All Works of HIMEKAMI

 =オリジナルアルバム&シングル(1990年〜1994年)=

は『HIMEKAMI Station』推薦曲、は当サイトの管理者が個人的に好きな曲を示します。
曲名の読み(ふりがな)は当サイトの管理者が参考のため付記したものに過ぎず、
正式な読み方を保証するものではありません。

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目次


イーハトーヴォ日高見

 1990.09.21 発売  PCCR-00035(CD)  発売元:ポニーキャニオン

岩手が生んだ偉人・宮澤賢治の童話世界を姫神の音楽で表現した作品。

生まれ育った岩手の地で農業の指導や童話の執筆など幅広い活動を行った宮澤賢治は、
東北・岩手を拠点に活動している姫神にとって、いつかは取り組まねばならないモチーフであったろう。
本作はNHKカセットブック『宮沢賢治童話集』に提供した音楽を再構成したものである。
アルバムタイトルにある「イーハトーヴォ」はいうまでもなく賢治が故郷岩手県を指して用いた地名。
「日高見(ひだかみ・ひたかみ)」は『日本書紀』にもみられる古い地名で、現在の北上川中流域を指している。
双方合わせることで「ドリームランド=まほろば」としての岩手を表現したと思われる。

このアルバムは、無国籍な童話の世界を表現するために、姫神お得意の日本的・土着的なサウンドを封印し、
メロディーや曲の構成・アレンジをオーケストラっぽくまとめたのが大きな特徴。
サンプルド・シンセによるオーケストラ楽器の音がサウンドの要となっている。リズムセクションは全くない。
また、各曲のタイトルは賢治の童話の一節を引用している。
ジャケットは一見上下が逆。茜色の空に浮かぶ大木のシルエットとリンドウの花のイラスト。
ブックレットには写真に詩が添えられている。『まほろば』同様、高橋昭八郎の作と思われる。

(1)堅雪かんこ しみ雪しんこ   かたゆきかんこ しみゆきしんこ 
題名は『雪渡り』より引用。イーハトーヴォへの導入部にふさわしいメロディアスな曲。
期待を抱かせるフェイドインのイントロで始まる。高い笛の音はインパクトあり。
主題の提示を経て、1分44秒あたりからはイーハトーヴォの風景が眼前にぱっと開けてくる感じ。
2分27秒以降のメロディーも懐かしさと優しさを兼ね備えており、心に残る。
代わるがわるメロディーを奏でる音色の一つ一つに存在感があり、
特にオカリナっぽい笛のパートはウィンドシンセで吹いて演奏したら気分がよさそうだ。
また、シンセストリングスによるバッキングもメロとよく調和していてポイント高い。
 
(2)つり鐘草は朝の鐘を高く鳴らし   つりがねそうはあさのかねをたかくならし 
題名は『貝の火』より。慢心の報いで失明する子ウサギのお話。
心身ともに傷ついたウサギを優しく包み込むかのような曲。
曲構成は主題となるメロの繰り返しだが、それほど単調な感じはしない。
静かに始まり、徐々に盛り上げ、静かに終わるというメリハリが効いているからだろう。
つり鐘草の「かん、かん、かんかえこかんこかんこかん」(←『貝の火』より)と鳴る音をベル系の音で表現。
 
(3)風のマント   かぜのまんと
題名は『風の又三郎』に因むものと思われるが、物語中には「風のマント」という表現は出てこない。
イントロはファンタジックな音色のシーケンスが1分以上続く。
3拍子のリズムにのせた主題部のサウンドは荘重で、鈍い光を放つかのような雰囲気。
ところでこのアルバム、なぜか3拍子の曲が多い。
 
(4)●鋼青の空の野原●●ケンタウル祭●●●本当のさいわい
  こうせいのそらののはら〜けんたうるさい〜ほんとうのさいわい 
題名はもちろん『銀河鉄道の夜』より。タイトルからわかるように曲は3部から成る。11分を超える大作。
メロディーラインがややとらえにくいが、全体としては原作の持つ悲劇的な雰囲気を十分に伝えている。
1部はビートがなく、ピアノの独奏に近い。何か予感めいたフレーズ。
2部では女声っぽいコーラスとオルガン風の音が「昇天」をイメージさせる。
3部はピアノ(生のグランドピアノでないのが残念)のイントロに続いて主題部。3連シーケンスが効果的。
 
