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見えてきた骨格 −ウルグアイ戦−

2003.03.30

 稲本がシュートした時に、彼は私とサイドネットを結んだ直線上にいた。蹴られた瞬間弾道が完璧なコースを捉えたのがわかった。ゴールネットを揺らすより前に得点を確信する事ができた。いいゴールだった。 

 2006年に向けてのウルグアイ戦。いよいよ本腰が入ったジーコジャパンの強化体制が始まった。ジーコ氏は守備ラインにベテランのJのトッププレイヤを、攻撃ラインには欧州クラブ在籍のスターをそれぞれ並べ、比較的穏当な選手選考を行ってきた。したがって、比較的目新しい戦術と大胆な若手起用を推進したのトルシェ氏に対して、「ジーコ色」がもう1つはっきりしなかった。
 この日のゲームへの最大の期待は、ジーコ氏就任以来はじめて比較的まとまった合宿が組めた事で、「ジーコ色」言い換えると「チームの骨格」が見えてくるかどうかと言う事だった。結論から言えば、その期待に十分に答えてくれた試合だった。そりゃ贅沢言えばキリがない、あえなくフォルランに入り込まれた秋田と森岡、論外の川口(でもよい事もありました、後述します)、思うように速攻できない展開、相変わらずシュートの下手なFWなど。しかし、我々の目的は2005年の予選を勝ち抜き、2006年で準々決勝以上を目指す事であり、先は長いのだ。
 この後グダグダと述べるように、この試合でジーコ氏がイメージする骨格が見えてきた。今後は、この骨格をベースに必要に応じて、一部の選手を入れ替えたり、オプションを増やしたり、適宜若い選手を投入し平均年齢を制御するなりすれば、チーム作りは進んでいく。3試合目でこのレベルに達する事ができたのは悪くない。

1.総評

1.1.守備の明らかな改善

 ジャマイカ戦は絵に描いたような非組織的守備と試合中の選手同士のミーティングを愉しむ事ができた。アルゼンチン戦は和製黄金の3/4が帰国せず、福西−中田浩のボランチコンビが起用されて丁寧なカバーリングを見せて無難な守備振りを見せてくれたが、ヴェロンが凄すぎて守備の評価は先送りとなった。

 この試合の守備は、選手の個人能力、それに合わせたコンビネーションといい、非常に安定していた。特によかったのは両サイドバック。守備に入った時間帯2人とも中央に絞った位置取りが絶妙。逆サイドからの攻撃に対して巧みに対応していた。当たり前と言ってしまってはそれまでだが、まず4DFの位置取りのバランスがしっかり取られたのが大きかった。
 無論、前線からのプレスも約束事が明確になっていた。その忠実さと連携は、もはや日本の伝統と呼んでもよいと思う。トレセンの賜物か、トルシェ氏(あるいは山本氏?)のトレーニングの成果か、はたまた国民性か、よくわからないが。

 とにもかくにも、3試合目でチーム全体がジーコ氏が意図する守り方について共通理解を得たと見た。2失点は悔しいが、1点目は能力差だし(あのセンタリングがあそこに飛んだのは能力と言うよりは偶然だと思うが)、2点目はまあアレだし。

1.2.攻撃

 伝統的に守備の強いウルグアイに先制されてしまうと、非常に攻めづらくなる。しかし、その状況下でもこの試合日本は何回かの決定機を作り、うち2回をゴールに結びつけた。
 まずPKを取った場面。中村の左サイドへの進出を起点に、小野、中田らの精度高いパス交換から、鈴木がフリーで抜け出した。この高精度、高速のパス交換は、和製黄金プレイヤが並んだ時の大いなる快感である。我らが強力なMF陣は、この日のウルグアイのような厚い守備網をも技巧的に崩す事ができるのだ。この幸せを素直に味わいたい。
 突き放された直後の中村のFKは論ずるに及ぶまい。名手カリーニをもってしても、見送らざる得なかったのだが。
 高原が抜け出した場面は、はやり言葉で言えば「ダイレクトプレイ」。森岡の高精度なフィードから、高原、鈴木が見事なワンツー。カリーニの飛び出しも見事だったが高原がダイレクトに打てなかったか(私の語感からすると、高原の「ダイレクト」は素直に理解できるのだが、森岡の「ダイレクト」にはどうも表現上の違和感がある、まあ外国語の事ですからいいんですが)。
 後半の同点ゴール、ウィングハーフとして起用されたアレックスが左サイドから展開、中田の巧技によるワンクッションから稲本の強烈な一撃。
 終盤、服部を起点とするカウンタアタックから、黒部のポストプレイで中田が左に抜け出し好クロス、素晴らしい位置取りの黒部のヘディングシュートと思いきや折り返してガッカリ。日記でも激怒したが、あそこはシュートだった。

