「現代音楽」多様な世界へ


一流の演奏家が結集し、現代音楽の多様な世界にいざなう−。
そんなプロジェクトが10月21日から一ヶ月間、東京都内の3ヶ所で開かれる。
「難解」「通向け」といったイメージが先行する現代音楽。
そんな「偏見」の払拭に挑み続けている世界的ピアニスト、マウリツィオ・ポリーニが、今回の仕掛け人だ。
リサイタルが開かれていたオーストリアのザルツブルグで8月、その狙いと展望を聞いた。
                                                                   学芸部・吉田純子

 ポリーニの企画は95年夏、オーストリアのザルツブルク音楽祭ではじまった。同地で99年夏、さらにニューヨークのカーネギーホールで同年秋から翌年春にかけてと、連続して実現してきた。

Maurizio Pollini ポリーニ氏に聞く


ショパンやベートーヴェンの深い解釈で、高く評価される。

『ルネッサンスから現代までを柔軟に縦断し、時代を問わず、知られざる作品に光を当てるのが狙いです。』

『演奏家は作曲家に仕える存在』


『古典への関心は尽きない。しかし、同時代の作曲家の音楽を聴衆に伝えるのは、演奏家である以上、義務だと思うのです。彼らは、<いま>でなければ表現できない何かを表現しているのです。確かに時代を経てろ過されてない音楽を評価するのは冒険。しかし私たちが音にしなければ、同じ時代を生きてるはずの天才を葬ってしまうかもしれないのです。』

−20世紀。作曲家は調性という既成の体系を捨てた。作曲家たちは、あらゆる音響を『音楽』の中に投入した。叫び声も、ため息も、鳥の声も、電子音も、ドアの開く音も、果ては沈黙さえも。そうすることで、新しい『言語』を模索した。
調性というお約束がなければ、曲の先が予測できない。よりどころのない気持ちにもなる。しかしポリーニは、そこにこそ『新しい可能性を感じる』という。

『そもそも、日本の古い音楽にも、調性などなかったはず』

今回とりあげる16世紀の作曲家ルーカ・マレンツィオは、
ものの形を旋律でかたどったり、怪しげな半音階を多用するなど、前衛的な手法を次々と繰り出した。
イタリアで当時流行していた、過剰でわざとらしい表現を前面に出すマニエリスム」の影響だ。
『新しい音世界への好奇心に満ちている。現代作曲家の姿勢となんら変わりないでしょう』
とポリーニ。

とはいうものの、食わず嫌いが多いのが現代音楽の泣き所。
そんな弱点を意識し、プログラムの構成は現代ものを古典で挟む「サンドイッチ型」にした。

生まれたばかりの作品を演奏することが、ごく自然なことになる。そんな土壌を作るのがポリーニの狙いなのだ。

『日本の人は西洋の歴史からはなれ、素直な地平で作品に接することができる。
それは、本場の聴衆よりもさらに深く、遠くにいける可能性があるということ。
日本の聴衆の好奇心を、私は信頼しています。』


Maurizio Pollini
1942年、イタリア・ミラノで生まれる。18歳でショパンコンクールで優勝。
審査委員長−ルービンシュタイン「審査員の誰よりもうまい」
その後8年間舞台に上がらず、研鑚する。
復帰後は、ショパンを得意としながらも、フランス音楽や現代作品まで幅広く演奏。

Luciano Berio(ルチアーノ・ベリオ)氏に聞く


『いつの時代も音楽は、その時々の世界を反映する。いまの音楽はいろんな要素が雑多に混ざり合っていて、
多文化による複雑な社会を象徴している感じですね。
このプロジェクトは異文化を結ぼうという精神に支えられた好規格。
聴衆に新しい音楽に触れる機会をたくさん与えることで、新たな広がりが生まれるでしょう。』

Luciano Berio;12音技法から電子音楽を経て前衛音楽の先頭に立ち続けている作曲家。25年生まれ。

Giacomo Manzoni(ジャコモ・マンゾーニ)氏に聞く


『現代音楽だけでプログラムを構成する企画には、私自身は賛成できません。
現代音楽をいかにも「得意なもの」に見せ、大きな流れから切り離してしまうような気がするから。
ポリーニの企画が優れているのは、現代音楽が古典に根っこを持っているということを改めて認識させるところ。
演奏家には決まりきったレパートリーに安住せず、作曲家と連携する勇気を持ってほしいと思います。』


Giacomo Manzoni;音楽批評の世界を経て前衛音楽の世界へ。木管楽器や声の可能性を探る。32年生まれ。

Salvatore Scirrino(サルバトーレ・シャリーノ)氏に聞く


『20世紀の音楽は、音それ自体が生き物として存在できる新しい空間を発見しましたが、
その反面、あまりに教義的になり、生活の中から姿を消してしまった。
でも、市場に流通しない音楽を求める精神の開かれた聴衆はきっといると、
ポリーニも私もそう信じています。
人間の呼吸、血がめぐる音−伝統的な楽器でそんな原始的な感覚を表現するのが私の目標です。』


Salvatore Scirrino;伝統的な技法で新しい響きを求める。イタリアの作曲家。

Pierre Boulez(ピエール・ブーレーズ)氏に聞く


『ルーチンに陥らず、常に何かを発信しようとするポリーニの姿勢に共感し、
これまでもたびたび共同で仕事をしてきました。95年には私の方が日本で現代音楽際を開き、
彼に演奏をお願いした。
演奏家がきちんと作品を解釈し、確信をもって演奏をしてくれなければ、聴衆が受けとめられない。
聴衆が新しい世界に好奇心を持つか、不安を抱くか。
そこは演奏家にゆだねられているのです。』

Pierre Boulez;音響研究と作曲を結びつける独自の活動をしている。指揮者。25年生まれ。



開催案内


 10月21日  東京文化会館
 10月25,28、31日  紀尾井ホール
 11月4、6、13、18、22日  サントリーホール

問い合わせ カジモト・イープラス рO3・5749・9960

主催 梶本音楽事務所、朝日新聞社


02/9/25 朝日新聞夕刊より抜粋構成 

by piityan_s

02/10/07