◇1.ポリ容器置き場
 
「哲子様っお願い!この通りだっ」ガバッと目の前で土下座する小柄な中年男性は私の父親だ。
所は高田馬場のブルセラショップ。
時間はマジで遅刻する午前八時五秒前。
皆さん朝です!おはようございます。
 場所は不健全、シチュエーションはミステリアス、ただ時間だけが健全。
お日様も昇って今日も良い天気になりそーだっ。
だって今日私、入学式ですからっ!
私の名前は哲子。
今日から深川高校に通う女子高生。
 偉い人は言いました。花の命は短い恋せよ乙女と。
私もこれから始まる高校生活に心をときめかせましたよ、昔は。
元々うちは私が生まれた時からブルセラショップを生業としていました。
そんな訳で物心つくまで、別段何とも思ってなかった訳ですよ。
それが普通なんだと。
父からの英才教育をそれはもう、ボクシング三兄弟みたいな感じで、施されちゃいましたから。
 転機が訪れるのは、小学校に上がってから。
露骨にお友達にこう言われましたからね。
「お母さんに、ブルセラショップの子とは遊んじゃいけないって言われた!」
私の子供心をブレイクするにはその一言で十分でした。。
家に帰って私はママに泣きながら聞いたんだ。
「ブルセラショップの子と遊んじゃいけないって言われた」
ママは「仕方がないわね」と
私の頭を撫でて慰めてくれたけどー、勿論、その時ママはセーラー服姿です。
 
 私が中学に上がると、次の転機が訪れます。
うちの店は、勿論買取もやってましたが、メインは自主制作で、
つまりママがうちのブルセラショップ『ブルマオフ』の看板娘だった訳です。
 需要があるので私も幼い時から、手伝ってましたけど。
それが、私が中学生になった時に均衡が崩れてしまうのです。
 つまり、私の売り上げがママのそれを上回ってしまったと……。
「ママさんショーック」くらくらくらり。
人気商売ってのは、全くもって残酷なものですね。
 娘の私に負けたママは、笑顔で娘の成長を祝福してくれたくれたものの、
翌日、
『探さないで ママ』と書き置きを残して失踪したのでしたー。
 それ以降、今日までの約三年間は、父と娘の二人三脚で店を切り盛りしてきましたが、
都知事によるブルセラ弾圧と、顧客のリストラとのダブルパンチで、
ブルマオフの経営は火の車、閉店寸前まで追い込まれていたのでした。
そこで、父さんが私に提案したのは。
「すまんが哲子、高校で友達を百人作ってくれ。そして、制服を売ってもらうんだ、いいな?」
私だって、ちゃんと抵抗をね、したんだよ?
「高校デビューなのよ。やっと、同じ中学から行く人もいない。人間関係リセットできるのにぃ。電車通学だし、うちの商売隠し通せるまたとない機会よ」
私の力説は続く
「初めて友達が出来るかもなのに、作っても制服を売ってよって聞かなくちゃ〜なんて。あんまりだよ、父ちゃん!!」
私は泣きながらダッシュして店を飛び出した!
 二日後、お腹を空かして、私が店に帰った時には、ある程度自分の中で納得済みでした。
だって、私をここまで育ててくれたのはブルセラなんだもん。
勿論、幼少の折より、私だって協力してきたけど。
だから、決して私はブルセラを嫌いじゃない。
血は争えないってやつ?
 それに、いくら都立高校と言っても、学費は納めないとならない。
お金が必要。
今日日高校くらいは卒業しておきたい。
 とてつもない大きな溜息を連発したけど、そうして私はブルセラショップに帰ってきたのでした。
店内に居たお客に愛想を振りまきつつ、そそくさと私はカウンター奥の居住スペースに戻ったのだ。
 んで、冒頭のシーンに戻る。
頭では、納得していても、素直に
「行ってきます」なんてさわやかに店を出られるわけ無い。
そのくらいの癇癪は大目に見ていただきたい!!
でも、そう。
素直に出ておけば、あんな事態には……。
 私の、ゴネる様を見て危惧したお父ちゃんは、私の背中に貼り紙をしたんすよ。
これから朝ラッシュの電車に乗って通学する私の背中にですよ!?
もうホント信じらんない!!!
 
 高田馬場の駅から深川高校の最寄り駅である東陽町駅までは、地下鉄東西線一本。
最も混雑する区間は反対方向(B線)なので、比較的優雅に通学が可能。
これから三年間”痛”学とはならないのは、嬉しいよ。
 初めての電車通学、大手町を過ぎた頃から、同じ制服の生徒も車内に目立ってくる。
「来た来たキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!」と興奮を押さえれない私。
周りも私の方を指さしたりなんかして、なんかヒソヒソ話。
みんなも同じ制服見つけて興奮してるんだね、きっと。
 そうこうしているうちに電車は東陽町駅のホームに到着する。
うむ、ずっと地下区間なので外の風景を楽しめないのがちと残念かななんて思いつつ、
でも、つり革を放した瞬間からそんな些細なこと、頭からふっ飛ばし、ついでに懸案である制服の仕入れのことなんかも忘れてみた。
 それなのにー、
「あなた、制服に興味がない?」
「えっ?」
振り返るとそこには、金髪の女の人が立ってた。
 電車から下車した瞬間、東陽町駅のプラット・ホームでの出来事。
階段近くのドアから降りたので、周りから階段への人の流れが私たちを避けて通る。
ちょっぴり通行の邪魔してる。
 やがて、ホームから人が階段に吸いこまれ、次の電車がやってくるまでの刹那、
金髪さんは、私に向かってこう言ったのでした。
「付いてきて」ポンと私の肩を叩き、先を行く。
えっ?えっ?
エスカレーターに後追いで乗っかると
「だって、私はこれから入学式なんですよ!」無理ですそんな。
 
 この時私は付いて行ったのではなく、どうせ駅から出るんだし、途中まで。
そう、偶々道が一緒だったんですから、ただそれだけなんです。
 その時、上から風が吹き抜けて、お姉さんの金髪がふわっと。
わーお。何でスローモーション再生何巣か、止めてよ。
髪に手をやる姿に心がときめいた。
あれ?
「同じ制服」
そう、お姉さんは白衣の下には私と同じ深川高校の制服を身につけた先輩でした。
「あなた背中にこんなの付いてるよ?」
ビッと、横向かされた私の背中から何かがはがされる感覚。
「痛っ」髪の毛も一緒に数本抜けました。
「あっごめん」
「はい、これ」と手渡された紙に目をやると。
「制服買います ブルマオフ」
軽く意識が遠のきましたー。
 固まっている私を、心配したお姉さんがのぞき込む。
「気分悪い?」
「えっはい。いや、大丈夫ですよ」。」
混乱した頭の中で、あれ、これは超終わっちゃったかなー、それともまだセーフ?と計算してみる。
不思議と父ちゃんに対する殺意はこの時点では皆無で。
脂汗ダラダラで固まっている私の横で、
「入学式は出ないと駄目、だよね〜」う〜んと、猫みたいなの口して、そこに指を当て考えるお姉さん。
何か閃いたみたい。ぽんと平手をグー横で打ち。
「入学式を録画しておいて上げるから、それをあなた後で見れば」
これで決まりだね〜的な。キャッホー。
私の口から溜息がモレキタス。
まぁ、ぶっちゃけどうでもいいかな、入学式。
出だしから?秘密がバレたし。
仮にだよ学校の廊下でお姉さんと出くわしたて
「あっ制服を買いますの人だ」とか挨拶されたら、それで私の秘密はバレる訳だし。
 取り敢えず、駅から出ると、ルンルン先を行く金髪のお姉さんの後ろを、私はトボトボ、ついて行きました。口止め出来るかなぁと考えつつね。
「あっマック」
どうやら最初から学校とは逆の方向。
「ん?君はお腹が空いてる?朝食は食べてきた?」
お姉さんはそういって振り向くと。
胸に手を当て、私に自己紹介してくれた。
「私は園子」
ニコニコ返事を待っている。
「哲子です」
「哲子ちゃんか〜、哲子ちゃんね〜」と口に馴染ませるように繰り返す。
ごきげん指数がプチ・アップしたように見える。
園子さんの後を私は、相変わらずトボトボ付いて行った。
 私にも変化があったかな。視野がわずかに上昇したかもしれないな。
名前覚えるの苦手な私。
メモした方が良いかな、とかとか考えながら、トボトボ歩く。
角を数回曲がり、車に注意して、横断歩道の無い場所で渡ると。
「着いたーここ」と。園子さんが、私に向かって宣言したのであります。
「ここが」私は、ここがどんなところか理解しないまま、取り敢えず扉の文字を音読していた!
「ポリ容器置き場」
「ポリ容器置き場へようこそ〜哲子ちゃん」
「歓迎するわ」と言いながら、ドアノブを引っ張り私を内部へ入れようとする。
中は、どうやらこの建物のゴミ捨て場の様ですが……。
 この時の私には、全力ダッシュして逃げるという選択も十分可能でした。
ただ、元々実家がすこぶる怪しいので、怪しさセンサーが麻痺していたので、私はなんと素直に園子さんの後に続いて扉の中に入ったのです。
 後ろで戸が閉まる。ガシャーン。
中は、ゴミのなんだか甘ったるいスメルが充満している。
思わず、手で鼻を覆いつつ。
「ほほに制服が?」
「無いよ、ちょっと我慢してね、征服があるのはここの先」
奥?
園子さんが、カードキーをのっぺらぼうのスイッチみたいな所にかざし、二言三言合い言葉を述べると、宇宙船のような開き方で、壁が割れて行くではないすか。
穴の向こうはスモークと光が満ちあふれ、スモークが今開いた壁穴から床伝いにあふれ出している。
「我々のアジト、ポリ容器置き場へようこそ!哲子」
 
 地下に続く謎の階段、ドアの開き方から、私は、
台風が来た時に感じる様な高揚感を感じていた。
 園子さんに続き、スモーク漂う足元に気をつけながら階段を下りていく。
そこがどんな地下室でも、ゴミ置き場に居るよりはマシじゃない!
 私が、カーブしながら下っていく階段を、手すりに掴まりながら慎重に降りだすと、
後ろでは静かにSFじみたドアが閉じた様だ。
階段は薄暗かったが、元々ゴミ捨て場が、コンクリート打ちっ放し、蛍光灯に換気扇だった所為もあり、目は割と順応していた。
 
 階段を下りきると、そこには一般的なスチールの扉と、玄関マットが敷いてある。
園子さんがドアノブに手をかけてドアを引き開けると、カランカランとベルの音が地下に響いた。
 私がおそるおそる中に入ると、そこには地下ながら、快適そうな居住空間が拡がっていた。
コンビニのように明るい照明に空気清浄機が二台、床はフローリング張りで、白い清潔感の感じられるカウンター席が目に飛び込んでくる。
 カウンターの向こうには、にこやかに微笑むピンク髪の少女が一人。
髪にはにヒマワリを咲かせてる。
私が軽く会釈すると、にこやかに手なんぞ振ってくれた。
 園子さんが入り口を左に折れたので、そちらに視線を移す。
観葉植物の影にもう一人、ノートパソコンを開けて、椅子に腰掛けている、おかっぱの女の子が確認できた。
「ちょっと園子。あんたまた…」
バツの悪そうな園子先輩。
おかっぱのその人は、
「はぁ」やや大げさに溜息をもらすと
チラッと私に視線を向けた。
私は、どもっと、また軽く会釈を。
だが、ノーリアクションで、パソコンの画面を眺める彼女。
 と、取り敢えず。
そこにかけててと、カウンターの椅子を指示され、私はそこに座る。
「お茶と珈琲どっちにする?」
頭にヒマワリを咲かせたピンクのロングヘア、褐色の肌に白ビキニという、一回りしてしてこの地下空間に相応しいのかも知れないと思ってしまう様な、南国風の女の子が私にそう問いかける。
「お茶で」お願いします。
取り敢えずお茶にした。
どっちにしても、味わって飲めるわきゃないし。
「この子は違うんよ」
「どこが?」
「制服が得意なんだよなっ哲子ちゃん?」と唐突に私に話を振られた。
「ええ、制服には一応詳しいですが?」と作り笑いして答えると。
「あらっ」とその一言で、それなら話は違うと言いたげに納得してる、おかっぱさん。
トロピカルな彼女がにこやかに私にお茶を差し出してくれた。ジャワティーかな?
 ホッと一息ついた園子さんは、眼鏡を取って、それをハンカチで拭くと、、
「イクルミちゃん、私もお茶欲しいな」
「はいなー」こぽこぽこぽ。
「取り敢えずこれで落ち着いて話せそう」と私にニカッと笑って見せてた。
 少しするとトロピカルなイクルミちゃんが新しく四人分の飲み物とクッキーを用意してくれた。
「制服に詳しければ、問題がないのはー」園子さんが、ストレートティーで喉を潤してから話しだす
「ここが征服をする所だからです」
おかっぱさんとイクルミちゃんもウンウンとは頷いている。
けど私はなにがなにやらーである。
制服するってなんだろ。
「コスプレですか?」
「あーそうじゃなくてね」
「我々はテロリストです」
はっ?テロリストなの?ユー達は。
指さしてそう確認する私に、トロピーな彼女は優しくうなずいた。
正直私は軽く涙していたよ。
「あはは」
 
 「で、私をどうするつもりですか?家は貧乏ですけど」
「身代金なんて取らないわよ」おかっぱのテロリストが言った
「だってうちお金持ちだもん」
園子さんとイクルミちゃんがおかっぱのお金持ちさんの肩と腕をマッサージしている。
「あのう、あなたは?」
「あぁ、私はみかか。そっちのピンク髪の子ががイクルミ」
「ど、どうも。哲子です」
 部屋を見回すと、コンクリート打ち付けの部屋で窓こそ無いものの、空気清浄機や大型プラズマディスプレーなど、そこはかとなく金のにおいが。
少なくともうちよりは全然!
「まぁ、なら何です?何を征服?日本を?」
「惜しいっ我々は東陽町を深川から解放しようとしてるの」とみかかさんが説明った。
ここから、園子さんの演説が始まる。
「東陽町は深川に征服されている」終了。短っっ。
「っていうか、ここって深川なの?深川って門前仲町とかなんじゃ」と高校から東陽町デビューの私は率直な質問をクッキーを口に放りこんでからしてしまった。
 どよめきがわき起こる。
マジか!?
三人の意見のすり合わせが終了した様だ。再開する。
「これを見て欲しい」みかかさんの提案である、地図を見る。
「深川郵便局に深川車庫、深川高校。あっこの銀行は深川支店ですね」
「そう、深川に占領されている事が解っていただけかしら?」
そこで紅茶を優雅に飲んだみかかは「おーほっほっほ」と勝ち誇って笑った。
その高笑いに、何故か協調して笑うイクルミちゃん。
「それが我々の活動目標ね、あなた手伝いなさい!哲子」と私をここに連れてきた張本人である園子さんが言う。
「何で私が?」私がそう言い捨てたのも至極真っ当であろう。
こんなやばい事に、足を突っ込まないとならないのだろうと。
聞いちゃったけどさ、計画…。
 あぁ、もう生きては帰れずに、ポリ容器置き場でコンクリ詰めにされ、
東京湾に沈められる運命なんだろうか。
お父さん親不孝な娘をお許し下さい。
等とオヤジの顔が思い浮かんだ刹那、朝の仕打ちが怒りとなって私を急襲した、全身駆け巡ったのだ。
「まぁ、一応仮入部?ってことで」小さく手を挙げて私がそう言うと。
「おおっ」どよめきが三人からわき起る。
 まだ朝の九時過ぎのはず、朝からする話じゃないと思うものの、
この部屋は地下だから窓がないし。
いや、ゴミ捨て場の奥の地下か。核シェルターにでもなってんのかなぁ?
「じゃぁ、固めの杯にあれを出すわ」と園子さんが。
何故か他の二人から笑顔が消えて、どんよ〜りしている。
「あれ?」
「約束の朝食よ〜。腕によりかけちゃうんだから」
「それってこのクッキーじゃないんですか?」一枚更につまんで聞いてみる。
「それよりもっといいもの(はぁと)」と悪戯なほほえみを湛えながら、
園子さんは奥に消えて行った。
 園子さんにもさっき会ったばかりの私だが、更に今初遭遇な二人と残されてしまった、どうしよう。
園子さんが見ていない所で、何されるか解らないのである。再び緊張する。
 所が二人とも、私など殆ど眼中になく、各々、バケツだの、舌の味を感じない部位の確認に余念のない様子。
よく解らないが、私はそれをぼんやり眺めつつ
ひたすら園子さんの戻ってくるのを待つのだった。
 
 「お待たせゴメン」と戻ってきた園子さんの手にはお盆、その上に謎の料理を装ったお皿が乗っていた。
「何故割烹着?」
「えへへ、似合うでしょ〜」
「ええ、似合ってますけど」あんたさっきまで制服着てたじゃん。
 私の目の前に出された料理は何?
悩む必要もなく説明がなされたのでそれを引用してお伝えすると、
この料理は「東陽ライス」という名前らしい。
んで、見た目白いのがヨーグルト
スプーンでかっぽじると中にはあさりあさりあさり!
そして申し訳程度にお米!である。
「私思ったのよ、深川めしがあるのに東陽町にそれに対抗する”めし”がないと、
東陽町が独立に成功した時困るじゃない!!」
「深川めしをそのまま東陽ライスに名前だけ換えて済ます事も出来るけどそれじゃあまりに芸が無いでしょ」
「あさりが深川めしの売りなら、いっそのことあさりとご飯の割合を思いっきり逆転させる発想の転換が凄い!」
これはライスと言うよりあさり。
うわぁ、向かいの面々が、あぁ、また犠牲者が増えたというような気の毒そうな眼でこっち見てる。
少しは同情してくれているのだろうか。
二人とも、勿論東陽ライスに手を付けてない。
 ジーッと園子さんが私を見てるし、前の二人もそれに便乗する形で私を見ている。
 これは、どうやら私が最初の犠牲者らしい。
逃げ道はないのか。選択肢出ろ出ろ!
「あれぇ、哲子はあさり嫌い?」選択肢はまだなの〜〜。
軽く頭を抱える私。
好きとか嫌いとか言うレベルではないのですよ……。
物には限度という物があると思うのだが。
「あさりは、別に嫌いじゃないんですけど。特別に好きという訳でも」
そう言いながら弱含みで笑ってみせる私は立派でしょ?
あうぅう。
一縷の望みではあるが、食べず嫌いの可能性もあるなと、自分を鼓舞する。
空腹とかその辺の助けも借り、私は一口ぱくりと口に運んでみた。
「どう?お・い・し・い」
無言でコクコク頷いて、お茶で流し込んだ。
 え?まだなの?もう一口っすか?
味わってレビューらないと駄目なのだろうか?
どこまで拷問は続くの?神様あんまりです!
えいやっとう。パクリ。もふもふもふ、じわり。
 「ええ、とってもドリーミーでワンダーなお味がエクセレントな感じぃ」
笑顔で泣きながらそう言う私。
「でしょでしょ♪」
「しいて言えばあさりっぽいというか」
「うんうん」
「あさり」そこで私の記憶はとぎれる。限界だって。
 そういえばイクルミちゃんは東陽ライスが大好物なんだっけ。
バクバク食べたらしいからなぁ。
これが蓼食う虫も好き好きってやつだろうか?あり得ません。
 どうやら、これで私も”晴れて”秘密結社の仲間入り果たせたみたい。
あれだけのものを食べたのだから、そのくらいの見返りは当然という気がする。
「これ」と、机の上の私の目の前にみかかさんが、ガジェットを私に支給してくれた。
「ケータイ??」私もケータイくらい持っているのに、どうして?
「我々の活動に必須のアイテムだから常に携帯なさい」そういう事らしい。
スパイ道具?
その多機能ケータイとやらを手にとってその二つ折りを開ようとすると
「危ないっ」とイクルミちゃんに凄い剣幕で止められる。
爆発でもするの?組織が組織だけにおっかなびっくりですよ。
イクルミちゃんは私の隣にやってきて
「爆発はしないけどねっ」とボタンを押してケータイをパカッと開いてニコニコご満悦なんだわ。
 後から知ったのだが、ワンプッシュオープンはPの伝統であったらしい。
っていうか、これってパナ製なの?
 ポリ容器置き場は、マンションの横の路地に面していて、一応正面は街の電器屋さんパナソニックのお店!AV東陽になっているのさっ。
AVをアダルトビデオの略称だと勘違いする人が後を絶たず、改称を常日頃から検討しているらしい。
 
 その入学式の日から私は、家に帰っても店手伝わされるだけだしね。
学校が終わると、ほど近いアジトに詰めるのが日課になった。
私としては課外部活動みたいな軽い感じでね、参加してたって訳。
「こういうのも友だちって言えるのかなぁ」なんてにやにやしながらポリ容器置き場に通っていたんだね。
 「コーラにホットコーヒーに緑茶ですね」
新入りの私の役割は、要するに使い走りである。
 アジトには立派じゃないけど、それなりの給湯設備や冷蔵庫が備わっているのに、
どーして自販機へお使いなんて行かなきゃならないのだろう?
先輩方に言わせると
「これも修行だから!」修行らしい。
一体何の修行?修行者が理解して無くて果たして修行になっているのだろうか?
 一度いつも飲むの同じなら、ペットボトルで買ってきて小出しにした方がお得だと思って西友で買ってきてみたら烈火のごとく怒られた
 無言で叩かれた?気が抜けるとか、運が悪い?とか言う理由でね
取り敢えず、割高だけど自販機で買わないといけないって事。
 実は、東陽町にある伊藤園の自販機は、アジトへの秘密の入り口になっていた。
新入りの哲子が、お使いに出されていたのは、自販機を秘密通路として開くためのボタン操作を体で覚えさせるためだったのだ。
 ホットコーヒーと緑茶とドクターペッパー。
この三つと最後に哲子が自分で飲む用の水を押すと。自販機は補給するための奥の扉が開く。
そこから地下へと繋がるチューブを滑り抜けることによって、地下アジトへの帰還が可能なのだ。
 
 「まずあんたにはっ!聞いてる哲子?このケータイの使い方を習熟して貰う必要があるからねっ」先輩の園子さんが熱弁をふるう。
今後は園子さんの事を先輩と呼称しますね。
「習熟も何も、ケータイくらい。いくらうちが貧乏でも私も持ってますよ、ほら」
そう私が言い放つと
「甘い!これはただのケータイじゃないんだからね!」
「何度言ったら解るの、このあんぽんたん」
と私にねじり寄ってくる。ひっつかないでっ!
「解りました、教えて下さい」
「素直で宜しい!それじゃ、外に訓練しに行くよ〜」
「あっハイ」
「と言うわけで、ちょっと出てくるから」
「いってらっしゃい」イクルミちゃんがそう言って見送ってくれる。
「あぁっお茶飲みかけ」
私は冷めたお茶を一気飲みして
「ごちそうさま〜」と言い残して、先に出た先輩を追っかけてアジトを飛び出した。
 
さて、私は実地訓練に出かけたのだが、その日は空振りであった。
どれだけ探しても、敵に出会わなかった。そういう日もある。
「ううむ、やっぱり夜じゃなきゃ駄目かもね。哲子は夜遅くなっても大丈夫?」
「はぁ、終電間に合えば」
「オッケー!オッケー!」と言った感じで、その日はいったんアジトに戻ってから、西友に行って食材を買ってきてアジトで自炊をした。
というか、私が一人で作ったんですがね。
「カレー」リクエスト主が、イクルミちゃんなのでーそこに、他意は存在しないと思います。
「いただきまーす」
みかかさんは出されたものは文句なく食べるタイプですね。
先輩はスプーンを口にくわえる様子が可愛い。
 流石はパナソニックのお店にあるアジトです、パナホーム?パナアジトか。
金回りが良く、ここには食器洗い乾燥機も完備されてあったので、おっかなびっくりそれを使うのも新鮮でした。
勿論、洗濯乾燥機も完備、ドラム式である、がタイムマシンではないですね。
「洗濯機の中に入るの嫌だし」先輩とみかかさんにシンクロで駄目出しされた。
「タイムマシンはこれで」ペチペチとケータイを示す先輩。
「えっ?」
「そのうち説明するけど、このケータイはタイムトラベル?時間を遡る事も出来るのよ。未来には行った時無いけど、行けるね?」
無言で頷くみかかさん。
「スゴイ科学力ですね」私はマジマジ自分に支給されたケータイを見つめた。
「うん」
「まぁね〜」この時私はまだ、タイムトラベルにいかに苦しい目に合わされるか思ってもいない訳だけど。
だって先輩達、机の引き出しからタイムマシーンに乗りたいとか、意味が無いとかそんな冗談言いあってんだもん!
 お腹がこなれると、みかかさんをアジトに残して、私と先輩とイクルミちゃんの三人でいよいよ夜のパトロールというか、適当な敵を見つけて私にケータイの使い方を訓練しちゃおう作戦決行の運びとなったのでした。
 三人で夜の東陽町を歩いていると、昼間とは打ってかわり、すぐターゲットと遭遇した。
「えっあれ、なんですかあれはっ」私は驚いた。
だって見た事無いもの、あんなの!
「あれを我々は雑魚と呼んでる」先輩が答えてくれる。
そいつらは、夜闇に紛れていて、はっきりとした姿を確認できないけど、頭からボロきれを被った人間風。
足元は真っ暗だからひょっとしたら幽霊かも。
「でも、どうして見えるようになったの?今まで見た事無いですよ!あたしあんなの!?」
「説明するのはこいつらを片付けてからねっ」
先輩とイクルミちゃんは戦闘姿勢に入った。
二人ともケータイを手に持って身構えている。
「哲子はそこで見ててっ」ウインクしてそう先輩が言うと、まずはイクルミちゃんが仕掛けた。 
イクルミちゃんがケータイのアンテナを勢いよく引き出すと、アンテナの先端部がバスケットボール大に肥大し、それをぽわんぽわんと振り回し中距離から敵をビシバシと押しつぶしていく。
本当に雑魚のようでその一撃で敵は潰されて消えて行く。
三体撃破し残りは一体。
イクルミちゃんが踊りながら景気よく、うごめく敵を潰している最中に、先輩は肩から提げていた黒くて大きい鞄のファスナーを開け、なにやら組み立てはじめた。
 戦闘中にこんなに準備に時間かけてなにやってんのかしらと、横で佇んでいる私。
「組み立て完了」
先輩が満面の笑みを見せる。
そこには、古風なカメラが。
「これで敵の魂を吸う」
「これって、写るまでに時間がかかるのでは?」
「あ〜その辺は改良してあるから大丈夫。見てて」
そういうと、先輩はカメラの暗幕の中に潜り込む。
まるで漆黒の獅子舞のような姿になった。時を置かず、手だけ出てくる。その手にはシャッターが握られていた。
ボフッと、連射の効かないフラッシュが焚かれると、確かに写真に写る場所にいた敵が消失している。
「ほえぇ〜」
前方の的に集中すれば良くなったイクルミちゃんは、程なく残りを綺麗に一掃した。。
「お疲れ」
「おつかれさまです」
そう言い合いつつハイタッチを交わす、先輩とイクルミちゃん。
カッコイイ。目の前で展開された初めて見る戦いに私は眼をパチクリさせつつ、何もしてないんだけど、ハイタッチに加わった。
 
