要旨

 

    霞ケ浦導水事業は涸沼のシジミと自然生態系にどのような影響を及ぼすか  

 

 

 画面を閉じる

 

  シンポジウム 講演要旨集

 


 

    期日 2008年12月13日   会場 大洗町 文化センター大ホール

          目   次                                      (ページ)

   ○ プログラム                                  1

   ○ シンポジウム登壇者のプロフィール               2〜

   ○ 魚類生態系影響評価委員会川崎健 委員長の挨拶      4〜

   ○ 霞ケ浦導水事業の概要と問題点                 6

   ○ 各委員の報告要旨

  (1)那珂川の流量減少と河口・浅海域・涸沼への影響      7

     丸山  隆(東京海洋大学海洋科学部助教)

  (2)霞ケ浦の水質と那珂川・涸沼への汚染             8〜

     高村 義親(茨城大学名誉教授)

  (3)大型公共事業とシジミ・魚介類の減少             12〜

     浜田 篤信(元茨城県内水面水産試験場長)

  ○ 大涸沼漁業協同組合の「決議」                   14

 

 

【共催】大涸沼漁業協同組合

霞ケ浦導水事業による魚類・生態系影響評価委員会

 

事務局 大涸沼漁業協同組合 ・029-293-7347

           〒311-3125 東茨城郡茨城町下石崎1652

霞ケ浦導水事業は涸沼のシジミと魚介類に

      どのような影響を及ぼすのか シンポジウム

 

 

プログラム

 

 ◎ 開  会                          13.30〜

 1.主催者挨拶

○ 大涸沼漁協代表理事組合長 鴨志田 清美

○ 評価委員会委員長     川崎 健

 

 2.来賓挨拶、メッセージ紹介

 

 3.報 告                           14.00〜

  那珂川の流量減少と河口・浅海域・涸沼への影響について

報告者 丸山 隆 (東京海洋大学助教)

  霞ケ浦の水質と那珂川・涸沼への汚染について

報告者 高村 義親(茨城大学名誉教授)

  大型公共事業とシジミと魚介類の減少について

報告者 浜田 篤信(元茨城県内水面試験場長)

  ◎ 特別発言「漁業権を侵害する導水事業取水口建設」

発言者 安江 祐 (「那珂川アユ裁判」弁護士)

 

 5.質疑・討論                         15.30〜

 

 4.まとめ 川崎健 評価委員会委員長 

 

 ◎ 閉会挨拶                          〜16.30

 

 

                 (途中で15分間の休憩が入ります)

 

       シンポジウム登壇者・プロフィール

 

川崎 健(かわさき・つよし)

  1950年東北大学卒業。農学博士。水産資源学・レジーム・シフト理論・日本漁業論専攻。水産庁水産研究所を経て東北大学教授。農学部長。1991年停年退官。東北大学名誉教授。1992ー2000年国立台湾海洋大学客員教授・行政院水産試験所客員研究員。1989−2007年東北地方の湖沼・河川の環境・生態(とくにアユ)の調査・研究に従事。2007年太平洋学術協会より、海洋生物学の国際賞「畑井メダル」(レジーム・シフト理論)を受賞。

主な著書:「魚と環境」、「浮魚資源」、「魚の資源学」、「海の環境学」、「漁業資源」(以上単著)、「レジーム・シフトー気候変動と生物資源管理」、「Long-term Variability of Pelagic Fish Populations and their Environment」(以上編著)主な訳書:「気候と漁業」、「水産資源解析入門」

 

丸山 隆(まるやま・たかし)

  京都大学大学院理学研究科博士課程を単位取得退学後、東京水産大学(現東京海洋大学海洋科学部)に勤務。この間、日本魚類学会自然保護委員会外来魚部会長、東京都内水面漁場管理委員会委員、神奈川県環境影響評価審査会委員、全内漁連各種委員会委員、関東カワウ広域協議会科学委員会委員などを兼任。

主な著書(共編著・分担執筆):「渓流漁場のゾーニング管理マニュアル」「渓流魚の放流マニュアル」「遊漁問題を問う」「ブラックバス」「釣りから学ぶ」「21世紀の河川思想」「日本の淡水魚」など。

 

高村 義親(たかむら・よしちか) 

