1) タイトル 米同時テロ 過剰報復の誘発が狙い  
発言者 佐渡 龍已(さど りゅうき) リスク管理研究者・元陸自調査学校教官
出  典 朝日新聞 2001/09/16 「私の視点」
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◆ 米同時テロ 過剰報復の誘発が狙い ---------------
佐渡 龍已(さど りゅうき) リスク管理研究者・元陸自調査学校教官
 テロリズムとは何か。

 テロリストが狙っているのは貴方の心である。テロリストは、米国で起こした同時多発テロが世界中に報道され、世界中の人々がどのような感情を抱くかを計算している。その最終的な目標は国際的関心と国際世論の獲得なのである。

 テロリズムは、自已の信念を固守する人、ある強い信念を抱く一部の人々が、その信念を脅かされた時に不安・恐怖を感じ、権力者を追い出し、政策を変えさせるために起こす。権力者を直接的に脅すだけなく、国内外の民衆に恐怖を与えることで間接的にも権力者を脅し、そして過剰報復させて国際世論を操作し権力者に圧力をかける、という恐怖を運用するシステムである。つまり、テロリズムは「脅し」という精神的な強制行為を手段とする戦争なのだ。この戦いは人々の心を戦場とする。

 この考え方で今回の事件を解釈する。米国政府によって信念が脅かされてきたと考えている人々で構成されたテロ組織は、大統領殺害を企図するとともに、多数の市民、軍人を殺傷した。その結果、米国市民はテロリズムという戦争において、誰もが犠牲になる可能性があり、決して安全な場所ではないという大きな恐怖を感じ、見えない敵に対しての怒りの感情を高めた。

 テロリスト側の物理的攻撃は一旦は終了したかのように見える。しかし、これはテロリズムの作戦全体の第1段階にすぎない。彼らが狙いとするのは、米国民衆の世論の圧力によって、ブッシュ大統領に過剰報復させることである。すなわち米国が過剰報復することによって、事件に関係のない国家及び人々に犠牲が発生する。さらに度を越えた報復により、今度は逆に先進国以外の国々からなる国際世論が米国を非難するといった状態を形成することを狙いとする。そして最終的には、その国際世論をもって、米国の政策を変更させることが目的なのだ。

 そこで日本はどうしなければならないのか。

 小泉首相は米国の報復を支持すると表明した。これは避けなければならなかった。報復を支持するということは、日本人の血の犠牲をもいとわないという強い覚悟が必要である。日本国民にこの覚悟があるのであろうか。日本の支持表明は復讐の悪循環を促すことになり、テロリズム間題の解決にはならない。
 この悪循環を絶つために、日本政府は日本独自の方針を国内外に明示するべきだ。その方針とは、「日本は世界平和を築き上げるために努力する」というものである。このことは従来の平和を唱えるだけの政策とは異なる。方法は三つある。一つはテロリズムの発生原因の解決に寄与することである。具体的には医療援助、井戸・橋・道路・学校の建設、耕作地増設など民衆のためになる人的援助を強化することである。二つ目は、日本が間に立って話し合いの場を持つこと。三つ目は、離脱したテロリストが逃げ込める「逃れの町」の制度を作ることだ。

 脅しという手段を使い、被害者の怒りを逆手に利用するテロリズムに対して、怒りはテロリズムを助長する源である。復警によっては問題は解決しない。日本国民一人ひとりが冷静に事態を判断し、日本独自の世界平和達成に貢献する地道な道を進まなければならない。
 
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