 「どうだった?」先輩に感想を聞かれた私は。
「凄かったです、私に出来るでしょうか。私運動神経悪いし、カメラとか組み立てるの大変そう」
率直にそう述べると。
「イクルミちゃんがやっていたのは私も出来ないから。あれは個人の特殊技能」
ピースするイクルミちゃん。
「それじゃ、私は先輩みたいにカメラマンになるの?」
「そういうことになるな。でも、安心して。これ使えばいいからさ」
そういって、ケータイ端末を指し示す。
「支給されたケータイ?」
「そう、カメラ付きケータイ」
「これで良いんだぁ、でも、じゃぁなんで先輩はそのカメラを使ったの?」
「あ〜あれは趣味?」
「博士はいつも新人が入ってくるとそれ使うよね」
二人で笑っている。
私も釣られて笑いつつ、ケータイを握りしめる。
その時の私は、胸の高鳴りを感じていた。
あぁ、私も試してみたいってね、うずうずと。
「どうするの?」アジトからモニターしていたみかかさんからの通信です。
「そうね、今のじゃ腹ごなしにもならないし、次探してそれで今日は帰るって事で」
「気をぬきなさんな」
「了解」通信終了すると、私たちは、次の獲物を探しその場を後にした。。
 敵を押しつぶした場所を通り抜けたけど、それっぽい痕跡は何も残ってなかった。
戦闘も時間にして二三分くらいじゃなかったかしら。
 歩きながら先輩が言った。
「さっきも言ったけど哲子は私みたいに敵を写真に撮って退治する」
「ただ敵を写真に撮ればいいんですか?」
「そう」
それくらいなら私にも出来そうだ。
「さっきの奴らはなんなんですか?それと、イクルミちゃんがやっていたのは」
「奴らはフカガワの刺客だ、東陽町の独立を目指すうちらを始末するためにうごめいてんのサ」
「博士」とイクルミちゃんが先輩に声をかける。
敵と遭遇したようだ。
さっきと同じ『雑魚』だ。
 今回もイクルミちゃんが凶悪バスケットボールボンボンで突撃していったが、ちゃんと私用に一匹獲物を残すことを忘れていなかった。
「パシャリ」
私はケータイでそいつを写真に撮って”倒した”
「経験値とか」
「戦闘終了!哲子の経験値は1あがった」
「うへぇ、たった1ですか」
「おつかれさん」
 帰り歩きながら、私は質問を続けた。
だって聞きたい事がいっぱいだから。
「奴らの攻撃方法って何ですか?」
「何だっけなぁ」
まさか、今考えてるんじゃないでしょうね。
「だって、攻撃されたこと無いもの」
イクルミちゃんが先輩の変わりに答えてくれた。
「ぺちょって、ひっついてきてチョー気持ち悪いの」
「イクルミ露出多い格好だもんな」
「それは嫌ですね」納得。
「で、写真に撮ったこいつらはどうするんですか?」
「アジトに戻ったらーP2Pで流す」
非常に今風で安易な方法だなぁと思ったのは秘密、だって私は下っ端ですので。
 その様にして、私たちはアジトに戻り、そしてそこにみかかさんが居てくれた訳だが、温かいお茶の用意とかは特になく、私はまだ終電には余裕がありましたが、その日はそこまでにして、電車に乗り帰宅の途についたのでした。
 
◇2.みかかの忠告
 学校が終わると私は寄り道せずまっすぐにに、アジト・ポリ容器置き場へと向かう。
「失礼します。あっ」
珍しいことにその日アジトにはみかかさんしか居なかった。
 アジトの付属品のよーであり、学校に通っているとも思えない(ニート?)イクルミちゃんが、給湯室にもトイレにもポリベールの中にも見当たらないのだ。
そして、先輩もまだ来ていない。
 
 このアジトには必然的に私とみかかさんしか居ないと言うことにー。
「二人きりだね」
背筋がゾクッとするようなことをみかかさんがおっしゃる。
私はこの人と二人きりになる事がそういえば初めてで、こう言っちゃ何なんですけど、
なんとなくで苦手な人っぽいなぁと。
元々人間関係全般苦手なんですけどね、私。
「お茶煎れますねぇ」
私が雑事に逃れたのを誰が責められましょう。
 
 みかかさんの机には、既にカップが置いてあった、自分で淹れたのかしら。
ついでに私は手洗いとうがいを済ます。
「ちょっと」みかかさんの声。
「はい?」
「良い機会だからあなたに忠告しておきたいの」
 薄暗いアジトの中で、みかかさんが不敵な笑みを浮かべ手招きしている。
これはもう、行かない訳にいくまい。
「お話って、何ですか?」恐る恐る私がそう聞くと。
「あなた、死ぬわね」
「えっ」固まる私。
しばしの沈黙が場を支配する。
私は金縛りが溶けると、取り敢えず
「そりゃー、いずれはー寿命とかで?」
「言い方が悪かった、あなた殺されるよ、園子に」
「ええっ!?私が先輩に!?」ガーーン。
 
 「あいつは昔から気に入った女の子をここに連れてきては、まぁ、大抵の子はすぐに逃げ出すんだけど、そうじゃないと、あいつに殺されるんだから」
私の煎れたお茶を飲みつつそう言うみかかさん。
「冗談は良子さん」
「現実よ。現にイクルミは園子に殺された」
「えと、イクルミちゃんは生きているのでは」
「あれはイクルミに似せたものよ、私のイクルミを返してっ」
それだけ言うと、みかかさんは押し黙ってしまった。
呆然と立ちつくす私。
そんな、先輩が!?
 
 そんな時、測ったようなタイミングで先輩容疑者がいつも通りの登場。
なんか無表情で
「うぇ〜っす」
ひょっとして寝起きなのだろうか、寝癖が酷い。
あぁ、ブラシでとかしたい…けど!?
「アイスコーヒーちょー」
無言。
私は逃げ込むように給湯室へと駆け込んだ。変には思われてないだろう。
みかかさんも先輩が来たので、話をこれ以上続けるつもりもないらしい、業務に戻っていた。
「あれ?イクルミちゃん居ないの?」
「どこに行ったのかしらね」とみかかさんが返答。
「本当に知らない?」
「それはこっちの台詞」等と相変わらず仲の宜しくないことで。
取り敢えずアイスコーヒーをなんとか給仕する私。
「さんきゅ」と先輩は受け取るとそれを一気に飲み下した。
 
私は、コップを下げようか考えたけど、先輩が氷を口に含みだしたので、
お盆を机の上に置き、私も椅子に腰掛けた。
「いや、場所は解るじゃん、端末で調べれる」先輩が続けて言う。
私の端末でも、隊員の居場所は調べることが出来る。
プライベートもへったくれもありはしない。
「何をしているのかも、通信して聞けば解るわよ」
「じゃぁ、すればいいじゃない」その通りなのだが。
「あれれ?何か怒ってますぅ?」
「別に怒ってないわ」
「…そう。哲子ちゃん、んじゃ行きましょうか」
「あっはい。でも、グラスを」
「平気平気、誰かさんがやっといてくれるって」
もう、ドアに向かって歩を進めている。
やってくれるかなぁ。
帰って来たら、氷の溶けたグラスが見事そのまんまになってましたけどねー。
 
アジトを出た私は、走って先輩に追い付くと、思い切って聞いてみることにした。
「先輩は」
「なに?」
「殺してないよね、イクルミちゃん」
ジッと先輩の顔を見上げ答えを待つ、私先輩を信じていますから。
「みかかがそんな事を行った?」
「はい」どうして即否定してくれないのだろう。
「改造しちゃった」苦笑いして、頭をかきながら、先輩はこう仰った。
「ええええーっ」
「ちょww改造って何ですか、それって殺してから?なんで改造なんかしたんですか?
私も…改造されちゃうの?」私涙目。
そう、たたみかけるように聞くと。
「うーんと、ケースバイケース」と飛んでもない事を言うじゃないですか。
思わず先輩からズササーッと離れる私。
みかかさんの言っていたことは本当だったんだ。
どうしてですか?先輩そんな酷い人だったなんて。
ひ〜〜ん。
 
「ごめんネ」先輩はそう言って私に謝ります。
「哲子、私の事、怖いよね?嫌いになった?」
胸がチクリと痛む。
でも、否定の声がノドから出てきません。
 
「そりゃ、怖いよね、哲子におっぱいビームとか付けたら嫌だよね?」
「もう、一緒にパトロール出来ないか。ごめんー。」
途端、先輩は駆け出し、私の前から姿を消していた。
 
私は、先輩を追いかける勇気も足止めするおっぱいビームも持たない無力な存在だと、自覚した。
 
 一人でアジトに帰る。
「ただいま」
みかかさんが私がすぐに一人で戻ってきたことに気付くと、
「私の言った通りだったでしょ?」と得意げに、そう言った。
私は、無言で頷く他ない。
「危ない所だったなぁ」
この人はいったい、何が嬉しいのだろう。
「なんで、なんで先輩は、イクルミちゃんを改造したんだろう。きっと何か理由が」
みかかさんは頭を振る。
「自分の改造欲を満たすためよ」
「でも、どうしてみかかさんはそんな先輩と一緒に居られるの?みかかさんだって…その、改造されるかも知れない」
「それは……、私だって許せないし気を抜けない。けどね、改造されたイクルミをメンテナンス出来るのはあいつだけだから」
「……。」
その時、噂のイクルミちゃんがアジトに帰ってきた。
私はおかえりよりも先にイクルミちゃんに問いかけていた。
「イクルミちゃんはロボットなの?」バレちゃったかという風にはにかみながら
「ウン」
「それでそれで、イクルミちゃんは先輩のことを恨んでないの?」
私がそう聞くと、イクルミちゃんはキョトンとして
「どうしてー?」
「いや、だって無理矢理改造されちゃった訳でしょ?」
「強引に?」
「そう」
イクルミちゃんは、みかかを一瞥し、こう言った。
「たしかにー確かにね、私が目を覚ましたら改造手術は終了しててね、私は改造人間になっちゃってたの」
「でもー?」
「ウン。でも、それは私が改造手術を受けないと助からないほど大怪我を負っていたからだよ」
「!?」
「私が哲子ちゃんみたいに新入りだった頃、やっぱり園子博士とーパトロールに出かけたの」
「そうしたら、私ドジッちゃった」舌を出し、頭をこつんとやるイクルミちゃん。
「敵の攻撃で瀕死の重傷」言うとみかかさんは椅子を回転させてそっぽを向いた。
「どうしよう、私先輩に謝らなくっちゃ」
「お腹が空けば帰ってくるわよ」背中を向けたまま、みかかはそう呟いた。
「探してきます!」私は隠れ家を飛び出した。
 「みかかちゃん、ひどぉい〜」酷くない。
「いいか、イクルミ!お前が改造人間されたのは事実なんだ。そして、傷を負ったのは、園子の監督不行届!」
ブ〜〜と頬を膨らませ、イクルミは抗議した。
「みかかちゃんの、わからずや!!」
 
 先輩に謝らなきゃ。
私はアジトを飛び出すと、ケータイで先輩の居場所を調べた。
団員の居場所はどんなときでも一目瞭然である、こんな時には非常にありがたい。
先輩の反応はすぐ近くにあった。
「マックか」
私は駅前のマックに向かって猛然とダッシュした。
 
 店の前で、中の様子をうかがいながら息を整える。
勝手に誤解した私を先輩は許してくれるだろうか。
謝るべきか、勘違いだったと認識を改めた事を伝えるだけでよいのか。
「ううん、謝ろう」拳をぎゅっと強く握り、行動指針を決定。
私は、カウンター前の混み具合を見計らって自動ドアから店内に。
「いらっしゃいませこんばんは〜♪」先輩のスマイルが私を向かえ入れる。
しかし、このスマイルは職業的に0円で振りまいているものだ。
例えカーネル・サンダースがやってきても笑顔で向かい入れるだろう。
「あのぅ、先輩。私…」謝るって決めてたのに、上手く行かない。
「お客様お召し上がりですか?」
ガーン。
 
形通りの接客に絶望した!
もしかして先輩劇怒ってます?
私のこと知らない人扱いですか??
「お持ち帰りで」間違った敬語の使い方だけど、マックの場合これで定着してるから、変じゃない。
違う、そうじゃなかった。。
「おねーさんをお持ち帰りで!」
ズバーン
 思いっきり先輩のスマイルが曇った。
でも、すぐにスマイルを取り戻す。
「ご一緒にポテトはいかがですかぁ?」
「先輩解ってくれたんですね」私が感動していると
「解るか」と冷たく言い放たれた。
その場に崩れ落ちる私。
「今バイト中だから、ちょっと待ってて」
私は髭の濃い店長に、客席へと促され、そこで先輩のバイトが終わるのを待つ事にした。
 
 先輩を待つ間、私は先輩との思い出に浸っていた。
私の毎日は、学校が終わると自販機にお使いに行って
あとは、日々ケータイでの戦い方を覚えるような研修期間の日々だった。
暇な時は、アジトでノートと教科書を拡げて学校の授業の予習をしてみたりなんかして
これが家だと全然する気にならないのに、不思議なものですな。
 
「で、今日の研修は。あれ?どこまで教えてたっけ」
先輩が不思議な踊りを踊りながら私に尋ねた。
バカにされている訳ではない、と思う。
「もう一通りは教わったのではないかと」私も、ここポリ容器置き場の一員になって早いもので、三ヶ月が経過しようとしていた。
ゴールデンウィーク惚けとかも乗り越えて今の私が居るのだった。
「そうだねー、ゴールデンウィーク開けとかに来なくなっちゃう人も居るんだよ、いいこいこ」言いながら、先輩は腕で私の方を抱き寄せてほおずりしてくる。
「眼鏡!眼鏡が」当たって痛い。
「眼鏡は顔の一部です」意味解らないことを言ってぷーっと膨れる先輩なのであった。
 「ほいじゃぁ、今日のメニューは、駐車違反を取り締まりつつマックでバイトしちゃう」
うわぁ。これって本当にフカガワ侵略活動と関係あんのかな。
「腹が減っては戦は出来ず!」
 
 結局、ジグザグに町内を回るも、駐禁車両は一台も見当たらず、
駅前のマクドナルド東陽町駅前店に到着した。
「ここはね、店名が東陽町だから偉いんだ」エッヘンと反り返る先輩。
「普通じゃないの」
「甘い!隣の銀行をご覧なさい。東陽町駅前にあるのに何故か深川木場店」
「えぇっなんでぇ」
「泣けてくるよ〜」
そんなやりとりを道の往来で何故行っているかというと。
そう、我々はマクドナルドの超臨時雇いのバイトなので、店が混んで、人手が足りなくならないとバイトのお呼びがかからないシステムなのです。
中でなんか食べるとお金が減るので、外でキャンセル待ちというか、求人が発生するのを待っている所なの。
 でも、もうすぐ夕方ピークなんで、多分大丈夫。無駄足と言うことはありますまい。
「そういえば先輩、私校則でバイトNGなんですけど」
「大丈夫、私もよ」
「何が大丈夫なんですか?」
「バレやしないって」
「そんな無策な」
「じゃぁ、私の眼鏡を貸してあげましょうね」
あっさりと貸し出される”顔の一部”。
「わぁっ、それなら変装になりますかね」
「うん、私も変装になってこりゃ一石二鳥」ポンと手を打つ。
 その日のバイトは、手元ががよく見えなくてミスを連発した二人は、
店長にこっぴどく叱られた上にバイト代も出なかったのでした。
 
 そうして、少し前の出来事を懐かしく思い出して待っていた私の前に
程なく先輩がやって来た。
無言で向かいのイスに腰をかける。
「改造されに来たのか?」とシガレットチョコをくくわえ、私にフーッと息を吹きかける。
うつむいて、先輩の顔を見れない私の前髪が揺れる。
 「ゴメンナサイ先輩。私」やっと謝ることが出来た。
「先輩がイクルミちゃんを改造したのは、イクルミちゃんを助けるためで、だから先輩はいい人です!」
「いや、初陣のイクルミちゃんを守りきれなかった。やっぱり私が殺したも同然だよ」
「でも、私は先輩が改造したくて、それで、ノーマルのイクルミちゃんを改造したのかと思って」
「いや、それもねぇ。とにかく、私はお前がやられたら、改造してしまうかも知れないよ」
「それって、助けてくれるって事ですよね」
「そうなるのかな」
なんだ、全然問題なし。
「でも、そんな理由だったら、どうしてみかかさんは?私に誤解を招くような言い方をしたのかなぁ」私がそう首をかしげると。
「そうだなぁ」ストローでズズズとノイズをたて、ドリンクを飲みきり、
「イクルミちゃんはみかかにとってそれだけ大切って事だよ」と先輩が言った。
 
んで、まぁ、とぼとぼと?膨れたお腹をさすりつつ、近距離だからね
歩いて帰ると。私が二番目の戸の所でノックをしようとしたら
先輩がなんかきししと笑いながら
防犯カメラを押さえ目隠ししつつ、ノーノックで急に扉を開けなさった
バッと離れる二人。二人はいったい何をなさっていたんでしょうか
「なっ、何もしてないわ」
「何もしてないよ」
ますます怪しいですよ。
勿論、下っ端の私に追求権はないし
先輩はゲラゲラと喜んじゃって、大満足してるようだし。
悪趣味だぁ。
でも、先輩と仲直りが出来て良かったです。
 
◇3.家庭訪問
 アジトに戻ると緊急に対策会議が開かれた。
議題は勿論
「哲子、フカガワの黒幕があなたのお母さんだっていうのは間違いない?」
みかかさんがそう質問する。
「はぁ、多分。」
「多分じゃ困るのよ」みかかさん苛立っている。
無理もないか。
「哲子のお母さんが、家を出ているって言うのは聞いてた」と先輩。
「でもまさかねぇ、敵の黒幕だなんて」
本当に、信じられない話だ。それは勿論私にとっても。
「世の中狭いって事だね」イクルミちゃんはそう言うけど。
「いや、偶然じゃないかも」みかかさんが指摘する。
「まさか…。」
みんなの視線が私に集まる。
「私と対決したいからって事ですか?」そう自分で口にして愕然とする。
「あり得ない話じゃないわ」
「でも、だって。私がアジトに哲子を引っ張ってくる前から、黒幕は居たよな?」
「それも敵さんの想定内だったって事よ。哲子が深校に進学することも想定済みだったんでしょ」
一同黙り込む。
 
 「まだ、そうと決まった訳じゃない」
みかかさんはそう言い立ち上がると。
「お母さんの写真が欲しいわ。ある?」
「はい。家になら、あります」
「そう、じゃぁ、一度みんなで哲子の家に家庭訪問しましょうか」
「ええええ」と、心底苦虫を噛み潰したような顔で嫌がる私。
 先輩もイクルミちゃんも
「うほっ行きてぇ」等とノリノリである。
「あの、うち、そのブルセラショップですよ?怪しいですよ?」
全然気にしない様子でいる皆の衆。
あぁ、好奇心が勝っちゃっているのね〜、とほー。
逝けば解るさ、そこがいかに恐ろしい場所だと言うことがっ。
 私は、父親のボロ車に乗っているところを友人に見られるのが嫌で嫌で、近所の公園の前を通り抜ける時身を潜めていた過去を思い出していた、遠い目で。
 
そして、その日はやってきた。
家庭訪問の日である。
目的は、母の写真の取得なのだが、そんなもんは別に?
私がアジトに持参すれば良いだけの話で、家庭訪問の必要性はどこにも!ないはずなのだが。
 ブルマオフは、お店と言っても駅前の一等地にある訳ではなく、看板こそ出しているものの、雑居ビルの二階に位置する。
 その日、父にはメンバーの来訪を告げず、しこたま憂鬱な気分で訪問を待ち受けていた私であるが、果たして本気でお店に、三人がやってきた。
 今日は日曜日なのに、みんな制服姿である。
何も言わなくても、よく解ってらっしゃる。
ちなみに、私は家着の制服を、イクルミちゃんは制服となっている?真っ白ないつものビキニ姿。あぁ、あんたそれで地下鉄に乗ったわね?
「いらっしゃい」と愛想良く笑いつつ、流石の親父も眼をパチクリさせている。
 イクルミちゃんが奥にいる私を見つけ、手を振るので、
「哲子、まさかお前の友達か?」
「まさかとか言うな」渋々頷く私。
「そうですか、こいつ友達が来るなんて一言も言わないんで。知ってれば準備の一つも、さぁ、こんな所ですが、入って下さい」
娘の友達に初めて会った父は、キョドっていた。
泣かないでよ、お父さんキモ悪がられるから!
「哲子さんにはいつもお世話になってます」と先輩が会釈をし、
「これ、つまらないものですが」とやおらパンティーを脱ぎ出す。
イクルミちゃんもそれに続いた。むろんビキニを外したら、生まれたままの姿が、そこに。
「まだ、パレオがあるよ?」
それならあげるのパレオにしなさい!
 みかかさんは、予想してたけど、こういう所に全く免疫が無く。
どん引きしている。
私に贈呈した大型プラズマディスプレーが店内に設置あるのを見つけ、それに近づいたは良いけれど、それにブルセラな映像が表示されると、ズバッとそこからも飛び退くという、徹底ぶり。
一体、どうして来ようとしたのか理解に苦しむ有様です。
見てて楽しいけどね。(むふん)
 イクルミちゃんは、そのままだとモラル厳しいので、私のズボンをあげました。
ノーパンでパンツ(ズボンのことだよ)穿いても、挟む心配がないのは素晴らしいことです。
 親父にとってはどうでも良いかもしれないけど、私は一応彼女たちが今日来た理由を告げる。
「母さんの写真が見たいの」
親父の顔から一瞬笑顔が消えたが、すぐにスマイルを回復し、
「おうぅ。いいよ、いいよ!哲子お前場所解るか?皆さんに見て貰うといい」
「一枚貰うよ?」
「あっコピーするだけで結構ですから」と店内でうろたえていたみかかさんが言った。
そうして、みんなでレジの奥の居住スペースへと入っていったのだった。
親父の手元には脱ぎたてのお土産が二つ。
 私は許可も得たことだし、押し入れを開けて中に頭を突っ込むと、アルバムを発掘した。
 実は、オヤジが拒否した時のことも考え、あらかじめ一枚こっそり先行入手していたのだが、アルバムは元通り奥に戻してあったのだ。
 と言う訳で、再び一苦労して、取り出したアルバムをちゃぶ台の上に置くと。
「これです、どうぞ。見てて下さい」と言い、恥ずかしさに後ろ髪を引かれつつも、私はお茶とお茶菓子の準備をするのだった。
「それにしても、すげぇなこりゃ」先輩がアルバムをパラパラ見ながらそんなことを言っています。
「そんな事無いですよ、全然普通じゃないですか〜」
「あなたこれ、全然普通じゃないわ」眉をひそめながら、みかかさんが私にそうとどめを刺した。
「だってこれ」
「アルバムって言うかブルセラの商品目録なんじゃないの?」
「ポラだしね」
「っていうか、目にマジックで線が引いてある写真は、普通のアルバムに収録されていません!」
「そうですか〜?」セロハンのカバーをめくってみても、ただの透明。やっぱり目線は写真にダイレクトですか、そうだったのかー。
 みかかさんはお母さんの写真を数枚イクルミちゃんにスキャンさせると
「ちょっとお父さんに、お母さんの話聞けないかしら?」と私に小声で言った。
 うへぇと顔に出ちゃった。すげぇ嫌ですよ。
「そんなこと頼んだら奴喜んじゃいますよ?」
「じゃぁ、哲子はお父さんとお母さんの昔のこと知ってる?」
うっ。痛いところを的確に突かれました。
「それは…」私が答えられないで居ると。
先輩が
「お父さんすいませ〜ん、ちょっとお話良いですか?」と立ち上がりオトンにそう声をかけていた。
 店番をイクルミちゃんと換わり(ちゃんと務まるのだろうか)オヤジが部屋に入ってきた。
やっぱり、デレデレしちゃってるよ、すだれ頭がまぶしいっての。
私のアイコンタクトを完全に黙殺。ええい、こっちを見やがれ!
オヤジは、お母さんとの馴れ初めをペラペラと語り出す。それは、私も聞いたことがない、初めて聞くような話であったのです。
 
 「ワシがお母さんと出会ったのは、大学でだった」
「ブルセラショップなのに大学出、むぐぅ」
先輩とみかかさんがほぼ同時にガラス戸の向こうから要らん事を言う
イクルミちゃんに座布団とコップを投擲。
「スミマセン、お父さん」アハハと顔色をうかがう先輩。
「いや、いいよ。大学にも色々あってね。文学部でしかも哲学科に入ると、就職は放棄しているに等しいからね。エロマンガ家になったり、バイクの修理屋さんになった知り合いもおるよ。真っ当に就職した奴もそりゃ居るんだろうが。」
「そして、おじさまはブルセラショップを始められたんですね」
「ええ、そうです。恋に落ちた母さんとワシは、大学を出たはいいですけど、就職は決まらず、子供を抱え途方に暮れておりました。そんな時、ミス・キャンパスだった母さんに、写真のモデルをしてくれないかという話が舞い込み、ワシがこっそり撮影に使った衣装を好き者に横流ししたのが、この店の始まりなんです」
……。
オヤジ。一同絶句。
「で、では。ブルセラと言うよりも、最初から、哲子のお母さんで保っていたお店なんですね、ここ」
「恥ずかしながら」
「紐なんだー」イクルミ自重!
あー。うちのオヤジはは紐だったんですね。最低ですね。
「それはお母さん、哲子に負けたら、出て行っちゃうのも仕方がないかもね」
そこで父はかぶりを振りこう言いました
「他に男が出来たんじゃ」
……。
「私、捨てられたんだ」ショック。
「バカッそうじゃないぞ。父さんとお前が母さんを捨てたんだ」
ポジティブシンキング。
「そろそろおいとましましょうか」とみかかさんが腰を上げると。
「お父さん、色々ありがとうございました」と先輩もそれに続く。
「えっ、待って下さい……よぅ。」
「バイバイ、哲子ちゃん。また明日〜。それからズボンありがとうね〜」イクルミちゃんまで!?そっそんな〜〜。
カランカラン。
 ブルセラショップに取り残された父と娘は、その日口をきく事がなかったという。
 
