ、次々と疑問が浮かび上がる。 「この台詞……ん〜、確かにこの世界ではあまり見慣れないものかもしれません……  私達の世界では一般的にこういう態度を〜……『ツンデレ』と呼ぶのですっ!!」 VENI畑が興奮気味に身体をゆすり、白目を剥きながら『ツンデレ』と口にする。 ついに本性が見えてきた、変態探偵の本性が……面食らった霊夢と怯える魔理沙、その身体は小さく震えている。 魔理沙は自分のスカートをギュッと握った。 少し取り乱してしまって霊夢と魔理沙がドン引きしてるのに気付いたVENI畑は、 懐からハンカチを取り出して、少し力み気味に冷や汗をぬぐった。ハンカチ王子。 だが気付いていなかったのは、霊夢も魔理沙も最初から相当ドン引きしていたということである。 名探偵の大きな誤算であった。別にどうでもいいが。 一つ深呼吸をし、VENI畑は続ける。 「そして博麗霊夢さん〜……貴女のそんな態度は、それ以降のシーンでさらに明らかになっていきます〜……」 今までと同じようにVENI畑が紙の中の一部を指さす。 二人は完全にVENI畑のペースに乗せられ……いや、恐怖から従うしかないのかもしれない。 とにかく、VENI畑の指さした箇所に食い入るように見入った。 『私が和食派だって知ってて和食を持ってきてくれたんだな?』 『私も和食派なだけよ』 霊夢の表情が徐々に青ざめていく。目の前にたたずむ得体の知れない男に対する恐怖ではない。 その表情には焦り、そして驚きが含まれている。霊夢の額に冷や汗が流れた。 「そろそろお分かりですか〜、博麗霊夢さンフッフ〜……」 「な、なにがよ……」 蛇に睨まれた蛙……状況はそんな様相をかもし出していた。 霊夢の身体も小刻みに震えている、それは焦りか、恐怖か、はたまた……怒りによるものか。 「貴女は……『ツンデ霊夢』をエサに霧雨魔理沙さんを甘〜くとろかして〜……密かにペースに乗せていた、そうですね?」 「なによ! 自然な対応をしていただけよ!!」 「れ、霊夢……?」 最初とは明らかに違う様子の霊夢に魔理沙が猜疑の目を向ける。 そんな魔理沙の目が……魔理沙の純粋な目が霊夢の心に突き刺さる、霊夢は首をブンブンと横に振った。 まるでそれを認めたくないかのように。 「はい、これも『ツンデ霊夢』です!」 ジャン!(効果音) 『……わかったわ、私もお茶を飲むから、そのついでにいれてあげる』 次々と残酷な現実を露にしていくVENI畑……霊夢は苦しそうに彼の指先を追う。 「『ツンデレ』とは……見た目ツンツンしつつも、実は喜びながら相手の意向に従う……  二人きりになったとき、コッソリと甘える……わざとワガママを言って相手を困らせる……  でもワガママを言いすぎてしまって自己嫌悪に陥り……影で泣く様子を想像するのがまた楽しいのですっ!!」 また白目を剥いて身体をゆするVENI畑。本当に気持ち悪い。少し口の端に泡もついている、汚い。興奮しすぎ。 「霊夢……本当なのかよ……? 本当に私は被害者……?」 「そっ、そんなわけないでしょ!! 私のこと信用できないの!?」 「無駄なことです博麗霊夢さん〜……一度生まれた疑心暗鬼はそう簡単には晴れない……  若干蛇足ではありますが〜……ここも付け加えておきますか、ンフッフ〜」 「もうやめて!!」 霊夢が頭を抱えて屈み込む。既にVENI畑の指さした箇所を見る勇気が無いようだ。 魔理沙はそんな霊夢に心配するような、見損なったような視線をチラと向けてから、 息を飲み込んでVENI畑の指差した所を凝視する。 『風呂? あんたお風呂まで入るつもり?』 『いや、風呂は家で済ませてるから良い』 『それじゃ何よ?』 「心底残念だったはずです〜……『それじゃ何よ?』この不機嫌そうな態度に、それが表れていますね〜……  『ツンデ霊夢』の効果が十分に現れていれば……貴女は霧雨魔理沙さんと一緒にお風呂に入るつもりだった……  しかし残念ながら霧雨魔理沙さんは『ツンデレ』属性が無かった〜……違いますか〜? ん〜? ンフッフ〜」 「それ以上言ったらタダじゃおかないわよ……!!」 