
愛しき者へ
「マスターお呼びになりましたか」
「ああ来たね。こっちに座って」
「お前達も呼ばれたのか?」
言われた席に座って隣の席にいた人物へと声をかける。
そこには赤毛の男と茶髪の女。ルビィとロードの姿があった。
二人はジルの言葉に頷く。
傍から見ればいつもの酒飲みメンバー。これから飲むのだと思われるだろう。
しかし今回はいつもと違ってそういった空気ではない。
「ベリル、一体何の話や?」
そうルビィに言われ、ベリルは薄く笑い、説明をし始めた。
「へぇー面白そうじゃん。俺賛成」
「せやけどそんなん俺達だけでできないやろ?」
「プラムとカロールにも手伝ってもらおうと思ってたんだけど、
二人とも用事があるみたいだったから呼べなかったんだよ。
僕も準備があって今しか言える時間が取れないから二人に
伝えてもらえたら助かるんだけど」
困った顔をしてベリルは苦笑いを浮かべる。
「じゃ俺プラムに言うぜ」
「カロールの方は任しとき」
「くれぐれも二人以外には知られないようにしてね」
そして四人はそれぞれの行動に取り掛かった。
「これでいいんですよね?セレス様」
「ご苦労だったねベリル。ふふっ楽しみだな」
セレスは羽を羽ばたかせ飛び、ベリルを見下ろす。
ベリルを映したその瞳はキラキラと輝いている。
ベリルはそんなセレスの姿を見上げて笑顔を浮かべた。
太陽の光が大地を優しく暖めて、木々の緑がサラサラと風に吹かれ
鳥達は飛び交い、歌を口ずさむ。
「はわー、いい天気なのですぅー」
プラムは太陽の匂いのする草の上に寝転がっていた。
空にはソフトクリームや、ケーキの形をした雲が浮かんでいる。
「おー、いたいた」
寝転がって微睡んでいる所へロードが近づいてきた。
「ロードさん・・・?何かご用ですか?」
半分夢の中にいる頭を回転させ、プラムは言葉を発する。
「ああ、それがなって・・・寝てんじゃん!!」
隣に座り、話を切り出そうとプラムを見るとすやすやと寝息を立てて眠っていた。
「いくらなんでもこんな所に寝てると風邪引くぞ?・・・はぁ連れてくか」
くすっと微苦笑し、ひょいっとプラムを背負い城へと向かった。
「うわー、もうやだっ休憩ったら休憩!!」
「ア、アレク様〜そんなこと言わないでください〜。
まだ十分も経ってないんですよ〜!!」
半泣き状態のサフィルスを横目に、王であるアレクは頬を膨らませる。
「だってこんなに量多いんだ。少しくらい休んだって良いだろ!?」
「さっきもそう言って休んだじゃないですか」
お願いしますよ〜と言ってくるサフィルスにアレクはその大きな瞳に
涙を溜めて、サフィーと言って見上げてくる。
そんな姿で見られたサフィルスの心臓は一瞬で揺り動かされた。
(か、可愛すぎです〜それは反則ですよ・・・)
「ねぇサフィ、お願い」
「うっ、仕方ないですねぇ」
こんな光景はいつもの事。だがその所為で書類の量が増え、周りの者に
莫大な負担が掛かる。
「サフィルス!そうやって甘やかすなと言っているだろ」
「げっ」
いつの間に部屋に入ってきたのか、ジェイドは眉間に皺を作っていた。
「ジェイド、何しに来たんだよ」
「ずいぶんな言い方ですねぇ〜。まあいいですけど。
これにサインもらえます。急ぎなんで」
そう言い、ジェイドはアレクに書類を手渡した。
アレクはそれをペラペラと捲って目を通し、サインを入れていった。
「・・・どうも。ちゃんとそれ片付けてくださいよ。
こっちに回されても困りますから」
かなり迷惑なんでと言い残し、さっさと部屋を出て行った。
「あいつムカつく〜」
扉に向かってそんなことを口にするアレク。
かなり頭にきたのか、ジェイドを見返すためアレクは休憩することをやめ
書類の山へと手をつけた。
「カロール、今度あれやろうよ〜」
一人の子供が服の裾を掴み、カロールを誘導する。
「え、あれ?ああ『縄跳び』ですか」
行って見て見ると、長く太い縄が地面に置いてあった。