 こう整理すると実に多彩な攻撃を見ることができたのだ。ジーコ氏は攻撃に関しては、選手の能力を組み合わせる志向が強いようだが、概ね狙い通りの攻撃ができたと言えるのではないか。無論、もう少し速攻をかけられないのかとか、もう少し個々の選手のシュートへのアプローチが円滑にいかないかとか、もう少しサイドアタックがかけられなかったとか、贅沢を言えばキリはない。だが、攻撃の連携プレイのトレーニングを行う時間がほとんどなかった事を考慮すれば、上出来と考えるべきではないか。

1.3.不満はあるけれど...

 しかし、何とはなしに不満が残る内容だった。
 勝てなかったからだ。確かにワールドカップでベスト8を目指そうと言う国なのだ。たとえ、過去2回世界制覇をした国が相手だろうが、ホームでは勝って欲しいと言うのが、我々サポータの要望である。
 しかも、上記したが失点があまりに無様。巧い速攻ではあったが、必ずしも数的不利でない状態で、センタバック2人の間に敵ストライカに入り込まれた1点目。そして川口。見ていて、もう少しやりようがあったのではないか、と言う失点振り。さらに、リードされた後半立ち上がりから、攻めの大駒である小野、中村を外したために、核心をついたラストパスが出づらくなった。加えて、遠征疲れが顕著になった敵を攻め切れなかった。それぞれが、じわじわとフラストレーションを高める。

 まあ、仕方がないのだろう。考えてみれば、トルシェ氏の時代は、A代表がまとまってきたのは就任から1年半後の中国戦あたりからだった。それに比べれば随分ましなのだ。ただし、4年前と比較すれば、選手の能力がだいぶ高くなっているので、相応の戦いが出来ている事だろう。
 一方で、トルシェ氏はチームをまとめるのに時間はかかったが、その後はアジアカップ、コンフェデレーションカップなどで堂々たる実績を残し、信頼を勝ち得てきた。ジーコ氏にとっては夏場のコンフェデが試金石となろう。ただし、アウェイ、ホームで韓国と2試合しなければならない試合順はかなり厳しい日程だ。
 今回の遠征が中止になったのは残念だったが、逆に地元でチームの骨格を固める事ができたのは幸いだったのかもしれない。

2.選手たち

ゴールキーパ

 川口のあのプレイは評価不要。論外である。
 とにかく、馬鹿な環境を脱し、試合に出られる環境に身を置くべきである。各種報道で、川口のコメントを読むと「公式戦に出られなくても、充実した練習環境が...」と述べているようだ(悔し紛れなのかもしれないが)。しかし、いくら練習しても仕方がないのが、この日の無様なプレイで証明された。
 しかし、一方でこの男が並々ならぬ素材である事もこの試合で証明された。凡人ならば、あのミス以降動きが鈍くなるものだ。しかし、直後のレコバの好クロスは素晴らしい飛び出しで防いだ場面には、本当に感心した。恐るべき精神力だ。さらにこの日再三見せた早く正確なフィード。これだけの事ができるのだから、なおさら現状の環境からの脱却を図る必要がある。

 楢崎がJ最高給取りになったと言う報道だが、正直楢崎はGKとしての存在感が何か希薄である。悪いキーパではないのだが、楢崎の好プレイで勝った代表ゲームと言う記憶があまりないのだ。一方、アトランタでのブラジル戦やアジアカップ決勝など、川口には「川口で勝った試合」が多数ある。当面、曽ヶ端と3人でのポジション争いとなろうが、私はやはり川口に期待したいのだが。

センタバック

 かねがね主張しているが、センタバックは日本にとって最も悩ましいポジションである。このポジションは、決定的人材を欠くと、常に守備ラインに不安を抱える性質のものだ。他のポジションは適切な人材が不在ならば不在で戦いようがあるが、センタバックだけは別で、せめて一枚は文句ない人材が欲しいところだ。
 しかし、日本は井原以降、決定的なセンタバックを輩出していない。井原以降のセンタバックたちを考えてみよう。小村、秋田、森岡、松田、宮本、中澤、さらに本職ではないが中西、服部、中田浩、皆よい選手だが、決定的な存在として国際試合に長期に渡り君臨できた選手はいない。したがって、まずはせめて中期的(2006年まで)軸になる選手を開拓する必要があるはずだ。
 そのような見地から、私はジーコ氏が就任以降秋田を起用する事に疑問を感じていた。紛れもなく今なお秋田は日本最高のストッパである。また5年前のフランス、秋田は素晴らしい守備を見せてくれた。しかし、年齢的にこれ以上成長の可能性が少ない秋田をこのポジションで、現時点で起用すべきなのだろうか。むしろ、この4年間で秋田以上の能力を発揮できるようになるタレントを当面優先的に起用すべきではないかと思ったのだ。具体的に言えば、坪井や土屋などが考えられる。望ましくはない事態だが、2005年の時点で秋田の後継たる強力なセンタバックが登場しなかった時に呼び戻す手段もある。