  東北大学農学部農芸化学科卒業、茨城大学農学部応用生命科学・教授、東京農工大学教授(大学院連合農学科生物工学専攻・併任)、茨城大学評議員を務め、2002年、定年退職、茨城大学名誉教授。2007年、日本微生物生態学会名誉会員。この間、日本微生物生態学会代表幹事、同評議員、日本農芸化学会評議員、国立環境研究所客員研究員、米国St.Jude Children's Research Hospital 客員研究員、茨城県生活排水対策基本計画策定委員会委員長、第6回世界湖沼会議組織委員会副委員長、国土交通省下水道懇談会委員、下水道政策研究会委員、霞ヶ浦モニタリング委員会特別委員、霞ヶ浦フォローアップ委員会特別委員、を歴任。

日本農学賞・読売農学賞受賞「霞ヶ浦の水質汚濁に関する研究」(1981年 代表:須藤清次)、日本微生物学会論文賞受賞「L-リジンによるミクロキスティス属シアノバクテリアの増殖阻害とミクロキスティス属アオコの消滅」(英文)(2005年)

主な著書:「霞ヶ浦」(共著、三共出版)、「集水域からの窒素・リンの流出」(共著、東大出版会)、「微生物の生態ー有機物負荷と環境浄化ー」(微生物生態研究会編、学会出版センター)他。

 

浜田篤信(はまだ・あつのぶ)

  東北大学農学部修士課程修了(海洋学専攻)。 農学博士。

東北大学助手をへて茨城県水産試験場、内水面水産試験場に勤務。1997年有限会社霞ヶ浦生態系研究所を設立、湖岸、河岸、海岸の物質代謝や保全に関する斬新な調査研究を精力的に進めている。2000年「生き物アカデミー」を石岡ロータリークラブとともに創設、こどもたちを対象に環境教育を開始、以後毎月一回の観察会や講座を継続実施している。2008年4月、特定非営利活動法人「霞ヶ浦アカデミー」を有志とともに設立、霞ヶ浦等の調査研究、保全活動、環境教育を実践、事務局長を勤める。東京学芸大非常勤講師。

主な著書(共著):「新しい自然保護の考え方」(古今書院)、「霞ヶ浦の魚たち」(霞ヶ浦情報センター)など。

 

安江 祐(やすえ・ゆう)

  東京大学法学部卒業。1983年5月弁護士登録(東京弁護士会)、1996年4月水戸翔合同法律事務所入所(茨城県弁護士会に登録)、2000年4月〜2001年3月茨城県弁護士会副会長。この間、潮来町安定型処分場建設差止め仮処分で勝訴、水戸市全隈産廃建設差止事件で水戸地裁、高裁、最高裁で完全勝訴。

霞ケ浦導水事業取水口建設差止め仮処分申立て(那珂川アユ裁判)弁護団。

 

にひら・あきら(シンポジウム司会)

  北海道大学水産学部卒業。長年にわたり海域・河川・汽水域などの魚類生態の研究・調査に従事。日本科学者会議会員。この間、農業環境技術研究所・東京大学海洋研究所外来研究員、東京水産大学非常勤講師、味の素食の文化フォーラム委員などを兼任。水産海洋学会幹事、北日本漁業経済学会理事。カツオの行動生態学的研究で水産海洋学会「宇田賞」受賞。農学博士(東京大学)・技術士。

主な著書(共編著・分担執筆):「日本人はなぜカツオを食べてきたのか」、「レジームシフト・気候変動と生物資源管理」、「海流と生物資源」、「レジームシフトと水産資源管理」、「北部まき網30年史」「漁業と資源の情報学」など。

 

 

 

 

 

 

あいさつ

 

       川崎 健  魚類・生態系影響評価委員会委員長 東北大学名誉教授

 

● シンポジウムの目的

このシンポジウムの目的は、「霞ヶ浦導水事業」による那珂川の流量減少と水質の悪化が、那珂川に連なる浅海域と汽水湖である涸沼にどのような影響を及ぼすかについて、科学的な立場から報告することです。

 最近の研究によって、河川水の変化が浅海域にこれまでに考えられてきた以上の広くて大きな影響を及ぼすことが明らかになってきました(2008年6月出版の科学論文集「川と海」を参照)。諫早湾干拓が、それが連なる広大な有明海の環境と漁業を破壊したことの二の舞を許してはなりません。

