「昔(むかし)の話さ」は、植地浩志(うえちひろし)の「ショートストーリー」です。
昔(むかし)の話さ
■フィクションです。■
やめろっ!やめるんだっ!!わたしは、無意識の内に、彼女が自らの手首に、あてていたカミソリの刃を、手首を強く握(にぎ)りしめて、”バスタブ”の中に、落とさせた。
”かおり”は、昨夜の晩に、ころがりこんできた25才になったばかりのOLだった。
”かおり”は、わたしを、見据(みす)えると、泣き声(なきごえ)まじりの声で言った。「死なせてっ!お願いっ!」
わたしは、強引(ごういん)に、”かおり”を、バスタブから、引き出して、ため息まじりに、言いはなった。
「死ぬなんざぁ、いつだってできるさ。」
「それに、おまえ(”かおり”のこと)が、死んだって世の中、なーんにも、かわりゃあ、しないんだぜ・・・。」
”かおり”は、わたしの言葉を聞いて、泣き崩(くず)れた。
「どうしてっ!? どうして、ワタシを死なせてくれないのっ!?」
わたしは、落ち着きはらって、”かおり”に、言いはなった。
「死ぬんなら、よそでやってくれ。」
・・・・・
”かおり”は、衣服を着たままでバスタブの中で、”リスカ”(リストカット)を、行い、死のうとしていたのだ・・・。
・・・・・
わたしは、つとめて冷たく言いはなった。
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「君が死んでも、迷惑するのは、わたしだけじゃあ、ないんだぜ。いいかげんに、しときなよな。。」
・・・・・
”かおり”は崩壊(ほうかい)したかの如(ごと)く、泣き崩(くず)れた。
わたしは、ナオンの、「その手の内(うち)」は、とっくに、読めているつもりなのだ・・・。
もっとも、ナオンの、「そんな気持ち」を軽んじるような野暮(やぼ)なオトコなどではないつもりだが。
・・・・・
そして言いはなった。
「おい・・・、化粧が、バレバレだぜ。泣くときも、綺麗(きれい)に、泣きなよな。。」
・・・・・
”かおり”の顔が、あかくなったことを、見逃(みのが)すような、わたしではないのだ。
しかし、わたしは、そんな”かおり”の顔を見詰(みつ)めるようなケチな野郎ではないツモリだ。
そして、さらに、言った
「にんげん、死んだ気になりゃー、なんだってできるんじゃあ、ないのかい?」
わたしは、さらに続けた。
・・・・・
「別に、君が死んでも、生きても、わたしには、関係のないことだけれどな。」
・・・・・
暫(しばら)くの沈黙のあと、わたしは続けた・・・。
「わたしも、死にたいと思ったことは、あるさ・・・。だから、君の気持ちが、少しは、わかるさ。。」
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・・・・・
「え!?」
振り向いた”かおり”の顔に、驚きの表情が、あきらかに、出ていた。そして、わたしに聞いた。
・・・・・
「だったら、なぜ、なぜ、生きてることが出来るのっ?! おしえてっ!」
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わたしは、タバコに、ダンヒルで、火を点(つ)けながら言いはなった。
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「ふーん。。『生きる』ってことに、いちいち、理由が必要だってのかい?うぬぼれるんじゃあ、ないぜ」
・・・!!
”かおり”は、あきらかに、動揺(どうよう)を、隠しきれずに、聞き返してきた・・・。
「どうしてっ!?どうしてなのっ!?」
・・・・・
わたしは、意識的に、更(さら)に、冷淡(れいたん)に、こたえた。
「別に、深い意味なんか、ありはしないさぁ・・・。」
・・・・・
わたしは、続けた。
「充実した”生きざま”を『気おってる奴(やつ)ら』だって、『テメーたち』で、”そんな気”になってるだけさ。いちいち、くだらねー事を聞くなよ。」
・・・・・
”かおり”は、暫(しばら)く、うなだれていたが、遂(つい)に決意したように、わたしに話しかけた。
・・・・・
「お願いっ!!生きる意味を、教えてっ!!ワタシを、抱(だ)いてっ!!」
・・・・・
わたしは、いちだんと冷たく、しかし、その中にも、暖かさを感じさせる言葉で、彼女に、言ってのけたのだ。
・・・・・
「いいさ。。別に、抱(だ)いたナオンの数の内(うち)の、”ひとり”だってことを、わすれないようにしなよ。」
・・・・・
彼女は、苦しげに、くびを振ったが、それと同時に、わたしの胸に、とびこんできた。「抱いてっ!」
・・・・・
「生きる意味を、教えてっ・・・」
・・・・・
あれから何年か経過した・・・。
彼女が、いま、どこで、どうしてるのかなんざぁ、もう、覚えてもいない・・・。
そして、ひとりごとのように、つぶやきながら、『あの時のダンヒル』で、セブンスターに、火を点(つ)けて
、紫煙(しえん)を、深々(ふかぶか)と吸い込むと、それを、くちから、少しづつはき出しながら、遠い「昔の話」を、想い出した・・・。
今夜のスコッチは、ちっとばかり、胸(むね)が痛いぜ・・・。。