〜 貨 泉 〜


天鳳元年(西暦14年)に発行された貨泉は径一寸 重五銖と食貨志に明記されておりまして、だいたいこの位の
サイズのものを初鋳品と見ることが出来ると思います。度量衡の単位は前漢時代のそれとは若干異なっておりまして

径一寸=2.25cm(前漢)→2.304cm(新)
重五銖=3.35g(前漢)→2.90g(新)

のように長さ的には長く逆に重さは軽くなっております。しかし当時すでに新の貨幣制度は混乱の極みにあり、私鋳銭
は名目上禁止されてはいるものの 政府にはそれを抑える力はすでに無く 大泉五十を貨泉と等価としてしまったた
め、大泉五十や五銖銭からの改鋳が当たり前となり 官鋳 民鋳を問わず多種多様な貨泉が製作された為 新朝末
期には貨泉の名目貨幣的性格はほとんど薄らいでしまい 秤量貨幣的性格の非常に強い 餅貨泉 連銭貨泉等のよ
うに初鋳品の10〜20倍も重量のあるもの 逆に極小貨泉のように重さが一銖(0.58g)に満たないような薄小な品が
登場してきます。 貨泉の行用禁止は光武十六年(西暦40年)でして 後漢初期に至るまで正式に通用していたようで
す。またこれは推測ですが 小様銭の中に六朝期の五銖銭と非常に良く似た製作金質の品があることから 冥銭(埋
葬銭)としての使用はさらに後代に至るまで続けられていたかもしれません。


参考文献

王莽泉譜   細道の会  書信館
秦漢銭幣研究      蒋若是著 
漢和中辞典        角川書店
歴代古銭図説  丁福保著 方舟出版社
東洋古銭図録   穴銭堂   
  中国古銭目録  新疆人民出版社


〜貨泉の分類〜

体系づけられた貨泉の分類をしている資料は現在のところ「王莽泉譜」以外に所持していませんので基本的には
この泉譜に基づいた分類をしてみました。しかし度量衡などで若干解釈の異なる記載もあります。つまり「王莽泉譜」
は漢代の度量衡で銭径の分類をしているため特に初鋳品の分類において若干不都合が生じております。そのため
銭径による分類に限って私独自の分類となってしまいました。

又 数的な問題から特殊品を除いて背面略とさせていただきました。


◎銭径による分類

 

写真は手持ちの貨泉を単純に0.5mmづつ銭径で分別してみたものです。
最大の品は24.0mm最小は15.1mmとなりました。

1、大様銭(餅貨泉等は除く)

一列目は初鋳品と思われるものでこれが貨泉の基本銭となります。銭径は非常に安定しており手持ちのサンプル中で
初鋳品と思われる品の90%以上は銭径23.0mm±0.5mmで収まります。24.0mm超の品22.5mm〜23.0mm
の品は少なくなり中様銭との区別の根拠となっております。


2、中様銭

二列目左端の品の銭径は22.5mm前後ですがこの品ぐらいからロット中に占める割合が多くなってきます。サイズの
微妙な変化は輪の形態の違いからきているようでして 左から一、二番目と三、四番目はそれぞれ輪の仕上げ以外ほ
とんど同じように見えます。

3、小様銭

貨泉は中様銭と小様銭との境界がはっきりしない銭種です。製作 金質にあまり差がみられないからです。ただし手持
ちのロット中 存在数が圧倒的に多いのが銭径20.0mm前後の品でして ここいら辺は意識的に径を小さくしたと考え
られるため分類上18.0〜20.0mmで分類してみました。ここいら辺は意見が分かれるところだと思います。

4、極小銭

四列目は一〜三列目と比較して肉厚が薄く 製作も王莽銭独特の額輪様のものがなくなり郭 輪とも細くなり金質も含
めて どちらかというと晋〜六朝期にかけての五銖銭の体裁に近くなります。最小のものでサイズは15.1mm重さ0.
5gでして一銖(0.58g)以下です。このグループは秤量貨幣である餅貨泉の補助貨幣として使用された という説と 
冥銭として使用されたという説があります。この点 楡莢半両と非常に良く似た性格を持った貨幣といえると思います。