◇4.ルーツ
 
 夜の東陽町。制服に身を包んだ園子と哲子の二人が、歩道橋から学校の塀を越え二階のテラスに飛び移った。
その普通ではない跳躍力も、ケータイを身につけているが故の能力。
何て便利なケータイ、お前は重力制御まで出来てしまうのかと、心の中で愛でる事を忘れない哲子。
「ぼーっとしない」と注意して先輩は、戸の鍵を開け職員室へと侵入しようとしている。
「先輩、我々は屋上に行くんですよね?」
と、ベランダから上に伸びている階段の存在を指摘する哲子。
「わぁってるわよ!でもねっ、せっかくの制服なんだし?内部を通って行こう」
「はぁ、そうですか」
 職員室に侵入成功するやいなや、机を物色し出す先輩。
「あの〜、何してんですか?」
「今日の授業の小テスト、ちょっと気になるところがあって」
「駄目ですよぉ、ズルしちゃ」
公私混同甚だしいのである。
 そんなことで道草を食っていると、
「誰か居るのか?」
警誰備員の巡廻だ。
職員室のドアがガラッと開けられ、
「誰だっ」と声を張り上げた。
私たちは瞬時に身を潜め、そのままの姿勢でドアに移動し、中に入ってきたオッサンと入れ違いで職員室からの脱出に成功。
後はひたすら二人で走ったよ、脱兎のごとく。
「はぁ、はぁ」
「今のはヤ〜ヴァかったし」
 
絶句ですよ!応援を呼ぶだろうし、遊んでいる暇はなくなったわな。
「あ〜答案の訂正」
「ハイハイ」
 と言うことで、一路屋上を目指す我ら。
見つからないように細心の注意を払いながら階段を上ってく。
 そっと、屋上の様子をうかがいながら、ドアを開けると、そこには果たして待ちかまえている人影があった。
 
「こんな遅い時間、学校の屋上に何の用だ?」
眉をひそめ、先輩が言う。
「それはこっちの台詞だ。うちの大切な高校に忍び込んでおいて盗っ人猛々しいね」
返す言葉もない。ごもっともです。
「ちょっと、泳ごうとしただけだよな〜?」
「えっええ」
「制服で?って、あなた方その制服」
「なんだよ」
「うちの学校の制服じゃないじゃない」
そんな事はない、れっきとした不可校の制服。ただ、先のバージョンだけど。
「こっちの方が可愛いからいいのっ」言い放つ私。
「夜服なんだよ!」先輩が続けていう。
なんすか、夜服って…
「まぁ、いいわ」菊地姉妹は呆れてそう言うと、
 バッと、手で何かを振り払うように動作して
「あんた達の考えなんかお見通しなんだからね」
「ほぅ」
「プールの水で学校を水浸しにしようなんて、そうはさせない」
「屋上にプールなんか作るから悪いんよ」と言うと先輩が菊池姉妹に向かって突進を開始した。
 私は、先輩がおとりになってくれているうちにバッグからオモチャの潜水艇型の爆弾を取りだして、プールにセットする役割分担だ。
 
 先輩はちゃんと菊池姉妹の気を引いてくれている。
「よしっ」
私が手で潜水艇を慎重にプールに入れようとした刹那、後ろから何者かにプールに突き落とされた。
とっぱーん。
セット完了。
 
「ぷはっ」水面から顔を出す。
私を突き落とした人の姿は、暗闇ではっきりと捉えられない。
 急いでプールから上がらないと!と思うやいなや、ポッポムッと変な音がした。
次の瞬間、プールの水がみるみる減り始めたのである。
「ええええ」私は焦って水から上がろうとする。
しかし、水に濡れた制服がまとわりつき、思うように動けない。
そうしているうちに、ますます水の吸いこむ力が強くなる。
吸いこまれる!ピンチです。
 
それに、爆弾も爆発してしまうもん。これは死んだ〜〜。
必死でもがくも、全くその場所から動けずに、プールから上がれない状態が続く。
「ちょっと、哲子何やってるの!?」
「先輩、一人で逃げて下さい〜」
「そんな事出来ないって」
先輩は、プールサイドから私を引き上げようと手を貸してくれる。
しかし、どんどん排水溝に引き寄せられる私。
そしてとうとう、爆弾が爆発した。
ドッカーン。
 
「いててて、ここはどこ?」
哲子はズキズキ痛む頭を押さえながら周囲の様子を探る。
周囲は明るく、空気もある。
目に付く看板の文字も日本語。
その次にうつぶせに倒れている先輩を発見。
 慌てて駆け寄る哲子。
まだ、意識がないようなので、仰向けにして揺さぶってみる。
「先輩!ちょっと、起きて!」
「ん〜」眼鏡を無意識に探す先輩。
哲子がつっこむ前に「あぁ、かけてた」
そして、さっき哲子がしたの同様にキョロキョロしてから、眼鏡を服の裾でごしごしと拭いてかけ直し、ケータイを確認した。
そしてすぐにハッと驚き、次に哲子に不吉な笑顔を見せた。
 
 「先輩これは一体」という私の問いに。
「安心して、ここは東陽町よ」先輩はそう言った。
しかし、どう見ても東陽町じゃないよ、ここ。
確かに、都バスも、公衆電話も十円玉も健在である。だけど!?
私が導き出した結論は、そう
「今は昔?」竹取の翁ありけり。
「正解!」先輩が口ファンファーレで祝福してくれる。
状況が状況なので、あまり喜べない。
「それで、今は西暦何年?」
「昭和42年か44年だったと思うんだけど……。西暦に直すと何年くらいかしら」
「何で昭和で解るの?」そう私がつっこむと、ちょっと、困ったような先輩。
頭を掻きながら
「私が来てみたいと思った時代なんで」エヘヘとか。
カワイ子ぶっても私許しませんからっ。
「何でそんなセットとかしてるんですか!」
「いやぁ、機会があったから、いつか逝きたいなぁと思ってて。でも、ほら、タイムトラベルは危険じゃない、戻れないかも知れないし?だから、セットにとどめてあったの」
「……。」嫌な予感がした。
「もしかして戻れないの?」私がおそるおそる聞くと、
「戻れるよ」ただし、
「確実に元の時代に戻れるのは一人でーあとの一人は、戻るには戻れるけど多少のブレは覚悟しなくちゃならないわね」
「なんで?」
「うん、まぁね。哲子ケータイちょい見せて」
私は素直に先輩に自分のケータイを差し出す。
「やっぱねぇ、哲子のケータイまだ、タイムトラベル関連の設定が済んでいない。とね、今からやっても来た時にちゃんと戻れるかは、やっぱり運次第というか、ほら、人力で設定してやることになると、どうしても誤差がねぇ」
 概要を把握したような気がした私は、ケータイを受け取ると取り敢えず話を中断した。
あんまりにも我々が五月蠅くしていたために、目立ってしまい、周りはちょっとした人だかりになりだしていた。
これはいつ警察がやって来てもおかしくない。
「取り敢えず、ずらかるか」
「そうですね、私もそれがいいと思います」
我々は周りに愛想笑いを振りまきながらその場所、どこだ?を後にしたのだった。
 
 我々は移動先の東陽公園のベンチに腰かけている。
「東陽公園はあるんだ」
「東陽町の名前の由来はよく解ってないけど、東陽小学校か東陽公園がその由来って説が有力」そう先輩が説明してくれた。
「あと私驚いたのがー」
「あぁ、都電だろ」
「そう」
先輩は知っていたみたいだれど、二人で驚きを共有した。
「あれこそ、東西線の原型みたいなもん」
「えっじゃぁ、高田馬場まで続いてるんですか?」
「線路はね、そんで朝とかは直通電車があるみたいだけど、普段は茅場町辺りまでみたいよ」
「スピード遅いから」哲子はそう言って笑った。
「あら、地下鉄も地下じゃそんなスピード出している訳じゃないのよ」
「へぇ」鉄道トーク終了。
 
 私がお腹に手を置き、ぼんやりと空なぞ見上げていると。
「お腹が空いた?」先輩に尋ねられた。
顔を赤めながら、そんなにあれかな、顔に出ていたかなとうろたえると。
そーじゃなくて、ただ単に先輩も空腹を感じだしていたから、聞いたとのこと。
「それと、寝る場所とかもどうするんですか?日帰りが可能なのかしら?」
着替えや洗面道具なども当然不携帯な我々二人組なのである。
「そうね、お金は小銭が使えるかしら」先輩も苦笑。
前途多難なのである。
電子マネーが使える範囲が世界って感じがしてたけど。
当然、電子マネーもアウト、電車にも切符を買わないと乗れません。
小銭で買える!
「けど、やっぱりホテルとか旅館に泊まるのは無理ですよね」
「まぁ、いざとなったらみかかの家に泊めて貰えるかな」
「AV東陽はあるんですか?」
「場所は違うけどね、確かあると思う」
「電話で確認してみる」等と恐ろしいことを言う。
先輩はケータイを操作して、耳に当てて、繋がるのを待っている。
えっえっ?
まぁ、普通のケータイじゃないわよ。
私は今更驚いても無駄だと既に免疫が出来ていたのだ。
 「もしもし、みかかぁ?」軽いノリで先輩が言うと、隣にいても電話先が怒っているのが解る、先輩は受話器を耳から遠ざけた。
「それって、未来と電話が出来るんですか?」そう質問した私に先輩は、怪訝な表情。
「だってあんた、タイムトラベル出来るんだよ?このケータイ。通話だけだったら楽勝ジャン」
なるほど、そういうものかも。
「うん、お店はある、了解」先輩は指でオーケーサインを作って私に見せた。
「え?居るよ?」先輩がそう言うと、スピーカーホンに切り替わる。
「大丈夫?」みかかさんが呆れぎみに私にそう声をかけた。
「ええ、なんとか」本当になんとか。
「ちょっと待って」少し間が開き、「悪い知らせがあるわ」みかかさんはそう言った。
 少し、過去観光をして、東陽町をよりよく知って現代に戻るという訳には行かなさそうだ。
「ん〜面白くなってきたきた?」先輩はその知らせを聞いてこうこととした表情で、身震いしている。変態さんだ。
「何があったんですか?」私は、冷静に情報の先をみかかさんに促した。
「うん、今過去に送られたデータをチェックしてみたら、どうやらそっちに飛んだのは、あなたたち二人だけじゃないみたいだ」
えーっ。
 思い出せ、哲子。過去にジャンプする直前の状況を。
あの時、深川高校の屋上プールにいたのは、私たち以外に。
「菊池姉妹かしら?」
「ええ、でも一人とは限らないから油断しないで」
「解りました」
「いったん切るな」先輩が、そういうと。
「解った。また何かがあったら」そして、通信が終了した。
 「電池の心配を?」そう質問して、私は通信終了の理由を自ずと察した。
周りに子供達が、遠巻きにそのお母さん達が、ひそひそと。
私たちは、また場所移動をせざるを得なくなりました。
もう行くあてもないというのに。
 私たちは、ドブ川を眺めるような形で腰を下ろしていた。
辺りはもう夕方と言ってもいい時間帯だ。
お腹も本格的に空いてきた。
「川の流れは、簡単に変わりませんね」私はお腹空いたなーと想いながら、そう言った。
「そうだな、うん、それはありがたい」
 ここに来る途中、東陽商店街を通りみかかちゃん家を確認した後、木場と東陽町の境目になっているのかな?その、川というか運河をぼんやりと眺めている。木場駅はこの川の下にあるのよね、末恐ろしいことに。
ところどころに現代東陽町にも残る建物を見るにつけ、時の移り変わりについて、考えさせられたり、考えたりしながら、軽く現実逃避などを噛ましていたのであった。
「パンかなんかを商店で買って食べよう」
「寝床は」
「今の時期なら外に寝ても大丈夫だろ」
というか逆に熱くて死にそう。
あっでも夜は少し過ごしやすくなるのかな?
ただ、連泊すると汗臭くなることは必定といった感じ!
 「元の時代に帰るためには?」私は先輩に聞いてみた。
「いや、帰ろうと思えばいつでも帰れる。ただ、一人がちゃんと帰れるかどうか不安なだけ」
「それにだ。一緒にこっちの時代にやってきた菊池姉妹なり何なりをこの時代に、残したまま私たちが帰るとー」
ゴクリ。
「時代を奴らの良いように操作される危険がある訳ですね」先輩が頷く。
私たちが残って東陽町をこの時代から回復・開放するなんて事は、取り敢えず捨てる。
元の時代に戻りたいんだよー。
 私はこれから何が起こるのか大まかに解って余裕が生まれたのか、この時代で生活する自分を少し想像してみた。
私が歴史を変えようと努力しても、その影響なんて僅少で、歴史は変えれないだろうな。そう思うと、己の無力感を感じずには得ない。
そして次に私は、この時代の自分の両親のことも考えてみた。
この時代だと、お父さんやお母さんは何歳だろうと。
ちょっと会ってみたいと思わなくもないけれど、アルバムの写真でお腹いっぱいだから。
それにだって、向こうはこっちを絶対認知してくれないと思うし。
「そういえば、どうして先輩のケータイにはこの年に設定してあったの?」
私は、はたと思いだし、先輩に質問した。
そういえばさっき、是非に来たいと思っていたとか言っていなかっただろうか。
「あーそれはね」先輩はあまり、嬉しそうな表情は見せずにこう言った。
「地下鉄東西線が、東陽町まで延伸してくるの」
 そうだった、都電ーあと数年で廃止になるーがバリバリ走っている中、
さりとて、東西線が出来たから切り替わりで廃止になる訳ではなく、しばらくは、地下鉄の上の道路を都電が走っているという、今から考えると誠にアクロバチックと言うか、なかなかねーよ的な状況が、首都東京に現れている時期だった。
 夕食として買ってきたあんぱんと牛乳を食べて英気を養いつつ。
「いや、だって東陽町に東西線が来た瞬間に立ち会いたいと思うじゃない」
利用者としては。なんて先輩は言う。
「まぁ、そういうもんですかねぇ」アンパンが空腹にしみる。
「実は東陽町は、地下鉄の駅が開業する時に近隣の町が寄り集まって東陽町に合併したの」「これが最近だったら、清澄白河とか赤羽岩淵みたいな事になるところよ」
つまり、駅の開業に会わせて周りが東陽町になるのではなく、逆に駅の名前を二つの町名をくっつけて済ますというような事か。
それか!東陽町ってやたらと広いなぁとは思ってたんですよー。
「なるほど、東西線の東陽町延伸が、東陽町の礎なんだ」そう、パンを食べながら私が言うと。
「そうなのよっ」先輩は私の手を強く握りしめ、ブンブン振る。
先輩とてもうれしそう。。
 こうして、我々の帰還は、観光と一緒に来た何者かの探索が済んでからという運びになったのでした。
 その後、時差ボケみたいなものがあるんですかね。
急に眠くなった、これはまずい。
「これからどこか探して泊まるとしても、もう銀行は終っているよなぁ」
どうして、銀行の後悔をここで先輩が述べているかと申しますと、今食べているパンと牛乳を買ったお金はケータイを振って出したもの、そうケータイ電話を一降りすると百円玉がぽろっと出てくるので、我々はこの時代においても決して文無しではないんだな。
「いくら現代より物価が安いとは言ってもですよねぇ」
「あぁ、でも今みたいにビジネスホテルとか安く泊まれるところは無いかなぁ」
そう先輩がケータイでネット検索して今我々が居る昭和四十年代の情報を収集している。未来と電話がつながるこの見た目は普通のケータイ電話だけど、実は我々のスパイ道具とでも言うべきガジェットで、なんだか、ネット接続機能も備えているみたいですよ?
「先輩それって」
「あぁ、時フリだ」
時フリ、つまりタイムフリーって事なんだろう。
「でも、これってパナ製じゃ」
みかかさんの実家はパナソニックのお店です。
「哲っちゃん結構余裕だね」
いやぁ、それほどでも。
「つまり、これは先輩が時フリ端末を設置してきた我々の元来た時間のネットが見られるって事ですね?」
「そうじゃね?それがアンカーとしての機能もしてる。だから、哲子のケータイじゃネット見れないでしょ?」
パカッと開いて確認をする。
「本当だ、圏外です」
「だから、この時代じゃ哲子のケータイは役立たずだな。お金も出てこなければ、元来た時代と通信することも不可能。」
「それでも、未来に帰ることは出来るの?」
一瞬先輩が困ったような表情を見せる。
「アンカーがないから、ピンポイントで戻ることは難しいけどな。端末があるだけでも御の字、私が何とかしてやるよ」
「よろしくお願いします」と力強く先輩にお願いした。
先輩は少し照れてよせやいって言いました。
「それで、今夜はどうする?」
まさか先輩勘違いしてラブホテルに行くんじゃないでしょうね。と私は十メートルあとずさると、先輩は
「何やってるの?」だって。
完全な私の独り相撲です。
「一応ケータイに宿泊機能も付いてるんだけどね、電池消耗するし、充電したいのにさ」
このケータイ電話はアダプタ要らずで家庭用電源に直にさせます。何でみんなこういう風にならないんだろう?
「じゃぁ、みかかさんの実家に泊めてもらう?」
さっき電話したときそんな話をしていたので、私がそう聞きますと。
「確かにこの時代にも東陽電器はあるけど、みかかはもちろん生まれていないんだ」
なるほど、それは気まずいを通り越して、どう事情をでっち上げて泊めてもらえばいいのか想像が付かない、パス。
「仕方がない、公園でケータイを使って休むより」
そこで私はぴーんとひらめきました。
「ちょっと待ってください、私に妙案が」
先輩は心底意外というか、ねーよって顔をして私を見つめている。
それもそのはず、だって私は過去に来ることになるなんて思うことはおろか、こういう事態に陥るまでで過去に来られるなんて思いもしていなかったんですから!
「何々?ねぇ、あんた何をするつもりなの?」先輩が突然のハイテンションで私に聞いてきた。妙に楽しそうなんだな。
「いえ、ちょっと思いついたことがあるんで」
「行く当てあるの?この時代に知り合いが?いつ時計台に雷が落ちるか正確に解るっての?」先輩にそうたたみかけられると、私はどんどん自信なくなってくるんですけど。
「先輩、この辺に両国から都電で行ける森なんとかって町がないかな?」
「えっ、それって森下のこと?」具体的な地名が出て、落ち着きを取り戻した先輩が言う。
「じゃぁ、まずそこに行きます」私も、両国の近くの森下町という目標が設定できたことで、失敗をおそれずとりあえずそこに行ってみよう、行ってみたいという意欲に駆られたんだわ。
二人は木場から都電に乗り、門前仲町で月島からやってきた都電に乗り換え森下を目指した。
先輩は窓の外を興味深そうにきょろきょろ眺めては感動していたが、私は地名こそ多少なじみが無い訳ではないが、そこはいつもは地下鉄で通っている所ですので、今見ている風景と自分が来た未来のそれを比べて楽しむことが出来ずに、少し残念な思いをした。もし、元の時代に戻ることが出来たら、一度自転車かバスでここを通って見比べてやるんだからと思い、私も先輩にはかなわないながらも、車窓を熱心に眺めていた。
そうしているうちに、二十分くらいで目的の森下に到着。
電車から降りると、停留所から脇の歩道へと移動。
「で、これからどうするの?」ニコニコと私に聞いてくる先輩。
「えっと」「えっと?」
「確か」「……。」
「須賀さんってお家が」
「どこに?」
「森下町に」
「住所は?電話番号は?」
「さぁ、まんが道で読んだだけなので」苦笑いしながら私がそう言うと。
先輩の笑顔が怖い。握り拳なんか握らないでください。
ごつんとゲンコツを覚悟して私が防御の姿勢を取ると。
あれ?ゲンコツがいつまでたっても飛んでこない。
「暴力反対」私が手を挙げてそう言うと。
「殴られたい?」私は必死に首を左右にぶるぶると震わせた。
「先輩怒ってないんですね」
「まぁね〜元々あんたに、期待してる人が居たとしたらどうかしてる」
「それはひどい」抗議する私を手で制し、先輩が
「だって、あんたは過去に飛ばされるなんて思ってないでしょ?」
その通りだ。
「それに、この時間は私が設定していた、つまり私の時間よ。私の好きな、私が行くんだったらこの時代っていう、マイフェバリットタイムな訳」
なるほど。
「あとは私がなんとかしましょう。」
仕方がないわねぇと、先輩がそう請け負ってくれた。
「で、その漫画ロードにはあとはどんな手がかりが載ってたの?」
私は、必死に漫画ロードのそのシーンを思い出した。
「地盤が低いから大雨になると水浸しになるんです!」
「この辺一帯がそうなんだよ」
「朝に、アサリ売りがあさりお〜って売り歩くの」
「じゃぁ、朝まで二人してアサリ売りを待とうか」
我々の目的は泊めてもらうことでした。
「えーっとえーっと、そこの子供が野球してるんですよ、んで、その少年に道を聞いたら」「ねぇねぇ、君たち須賀さんって家知ってる?」先輩がそう野球少年に問いかけていた。
「それおまえんちじゃないの?」
「そうだった〜」
まるで漫画のようだと私はその時思った。漫画の中に入った様な。
先輩がウインクして私に合図を送ってくる。
私は少年たちにこう言った。
「お姉ちゃんたちは、長岡から出てきた漫画腐女子なのよ」
「話聞いてるでしょ?」
先輩と私で作戦の合否を須賀さん家のお子さんの次の反応に探し求める。
駄目かー作戦失敗かー。一瞬が永遠に感じられた。
そうしてとうとう、少年がうなずいた。
私たちはほっと安堵のため息を漏らし、お互いに見つめ合った。
やったな。大成功ですよ。
 三人で野球仲間と別れると、私らは少年のあとについて須賀さん宅へとついて行った。
「ここか」先輩の視線の先の表札には須賀と書かれてある。
少年が引き戸を開けると、ただいまとかあちゃんお客さん〜と大きな声を上げ中に駆け込んでいった、少しすると母親と一緒に玄関に戻ってくる。
「こんにちは〜」先輩が引きつった笑顔を努めて自然に装いながらそう挨拶した。
「あら、手紙では男の子二人って聞いていたけど」
「今日だけ女の子なんです」ぐはっ。
先輩のエルボーが私のみぞおちに突き刺さった。
すると、先輩は強攻策に出た。
「お世話になります」とずかずかと須賀さんちに上がり込んだのだ。
私もよたよたと続いて上がり込むのでした。
 「ここがあなたたちに使ってもらう部屋なの」
そう言ってお母さんがふすまに手をかけた時、
「この部屋二畳なんですよね」にこやかにそう口走っていた。
刹那先輩とお母さんが凍り付き、それを見た私もすぐさま自分の失言を認識したのだった。
失態を取り返し、お母さんの疑いを晴らすため私は続けて、
「ほら、さっき狭いけどって聞いたから、二畳くらいかなって」笑いながらそう言うと。
真っ青な顔のままお母さんが、
「私そんなこと言ってないわ」
疑惑は晴れるどころか逆に深まったようです。
私がどうしたらいいか解らず、おろおろ感極まっていると、それまで沈黙していた先輩が口を開きました。
「お母さん、我々二人は未来から来ました。未来人なんです」
サラッとにこやかにそんなことを言う。
エエーッ。終わったー。私が頭を抱え目を回していると。
「あら、そうなの流石漫画家の卵ね。荷物を置いたら、居間に来てちょうだい」と、
うふふと笑いながら奥へと消えて行くではないか。
先輩は一体全体どんな魔法を使ったのだろう。
 にこやかにお母さんをやり過ごすと、そのままへには入り$襖を閉じた瞬間先輩は鬼へと返信した。
「この口かー」
「いひゃい、いひゃいよ」私の口に手をかけ両手で横に引っ張る先輩。
お仕置きされてしまいました。
ハンカチで手を拭く先輩に私は疑問を投げかけた。
「それにしてもさっきは一体どういった魔法を使ったんですか?」
すると先輩が、
「魔法?いったい何のこと?」
「だって…。先輩いきなり未来人だなんて正体バラすし、どういうつもりなのかと思ったら、お母さんご機嫌になって、行っちゃうし」
「誰も未来人だなんて真に受けないよ。冗談だと思うでしょ。突飛なことを言うことで、我々は漫画家を目指して状況してきた訳だし、本物だってお母さんは納得して去っていきました」
おーっ。思わず拍手もそれに添える。
「まぁ、なんとか乗り切ったわね。居間に行きましょう。あまり遅れると」
「あやしまれます…もごっ」
言いかけて先輩に口をふさがれた。いかんいかん。
  荷物を置いて居間へ向かうと、そこには家族が揃っていた、そしてテーブルの上には夕食が。
「あっ」二人で驚いていると、お母さんが
「さぁ、みんなで食べましょう」と言うので、お言葉に甘えていただきまーすと、晩ご飯をゴチになることにした。
 メニューはアサリの味噌汁と納豆だ。
ベーシックなメニューだし、私たちは未来から来たけど富山から来た訳ではなかったので、美味しくいただけました。
「ごちそうさまでした」食事が終わって部屋に引き上げようとすると、先輩が
「哲子先に部屋行ってて」
「えっ?」先輩は何するんだろ。
「私はお母さんの手伝いをするからね」なんて猫かぶりなんでしょう。
「私も手伝いますよ」そう言ってみると。
「台所がそんな広い訳じゃないから、今日は私がするよ」なんてがんとして譲りません。
これは何か裏があるに違いないと思いましたが、私はお腹もふくれていましたし先に部屋に行って休んでいました。
あとで先輩に話を聞いたところ、どうやら東陽ライスの参考にアサリの調理法などを教えてもらっていたんだって。砂抜きをマスターしたとか言ってた。そう言えば前に食べたときはえらいしゃりしゃりしてた、盲腸になったらどうしてくれるんだ、一体。
 その後二人で、銭湯に行き汗を流した後、もう気分は小旅行なんですけど、いいのかな。みんな私たちのこと心配して居るんじゃまいか。
そんなこと思いつつ、たった二畳の狭い部屋に布団を敷いて、私たちは過去での一日目を終えた。
 翌朝、アサリ売りの声で起こされた私たちは、昨日と同じアサリの味噌汁と納豆ご飯を食べた。
「続けられるとちょっとつらいものがあるわね」と先輩がこぼす。
「先輩、私朝はパンがいいんですけど」
不平を言えるのは、満ち足りている証拠ですけど。
もしかしたら、あんパンに牛乳だけで木場公園でケータイの宿泊機能を使って一夜を赤須は目になっていたかもしれないんですからね。
食べながら、
「先輩ケータイの充電は?」そう私が先輩に聞くと
「!?すいません、コンセント借りていいですか?」先輩が家の人にお願いする。
「いいけど、何を使うの?」また、お母さんに驚かれた。
そうですよね、この時代にコンセントを借りる習慣はあまり。
あと、そのドライヤーを使おうと思って。
「何でドライヤー」
「だって、ケータイを過去の人に見せたら説明するのがまた大変だろ」と二人で内緒話。
「あとで洗面所で使わせてもらいます」そう、恐縮して言う先輩。
果てしてあとで私が、
「ぶおおおお〜」と間抜けなドライヤーの声まねをする羽目に。
「ぜぇぜぇ、先輩まだですか?」
「もう一息がんばって!」
ケータイは超急速充電が可能なんで、??こんな事してるんですけど。
ブレーカーは平気なの?
ぱちっ。
「あっ」ブレーカーが落ちた。
電源を借りてブレーカーを落とすなんてなんて気まずい。
流石に、お母さんから
「ちょっとあなたたち、すごいドライヤーなのね」
等と皮肉を言われる始末。
二人で恐縮しまくったのでした。
 お礼を行って、須賀邸を後にする。
先輩私「夢を見ました。」
「私もよ」
 夢の中で私は「島にいました」
私が記憶から急速に消えだした夢の内容を先輩に伝えると。
「同じだ」
えっ。どうやら先輩も島の夢を見た様ですよ。
まぁ?我々は狭い二畳の部屋で寝ました。
だから、同じ夢を見ても不思議じゃないのかなぁ。
「これは、どういう意味でしょう」
う〜ん。二人で考えて見た。
我々は過去にジャンプしてきてしまっていて、一緒に飛んだとおぼしき菊池姉妹をどうにかしないと、未来に帰る訳にも行かない。
けど、どこにいるのか見当も付かず、明日から探しましょうと言う時に見た夢が、島の夢。「あっ」
「どうした、哲子。夢判断に成功したのか?」
「いや、イクルミちゃんの出身地の島かなぁと」
「あぁ、エロイラス島ね。それは違うと思う。実在するかどうかも怪しいもんだ。」
私のエロイラス島という推理は空振りに終わりました。
「私は解ってんのよ」と先輩が。
もったいぶらずに教えて下さいよ〜もう。
「夢の中に島が出てきた。それって、菊池姉妹が夢の島にいるって事なんじゃないかしら」ぽかーん。
私はあまりの安直さに、軽く失神してしまう。。
「夢の島って、この近くにあるの」
「東陽町駅からバスが出てる」
 そうやって、藁にもすがらなくてはならない、我々の現状に私は悲嘆はしたものの。
 駅前からバスに乗って、菊池姉妹探索の為に夢のお告げに従い夢の島へと向かったのだった。
 
