平成16年度東京大学入学試験(文科一類後期日程)

2004年3月13日受験

はじめに

 私は不本意にも前期日程で東大に落ちたわけだが、後期日程で前期で落ちた文科一類に合格した。後期試験は前期に比べ情報が極端に少なく、受験時は私もGoogle等で「東大+後期」などと入力して些細な情報でもいいから集めようとしたものである。そこで受験から1年経つ今日この頃、何らかのきっかけでここへたどり着いた受験生のために、東大後期の情報を提供しようと思う。なお、できるだけ有益な情報を提供するつもりだが、ここにおける記事は一受験生の視点でありどうしても主観的なものにならざるを得ない。したがってその情報を信じて不合格となったとしても私が一切の責任を負わないのは言うまでもない。情報の選別能力のない者はこれからの時代は生き残れない。

 なお私が受験生時代、最も参考になったHPはGen式東大後期 私大文系徹底攻略法である。Yahoo!JAPANにも登録されているサイトであり、管理人は文三後期に合格している。文一・文二志望者は英語の攻略法が参考になる。

 とまあ、初めからかなり偉そうなことを書いてしまったわけだが、こういう前書きは格式張った方がいいかなと思っただけです。大口を叩いておきながらさすがに1年も経つと記憶が薄れてるため、ところどころ曖昧で間違ってるかもしれませんが悪しからず。


受験当日

 試験会場は文系理系とも東京大学本郷キャンパスである。前期は文系が駒場で理系が本郷であるため、特に文系で前期を受けた人は注意する必要がある。ちなみに私は丸ノ内線本郷三丁目駅から一駅の後楽園駅近くの東京ドームホテルに宿泊した。本郷キャンパスから最も近いシティホテルである。東京ドームシティの中にあるホテルだが、ラクーアという遊園地が近くにあり、そのジェットコースターがうるさいため、フロントで高層階にしてくれと言うべきである。低い階だとうるさくて勉強ができない。私は確か36階くらいに宿泊したと思う。

 本郷キャンパスまでは歩いてもいいし東京メトロ丸ノ内線を利用してもいい。試験会場は正門(赤門ではない)から安田講堂に向かって歩くと右手にある法・文2号館だった。向いの法・文1号館はたぶん文3の会場だと思う。正門前には前期ほどではないものの各種予備校ののぼりが2,3本立っており、消しゴムなどを配っている。また、ラグビー部は相変わらずポケットティッシュを配っていた。さすがにマスコミのカメラは来ていなかった。私は河合塾の消しゴムをもらった。ちなみに河合塾シャーペンもすでに持っており、試験本番では縁起が悪いかなと思いつつも河合塾シャーペン&消しゴムを利用した。また前期不合格後、河合塾の予約も済ませており、落ちてもまあ河合塾行けばいいやと思えて気楽に受けられた。このように河合塾にはいろいろお世話になった(´ー`) 。

 私は途中道に迷って受験票に記載された集合時間に20分ほど遅れたものの、まだ受験者は会場に入れず、多くの受験生は安田講堂前の芝生あたりで青本などの参考書を読んでいた。さすがに前期落ち組が多いだけあって、受験生の間にはあきらめムードや悲壮感が漂っておりお葬式のような空気だった。一緒に受ける友達が少ないのであろうか、会話をしている人は殆どいなかった。賑やかな前期とは対照的だった。カップルでイチャついてるアホもいたが空気読めと言いたかった。


午前・論文I(英語)

 午前は英語である。過去問は河合塾の解答速報を参考にして欲しい。私が受けた2004年度は、「消費社会の進展がもたらすもの」というのがテーマの英文(B5で4枚分)を読まされ、それに対しての大問3つを解くというもので、この形式は近年変化していない。

 大問1は下線部の本文中における意味を説明をするというもの。単なる和訳ではなく、筆者の主張に従って400字程度の日本語で説明する。大問2も下線部の意味や筆者の主張を説明する問題。下線部説明は本文をきちんと読むしかない。設問に具体例に沿ってと問題文にある場合は具体例もきちんと拾う必要がある。その際は文章全体の論理構成を考えて、拾う場所を確定しなければならない。なお、一番気をつけるべきことは、大問1と2は課題文筆者の主張を説明するのであって自分の意見を書くのではないということである。わからないからといって自分の意見を書いてしまっては英文読解という出題意図をまるで無視しているため得点は難しいだろう。

