環境問題
「スイスの観光地にはゴミが全然落ちてないわネ。煙草の吸い殻ひとつ見かけなかったワ。それにひきかえ日本ときたら公共心というものがなくて」
と、お思いの方、『ダメな国・日本と素晴らしい国○○○』みたいな発想をするのはちと早い。

実はあの清潔さは、各市町村役場・清掃課や地元の人たちの涙ぐましい努力の賜物なのである。毎日未明から、公共スペースやおもな道(ハイキングコースも含む!)は清掃課の職員たちが、それ以外の細かい部分は地元の人たちが、毎日せっせと頑張って掃除している。都市部から割合近いハイキングコースなんて、月曜の早朝なんかはポイ捨てゴミで凄いそうだ。

ちょっとがっかりした?ホッとした??

こういうのはゴミとは言わない(写真はウマの。こいつを踏んだときのダメージは大きい。ウシのはビジュアルが強烈なだけで、たいして臭わないのだ)
イヌのには、専用ポリ袋つき回収BOXが辻々に立っている
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騒音と振動
以前、鉄道線路のすぐ脇に住む友人の家に長々と居候していたことがあった。その路線はレッチュベルク〜シンプロンに続く幹線なので、目の前をドイツのICEだのイタリアのチザルピーノだのが時速200kmくらいで弾丸のように通過し、そのたびに想像を絶する騒音が家の中にまで轟いてきて、終日ビクビクしていたものだ。

ところが、音は凄いけど何か物足りないと思ったら、日本では交通騒音とたいていセットになってる「振動」がまったくない。友人の家は築ン百年という家(!)なのだが、家全体の揺れなんてのはもちろんないし、木製の窓枠すらコトリとも言わないのはなんだか不思議な感じだった。

その後、仕事でJRの技術関連の仕事をしている方にお会いする機会があったので、そのことについて尋ねてみた。すると、スイスは地盤が岩盤でしっかりしているから振動が起こらない、日本、特に平野部は地盤が軟弱なのでダメなんです、とのこと。
「日本も地盤さえ良ければ、ああいう凄い
モーターを積んだ機関車がバンバン走れるんですけどね。」

しかし、その後よくよく観察してみたが、地盤の良し悪しよりも、むしろスイスの線路の砂利の盛りの良さや、頑丈そうな枕木のほうが関係しているような気が……。なんというか、こういう所に「富の蓄積」を感じるのだった。

一見単なる田舎の鉄道だが、頑丈に作られた線路は超重量級の戦車を満載した列車だって通行可能。ヨーロッパの大動脈はおカネのかけ方が違う(写真はゴッタルト線)

……と、ここまで書いたら、外野から「橋梁は日本の方が頑丈そうだ」との声が。確かに20世紀後半以降に作られたヨーロッパのコンクリート橋は、見た感じが華奢で恐ろしげ

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チップ
ガイドブックの「旅の基本」みたいなコーナーには、チップの渡し方というのが必ず書いてある。はじめての海外旅行、ホテルやレストランで、果たしてこれでサマになっているかとドキドキしながら、係の人にチップを渡した経験のある人は多いだろう。

ところが、スイス人のサービス業従事者、とくにホテルの従業員には、絶対にチップを受け取らない人も結構いる。
「うちでは、こういうのは受け取らないんです」
枕の下の小銭もまったく手付かずのまま、きれいにベッドメイクし直してあったりする。

スイスでは、高級・一般向けを問わず、従業員にチップを取らせない方針のホテルが結構ある。多くは地元資本で手堅くやっている所だ。レストランの場合はチップを取らないという所はまずないが、それでも事前にチップを渡して何か便宜を計るよう頼む、なんていうシチュエーションでは受け取らない所もある。

そういう堅いホテルや店で働く従業員は、外見は単なるおニイちゃんおネエちゃんでも、サービス業従事者としての厳しい実習期間を経て国家試験にパスし、専門職としての資格を持っている人が多い。プロフェッショナルの彼らは、日本人が日本の常識で想像するよりずっと高給取りで、基本的にチップに頼る必要がないのだ。また、勤め先の方針に関係なく、自分のプライドでチップを取らない人もいるだろう。たとえば、旧スイス航空のとあるステュワードさんは、世間話の折りに
「チップはカネで人を動かそうとする、とても嫌な習慣。ああいうのを僕は軽蔑します」
と、きっぱり言い放った。