(5)●つめ草の明かり●●あのイーハトーヴォのすきとほった風
  つめくさのあかり〜あのいーはとーう゛ぉのすきとおったかぜ 
題名は『ポラーノの広場』より。
この曲は2部構成。1部は2部の長いイントロに過ぎないという見方もできる。
メロディーは牧歌的。アレンジ的にはストリングス以外の余計な音を極力省いているのがよい。
飢饉もなく平和な山野の風景が目に浮かぶ。賢治の夢見た理想郷がそこにある。
1996年の小岩井農場コンサートでは雨の中、この曲の弦楽四重奏にあわせて『雨ニモ負ケズ』が朗読された。
 
(6)三十年という黄色な昔   さんじゅうねんというきいろなむかし
題名は『北守将軍と三人兄弟の医者』より。
この曲も主題部とその変奏部の繰り返しで構成されている。
導入部は行進曲ふうでどことなくユーモラス。しかし後半はやや平板。
 
(7)沼ばたけのオリザ   ぬまばたけのおりざ
題名は『グスコーブドリの伝記』より。沼ばたけは水田、オリザは稲の意。
やや取っつきにくいメロディー。こののち数年間はこの手の作品が多い。
ストリングスのシーケンスフレーズからは、やや冷え冷えとした印象を受けるので、
黄金色の稲穂が揺れる風景は浮かんでこない。冷害でやられた稲のイメージ。
 
(8)●大空の滝●●くろもじの木の匂い●●●雪は青白く明るく水は燐光をあげ
  おおぞらのたき〜くろもじのきのにおい〜ゆきはあおじろくあかるくみずはりんこうをあげ
題名は『なめとこ山の熊』より。これも3部構成。
物語を読んだことがないのでもうひとつイメージが沸かない。
1部のしょっぱな現れるメロはこのアルバム唯一の「いかにもシンセらしい音」。
パーカッションが使われるのもアルバム中この部分だけ。
2部は転調の後、ちょっともの悲しいメロディー。
インターバルを経てドラマティックな弦の響きの3部へ。
『雪譜』で使われた口笛が加わり、盛り上がった末大団円。
 
(9)青いくるみ   あおいくるみ 
題名はこれも『風の又三郎』より。本アルバム中最も姫神らしさを感じる曲。
台風一過の青く透きとおった秋の空、そして又三郎が去った後の一抹の寂しさを思わせる。
アルバムのエンディングを飾るにふさわしい。
アコースティックギターのサンプリング音をわざとピアノ風のフレーズに使っているのがポイント。

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ZIPANGU姫神

 1992.10.21 発売  PCCR-00072(CD)  発売元:ポニーキャニオン

テーマは「黄金の国・ジパング」。
1993年2月盛岡・雫石で開催された世界アルペンスキー選手権の式典を意識して制作されたアルバム。

前作から実に2年ぶり、首を長くして待ったこのアルバムは、
ヨーロッパの人々が海の彼方の黄金郷として夢見たジパング(=平泉?=岩手!)と
そこへ至る道のりをイメージしているかのようだ。
また、本作品から、星吉昭とともに共同のプロデューサーとして桂田實が、
アルバム全体のコンセプト制作担当として瀬川君雄が加わるようになった。
サウンド面では、佐久間順平(弦楽器)菅原裕紀(パーカッション)がサポートに入り、
しばらくはこの体制が続くこととなる。
曲調は前作に引き続き泥臭い日本風のものが少なく、無国籍化がさらに進む。
アレンジ的には過去作の焼き直しといった印象があり、
私は当時、姫神はアイデアを使い果たしてしまったのではないかと心配した(杞憂だったが)。
ジャケットは海や雲の写真に"Twelve Strips"と題された現代アートをフィーチャー。
見開きには1曲目の『風、大循環に』を連想する詩が添えられている。作者は不明。

(1)風、大循環に   かぜ、だいじゅんかんに 
タイトルの付け方が秀逸。ライナーノートの詩などから推察するに、
「ここに吹く風は地球上の国々や海を廻り廻ってまたいつか戻ってくる」という意味に思われる。
これはおそらく「国際交流」「地球は1つ」を暗示しているのだろう。
雰囲気が限りなく『海道を行く』に似ており、
シンセ笛のコブシやストリングスのうねるようなフレーズなどはいかにもそれらしい。
パーカッションの使い方をYAS-KAZと比較してみるのも一興。
 