 バスに乗ったり、買い物をしたりしているけど、お金はどーしているかと言えば。
ケータイを軽く数回振ると、ポロッと百円玉が出てくるので、地道に繰り返し出して、その百円玉で生活してます。
500円玉が出ればいいのにって?
いや、まだこの時代500円玉は登場していないのよ。
お札なんだな、500円札!
だから、500円玉が出てきても使えないよ!
「100円で二人乗れちゃう都バス安いよね」と先輩。
「硬貨が同じだけにインフレを実感しちゃいますよ」
 駅前は、地下鉄にバスに路面電車という、現代からしてみるとちょっとしたターミナル駅の様相だ。
都バスは、そんなに現代と変わらない、勿論車は古いし、バリアフリーじゃないし、冷房も付いてないけど。安いから許します。
あと、色が黄色かったり青かったり緑もいるのかな?
白黒写真で見ることが多い、都電の色が実は黄色地に赤帯で、まるでフィリピンかタイかって感じなのには少々驚いてしまう。すぐに慣れたけど。
 我々の住む時代では、色の人に与えるイメージも研究され、黄色と赤のバスやらチンチン電車はあり得ないんだけど、昔は特に問題にならなかったのであろう。
黄色い都バスは、都電とおそろいのカラーなのだ。
 バスは、永代通りを行き止まりの日曹橋まで進んで、そこを右折して明治通りを一路南へ。
 南砂二丁目団地も西友東陽町店も新東京郵便局も、未だ無い時代。
「本当に何もないですね〜」と私が言うと。
先輩が
「私、中学生の頃塾のクラスで、東陽町に住んでいる子供が多い地域塾だったんだけどー。クラスで千葉をバカにするような発言があったんだわ。」
「そうしたら、ジョン・レノンみたいな国語の教師が言ったのね。ここだって昔は千葉だったろ。みたいな事を言ったよ」
「でもね、この前ヤフーがやっていた東京の古地図を現代の地図と重ねるみたいな期間限定のコンテンツ、この辺養魚場が拡がってた。南の方に行くともう海なんだけど。江戸の果てだったんだね、ここ。
それでも、江戸は江戸。都電もちゃんと城東電車が走っているし。荒川より西側はやっぱり東京。」
「江戸川区の人が少し可哀想、かも」
「しかし、これが現実なのだよ、フハハハ」
そうこう話ているうちに、バスは目的地の夢の島に到着した。
 バスを降りると、そこに高速道路の湾岸線や京葉線の新木場駅はなかった。
「ひょっとして、バリバリ埋め立て中?」
ついでに、まだ公園も開園する前です。
 何もなく、ゴミ収集車だけが行き来している、埋め立て地になんて菊池姉妹はいるのだろうか。元々、島を夢に見ただけだし?居なくても文句を言える筋合いじゃないけど。
しかし、そこに菊池姉妹は居たのだった。
 どうして、そんな埋め立てもまだ進行中で、地盤沈下もバリバリな夢の島ですぐに菊池姉妹を二人が発見できたかというと。
でかかったから。
遠くからでもよく見える〜。
菊池姉妹は、何故か巨大化していた。
黒いジャージを着ているので、パンツは見えない。空気を読んだんでしょ、敵も敵なりにサ。
「ありゃま」
「先輩!巨大ロボを呼びましょう!今すぐ」
「この時代に巨大ロボはまだ完成してない!」
「現代にはあるのかYO!!」等と、逆に驚かされる有様の哲子だった。
「まぁ、すぐに見つかって良かった。超ラッキー」
指を鳴らして、喜ぶ先輩。
巨大だからすぐに見つけられたけど、これからどうやって退治しよう。
 幸いあちらは、まだこちらのことお気づきではない様子。
「どうして巨大化したんだろう」
「うん、それが分かれば。哲子が巨大化して戦う」
「嫌ですよ!」
シーッ。
気付かれたら、踏みつぶされてぺたんこである。
二人は取り敢えず、木陰に身を隠した。
 
 「これはもうやるしかないな」
「どーするんですか」
「話し合おう」
ええーっ。
先輩はどこからか拡声器を取り出すと、巨人である菊池姉妹に向けて話しかけた。
「あーあーマイクテスマイクテス、本日は晴天なり。聞こえますか?あなたですよ〜菊地さ〜〜ん」
場所が場所だけに、ご近所迷惑というものが無いのがこれ幸いというか。
 どうやら聞こえたようで、私?と自分を指さす巨人。
「そうですよ、あんた!どうしてそんなに大きくなってんの?」
「それは」非常に低いトーンの、元の声とは全然違う地響きを伴うような声が、夢の島辺り一面に響き渡る。
 これで、あの巨人の名前は、怪獣ソレハに決定だな。
人語を解しますけどね、奴は。
ドシーン。
巨人ソレハこと、でっかくなっている菊池姉妹は、言うよりやって見せた方が早いよねと言わんばかりに、私たちを踏みつぶしにかかる。
逃げまどう私たち。どうやら私たちを踏みつぶすために巨大化したらしい。
私たちが木陰に隠れるので、奴はレゴブロックの木よろしく、日を引っこ抜いては投げ、引っこ抜いては投げしている。
 まだ、植えられたばかりの木で、巨人はいとも簡単にその若木を引っこ抜く。
「あぁ、未来に上野に来るコアラの為のユーカリが」先輩が目に涙を浮かべている。
そうか、先輩はコアラ萌えだったのか!
 コアラ萌えの先輩は、ユーカリのために逃げることを止め、ソレラの前に姿を現す。
「先輩危ないですよ〜」
と、私が言うのを片手で制す先輩。
なにやら策があるの?
 ソレラも、覚悟を決めたようだね的に立ち止まる。
いつでも踏みつぶせるという余裕を見せているのだ。
 「あんた、服とかそれ、どうしたの?」先輩が拡声器を使って菊池姉妹に語り出した。
何この期に及んで友達みたいに話しかけてんですか!!
 でも、意外や意外、心細かったのか、菊池姉妹はちょっと待ってねと、リアクションをとった後にドスドスと立ち去り、ドスドス舞い戻ってきた。手に鞄を持って。
「お〜体だけじゃなくて、服とか持ち物も巨大化したという訳か」
先輩がそう言うと、コクコク頷き、次にエッヘンする怪獣ソレハ。
分かり易い。別に喋ればいいのに。
どうやら、さっきの自分の声とは思えない、怪獣の方向のようなボイスに、ショックを受けているご様子。
「じゃぁ、セーラー服も持ってる?そう。着替えなよ?ジャージカッコ悪いよ?」
先輩が、そう提案すると。
自分の出で立ちを、点検し出す怪獣ソレラ。
そうでしょう、あの大きさだと自分の姿を一望できる姿見の鏡も存在しないでしょうから、自分がどんな格好で人様の前に姿をさらしているか確認する手段が無くて、不安だったところを、先輩の一言。
見事な心理作戦です。
「そうね〜、悪いけどちょっと待っててくれる〜」
そういう怪獣ソレハの声に、今度は先輩がコクコクする番だ。
踏みつぶされるのをただ待っている、馬鹿も居ないと思うのだが。
 十分後にセーラー服に着替えた怪獣ソレハが戻ってきた。
隠れるもなにも、遠くに行ってもここから着替え姿は丸見えだった訳だが。
勿論先輩はその辺は指摘しない、怒らせでもしたら、即ゲームオーバーであるからね。
 「これでいいでしょう、じゃぁ、踏みつけて殺してあ〜げ〜る〜」
ヤバイ、全然問題解決してないッスよ、先輩!!
 私が、木陰で身をすくませて動けないで居ると。
「縞々」先輩がボソッとしかし拡声器に呟いた。
すると、ビクッと踏みつける動作が途中で止まったのだ。
!?
菊池姉妹はスカートを押さえて軽く百メートルは後ずさった。
顔を真っ赤にして、
「図ったわねぇ」半泣きである。
 先輩が私にピースサイン。
私は、先輩の所にかけより、拡声器を譲り受けると、ポケットから双眼鏡を取り出し
「そのシミは!?買取査定に好影響」等と、パンツの買取査察を始めた。
その横では、先輩がパシャパシャ怪獣ソレラのローアングルな写真を撮りまくる。
 我々の完全勝利でした。
怪獣ソレラは急速に存在感を薄め、白くてスケスケの巨大な砂の像になったと思うと、そのまま南の方角に倒れた。
それが、現在の若洲である。
 我々は、百メートル先の足元部分に倒れた人影を見つけ、駆け寄った。
菊池姉妹である。
さっきまで居た怪獣ソレハと同じセーラー服姿。
スカートをめくると縞々パンツだったので、間違いはない。
 意識を取り戻しそうだったので、先輩がパシャリとケータイで撮影する。
これを、アジトに持ち帰りネットに流せば菊池姉妹は二度とお天道様の下を歩けまい。
 あれ?何か忘れていないか。
その後、意識を取り戻した菊池姉妹は脱兎のごとく逃げていった。
「構うこと無いわ」その通りである。
写真さえ撮ってしまえば、奴の魂はケータイの中に。
「ああっ」私は思わず叫び声を上げた。
「どうした、哲子」いぶかしがる先輩。
 戻るアジトが無い。
「この子は、何を言ってるのか、そうだった!!」
 ケータイで魂を吸ったのは良いが、それを最終処理するアジトが、この時代には存在していない。
「どうなるんですか?」私は先輩に聞いてみた。
「二日三日はケータイに魂を保留にしておけるんだけど」
「その間に処理しないと魂は」
ゴクッ。
「元の入れ物に」
辺りを見回したが、そこに菊池姉妹の姿は見当たらなかった。
 もう、近くに影も形もありませんでした。
こうして私たちの菊池姉妹捜索はまた振り出しへと戻った。
 
 その翌日、我々が駅前で聞き込みをしていると、突然急接近してくる車が!?
みるみるこっちに近づいて来る、ぶつかる直前に身を翻して車を避けた二人は、運転している人物を確認した。
「菊池姉妹」
ブルルン。ブォ〜〜ン。
車は、行き過ぎるとUターンして、再度こちらに突っ込んでくる気配です。
「二手に分かれよう」
「ハイッ」
二手に分かれて逃げることにした訳ですが。
「え〜なんでぇ」私に狙いを定めたようで、車がこっちにやってくる。
 まだ、障害物も歩道と車道の境目も曖昧な道路を、縦横無尽に逃げまくる私。
車をかわすことは、そう難しくないのだが。
ガソリンで動く車と、疲労が蓄積していく私とでは、私が車に轢かれるのは時間の問題と言えた。
 「ふふふ、そろそろ観念したらどう?ひと思いに轢き殺してあ・げ・る」
キキキキ。
「ごめん被りますよっ」コツン。あっ。
路面電車の軌道に足を引っかけて、転がる私。
待ってましたと轢き殺しに来る車。
もう駄目かと、走馬燈の再生が始まる五秒前。
チンチーン。プゥオーー。とその時異音を軽快に発しながら、路面電車が交差点を左折して来た。
 
 その都電の運転席に先輩の姿を見つけた私は。
ギリギリまで、その線路付近にうずくまっていて、車が猛スピードでやってきて轢かれる寸前に、横に転がった。
ゴロゴロゴロリン。
ドカーーーン。
間一髪で私が難を逃れると、そこでは車と路面電車が正面衝突していた。
電車は急に止まれない、昔の車が丈夫とはいえ、鋼で出来た重量のある都電に車は適わなかった。
前の方をひしゃげて、そのまま電車に押し戻されて三十メートルくらい行ったところで、停止。
ガソリンに引火して、ボッカーンと非道いことになっている。
 ウ〜〜、カンカン。遠くの方から消防車が出動した音が聞こえる。
ガラリ。
都電の出口が開くと、そこから先輩が降りてくる。
「大丈夫ですか?」
「う〜ん、予想以上に効いたわ〜」と、苦笑いの先輩。
 丈夫な車両に乗っていた先輩がこれなんだから、菊池姉妹は、ただでは済まないね。
それに、絶賛爆発炎上中だし。
 色々聞きたいこともあったのだが、それも無理だろう。
やってきた消防と警察に二人は殺しのライセンスを提示した。
カラープリンターとラミネート加工が信じられている間に、そそくさと現場を離れた。
そしていよいよ、現代に戻る準備に取り掛かるのでした。
 
◇5.帰還
 
 何はともあれ、
「これで元の時代に帰れますね。お土産は何がいいかな。」
お土産なんて持って帰れないかー、アハハー。
と先輩に話を振った時のことです。
先輩は親指の爪を囓りながらこう言いました。
「どうやって帰るのかしら」
「ちょっとそれ、どういうことですかー」私が先輩を責めたのも当然であろう。
「来る時はプールの爆発に巻き込まれてきましたけど」
先輩も百も承知でしょうが言ってみた。
すると先輩は私の肩をぽんと叩き、交差点まですたすたと移動すると。
「あれを見てごらん」
と、あきらめのほほえみと共に。
「あ〜。今と校舎が違う」
「そうなんだよね十年くらい後に立て替えるんよ、高校」
「そうなんだ〜。」
学校に忍び込んで壁とか机に落書きしてオーパーツを作ろうとした私の試み断念。
先輩はケータイを取り出すと、
「取りあえず電話で聞いてみるよ」
いつものスペシャルなケータイを使い、時代局番から入力してみかかさんに電話です。
「あ〜みかか?今ね、菊池姉妹を殲滅したんだけど。うんうん。そう。で、これからどうやって帰ったらいいの?」
しばしの沈黙。
「え〜。知らないよ。うん。あっそ。哲子を生け贄にしてその心臓を太陽の神殿に掲げるの。メモメモ。」
「駄目ー。」
「あ、ゴメン。その方法はなんかうるさいのが反対してるからよすわ。うん、じゃぁ、これから戻るから、よろすく〜」
ピッ。終話。
「帰り方解りましたか?」
「うん。あんたの心臓をー」
「はいはい、それは置いて。もっと昭和日本っぽい帰り方を模索しましょうよ」
そうするとあれかね。そういって先輩は、運転を再開した都電に白羽の矢をカコーンと立てたのです。
 「アジトがないと不便ですね」
「本当だな」ファミレスもコンビニも普及していない時代、時間をつぶすのにも一苦労です。
幸い東陽町もまだ、今と比べたら全然人が居ない、少し前の豊洲みたいな上に、天気が良かったので、今は横十間公園になっている川が埋め立てられた空き地にフェンスを越えて忍び込み、芝生を満喫している我らでしたが。
「で、どうやって帰るつもりなんです?」
「みかかが言うにはね、やっぱりイベントが必要なんだってー」
「生け贄は嫌ですよ」
「そう。」ちょっと残念。
「やっぱり爆発ですか?」
「爆発かそれに準じた何かー」
先輩はそういうと、途中和菓子屋で買った、大福を食べ出した。
あああ、寝転がったままだと粉が制服に落ちますって。
「でも、それじゃまるでテロリスト」
「そうでしょ、我々はテロリストだよ、最初に言ったじゃん。」
そういうとごろんと九十度角度を変えてそっぽを向く先輩。
ちなみに私は体育座りしています。パンツは見えていないよな。よしっと。
全くどうしたものかな。私が美味しい大福と芝生と陽気によるトリプル心地よい効果で軽く現実逃避しながら途方に暮れますと。
「やっぱり都電かなぁ」青空に向かって先輩がそういいました。
「都電で飛んで帰るんですか?」
「カエレー」
「いや、帰りたいんです」
先輩はむくりと上半身を起こすと、こう説明を始めた。
「ケータイでちんちん電車をタイムマシンにしてるの。都電ごとタイムスリップすれば、二人ともちゃんと帰れるでしょ。」
そうでした、私のケータイはタイムマシン機能の設定がされていなくて、元来た時代に戻る機能が使えないのでした。
「都電で、イベントって何をするの?」
「我々の時代にはもう都電は東陽町を、というより荒川線を除いて廃線になっているの。」
「それじゃぁ、私たちが都電ごと戻ったら線路は無いうえ車とぶつかって大事故に。」
「大正解。」駄目じゃん。
「でも、小名木川線は我々の時代にもそのまま線路が残っていて。」
「小名木川線?」聞いた事無いですけど。
「江東区を南北に貫く貨物線なの。今では日に数本貨物列車が走るくらいになってるけど。
その貨物線と都電は立体交差しているから。」
「どうしよう。」
「ジャンプすれば?」
「哲ちゃん頭いい。」まかせて。
「ついでにもう一つ。」まだあるのか。
「線路の幅が違うんのよね」言わなきゃ解らないのにこの人は。
「フリーゲージトレインにしましょう!」
「そうしましょう。」
しようと思えばなんとでもなる魔法のケータイを持ってる我々は実にお気楽なもんだ。。
そして、決行するその日の夜を迎えた。
 我々は終電後に寝静まった都電の車庫に忍び込むと。
「居た居た、君にしよう」先輩が一台の都電に乗り込みました。
先輩が乗り込んだのは、昼間に菊池姉妹の車とぶつかった思い入れの一両です。
ドアの鍵にケータイのアンテナの先を近づけると、解錠されます。
あぁ、なんて便利なんでしょう。
私もその機能で、車庫の入り口の門を開いて待ちかまえます。
先輩は運転席に座ると、ケータイをマスコンの代わりにセット。
するとどうでしょう、パンタグラフをあげて通電しなくても、ケータイの電池でヘッドライトが点灯しました。発車の準備完了。
明かりに照らされた私は先輩に向かってうなずきます。
ガシガシッチンッ。
ブゥオーとうなりをあて、ちんちん電車が出庫します。。
私が門の近くで動いている電車に飛び乗ると、運転席横のドアはパタリと閉まりました。
「先輩」
「なんだ?」
「ドア開いてても走るんですね!」しーっ。
「じゃなくて、うまくいきましたね。」
「電車を調達するところまではね。」
電車は信号を守りつつ、東陽町駅前を通過、南砂二丁目団地が建つ手前で左に曲がり、専用軌道に入ります。
「この専用軌道の終わりで、貨物線の下をくぐるんだよ」先輩が楽しそうに運転しながらそう言います。
ううっ私もちんちん電車走らせたいです。
「後で変わってあげるよ。」
「本当ですか!」本当。
「あー哲子はお前のケータイをストラップで適当なつり革に繋いでおいて」
「どのつり革でもいい?」あー。
私は、中程のつり革にケータイをストラップで括り付けました。
すると、線路が少し下り坂になる、貨物線をくぐる辺りで先輩は電車を減速させ、手前で停車させた。
「さて、ええと、どのメニューだったかな」
先輩はマスコンと化しているケータイの液晶を見てボタン操作しながら、電車をジャンプさせてフリーゲージさせる設定に大忙しだ。
それはまるでウィンドウズモバイルの端末に無線LANカードを挿して、無線でインターネット出来るように設定するくらい大変そうに私の目に映る。
「先輩」
「あともう少しだからね」
「星が綺麗です」殴られた。
でも、することが無くて手持ちぶさただった私が見上げた夜空は本当に素晴らしかったのです。
「おや、本当に綺麗だね。帰ったらみかかとイクルミちゃんに自慢しなけりゃ」
先輩がへへへと鼻っ柱をこすりながら笑います。
「帰れたら」
「大丈夫だって。」そういって、私の背中をぽーんと叩くと。
「電車を飛ばして、車輪の幅を縮めるから少し離れていよう」はい。
私たちが少し線路をさかのぼった位置に移動してまもなく、ちんちん電車は、かなりのスローモーションで線路から舞い上がると上の線路に九十度回転しながら着地した。
それは、さながら月に帰るかぐや姫の天空牛車の様な優雅な舞いだった。
「成功成功。」先輩が、どんなもんだいととてもうれしそうにしている。
もちろん私もうれしいです。
 二人で、都電の線路を外れて、貨物線に沿って上っていくと、都電も私たちの方へ徐行してきました。とっても賢いんですね。
「ATOよ」
「スペーストルネードオガワ?」
「すぺーすとるねーど」先輩が指を折り曲げながら少し考え、
「全然あって無いじゃないの」また凄く怒られた。
「さて、いよいよね」電車に乗り込むと、
「哲子が運転しなさい」先輩が真顔でそういう。
「えっ」確かに運転したいなぁとは思ったけど。いざ任されると。
「どうしたの?」先輩はそういうとすたすた、さっき私が自分のケータイをセットしたつり革の所に行きケータイに捕まった。
おろおろしている私に。
「早く発車しないかなぁ、この電車」はっはい、ただいま。
私はプシューとドアを閉めると。
カツカツッガコッチーンと電車を発車させた。
アジトに電車でGO!が置いてあったので、一応なんちゃってな電車の運転は可能。
それに、マスコンがケータイだし、実は何やっても大丈夫なんじゃ。
「先輩それで、これからどうしますか?」
「いきなりフルスロットルにしなさい」私は言われたとおりに最大出力にマスコンを回した。
すると、聞こえる音と車窓の風景が変貌を遂げた。
「なっなんだこれー。」
「タイムトラベルが始まったんだよ」
「これで元の時代に帰れるかーらーー」せ、先輩!?
ミラー越しに見る先輩が遠ざかってる。というか、くるくる回って後ろに吹き飛ばされて行くじゃないですか。
「ちょっと先輩、何やってるの?一緒に帰れるんでしょ!」それなんて冗談!
「私は、哲子のケータイで帰るから、心配すんな」
「ちゃんと元の時代でピタリと止めて、元の時代に帰るんだからね」
次の瞬間世界は全体が真っ白になり、私は目を開けていられなくなった。
すると今度は、音が普通の電車の走行音に戻り、目を開けると車窓も普通に夜のそれ風に見える。
カーンカーンカーン。
えっ踏切。
一日三往復しか列車の通らない貨物線の踏切に突如ちんちん電車が超スピードどで通り抜け、通った後の線路は当然燃えていた訳で。
「ブッブレーキ」
私は最大出力になっていたアクセルを回して止めると、今度はブレーキを思いっきり効かせた。
踏切の先は、線路がカーブしているのだが、そんな操作にもかかわらず、ちんちん電車は横倒しになることなく結構行きすぎてから停車した。
「ふぃ〜」手で額の汗をぬぐうと、私は車内に先輩の姿を探す。
だが、一両だけの車内をいくら探しても、先輩の姿が見あたらない。
私が虚脱していると、踏切から人がやってきて、なにやらわめいている。
そして、サイレンが鳴り響き、警察と消防がやってきた。
また警察沙汰。別にどうでもいいやって感じで、特に何もしないで身を任せていると、レスキュー隊がドアを破り、中の哲子を確保し有無を言わさず救急車に乗せて病院に搬送した。
 私は元の時代に戻る事が出来たんだろうか。
ケータイの日付を確認する、あっケータイじゃ駄目か。
新聞かテレビを探すが、近くに見あたらない。
そこでまた、深い眠りに落ちた。
 目を覚ますと、窓の外が明るい、あれから何日か経ってるのかなぁ、これも時差ぼけというのか哲子の三半規管は一日の長さを正確にまだ認識できずにいた。
「先輩。」
先輩は最初から、元の時代に確実に戻れるのは一人だけと言っていた。
それなのに私は、電車に乗れば二人で帰れるものとばかり……。
多分、絶対に先輩は最初から私を元の時代に戻してくれる気だったんだ。
それが、譲り合いになるのが嫌だから、あんなイベントにパッケージングして。
「先輩が居ないのに、私だけ戻ってきたって。そんなの意味無いのに」
私は、わんわん泣きながら、ケータイのお気に入りに入れてある先輩のブログを確認していた。
私は、ブログを見て驚きました。ブログが更新されていたから。
○月×日
手動によるタイムトラベルを行う。
目が覚めた時、ここはどこだろうと、見当も付かないところだね。
東陽町か?ここ。いや、東陽町じゃないだろう。
っていうか、江戸時代の日本橋!?やった、入館料儲け!
 事実を確認して、うつむく私。
先輩が手動でストップをかけた時代は、元来た時代よりだいぶ前だったようです。
「先輩。」私が、失ったものの大きさに虚脱していると。
コンコン、ノックの音がして誰かがやってきました。
「あ〜目が覚めたんだね、良かったよぅ」そう明るく話しかける人の姿は、先輩にそっくりです。
「あのぅ、あなたは?」先輩によく似た人の笑顔が曇る。
「ちょっと…」
「あなたは、そのぅ園子さんの娘さん?お孫さんですか?そっくりですね。」
私は、その時可能な精一杯の笑顔で彼女にそう言った。
「孫だよ。」うっ。
「そ、そっかー」でも、孫がいると言う事は。
「お婆ちゃんまだ元気かな?」
「死んだ」うっ。
「そ、そうなんだ」お孫さんの方が震えてる?
あのう、大丈夫?と言おうとした刹那。
哄笑。お孫さんが、腹を抱えてゲラゲラ笑い出した。
えっ!?
「何いってんだよ哲子、冗談に決まってるっての」
「私は、元の時代に戻ってるの?」お孫さんがうなずきます。
「お孫さん?」お孫さんが頭を振ってそれを否定。
「娘さん?」
「違うでしょ」
「先輩!」私はベッドから飛び上がると先輩に抱きついた。
私の勢いで二人とも、床に転がってしまった。
でも、この際そんな事どうでもいい。
先輩は私の頭をなでると、
「お帰りなさい、哲子。」
「はい。」
私たちは二人で一緒に大笑い。過去からの帰還を喜び合ったのでした。  
 