「おーやってんなーカロール」
「ルビィ・・・」
声のした方へ顔を向ければ、ルビィがにこやかに近づいてくるのが見えた。
「・・・丁度いいところに着ましたね」
「なんや?ああそういうことか」
二人は縄の両端を持ち、子供達に優しく笑う。
「それじゃいくでー」
「いーち、にーい・・・」
子供達は次々と縄を飛んでいく。
暫くして皆疲れてきたらしく、少し休む事にした。
「皆上手いもんやな」
「そうですね。大分上手くなってきました。で、何のご用ですか。
用があったから来たのでしょう?」
「ああ、あのな」
「・・・え?」
ルビィは内緒話をするようにカロールの耳へぼそぼそと話し出す。
「いいんですか?そういうことしても」
「いいんやて」
ルビィはニィと満面の顔でカロールに笑いかけた。
今日の分の仕事を終え、自室で本を読んでいたプラチナは偶には
散歩でもしようと思い部屋を出た。
中庭に出るとポカポカとした空気がプラチナをを包んだ。
「外は気持ちいいな」
青空を見つめ、眩しそうに目を細めたプラチナの耳に
アレクの声が聞こえてきた。
「うわー休憩ったら休憩!!」
兄上は今日も元気だな・・・。そう思いながら花壇へと目を向ける。
其処には色鮮やかに天へ背丈を伸ばして咲き誇る花々の姿があった。
(確かサフィルスが育ててるんだったか)
「おっプラチナじゃん」
「ロードか。・・・プラムは何をしてるんだ?」
いぶかしむ表情でロードの背にいるプラムを見つめる。
それにロードは苦笑を浮かべた。
「ああ、コイツ草の上で寝てたから連れて来た」
「そうか、大変だなお前も」
少し哀れむような目線を送りながらプラチナは言葉を紡ぐ。
「まあな。じゃ俺行くわ。さすがにコイツ背負ってると疲れる」
「ああ」
ロードは舌をペロッと出して片目を瞑った後、城中へ入った。
(やっべ〜つい声かけちまった。気づいてない・・・よな)
プラチナの耳が地獄耳でもさすがに心の声は聞こえなかっただろう。
「ふぇっあれっロードさん??」
「やっと起きたか。暢気だねお前」
プラムの部屋へと入って、周りに人の気配がないのを確認してから
ロードはプラムに事情を説明した。
「へぇ〜今日がなのですか〜?わかりましですぅ〜」
大きな耳を動かし、手を叩きながらピョンピョン飛び跳ねるプラムに
ロードは苦笑いを浮かべる。
「さっ早く取り掛かるぞ」
「はぁいなのです」
「プラチナ様、こんな所にいたんですね」
「ジェイド、どうした?」
花を見ていたプラチナのところへジェイドはゆっくりと歩を
進め、隣へと立つ。
「一緒にお茶でもしようかと思って部屋に行ったんですけど、
いらっしゃらなかったので探してたんですよ。
また寝てたりしたら風邪引きますからね」
面倒くさそうに言うジェイドにプラチナは自分の非もあるので
強く反発できず
「そうか、わざわざすまなかったな」
と素直に謝った。
それにジェイドは口角を少し上げ
「いえ、で、俺と一緒にお茶でもいかがです?」
と首を少し傾け返事を待った。
「そうだな、飲もう」
「では早く部屋へ行きましょう。風が出てきましたので」
「ああ」
二人は並んでプラチナの部屋へと向かった。
「そういえば、さっきロードがプラムを背負って行ったな」
ジェイドが淹れたお茶を飲みながらふと思い出し、何気なく口に出した。
「ああ、ロードが背負ってましたね。まあさっきまで暖かかったですからね。
気になります?」
「え?」
「ロードの事ですよ。いや私はロードだけじゃなく他の奴も気になりますがね」
「どういう意味だ?」
怪訝な顔で見つめてくるプラチナにジェイドはカップに茶を淹れてから
言葉を発する。
「何か今日、皆変だと思いません?」
「皆?皆って兄上もか?」
ジェイドの顔を凝視し、心配の眼差しで返答を待った。
それにジェイドは落ち着いた動作で答える。
「いえ、アレク様とサフィルスを除いてです。なんか生き生きしてるというか