しかし、スイスでも労働の価値が安く見積もられる時代に突入、最近は採用時に資格の有無を問わないかわりに、基本給を低く抑えてあとは自助努力で……という所が増えているらしい。件のステュワードさんのスイス航空も、倒産して新会社になって以来バッサバッサ切りまくっているし、なんか急速に時代は変わりつつある。悲しい

オフィス街、あるいは観光地にあるような気軽なタイプのレストランやカフェでは、会計の時に細かいお釣りをチップとしてあげるのが常識ということになっている。これはスイス以外の近隣諸国も同様。
しかし、観察していると、そういう律義なのはたいてい男性客。女性は端数まできっちりお釣りをもらっている人が多い。

ところで、お釣りにうまく端額が出ないときにチップをどうするのだろうか?
下のミニシアターでどうぞ

アイゼンシュタイン氏の
日常生活シアター
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靴を脱ぐ(1)
その昔、ヨーロッパ人は人前では絶対に靴を脱がないものと聞いていた。なんでも、人目に足をさらすのは、西洋人にとって非常に恥ずかしい行為だ……と。ところが、少なくともドイツ語圏スイスでは、それはあてはまらないらしい。足を見せるのが恥なんていう考えはとりあえず存在しないようだ ※注

誰かのお宅に招かれた人は、玄関を入ったらすぐにワードローブで靴を脱ぐ。そして、すすめられた室内履きに履き替えるか、あるいは靴下や裸足でペッタペッタと客室に入ることが多い。ちなみにこの段階で招待主は「あっ、靴はそのままでいいのヨ」と言うのが礼儀のようだが、現実には靴を脱がずに室内に直行するのは嫌がられる。実は筆者、みんな顔に出さないので、最近までそのことに全く気がつかなかった。人に指摘されてはじめて知った事実なのである……

それでは、なぜ靴を脱ぐようになったのか?理由は単純なことだった。
「だって、泥靴でよその家のじゅうたんは踏めないわよ」
失礼しました。

ちなみに、多少ドレスアップして行くホームパーティなどの時は、おしゃれ用の靴を持参し、ワードローブで履き替える。そう言えば、ハイヒールやミュールはあちらではそれぞれ室内・テラス(庭)用の色合いが強いそうだ。確かにあの石畳はピンヒールでは歩けない。

注:
これはあくまでもドイツ語圏スイスの話で、おそらくフランス語やイタリア語圏はまた違うと思う……
体験談などをお知らせ下さい。写真歓迎!
おたよりはこちら
(アドレス内のDUMMYという文字を抜いてyahoo.co.jpと入れて下さい)

古い建物の玄関脇などでよく見かける、謎のでっぱり金具。大昔ここにウマでもつないだ名残かと思いきや、実はこれ、靴裏についた泥や雪をこそげ落とすためのもので、もちろん現役である
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靴を脱ぐ(2
ベルン近郊を走る列車の中でのこと。ボックス席を1人で陣取っていた筆者の向かいに、10代半ばくらいの女の子たちが2人やって来た。彼女たちは席につくと早速サンダルを脱いで裸足になり、筆者に「横に足のせていい?」と尋ね、「あなたもそうしなよ」と言った。

日本の田舎のボックス席の電車だって、前の座席に足を載せるなんてことはなかなかやりにくい。ましてや他人が座っているとか、若い女の子とかだったら絶対やらない。ところがスイスでは、老若男女問わず、こんなのは珍しくもなんともないのである。ただし、これはさすがに行儀が悪いという意識はあるようで、絶対やらない!という人もいる。

それはさておき、2人の女の子がスイス方言で何かしきりに喋ってはカラカラ笑っている様子が可愛らしかったので、しばらく眺めていた。すると、1人が筆者に向かって
「わたしたち足臭くな〜い?」
と尋ね、またカラカラと笑った。

聞くと、2人のうち1人のほうは、健康に良いというお父上の主義で、家の中ではいつも裸足で過ごしているそうだ。そういう家は珍しくないという。
「お父さんの友達の日本人が言ってた。日本はそういう習慣なんでしょ?気持ちいいよネ」
そして、彼女は付け加えた。
「普段は全然気にならないんだけどね、時々お父さんの足がとても臭いなあと思う日があるのよ。そうすると次の日は雨が降るの。すっごく正確よ」