(2)うら青く波涛は澄み   うらあおくはとうはすみ 
本アルバムの前半は大航海を連想させるナンバーが続く。
この曲は大海原をゆっくり風を受けて進む帆船といったイメージ。
よく聴くとパーカッションやSEに凝っていることがわかる。
中間部の笛のフレーズからはアルバム『時を見つめて』の『陽』を想起。
 
(3)光の海南   ひかりのかいなん 
姫神には珍しくトロピカルな曲調で軽快なリズム。
メロディーには沖縄音階の影響が見られる。
ところでこの曲を聴いて『青天』を連想したのは私だけだろうか?
 
(4)東方 エルドラド   とうほう えるどらど
『雪譜』風の神秘的な曲。
しかしこの曲調で「エルドラド」という南米風の題名は疑問。
曲順もここに入れるのはふさわしくないと思う。
構成は導入部っぽい主題とそのバリエーションをリフレインするだけで物足りなくもあり、
私としては異なるモチーフで締めてほしかった。(メロディーは悪くないのだが…)
 
(5)金銀島   きんぎんとう
長い航海の末、目指すジパングが見えてきたという感じ。
曲構成はC→B♭の循環コードが6分以上続き、この点好き嫌いが分かれそう。
シンセ音のパートを多く重ねていないため、
様々なパーカッション・SE音の1つ1つに存在感を感じる。
後半の弦楽器のフレーズはアドリブっぽい。
菅原と佐久間のサポート参加があってこそできた曲。
 
(6)白くひらける東のそら   しろくひらけるひがしのそら
透きとおった感じの小品。『風土記』の清々しさに通ずるものがある。
1コードしか使っていないがアレンジの妙で退屈な感じはしない。
 
(7)燐光   りんこう
3拍子の部分と4拍子の部分が交互に現れる。
格調高いオーボエとストリングスのハーモニーは『イーハトーヴォ日高見』の影響大。
このアルバムの後半の作品群は、私の好みには合わずあまり聞き込んでいなかったが、
その後聞き直してみて実はいい曲なのではないかと再評価している。
 
(8)天翔ける   あまかける
次作の『炎』につながるシンフォニック路線。どことなく平泉3部作っぽい。
最後のメロディーが唐突で難解。
 
(9)火振り神事<Zipanguのテーマ>   ひぶりしんじ<じぱんぐのてーま> 
世界アルペン式典のメインテーマとして使用されたと思われ、
のちにラジオドラマ『アドルフに告ぐ』やテレビ『神々の詩』にも使われた、姫神の代表作の1つ。
重厚で雄大なスケール、メリハリのある構成で十分聞きごたえがある。
3拍子のゆったりしたリズムセクションが気持ちよい。
サビのシンセ笛がコブシまわりまくりでまさに一音入魂の演奏。
なおタイトルの「火振り神事」は縄の先端に火をつけて振り回す行事で全国あちこちにあるようだが
直接のモチーフとなったのは1991年秋にコンサートを催した熊本・阿蘇地方のものだと聞いた。

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炎 -HOMURA-

 1993.11.03 発売 PCCR-00089(CD)  発売元:ポニーキャニオン

NHK大河ドラマ『炎立つ』(1993年7月〜1994年3月)の放映に合わせて作られたアルバム。
テーマは奥州藤原氏の繁栄と滅亡。

本作は『まほろば』『北天幻想』と併せて「平泉3部作」とも呼ばれている。
ほかの2作には見られない独特の哀愁が漂うのは
100年足らずで滅んだ藤原四代のはかなさを表しているかのよう。
サウンドは全体的に交響詩的な色彩を帯びているが、似たような印象の曲が多く、
しかも個人的には気に入った曲が少ない。
ジャケットは黄金色の空を羽ばたく鳳凰のイラスト。
見開きには星吉昭の短い詩が載っている。
なお、補足しておくと、本作はドラマのオリジナルサウンドトラックではなく、
『風の祈り』以外の曲はドラマと直接関係がない。

