切迫早産について
切迫早産とは?
切迫早産の初期症状
切迫早産の症状
切迫早産の診断
切迫早産の重症度の判定
特殊な切迫早産の治療
一般的な切迫早産の治療
安静とは?
切迫早産治療薬
早産児の予後




切迫早産とは?

 切迫早産とは「妊娠22週以降37週未満に下腹痛(10分に1回以上の陣痛)、 性器出血、破水などの症状に加えて、外測陣痛計で規則的な子宮収縮があり、 内診では、子宮口開大、子宮頸管の展退などが認められ、早産の危険性が高いと 考えられる状態(日本産科婦人科学会編、産科婦人科用語集・用語解説集より)」 と定義されています。
 すなわち切迫早産とは、満期でない時期に分娩の時に起こる現象、つまり陣痛のように子宮が頻繁に硬くなったり(おなかが張る)、出血したり、子宮口が開いたり、破水したりして出産(早産)となる危険性が高い状態と言えます。


切迫早産の初期症状

 切迫早産の初期症状
  1 粘液性の膣分泌物の突然の増加
  2 血液の混じった帯下
  3 出血
  4 月経痛様の下腹部痛
  5 体験したことのない背部痛
以上の症状が切迫早産の初期症状であるが、全くないことも、あっても軽微で漠然としていることもある。


切迫早産の症状

 切迫早産の症状としては、正期産や過期産の場合と同様に出産に一般に認められる症状が認められます。しかし、分娩経過自体は病的なことが多いです。

(1)腹部緊満感・下腹痛・腰痛、前陣痛・陣痛(子宮収縮)
早産の初期症状は不規則な腹部緊満感、腰痛を感じる程度で安静によって症状が軽快します。しかし、進行すると陣痛様疼痛となり、やがては抑制不可能な強く規則的な陣痛となります。
ただし、子宮頸管無力症の場合には、上記のような明確な子宮収縮を伴うことなく、すなわち疼痛を伴うことなく子宮口が開大し、破水という経過をたどります。自覚症状を伴うことなく流産、早産となるために、早期発見は必ずしも容易ではありません。

(2)破水
早産に先行して前期破水が認められることが多いです。前期破水は早産すなわち未熟児出産の原因となるために「破水の診断」を正確に行わなければなりません。
前期破水の原因として絨毛膜羊膜炎の存在が示唆されるために、破水後には子宮内感染に注意が必要です。同時に、破水後には陣痛が発来することが多いために子宮収縮の抑制が必要になります。すなわち、抗生物質と子宮収縮抑制剤の投与が行われます。少数例を除いて1週間以内に早産となることが多いです。

(3)出血
分娩一般に認められる症状で子宮口の開大時に粘液まじりの出血として認められます。「産徴」あるいは「しるし」などとも呼ばれています。
特殊例としては前置胎盤や常位胎盤早期剥離による出血もあります。早期より異常出血となったり、母子ともに危険な分娩経過をたどることが多いです。

(4)胎児娩出
胎児の大きさだけを考えれば、早産の場合には児が小さいために比較的容易であると考えられます。しかし、実際は遷延することもあります。また、児が未熟児であるが故に、狭い産道を通過すること自体が児にとって危険であると判断された場合には帝王切開が選択されます。
前置胎盤の場合はもちろんのこと、一般の早産の場合にも正期産と比較して骨盤位、横位などの胎位異常を伴いやすく、帝王切開が選択されます。

(5)後産期
早産の場合には、妊娠の安定期の場合もあり、児娩出後に胎盤が剥離しにくく子宮内に胎盤が残ってしまう場合があります。


切迫早産の診断

 腹部緊満感・下腹痛・腰痛、前陣痛・陣痛(子宮収縮)などの腹部症状、破水の有無、性器出血などを参考にすると診断は比較的容易です。しかし、早産と思われる一部に前置胎盤、常位胎盤早期剥離、切迫子宮破裂などの特殊例が含まれている場合もあります。

(1)子宮収縮の把握と胎児管理
 子宮収縮の把握と胎児管理のためには、胎児心拍数陣痛図が必要になってきます。胎児心拍数陣痛図とは、分時心拍数(1分間の心拍数)と子宮収縮の有無、程度を同時に同じ記録用紙に記録したものです。
 胎児心拍数陣痛図によって、子宮収縮(陣痛)の有無、程度を把握できます。子宮収縮(陣痛)の有無によって早産の診断がなされます。規則的な子宮収縮の場合には抑制が不可能なことが多く、早産が避けられないことが多いです。不規則な弱い子宮収縮の場合には抑制可能で、早産を回避し妊娠の継続が可能になります。
子宮収縮の存在によって子宮内環境に変化をきたし、胎児徐脈が出現することもあるために胎児心拍数陣痛図による胎児管理が重要になります。