 大問3は筆者の主張をふまえた上で、消費社会は個人の自由を促進するか阻害するか、どちらかの立場を選び論を展開せよという問題だった。私は個人の自由を阻害する立場を選んだが、どちらの立場を選んでも論がしっかりしていれば問題ないと思う。ここは高校の先生が試験前日にくれたアドバイスに基づき、ディベートの形式を借用した。すなわちディベートにおける論の立て方、自分の主張→論拠→予想される反論→論拠つきの再反論→自分の主張の確認という流れで答案を書いたのである。この大問3はこのままの流れで書くと非常にすっきりとした答案になる。

 具体的には、

 1.「消費社会は個人の自由を阻害すると考える。その理由は以下である。」(自分の主張を明確に)
 2.「まず・・・、次に・・・、さらに・・・」(論拠)
 3.「消費社会は・・・であるから個人の自由を促進すると考える人もいるかもしれない。確かに・・・。」(予想される反論)
 4.「しかし・・・。やはり・・・。」(再反論)
 5.「以上のように私は消費社会は結局、個人の自由を阻害するものであると考える」(自分の主張の確認)

 という流れで答案を書いた。論拠は自分の考える具体例も入れつつ、「課題文の筆者もいうように」という形で本文中の具体例も拝借した。字数は最後の一行の真ん中まで書くなど、見た目も美しく自分でも完璧と思える答案だった。どちらかの立場を選んで書けという大問3の問題文から判断するに、この答案構成は出題意図にのっとった正しいものであると思われる。

 後期の英語は英語力というよりも日本語力を試す試験であるというのが受験界の通説である。事実、下線部の和訳自体は難しくないが、それを日本語にまとめるのが難しい。大問3などはもろに日本語力を試している。英語力だけでなく日本語力も養う必要がある。私の対策としては王道であるが過去問を解いて高校の先生に添削してもらっていた。よく東大の英語教科書である『The Universe of English II』(東京大学出版会)を読むと後期対策になるという話を聞くが、私もこれを試してちらほら読んでみたものの全く意味はなかった。長期的な視点で見れば英語力の涵養に役立つとは思うが、前期試験後1週間程度しかない中ではこんなのんびりしたことをやるより、面倒くさがらず過去問を解いて出題形式に慣れることが合格への最短経路だと思う。

 ちなみに課題文中のconsumerismを私は「消費主義」と訳して答案を書いたが、今思えばこれは正しい訳ではないな。まあ単語の訳一つ間違ったって不合格にはならないということだ。


午後・論文II

 論文IIは科類によって問題が異なる。文一は社会・人文科学系の課題文を読み、それをふまえて自分の意見を各1200字で論述するという問題が2問出る。私の時は第1問が長谷川眞理子氏の、過去の投資の大きさが将来の人間の行動を決めるという現代社会における人間行動についての課題文で、第2問が山本七平氏の戦争責任に関して社会の中にいる個人の権利と責任についての課題文だった。この課題文をふまえて、問題文の指示(筆者の問題提起をめぐりあなたの考えるところを述べよ、など)に忠実に従って論を展開した。

 論文IIにおいては文一ならば主権国家や法、政治、社会契約とは何かということについて最低限の知識が必要である。今では考えられないことだが、私は受験生時代、「法の支配」と「法治主義」が異なる概念であるということすら知らなかった。そこで政治経済の資料集を先生にもらい、それを熟読することにした。時間に余裕があるのなら、その手の新書等を読んでもいいが、私の場合は前期終了後1週間しかない中だったので資料集を斜め読みして済ませていた。その結果、文一受験生に求められる知識は全く身につけることができなかったものの、幸い出題された課題文がそれらとはあまり関係がないものだったため、殆ど知識が無くても論文を書くことができた。

 小論文を書くときはいきなり書き出すなどという愚は犯さず、問題冊子の余白に書くべきことをメモしていった。小論文を書いたことのある人ならわかると思うが、1200字と長い文になってくると真ん中くらいまで書いたあたりで、当初に思っていたことと違うことを書きたくなってくる。このように自分の意見を途中で変えたくなってももう遅い。最初から書き直すことは時間的に不可能である。このような事態を防ぐために、事前のメモ書きの段階でじっくりと思考を深め、些細なことでもいいから書き出していくべきである。書くことが思考を明確にする。そして書くことが決まったら矢印などを利用しつつ答案構成も書く。ここまで来たらもはやその問題はほとんど書き終えたも同然である。