● 国土交通省が主張する導水事業の目的

○ 水質の浄化:霞ヶ浦に那珂川のきれいな水を引き入れて、汚染水を薄める。

○ 既得用水の補給:渇水時に霞ヶ浦の汚染水を那珂川に流す。

○ 新都市用水の開発:霞ヶ浦に水を貯める。

● 工事の内容

 地下40mに直径4mの横穴をあけて、霞ヶ浦と那珂川の間43kmを結びます。

● 何が問題なのか

1.漁業権を持つ関係漁協や流域自治体との合意を得ないまま、工事が強行されています。

2.事業目的は、すべて否定されています。

  ○ 那珂川の水を導入しても、霞ヶ浦の水質浄化どころか、かえって悪化する。

(後出:高村報告)

  ○ 都市用水はすでに水余りの状態である。

3.1900億円もの国税・県税の無駄遣い。

4.国の行為による環境破壊と国際条約・法律違反。

○ 生物多様性条約

我が国も批准し、1993年に発効した条約で、“地球上の多様な生物をその生息環境とともに保全すること”を規定している。

○ 生物多様性基本法

2008年に施行されたこの法律は、“一定の生態学的特性をもった生物群集をその生息環境と一体として保全すること”を規定している。

○ 条約違反・法律違反

霞ヶ浦導水事業は、水系的に見れば、利根川・霞ヶ浦水系と那珂川水系というまったく異質な2つの水系をつなぎ合わせることであり、生物学的に言えば、まったく異質な2つの生態系を混ぜ合わせることである。このような行為は国際条約違反・法律違反であり、条約および法律を遵守すべき国が行なうことではない。

○ 外来種による生物多様性破壊 ― カワヒバリガイの例

カワヒバリガイは、中国・朝鮮半島を原産地とする淡水性二枚貝である。この貝は配管内部に大量に付着して水利施設に悪影響を与える。2007年になって利根川本流において高密度分布が確認された。導水事業によって、これが那珂川に侵入する可能性が高い。

1.霞ヶ浦・利根川水系の流域において男児出生比率が近年低下しているが、これは霞ヶ浦に堆積したダイオキシンの影響と考えられている。霞ヶ浦導水事業によって、那珂川がダイオキシンによって汚染され、流域において男児出生比率が低下する危険がある。

● まとめ:導水事業の根本問題 ― ああいうものを造る時代ではない

この事業は、今から40年以上も前の高度経済成長期に構想が作られ、20年以上前の経済バブルにさしかかる時期に建設が始まりました。しかしその後、世界でも日本でも状況が大きく変わりました。日本の経済は低成長時代に入り、人口も減少時代に入りました。地球温暖化問題に示されるように、世界の諸国民の環境意識が高まり、1993年に生物多様性条約が結ばれ、2008年6月に日本でも生物多様性基本法が施行されました。

全国で、河川の生態系を守るために、国のダム計画に反対する動きが強まっています。川辺川ダム、大戸川ダムでは知事が反対し、サンルダム、八ッ場ダム、設楽ダムでも住民が反対しています。

時代は確実に変わりました。霞ヶ浦導水事業の大義名分も意義も、すべて失われました。そのことは、事業の経過自体が物語っています。完成予定は22年も後れ、那珂川からの取水予定量も大幅に削減されました。

それでも国交省は、事業を止めると大失態になるので、止められません。国民の利益に背を向けて突っ走る姿は、役所益を追い求める時代錯誤の哀れな姿と言えるでしょう。

霞ヶ浦導水事業は、諫早湾干拓事業とよく対比されます。しかし、決定的に違うのは、那珂川を守るために、全漁協、全漁業者、流域住民が団結して立ち上がって、工事を阻止していることです。これは日本で初めてのことです。那珂川においては、諫早湾とそれが連なる有明海におけるような漁業破壊、環境破壊、国土破壊を許してはならないと思います。

アユ遡上量日本一の清流那珂川に育まれる豊かな流域や海、そして全国有数のシジミ漁獲量を持つ涸沼を次の世代に引き継ぐのは、現世代の責任です。今は、国土を守り、環境をしっかり守る時代です。決めた計画をなにがなんでも押し通す役所の論理を打ち砕く、我が国最初で、最後の例としましょう。

この闘いは、全国的な意義を持っているのです。

 

 

 

         霞ケ浦導水事業の概要と問題点

 

事業計画の経緯

 昭和45年4月  予備調査着手

 昭和59年4月  建設事業着手

 昭和60年7月  事業計画策定(1600億円、工期・平成5年度)

 平成5年8月  第1回事業計画変更(1900億円、工期・平成12年度)