(2)破水
 破水の有無は早産の診断には重要であり、破水例は少数例を除き長期的に早産を避けることは不可能です。従って、破水の診断は重要になります。

(3)子宮口の開大度、出血、頸管の状態
 子宮口の開大度、頸管の状態は早産診断の必須検査です。内診、膣鏡診、超音波診断法(膣式)によって診断がなされます。
 内診によって子宮口の開大程度、すなわち閉鎖しているのか開大しているのか、開大している場合には何センチ開大しているかを判断します。開大程度が大きいほど早産の危険性は高くなります。同時に頸管の軟化傾向も把握しなければなりません。本来、子宮頸管は硬いものであり、硬ければ早産の危険性は少なく、軟化傾向が強ければ早産の危険性が高くなります。
 膣鏡診によって、出血の有無、程度が診断できます。当然、出血がある方が早産の危険性は高くなります。また胎胞が形成されていれば肉眼的に確認できます。
 超音波診断法(膣式)によって子宮頸管の長さ、すなわち短縮の程度が把握できます。頸管の長さは本来長いものであり、短いほど早産の危険性が高くなります。また内子宮口の状態が把握できます。内診によって子宮口が閉鎖していても内子宮口がくさび状に開大し、しかも頸管の短縮が認められる場合には早産の危険性があります。


切迫早産の重症度の判定


 早産指数(tocolysis index)とは?
 切迫早産の診断は、子宮収縮、破水の有無、出血、内診所見(子宮口の開大など)などによって診断されます。さらに、切迫早産状態の重症度の判定、すなわち早産の危険性の判定が必要になってきます。そこで考えられたのが早産指数(tocolysis index)です。
 早産指数(tocolysis index)とは、子宮収縮、破水の有無、出血の有無、子宮口の開大度をチェックポイントに選び、それぞれの項目を点数化して予後を判定します。

早産指数(tocolysis index)
スコア 0 1 2 3 4
子宮収縮 不規則 規則的    
破水   高位破水   低位破水
出血      
子宮口の開大度 1cm 2cm 3cm 4cm以上


 それぞれのスコアの総和を計算し、点数が高ければ高いほど早産の危険性が高いことになります。早産管理の指標として利用されますが、3点以上は入院治療の対象となります。
一般的には5点以上は予後不良で、早産が避けられないことが多いです。


特殊な切迫早産の治療

 切迫早産の治療は未熟児出生の防止につながるので、原則として妊娠継続をできるだけはかるべきです。しかし、妊娠の継続が母体あるいは胎児にとって危険であると判断された時には、妊娠週数に関係なく妊娠の継続を断念せざるを得ないです。子宮内環境が悪化した場合には、いたずらに妊娠の継続をはかるのではなく、児の予後を考慮しできるだけ良好な状態で出生させるべきです。
 このような切迫早産は特殊例ですが、それぞれの病態に応じた専門的な適切な対応が必要です。可及的すみやかに児の娩出すなわち緊急帝王切開の必要がある場合もあります。同時に早産児はNICUでの治療が必要になります。

・胎児死亡
・胎児仮死
・胎児奇形の一部
・重症子宮内感染症
・重症の子宮内胎児発育遅延(IUGR)
・常位胎盤早期剥離
・前置胎盤の大出血
・妊娠中毒症(重症)・子癇
・重症の糖尿病合併妊娠
・コントロールされていない甲状腺機能亢進症
・心疾患・肺疾患(肺水腫・弁疾患など)
・子宮収縮抑制困難と考えられる切迫早産症例
  (1)分娩が進行する場合(破水・胎胞形成)
  (2)子宮口開大度≧5cm、展退度≧80%
  (3)Tocolysis index≧7、Bishop score≧9
その他


一般的な切迫早産の治療

 早産児は、その週数が早ければ早いほどいろいろな機能が未熟なために死亡したり、障害が残ったりする可能性があります。そのために上記のような特殊な切迫早産でない場合にはたとえ1日であっても妊娠が継続するほうが児にとって好都合です。
 一般的な切迫早産の治療の基本は安静と薬物療法が2本の柱です。薬物療法とは、子宮収縮を抑制する目的で子宮筋弛緩剤が用いられます。切迫早産の症状が軽度の場合には子宮筋弛緩剤の内服投与が行われますが、症状がより強い場合には点滴治療が行われるために入院が必要になります。

