翼面荷重による凧の設計について

                              中 川  弘

この資料は、日本凧の会会報第41号(1991年8月発行)に私が発表したペーパーをベースに
若干の修正を加えたものです。凧の本を見てそのまま作製するような場合でなければ
役に立つかと思います。

この資料では、翼面荷重が凧作りにどのように使用できるかをまとめています。
創作凧の場合、アイデアを具体化し、それに使用する材料の種類やサイズ(面材料の厚みや
骨材料の太さなど)を選ぶことになります。適度に軽く飛揚力があり、強度も一応満足できる
ものにするには、翼面荷重を計算して目安とするがよいでしょう。
私は凧作りの本を見て、それに合わせて作るのでない限り必ず翼面荷重を計算して材料を決めます。

翼面荷重は、次に示すように凧の重量を翼面積で割った式で示され、値が小さいほど軽い凧で 弱い風でも揚がるが、強度が劣り強い風には耐えられなくなります。

         翼面荷重 = 凧の重量/ 凧の翼面積 
 
立体凧の場合にも、凧の各翼面を垂直に投影した面積の合計を翼面積とすれば、同じ式が使用できます
(詳細については、広井力著「凧−空の造形」(美術出版社)を参照)。
翼面荷重の単位としては、「凧−空の造形」にも示されているように翼面積10センチ角当たりの
グラム数で示すのが一番理解し、イメージしやすいでしょう。
後で説明しますが、通常の大きさの凧の翼面荷重は、翼面積10センチ角当たり1〜2 グラム前後であり、
縦横が40センチx25センチの角凧ならば10〜20グラム前後の重量になります。
翼面荷重を設計に用いる例として次の3つの場合を説明します。
  − 創作凧で使用材料を決める
  − 凧を拡大(または縮小)する
  − 使用材料に合わせて凧の大きさを決める

1. 創作凧で使用材料を決める場合

創作凧で使用材料を決めるために翼面荷重を計算して材料を選択するには、次のデータが必要です。
 − 使用材料の重さ
 − 翼面荷重の設計目標値

表1は、主要な材料の重量をまとめたものです。

表1.主要材料の重量

種類・サイズ

重量(g/m)

竹 直径1.8 mm

2.3

竹 直径3 mm

6.8

竹 2 x 5 mm

10

ひのき 2 x 2 mm

2

ひのき 3 x 3 mm

4

ひのき 4 x 4 mm

8

ひのき 5 x 5 mm

13

ひのき 2 x 5 mm

5

ひのき 3 x 5 mm

7

ファイバーグラス 直径1 mm

1.6

ファイバーグラス 直径2.5 mm

10

ファイバーグラス 直径3 mm

14.4

ファイバーグラス 直径4 mm

25.6

表2.面材料の重量

種類・サイズ

重量(g/dm2)

和紙 (全体として)

0.1〜0.6

和紙 薄手

0.23

和紙 黒谷(号数?)

0.37

和紙 機械抄き

0.51

和紙 障子紙

0.45

和紙 色付き

0.6

タイベスク

0.5

タフトップ

0.74

ポリエチレン厚さ0.025 mm

0.22

ポリエチレン厚さ0.045 mm

0.4

布 リップストップナイロン

0.5

布 ポプリン

0.83

布 木綿ブロード

1.3


骨材料の場合、ひのき、竹およびファイバーグラスの比重はそれぞれ0.5、1および2と考えることが
できます。したがって、表にないサイズの材料でも次のように容易に推定できます。
3 mm x 7 mmの割竹は断面積が21 mm2であるから、21 g/mであり、8 mm角のひのき材なら、
断面積64 mm2の半分の数値の32 g/mということになります。
面材料の和紙については、厚さに幅があるので、いつもよく使用する紙について料理用秤などで測定して
おくと良いでしょう。
ポリエチレンについては、ごみ袋など厚さの表示がされていれば概算重量を推定でき、厚さ0.03 mmならば
0.27 g/dm2と考えられます。
私は翼面荷重を設計の目安として使用しており、通常は主要材料である骨材料と面材料のみから算出し、
接着剤、糸目糸、尾などについては無視しています。凧作りの本に出ている凧の翼面荷重をこのように
主要材料の重さから算出したものを表2に示します。
表3.凧の翼面荷重

種類・名称

出典(著者)

翼面積(dm2)

重量(g)

翼面荷重(g/dm2)

連凧レインボーブリッジ

連凧(石崎/戎)

4.9

3.8

0.78

連凧ラ・セーヌ

連凧(石崎/戎)

14

14

1.0

こま凧

和凧(大橋)

18

20

1.1

てんばた

和凧(大橋)

9.5

14

1.5

ぶか凧

和凧(大橋)

54

48

0.9

文楽凧

和凧(大橋)

23

33

0.7

駿河凧

和凧(大橋)

29

45

1.6

仙花いか

和凧(大橋)