 しかし、試合が続くにつれて気が変わってきた。少なくともこの試合は秋田起用でよかったと。その変心のカギとなったのは森岡である。
 この日の森岡はよかった。秋田と連携を取り、両サイドバックを絞らせ、必ず自分が余る位置取りでよくDFラインを引き締めた。前半には高原が外した決定機の起点となるなど、フィードのよさも披露した。
 考えてみれば、この男は2001年完全な日本の守備の中核に成長したタレントである。それが、昨シーズンは不運な負傷が相次ぎ、ワールドカップ準備試合のほとんどを棒に振る。かろうじて間に合ったワールドカップも初戦で負傷、以降Jリーグにもほとんど出場機会が得られず、ジーコ氏の選考からも外されていた。
 とすれば、負傷が治ったのだから、まずは森岡を軸にした守備ラインを構築してみるのは極めて理に叶った考え方である。そして、カバーリングにたけた森岡と組み合わせるのは、人に強いストッパ型の選手で国内最高の秋田がもっとも妥当である。2人の堅実な守備ぶりを見て、まずはチームのスタートを秋田で切るのは正しいのかと思い直したのだ(もっともエスパルスで森岡がサイドバックに起用されている現状はとても不安なのだが)。

 この2人を軸に、宮本、田中誠のようなカバーリングタイプ、坪井、土屋のような頑健タイプ、松田のような両面タイプ(それにしても、松田はいつになったら集中切れがなくなるのか、彼がしっかりしていればこのような悩みはないのに)をテストしていくのだろう。あるいは、若手の角田あたりが出てくれば最高なのだが。

サイドバック

 名良橋の代表復帰は、ジーコ氏と縁深いアントラーズの所属であり、トルシェ氏に選考されていなかった久々の復活であり、何より結構なベテランと言う事で、再三物議をかもしている。
 色々な考えがあると思うが、私は名良橋の復活はよい事だと思っている。上記のセンタバックと異なり、サイドバックは人材がいないならば、いないなりに誤魔化しようがあるポジションだ。先ほどの秋田へのコメントと矛盾しているが、名良橋のようなスペシャリティの積み上げをしたタレントは、サイドバックならば長期に渡って活躍できるように思うのだ。
 ただし、チームの骨格が固まった以降、ここも当然厳しいポジション争いになる。J開幕戦で名良橋と弾丸シュートを決め合った山田をはじめ、市川もいるし、明神をここに使う手もある。アジアカップのプレイを継続できれば田中隼も出てくるかもしれない。

 服部は長期にわたって日本を代表する後方のプレイヤだが、面白い事にA代表のレギュラプレイヤだった時間は非常に短い。フランスでは攻撃力の差から相馬、山口の後塵を拝し、トルシェ氏時代も中田浩、中村、小野などとポジションがバッティングし、レギュラを確保していたのは、あのアジアカップだけである。頑健で、そこそこ脚力もあり、スタミナも豊富で、正確な左足。守備ならばどこでもできる器用さが、逆に代表選手としては災いしたのか。この日も、絞り込んだ守備は見事なものだったが、攻撃参加した際に左をえぐり切れない感は残った。むしろレギュラとして定着できるかどうかは、ここ最近ますます精度を高めてきた中距離パス(しかも服部はドリブルで前進しながらロブで高精度のボールを蹴れる...もちろん中村の超高精度や名波の高速展開や中田浩の長距離と比べてはいけませんよ)がいかに有用にチームに機能するかがポイントになるのではないか。4DFで行く以上、相当な守備能力が必要とされるポジションだけに、決定的な人材に欠く感がある。サンフレッチェの方の服部、若手の根本あたりがライバルとなれないと、厳しい。
 このポジションに決定的なタレントがいないと、ジーコ氏の4DF構想が崩れるようにも思えるのだが。