◇6.アジトの陥落
「なるほど、そう言う訳か」
先日哲子の家へ出向き借りてきた哲子の母の写真と、生年月日その他のデータを元に構築したバーチャルな黒幕との対話をしていたみかかは、何かを掴んだようだ。
 アジト内部には、イクルミもいるが二人とも無駄口は開かないから静か。
相互に信頼しあっている安心感、心地よい沈黙がアジトに訪れていた。
 アジトの他のメンバー二人は、昨日から出張中だ。
厳密には、過去にタイムスリップしてしまい、現代に居ない状態である。
 一応連絡は付いたのだが、一緒にタイムスリップしたフカガワ要素を片付けてからでないと、すぐ現代に戻ってくる訳に行かないのだ。
 そんな状況の中、アジトに警報が鳴り響いた。
すぐさま、監視モニターを点検する。
「何これ」
みかかは思わず言葉を失ってしまう。
そこには、おびただしい数のヘドロスライムがアジトに押し寄せて来る様子が映し出されていたからだ。
 
 アジトの所在は敵に気付かれていただろう。
それでも、今まで敵が攻め込んできた事はなかった。
それなのに何故、今、大群でアジトを襲うのか?みかかは考えた。
イクルミはといえば、既に完全武装して出入り口に仁王立ちである。
「そうか、タイムトラベルはやつらの陽動作戦!私たちを二つに分けて、その隙にアジトを攻め落とすつもりか」
 ビービービー。サイレンが響き渡る中。
ドーン。大量のスライムが、ドアに体当たりを繰り返し、穴を開け、そこから漏れ出すように、アジトの中心である、この部屋に迫ってくる。
 幸いまだ、ドアに小さな穴が開いたに過ぎないため、イクルミはまだ余裕で対応が出来た。
「みかかちゃん、今のうちに自動販売機から逃げて!」
みかかは、首を振って
「いや、私は逃げないよ」
「なんで!どうしてぇ!!」
「!?」
突如としてイクルミは体の自由を失った。
「動けない〜整備不良みたい」
危機感の無いイクルミの声の響く中、扉の穴はみるみる大きくなり、部屋はスライムで足の踏み場もない状態に。
「いいの、私は降伏するわ」
「え〜〜っ」
イクルミが驚いて抗議の声を上げるが、何せ、声しかままならない。
体の自由を失っているのだ。
 みかかは、どこかから見て居るであろう、攻撃部隊のボスに向かって、降参を示すために、椅子から立ち上がり、軽く目を閉じ、両手をけだるそうに上に上げてみせる。
「ブーブー」
抗議の声を止めないイクルミ。
すると、
「物わかりが良いわね、流石みかかさん」
どこからとも無く敵の大将らしき声が。
みかかは、それを聞き、フッと軽く笑う。
程なく、黒子が四人アジトに侵入してきてみかかを連行していく。
「ボス、こいつはどうしましょう」
「スクラップにしろ」
「エーン」
イクルミは、黒子二人がかりのストンピングで解体されていった。
 
 アジトとの連絡が取れなくなった事を不審に思った二人が、なんとか過去から現代に帰還してポリ容器置き場を訪れると。
「ドアが開いてる」
嫌な予感を胸に、中にはいると、秘密の入り口である壁には大穴があき、内部はヘドロ臭が充満していた。
 それだけで、ここで何があったのか判断するのに十分な状況である。
「私たちが居ない間に……。みかかさんとイクルミちゃんは無事ですよね?」
「……。解らない。」
先輩も、いつになく渋い表情である。
 足元に気をつけながら階段を下ると。
アジトの内部は、めちゃめちゃに荒らされていた。
その上を、ご丁寧にヘドロでコーティングしてある。
うへぇ。二人で手がかりを探していると。
コツン。
何かが哲子の足にぶつかった。
なんだろうと、ヘドロに手を突っ込んで引き出すと。
「ギャーー」
「どうした?」
私が拾い上げたものは、イクルミの生首だった。
「おうおう」
先輩が、私の放り投げてしまったイクルミちゃんの生首を拾い上げる。
「生きてるか?」
な、生きてる訳無いジャン。
「あやっ。博士。帰っての〜嬉しいよ」
それは見事に生きていた。
「何があった」
「フカガワの襲撃にあって、みかかちゃんがやつらに連れて行かれちゃった」
 アジトの惨状を見て、おおよそ察しは付いていたが……。
みかかの状態については、予断を許さない。無事でいてくれるだろうか。
「イクルミ何やってたんだよ。みかかの護衛だろう、お前は」
先輩がイクルミちゃんの生首をシェイクしながら問い詰めると。
「先輩、そんな、イクルミちゃんだって悔しいんだよ、ね?」
「うん、私悔しい。体が動かなくなって」
「!?今、なんて?」先輩の表情が変わる。。
「敵の侵入が始まって、すぐ、私の体が整備不良のために活動を停止してしまった」
そうか、先輩が過去に行ってたから、メンテナンスできなかったんだ、イクルミちゃん。
「ちょっと待って、それおかしいだろう」
「何が変なんですか?」
「お前、なんでメンテナンスしてないの?」
「昨日は、メンテナンス来なさいって指令来なかったよ」
先輩が、何か考えている。
「あのぅ、先輩が居なかったからメンテナンスが出来なかったんじゃないの?」
「いや、私が居る必要はない。みかかが五月蠅いからね。私が居ない時メンテナンスできないとどーするんだって。だから、イクルミのメンテナンスはオートメーション化してあるんだ」
「なんで、メンテナンスされてなかったのか、どのみちイクルミの体をなんとかしないといけないし。
イクルミもピックアップできた事だし、もうここに用はないわ、病院に行くわよ」
私たちは来た時よりは多少軽い足取りでアジトを後にする。
「メンテナンスする病院ってどこにあるんですか?」
「あれ?哲子に言ってなかったっけ?木場病院の地下にあるのよ」
「ハックション」
生首のイクルミちゃんがクシャミをした。
体がないと寒いのだろうか。手がないと、口をカバーできないので、大変である。
って、イクルミちゃんはサイボーグでしたね。エヘヘ。と杞憂と思って横を見ると、先輩はいや〜な顔してらっしゃる。案の定、先輩の服はイクルミちゃんのクシャミが被弾した模様。渋〜い表情も、そこは普段の様にキレたりはしない。生首のイクルミちゃんにはそれなりの慈愛を持って対応しているみたいだ。
 
先輩はイクルミちゃんの頭を手頃な鞄に詰めこみ、アジトを後にする。
向かう先は木場病院の地下だ。
「木場病院に地下があったとは驚きですよ」
私が率直にそう言うと。
「そうか?あそこは木場公園の隣でしょ。木場公園の地下には都営大江戸線の木場車庫があるのよ」
「なるほど。」
何がなるほどかは、自分でもよくわからないが、そう言う事にしておいた。
これから行って見るんだし?
 深川高校の横を通り抜け、大横橋を渡り、木場公園の外周にそって私たちは木場病院へとやってきた。
「先輩、それ重くない?」
「大丈夫」そうは言うものの、笑顔が引きつっている。だいぶ重いのだろう。
ボーリング玉くらい?
「ごめんね〜」頭だけのイクルミちゃんが鞄の中から声だけで謝る。
結構不気味である。
 不気味度具合においては夜の病院も負けてはいない。
消灯され、寝静まっているようではあるもの、緊急外来に備えてスタンバイしているという。夜の学校とコンビニの中間のような立ち位置だろうか。
 正面玄関から堂々と中に入る。
エレベーターに乗り込むと先輩がなにやら、秘密のボタン操作をエレベーターのボタンに行っている。手慣れた感じ。
 
 ボタンを押す回数が多いのは、病院が低層の建物な為、使えるボタン数が少ないからである。
十字キーにボタン二つのコントローラーで移植の格ゲーを遊ぶみたい事である。
ボタンの同時押し上等!
「ふぅ」と先輩がアクロバチックな手つきによるボタン操作を完了させると、エレベーターが下にゆっくり動き出す。
これが下に付くまで結構時間が、結構深いゾ。
「このボタン操作は、見直す必要があるな。
たまにど忘れするし、ボタンを酷使するのも良くない」
「はぁ……。」好きにしたらいいジャン。
エレベーターはチーンとそのドアを開いた。
 
 地下空間は、夜の病院というより、夜の水族館を連想させた。
薄暗い照明がブルーを基調としているからだと思う。
 間取りは、一階と全く同じになっていて。待合室の椅子から、掲示板の位置、天井からつり下げられた薄型テレビまでも一緒である。
決して背景のCGを使い回すからこうしているとも思えないのだが。
 先輩は、その待合室の椅子に鞄をおろして、イクルミちゃんの頭を取り出すと、それを小脇に抱えた。
「どうする?哲子も一緒に来る?それとも、ここでテレビ見ててもいいよ?」聞いてきた。
私は勿論、
「お供させていただきますと」意気込んで言ったわよ。
言ったあとで、グロかったらどうしようという不安が一瞬頭をかすめたけど、もう後の祭り。
 Pタイルの床に私と先輩の足音だけが、コツコツと響き渡っていた。
 
 機械を開けて、そこにイクルミちゃんの頭を入れてから蓋を閉じ、セット完了。
先輩がボタンを押してスタートさせると、後はなんだ待つばかりである。
「どのくらい時間がかかるんですか?」
「二十分くらいかな。普段は体はそのままで、バックアップとるだけなんで三分くらいで済むんだけどサ」
そうなのである、我々はイクルミちゃんの東部だけを廃墟と化したアジトの内部から探し出してここまで持ってきたのであった。
「頭が無事で良かったですね」私がそういうと。
「そうだな。別に頭が駄目なら駄目で、イクルミは復活できるんだけどな。やっぱり記憶の連続性という意味で、それに事件の貴重な目撃者、生き証人でもある訳だからね」フライトレコーダーかと少しイクルミちゃんに同情する。
 待ち時間の間、私は先輩に給湯室の場所を聞いてお茶を煎れた。
イクルミちゃんの分は要らないから、二人分で良いのかな。
お茶を煎れ、飲み終わる頃には、作業は完了し、
「ピーッ」ブザーが鳴ると、別の扉が開いてそこからイクルミちゃんが出てきた。
ニコニコして、手を振っている。
良かった、すこぶる元気そうジャン。
 私はイクルミちゃんに近寄ると、おそるおそるイクルミちゃんの手に触れ、そして抱きついた。
「お久しぶりだよね」
そうだ、私たちは過去に飛ばされて、帰ってきたらこんな事になっていて。
「おかえりなさい」
「イクルミちゃんこそおかえりっ」
グスン。
「哲子は涙もろいなぁ」
「泣いてません」
そう言って、振り返ると先輩はボロボロに泣いていた。
 
 「私もお茶飲みたいな」
「あぁ、ごめん。こんなに元通りだと思わなかったんで」
私はお茶を煎れるべく給湯室にかけだした。
 三人で丸いテーブルを囲んで座り、お茶を頂くことにした。
そして先輩が切り出した、
「一通りデータは見たわ。でも、イクルミに説明して貰おうかしら」
「はい。」頷くと、イクルミちゃんは珍しく真顔で語り出した。
「博士と哲子ちゃんが過去に行った次の日に、見たことがない数のスライムを引き連れた菊池姉妹が、アジトを襲撃した。多勢に無勢、アジトが堕ちるの時間の問題でした。
私は時間稼ぎするからみかかちゃんに逃げてっていったんだよ。」
「でも」
「うん、みかかちゃんが逃げないって。そうこうしているうちにワタシ躰が突然動かなくなっちゃって」
「なるほどね」
「どうしてみかかさんは逃げなくて良いって言ったんだろう」
「みかかは敵に連れて行かれた、投稿したんだね?」
「うん、そうだと思う。」
 
「イクルミちゃんの体が動かなくなったと聞いて、まさかと思ったんだけどねぇ。ここのログと、みかかのもの言いから見てーみかかはわざと捕まったんじゃないかな」
「本当ですか!」
「言い方が悪かったかな、自分の意志で敵側に身柄を押さえられた」
「あの時ワタシの体が動かなくなったのもみかかちゃんがやったの?」
「うん、ここの、メンテナンススケジュールがキャンセルされてたの。それで、イクルミにメンテナンススケジュールが正しく発信されていなかったのね。そんなことが出来るのは、私とみかかしか居ない」
「あとは、先輩がミスしたかですよね」私が軽口叩くと、
ギロリと先輩ににらまれた。私は体を小さくした。マジ怖いッス。
「でも、どうしてみかかちゃんが敵にわざと掴まろうとするんだろう」
「それは、ちょっと私にも解らないけどな。けど、状況から考えると、わざと掴まったとしか思えないジャンか」
 まぁ、自分で逃げないってイクルミちゃんにそう言ってるんだから、そう言う事になるのかな。
 
「ところで思ったんですけど」私は手を挙げて発言する。
「おかわり?お願いするわ」
もう、お茶も冷めきっているけど、
「そうじゃなくて」
「あら?」
「菊池姉妹って何人いるんですか?それに、彼女たちの適当な名前も気になってるんですけど」
「ほぅ、哲子ちゃんも気付きましたか」
「?」
「菊池姉妹はイクルミちゃんと同じよ」
「まさか」
「人造人間なんだよね」
「ええ〜っ」
 
「一体全体どういう事ですか?なんで敵も先輩が作ってるのよ!」
私が声を荒らげてそう聞くと、
「いや、私が作ってる訳じゃなくて、技術移転というか、研究データは敵さんも同じのを持っている訳でさ」
 私は人造人間の存在さえも知らなかった。それは、私がテレビや新聞を読まないからではなくて、一般的に知られていないと思う。
人知れぬ所で、フカガワと東陽町はトンデモナイことになっているなと、私は思ったのだった。
 
「それで、どうしようか〜」
今度は何を考えてるんだ、先輩。
「みかかちゃん居ないと寂しいよ」イクルミちゃんが本当に寂しそうに言う。
まだ死んだ訳じゃない。
「そうだよね〜なんかかっこつかないし、取り敢えず?」
この胸騒ぎは何!?
「みかかも作っちゃう?」
「ヤッホー」立ち上がり、大喜びするイクルミちゃん。
おいおい。私は顔面蒼白する。
「作れるんですか?」
「うん」
そんな嬉しそうに肯定しないで。
「だって、みかかさんまだ生きている可能性が」
「いや、生きているだろう」
いぶかしがる先輩。
「哲子ちゃん、みかかちゃんを殺さないで〜」
あうあう。
 まぁ、良いか。出たとこ勝負で。
どうなるか私も楽しみだし。ただ、この時脳裏をよぎったのは、人造人間の私も既に出来上がって居るんじゃないんだろうなぁという、そんな居心地の悪さは感じた。
 「それで、いつぐらいに出来上がるんですか?」人造みかかさんは。
「一週間ぐらいは見て欲しいかな。その間にあんた達二人でポリ容器置き場の掃除よろしく頼むわ」
うへぇ。
「あそこはもう危険じゃない?」イクルミちゃんが先輩に尋ねる。
「イクルミが万全なら問題ないでしょ。勿論、セキュリティーは強化するけどね。他に、最適な場所が思いつかないし。だって、町中の自販機がアジトに繋がってるの、全部作り直すの大変じゃないの」
確かに、もしあれをどこか他の場所に繋げ直すとしたら、相当に大変だろうと思う。
 と言う訳で、翌日から私とイクルミちゃんでアジトを掃除する日が続いた。
この頃、陽気は段々と暖かくなってきていて、アジトと言えば、洪水被害にあった家屋よろしくな状況な訳で。
「くっさ〜〜」
マスクしてても猛烈な臭気です。
そんな中、てきぱきと豪腕で粗大ゴミを運び出すイクルミちゃんが羨ましい。
「イクルミちゃんは臭くないの?」
「臭いけど、我慢できるから」
「どうやって?」
「嗅覚をカットすれば良いんだよ」
ごめん、それ私には出来ない……。
 
◇7.決戦!
  コスプレ勝負は木場の角乗りをしながら行うこととなった。
しかも、木場公園の専用プールではなくて、どぶ川で角乗り。
「どうして、どぶ川で?その前になんで角乗りなんすか!?」
「こっちの方がスリリングで良いでしょ。」
「いやだー」
「それに、ただの材木じゃない!この材木は廻せば廻るほど川の水を浄化する魔法の材木その名も『きれいにする棒』なんだから」
「更に、川辺から勝負を見守る観客どもに、木場の角乗りアイスキャンデーを販売して一儲け」先輩は妙にイキイキしている。
「っていうか、先輩?勝負の目的忘れていません?」
「それはそれ、必ず勝って、東陽町を解放する。でも、商売は商売よ」
 
 対決のルールは、それぞれの代表がコスプレして角乗りを行い、コスプレの評価を競うというもの。
川に落ちたら、その時点で失格。
四名による勝負で、二対二のイーブンの場合は、総得点の多い方が勝ち。
 
 そして、決戦当日。 
第一試合はイクルミちゃんと菊池姉妹の水着対決。
「そのまんまじゃない」
イクルミちゃんの白いビキニ姿を見て先輩がツッコミを入れる。
「水着ってコスプレなの?」
「レディ、ゴー」
二人とも人間らしからぬ猛ダッシュだ。
落ちないようにとか、材木を速く回転させることに特化した走り方ではないマジ走りを二人とも行っている。
いきなり盛り上がるお客達。
水かぶり席のお客さんには水しぶきが容赦なく降りかかっている。
あれ?その悲鳴かな?
回転する高速で材木の周囲の水が深緑から透明な水に変わって行く、浄化されているのだ。
勝敗はあっけなかった、イクルミちゃんがきれいになった部分の水を見て泳ぎたかったのを我慢できずに、だって水着だしぃ〜?
ドボーンと川へ転落。
一人になっても菊池姉妹は上手に材木を回し続けていた。
まずは、深川の一勝。東陽町の一敗である。
「ちょっと〜プレッシャーかかるじゃないの」
先輩が非難の声を上げる。
「エヘヘ」と濡れた体を拭きながらイクルミちゃん。
 第二戦は、深川チームは菊池姉妹、こちらからは先輩だ。
「次鋒で良いんですか?」
「十時十分三十秒をお知らせします、ピッピッピピ〜〜」
「時報だ」
「時報だな」
どうやら大丈夫みたい。いつもの先輩だ。
 どっぽーん。いきなり駄目だった。
「私、運動神経切れてるんだよね」とタオルで拭きながら苦笑いをする先輩。
ちなみにコスプレはバニーガールでした。
いきなりの二連敗に、チーム東陽はもう後がない。
 第三戦は深川チームからは裏切りのみかかが、こっちはみかかのアンドロイドみみかを出場させる。似たもの対決である。
「解ってるよな、もう負けられないんだぞ」先輩がみみかにプレッシャーをかける。
お前が言うな!と思わず突っ込みたくなる。
みかかの様子を伺うに、どうやら自分の存在を脅かすものとの勝負に、動揺している様子。
「キャラがかぶるんだよね〜」なんかブツブツ言ってる、怖いよ。
「先輩カツを入れましょう」
「よしきたっ」ビターン。
先輩がみみかの頬を張って気合いを入れる。
ビターーン。
私もそれに続いた。
あれ?なんか気持ちいい。(哲子はストレスが5解消された)
「痛いです」あっごめんね〜でも、気合い入ったでしょ。
「はいりましたーっ」
みみかちゃん、暴れないでちょーだい。。
「みみかは、みかかには負けない」
「よしっ行ってこい」
先輩が、川岸に引き寄せられている材木を指さした。
 みみかが着ているのは体操服だ。萌えですかね?
対するザ・オリジナルみかかはメガネにスーツのOLさんルックだ。
「レディ・ゴー」
どっぱーん。
ミニスカートで角乗りは無理がありすぎだろう。
「無様だな」
「ええ、本当にそう」
取り敢えず、敵方が馬鹿でこちらとしては助かった。
「みみかちゃん良くやった!」
「いえ〜い」
余裕で角乗りを続けつつ、ピースサイン。
 いよいよ、大将戦。私の出番だ。
敵方はお母さんが、そしてコスプレテーマはセーラー服であった。
「頼むよ哲子、あんたにかかってるんだからねっ」
「もしも私が負けると、どうなってしまうのでしょう」
負けた先輩に対して、どうして卑屈に出るんだ、自分!
「東陽町の独立が果たせないじゃないの!」
「それだけ?」なら、私はー。
「そうだねぇ、追加景品として学校に三年間全裸で登校する権利をプレゼントしてあげる」
「要らないわっ!!もし、貰ってもボディースーツを着て登校しちゃうんだから」
それも、嫌だな。
この勝負絶対に負けられん!
 着慣れたセーラー服にズバッと着替え、姿見で最終チェック。よしっ。
柵を乗り越える。パンツをチラ見させるファンサービスも忘れない。
「おぉー」どよめきが巻き起こる。
えっ嘘!お母さんへの歓声!?
大人の下着に、思わぬ後れをとってしまった。
 柵に掴まりながら、片足ずつ材木に乗り移る。
「準備は良いかな。レディーゴー」
びしゃびしゃびしゃ。
私は、アンドロイドではないので、見た目の派手さよりも、川に落ちない様に、そして、あわよくば相手を落とせるように、足元に意識を集中させ、材木をくるくると回転させる。
よしっ、大体コツは飲み込めたのね。少し余裕がが出来た!
右側のお母さんにチラッと視線をやる。
お母さんそのスカートやっぱ短すぎるよ。
ローファーを護岸に脱いでおき、ルーズソックスに、短いスカート。
元々長い足がミニスカートとルーズによって引き立っている。
ロングヘアーが、左右に整然と揺れ、視線が下半身に偏らない、全身トータルでの魅力を、見るものに振りまいていた。
これはマジヤバイ。シャレにならないって。
そもそも、この対戦は私がお母さんを川に落として、その上深川との総得点勝負で勝利しなくてはいけないのだから。
 私は、危険を冒してでも、勝ちに行かなくてはいけない。
そこで、慎重な足取りを放棄し、一転!全力疾走を開始する。
「うおーっ」
どよめく観衆。
そう、これが乳揺れの効果だ!
お母さんもグラマーなのだが、長身が災いして、胸に注目が集まらない。
私は、小柄な上、胸を激しく揺さぶって見せたものだから、これは決まりでしょ。
 本当に決まった。
お母さんが、材木から足を踏み外して川にドボンと落ちたのだ。
何故かって?水を吸ったルーズソックスが重くて、材木の回転に付いてこられなくなったのと、やっぱり年かね。うふふ。
靴を脱いで、材木に上がった時点で
「武蔵破れたり!」ビシッと勝ち名乗りを上げる私。
「あんた小次郎なの?」
「あっ」
 二勝二敗のイーブンで、勝敗は総得点勝負となった。
どきどきどき。やれることはやったけど。本当に勝てるの?
水着勝負でイクルミちゃんが上回り、バニー勝負で引き分け。
ブルマとOLの対決では圧勝し、私のセーラー服勝負でも上回った。
チーム東陽町の勝利であった。
 「負けたわ、哲子。本当に大きくなって」
「あんっ」
胸をもみながら敗北宣言する母である。
どう見ても、悔しがってるんだが。
 
 みかかさんも後ろから近づいてくる。
「う、裏切りものがきたー」シャーシャーと先輩が威嚇している。
それを無視して、みかかさんは自分の複製であるみみかの元へと歩み寄り、マジマジと見つめたりつんつんしたりしている。
 二人がにっこりと笑顔を見せた。どうやら今のでわかり合えたようだ。奥が深い。
「データを元に構築した、バーチャル哲子のお母さんと話してみて、解ったんだ。お母さんは、哲子にリベンジがしたいんだ、その為に深川のドンをして居るんだったね」
「そんな」
「それで、私は深川内部に入って、お母さんに納得して負けて貰おうと思ったの。お母さんにとって深川の覇権なんて手段であって目的ではなかったんだからね」
「一言ぐらい言ってくれても」
「敵を欺くにはまず味方からってね。それに……」
「私は解ってたよ?」
「ワタシも信じてたー」
「あぁ、二人してズルイ〜。私だけ無駄に悩んで損したんじゃないかぁ」
「まぁ、そう怒りなさんな」
先輩がひっついて、乳をもんでくる。
「お母さん」
「負けたわ哲子ちゃん。でも、哲子ちゃんが現役高校生なら負けても仕方がないわよね。っていうか、現役はコスプレじゃないから、負けたうちに入らないって言うか、私の反則勝ち?」
「なるほど、負けて納得してる」
「ご本人は勝ったつもりみたいだよ。でも、取り敢えず納得はしてるでしょ」
「これで、家族揃って暮らせるな。良かったな哲子」
「うそっ」驚いてお母さんを見る。
すると、
「そうね、お母さん修行の成果で現役高校生の哲子ちゃんと、セーラー服のコスプレでバリバリ張り合っちゃったし、これならまだまだ私の制服も売れるって!!」
呆然とする私の小脇を先輩が小突いた、
「そ、そうだよね〜お母さんまだ全然高校生で通用する!」
「きゃーホント!」
やったぁ。ばんざーい。
こうして、ブルマオフは家族三人で、今後はコスプレ衣装のリサイクルも手がけてやっていくことが決定した。オヤジの承諾得てないけど。
 
◇8.北へ
 さて、無事東陽町を解放したポリ容器置き場だったが。
「やることが無くなりました」
「暇ね」
「ちょっとあんた達お店手伝え!」
アジトでだれていると哲子と園子にみかかが正論を吐く。
「応援するほどお客さんが入ってない」
先輩が本当のことを言いました。
そう、AV東陽は家電量販店の進出や、大型スーパーの開店で実は街の電器屋さんの地位をかろうじて死守するのに精一杯。
「アキバも近いしね。誰が買う?」
っていうか、最近はネットで買っちゃう?
「AV東陽はネット通販とかしていませんよね」
「ぐっ」痛いところを突かれるみかか。
「こんなにハイテク(死語)なのにネット通販もしていないなんて」
アジトにはでっかいプラズマディスプレーからD-snapまでパナソニック製品が溢れていた。
「しょうがないじゃない」
「なに?」「聞こえませんよ」
「安くないのにネットで売れるかー。楽天に出品するにも金がかかるんじゃー」
ドッカーンとみかか火山が大噴火。
そう言う訳か、最近店名がAV東陽からリフォーム東陽に変わった訳は。
「いっそのことラーメン屋始めようぜ、ラーメン東陽」と先輩が茶々を入れる。
「するかーっ。働けニート!働かざるもの喰うべからず!!」
私たち学生なのに、そんなニートだなんて酷い言いよう。
 こんな案配で、解放された東陽町は果てしなく暇だったのです。
 
 「そもそも深川が滅んでしまったのが悪いんだよ」
お店で仕事したくない先輩がそう言った。
いや、別に深川が滅んだ訳じゃないんだけどね。
ただ、東陽町が解放されただけで。
「で、今度はどこ相手に喧嘩を売るんですか?」
私はそんな事を口走っていた。
「この口かー」
刹那先輩にほっぺたを思いっきりつねられた。
「殴ると私の手も痛いから抓るに限る」
あぁ、昔小学校の先生がそんな事を言ってた気がします。
体罰反対!
 そこにイクルミちゃんが階段を下りてやって来た。
私は、助け船とばかり。
「イクルミちゃんどこかに退治出来る手頃な深川無い?」と口走る。
イクルミちゃんは、ちょっと間をおき。
「あるよ」
ないよね、あるわけ。ええーっ。
なんでも聞いてみるもんだなと思った、私でした。
 