前から気になっていたのだが、スイスにはクルマを「土禁」にしている人なんているのだろうか?なんとな〜くいそうな気がしている今日この頃
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海外へ出るスイス人(1)
ルネサンス時代:スイス人傭兵はヨーロッパ各地の王侯に雇われ、勇猛(獰猛)果敢な戦いぶりで恐れられていた。現在バチカンで見られる、極彩色の制服をまとったスイス衛兵は、その伝統を直接引き継いだ存在である。

19世紀:『ハイジ』に登場するデーテおばさんは、地元の温泉保養地バート・ラガッツで働いていたが、そこに逗留していた上流家庭のドイツ人たちに気に入られ、家政婦としてフランクフルトに働きに出かけることになる。

そして現在、本などで読んで知識としては一応知っていたが、海外で働いた、あるいは海外に住んだ経験を持つスイス人は本当に多い。また、現在も海外に住み続け、時折スイスに戻って来るという人もかなり多い。いろいろな人たちと話しているうちに拾ったエピソードを3回にわけて紹介しよう。

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シルスで出会ったBさん
男性、グラールス州在住、推定60〜70歳

--私の祖母は昔、まだ娘時代にイギリスへ働きに行ったよ。お屋敷でご奉公というやつだね。近所の年上の娘たちが先に何人かイギリスで働いていて、里帰りしたときに祖母を誘ったんだそうだ。昔のスイス人はみんなそうやって外国へ稼ぎに行ったんだよ。

祖母は奉公先で気に入られたそうで、いろいろと楽しかったことを話してくれたよ。そう、奉公先で貰ったり、自分で買ったりしたすばらしいレースや小物なんかが、まだ家には沢山残っているね。
(傍らから奥さんが)「あんな素晴らしいのは、今ではもうきっと手に入らないわ。」

でも、実際にはかなりつらい時もあったと思うなあ。もともと祖母の家(農家)はそれほど貧しいわけではなくて、村ではどちらかと言えば豊かな部類に入っていたと思うよ。手伝いの人も使っていたし……。もちろんイギリスの上流家庭の豊かさとは比べ物にならないけど、とにかくそんな家の娘が今度は他人の家で使われるわけだら、つらいだろうね。

それでも稼ぎに出かけたのは、そういう時代だったんじゃないかと思う。その頃(おそらく19世紀末〜20世紀始め)は、世界そのものが大きく変革していったような時代だしね。田舎の人間にだってそういう雰囲気はわかるよ。祖母としても一度くらい外に出てみたいという気持ちになったんだろうね。

祖母は3年ほどだったかな?働いて、割合早く戻ってきたね。その後すぐ祖母は結婚したけど、昔のそういう女性は一生結婚しないで働きづめで稼いだあと、故郷に戻ってきて、家族の誰かの家で余生を送る人も多かったんじゃないかな。自分の知っているかぎり、そんなおばあちゃんが何人かいたね。

男性の場合は、大都市や外国に出かけて働いても、ある年齢になると大体故郷に戻って来るのが普通だね。今のスイス人だって、行ったまま帰らないっていうのは少ないんじゃないかな?大体40〜50歳くらいの間にオクサン連れて戻って来るんじゃないかな。自分もそうだし。あまり年をとりすぎないうちにね。

私?私は仕事でオーストラリアにずいぶん長くいたんだよ。バーゼルの化学工業会社で働いていたんだけど、オーストラリアでの仕事が多くてね。
(再び奥さん)「私たち、オーストラリアで知りあったの。私はオランダ出身よ。世界中どこにでもいるオランダ人。フライング・ダッチマン(さまよえるオランダ人)よ。そして日本人もどこにでもいるわね!日本人のお友達たくさんいるのよ、私」

故郷を離れたスイス人は、よその国の出身者に較べ、重症のホームシックにかかる人が多いという。ハイジだけではないようだ。
追記
数年前にスイスで話題になった本に、イギリスで家政婦として勤めた女性の伝記または自伝があった。残念ながらタイトルを失念してしまったが、トゥルーデルとかトゥルーディとかいう名前が入っていたと思う。今でもスイスの大きな書店で売っているはずなので、興味のある方はどうぞ。
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ついでだが、このBさんの仕事内容は我々日本人が聞いたらちょっとゾッとするような内容だった。「オーストラリアの○○は絶対食べちゃダメ!」と何度も念を押されたっけ……
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海外へ出るスイス人(2)