 平成13年9月  第2回事業計画変更(1900億円、工期・平成22年度)

 平成14年10月  第3回事業計画変更(1900億円、取水量の縮小)

 平成20年  月  第4回事業計画変更(1900億円、工期・平成27年度)

事業の目的

○霞ケ浦・桜川の水質浄化 ○那珂川・利根川の水量確保 ○新規都市用水の供給

事業の進捗状況

 ○事業費の進捗状況 平成19年度までに1449億円支出(76%)

茨城県負担851億円、平成19年度までに655億円支出

 ○利根導水路 平成8年3月完成(完成後10年間本格運用されていない)

 ○那珂導水路の進捗状況 地下トンネル43劼瞭13.7甸粟(進捗率32%)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主な問題点

 ○毎秒15吐3.3億鼎梁舂娘菴紊砲茲詁甓兩・涸沼の魚介類と河川環境への影響

 ○那珂川と霞ケ浦の異なる水系混合による生態系と住民生活への影響

 ○那珂川水系の漁協の同意を得ない取水口建設工事による漁業権侵害の問題

 ○事業目的の破綻 霞ヶ浦浄化に逆行、茨城と首都圏は水余りの状況

 ○ぼう大な国費・県費のムダ使い

霞ヶ浦導水事業が涸沼の漁場環境に及ぼす影響の予測

 

丸山 隆(東京海洋大学海洋科学部)

 

 涸沼のヤマトシジミ漁業は、現状でも極めて危険な状況に置かれている。その主原因は、流入河川や下水処理場などから流入する過剰な栄養物質による水質の富栄養化にある。

 涸沼の湖底付近には、那珂川から涸沼川を通じて流れ込んだ塩分を含む重い水が横たわっている。その上に川や処理場から流れ込んだ比重の小さい真水が被さって蓋をすることで、風や波の影響で空気中から水に溶け込む酸素が底層まで拡散することが妨げられている。

 また、表層を覆う真水に含まれる豊富な栄養塩類を利用して植物プランクトンが異常増殖するために、底層や水底に太陽光線が届くことが妨げられる。その結果、底層水の中や水底で植物プランクトンや水草、藻類などが光合成を行うことができず、酸素の供給ができない。

 そのような条件下で、表層で生産された植物プランクトンの遺骸などの有機物が大量に底層に沈み、底生生物や微生物によって摂餌・分解される。その際に大量の酸素が消費されるために、涸沼の底層は慢性的に貧酸素状態となっており、酸素欠乏に弱いヤマトシジミやマハゼは涸沼の湖心部には生息できなくなっている。

 そのような涸沼でヤマトシジミやマハゼが存続できるのは、定期的に那珂川河口域から酸素を豊富に含んだ汽水が侵入し、涸沼の底層の貧酸素化を軽減するとともに、ヤマトシジミの幼生やマハゼの稚魚を運び込んで来るからである。また、涸沼と那珂川を結ぶ涸沼川には浅瀬があり、潮の干満で涸沼川を通る水が激しくかき混ぜられることも、底層水の貧酸素化の抑制に役だっているだろう。

 その結果として、涸沼川とその周辺水域の浅瀬を中心に、現在もヤマトシジミやマハゼの好漁場が残されているものと思われる。したがって、霞ヶ浦導水計画によってもし那珂川の河口部の底層水が貧酸素化すれば、涸沼の底層水の貧酸素化は更に深刻化し、ヤマトシジミの幼生やマハゼの稚魚の供給も絶たれるので、涸沼と涸沼川の漁業は深刻な被害を受けざるをえないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霞ケ浦の水質と那珂川・涸沼の汚染

 

高村 義親(茨城大学名誉教授)

 

1.霞ヶ浦の水質

霞ヶ浦の水質汚濁は、流域から流入する窒素、リン(特に無機態のイオン)を栄養源にして増殖するいわゆる“アオコ”(藻類)とその分解物の蓄積による有機性水質汚濁である。したがって、窒素・リンによる富栄養化防止がターゲットである。霞ヶ浦水質保全条例(旧;霞ヶ浦富栄養化防止条例)も湖沼水質保全計画も、流域と湖底からの窒素およびリンの排出・溶出をいかに抑制させるかということを基本としている。