 外来管理の基準

軽度のあるいは不規則な子宮収縮あっても、未破水でTocolysis indexが2点以下、展退度30%以内、経膣超音波で30mm以上の場合には外来管理とします。軽度の子宮収縮があっても子宮口がしっかりしている場合には自宅安静の方針とします。多くは塩酸リトドリンの内服投与を行います。
 1 未破水
 2 不規則な子宮収縮
 3 Tocolysis index 2点以下
 4 展退度 30%以下
 5 内子宮口閉鎖
 6 頸管長 30mm以上


入院管理の基準

 破水例はもちろんのこと、未破水例であっても規則的な子宮収縮を認め、子宮口開大2cm以上、展退度 30%以上、Tocolysis index 3点以上、内子宮口の開大、頸管長 30mm以下などの所見がある場合には入院管理とします。すなわち規則的な子宮収縮があったり、あるいは子宮口の開大傾向があり、早産の危険性が高い場合には入院管理とします。
 その他に、外来治療を行っても効果がない場合、あるいはさらに早産の危険性が高まった場合には入院管理とします。社会的、家庭的事情、さらに本人の希望を含め、外来管理が困難な場合も入院管理とします。
 1 破水
 2 規則的な子宮収縮
 3 Tocolysis index 3点以上
 4 展退度 30%以上
 5 内子宮口の開大
 6 頸管長 30mm以下


安静とは?


 「安静とはどのような状態を言うのですか?」とたずねられることがありますが、早産の危険性が高ければ高いほど安静の必要性が高くなります。つまり切迫早産の症状の強さによって安静度が決まります。

自宅での安静
 単に外出を制限する程度から寝たきりの状態まで考えられます。自宅安静をご担当の先生から指示された場合には外出の制限はもちろんのこと、ご主人やご家族のことは行わずに、自分のことだけを行うのが理想です。入浴も行わずに完全に寝たきりの状態でも切迫早産の症状が軽快しない場合さらには悪化する場合には入院の必要があります。
 自宅での安静にておなかの張り(子宮収縮)などの切迫早産の症状が軽快したり、消失したりすれば徐々に安静が解除できます。徐々に家事を行ったり、さらに調子がよければ外出も可能になります。
 ただし安静度の基準はおなかの張りなどの自覚症状だけで決められない場合もあります。たとえば自覚症状が強くなくても子宮口が開いてくるようならばさらに強い安静や入院治療が必要になります。

入院中の安静
 最も安静度が厳しいのは破水した患者さんです。この場合には骨盤高位といって腰を高くして、羊水の流出を防止する体位です。もちろん歩行は許可できません。ベットの上で食事から排尿排便まで全てが行われます。このような厳しい安静は長期間になると精神的に相当苦痛です。そのほかに出血のある前置胎盤の患者さんなども厳しい安静が必要です。
 このような厳しい安静だけでなく患者さんの病状によって安静度が決定されます。入院治療によって子宮収縮などの切迫早産の症状が軽快すれば次第に安静は解除されます。
 安静というものは決して楽なものではありません。非常に苦痛なものです。特に長期間の安静は何が重要なのかわからなくなります。いわゆる拘禁性のノイローゼになりやすいです。赤ちゃんを支えに1日1日積み重ねるしかありません。妊娠が継続できることはすばらしいことですから。そして、必ず予定日のあることですので無期限に安静が持続するわけではありません。


切迫早産治療薬

 切迫早産の治療薬は子宮収縮を抑制する目的で子宮筋弛緩剤が用いられます。代表的な子宮筋弛緩剤はβ-stimulantと呼ばれる薬剤ですが、その他に時には硫酸マグネシウムとインドメタシンが用いられます。

β-stimulant
 β-stimulantとして塩酸リトドリン(ウテメリンなど)、塩酸イソクスプリン(ズファジラン)、硫酸テルブタリン(ブリカニール)が用いられますが、第一選択薬として塩酸リトドリンが用いられます。その理由として選択的に子宮筋を弛緩させるためです。塩酸リトドリンの子宮収縮抑制作用は塩酸イソクスプリン、硫酸テルブタリンのそれと比較してはるかに有効です。従って妊娠16週以降に塩酸リトドリンを用いずに塩酸イソクスプリンや硫酸テルブタリンを用いることは原則としてありません。

塩酸リトドリン製品
 代表的な薬剤名はウテメリン(キッセイ薬品)ですが、その他にウテゾール、ルテオニン、ウテメナールなどがあります。流産・早産治療薬としては必須の治療薬です。 塩酸リトドリンの用法・用量・適応 妊娠16週以降の切迫流産、切迫早産患者が適応です。内服の場合は、錠剤が1錠が5mgで1回1錠、1日3回服用が基本です。外来治療を主とした比較的軽症の切迫流産、切迫早産に用いられます。
 注射薬は緊急な治療を要する切迫流産、切迫早産患者が適応です。1A(アンプル)が5mlで50mgの塩酸リトドリンを含みます。1Aを500mlの5%ブドウ糖で希釈し、持続点滴を行います。50μg/mim(30ml/h)で開始し、子宮収縮が抑制されない場合には200μg/mim(120ml/h)を上限として注入量を増やします。子宮収縮が抑制されたときには適宜減量します。
 塩酸リトドリンは非常に有効な子宮収縮抑制剤です。すなわち用量が多ければ多いほど効果を発揮します。しかし上限を超えて投与してもその効果には制限があります。すなわち一定以上に強い子宮収縮(陣痛)は抑制が不可能で早産が避けられないことになります。