シュクオルで出会ったAさん
女性、アメリカ・カリフォルニア在住、推定70歳以上

--大昔にアメリカ人と結婚して、カリフォルニアに住んでいるのよ。姉がシュクオルにいるんだけど、体の具合が悪いので、私が時々面倒を見に来るの。大体3ヶ月スイスにいて、3ヶ月カリフォルニア、また3ヶ月スイスというのを、もう何年も繰り返しているわね。

出身はここじゃなくて、チューリヒよ。姉はこっちの人と結婚して、ここに住み着いたというわけ。姉には息子が1人いるんだけど、今はベルギーにいて、ほとんどこちらへは来ないのよね私なんて、最後にあの子に会ったのは何十年も前だわ。姉は今、老人ホームに住んでるんだけれど、やっぱり私がいたほうがいいの。※注

スイスでは年を取るとみ〜んな老人ホームに移るのよ。そう、本当にみんな。姉の老人ホームはなかなかすてきな所で、姉はもう60歳すぎた頃から、ホームに入る日を楽しみに待ってたわよ。役所のやっている老人ホームよ。プライベートの所は高すぎて、とてもとても!

えっ、あなた(筆者)の町は公立のホームが1つしかないの?人口8万人ですって?あらあら。日本はアメリカふうなのかしら。あら、知らないの?アメリカには老人の社会的保障なんて全然ないのと同じよ。

私?カリフォルニアに夫を置いてきているけど、近くに子どもたちがいて面倒見てくれるから大丈夫。孫たちなんて、毎日のように遊びに来る子もいるわよ。私は厳しいんだけど、おじいちゃんは優しいから……それにしてもスイスは、アメリカに較べると本当にお年寄り天国よ。歳を取ってから、経済的なことでキーキー言う心配がないもの。私なんか、子供たちがいなかったらアメリカでは生活できないわ。

今日はシチャールへ薬草を採りに行くの。自分でお茶を作るのよ。咳に聞くお茶、お腹の調子が良くなるお茶、よく眠れるお茶。スイスにはね、昔から使ってきたこういう薬草のレシピがいっぱいあるのよ。私はこれが得意なんだけど、私の子供たちはこれが大嫌いでね。時代錯誤とか、非科学的とか言いたい放題よ。そんなことないのにね。

ところが孫たちは、こういう伝統的なものにすごく興味を持っていてね。一緒にいろいろな物を作ったりするわよ。孫たちにとっては古いものの方が新鮮に見えるみたいね。私の子供たちは、古い価値観と新しい価値観の中間で悩んだ世代だから、どうしても古いものに対して否定的になるけど……。日本なんかでもそうじゃない?

注:
日本の感覚からはちょっと信じられないが、スイスやドイツでは、一旦親元を離れてしまったら、その後ほとんど親の顔を見ることなく終わる子供が結構いるという。しかし、親子のあつれき云々とか、不仲とかいうわけでもないらしい。きっぱり巣立つという感じなのだろうか?宗教的なものも関係しているかもしれないが、この感覚は筆者には未だによくわからない

老人ホームの話ついでに・筆者がスイスで出会ったお年寄りの中には、ちょっと変わったライフスタイルの人もいた
読み物「ある老後」
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海外へ出るスイス人(3)

チューリヒ〜クール間の列車の中で出会ったCさん
男性、ビール近郊在住、推定50歳前

--僕はグラフィックデザインの仕事をしているんだ。今はビール(ビエンヌ)に自分の会社を持ってる。自分を入れて3人でやっている小さな会社。若い頃はイギリスのA...社というデザイン会社でやってた。

スイスに生まれちゃったら、外国に出ていくのは当然だよ。小さな国だから、デザインの国内需要なんてあまりないじゃない。デザインだけじゃなくて何だってそうさ。働き口の数そのものが限られてる。

僕は美術学校にいたころから、スイスで職を探す気なんてさらさらなかったよ。当時、そのイギリスのA...社にいた○○というデザイナーの作品が好きだったんで、イギリスの彼のスタジオを何度か訪問したんだ。そのうち、○○や彼のスタッフと仲良くなって「ウチに修業に入りなよ」ってことになった。スイスに戻って自分の会社を持ったのは8年前だよ。