霊夢の身体から怒りのオーラが立ち上っているのがわかる。 腰から抜いたお払い棒を振り下ろせば、殺人事件の凶器となり得るだろう。 だが……。 「霊夢……私知りたいんだ……こいつに好きなだけしゃべらせてやってくれよ……」 「ま、魔理沙……!?」 お払い棒を握り締める霊夢の手を、魔理沙が両手で握り……いや、抱きしめていた。 「きっと、私の知ってる霊夢はそんな変態じゃないよな!? 信じてるんだぜ!!」 「ま、魔理沙っ!?」 真っ直ぐすぎる魔理沙の眼差し……霊夢は直視できなかった、顔が引きつった。 霊夢の目を見つめていた魔理沙の視線は、ゆっくりとVENI畑へ向けられる。 霊夢は観念したように、ガックリとうなだれた。その手からお払い棒がこぼれ落ちる。 「よろしいですか〜? そんなレイマリ属性が喜びそうな茶番、もういいんですよ〜……  それよりも衝撃的な最後の事実を、これからお話しいたしますから……」 VENI畑の目が怪しく光る。 霊夢は硬直した、これが名探偵のカリスマ……そんなわけないのに、威圧された。 VENI畑の指が、スーッと残像の軌跡を描き……博麗霊夢に最後の審判を下す。 『あー、でもあれだわ、あんたに勝った後が一番スカッとするのよ、なんでかわからないけど』 「ン〜フフッフ〜……言ってしまっていますね〜……博麗霊夢さん〜、貴女、実は……  霧雨魔理沙さんの悔し泣きに気付いていた……違いますか? なんでかわからないはず、ないですね〜……ン〜フフ〜。  それはもう、鼻血も耳血も吐血も……『全ての穴から鼻血色マスタースパーク』という心境だった、違いますかぁ〜?  興奮を抑え切れなくなった貴女は冷静さを欠いたっ!! 最後、お茶を霧雨魔理沙さんの頬にくっつけたことは〜……  そう、ソフトSMです〜……泣き明かして赤くなった霧雨魔理沙さんの目は、いかがでしたか〜?」 「う、うぅ……」 「霊夢……」 霊夢がくずおれた、もはやVENI畑への抵抗の意思は見られない。 ぐったりと肩を落とし、冷や汗を流しながらうつろな目で虚空を見つめている。 「博麗霊夢さん〜……貴女……サドりましたね?」 「……サドったわよ……」 「霊夢……!?」 開き直った霊夢はぐりっと首をひねりVENI畑を睨みつけた。少し遅れてポニーテールがついてくる。 既に開き直ってしまったようだ、その目には狂気、口には薄ら笑いを浮かべている。 「強気な魔理沙を負かして泣かすのが大好きよ!! それこそが博麗の巫女に生まれた最大の利点だと思ってるわ!!  だって、努力嫌いだけど努力しなくても魔理沙に勝てるんですもの!!」 「そ、そりゃあんまりじゃないか霊夢!? 博麗大結界は大切だぜ!?」 「ああ!! こんなときに博麗大結界の方を心配しちゃってる天然魔理沙も大好きよ!!」 「あいたたた……手遅れか……」 魔理沙は沈痛な面持ちで額を押さえた。 「あははハはハハハはは」 「こ、こわっ!!」 「魔理沙ぁーっ!!」 「ひぃぃぃぃぃ!?」 無理矢理魔理沙を押し倒した霊夢は……馬乗りになって魔理沙の頭を両手で掴み、頭突きし始めた。 「痛い! 痛い!! 何するんだ霊夢っ!?」 「泣きなさい! 泣きなさいぃ!!」 「うぁぁぁぁぁん!!」 VENI畑はいつの間にか神社の外に出て、曇った秋の空を眩しそうに眺めていた。 「二人は良きライバルのはずでした……自然に高みに昇る天才……それを追う……もう一人の天才……。  ですが天才の心理は、常人には理解し難いものと言います……天才と狂人は紙一重……と。  時には狂った人間の狂った発想が天才じみて見えてしまうことが、あるのかもしれません。  博麗霊夢がそうだったのか、それは私にはわかりません。ただ一つ言えることは……。  頭突きするなら私にしてほしかったです……VENI畑マゾ三郎でしたっ!!」 最後も白目を剥いて泡を吐きながら……カメラ目線でキメ。 その後しばらく博麗神社に魔理沙が寄り付かなくなったのは言うまでもない。 でも…… それはまた、別のお話。