塩酸リトドリンの副作用
 内服薬:動悸、頻脈、手指振戦、嘔気など。ドキドキと脈が速くなり、手がふるえて吐き気がすることがあります。この副作用が強くて一部の患者さんは服用できないこともあります。服用が続くとこのような副作用は軽快する場合もあります。
 注射薬:内服薬と同様に動悸、頻脈、手指振戦、嘔気などの副作用があるために多量の点滴ができない場合もあります。最大の副作用は肺水腫です。肺水腫とは肺に水がたまる状態ですので、激しい呼吸困難を訴えます。輸液量が多くなると肺水腫の危険性が高まり危険なために、投与量が多くなる場合には高濃度の塩酸リトドリンの点滴を行い輸液量自体は少なくします。しかし、上限用量以内ならばほとんど問題になりません。
 その他に肝障害、発疹、血管痛、尿糖変動、上室性頻拍、CPKの上昇などがあります。日常診療でほとんど経験されない極めてまれな副作用としては横紋筋融解症、無顆粒球症、新生児腸閉塞などがあります。

塩酸リトドリンの禁忌
 強度の子宮出血、子癇、前期破水例のうち子宮内感染を合併する症例、常位胎盤早期剥離、子宮内胎児死亡、その他妊娠の継続が危険と判断される患者、重篤な甲状腺機能亢進症・高血圧症・心疾患・糖尿病・肺高血圧症。妊娠16週未満の妊婦。本剤に重篤な過敏症。

硫酸マグネシウム
 硫酸マグネシウム製品としてはマグネゾール(鳥居薬品)が販売されています。1Aが20mlで硫酸マグネシウムが2g含まれています。マグネシウムイオンが神経末端でアセチルコリンの放出を抑制するために子宮筋の収縮を抑制します。
 切迫早産の治療の第一選択薬として使用されることはありません。何らかの理由で塩酸リトドリンが使用できない患者さん(たとえば頻脈を伴う甲状腺機能亢進症の患者さんなど)に使用されます。あるいは、塩酸リトドリンの投与上限量に達しても、さらに子宮収縮を抑制しなければならないときに塩酸リトドリンと併用して使用されます。 副作用としては高マグネシウム血症、低カルシウム血症、呼吸抑制、筋緊張低下、血圧低下、熱感、口渇などがあります。

インドメタシン
 インドメタシン製品としてはインダシン(萬有製薬)、インテバン(住友製薬)、イドメシン(興和製薬)など多数販売されています。インドメタシンは子宮筋の収縮作用を有するプロスタグランジンの合成を阻害することによって子宮収縮を抑制します。 切迫早産の治療の第一選択薬として使用されることはありません。塩酸リトドリンの補助療法として使用されることがあります。25mgあるいは50mgの坐薬を頓用として使用されます。胎児の動脈管の早期閉鎖を起こすことがあるために多量には使用されません。早産を防止するために緊急避難的に使用されることが多いです。 副作用としてはショック、アレルギー、消化性潰瘍、血小板減少などです。


早産児の予後

 塩酸リトドリンは有効な早産治療薬ですが、早産を完全に防止できるわけではありません。問題となるのは早産といっても妊娠22週から36週まであるために、早産週数が児の予後に大きく関係してきます。
 一般論として妊娠24週以前の出生児の予後は極めて不良です。妊娠28週に達すると生存率が飛躍的に向上しますが、生存例の一部には知的障害や運動障害などを伴う例もあります。しかし、妊娠34週に達すると正期産児と変わらない予後が期待されます。

切迫早産の治療目標
 早産児の予後の改善のために切迫早産の治療の第一目標は標準発育体重が1000gに達する27〜28週、第二目標を1500gになる30週、第三目標は胎児の呼吸管理が避けられる確率の高い34〜35週とします。最終目標は胎児の体重が2500g以上に達する妊娠36週とすべきです。

第一目標 妊娠28週(1000g) 網膜症の確率減
第二目標 妊娠30週(1500g) 脳性麻痺の確率減
第三目標 妊娠34週(2000g) 呼吸器系統の問題
最終目標 妊娠36週(2500g) OK