僕の仕事の主なつきあいはスイス国内ではないよな〜。クライアントはドイツ、ベルギー……以前からのつながりがあるからイギリスが一番多いかな。アメリカも結構ある。僕は印刷物のデザインが主なんだけど、やっぱり英語圏の需要は圧倒的にすごいよね。質も高い。日本ではドイツデザインが人気あるだろ。でも、僕に言わせりゃあれは×××さ。君もそう思う?お〜っ(握手)。ベルリンなんて行っても面白くないぞ。そういえば今、ベルリンは日本人だらけだな。

しかし、スイスでやってるデザイナーにとって、少なくともドイツという市場は必要だね。隣にあって、人口も多い。当然需要も多い。……フランス?僕らの分野に関しては、あそこはちょっと別物だ。ドイツ語圏とかフランス語圏、そういうのは関係ないよ。それよりフランスは根本的にグラフィックデザインの土壌がちょっと違うんだ。工業デザインなんかは、スイスとフランスはかなり近い関係なんだけどね。

いずれにしても、仕事の流れと国境はあまり関係ないね。言葉の障壁ねえ……個人的にはあまり感じたことはない。僕はヌシャテル生まれで、まずフランス語だろ、それから当然英語、ドイツ語。母はポーランド人なんで、ポーランド語もほんの少しだけ話す。イタリア語とスペイン語は、相手の言ってることはまあまあわかるけど、会話は無理だな。それから「エー、マジ!?」日本語はこれだけね!

日本にも友達がいるから、そっちの事情はよく知っているよ。うらやましいよ、人口が多いし、日本人てのはデザインされたものが好きだから、国内だけの仕事で充分食っていけるだろ?だから外国語が下手なんだ。いやいや、これは絶対本当だよ、外国語で話す必要ないんだもの。僕の友達は日本国内だけで仕事のほとんどを賄ってるって話だよ。
(筆者)「最近はそれもいよいよ難しくなってきましたよ」

そう?不景気ってのもあるのかな。でも、デザインの仕事そのものに国境がなくなって来たという感じは、日本にいてもわかる?そうだろ、そうだろ。これは良いことでもあり、悪いことでもあり。将来は世界じゅうが同じ趣味に統一されてしまうのかな。これはまずいと思わない?

スイス人全員が語学に堪能なわけではない。特に英語がダメダメ、なんていう人は結構いる。現在30歳代より上の世代は、最短だと学校で4年間しか英語に触れないのだそうだ
(それより若い世代の事情は知らないのだが、どうなんだろう)
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テーブルマナー
もしくはフランス人
場所は東京、今日は友人の結婚披露パーティーである。今風にイタリアンレストランを借り切ってやる、ミニコース形式の簡単なお食事会だった。

周囲の人たちと近況をあれこれ交換しながら楽しく食べていると、隣のテーブルから筆者に声をかけてくるガイジンさんがいる。本日の新郎新婦の友達で、雑誌に文化批評関連の軽いコラムを連載している、フランス人のなんとかという人らしい。初対面だったが、顔だけは知っていた。

「こんにちは、はじめまして〜。あなた、スイスによく行く○○さんって、あなたでしょ?」

「は、そうです。どうもはじめまして」
「あ〜、やっぱりそうだった。私、一目でわかりました!」
「はあ」
「うふふ、スイスの人って、なんでもナイフ使って食べるんですよね。パスタとか、サンドイッチみたいなものまで、なんでもかんでも!」
「は」
「あなたは今、サラダのレタスをナイフで真っ二つに切りました。これは見事にスイス式です」
「は…」
「でもねー、本当はサラダには普通、ナイフは使わないものです」
「それはつまり、田舎もんと言いたいわけですね」
「そうです(^_^)」
「…………」
以前ミュンヘンで、いきなり見知らぬオバチャンから「あなた、スイスから来たでしょ!」と言われたことがあった。やっぱり食事中だった。ウブだった当時の筆者はそう言われて嬉しかったものだが、今となってはなんだか全然嬉しくない。
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兵役を忌避した彼ら
日本でも結構知られているが、スイスの成年男子には兵役義務がある。しかも、隣国ドイツなどとは違い「良心による忌避」は、スイスでは一切許されていない。信念・信条を問わず、もしも徴兵を逃れるような事をすれば、即刑務所行きということになっている……建前上は。