霞ヶ浦は、湖沼法に基づき、湖沼A・湖沼掘陛面検卜犒燭忙慊蠅気譴討い襦8仂足稽犒燭膨蠅瓩蕕譴心超基準は全窒素;0.4 mg/L以下、全リン;0.03 mg/L以下、および湖沼A類型のCOD;3 mg/L以下である。しかし、平成17年度の、全窒素;1.1 mg/L、全リン;0.10 mg/L以下、およびCOD;7.6 mg/Lであり、いずれも環境基準および“暫定基準”を上回っている。

2.霞ヶ浦導水による那珂川の汚染

那珂川の約4倍の有機物(COD)を含む霞ヶ浦導水は、疑いもなく那珂川の清流を汚染する。那珂川の約2倍の霞ヶ浦全リンも同様である。さらに、霞ヶ浦由来の難分解性有機物、カビ臭物質、アオコ毒素、微細藻類などが那珂川・涸沼の汚染を新たに拡大する。水質の立場から見れば、那珂川の自然・生態系にプラスの影響を与えるものは何一つない。

最近、霞ヶ浦湖水中の溶存態有機物中に含まれる難分解性有機物の増加傾向が問題になっている。難分解性有機物は、微生物によって分解されず、下水処理場で分解・浄化することが出来ない有機物である。したがって、下水処理場放流水中に比較的高い濃度で存在している。難分解性有機物は、水道水の浄水過程(塩素処理)でトリハロメタン等の発がん物質を生成する原因物質となる。霞ヶ浦流域の人々が環境基準をはるかに上回り、しかも難分解性有機物の多いCODを飲料水にしていることは、いつか健康へ悪い影響を及ぼすのではないかと危惧する研究者・専門家も少なくない。

発ガン性などの毒性が特に高く、人の健康や生態系への影響が最も懸念されている難分解性有機物の代表はダイオキシンである。平成15年および16年に国土交通省関東整備局が霞ヶ浦(湖心)と那珂川(下国井)の水質と底質のダイオキシンを分析した結果がある。いずれもダイオキシンの環境基準(水質:1 pg-TEQ/L、底質:150 pg-TEQ/g以下)をクリヤーしているが、平均すると霞ヶ浦の水質のダイオキシンは那珂川の3倍、底質は那珂川の70 倍である。那珂川に比べると、霞ヶ浦は富栄養化のみならず化学物質による汚染も進んでいる。

3.アオコの生産する毒素

 霞ヶ浦に発生するアオコは、ラン藻(現在はシアノバクテリア)と呼ばれるバクテリア(細菌)に近縁な微生物である。ミクロキスティス属、オシラトリア属、フォルミディウム属などの“アオコ”は、いずれも毒素を生産する。よく知られているミクロキスティンというアオコの生産する毒素は、肝臓障害・肝ガンの原因となる毒素として知られている。WHOのガイドラインでは「飲料水1リットル当たり1マイクログラム以下」とされている。

4.アオコの生産する“カビ臭物質”(異臭味物質)

霞ヶ浦では、ミクロキスティス属ラン藻が減少して、オシラトリア属、フォルミディウム属のラン藻類が多く発生するようになってから、魚介・水道水の“カビ臭” (異臭味物質)が顕著になった。原因物質は、2−メチルイソボルネオール。カビ臭物質は0.00001ミリグラム/リットルの極低レベルでも、ヒトの官能で認識される。そのため、水産業者、水産加工業者は大きな打撃を被っている。また、霞ヶ浦湖水の浄水処理過程において、カビ臭物質を除去するために活性炭を大量に使用することを余儀なくされている。

渇水時の那珂川に霞ヶ浦の湖水が導水されることにより、那珂川が誇る天然アユ、献上魚の歴史を持つ鮭、涸沼のシジミなどがカビ臭物質で汚染される可能性は否定できない。また、上水道については、活性炭、バイオフィルムなど高度の浄水操作が新たに必要になると思われる。

 

5.霞ヶ浦より窒素濃度の高い那珂川―霞ヶ浦の富栄養化を促進−

霞ヶ浦西浦は0.885 mg/Lであるのに対し、那珂川の全窒素濃度は平均1.45 mg/Lである。那珂川の総窒素は霞ヶ浦より1.6倍も高い。その上、含まれている窒素は、アオコの増殖に最も適した硝酸態窒素である。那珂川の硝酸態窒素は1.27 mg/Lであるのに対し、霞ヶ浦0.21 mg/Lと著しく低い。那珂川の硝酸態窒素濃度は霞ヶ浦の6倍も高い。一般に、霞ヶ浦のような停滞した湖沼では植物プランクトンが優勢で、硝酸態窒素をよく利用して増殖するために硝酸態窒素は検出できないほど低い。那珂川の硝酸態窒素は、霞ヶ浦に流入すれば、アオコの増殖栄養素となり、ひいては有機物(COD)の生産を促進する。全窒素(硝酸態および亜硝酸態)の高い那珂川導水は、霞ヶ浦の富栄養化をさらに促進し、水質をさらに悪化させる可能性が大きい。那珂川からの導水が、“霞ヶ浦の湖水を希釈するとともに、霞ヶ浦の水質浄化に効果を発揮する”ことは不可能である。