守備的MF

 この日の試合で「和製黄金」方針は瓦解した。稲本と小野をドイスボランチにしてはいけない。後半、小野の交替後、稲本が何の遠慮もなく前進できるようになった。稲本の魅力は後顧の憂いなく敵を踏み潰すような前進振りである。したがって、稲本と組むべきタレントは稲本が前進するや否や後方をカバーできるタレントである。
 稲本と組ませるべきタレントは無尽蔵にいる。射程距離の中田浩、万能型の福西(やや同タイプゆえ苦しいか)、守備の強さの戸田、拾ってつなげる明神、天性のバランサ遠藤、ここまでは常識の範囲だろう。さらには(コンディションが回復すればだが)高速展開のベテラン名波、狡猾なファンタジスタ小笠原をここで使う手もある。若手の阿部や森崎も今野も成長してくるだろう。
 しかし、小野だけはいけない。稲本が、小野にだけは遠慮してしまうからだ。前半、何かしらギクシャクしていたのは、稲本の前進が一瞬遅れたからだと見た。稲本は相方がたとえ名波でも、ここぞと言う時は遠慮せず前進していた稲本だが、ユース時代からの上下関係?から小野にだけは遠慮があるのではないか。
 逆に言えば、これだけ人材がいるのに、中盤後方で小野、稲本を組み合わせるのは最悪の選択なのである。

 それにしても、若手を含めどうしてもMFに人材が次々と登場しているのだろうか。そう考えると、やはり上記の無尽蔵なタレントは1人でも多くフィールドに置きたい。とすらば、やはりコンバートを考えるべきではないか。トルシェ氏が中田浩をDFに使ったが、他のタレントを最終ラインで起用してみるのは有効な試みだと思うのだが。U22で山本氏が阿部や青木を、U20で大熊氏が菊地をDFラインで使っているのも、その現れだろう。大体、時代は異なるが、加藤久も井原もユース時代前後まではMFだったのだ。
 有為な若者がMFを志す、コーチたちがよい素材をMFに使いたがる、きっとこれは国民性なのだ。最近は、そう考えた方がいいように思えてならない。

攻撃的MF

 中田、中村、小野。問題ない。小笠原もいるし。

最前線

 豊富なMFに比べると、見劣りするがここに来て日本のFW陣は充実してきている。トルシェ氏が好んで起用したFW陣は皆若く、まだまだ伸び代があるからだ。
 それにしても、高原は鈴木のパスから抜け出した時、ダイレクトで打てなかったのだろうか。また、黒部は何故あそこで折り返したのだろうか。とにもかくにもこの2人がいかに点を取ってくれるかが、当面ジーコ氏がラクに仕事をできるかどうかを左右する。
 鈴木は試合出場に恵まれずも相変わらず強い。ウィンガとしてのアレックスも、相変わらず連携に課題はあるが、相応の計算はできる(アレックスに気の毒だったのは、フィールドに入ったとき彼を最も活かしてくれる中村も小野もフィールドにいなかった事)、賛否両論あろうが柳沢は(シュートの下手さを含め)計算できる。中堅になりつつある吉原や山下、若手の大久保や石川直(彼をサイドバックに使う手はないと思うのだが)らの好タレントの大化けも期待できる。

 そして、どうしてもタレントが足りない場合は(本人は不本意のようだが)中田を最前線に使えばよい。

3.ソウルでの戦い

 確かにチームの骨格は確立した。
 今後はこの日のチームをベースに少しずつ選手を入れ替え、コンフェデで結果を求めていけばよいのだろう。最終ラインのタレントに不安は残るが、予選まで丸2年ある状況としては、上々の滑り出しと言えるだろう。

 4月16日のソウルでの戦いも、そこそこの試合はできそうである。ただし、ジーコ氏としてはやりづらい戦いとなる。ソウルでの日韓戦は過去の歴史から言っても、日本にとって最も厳しい相方、場所にも関わらず、サポータは結果を求めるからだ。
 冷静に考えると、ソウルで韓国に勝つ事は、日本にもブラジルにもイタリアにもスペインにもポルトガルにも大変な難事なのだ。3年前、ソウルで河錫舟のゴールで惜敗した時に、トルシェ氏更迭論が出たときは本当に驚いた。親善試合で韓国にソウルで負けて、クビになっていたら、どんな人材にも日本代表監督は勤まらない。そう言いつつも、負けたら本当に悔しいから、相当な大騒ぎになるだろう。

 最後に余談。オランダで試合を終えた小野と宋鐘国が手を携えてスキポールを旅立ち仁川に降り立ちファイトする。欧州、南米の国際試合でチームメート同士が試合前にする固い握手。従来Jのチームメートで見ることはできたが、欧州のチームメートでこれを見るのは本当にタノシミ。フェイエノールトには2人の解放を期待するものである。

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Authored by Fumio Muto ; 2003 March 30 ; 武藤へ一言
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