(1)風の祈り   かぜのいのり 
『炎立つ』放送時間の終わりに設けられたミニコーナー『炎紀行』でBGMに使用された、
姫神が誇る名曲。
1分半近い長いイントロに続いて、デチューン(同じ音色を微妙に音程をずらして重ねた)のかかった、
透きとおった笛の音色がはかなげな旋律を奏でる。間奏のメロディーもいい。
繁栄を誇った平泉であっけなく散った藤原氏に捧げる鎮魂歌といった趣。
ドラマ放映に合わせてシングルカットしてもよかったように思う。
 
(2)真秀にたかく月天   まほにたかくげってん
冒頭のストリングスによる低音のフレーズからして、いかにも「小難しい」曲という感じを受ける。
ところどころで入るソロバイオリンの音に存在感がある。
それにしてもこの単調なリズムの繰り返しと1コード(!)で6分以上も引っ張るとは…
 
(3)炎の柵   ほのおのさく?ほむらのさく? 
A-B-Aの3部構成からなる力作。フルオーケストラで演奏すれば聞きごたえがあろう。
タイトルからは前九年の役・後三年の役がイメージされる。
第1主題の速いパサージュはいかにも戦乱を描写しているが、
鼻歌で気軽に唄えるようなフレーズではないのがつらい。ムチのSEが効果的。
第2主題は一転して美しくももの悲しい旋律。
バッキングのハープや2分38秒あたりからのシンセヴォイスが味わい深い。
繰り返しの第1主題では菅原裕紀が激しくコンガを叩いている。
 
(4)天地礼讃   てんちらいさん
前半はゆったりとした3拍子のフレーズに姫神らしい笛の哀しげな節回し。
シンセブラスのファンファーレが響き、中盤は『北天幻想』っぽい華麗な旋律。
最後はファンファーレで締め。
しかしどこか木に竹を接いだような違和感が残る。
それと、シンセブラスの音が貧弱に聞こえてしょうがないが、その意図やいかに?
 
(5)蒼い夢   あおいゆめ
シンセヴォイスがアンビエントな響きを奏でる。
『草原情歌』のラストにも登場した楽器・ムックリが終始鳴り響く。
みちのくの黄金王国で彼らはいかなる夢を見たのだろうか。
 
(6)朽葉いろ北にありて   くちばいろきたにありて
ようやく「姫神らしい」曲が現れるものの、メロディーはもうひとつインパクトに欠ける。
『月の明かりはしみわたり』に似た雰囲気。
アレンジは割とシンプル。
 
(7)風と星と青原と   かぜとほしとあおはらと
循環コードが基調の、夢心地に浸れる穏やかな曲。
メロディーの矩形波系の音色がいつもの姫神と少し違う。
前半よりも後半のメロの展開が好きだ。
からからと鳴るマンドリンと音程が上下するパーカッションもいい味。
 
(8)大地炎ゆ〜秀衡のテーマ〜(新バージョン)   だいちもゆ 〜ひでひらのてーま〜
この曲は『北天幻想』で発表済みだが、
テーマが本アルバムにピッタリということで、再録されたと思われる。
新バージョンとあるが、パーカッションやSE(鳥の鳴き声など)に手が加えられている程度で、
『北天幻想』ヴァージョンと大きな違いはないので少しがっかり。
裏を返せば、前回のアレンジの完成度が高く、大きく手を加える余地がないということでもある。
どちらのアレンジを好むかは人によって分かれるだろう。
 
(9)雲はてしなく   くもはてしなく 
いわゆる姫神フォルクローレ。これぞ姫神といえる曲がやっと最後に出てきてひと安心した、リリース直後の私。
眼前の風景がぱーっと開けて、風にのって雲が流れている感じ。希望を感じさせる。
16ビートをきっちり刻むタンバリン&カッティングギターと
2拍目に入る大太鼓がフォルクローレっぽく聞こえるポイント。
6年後のアルバム『SEED』でリメイクされている。

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遠くへ行きたい(シングル) [オユンナ&姫神]

 1994.01.21 発売  PCDA-00530(8cm-CD)  発売元:ポニーキャニオン

読売テレビ系の旅番組『遠くへ行きたい』テーマソングとして1994年初頭から1998年夏まで使用された曲。

オユンナはモンゴル出身の女性歌手で、1990年のNHK紅白歌合戦に出演している実力派。
姫神関連ではほかにアルバム『東日流』にも参加している。
この作品は姫神・オユンナどちらのアルバムにも収録されておらずシングルでしか聞けない逸品。
(追記:オユンナのアルバム『黄砂』に「遠くへ行きたい」が収録されているが、姫神アレンジヴァージョンかどうかは未確認)
ジャケットは青空をバックにオユンナのワンショット。