◎輪形による分類

 中様銭額輪
サイズ 20.1mm
重量  1.4g
 大様銭濶縁四決
サイズ 23.0mm
重量  2.4g
 中様銭重輪
サイズ 20.8mm
重量  1.2g


◎郭形による分類

大様銭重郭
サイズ23.4 mm
重量  3.4g
中様銭重郭
サイズ22.0 mm
重量  2.1g
小様銭重郭広穿
サイズ19.0 mm
重量  1.5g
 大様銭広郭
サイズ23.1 mm
重量  3.2g
 中様銭広郭
サイズ 22.5mm
重量 3.7 g
中様銭広郭磨輪
サイズ 21.2mm
重量  2.2g
大様銭中広郭
サイズ 23.2mm
重量  3.3g
小様銭中広郭
サイズ 19.3mm
重量 1.3g
極小様銭細郭
サイズ 17.9mm
重量  1.1g
極小様銭細郭磨輪
サイズ 17.3mm
重量  0.8g


貨泉の郭は重郭 広(大)郭 中広郭 細郭に分けられております。

◎穿形による分類

大様銭有郭狭穿

サイズ 22.8mm
重量  2.8g
大様銭無郭狭穿大字
    上半星
サイズ 23.8mm
重量  3.3g
小様銭広穿

サイズ 19.7mm
重量  1.5g
極小銭広穿

サイズ 15.1mm
重量  0.5g


◎星 月による分類

中様銭無郭上星
サイズ 21.9mm
重量  1.3g
中様銭無郭上半星
サイズ 21.7mm
重量  1.8g
中様銭無郭上横文様
サイズ 20.8mm
重量  2.0g
大様銭無郭下半星
サイズ 23.0mm
重量  3.3g
中様銭無郭下半星
サイズ 20.8mm
重量  2.2g
中様銭無郭上下半星
サイズ 21.9mm
重量  1.8g
大様銭貨傍星
サイズ 23.0mm
重量  2.6g
中様銭貨傍星
サイズ 20.8mm
重量 1.7g
大様銭上半星貨傍星
サイズ 22.8mm
重量  2.7g
中様銭泉傍星
サイズ 21.0mm
重量  1.7g


貨泉の星の類はほとんど無郭の品で占められ有郭の品は稀です。
上半星→下半星→貨傍星→泉傍星の順に希少性が増していくように感じます。

中様銭有郭穿下巨星
サイズ 23.1mm
重量 2.6g


貨泉の星はほとんど郭の周囲に出現しますが 上の品のようなものも存在いたします。
出来星との鑑別が困難です。


◎決文による分類

中様銭無郭泉上決文
サイズ 22.1mm
重量  2.7g
大様銭無郭泉下決文
サイズ 23.2mm
重量  3.0g
中様銭泉下決文
サイズ 22.0mm
重量  g2.6
小様銭無郭泉下決文
サイズ 19.1mm
重量  1.4g
中様銭無郭貨下決文
サイズ 21.0mm
重量  2.0g
中様銭広穿貨下決文
サイズ 22.0mm
重量  1.7g
大様銭無郭貨下決文
サイズ 23.0mm
重量  2.5g
大様銭有郭四決文
サイズ 23.0mm
重量  2.6g
中様銭有郭四決文
サイズ 21.9mm
重量  2.4g
中様繊字有郭四決文
サイズ 21.9mm
重量  2.0g


決文の類もほとんど無郭の品が占めますが、四決文の品だけは有郭のものが多いようです。

大様銭有郭貨下決文
サイズ 23.0mm
重量  3.1g
大様銭有郭泉上決文
サイズ 23.1mm
重量  2.6g


有郭の決文ではっきりと出ている品は少ないです。他に貨上決文がありますが、現在捜索中

◎横文による分類

小様銭上横文
サイズ 19.8mm
重量  1.2g


写真の品は掲載されている泉譜なし、上下横文という品があるようですがこちらは捜索中

◎背による分類

  背四決
サイズ 21.2mm
重量  2.4g
   重郭
サイズ 20.2mm
重量  1.5g
   無郭
サイズ 20.2mm
重量  1.2g
  平背?
サイズ 15.1mm
重量  0.5g