6.那珂川の全リン濃度も富栄養化―湖沼類型犬冒蠹―

西浦湖心の全リンは平均0.109 mg/Lであるのに対し、那珂川の全リン濃度は、平均0.043 mg/Lある。那珂川の全リンは霞ヶ浦の二分の一以下の低い濃度である。しかし、湖沼類型靴硫皀浦の全リン濃度の環境基準は0.03ミmg/L以下であので、那珂川の全リン濃度は湖沼類型靴硫皀浦の環境基準を越えている。湖沼の環境基準からすれば類型犬冒蠹する。しかも、那珂川の全リンの主たる成分は植物プランクトンの利用しやすい無機リン酸態リンである。霞ヶ浦導水は、藻類の増殖を促進する最適の栄養塩類を供給することになる。那珂川の全リン濃度は霞ヶ浦に比べれば低いとはいえ、環境基準を越えている上、質的にも霞ヶ浦に導水するにふさわしい水質ではない。

7.“流れる”那珂川と“停滞した”霞ヶ浦の相違―有機物(COD)は湖内で作られる

2002〜2004年の西浦(湖心)のCODは、平均7.6 mg/Lである。それに対し、那珂川(御前山村野口)の平均CODは2.0 mg/Lである。那珂川の有機物(COD)濃度は低い。まさに清流の名にふさわしい水質で、河川の環境基準(生活環境の保全)類型Aに当てはめられる。有機物の少ない清流”は、あくまでも那珂川という“流れ”のある河川に生まれ、那珂川を流れている時の水である。これが“停滞”した閉鎖性の霞ヶ浦に導入された時は別である。すなわち、ひとたび霞ヶ浦に入れば、富栄養化した停滞性の湖水に変わる。上述したように、那珂川の窒素・リンのレベルは高く、その形態は、植物プランクトンの利用しやすい硝酸態窒素と無機リン酸態リンである。したがって、いくら澄明なCODの低くても、那珂川導水は、霞ヶ浦のアオコ発生を促進し、発生したアオコ藻体およびその枯死分解物は湖水中の有機物濃度(COD)を高めることが予測される。全国の多くの湖沼、ダム湖、貯水池で同様な現象が今も多発している。茨城県のパンフレットでも、「窒素やリンを栄養源にして、植物プランクトンが増えすぎるとCODが上がるだけでなく、アオコが発生したり、悪臭が発生したり霞ヶ浦の水質が悪化します」と記されている。          

以上

(おわりに)

水質の立場から見れば、霞ヶ浦導水事業は、霞ヶ浦・那珂川の両水系にとって、なんのメリットもない。霞ヶ浦は、那珂川の硝酸態窒素と無機リン酸態リンにより、那珂川は霞ヶ浦の有機物(COD)と粒子性リンにより、それぞれの水系の汚染は拡大する。那珂川は、更に、難分解性有機物、カビ臭、アオコ毒素、微細藻類などによる新たな汚染が付加される。

導水事業により霞ヶ浦の水質が画期的に改善されるかのように国は主張し、霞ヶ浦流域の多くの住民はそれを信じている。しかし、那珂川の水質が富栄養化している現況および「流れのある河川」と「停滞した湖沼」の相違からすると、導水事業の目的 嵜綣舛両化」の科学的根拠はきわめて薄弱である。霞ヶ浦より高い硝酸態窒素と無機リン酸態リンを含む那珂川の導水事業は霞ヶ浦の富栄養化による水質汚濁をさらに進行させ、アオコの発生機会を増大させる可能性がある。国に指定されている霞ヶ浦の湖沼類型Aおよび湖沼稽犒燭隆超基準は勿論“当面の暫定基準”の達成も一層困難になると思われる。霞ヶ浦導水は、“泳げる霞ヶ浦”を目指した「茨城県霞ヶ浦水質保全条例」、湖沼法に則した「霞ヶ浦水質保全計画(第五期)」とは矛盾した事業である。