実は今のスイスでは、徴兵制度の対象になる男性たちのうち、実際に兵役に就くのは全体の6割程度に過ぎない。あとの4割のうち、本当に何らかの障害を抱えて兵役に就かない人間は少数派で、大部分は何らかの手を使って兵役を逃れているのだという。

現実に筆者の知人たちを見渡すと、兵役に就いた、あるいは就いているという人よりも、そうでない人間のほうが圧倒的に多い。4割どころか8割方は兵役逃れだ。その話をとある知人にしたところ「そいつらは皆ろくでなしだ」と言われてしまったが、実際に「そいつら」を知っていると、そう簡単に括れるものではないとも思う
(ついでだが、このセリフを言った本人は、徴兵制度のない国で暮らしている日本人である。安全な場所から他人のことを批判するのはあまりにも安易ではないか?)

★ ★ ★

とはいえ、兵役を忌避した人たちの話を聞くと、それはそれで複雑な気分になってしまうのも確かである。

筆者の知人にT君という人物がいる。彼は「兵役逃れ」をした経歴の持ち主である。しかし、刑務所に入ったわけではない。徴兵検査の時に知的障害者のふりをして「不合格」を勝ち取った(?)のだ。

「なんで兵役に就かなかったの?」
「ぼくはユダヤ系だから」
T君によると、古くから、ヨーロッパのユダヤ系の人々は兵役には就かず(…というよりは就けず)、代わりにそのための税を納めてきたという歴史を持っている。だから自分もそれに従ったと言う。
「こうするのは自分だけじゃない。実際、ぼくが正常だということは調べればすぐにわかることだけど、ぼくのような事情を持っている人間は割合簡単に兵役免除になる」
「はあ」
ここから先どう話を展開するべきかわからなくなり、その時の話はそこでストップした。「こうするのは自分だけじゃない」というセリフは、明らかに後ろめたさの裏返しである。
★ ★ ★
今度は別のスイス人、Eさん。この人は武器を手に取りたくないという理由で、T君と同じ方法で兵役を逃れた。もっともEさんの奥さん(日本人)は、兵役逃れに関してはかなり厳しい見方をしている。Eさんの「平和主義」は全くの言いわけだと言って憚らない。彼女はEさんに聞こえるのにも構わずに言い放った。
「結局なんのかんの言っても、真面目な人はちゃんと兵役につくのよ。Eの兄弟たちも同じような傾向があるけど、兵役にはちゃんと行ってるし。結局あの人って集団生活になじめないのよ。友達はみんな、普段は態度に出さないけれど、やっぱり一生影響するわ!」
「……」

「でもね」
奥さんはなぜかここで、声を小さくして筆者に言った。兵役に就かなかったからと言って、Eさんにスイスに対する愛国心が欠けているというわけではないのよ、と。

「この間、ちょうど日本に行った時なんだけど、テレビのニュース番組で、例の第2次大戦中のスイスのユダヤ人資産問題を特集してたの。そこで番組の司会が、スイスを咎めるようなことをネチネチ言うのよ。スイス人のゲストが出ていたんだけど、その人はまるで被告みたいになっちゃってね。なんだか可愛そうだった
……Eはまあ日本語もそこそこ理解するから、ずっとその番組を見ていたんだけれど、ついにカッとなっちゃってね、テレビに向かって物凄い剣幕で怒りだしちゃって、本当に驚いた!スイスの悪口を言われたら、やっぱり黙っちゃいられないのね」
関連:
スイスアーミー・兵役は苦か楽か
最近の国際情勢の変化を受け、スイス軍は定員の大幅削減中。兵役期間の短縮だけでは間に合わず、いよいよ徴兵制度の廃止まで言及されるようになった。とは言ってもすぐに志願制になるとも思えないが。
「ドイツ人」でも少し触れたように、スイスやドイツでは、徴兵制を通じて国民が政治と軍の関係をコントロールしている部分があるのも事実。日本人には想像がつきにくいが、この点はかなり重要視されているようだ。

写真はウェンゲンにて。スキーで遊んでいるわけではなく、れっきとした勤務中の兵士たち。
風物・社会 その2へ >
スイスの雑記帳