 「そんな都合のいい深川が」先輩も当然半信半疑だ。
「イクルミちゃんどこにあるの!教えて!?」
「北海道にあるよ」
北海道。皆さんはご存じだろうか、北海道を。
はるか北にあるという、ゴキブリも未達の地、それが北海道である。
「よし、そこ滅ぼすから」
「なしてー」私の当然至極真っ当な質問に先輩は。
「我々が喰っていくために、そして正義の味方であるためだよ」
フハハハハーと笑っている。どう見ても悪役です、本当にありがとうございました。。
 「それにしても、北海道か。少し遠いなぁ。今回の任務は哲子とイクルミちゃんでやっといて」と先輩が意外なことを言う。
「ええっ良いんですか?海の幸ですよ?」
「かまへんかまへん」なんかひっかかるよ。
すると、イクルミちゃんが。
「電車で行けるよ?」と。
先輩の表情がかげる、さては。
「先輩飛行機が」ストーップ。
先輩からストップがかかった。皆まで言うな!?
「そうさ、私は飛行機に乗るのが怖いんだよ」
!?先輩が心なしか震えて見える。
「まぁ、あんな事があったら無理もないけどね」
そこへ、話を聞きつけたみかかさんが階段を下りてやって来て言った。
「あんな事って?どんな?」
「言ってもいい?」みかかさんが先輩に聞く。
先輩は、特に答える風でもなく、ぐったりとイスに身を沈め、青い顔して目を閉じている。
イクルミちゃんが給湯室に濡れタオルを用意しに向かった。
 
 「あれは園子が六歳で月探索のメンバーに選ばれた時」
「えっ飛行機じゃなくてロケット?」
みかかさんが頭を振る。
「発射されたロケットに飛行機が」
「まさかぶつかっちゃったの」
またまた頭を振ると。
「飛行機がロケットに恋をした」
なんじゃそらと当然思いましたが、流石に今回は黙って先を待ちます。
何も言わない私をみかかさんは目でチラッと確認すると話を続ける。
「その飛行機を操縦していたのが、ロケットに乗り遅れた園子だったのね」
う〜〜ん。
「それでどうなったんですか?ロケットに乗り換えられたの?」
「それが、高度が高くなると、ロウで塗り固められた飛行機の主翼が溶け出し、アマゾンに墜落したって訳」
「先輩は無事だったの?」
「奇跡的に無傷でね、そこからAmazonプライムで翌日月に配送されたんだけど、その時ダンボールに無理な姿勢で入っていた後遺症がね…今でも」と、首をさすりながら先輩が苦虫をかみつぶすように。
「視力が落ちちゃって」あはは。
「ダンボールの中で本読むからだよ」とイクルミちゃんが、めっと叱る。
「暇だったんだからしょうがないじゃん。それに、アマゾンのダンボールの中だよ?そこで本を読まないでどうするみたいな」
この人本当に飛行機恐怖症なんだろうか。私は心配するのがアホらしくなった。
 そんな訳で、私とイクルミちゃんは二人、羽田空港より北海道目指し機上の人となったのだった。
 
 「みかか大丈夫?」
「ええ」自室のベッドで横になっているみかかが園子にそう返す。
ここは、みかかの家のみかかの部屋である、ちゃんと地上で、ちなみに一軒家。
 実は今回の北海道遠征を哲子とイクルミちゃんに任せたのにはある事情があった。
「うっ」みかかが苦しげな声を上げる。
園子は立ち上がり「産まれそう?」
眉間にしわを寄せて脂汗を流しながらみかかは無言で頷く。
園子は濡れタオルでみかかの顔を拭くと、
机の上の洗面器を掴み、掛け布団を持ち上げてセット。
すると、少し遅れてコローンと音が。ギリギリのタイミングだった。
「ふぅ〜」と二人して安堵の溜息。
園子が手で額の汗をぬぐい、洗面器を布団から慎重に引き出すと、
そこには果たして金の卵が一つ。
そう、みかかは金の卵を産むことが出来る特異体質だったのだ。
 
 「おつかれさま」まだ辛そうなみかかに園子がそう声をかける。
それに無言で、用が済んだなら出ていってくれと言わんばかりにそっぽを向くみかか。
そんな普段通りのみかかの態度に安堵を覚えた園子は、金の卵を慎重に洗面器ごと抱えながら、無言でみかかの部屋を後にしたのだった。
 
 はてさて、フローリングの廊下をピンクのスリッパで歩く先輩の向かう先はどこでしょう。
家を出る前に、卵を安全ケースに移し、玄関で靴を履き替え外に。
そして木場病院地下のメンテナンス施設へと向かって歩き出した。
 ちょうど良いケースの存在や二人の慣れ具合から推し量ってみると、金卵を今回みかかが産んだのは決して初めてのことではあるまい。
 園子はめんどくさいから、自分にも卵を産めればいいのにと時々思わなくもないが、
みかかが自分に卵を提供してくれる限り、それが問題なく行われればー、
自分が辛い思いをしないで済むのは幸いかななんて考えていた。
 園子が作り出す無尽蔵なクローンの原料となっているのが、みかかが定期的に産む金卵である。
実は、毎回産み立ての卵を入手する必要は、細胞の培養により理論的に存在しないのだが。それが貴重な金卵を無駄にする理由にはならない。
ちなみに、昔園子がみかかから相談を受けるまで、みかかは金卵を屋根裏に隠していた。
 今でも金卵をみかかが産むというのは二人だけの秘密である。
イクルミちゃんは知っているかもしれないけど。
その時機上の人となっていた、哲子は新入りですので、そんなことを知るはずもなかった。
 
 みかかが産休から現場に復帰すると時を同じくして、北海道に派遣された二人から最初の連絡が入った。
「あのぅ」
「もしもし?無事着いた?飛行機落ちなかった?」
「それは全然平気なんですけど」となにやら哲子の歯切れが悪い。
イライラしてきた園子は。
「イクルミちゃん!?代わりに説明しろ」
とモニターの右側に映っているイクルミちゃんに尋ねた。
「あのね、滅ぼすまでもないよ?」
問題が今回の計画の核心に及ぶということで、アジトにいるみかかと園子が顔を見合わせた。
「どういう事だー、どんな相手であろうと全力を持ってー」
「ちがくて」話を遮って哲子が言う。
「滅んでます」
 
 そう、二人は新千歳空港に降り立ち、そこから鉄道で移動しつつ視察をしたのだが、もういい感じに終わってますフカガワin北海道。
 朝列車に乗りきれずにタクシーで送らせたのは実はカニだったんじゃないかと。
積み残したのもカニで、タクシーもカニ。
もう、オーストラリアみたいに通信授業でいいのではー。と言う感じに滅んでます。
「意味わかんねーよ」と、園子が頭をかきむしり吐き捨てると。
その横でみかかが、冷静に「わかったわ」
えっ、解っちゃったんですが?みかかさん。
「流石はみかか、んで、何が解ったの?」先輩が冷やかし気味にそう聞くと。
「だから、北海道のフカガワが既に滅んでいると言うことがよ」そう、言い放つ。
「本当に滅んじゃいないんだけどね」等と北海道から通信でフォローまで入る始末です。「じゃぁ、何か?二人にこのまま美味いもんでも食って翌日に帰ってこいって言うつもり?」
「そういうことになるんじゃないかしら」
「!?」
「大丈夫ですよ、先輩にもちゃんとお土産買って帰ります」
「博士は何がお土産欲しい〜?」
「要らない」
「えっ」「え〜」と北海道にいる二人の表情が曇る。
「白い恋人があんな事になったからですか?」
無言。どうやら違うらしい。
「私たちはもう東陽町をフカガワから解放しちゃったの」
しちゃった?
「過去の栄光の余韻に浸りつつ、普通に暮らすなんて私には出来ない」
いやいや、普通に暮らしても十二分に破天荒だと思いますけどね。先輩は。
「解ったわ」と再びみかかが。
理解された先輩までビックリしていましたよ。
 「今度は何を解られたんですか?」先輩がおそるおそるそう聞くと。
「つまり、二人をこのまま手ぶらでおめおめととんぼ返りさせることは出来ないって事よ」おめおめって…ねぇ。
 
 「で、何をしましょう」哲子がみかかに指示を仰ぐ。
まさか、歩いて帰ってこいなんて言わないでしょうねぇと、内心冷や冷やしてる。
「ちゃんと滅ぼしなさい、北海道のフカガワも。そして、その地に新たな東陽町を築くのよ」
「解ったけど、新たな東陽町って?」イクルミちゃんが小さく手を挙げそう聞いてくれた。「ねぇ、イクルミ。あなたの思い描く東陽町像って何かしら?」
ほっぺに手を当て少し考え、た振り?
「ゼロメートル地帯でゴミの島が夢の島で寄席若竹が潰れた感じ?」
「そう、正解!」
あぁ、何でもありなんだ。
取り敢えず、過去の時みたいになんか結果を残さないと東陽町に帰れないと言うことが確認出来ただけで十分なので、私は通信を切り上げた。
無駄に疲れるし?
 一方、通信が終了したアジトでは。
「あいつら大丈夫かなぁ」
「心配?」
「そりゃぁ、まぁ。」
「果報は寝て待てよ、体でも動かしなさい、うちの店で」
自動的に運ばれてきた紅茶に口を付けながらみかかがそう言うと。
「学校行ってきます」園子が逃げ出した。
 
北海道のフカガワが、東京基準で既に滅んで見えるとしても、任務を遂行しないと帰れないと言うことは解ったけど、どうするかね。
「どうすべ」とイクルミちゃんに相談する。
「う〜ん、そだねぇ。滅ぼすだけじゃなくて新たな東陽町として再興させろという指令だから」
「もう滅んでるし」
「そっかー滅んでるなら、新たな東陽町としてクリエイツするところから始めればいいよー」
私は、イクルミちゃんの言っていることが今ひとつピンと来なかったが。
要するに残り物でご飯を作るみたいな事らしいの。
「で、具体的には何を?」
「う〜んと、ここは東陽町だよね?」
「今は違うと思うけどね」
「東西線が走ってな〜い」
我々は東西線から始めることにした。
 ローカル線の駅に到着すると。
「ここにでっかく東西線って看板を建てて」
「ダメ」ボソッとイクルミちゃんが。
「東西線は地下鉄な〜の〜」
広大な大地にイクルミちゃんの主張がこだまする。
いや、こだましない、何も遮るものがないのって(・∀・)イイ!な。
なんか、アメリカ人になった気がするよ、鼻た〜かだっか〜。
「意味分かんないね」
「イクルミちゃんに言われたくない。でも、地下鉄にする必要が無いじゃない。あれはさ?都市の景観とかもそうだけど、電車を通す場所がないところで道路の下に鉄道を通すもんじゃ。」
「福岡は」イクルミちゃんは引き下がらなかった。
「え?」
「福岡だって土地余ってたのに地下鉄建設してた〜」
あぁ、もう。それは先行投資なんじゃないかな。
「じゃぁ、ここも先行投資」
どうあっても、地下鉄建設する様です。
どこからとも無くスコップを取り出して、イクルミちゃんは。
「人力かよっ」私が思わず突っ込むと。
「まさか〜」イクルミちゃんスマイル出た。
ホッと胸なで下ろす。
 イクルミちゃんが、スコップを持って怪しげな踊り?を始めると。
「それで掘るんじゃ?」すかさずツッコミを入れる私。
「違います。もうすぐ始まるよ」
私は、15分ほど黙ってじっと待ってみたが、何にも変わらないので、そろそろ。
「えっと、イクルミちゃん?」
「?」首をかしげるイクルミちゃん。
ちなみにイクルミちゃんは15分の間だずっとジッとぼーっとされてました。
立ちながら寝ていたのかも!?
「何も起こらないようだけど」
「掘ってるよ、トンネル」
どこから?
「こんな事もあろうかと、待機させておいた、我らが誇る謎の巨大建造マシーン・トンネルボーリングマッシーンが、私の指令を受けて、トンネルを掘り出したの」
「指令ってまさか」
頷くイクルミちゃん。
さっきのスコップを使った怪しげなダンスが、トンネルを掘れという合図だったらしい。
「じゃぁ、あとは特に私たちすること」
「何にもない。だって、トンネルボーリングマシンだから!」
「?」
「トンネル退屈(ボーリング)マシン」
「なるほど」不思議と納得してしまった私がいる。
「あはは、でも私ボーリング場でも出来るのかと思って」照れ隠しで頭を掻きながら私がそう言うと。
にこやかな表情ままイクルミちゃんが微妙に困っているような、困っていませんか!?
 果たして、地下に巨大なボーリングレーンがしかも、繰り返し繰り返し建設されまくりました!
「まぁ、トンネルは出来ているから、撤去して線路を引けばいいネ」
「はい。」私はこれ以上ややこしいことにならなきゃいいなぁと思いつつも頷いた。
 でも、せっかく出来たボウリング場。ボウリングを楽しんでみたいと思うのが人情。
「あぁ、でもボールがないから無理かー」と私が、棒読みで残念がっていると。
「あるよ」
私がイクルミちゃんの方を振り返ると。
「どひー」在るべき場所にイクルミちゃんの頭がなかった。
頭を外して、手でもって、声の出る位置がいつもと違うし、怖いよぉ。
「まさか」驚かされて恥ずかしいやら驚かされ損やら思いつつ、落ち着きを取り戻そうと努めながら私は聞きました。
「ワタシの頭でボーリング」
「いや、そこまでして…」
投げてしまった。流石に鼻と口に指突っ込んでは投げませんでしたよ。
両手で支えて持ち、ゴロゴロゴロと。
「わ〜い」イクルミちゃんの頭は歓声を上げ、首のない体は手を叩きながら小躍りしている。ちょっと怖い。
でも、イクルミちゃんの頭には長髪がくっついているから。
ボーリングの球としては限界があるし、レーンの油で髪の毛も汚れちゃうだろうし。
頭は残念ながら?ピンの直前でガーターに落ちてしまいました。
そして、戻ってきた頭がにこやかに戻ってきたのもまた恐ろしい。
「ギャーー」音響効果抜群のトンネルで私の叫び声が反響しました。
 しかし、やっぱり北海道に地下鉄は不向きだと私は思いました。
何故かって?トンネル上部のそこここから、ぼっとん便所ダイレクトで糞尿が落ちて来るじゃないですか、いつ降りかかるか解らない災難に心地穏やかじゃありません。
「はい。」どこから出したのかにっこり笑いながらイクルミちゃんが私にビニル傘を。
二人でトンネルの中で透明傘をさして歩く姿はなかなか絵になってると思うけれど。
いかんせんシュールすぎる。
 私らが、こうして傘を死してトンネルを視察というか散歩していると、今度は糞尿に引かれたのかカニが現れた。
それも、一匹や二匹じゃなくて大量にだ。
「どうしようイクルミちゃん」私はなぜだかトンネル内に大量発生したカニに怯えた。
すると、イクルミちゃんが「ワタシの頭をまた投げて」
と決意した表情でそう私に告げる。
「マジ?」そう聞くと、こくんと頷くイクルミちゃん。
さっきと同じ要領で頭を転がすと、なるほど頭でカニははじかれたり潰されたりしているが、やはり多勢に無勢。
動きが停まると頭はあっという間にカニにたかられてしまった。
「あ〜」私がその真っ赤になった頭が核のボールをぼんやり眺めているその横では、体が時々ピクピクしている。そりゃ、痛いだろ。
でも、敵のカニはまた隊列をなして我々に接近してくる。どうしよう、マジヤバイ!
 「だいじょーぶ」
「えっ」私はそこから声が聞こえてくるはずのない、イクルミちゃんの体の上をハッと見た。するとそこには!?
ぶぶぶぶ。あまりに不気味というか私着ぐるみダメなんですよ。
イクルミちゃんの着ぐるみの頭が首の上に乗っていた。むろん体はそのままなので、バランスは悪いです。
「今度はどうする?頭も、本当の頭も取り返さないとイケナイでしょう」
笑顔で頷く着ぐるみの頭のイクルミちゃん。
「助っ人を呼んだ」そう言った。
助っ人!?
すると、イクルミちゃんの背後から今度はクマが!流石北海道!!
前方のカニ軍団後方にはベアー今度こそ死んだー。
「ガオー」両手をあげて食べちゃうゾするクマ。
「キャー」私は頭を抱えしゃがみ込んだ。
あれ?何も起こらない。固めをあげて、クマの方を確認すると。
なんと、イクルミちゃんとクマが握手をしていた、イクルミちゃんは言った
「これが助っ人だよ」と。
 「クマが助っ人なの?」いや、よく見るとクマの着ぐるみを着た人?
首の辺りから人間の顔が見えている。
って、イクルミちゃん!?
「はい?」と着ぐるみヘッドのイクルミちゃんが振り返ってから、クマを私に紹介する。
「哲子ちゃん、こちらは着ぐるみちゃん」
「あはは。」イケナイ、笑ってしまった。失礼だな私。
印象悪化しちゃったかな。
「クマー」クマに威嚇された。
どうやら平気らしいぞ。
「さて、カニは着ぐるみちゃんに任せて」
「どうするの?」
「私たちは東西線を完成させよう」現場をクマの出てきた方向に引き返しながら、今後の作戦を練る。
「うちらのTBMはトンネルを掘るのが超早いよ」
確かに、一瞬で線路の下に東西線を作ってましたし。
「だから、このまま東京までトンネルを掘って、そこを通って帰ろうよ」
「なっここから東陽町までトンネルを掘って、そこを通って帰るの?」
どんだけ大変なんだよ。
「哲子ちゃんは帰らないの?」
「帰るけど!」
「あっお土産の心配かな?だったらさっきのカニを着ぐるみちゃんに適当に確保させておくから」等と言いつつ、ケータイで着ぐるみちゃんに話付けてるし。
「いや、そうじゃなくて距離が」
「でも、仙台とか東西線があるから、そう言うところは既存のトンネルを利用するから大丈夫」
そう言う問題か!?
「札幌の東西線とも繋げて、フリーゲージトレインでも用意すれば大丈夫。これが札幌南北線じゃなくて良かったよ、南北線はタイヤだから、フリーゲージが超大変」
「そうじゃなくて」
「ああああ、そうかこれはゆゆしき問題だよね!?哲子ちゃんどうしよう」
「なんでうか」
「これ見て」とケータイに東日本のマップを出して私に説明する。
「これがどうしたんですか?」私は既に距離の問題を指摘している。
「だってぇ、これじゃぁ。南北線になっちゃうよ」
確かにね。イクルミちゃん変なところこだわるんだから。
私は適当に、こういった。
「東北新幹線みたいに、東西線の東と南北線の北で東北線にするか。略さないで東西南北線にしちゃえば」等と軽口を叩いてみれば。
両手を握られ、ブンブン上下に振られながら。
「ありがとう哲子ちゃん問題解決だね」と涙を流してまでお礼を言われる始末。
 こうして、私とイクルミちゃんはカニと着ぐるみちゃんをお土産に、一・二・三時間でトンネルを掘りつつ東陽町に帰ってきたのでした。
訳解らんね、結局我々はミッションは達成出来たのかな??
 
◇9.出撃!巨大ロボ
 
 今日は、予定じゃ巨大ロボの定期点検ということになっている。
私、哲子がここ、ポリ容器置き場の一員になってから、初めての定期点検の日だ。
 数日前、ホワイトボードに巨大ロボ定期点検の文字を見つけた時、私の胸は高鳴った。
巨大ロボットの存在自体は、先輩と過去に飛ばされた時に、私がポロッと。
ロボを出せと軽口叩いたら、この時代には無いって先輩がマジレスしてくれてたので、
それはつまり、ここ現代において、ポリ容器置き場は巨大ロボットを有していると言うことに他ならない訳です。                     
 
しかし、巨大ロボともなればその維持費も莫大だろう。
普段は一体全体何に使用ってるんだろう?
 そんな、世知辛い事を自分のお金じゃないのに考えちゃう哲子さん。
すると、口にアーモンドチョコを放り込んだ先輩がドキワクな私とは対照的な、タルそーな感じで、
「じゃーそろそろ行こうか」と言いました。
私はフカフカのソファー(革張り)から腰を上げると、元気に先輩の後に続いた。
「いってらっしゃい」みかかさんが素っ気なく、イクルミちゃんは手を降りながら、うちらを見送ってくれた。
 
 階段を上りドアを開けると、太陽の日差しがまぶしい、今日もeーお天気です。
まるで猫みたいに毛伸びをしている先輩に向かって私は聞いてみた。
「巨大ロボってどこにあるんですか?」と
私の発言に先輩は、やや意外という表情から意地悪そうな顔にシフトして
「どこにあると思いますか?」なんて聞き返された!
ギャァ
正直、巨大ロボットの隠し場所なんて検討がつかないな。
私なんかに検討付いたら、そこはもう隠し場所として三流って事だろうし。
木場公園の地下は地下鉄の車庫だしー!?
「深川車庫の地下」私がそう答えると、先輩から頭頂にチョップを喰らった。
ゴイン
「いったー」頭をさすりながら猛抗議。
「あそこはもう深川車庫じゃないじゃん」
「じゃぁ、なんて名前になったんですか?」
そう私が聞いてみると、先輩もすぐには答えられない。
まだ決めてなかったらしい。
しばし頭を悩ませたあげく、
「塩浜車庫(仮)」
「かっこかりぃ?」私は思いっきり眉をひそめてそう言ったさ。
確かに、昔からある名前を一から新たに命名するのは難しい。
東陽町車庫でもいいと思うんだけど。
木場公園だって?半分は木場じゃないんだしー。
 その辺先輩は、インスピレーションの人かもしれないけど
そのくせ劇安易なネーミングはお気に召さない性質みたいです。
「で、どこにあるんですか?」
いい加減話を進めないと。
場所が解らないことには、そこまでの移動手段も解らないから、身動き取れない。
我々はまだアジトの入り口でダベっているだけだったりする。
「あそこよ」
先輩ももう気が済んだのか、ビシッと問題の巨大ロボの所在を指さしました。
 
 「南砂二丁目団地ですか?」
「そう」先輩が手を下ろし、こくんと頷く。
「レッツゴー」
そう言うとスタコラ歩き出す。
そう、結構近いのである。
木場公園より近くね?
「だってほら、駐車場は家から二キロ以内にしないと!」
「巨大ロボって車両扱いなんですか?」
「いいや、近くにないと不便じゃない」
それはそうですけどね。
「っていうか、この距離なら地下経由で行けるんじゃ」
私がそう言うと、先輩は、少し考え。
「何でもかんでも地下で済まそうとしない。哲子もやしっ子になるよ?」
もやしっ子って。
 西友の交差点を渡ると、そこはもう南砂の地である。
IKIIKI生鮮市場脇の人やもので通りづらい私道をハイ、ゴメンナサイと通り抜け
緑道を横断するとそこはもう南砂二丁目団地。
 ちなみに、今横切った緑道は、昔都電が走っていた線路跡です。
「哲子、この緑道は」
「今言いました」
「あっそう」
 南砂二丁目団地はグーグルアースで東京に移動すると
何故か南砂二丁目団地付近に東京とデカデカと書いてあるり、表示される。
流石はグーグル、どうしてここに東京と書いたか訳が分かりました。
「どういう訳?」
「だって巨大ロボが隠されて居るんだもん、だからグーグルは東京をここにすることで巨大ロボのありかを世界にこっそりと」
ギャーー。
またチョップされた。
「あー、あれだ、グーグルは」
「何ですか?」
「元々私の腹の音から付いた名前だしな」
「マジですか?」
「うそだぴょーん」べんべろべ。
超ムカツク。
 
 で、肝心の巨大秘密基地への入り口はどこだろう?
先輩にそう聞くと、
「いや、地下にも施設はあるけどそんな大規模じゃないぞ。
何を隠そう、目の前の建物自体がロボットです」と宣った。
「ええーっ。」
ぶったまげる私。
「だってこれ、普通に人住んでるジャン!」
あわくってそう言うと。
「巨大ロボと言っても、元々巨大な怪獣とか敵がいるから用意した巨大ロボじゃないのよ」
「ノリで作っちゃったんですね」
沈黙は肯定の印。図星の様だった。
「んで、高島平の住宅だって下は都営三田線の車庫になっているらしいよ?確か、多摩都市モノレールの車庫もそうじゃなかったけ?」
「ここは下に車庫とか出来てませんね」
「まぁ、昔は洪水が心配で一階活用できなかったんだろうな」
自転車置き場になってます。
「んで、ここは建物自体が巨大ロボットに変形するって訳だ」
「そりゃまた、有効活用ですね」
ただ、住人にメリットはないだろうなぁ。
 「えーと、あのぅ。」私は聞いてみた。
「巨大ロボットを動かす時住んでいる人達はどうするの?避難してもらうんですか??」
「まぁ、私がロボットに改造してからまだ一度も、出動させてみた事はないんだけどね」
それでも本当にちゃんとロボットなんでしょうけどね。
「共用部分しかロボットのパーツに使わないから大丈夫なんよ」
「共用部分にはものを置かないようにとか、リフォームしないようにお達しが出ているのはそう言う理由なのさ」
「な、なるほどー。」
んーでも。
「それだと、ロボット使っている間、住人の方々出入り出来ないんじゃ」
だって、エレベータも廊下も共用部分だから。
「そのくらいの犠牲は」
まぁ、確かに細かいことを言っていてはきりがないというか?東陽町の独立は果たせませんね!
 「じゃ、手頃なロボコの起動実験からやってみようか」
私たちは目に付いた出入り口に入ると、エレベータに乗り込んだ。
私が扉を閉めようとすると、先輩が。
「ちょっとトイレだ。哲子エレベータで少し待ってて」
私も一緒に降りようとすると。
「ほら、中で待っていていいから」なんてテコで押しても私を外に出してくれないんです。
仕方なく私はエレベータの中に留まる事に。
ドアが閉まった途端。しまったと。
それは、ドアの窓越しに見える先輩の顔が、ニヤリと笑ったのを私が見逃さなかったから。
 エレベータが普通に上昇を開始。
私は、どこに行ったらいいものか見当も付きませんでしたから、行き先のボタンを押していませんよ?
行き先ボタンを押さずに流されるエレベーターに乗っていることほど気持ちの良くないものはそうそう無いんじゃないかー。
例えるならトイレ以外の場所で用をたすような、開放感じゃなくて、罪悪感!?
「あー、あー哲子ちゃん聞こえますか」
「先輩!?これはどういうことですか」私がそうやや絶句しながら言うと。
「うむ、今から説明する」
「この南砂二丁目巨大ロボ(仮)はな、エレベータがコックピットなんだ」
「操縦はエレベータのボタンとお前の持っているケータイで行う」
「あっ安心していいよ、基本的にはあんたが考えればその通りに動くように出来ているから」
「シンクロ率は大丈夫ですか?」
「大丈夫、その巨大ロボは、お前のかーちゃんです」
「まだ生きているよ!」
「いや、設計者が」
 まぁ、うちのかーちゃんは先輩が過去に置いてきた先輩のクローンだったんだけど。
なんか時々理不尽に自分の血を呪いたくなるなぁ。
あと先輩絶対男見る目無いよ!!
 エレベータが最上階で停止すると、建物自体の変形が始まった様だ。
あちこちでボーンとかゴーンとか。
ワーとかギャーとかオギャーとか。ほんまに大丈夫かいな。
 私がもう観念してエレベーターの中で必死に壁を背にして大人しくしていること数分、土煙と轟音が止んだ。
終わったのかな?
「先輩」
「うん、やってみて」
私は、エレベータの扉に張り付き、なんせそこからの視界と、ケータイの画面に映し出される映像が私の得られる外部情報の全てだったから。
しかし当然、デパートのエレベータのように見晴らしが素晴らしい訳ではない。
所詮はエレベータの扉の窓。ガラスには強化のためか針金が入っているし。
 私は周りに人が居ないことを最低限確かめると、
「あるけーあるけー」と念じてみることにした。
しかし、これが全く動きださない。
 それどころか、ロボのところどころから水が出ている。
「先輩動きませーん」私は悲鳴を上げた。
「それは、アルケーをロボATOKが万物の源と理解して、それなら水じゃんって言っていると画面に出ているわ」
「ロボットの操縦席であるけーって言って歩けより”万物の源”と理解するなんてあり得ないでしょ」
「いやぁ、何せ、初めてだからさ、動かすの」
「ごっめんねぇ」とゲラゲラ笑いながら通信してくる先輩。
踏みつぶしてやろうか。
私は握り拳を思わず握った、青春の。
するとロボットは今度、周りの建物の一つをコーナーポストに見立て、そこに駆け上がると、ムーンサルトプレスを敢行。月面中爆だよ。
しかも、小橋のムーンサルトだったようで、着地不可。
ロボは地面に膝と腹をしたたかに打ち付けた。
「ちょっと哲子、いきなり無茶なことするなよ」先輩は眼前で展開される大惨事にやや圧倒されながら、やや慌ててそう言うと、エレベータ内部の様子を映し出しているモニターを見て、絶句した。
「哲子大丈夫?」
「ハイ。」
「あんた血だらけだよ?」
「改善ポイントその一。エレベータに低反発素材を敷き詰めましょう」
「了解」
流石の先輩も、素直になってしまう壮絶な絵面であったねぇ。
 