 

【水質についてのメモ】

河川・湖沼の一般的水質は、ミリグラム/リットルの話です。

1ミリグラムは1/1,000 グラム。身近には、一円玉は、1グラムの重さです。一円玉の1,000分の1に相当する重さが、1 ミリグラム。窒素、リン、有機物などによる水質汚濁では、1 ミリグラムが1 リットル(紙パック牛乳1 本)の水に溶けた濃度が、問題になります。

1)水道水、魚介のカビ臭物質は10万分の1ミリグラム/リットル、ダイオキシンは100万分の1ミリグラム/リットルの極低濃度が、水道水の快適性または人の健康問題になります。

2)窒素、リン酸、カリは肥料の三大要素。あらゆる生物に不可欠な元素です。停滞した湖・沼・池、堀では、窒素とリンが増えると浮遊性微細藻類が増えます(これを富栄養化と言います)。浮遊性ラン藻(最近はシアノバクテリアとよばれる。)が高密度に増えたのがアオコです。    流れている川では一般に浮遊性藻類は繁殖できません。しかし、河川の流量が低下して、停滞した下流部で藻類が発生し、水道水のカビ臭が問題になった例が知られています。    

 

(以上)

 

 

 

霞ヶ浦導水事業による涸沼のシジミ漁への影響

 

浜田篤信・元茨城県内水面試験場長

 

1 霞ヶ浦開発事業にみるシジミ漁業の興亡

  霞ヶ浦北浦におけるシジミの漁獲量の推移は1958年に始まり、1969年3600鼎離圈璽を経て1990年に皆無となる。シジミ漁業は1948年着工の北利根川(現常陸利根川)改修工事の進捗による塩分と逆流水量の増大によってピーク時の1970年3517鼎肪するが、その後は逆流水量の低下と常陸川水門の閉鎖によって消滅する。

シジミの大量へい死は利根河口堰完成によって利根川河川水の常陸利根川への逆流が低下する1970年以後毎年発生するようになる。さらに、シジミ漁獲量の減少の最大の原因は利根河口堰完成による逆流水量の低下である。利根河口堰完成で利根川から霞ヶ浦北浦側への逆流がなくなるとシジミの漁獲量は1/2に減少している。

霞ヶ浦導水事業による流量低下によって、常陸川〜霞ヶ浦で発生したシジミと同様の被害が涸沼で発生する恐れがある。

 

2 涸沼の生産は那珂川河川水によるところが大きい

   那珂川下流に流下した河川水は、潮汐の影響を受けて涸沼川を遡上し那珂川へ流入しシジミの餌となる植物プランクトンを生産する。その水量は涸沼流入河川の水量の約3倍である。したがって、導水事業による流量低下の影響は、涸沼の水質、生態系に大きな影響をおよぼす。シジミ漁業への影響も大きくDS生産量低下を引き起こす。

 

 

3 那珂川の水量が涸沼のシジミ発生を左右する

   ヤマトシジミの発生に最適の塩素量は3000~4000mg/lであるとされる。那珂川の河川水量は、涸沼の塩分に大きな影響を与えているが、河川流量(野口)が60m3/secで最大の塩分(表層で約4000mg/l)を示す。これより流量が低下すると塩分が上昇し、シジミの発生にも影響が及ぶものと考えられる。

 

4 豊富な那珂川の水が涸沼のシジミへ酸素と餌を供給する

   那珂川の河川水量が多い場合には、流下した河川水の一部は潮汐によって涸沼川に遡上し、その過程で上下混合によって適度な汽水が確保されシジミへの酸素供給と餌となる植物プランクトン等が供給される。河川水量が低下すると遡上過程での上下混合が低下し、酸素や餌の供給が抑制され生産量の低下やへい死が発生する。

 

5 流量低下による窒息死の危険性

河川水量の減少により涸沼川に逆流する逆流水の流速が低下し涸沼川の鉛直混合、あるいは水平方向の混合が起こりにくくなる。これによって比重の大きい高塩分水が塩水クサビとなって河床を覆う。また、涸沼川の河床は常陸川の場合のように平坦ではなく起伏が大きい。下流からの高塩分水が涸沼川の水深の大きい部分に居座り酸素欠乏を引き起こす危険性が高まる。

 