26

37

1.4

江戸角

和凧(大橋)

49

140

2.8(注2)

古流あぶ

古流蝉ベカ(佐藤) 注1

22

80

3.6(注3)

超微風凧

創作の凧(西林)

28

16

0.58

ニシデルタNo.3

創作の凧(西林)

50

32

0.64

ぐにゃぐにゃ凧

凧、空の造形(広井)

16

10

0.6

デルタウィング

世界の凧(大橋)

78

100

1.3

コメット凧

世界の凧(大橋)

10

10

1.0

立体凧あんどん凧

世界の凧(大橋)

33

77

2.4

立体凧フレンチミリタリー

世界の凧(大橋)

33

47

1.4

立体凧トライアングル2号

立体凧(黒田)

14

31

2.2

立体凧テンション凧(四角)

立体凧(広井)

55

91

1.7

立体凧UFO凧

立体凧(広井)

34

64

1.9


    注1:別冊美術手帖「凧をつくる」の中
  注2:うなりを除く(うなり35gを含めると3.5g/dm2)
  注3:重量はうなり台を含む
なお、面材料の重さは和紙のとき0.5g/dm2、ポリシートのとき0.4g/dm2として計算しました。

この表に示す凧については0.58〜3.6 g/dm2の範囲にわたっているが、1〜2 g/dm2のものが 大多数です。通常の大きさの凧の場合には、この位の翼面荷重の中で、弱い風で揚がる 軽い凧ならば1に近づけ、強い風にも耐えるようにするならば2またはそれ以上にする のが適切でしょう。特に、立体凧の場合には、弾性の乏しいひのき材を用いることが多く、 形状的にも複雑なだけに強風には弱いので私は2 g/dm2以上を目標にすることが 多くなっています。創作凧の場合でも、通常、製作者はその使用材料について大体の考えを 持っています。すなわち、凧の種類(和凧か立体凧かなど)、大きさなどによって、凧面と骨に ついて和紙と竹、ポリエチレンシートとひのき材料、リップストップナイロンとファイバー グラス・ロッドなどの組合せのいずれかが選択されて、組合せが決まれば面材料については 選択の幅が少なく、翼面荷重の設計目標を決めるということは、主として骨材料の太さを選択 することを意味します。この場合の手順としては、次のようになります。 ステップ1.凧のデザイン、大きさを決める  ステップ2.翼面積を算出する  ステップ3.翼面荷重の設計目標を決める ステップ4.翼面積と翼面荷重から重量の目標値を決める  ステップ5.主要材料(たとえばカラーポリシートとひのき材)を決める  ステップ6.面材料の重量を算出  ステップ7.骨材料の重量の目標算出(重量の目標値から面材料重量を引く) ステップ8.骨の全長を算出する

2.凧を拡大(または縮小)する場合

凧揚げ大会で見栄えのするように大きめの凧を作る場合にも、創作凧では始めにテスト用に
通常の大きさの凧を作ってから本番用の大きさにすることがあります。このような場合に
同じ翼面荷重で拡大すると強度が落ちるので大きな凧には大きな値の翼面荷重が必要らしい
ということは経験的にわかっていたが、どのくらいの値にすればいいのかがわかりません
でした。私がこの解答を得たのは、新坂和男著「凧を科学する」()の中の「凧、昆虫、鳥の
翼面荷重」の図(関口武氏の好意によると注記されている)です。この図は翼面荷重と重量を
座標軸にした両対数の図であり、その図上に多くの凧が示されそれらが直線状に並んでいます。
翼面荷重、重量および翼面積の関係式から考えて翼面積と翼面荷重を座標軸としても両対数の
図の上で直線状に並ぶ筈であるという考えで、表3の翼面荷重のデータのほか大凧およびミニ凧
についての翼面荷重のデータ(表4および表5)を加えて図の上にプロットしたのが図1です。

     表4.大凧の翼面荷重

種類

大きさ(翼面積dm2)

重量(kg)

翼面荷重(g/dm2)

白根

7m x 5m(3,500)

25

7.1(注)

宝珠花

15m x 11m(16,500)

800

49

相模原

12.6m x 12.6m(15,876)

1,000

63

座間

10m x 10m(10,000)

560

56

浜松

3.3m x 3.3m(1,089)

10

9.2

八日市

約80畳(13,000)

250

19

鳴門

直径25m(49,000)

2,500

51

  注:白根大凧の翼面荷重7.1 g/dm2は糸目糸を含まない。
  出典:大きさと重量は美術手帖別冊「凧をつくる」の「日本の大凧」
          (広井力著)による 

表5.ミニ凧の翼面荷重

種類

大きさ(翼面積dm2)

重量(g)

翼面荷重(g/dm2)

ミニ凧

100mm x 140 mm(1.4)

0.45 g

0.65

ミニ六角

90mm x 100mm(0.71)