 以上が私が本番で実践した小論文の方法であるが、後期合格者とはいえ小論文については私は素人であり、これが正しいかどうかもわからない。そこでお薦めしたい本が『「考える」ための小論文』(ちくま新書)である。この本は新書であり受験参考書ではないが、だからこそ小手先のテクニックしか載っていない受験参考書とは一線を画しており、自分の頭で考える方法を教えてくれる。東大は自分の頭でものを考えられる受験生を入学させたいと思っているらしく、それのできる受験生は東大入試に強いといわれている。この本では小論文の書き方を学ぶと同時に学問的な思考法も学ぶことができ、私が大学に入学した後もここから得られた知識は役に立っている。

 ついでにもう一冊お薦めの本を紹介しておく。『伝わる・揺さぶる!文章を書く』(PHP新書)。自分の頭で思考できでも実際に文章として表現し、他人に正しく伝えることができなければ意味がない。この本を読んで実践的な文章の書き方を習得してほしい。なおこの本はAmazon.co.jpのカスタマーレビューで異常に評価が高い。

 なお私が論文I・IIを通して最も気をつけたことは「わかりやすく書く」ということだった。難しい表現や単語、有名な学者の考えなどはあまり書かなかった。採点者は東大教授だからわかってくれるだろう・・・などという考えを過去問を解き始めた当初は持っていたが、高校の先生にその態度を諫められ、考えを改めた。実際の試験では新聞の投書を書くような気持ちでわかりやすく書くことに努めた。そしてその結果合格することができた。この考えは間違っていない。ちなみに教学社の過去問シリーズいわゆる赤本の解答は非常に難しい答案で、こんなの18歳の若者に書けるわけがないという内容である。その点青本は答案もわかりやすく、1問につき3通ほどの答案が載っていたり合格者の再現答案が載っていたりと解答が充実しているのでお薦めできる。


最後に

 合格発表は3月23日だった。私は読売新聞のサイトで合格発表を見た。まさか自分の番号があると思わなかったので、掲示板を写した写真と受験票を何回も確認したことを覚えている。ただその喜びもつかの間、後期合格者は入学式まで日がないため、入学手続きや引っ越しの準備など合格発表後は死ぬほど忙しかった。2週間で東京〜地元間を3往復した。まあそれも嬉しい忙しさではある。

 後期は前期に比べ定員が少なく狭き門であるが文系の場合きちんと小論文の対策をすれば受からない試験ではない。試験終了後、法・文2号館のトイレで「俺今日初めて小論文書いた」という他の受験生の会話を耳にしたが、受験者のほとんどは前期落ちで小論文の対策はしていないのである。形式的な倍率は5倍であるが、実質的な倍率(本気で勝負している受験生の倍率)は2倍程度ではないかといわれている。また、センター試験の点数も第一次選抜にしか利用されず、純粋に小論文の出来で合否が決まることから、すべての受験生のスタートラインは一緒である。「後期は無理」という考えは捨ててきちんと対策をしてほしい。考えようによっては殆ど英語だけで入れる前期より遙かに簡単な試験である。


追記

 論文II・第1問の長谷川眞理子氏の課題文はとても読みやすく試験場で非常に面白いと感じたのを覚えている。後日東大に入学してみると彼女はなんと東大で人間行動を進化論的に考えるという授業を持っており、その授業は駒場で1,2を争う人気授業だった。彼女は学生にハセマリの愛称で親しまれ、東大用語集にも「駒場のアイドル、ハセマリ」として載っている。私はその授業を履修したが、課題文同様とても興味深く面白い授業だった。


さらに追記

 後期試験の試験官ははっきり言って適当である。前期の合格発表も済み世間的には受験シーズンはもう終わっているためか、試験官はとても面倒くさそうだった。試験開始の合図は「あ、そろそろ始めていいよ〜」で、試験終了の合図は「じゃあそろそろやめてくださ〜い」だった。小論文という科目の性質上、一回書き終えると書き直す人はほとんど居ないため試験終了時は多くの受験生がペンを置いていたから問題はない。だが前期が空襲警報と揶揄される大がかりなサイレン(駒場)で始まるのと比べると、後期の適当ぶりがよくわかる。


結果 合格


難易度 ★★★★☆


おすすめ参考書 『東京大学〈文科〉後期日程 駿台大学入試完全対策シリーズ』(いわゆる青本)(駿台予備学校)
            『伝わる・揺さぶる!文章を書く』(PHP新書)
            『「考える」ための小論文』(ちくま新書)


試験の概要 河合塾/解答速報