「今日はもうここまでにしましょう」そう先輩が言った時
「えっ」私は飛んでもないことを浮かれてしでかしたのではないかと
自分が血だるまなのもお構いなしに、真っ青になった。
 定期点検を兼ねた起動試験だったのに、飛んでもないことを!
ピキーン。
果たして、巨大ロボットは飛びました、飛んだんです。
鉄筋コンクリート14階建てです、それはもうテレビでしか見たこと無いけど、ロケットが大気圏外に飛んでいくような、町田で戦闘機の音にビックリしたとか言うレベルじゃねーぞ。って、これは中に居た私の感想であり。静かに暮らしていた住民の皆さんには、ほんと申し訳ないことをしたよ。これでアジトの電話番号や私のケータイ番号が2ちゃんねるにでも晒された日には電話鳴りやまないこと山のごとしだなぁ。
 等と現実逃避をしている間にも、元気よく巨大ロボは地上を後にして雲の世界へと上昇中。
「ちょっと哲子あんた何してんのよー」地上の先輩も轟音と煙から身を守りつつ、それらが平気になると、口をあんぐりして天空を見上げている。実はなんかちょっと楽しかったり。
でも、すぐに我に返ったの、だって。
「あーあー、もしもし。哲子さん?」
「はひ」
「あのさぁ、あんた着陸とか無事帰還とかやり方解る?」
しばし沈黙の後。
「わかりません」
「だよなー」
「わかるかー」流石に私も切れたし。
 
「それは元々飛行機じゃないからさ、飛ばすのは良いけど、無事に地上に降ろすのは、かなり難しい、その難しさはスペースシャトルの比じゃない」
「海に降りるのは?」
「ありがとう哲子、君の犠牲は無駄にしない」
「やっぱマズイですよねぇ、あの、出来れば私が助かる着陸法をよろしく」
「いや、地上に降りなきゃヤバイんだけれど、もうどっかあんぜんな場所に行くような燃料は無い」
「もう自由落下ですか?」
「ハイ」
あ〜、なんかジェットコースターっぽくなって来たような、これが無重力ですか?フリーフォール!
「みかか」先輩はアジトにいるみかかさんに呼びかけた。
「降りるとしたらあそこだ」
「あ、やっぱりそうなる」
「哲子〜一箇所だけ降りられる場所がある」
「どこ?どこ?」聞いたところで、上手く誘導出来るでしょうか。
「四ツ目通りに降りな」
「は、はい。」
先輩がそう哲子に告げると、ロボットはそれだけで進路を四ツ目通りへと向けた。
 ロボットは北側のお空から四ツ目通りに突っ込んでくる。
「あそこら辺は広くなってるからな」
「哲子、気持ち左寄りにね降りなさい」みかかさんからのアドバイス。
キーン。
高度が下がる。
正式な着陸法なんぞ、知らないので、緊急胴体着陸である。
ボッボボーン。
接地はしたものの、全くスピードが落ちない!!
通りを行く人や車を適当に巻き込みつつ、巨大ロボは。
ゴゴーン。
区役所の前を過ぎるとその先、駅前まで道よりの建物の軒先を押しつぶしながら、その抵抗で止まった。
それが、ちょうど駅前であった。
 煙がもうもうと立ちこめるなか、むき出しになったエレベーターの上部の蓋を開けて、哲子が自力で出てくる。
そして、着陸による町の被害にギョッとする。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「いいのよ」
「大したことじゃない」
ここに降りることを指示してくれた、先輩とみかかさんはひたすら私の無事だけを喜んでくれているけど。
賠償金とか払えないんですけどー。
 私が現場に佇み苦悩していると、消防・警察に少し遅れて現場の駅前交差点まで、みんながやってきてくれた。
イクルミちゃんがパシパシと、姿を変えた四ツ目通り東側の建物を写真に収めている。
「やっちゃいました」
「いや、ここしかなかったね」
「それはどういう?」
「実は元々駅から区役所までの四ツ目通りには拡張計画があってね」
「そう、元々壊すの前提で建物が建てられているわ」
言われて良く見るとー本当だ!どの建物も通りの拡張に対応した作りです。
「壊れてるけど?」
「元々壊す予定だった」
バンザーイ。私は、逆転ホームランを打った気持ちで喜んだ。
けどけど?
「ロボット大破」
「アッハッハ、だね?」とロボットの惨状には、やや悲しげな先輩。
するとみかかさんがこう言う
「南砂二丁目団地の地下の温泉が爆発して、四ツ目通りまで建物が吹き飛んだと言うことでどうかしら」
「それしかないだろうな」と先輩。
「温泉温泉♪」とイクルミちゃん。
私はと言えば、あ〜私の制服もボロボロだぁと制服を見ながらうすら笑いつつ限界を迎え、その場で意識を失った。
バタリ。
「哲子?」「てつこー!!」
 
◇10.出撃!潜水艇
 
 私が先輩と二人で区役所の前を通り過ぎた時のことです。
「哲子、見てごらん、あれ」
先輩がそう道端のオブジェを指さしました。
「何ですか?」
私がそのオブジェクを見上げると。
「昔、東陽町には巨人が住んで居たんだよ。そいつの背比べの跡があれなのだわ」
腕組みしてしたり顔でそう私に説明してくれる先輩。
「あれ?東陽公園でも見かけた気が」
「うっ。じゃぁきっと巨人は二人存在していたのね。驚きだわ」
きっとって言いましたね!?
「あれ?でもメモリ一緒みたいですけど」
「巨人は双子だったとか?」
私に聞かれてもー。
「昭和54年。ペヶ月ペケ日」そう私はメモリの一つを読み上げた。
「昔の巨人なんだな」そう、薄っぺらい笑みを浮かべて先輩が続けるので。
「もうっ、あれは過去の洪水被害があった時にどこまで水が来たかを表してるんじゃないですか?」
「バレたか」ハハハと、とうとう観念してくれました。
「でも、巨人も居たんだけどなぁ」
この時は微塵も信じなかったけれど、本当に居たんだ、巨人。
 
 「でも、最近は全然洪水とかないから、安心して」
「そりゃまた、どうして?」
「なんか、ポンプで排水しているらしい。区内を流れる水路の水位を完全掌握」
グッと拳を握り力説する先輩。
「そうなんですか」ちょっと自然の摂理に背いてる気もするけど。
高田馬場を流れてる、神田川だってコンクリートで塗り固められているしね。
そのくらいしないと、地下鉄の安全運行を確保できないか。
そうか、地下鉄も自然に反する存在なのですな。
「それに、もし今洪水が起きたら」
「起きたら?」
「アジトがマジヤバイ」
なるほど。
「地下室ですもんね」
あそこで水死したくないなぁと思いながら、二人はアジトへと向かったのだった。
 
 「おっかえり〜」
「ただいま。」
階段を下りて扉を開けると、待ちかねたとばかりにイクルミちゃんが出迎えてくれる。
特に何も発しないが、そこにはしっかりみかかさんも居てて、
我々の帰りを待ちかねていた。
「何しに出てたんだっけ?我々」と先輩が。
「先輩も持つの手伝って下さいよ、私にみんな持たせてぇ」ブーブー。
「ややっ」とわざとらしい先輩。
私は両手にビニール袋、中にはほっかほっか亭のお弁当が入っているのだった。
 私たちが手洗いをしているうちに、イクルミちゃんがテーブルににお弁当を配置し、お茶の準備を整えてくれている。
私の次には先輩が手洗いを済ませる。
そして全員が着席すると。
「いやぁ、ほっかほっか亭のメニューに東陽ライスを加えるように毎回交渉てるんだけどね」そう、先輩が語り出した。
そのおかげで毎回お店で恥ずかしい思いをする、他人のフリ出来たらどんなにいいことか。
「あれは不味いからな」
「ん?何か言った?」
みかかさんの呟きも聞き逃さない先輩のデビル・イヤー。
私はお腹が空いていて、さっさと食べたかったので、
「東陽ライスはお弁当というよりデザートだから取り入れにくいのかも知れませんね」
と先輩をなだめすかす。
そして、
「いただきま〜す」
みんなで少し遅めの昼食を開始した。
 食べながら、
「先輩と帰りに言ってたんですよ」もぐもぐ。
「なぁに?」もぐもぐ。
「こら、イクルミ口に物を入れながら喋らない!」もぐもぐもぐ。
「アジトは地下にあるから、洪水になったら嫌だなって」
それを盗聴していた、フカガワ郵便局最上階司令部の菊池姉妹が
「フッ」と口を歪めて笑い、何かを合図した。
すると、すかさず 
バッボーン。と何かが爆発し
荒川上流で堤防が決壊した!?
 
 江東区内全域にサイレンが鳴り響く。
「何事!?」先輩が立ち上がる。
ほっぺたにはご飯粒が付いている。
アジトのモニターが区内の様子を次々に映し出す。
最初にイクルミちゃんが一台のモニターの異変に気づいた。
「堤防が決壊してるよ」
「なんてこと!?」
「哲子…」先輩が私をにらんでそう言うよ。
「違いますよー、私じゃないですよ?」必要ないのに、無罪を主張する私が居ました。
 
 ドドド…。と音は聞こえないけど、多分そんな感じでしょう。
モニターに映し出される堤防の決壊箇所から、みるみる水が江東ゼロメートル地帯に向けて流れ込んでいるーにもかかわらず。
「イクルミちゃんお茶のおかわりちょうだい」
「はい〜」等と、アジトでは食後のティータイムが続いていた。
「ちょちょ、ちょっと先輩?逃げなきゃ逃げなきゃ」
私はそう焦って言いながら手を振って猛然とアピール。
今すぐにも逃げ出したい、ここは地下室だし、水が入って来てからでは逃げ出せない。
って、今さっき懸念していた所じゃないですか!
まさしくその水攻めですよ〜〜。フカガワのアジト殲滅の陰謀じゃないですか。
「何を慌てているのかしら?」みかかさんも落ち着き払ってそう言う。
「えっと、だって逃げないとヤバイかな〜なんて」
何となく叱られている気がしなくもなくて、私が言い訳して居るみたいです。
「バカだなぁ哲子、そんなことはここにアジトを作った時から想定済みだよ」
お茶を飲みながらそう鼻で笑う先輩。
「こんな事もあろうかとー」
みかかさんとイクルミちゃんが軽く拍手をしている。
私も会わせて拍手。
「このアジトは潜水艦だったのです」
なんとー。
「と言うことは逃げなくても平気なんですね?」
「哲子ちゃん感動薄い」
「もう慣れました」期待に応えられなかったのは申し訳なく思うけど、
私は、そう聞くとイスに腰を下ろし、少し冷めちゃってるお茶に口を付けた。
 
 「フハハ。どうだポリ容器置き場め、この水攻めには手も足も出るまい」指示を出した一人の菊池姉妹が強がってそう言うと。
「ちょっと可哀想だよねー」
「酷すぎるよねー」等と意外と周りの菊池姉妹からは非難の声が上がってくる。
非難された一日司令官の菊池姉妹Aは、黒幕に助けを求める。
「ボスぅ〜」司令官涙目。
「フンッ、情けない声を出すんじゃないよ、平気だよ。あのくらいでくたばるあ奴らじゃないさ」
そう、黒幕に言われて、ホッと安堵すると同時に、反面自分の絶対の自信を持った計画が大したことでは無いと一蹴されたことでプライドが傷ついたが、今日はせっかく自分が一番偉い日だったので、すぐに偉そうに椅子に座りふんぞり返ると、モニターに視線を投げかけた。
 
 お茶を飲み終え、お腹もこなれると哲子は。
「潜水艦の機関部を見学をさせせてください」と先輩に切り出した。
「何?ここが潜水艦だと信用してないの?」といぶかしがる先輩。
「信用してますよ。潜水艦だというのが嘘だと今更言われても困りますし。」
「いいじゃない、見せてあげれば」とみかかさんまでも珍しく私の応援をしてくれる。
「水もそろそろ到達する刻よ」
「そうだなぁ、最終チェックに哲子ちゃんもついて来る?」
「はい。」私は元気いっぱいそう答えた。
 しかし、アジトが潜水艦だったとは驚きだ。
そう言えば、最初に来た時だけど、入り口の扉がスチールだったのはちょいと違和感を覚えたかなぁ。でも、汎用品の標準的な扉だったはず。
「先輩、どこから潜水艦区画に行くの?」私もアジトに通うようになってもう二ヶ月弱、あらかたの場所は探検尽くしているつもりだった。
「こっち」という先輩の後を付いて行く。給湯室の横の廊下の突き当たりに、扉が?
あれ?こんな所に扉あったっけ?
給湯室の横の廊下は右手にお風呂場・少し進んで左手、給湯室の隣がトイレになっていたが、突き当たりにドアなんて無かったはず。
 でも、私も大人になった、ここでゴネて先を見せて貰えなくなるのはゴメンなので、疑問はゴクリと飲み込んで、先輩が開けた扉の先にそのままついてく。
 ドアを抜けると、そこは居住空間とは一転した。
パイプやむき出しの蛍光灯、なにやら訳の分からない機械の作動音等実務的な空間が私の眼前で展開されていた。
アジトは土足なので、絨毯から、スチールの足場になったその先も、抵抗なく進むことが可能だ。
トンテントンテンと音をならして、廊下の突き当たりに直角に付いている階段を下ると、そこには子供用プールの様なでっかい浴槽状が複数存在した。
「先輩、このプールみたいのは何ですか?」
「これが、潜水艦の動力源だよ」先輩が両手を腰に当て自慢げにそう言いはなった。
これが動力源?
「どうやってエネルギーを生み出すの?」
「見ていなさい」やおらポッケから笛を取り出すと、先輩は片手をあげてピーッとそれを思いっきり吹く。
狭い空間内、反響する音。
私が思わず耳を塞いでいると、壁際から沢山の人がプールに近づいてきた。
それは、元々壁際で待機していたようだが、いや、そうとしか考えられない。
ひっそり身を潜めていたので全然気がつかなかったのだ。
それらがいきなりプールをめがけてわらわら移動してきたので 、私は思わずチビリそうになりましたよ。
 順番に水の中に入る人達は、どこからどう見てもみんなイクルミちゃんでした。
でも、私がいつも接しているイクルミちゃんじゃないのは、私たちに笑顔とか愛想とかを振りまかないことで、間違いない事と思う。
皆一様にマジメに、プールに飛び込むと整然と持ち場でプールの縁に掴まり、なにやらスタンバイをしておりますよ。
 そうこうしているうちに全員が持ち場に着いたようです。
それを確認した先輩が、今度は笛をピッピーと吹くと、プールのイクルミちゃん達が、みんな一斉にバタ足を始めたではありませんか。
「へっこれがこの潜水艦の動力源?」
無言で笑顔で”はい、そうですがなにか?”と答える先輩。
でも、これだけじゃぁ、大した出力を得られないと思うのだけど。
 「そんな時はこうするのよ」
先輩が手元の計器を操作すると、プールの前の床が開き、そこからマグネットバイクがにょっきり人数分表れたじゃないですか。
ちなみにイクルミちゃん部隊の総勢は60人くらい。
プールは縦三列の並んでおります。
マグネットバイクが移動を完了すると、艦内に英語の音声が響き渡る。
「スタンバーイ・セッツ・レディ、アクション」
かけ声に会わせて素早くプールから上がったイクルミちゃん達は自転車に跨ると
みんな一心不乱に長髪をはためかせタチ漕ぎ開始した。
子細に観察してみて、良く訓練されているなと私は思ったんだけど、
スピーカーが支持する前から、自転車が出てくるのを見て、みんなあぁ、次は自転車を漕ぐんだなと、やること解っていたみたい。
一心不乱に自転車を漕ぎまくる、まるで奴隷な扱いのイクルミちゃん達を見て、私は心に疑問を抱いた。
先輩に「酷いじゃないですか」とくってかかったのだ。
「何が?」
「だって、同じ仲間じゃない、それなのにこんな自転車を漕がせて」
「本人達に聞いてみ?」
「えっ言葉を話せるの?」
当然だろうと肩をすくめ先輩。
私は手近な一人のイクルミちゃんに声をかけてみた。
一心不乱に自転車を漕いでいる最中のイクルミちゃんに話しかけると。
そのイクルミちゃんは先輩の方を見やり、先輩が頷くと、漕ぐ足を弛め、サドルに腰を下ろして私の質問に答えてくれた。
「や、ヤッホー?」片手をあげてそうぎこちなく話しかけると。
「こんにちは、ハジメマシテじゃないよね?」
「うん。」
「私は多分34人目」
そうなんだー。返す言葉も見当たらない。
「自由になりたくない?」
「自由?」私が頷くと。
突然ガバッと両手を強い力でつかまれる。
ギョッと驚く私。
イクルミちゃんは涙に鼻水も垂らしながら。
「私はまだ働けますから、外国に売るのだけはご勘弁を〜」
そう、私に本気で懇願してきたのだった。
「大丈夫、ゴメン売らないからね」
私はそうイクルミちゃん34号をなだめると、もういいからと言って元の作業に戻した。
そして後ろで笑いを我慢しきれないで居る先輩の所に戻った。
「酷いじゃないですか」
「何が?酷いのはあんただろ(ゲラ」
「非人道的です!イクルミちゃん達に嘘を教えて」
「嘘じゃないとしたら?」
少し考える私。
「そっちの方が酷いじゃない!外国に売り飛ばしてたの?」
「まさか〜、そんなことしないよ」
「まぁ、何か飲んで落ち着けば」
「スプライト。」私が、怒り収まらぬママそう言うと。
「私はコーラにしようかな」
すると、数分後にお盆に氷の入ったコップとスプライトとコーラを乗せたイクルミちゃんがやってきた。
「ご苦労さん」先輩がそう言う。
私は、複雑な気持ちで、そのイクルミちゃんの顔をマジマジと見つめた。
すると「何?哲子ちゃん私の顔に何か付いてる?」
と首をかしげて、不思議がるイクルミちゃん。
「えっイクルミちゃんなの?」
「イクルミちゃんだよ?」
私は混乱した頭を抱えながら
「オリジナル?」とそのイクルミちゃんを指さし聞いてみた。
「オリジナルかどうかは解らないけど、さっきまでアジトにいたイクルミちゃんだよ」
と、アハハと笑いながらそうイクルミちゃんは答えたのだった。
「イクルミちゃん、あそこにいる大量のイクルミちゃんを見てどう思う訳?」
私は率直に、やや声をひそめてそう聞いてみた。
「みんな、運動中ガンバレって思っちゃうかな」
「そうじゃなくて」私は質問を換えるため少し頭を捻った。
「例えば、イクルミちゃんがあの娘達の一人とチェンジだって言われたら、どうするの?」
「言わないよ?」
「いや、言わないかも知れないけどさぁ」
私はもどかしい思いで一杯である。
 
 「それはそうと、だいぶ冠水したみたい」
イクルミちゃんがそう告げると、ガコーンと凄い音がして、部屋全体が揺れた。
「地震!?」
「違うわね、これは水が階段から流れ込んで、潜水艦に当たっている音よ」
先輩はそう言うと、ボタンを操作して、モニターに外の様子を映し出した。
辺りは冠水し、車の屋根が所々に見える。道路に位置する車の屋根の上には、不安そうに車に乗っていた人が助けを待っている。
「このままじゃ、過去の洪水時の二の舞ですっ」
「いや、まぁ今回のも新たに記録には残ると思うけどな」
そう先輩が溜息をつきながら言った。
「私たちだけ助かるの悪いなぁ。私たちのアジトがあるから洪水してるのに」
「悪いのはフカガワのやつらよ!絶対とっちめてやる」
「まぁ、まだやつらの仕業と決まった訳じゃないけどね」
「でも、どっちみち?」イクルミちゃんがそう振ると先輩が頷く。
「私たちが出来る範囲でなんとかする」人差し指を天高く突き上げて先輩がそう宣った。
「なんとかするって?」
「それはつまり…潜水艦発信」先輩がボタンを押すと、轟音と共に部屋が激しく揺れ、傾いて来た。
「これは!?」私が必死で物にしがみついて先輩に聞くと。
「浮上するのよ」先輩も必死で物にしがみつきながらそう言った。
イクルミちゃんは発信の合図と共に開いていたマグネットバイクに跨り、一心不乱にバイクを漕いでいる仲間達に加わっていた。
 これまた、今まで一度も使われたことの無かった、アジトの潜水艦としての機能を順調に発揮し出すと、艦内の温度は急激に上がると思いきや、動力源が人力なので大して熱くはならないみたい。
「でも、どうやって洪水を鎮めるの?まさか、堤防の決壊箇所まで移動してそこに船体を横付けするとか?」
「あ〜確かに堤防の決壊箇所を塞がないと駄目だね。でも、それは消防と自衛隊に頑張って貰う」やや無責任に先輩がそう言った。
「じゃぁ、この潜水艦何をするんですか?」私が聞くと。
「何もしない」
「へっ」
「いや、既にやるべき事はやった訳だよ。まぁ、見ててみ!」
「全速力で浮上アンド前進!」しかし、潜水艦はさっきからのっそり年か動いていない。
動力源が動力源なので、出力が弱いのはともかくとして、潜水艦の急浮上って殆ど弾頭と化すんじゃないの?何でこんなに遅々としているんでしょう?
 その謎はすぐ解けた。アジトのあった位置の下に大穴が開いていて、潜水艦がその穴の蓋の役目を果たしていたんだね。
それで、潜水艦が浮上を始めると、猛烈な勢いで辺りの水がその穴に流れ込んでいたと言う訳。
だから、その水の流れに?反して進む潜水艦が、あまりゆっくりとしか進んでいなかった訳なのだ。
「でも、堤防が塞がって、水がすべて吸いこまれちゃったら。潜水艦身動きとれなくなんね?」
沈黙。
「あぁっ。どうしようみかか〜」先輩涙目。
「南砂二丁目ロボに運んで貰おうか」
「ロボに運べるかなぁ」先輩が機械を使って計算を開始する。
「三台使えば運べるという計算結果が出ているわ」
「よっしゃーそれで。」
「それで?」私が聞くと。
「フカガワ郵便局一発殴ろうぜ」
えっ今なんと仰いました?先輩はすかさず、命令をロボットに発令している。
「ちょっとちょっと先輩。そんなことしたら」
ロボットは協力して潜水艦を持ち上げると、ズシーンズシーンと駅前へ移動。
そして、潜水艦をフカガワ郵便局にぶち込んだ。
ボコッ。
と、同時にやっぱりなぁ、潜水艦の内部にいる我々にも、この世の終わりではないかというような衝撃と重力が。
マグニチュード6.0!?あちこちで物が吹き飛びます。
そして人も、ただじゃすまねーっての。
衝撃が収まると、先輩が真っ青な顔で。
「ちょっと今のはやばかったかな」
もうっ!
「そんなのちょっと考えればわかることじゃないですかー」
「てへっ」
うっかりとか言うレベルじゃねーぞ。
 そんな感じで、東陽町の洪水は意外にあっさりと収束した訳だが、アジトの大穴と地下空間はガレキで埋もれてしまった。まぁ、元に戻そうとしても、肝心の潜水艦が攻撃した時にベコッと壊れてしまいましたけどね。
アジトの再建にはまたしてもばく大な費用がかかりそうな気がします。
 
 
◇11.東”よう”町の盟主
 私がいつものように学校が終わってアジトにやってくると、なにやらあわただしい雰囲気。
「何かあったんですか?」
「あぁ、哲子」
先輩がなにやら珍しく不安げな表情でそういいました。
先輩も同じ学校の生徒なんだけど、何で私よりもいつも先にアジトに来れるんでしょう。「掃除をさぼってるからだよ」
「駄目じゃん!」
「それはいいとしてー」
「これは何事か起こりましたねー」腕まくりをして私はそう聞いてみた。
火事と喧嘩は江戸の華じゃないですかー。
「うるさいのがやってきた」やっかいごとが増えたというように、ため息をつきながらみかかさんがそう言った。
「みかかさんひどいー」
「そうだよ、みかかさんひどいー」
そう、一緒に抗議してくれたのがイクルミちゃん。
ただし、真似すんな。
「何が酷いって言うの?」イクルミちゃんににらみをきかせてみかかさんがそう言う。
「エヘヘ」ちなみにイクルミちゃんはいい人なんだけど、あんまり考えなしです。
「で、どうしたんです?」私が話を振り直すと。
「困ったことになってね、高知の東洋町が核の最終処分所に名乗りを上げたんだよ」
「!高知にも東陽町ってあったんですかー」初耳である。
「漢字は違うんだけどね」とはイクルミちゃん。
「昔私が船を手に入れて日本各地を回っていた時にね、高知でこれから町を作りたいんで商人を一人連れてきてくれないかって言われたときがあるのよ。
で、私はルーラで東陽町に戻ると、イクルミちゃんのコピーを一人釣れて言ったの。
そこが高知の東陽町で今ではそのイクルミちゃんのコピーが町長をやってる。」と先輩がツッコミどころ満載なことを言う。
「でも、町長がイクルミちゃんのコピーなら、何でうちらが問題視するようなことを勝手にするんですか?」私の知っているイクルミちゃんはとっても素直でいい子なのである。
「それは…」言いにくそうにする先輩に変わって。
「ほったらかしにしておいたからね」とみかかさんが。
「おいてきたのが結構前だから、存在自体忘れちゃってた」
ええーっ。
「酷いよ、そんな。高知に一人置いてこられたイクルミちゃんのことを思うと涙が。」私は涙もろいの。
「泣かないでよ、哲子ちゃん」そう、イクルミちゃんがそっとハンカチを差し出してくれた。
「どうして?イクルミちゃんは怒らないの?」
「でも、その私もがんばったんじゃない、一から町の立ち上げに関わって、今は町長さんなんだもん。」
「最後は牢屋でくさい飯だけどな」とみかかさん。
「そろそろオーブ拾いに行く?」と先輩さん。
「あのぅ、さっきから何の話してるんですか?」
「おっと」先輩とみかかさんが同時に口を押さえた。
「まぁ、とにかく今回はそう言うことだから」
何がそう言うことなのだ。
 