0.32

0.51

   注: 面材料は和紙0.2g/dm2として計算している。
   出典:大きさや骨の太さについては日本の凧の会会報35号「ミニ凧は、本当に難しいか?」
         (坂井/津村著)による

翼面荷重の分布

図1上の2点((10dm2、1g/dm2)と(1,000dm2、10g/dm2)を通る直線は、

翼面荷重の式1


        ただし、 L:翼面荷重(単位:g/dm2 )
               S:翼面積(単位:dm2 )

の線であり、平均的翼面荷重線とでも呼べるものであり、ミニ凧から大凧までの広範囲にわたって
翼面荷重がこの直線の近傍に分布しています。
この線の左上にある凧は同じ翼面積の凧としては相対的に重い凧(線から離れるほど重い)であり、
線の右下にある凧は軽い凧を示しています。
たとえば、白根の大凧は相対的に軽く、古流虻は重いことがわかります。この平均的翼面荷重線は、
面積が100倍になると翼面荷重が10倍になることを示しているが、面積が100倍ということは、縦横
方向の長さを共に10倍することと同じです。
このことから、長さを3倍にした凧を作る場合には、翼面荷重の目標値を3倍にして作るのが適切で
あることを示しています。
任意の翼面積S(dm2)の凧を平均的な重さの凧を作製する場合の翼面荷重の目標値は

翼面荷重の式2





で求められます。たとえば、縦2.8m、横2mの角凧ならば、

翼面荷重の式3

 

  g/dm2


となります。
どの位平均的翼面荷重から離れている凧が存在するかも図1と表2のデータから算出できます。たとえば、
この図の上で重い凧の代表である古流虻凧は翼面積が22 dm2で翼面荷重が3.6 g/dm2に
なっているが、この翼面積での平均的な翼面荷重は

翼面荷重の式4





と算出され、2.4倍(= 3.6/1.5)重い凧といえます。
一方、軽い凧の代表は超微風凧で翼面積28dm2に対して翼面荷重が0.58 g/dm2になっているが、
この翼面積での平均的翼面荷重は、

翼面荷重の式5





であり、この平均値に比べて1/2.9(= 0.78/1.7)の軽さです。
図1は両対数の図であり、縦軸の翼面荷重は1目盛がどこでも3.2倍になっているので大凧でもミニ凧でも
平均的翼面荷重線から離れている長さが同じであれば、同じ倍率で示されるので凧の重い軽いが一目瞭然です。
設計目標の翼面荷重を決めてからの設計手順は「1.創作凧で使用材料を決める場合」での説明と同様です。

3.使用材料に合わせて凧の大きさを決める場合

凧作りの本で使用している材料は、市販の材料が得られない、または得にくいものがあります。特に竹骨に
ついては手作りが前提でいろいろなサイズが使用されています。
このような凧作りの本を参考にして凧作り教室用の凧を決める場合に、どうしても市販の材料で作れる凧に
限定されてしまいます。しかし、もし凧の大きさを変えられるならば市販の材料を使用できる場合があります。
たとえば、1.5 mm x 3 mm の割竹は入手できないが、2 mm x 5 mm の割竹を入手できる場合には、面積を
大きくしてほぼ同程度の相対的重さを維持するようにします。

翼面積9.5 dm2、1.5 mm x 3 mm の割竹2.11 m を使って翼面荷重1.5 g/dm2の和凧の骨を
2 mm x 5 mm の割竹に変える場合を考えます。

     元の凧のデータ:
      翼面積S:9.5 dm2
         割竹(1.5 mm x 3 mm)の全長: 2.11 m 
         翼面荷重L:1.5 g/dm2
         重量W:14.25 g(= L x S = 1.5 x 9.5 、または = W1 + W2 = 9.5 + 4.75 ) 
     内訳 割竹重量W1:4.5 g/m(断面積 = 4.5 mm2)x 2.11m = 9.5 g
             凧面重量W2:0.5 g/dm2 x 9.5 dm2 = 4.75 g  

     X倍に拡大する凧のデータ: 
       翼面積S:9.5X2 dm2
         割竹(2 mm x 5 mm)の全長:2.11X m
         翼面荷重L:1.5X g/dm2
         重量W:14.25X3(=1.5X x 9.5X2 ) または= 21.1X + 4.75X2 
         内訳 割竹:10 g/m (断面積=10 mm2) x 2.11X = 21.1X g
               凧面:4.75X2

拡大した凧の重量の式
   14.25X3=21.1X + 4.75X2 から
   1425X2 - 475X - 2110 = 0 となる Xを求めればよいことになります。
解は、X = 1.4 となり、大きさを1.4倍にすると、翼面荷重を2.1 g/dm2で相対的に同じ重さの凧を
2 mm x 5 mmの割竹で作ることができます。

3つの場合の翼面荷重による凧の設計方法を説明しましたが、凧作りの際に参考にしていただければ幸いです。