広(大)郭 中広郭 細郭 もありますが省略しています。背四決は通常品で有郭無郭を問わず数多く存在します。
平背?は四銖半両と同じ製作で背面が平らな石板状のもので鋳造されたもので、極小銭で普通に見られるものです。
重郭 無郭はありそうでない品でして特に貨泉の背無郭は希少だと思います。

◎星 決文 横文による分類

大様銭無郭上半星
   貨下決文
サイズ 23.0mm
重量  2.7g
中様銭無郭上半星
   貨下決文
サイズ 20.5mm
重量  1.4g
小様銭無郭上半星
   泉下決文
サイズ 19.1mm
重量  1.3g
中様銭上半星
上下横文貨下決文
サイズ 21.2mm
重量  1.5g

小様銭無郭上星
   泉上決文
サイズ 19.8mm
重量  1.5g
中様銭無郭下半星
   貨下決文
サイズ 22.2mm
重量  2.7g


他に上下決文 左右決文と星のコンビネーションでおおよそ考えられうる組み合わせの
貨泉が存在すると思いますがいずれも希少です。ロットによるとは思いますが、私の
場合無郭上半星貨下決文という品が最も多く拾えました。


四決上下半星
   
サイズ 21.8mm
重量  2.2g


このような品も存在いたします。

◎貨字による分類

 大様銭有郭破貝
サイズ 22.5mm
重量  2.3g
中様銭有郭破貝
サイズ 20.5mm
重量  1.7g
中様銭有郭貝見切
サイズ 21.4mm
重量  1.8g
剪輪銭有郭貝見切
サイズ 19.0mm
重量  1.6g
中様銭無郭内倒柱
サイズ 20.3mm
重量  1.5g
中様銭無郭大頭貨
サイズ 22.0mm
重量  3.1g
 中様銭有郭狭貨
サイズ 21.2mm
重量  2.0g
中様銭有郭 方貝
サイズ 21.4mm
重量  2.2g
中様銭 小貨
サイズ 21.3mm
重量  1.9g
中様銭無郭曲柱
サイズ 20.0mm
重量  1.1g
※破貝とは貝字の五画目が離れているもの 貝見切とは三、四画目が接していないもの 内倒柱とはの左
側でイ画が内に倒れているものを指します。なお右側の拓本は曲柱と呼ばれる品ですが、写真の品と拓本とは微妙異
なり なおも研究の余地のある品です。またサンプルの方貝は珍品ではなく化字が通常で貝字が方形をした品でこうい
う品は100枚に1枚くらいの確率で拾えます。いわゆる有名品の方貝は別名方折貨とも呼ばれている品で化字が厂の
ように見える品で、これが貨泉中の最難獲品となります。

   方折貨

サイズ 24.0mm
重量  2.6


◎泉字による分類


中様銭有郭基本形
   その1
サイズ 20.1mm
重量  1.4g
中様銭基本形
   その2
サイズ 21.0mm
重量  1.5g
中様銭基本形
  その3
サイズ 21.9mm
重量  1.5g
中様銭有郭小泉
サイズ 21.0mm
重量  1.9
大様銭有郭大泉穿上星
サイズ 22.6mm
重量  2.6g
中様銭有郭尖泉
サイズ 22.0mm
重量  1.5g
大様銭有郭円泉
サイズ 23.2mm
重量  2.9g
大様銭有郭方泉
サイズ 22.2mm
重量  2.6g
 小様銭有郭
  玉箸篆泉
サイズ 21.0mm
重量  1.9
  小様銭有郭
  玉箸篆泉繊字
サイズ 21.0mm
重量  1.9



貨泉は基本形1〜3のように頭部の点のはっきりしているもの 中間品 無いものの三種類に大別され
そこから長短 大小 形態により細分類されます。玉篆泉とは北周布泉と同じ玉箸篆体と呼ばれる書体
による泉字をさしまして白と水の移行部が一つの曲線となります。。


◎文字位置による分類
大様銭無郭伝形貨傍星
サイズ 23.1mm
重量  2.4g
中様銭 降貨仰貨
サイズ 21.1mm
重量  2.0g
中様銭降泉
サイズ 22.1mm
重量  2.0g