いつもと雰囲気が違うみたいで」
テーブルを見つめプラチナは少し考えるそぶりを見せる。思い起こすのは
今日会った面々の顔。皆はつらつとした顔だった。
「そうか?いつもと同じだと思うが」
生き生きしてる方がいいんじゃないのかと続け、カップに口をつけた。
ジェイドもそういわれあまり深く考えず、それもそうかと思い直した。
空はもう燃えるような赤い空へ色を染めていた。
「うー、やっと終わった・・・」
やっと仕事を終わらせたアレクはぐったりと机に突っ伏していた。
「お疲れ様でした。アレク様」
サフィルスはいつもの笑みで机に紅茶の入ったカップを置く。
「お腹空いた〜」
「もう少しで夕食の時間ですからね」
あと少し我慢してくださいねと言い添え、書類を持って扉へと向かう。
「あれ?」
「ん、どうしたのサフィ?」
「手紙・・・ですかね?」
一旦書類を床に置き、扉の隙間に挟まった封筒を手に取った。
「なになに〜見せて」
「ああはい」
さっきの疲れは何処へやら。アレクはガサガサと封を切り
中の紙を見る。
紙は一枚入っていて、書かれていたのは太い文字で一行。
「大食堂へ来て下さいだって」
「一体なんでしょうか。それにこれ誰が」
「そんなの後でいいよ。とにかく行ってみよ」
気づけばアレクはすでに部屋の外へ出ていた。
床の書類を机の戻し、サフィルスも外へ出る。
部屋に残された手紙は青い炎に包まれ消えた。
大食堂へ続く廊下を歩いているプラチナを見つけたアレクは
駆け寄り声をかける。
「プラチナ〜」
「兄上」
「プラチナも大食堂へ行くの?」
「ああ、という事は兄上の所にも手紙が来たのか」
「うんそうだよ」
今日朝食を共にしてから会っていない為、アレクは満面の笑み
をプラチナに向け、プラチナも応える様の微笑み返す。
そんな光景を参謀一人は笑顔で、もう一人はイラつきながら
見ていた。
そうこうしている間に、大食堂へと到着した四人は扉の前で
立ち止まる。
「着いたけど・・・そういえば此処に来るまで誰にも会わなかったね」
「むしろ静か過ぎる気がするんですけど」
「そうだな変な感じだ」
「とりあえず、あけます?」
アレクとプラチナは頷き、扉の片一方ずつの取っ手を掴み同時に
勢いよくあけた。
パァンパァンという弾ける音と共にアレクとプラチナの身体には
細くて長い色とりどりの紙テープが巻きつく。
驚きで目を白黒させるアレク達。
それを見ながらニコニコ笑い次々と祝辞を述べる部下達の声が大食堂に響いた。
「え、なにこれ」
四人は目を丸くしながら部屋の中へ入り、天井から吊り下げられている
白い板の文字を眺めた。
其処には丹精な字で「Happy Barsday」と書かれていた。
「今日は君たちの誕生日なんだよ」
セレスは嬉しそうに宙を舞い、アレクとプラチナを抱きしめる。
「今日が・・・俺達の?」
「おめでとう、アレク、プラチナ」
ベリルは二人に小さくて可愛い花束を渡す。
アレク、プラチナは少し戸惑いながらも嬉しそうに花束を受け取った。
参謀二人は驚いた顔をした後、サフィルスは残念そうに顔を歪め、
ジェイドは顔は笑っているが、目が笑っていなかった。
「普通は国を挙げてやるもんなんですけどね」
ジェイドはベリルに視線を投げかける。
「セレス様が二人を祝いたいって言ったんだよ。だから
魔法で僕ら以外は眠らせた。あっ君たちの記憶もちょっとね」
片目を瞑ってふふっと笑うベリルに参謀二人は何故最愛の人の
誕生日を忘れていたか納得し、呆れた。
「皆ありがとう!!嬉しいよ」
アレクとプラチナはそんな事は気にも留めず、あどけない微笑を
浮かべている。
テーブルの上にはルビィが作った料理が並べられ、一同はワインの入った
(アレクとプラチナはジュース)グラスを持つ。
「さあ、今夜は楽しもう!!」
セレスはそう言い、グラスを上に掲げた。
End
(2008.1.8)