 「で、何を話し合っていたんですか?」
「あー、私が勝手な行動許せないって言ったらね。みかかが最終処分場だったら、うちのゴミも出せて一石二鳥じゃないとか抜かしやがるんよ」
嫌な予感がする。
「あるよ」
「何があるんですか、もう聞きたくない」私は耳をふさぎその場にしゃがみ込んだ。
「もう、哲っちゃんたら解ってるクセにぃ」先輩がつついてくる。
他の二人も、黙認&静観してないで!
「で、どうします?東洋町の処理場処分を工作して取り下げさせるとか」
「それじゃちょっと生ぬるいわね」
そうですか?
「姉妹都市として提携するというのはどう?」とみかかさんが。
これはまたみかかさんとしてはつまらない意見を、出したもの。
思わず私と先輩がそっぽを向いてしまう。
表情をみかかさんに悟られないためだ。
「駄目なのね。」ちょっと拗ねたようにそう言うと、照れ隠しにカップのお茶を飲むみかかさん。
これが育ちの良さというものか。違うか。
「哲子はどう?」
「えっ私ですか?」いきなり先輩にそう聞かれてとまどいを隠せません。
「そうですね、東陽町より目立つなんて許せませんよ。ど田舎のくせに」
うんうん。一同首を縦に振る。
「これはこっちがもっと凄いことをやって目立たなくてはなりませんね」
うんうん。私はみんなの頷きに勢いづき拳なんか握ってる。
「で、具体的にどうするの?」イクルミちゃんの鋭いつっこみ。
「うっ」
やれやれやれ。
うつむく私に先輩が、
「でも、哲子にしてはまずまずの意見なんじゃないかな」
「そうね、哲子にしてはね。」みかかさんまでも、私をほめてくれた!?
私の顔を見て、
「勘違いしないでよ」とプイッとやるみかかさん。
「で、どうやって目立とう」先輩が話を進める。
「ハイッ」イクルミちゃんが挙手をして発言を許される。
「核ミサイルで攻撃します」マジ意見です。
イクルミちゃんは見かけによらず過激ですね。
「却下ぁ。」
「え〜なんでえええ」全身を使ってぷりぷりと怒るイクルミちゃん。
「何で駄目なんだ?」とみかかさんもなんてことを。
「私も核攻撃には反対だけど、どうして反対なのかが自分でもよく解らないんだ」
「結構。」先輩が起立してこほんと咳払いをする。
「人死にが出るのは、くくっ、よく、無いから」わっはっは。
私以外の三人が笑い転げている。
私が来る前になんか変なキノコでも出されていたのかな。
笑いが収まるのを待って、私が発言した。
「東洋町の核攻撃は良くないですよ!だって、漢字は違うとはいえ、同じとうようちょうなんだから。」
「おお、それっ」先輩がびしっと私を指さす。人を指ささないでください。
それに、イクルミちゃんは分身の事が心配じゃないのかな。
そう思いちらっとイクルミちゃんを見ると、まるで、あいつが居なくなればケケケという様な見方によっては邪悪に感じられる笑顔でほほえんでいた。
私が、見ているのに気づいたイクルミちゃんから視線を戻す。
 
 そんで結局どうなったかと申しますと、総出で現地に飛んで最終処分場誘致に反対な勢力と合流することになった。
晴海埠頭から筏にログハウスが乗っかったような船でどうにか高知の東洋町迄たどり着いた一行は休む間もなく誘致に反対している勢力が集会している集会場を訪ねた。
こんにちはー。
すると、入るなり反対派の皆さんが凍りつく。
「先輩約束してなかったんですか?」私がひそひそそう聞くと。
「しまった」
「してなかったんですね」はぁとため息をつく私。
「あんたは」「どの面下げて」
「えっ」
緊張の原因は我々の最後に一緒に入ってきたイクルミちゃんであった。
「でていけ〜」わぁっと色々なものが我々(と一緒にいる)イクルミちゃん目がけて投げつけられる。
そう、東洋町の町長はイクルミちゃんのコピーなので、反対派のみんなの目にはイクルミちゃんだけが見えて、それを町長と勘違いしたんだよ。
「ちょっと、物を投げないで」私が身を守りながらそう叫んでもまるで聞いちゃいない。「どうする?」とみかかさんが言うと。
「やるしかないだろう?」と先輩が。
「そうね」みかかさんもそれに渋々同意したみたいだ。
「うぉー」先輩はそう雄叫びを上げると、イクルミちゃん目がけて襲いかかった!
飛びかかり、押し倒すと馬乗りになり上からパンチを繰り出す。
それに続いて、みかかさんもストンピングしてリンチに加わる。
「うわ〜止めて〜」イクルミちゃんが悲痛な声を上げる。
「ちょっと二人とも何してるんですか」ワンテンポ遅れて仲裁に入る私。
一瞬暴行の手が止まる。
てつこにあいこんたくとはつうじなかった。
「こいつも仲間だな?やっちまえ」
「うぉ〜」ということで私もリンチに巻き込まれ、簀巻きにされイクルミちゃんと二人で側溝に突き落とされたのでした。
どっぼ〜ん。
 ドアをしめて中に戻ると、最初と打って変わって反対派に拍手喝采で迎えられている先輩とみかかさん。
その時私とイクルミちゃんは、どんぶらこっこどんぶらこっこと一路下流の海目指して簀巻き状態で生死の境をさまよっていたのでした。
そうして、我々は川で洗濯をしていたお婆さんに拾われた。
「げぇほ、げほ」はぁ、マジで死ぬかと思った。
「あんた方大丈夫かえ?」
「ええ、お婆さんは?」
「町子!あんれおめぇなんでー」
「?」
「えっと、話が読めないんだけど」
ただ、一つ確かなことはー
このお婆さんもイクルミちゃんを見て態度が急変したということかな。
「とりあえず、うちさ行く。付いてこい」
「へっくしょ」話はお婆さんの家でと言うことなのかな。
とりあえず、ずぶ濡れでもあるし、ありがたい話に違いない。
イクルミちゃんと二人でお婆さんのお言葉に甘えることにした。
先輩達とは別行動になっちゃったけど。
「テツコは優しいね」イクルミちゃんがぼそっと。
「二人ったら酷いよね」私がプンプン言うと。
「ほんと、優しすぎる」イクルミちゃんは寂しそうにそう言うのだった。
古くからの民家って感じのお婆さんの家に着くと二人はお風呂を貸して貰った。
広くはなかったけど、二人一緒に入りました。
洗ったり暖まったり交互に行っていると、外からお婆さんが
「お前さんがた、着替えを置いておくから、これを使いなさい。
「どうもー」フランクにお礼を言っとく。
「あのお婆さんいい人だね」私が湯船からそうイクルミちゃんに語りかけると。
「うん」言葉少なにそう言いながらイクルミちゃんは白ビキニを丁寧に洗っている。
「そうか、イクルミちゃんは別に着替えが無くてもー」
がらり。
戸を開けて確認すると、着替えは二人分用意してある。
「せっかくだから着させて貰うよ」ハニカミながらイクルミちゃんはそう言うのでした。
 「いやぁ、風呂上がりの一杯の水がうめぇ」腰に手を当てて私がそういいます。
まぁ、水でも水が美味しければ、ここでしか飲まれない水だし。
「うん、美味しいネ」イクルミちゃんが椅子に腰掛けて艶っぽくそういう。
なんか調子狂うなぁ。
ちなみに私たちはお婆さんが用意してくれた着替えをありがたく着させて貰ってるんだけど。
「なんか、ちびまる子ちゃんが着ているような服だね」不思議と胸は苦しくないな。
「うん、ピッタリネ」そうか、これはイクルミちゃんのクローンの服なんだね。納得。
「何の話じゃね?」そこにお婆さんが登場。
「うはっビックリ」突然そこにいたお婆さんに心底驚かされた私です。
お婆さんはそんな私に大した注意を向けずに、着替えたイクルミちゃんの頭からつま先まで穴の開く程見つめると。
「その服を着るとますますそっくりだなや」
「町長さんに?」イクルミちゃんがお婆さんに尋ねる。
「そんなに似てるんですか?」私は部屋に飾ってある町長の写真とイクルミちゃんを見比べてそう言った。
確かに、元が一緒なんだけど町長は肌の色は黒くないし、眼鏡もかけていて知的な雰囲気を醸し出しています。
「あれが、うちに来たときは、ぼけっとした娘だったが、ある日鉄棒に頭をぶつけてな。それから急に賢くなった」
お婆さんが目でイクルミちゃんをとらえたままそう教えてくれた。
「頭をぶつけたときに、アジトの事とか忘れちゃったのかな」
イクルミちゃんのクローンがアジトに存在を忘れられていたとはいえ、何の連絡もなしに東洋町の町長になっていたというから、何らかのトラブルが発生しているとは予想されていたのだが。
「イクルミちゃんも頭ぶつけ」私はそう言いかけ、お婆さんとイクルミちゃんが私を置いて、二人の世界に言っているのに気がつき、アホらしくなったので、椅子に腰掛け、グラスに残った氷を囓って二人のというか主にお婆さんの気が済むのを待つのでした。
二人のにらめっこが済むと、すかさず私はお婆さんに聞いた。
「お婆ちゃんは、町長の町子さんだっけ?がしようとしていることに賛成なの?町には反対する人も多いみたいだけど、核のゴミの最終処分場の誘致って」
私がそう聞くと、お婆さん当然これが初めて振られたという訳でも無いらしく、
「わしは、あの子が間違ったことをしてるとおもわねぇ」と言葉少なにそういった。
「確かに、イクルミちゃんが頭を打ってお利口さんになってるみたいだしー町にとっては悪くない話なのかもね」そういうと、イクルミちゃんも素直に頷いてくれる。
「ただ、東陽町より目立つのはちょっと良くないよ」うわっ、やっぱりオリジナルは馬鹿だ。
幸いにして、お婆さんは全く気にしていないようですけど、一応
「今ある自然を壊してまで、町が金持ちにならなくてもいいよね」とかなんとか適当なことを言ってその場を取り繕っておいたの。
そう言えば、先輩たちは大丈夫だろうか。
いや、個々が優秀なお二人だし、問題なく反対運動を推進してくれるのは間違いないんだけど。
あの二人は相性最悪だからなぁ。
 「うふふふ」「あははは」
哲子の心配は的中していた。その時園子とみかかはお互いのほっぺたを笑顔でつねりあい、一触即発、集会に集まっていた皆さんに多大なる心労と若さを振りまいている最中だったのさ。
「この勝負泥レスで付けましょうか」
「おおっー」集会民大歓喜!
「じょーだん」
本当に田舎は娯楽が少ないのかもしれない。中年ばっかりだもんね。
ここでの娯楽って何なんだろう?囲碁とか将棋とか、反対運動とか!?
 「おばあちゃん!」突然イクルミちゃん何かを決心したようにお婆さんに語り始めた。イクルミちゃんの真剣な表情を受けて、話を姿勢を正すお婆さん。
「私たちは東京から来たんだよ。」
「おやまぁ、マジで遠いところから」
「最終処分場の建設に反対するため」言っちゃった。
出てってくれ言われるかなと思ったけど、そんなことなくてお婆さんは、
「それなら、町子に会って話し合わないと駄目だぜよ」
「ウン。これから私たち町長の町子さんと会うつもりだよ」
「おやおや、これからかい?もう遅いから役場は閉まってるぜよ。
今夜はうちに泊まってらっしゃい、それで、明日マジ行けばいいぜよ。」
「どうしよう?」イクルミちゃんが聞いてきた。
「お婆さんもああいってくださってることだしさ、ここはお言葉に甘えて」
実際先輩たちと合流する訳にも行かないしさ。
「でも、急がなくて平気かな?反対派が行動を起こしてからじゃ」
その時お婆さんが、
「あぁ、あの連中なら大丈夫ぜよ」ニコニコそう言う。
お婆さんの言う通り、その頃集会場では、なし崩しに宴会が始まっていた。
 翌朝、哲子とイクルミちゃんは朝一で役所に出かけた。お婆さんが玄関先で見送りをしてくれました。
役場に着くと、大きな役場じゃない事と、イクルミちゃんの見た目もあってとても簡単に、町長さんと会う手はずは整いました。
コンコン。
「はい、どうぞ」中からそう声が聞こえてくる。
私はイクルミちゃんと顔を見合わせ、うなずきあうと、静かにドアノブを回して、そっと町長室の中に入った。
「しつれいしまーす」
バタンと戸が閉まり、入り口に二人はやはり立ちつくした。
奥の高そうな机には、イクルミちゃんそっくりの町長さんの姿があったから。
「あれ?でもちょっと違う」
見比べるまでもない、昨日写真で見たとおり町長さんは肌が白いく、そして眼鏡をかけて知的な雰囲気をやはり醸し出している。
イクルミちゃんは自分のクローンと会うのに、もう慣れっこだが、町長さんの方はそうはいかない。
こっちに来て頭を打った時から東陽町の事も忘れてたくらいだから、自分のオリジナルや似た仲間が複数存在することなど覚えているはずがない。
驚いた表情の町長さんは、
「あなたたち最終処分場建設反対派?」
私はイクルミちゃんと顔を見合わせるとこう言った
「一応?」私がそう答えると。
「解ったわ、あなたたち私を消して、そいつに私の代わりをさせるつもりね」
それを聞いてイクルミちゃんが申し訳なさそうに。
今回本当にイクルミちゃんの見た目はどこに行っても話をこじらせる。
「町長、違うんです。私たちはただ話し合いを」
「話し合い?」
「今ならまだ間に合うんです、もう少しで反対派住民と共にもっと恐ろしいのが」
そう言い終わると同時に、ドカーンとドアが吹き飛んだ。
「哲子、そいつと話し合いなんて無駄よ」先輩が元気にドアを蹴破り町長室に反対派の代表とみかかさんと共になだれ込んできた。
私は盛大なため息を漏らして、
「これから説得を試みようとしていたのになー」
「ダメダメ、この町長さんはかなり腕利きの様だね。おかげで遅くまで反対派の愚痴を聞かされる羽目に。私はコンパニオンじゃないんだってえの」
えっそんなことが昨日?みかかさんは。
「みかかはとっとと引き上げちゃうし」腕組みして当然だと言わんばかりに頷くみかかさん。
「その割にはお早いお出ましで」私は精一杯の皮肉を発した。
「だって私まだ未成年だもん」真顔でケロッとそんなことを言う先輩。
いやあんた未成年でもピー。普段アジトでピーー。(毒電波により一部不鮮明なカ所があります)
 「まぁ、いいや。それでどうするんですか?」
先輩はビシッと町長を指さし
「町長はうちらと勝負しなさい。そして、負けたら核廃棄物処分場の誘致を断念するの。」
すると町長さんはあっさり、
「勝負項目は?何。」怪訝そうな表情でそう言った。
「東洋町はサーフィンが盛んなようだから、サーフィン対決と行きましょうか」
町長の口元に笑みが漏れる。
「本当にいいの?」そう聞く町長さんはかなりの腕前なのだろう。
「おうよ」先輩も自信満々である。
「こっちの代表はこいつだから」先輩はイクルミちゃんの肩を抱く。
いきなりのご氏名にも、声を出して驚いたり反抗したりはしないが、あれは先輩事前にイクルミちゃんに話を通してないって。
イクルミちゃんサーフィン得意なんだろうか?そんな話聞いたこともないが。
すると、反対派代表が、
「マジ、こちらのお嬢さんは色も黒いしマジサーフィンとか上手そうぜよ」とか、大船に乗ったつもりです!
「私が勝ったら、反対派の皆さんにも計画に賛同していただきます。」言い放つ町長。
「お、おうっ望むところぜよ」
かくして、東洋町への最終処分場誘致のお話の行く末は、町長とイクルミちゃんのサーフィン対決の結果に委ねられた。
 勝負の日取りは翌日、私たちはみんなで役場を後にした。
当然吹き飛んだドアもそのままに。
反対派の代表者たちも、流石に二人並んで居るのを目の当たりにすれば別人だと了承してくれたらしい。おまけに、仲間を状況によってはリンチ出来るという事で、先輩とみかかさん畏れられてますよ?
「それにしてもイクルミちゃん勝負とか大丈夫?サーフィンとか出来るの?」
私が疑問を口にすると。
「やった事無いかな」駄目じゃん。
「あぁ、でも木場の角のりで鍛えてるから?」何で私がフォロー入れてるんだろ。
「それについては私に妙案がある」コホン、と先輩が話を制す。
まぁ、妙案でもないと、サーフィン勝負で白黒付けようなんて言う人じゃないけど。
「それどんな妙案なんですか?」私が聞いたところ。
「ひみつー。」満面のいたずら笑みでそう答えられた。
そして、イクルミちゃんの耳元でゴニョゴニョと計画を伝えている。
リアクションから計画の概要を探ろうにも、イクルミちゃんは言われたら何でも素直に従うだろうし、案の定先輩の言葉にコクコクコクリとうなずいているだけで、うかがい知る事は出来ませんでした。
「さぁ、これから特訓よ」指を空に向けて掲げて先輩がそう叫ぶ。
「おー」イクルミちゃんと、よく解ってない反対派が元気よくそれに応じた。
私は、唯一状況判断を共有出来るであろうみかかさんに話しかけた。
「特訓たって、イクルミちゃんと町長は同じスペックだから、今更特訓しても仕方がないんじゃないでしょうか」
すると、
「ええ、するなら特訓よりも改造でしょうね」
「じゃぁ」みかかさん何か独自の改造を用意しているのだろうか。
バックアップユニットとか。B装備とか。
「海で遊びたいだけじゃないのかしら」
そう言うと、ポケットから何かを取り出し広げてみせる。
それは、スイカのビーチボールだった。それに、みかかさんは歩きながら空気を入れ、呆然と立ちつくす私を置いてスタスタと先に進んでいく。
みかかさんも遊ぶ気満々だったんですね〜。
その場に一人ぽつんと残された私は、とりあえずみんなの元にダッシュした。
もう、私も遊んでやる!!
 
 翌朝、心地よい日焼けの痛みに自分のいる場所が東京じゃない事を思い出す。
さわやかな海の匂いも心地よい、これでこれから勝負が待ち受けていなければどんなにウキウキしてられたか。
「遊びに来たんじゃないぞー」そう、先輩に声をかけられる。先輩は一足先に起きて、荷物の整理やらなにやらをやっていらっしゃる。
私はといえば、
「旅館っていいですね、自動でご飯が出てきて。」これが私が朝ゆっくり出来ていた理由です。
「あのねぇ、あんたは今回はお気楽でいいけど、勝負するイクルミの事も少し考えて上げて」そう、みかかさんからつっこまれてしまった。
ちなみに四人同室で、ここは海の見える民宿の二階の部屋です。
部屋の中にイクルミちゃんを捜すと、すぐに見あたった。壁際に目を閉じて正座しているイクルミちゃんの姿。どうやら精神統一を図っているらしい。
普段のイクルミちゃんとは思えない気合いの入り様だ。
等と一人で感心しているとー。
「こらーイクルミ寝ないの!」
「ふぁい」
単に寝てるだけじゃん。イクルミちゃんも朝は弱いのかな。
ぼふっ。「ぎゃん」
どこからともなく枕を投げられそれが私の顔面に命中しました。
「早く布団を上げる〜」
私は、怒るに怒れず指示に従います。だって、イクルミちゃんの大勝負の前だからね。
 朝食は旅館スタンダードな和食です。
今日ばかりはみんな黙々と静かに食べました。
「おかわり」「はい。」私がおひつからおかわりをよそると。
「おかわり」「おかわり」
みんな朝から二膳もご飯を平らげてごちそうさま。
そんなにここのご飯がおいしかったですか?
「腹が減っては戦は出来ぬだよ」
「はぁ。」
食器の片付いたテーブルの上で四人手を重ね、
「ファイトー・オー」みんなで気合いを入れ我々は決戦の浜へと向かった。
決戦の浜に到着すると、町民がみんな詰めかけたのかと思うような人だかり。
ちゃっかり出店まで出てます。それと救急車も待機してます。
みかかさんが救急車の方に向かって行き?なにやらお話、なんだろう。
私はそのままイクルミちゃんと先輩と一緒に、町長の所へと向かう。
「待たせたわね」先輩、朝はおはようございます!
ゴツン。げんこで口を塞がれてしまった。
「よく逃げ出さずに笑いものになりに来たわね。その勇気は褒めてあげる。」
流石、サーフボードを小脇に抱え町長は自信に満ちあふれた態度です。
「ルールは」町長がそう言いだすと、先輩はパーを突き出して、町長にストップをかけます。
「私たち小難しいルールはよく解らないのよ、うちら都会っ子だし」
ね〜とイクルミちゃんと。何相手挑発してるんすかー。
私は反対派の人たちと一緒に顔面蒼白した。
町長も一瞬驚いたようだが、すぐに
「そう、ならいいわ。」と例の余裕を見せてくる。
「ここにいるギャラリーが凄いと思った方が勝ちという事で」
「いいわ。」町長はそう即断すると。
拡声器を手に、舞台の上に上って町民に話し出した。
「みなさん、町長の町子です。これから、サーフィン勝負で、この町に核廃棄物の最終処分場を誘致するかしないか、白黒付けたいと思います。私が勝った暁には、反対派の方々も、賛成してくださるそうです。そう、約束してくれました。私が負けたら、その時は誘致をあきらめます。」
町民にどよめきが広がる。
町子は左右を見渡し、どよめきが静まるのを見計らってこう続けた。
「勝敗は皆さんに決めて貰います、これから私と、そこの反対派を代表したイクルミさんがサーフィンをしてどっちが優れたサーファーであるか、皆さんが判断してください。難しいとは思いますが、私は誘致の賛成反対にかかわらず、ただサーフィンの優劣による純粋な判断を期待します。」
それだけ言うと、ステージを降り、準備に取りかかる町長。
「何となく選挙みたい。」私がそう言うと。
先輩はうなずいて、
「流石場慣れしているな、町長。」なんて妙に感心してるの。
ちょっと〜。
「先輩勝つ気あるの?」私は、イクルミちゃんのサーフィンの腕前が全前町長に及ばない事をふまえて先輩にそう問いかけた。
すると先輩は何も言わず、親指建てて片手を突き出し私にウィンクしてみせた。
どうやら勝つつもりはあるようです。
と、先輩の姿が見えなくなった、トイレかな?
私はイクルミちゃんの側に行き、
「イクルミちゃんがんばって。」
私がそう言うと。
「うん、私がんばる」いつもの満面の笑みが返ってきた。
イクルミちゃんは何のためにこの勝負するんだろう。
そんな私の疑問に、
「東陽町のため。そしてみんなのため」そう言うイクルミちゃんの笑顔はまさに勇ましい戦士のそれだった。
そんな顔されたら、もう私がとやかく言えないよ。
私は、私に出来る事は勝敗を見届ける事、イクルミちゃんの勝利を祈る事だけだと悟ったのです。
 そして、二人の準備が整うと。
パァン。ピストルの空砲を合図にして、二人がサーフボードを抱え海に向かって駆け出しました。
ぱしゃぱしゃと海に入って行き、ボードに腹ばいになって、パドリング。
海へと突き進んで行く二人。
ゴクリ。みんながそんな二人の様子を固唾をのんで見守っていたその時です。
バシャァ!
イクルミちゃんにアクシデントの模様。
「あれは。」
ドンデンドンデン♪
イクルミちゃんの近くを鮫の背びれのような物が旋回しているのが見えます。
「キャーッ」「鮫だ」
私は叫びました、
「イクルミちゃん逃げてーっ」
それでも彼女は勝負を投げるような事はしませんでした。
そして、波が来てイクルミちゃんがボードに立ったとき、みんなは知ったのです。
イクルミちゃんの左腕が二の腕の途中から無くなっている事に。
鮫に食われましたか。
サーフィンを継続するイクルミちゃんの姿に、みんな正視することは出来なくてもチラチラと確認しては感動し、そしてついには。
「おおおおっ」砂浜から感動の完成が巻き起こったのです。
その声を聞き、同じく波乗りしていた町長はイクルミちゃんの方を見て、
「なんてこと。腕が。私の負けね」歓声の意味を理解したのでした。
パンパーン。
勝負終了の空砲が鳴ると、引き上げてくる二人に向かって救助隊が浜から海の方へ出動。
先ほどスタンバっていた救急車の人達だね。準備のいい事で。
「ん?」
担架に乗せられ、人波をかき分けてその担架が救急車に収納され。けたたましくサイレンを鳴らし、病院へと向かっていく。
ザザザーン。
「私の負けね。」町長さん!
私たちの所にやってきた町長さん、みんな振り返って町長さんの方に向き直ると。
「約束通り最終処分場の件は白紙に戻します」
「やったぁ」先輩が大喜び。
町長さんは申し訳なさそうに、
「彼女、大丈夫かしら。悪い事をしたは、普段は鮫なんか現れないのに。」
その時私は、先輩とみかかさんの微妙に気まずそうな表情を見逃さずにキャッチ。
町長さんにはバレなかったようだけど。
「あぁ、唾でも付けておけば生えてくるよ」先輩がそう言う。
やや怪訝な表情をする町長。
本当だからフォローを入れようにも困る。
「町長さんには後で色々お話することがあるから、一度東京に来て貰う事になるわ」
みかかさんがそう、町長に話しかける。
「落ち着いたら一度東京に遊びに来て」にっこり先輩もそう言うと、握手を交わした。。
去りゆく町長を見送りながら私は。
「こういう事か」
「ぎくぅ」と先輩が。
「みかかさんそのプロポは何ですか?」
無言。
要するに最初から鮫なんて居なくて、イクルミちゃんが自分で腕をもいじゃったというオチですね。
「でも、まともにやって勝てる相手じゃなかったし、町長さんには悪いけど、こうするほかなかったですよね。」
「おーっ」先輩さん感動。
「哲子も悪くなったわね」必要悪ってやつですよね?みかかさん。
後日、東京にやってきた町長の町子さんが赤くなったり青くなったり色々酷い目にあったりするのだが、またそれは別の話でー。
 このように東洋町が核廃棄物最終処分場誘致を断念は、ポリ容器置き場の面々の努力の成果であり、見事に東陽町がとうようちょうの盟主であるという、その面目は守られたのでした。