貨泉にも文字位置により昇 降 伝形の品があります。

中様銭小字昇貨
サイズ 22.2mm
重量  2.0g


上の品は泉譜にないもの 三品ともほとんど同じ径重です。浅い彫なので、文字が
ほとんど見えないのですが貨字が極端に小さく上方に鋳出されております。

◎両面銭

両面銭 面



サイズ 22.0mm
重量  2.4g
両面混合銭 

面 重郭



背 中郭 逆背
サイズ 22.8mm
重量  3.1g


◎合面銭

合面銭

サイズ22.8mm 
重量  3.5g


◎錯范銭

中様銭面文錯範
サイズ 22.2mm
重量  2.0g


中様銭郭輪錯範 

中様銭郭輪錯範 

サイズ 23.5mm(最大)
重量  2.2g



◎白文銭

   中様銭
   面 白文T
サイズ 21.5mm
重量  2.1g
  小様銭巨貝
   面 白文一
サイズ 19.9mm
重量  1.6g
  極小様銭
 背 白文 四
サイズ 16.9mm
重量  1.1g
小様銭 背 白文 十
サイズ 18.5mm
重量  1.1g


◎剪輪銭


〜秦漢銭幣研究より引用 四川省西昌市出土〜



従来 剪輪貨泉とは輪部を後天的に削ったもの とされてきましたが剪輪貨泉の銭範が出土したことにより剪輪された
貨泉を母銭として新たに銭範を製作し鋳造した品も存在することがわかりました。写真の品は縁の状態よりそんな品で
はないかと推測される品です。手持ちの品はほとんど有郭でして無郭の品はありませんでした。



従来の説のように鏨等で削り取られたような縁を持つ品もあります。

◎延環銭



貨泉には五銖銭と同様 延環銭がありますが希少性は高いです。

◎異形重量銭(餅貨泉等)

  貨泉厚肉銭
サイズ 24.2mm
重量  5.2g
貨泉厚肉銭狭穿
サイズ 23.5mm
重量  4.1g

貨泉厚肉銭四決背下巨星 

    新 王莽 14年

 サイズ 2.458×0.27cm 7.5g

    貨泉厚肉銭四道 

    新 王莽 14年

 サイズ 2.45×0.36cm 6.4g



「王莽泉譜」における厚肉銭の分類は重量4.0〜8.0g未満と規定されておりますが この重量範囲には通常
の貨泉と造りが同じで厚みだけがあるグループと「四決文」のように製作が餅貨泉と同じ品が混在します。

     餅貨泉重郭

   新 王莽 14年

 サイズ 2.7×0.35cm 11.1g

  餅貨泉

   新 王莽 14年

 サイズ 2.75×0.45cm 16.6g

 餅貨泉背上竪紋

   新 王莽 14年

 サイズ 3.02×0.60cm 21.5g

  餅貨泉

   新 王莽 14年

 サイズ 3.12×0.60cm 25.1g

  餅貨泉

   新 王莽 14年

 サイズ 3.08×0.69cm 22.2g

     餅貨泉合面

     新 王莽 14年

 サイズ 3.42×0.54cm 23.3g 





連銭貨泉背巨星

新 王莽 14年
        
  サイズ 5.94×0.58cm 49.5g

餅貨泉に代表される重量のある貨泉について記載された当時の資料は残念ながら発見されておりませんが 実際の
存在数は非常に多く 新末期における貨幣経済の中心にあった銭種だったのではないかと推測されます。貨泉通常品
に比べてはるかに肉厚であり、製作も稚拙で外輪の仕上げがなされていない品も多く半両銭的な秤量貨幣的性格が
強く出ている品であります。このグループに関しては手持ちのサンプルがあまりないため資料中から類推していくと 
 12銖(7〜8g) 1両(14〜15g) 1.5両(20〜23g) 2両(28〜30g)前後のものが多く存在し、重量が大きくな
るにしたがい中間の重量を持つ品が少なくなります。つまり連銭貨泉は3両銭と見ることができると思います。


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