塩素イオン3300mg/l)を越えると酸素量が極端に低下することが涸沼の調査で明らかにされているが、この濃度は、ほぼ逆流水の塩素量に相当する。したがって、霞ヶ浦導水事業で河川流量が低下し、逆流量が減少すると上下混合が抑制され涸沼川および涸沼湖内で酸素量の低下が起こりシジミその他の水生動物が窒息する危険性が高まる。

 

6 水量低下による涸沼でのプランクトン種への影響

  霞ヶ浦導水事業で河川流量が低下すると、涸沼への逆流量も低下し湖水の滞留時間に影響がおよぶ。このことによって従来優占種となっていた種から、フォルミデイウムやオシラトリア類への優占種の交代が起こる可能性が高い。これらの種が発生すると魚介類へ不快な臭気が着臭し、生産物の販売に影響がおよぶ。また、魚類への疾病が引き起こされることがある。

  このような深厚な事態を引き起こさないためにも事前の調査研究が必要であることは、いまさら指摘するまでもないであろう。

しかしながら、国土交通省霞ヶ浦導水工事事務所は、涸沼への影響はないと断定する(2008年12月4日霞ヶ浦導水事務所の大涸沼漁協への説明会)。那珂川と同様、涸沼についても霞ヶ浦導水事業の事前影響評価を行い、その結果にもとづき判断すべきである。

 

 

涸沼のシジミ・魚介類に被害を及ぼす

霞ケ浦導水事業の中止を求める決議 

 

 私たちは先祖の代から、涸沼と涸沼川で漁業を営んできた。

大涸沼漁協組合員は、湖沼の環境保全につとめながら、シジミをはじめウナギやワカサギなど魚介類の増殖に取り組み、今日も漁業をつづけ生計を立てている。

 涸沼は全国有数の汽水湖であり、シジミ漁獲量は全国第4位をしめ、多種多様な魚介類が生息する豊かな湖沼である。多くの釣り人がおとずれ、ヨシ原ではヒヌマイトトンボも発見されおり、地域の自然環境と観光資源としても極めて貴重なものである。

「地域の宝」である涸沼を大切に守りぬき、これを孫子の代に残すことは、漁協組合員と沿岸住民の責務と考える。

 

 大涸沼漁協はかねてから、那珂川と霞ケ浦をトンネルでつなぎ、大量の水を相互に送る霞ケ浦導水事業は、涸沼の魚介類に大きな被害を及ぼすものと懸念してきた。

 平成10年の那須大水害の折、那須高原から那珂川・涸沼川を通って牛が流され、又、上流の土砂が大量に涸沼及び涸沼川に流入、堆積し、シジミが壊滅状態にまで陥った。これに象徴されるように涸沼と那珂川は密接に関係している。

霞ケ浦への導水に年3.3億鼎蘯菴紊垢襪海箸砲覆襪函那珂川の流量が著しく減少し河口域への影響は必至である。これによって涸沼の塩分濃度や底質にも変化をおこすなど、魚介類に重大な悪影響を及ぼすことが必至である。

 霞ケ浦の水が那珂川に送水されると、外来魚介類やプランクトン、微生物、カビ臭なども移送され、涸沼の魚介類は予測もできない損害をこうむることになる。

 すでに茨城・栃木の那珂川河川7つの漁協は、「霞ケ浦導水取水口建設中止」を求めて立ち上がり、茨城県内水面漁連と全国内水面漁連が支援を決議している。

 

この間、大涸沼漁協は各地区毎に全組合員の意見を集約し、理事会において真剣に検討してきた。その結果、涸沼のシジミと魚介類に重大な被害を及ぼす霞ケ浦導水事業に対し、断固反対することを決定した。

 国土交通省霞ケ浦工事事務所に対して、ただちに霞ヶ浦導水事業と取水口建設の中止を求める。県は、涸沼と那珂川すべての漁協の声を真摯に受けとめて、漁業権を無視する霞ヶ浦導水取水口の工事中止を国に求めることを要望する。

大涸沼漁協は、那珂川のすべての漁協と協力して、霞ケ浦導水事業を中止させ、涸沼のシジミと魚介類を守るために全力をつくす。沿岸住民・自治体とも力をあわせて、水質浄化と環境保全に取り組み、かけがえのない涸沼を孫子に残すために、総力をあげて取り組むことを決議する。

 

2008年10月23日

                              大涸沼漁業協同組合

 

 

 

 

 

Yahoo!ジオシティーズ