(1)遠くへ行きたい   とおくへいきたい
(3)遠くへ行きたい(オリジナル・カラオケ)
永六輔−中村八大コンビの有名な曲を姫神が3拍子に編曲。
『雪譜』を彷彿させる寒々としたアレンジにオユンナの透明感あふれるヴォーカルがハマっている。
雪のしんしんと降る旅先の町をひとりとぼとぼ歩いていく、そんな情景が思い浮かぶ。
蛇足:
 かつて某新聞に、この曲の「金属的な響きが好きでない」という趣旨の視聴者からの投書が載っていた。
 人の好みは様々。
 
(2)いのちの歌
(4)いのちの歌(オリジナル・カラオケ)
この曲はオユンナの持ち歌で姫神とは関係ない。心なごむ曲である。

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東日流(つがる)

 1994.07.21 発売  PCCR-00114(CD)  発売元:ポニーキャニオン

津軽半島の西側にある汽水湖・十三湖(じゅうさんこ)と、
かつてそのほとりで繁栄を誇った港町・十三湊(とさみなと)をモチーフにしたアルバム。

十三湖は現在シジミの産地として名が知られる程度のひなびた場所だが、
この地にあった十三湊は鎌倉時代には日本指折りの栄えた港町だったという。
いつしか歴史の表舞台から姿を消すこととなる(一説には大津波で壊滅したとも)が、
現在発掘調査が続けられており、当時の集落の遺跡が確認されている。
星吉昭は『姫神伝説』を作ったころからこの地に関心を寄せており、
ついには当地を題材に採りフルアルバムが作られた。それが本作である。

このころ星は「黒人霊歌」ならぬ「北人霊歌」という語をしきりに用いている。
「みちのくの民のスピリッツに根ざした唄」という意味を持っており、
このコンセプトに基づいた曲が本作には収録されている。姫神の原点回帰ともいえる。
新たな試みとしては、人声が積極的に活用されている。
ヴォーカリストには、シングル『遠くへ行きたい』でも共演したモンゴル出身のオユンナと、
民謡界から『南部牛追い唄』の名手・畠山孝一を起用。
さらに二胡(いわゆる胡弓)の演奏で中国の許可(シュイ・クウ)が加わっている。
姫神作品に外国出身者が加わるのはこれが初めてで、
以後、様々な国の出身のミュージシャンが参加する嚆矢となったが、
今回の人選は十三湊が大陸貿易で栄えたであろうことを踏まえているのではないか。
収録曲も何となく日本海とその彼方のアジア大陸を想起させる。
そしてもう一つ特筆すべき事項は、星吉昭の長男で、後に姫神を引き継ぐことになる星吉紀が、
本作から制作に関与している点。作曲の一部を担当している。
ジャケットは草原の向こうの海原に雲間から日が射しているイラスト。
付録のブックレットには、星と作家の高橋克彦との対談が収められている。

(1)十三の春   とさのはる
幕開けは星吉昭の長男・星吉紀が作曲し初めて世に出した作品。
メロディーはかなり姫神っぽく、親父の作品と言われても気づかない。
落ち着いた旋律は穏やかな春の海を見るようだ。
ただ曲構成はメロディーを単純に4回繰り返すだけで、
繰り返すごとに音色の組み合わせが変わるものの、単調な感じは否めない。
 
(2)北の海道   きたのうみみち
どこまでも続く海原を表すかのような、捕らえどころのないメロディーが淡々と流れる構成。
『明けもどろ』以来この手の曲は少なくなく、いまいち親しみが沸かないが、
アルバムの中でメリハリをつけるための「脇役」として位置づけられているのではないか。
 
(3)東日流笛   つがるぶえ 
タイトルのとおり、尺八に似たシンセ笛の調べがメインの曲だが、
合成音とは思えないほどニュアンス豊かな笛の演奏が聞きどころ。
使用機材は物理モデル音源YAMAHA VL1と思われるが、
最先端のテクノロジーが土俗的な佳曲を生み出したという点で興味深い。
ハープの伴奏がはかなげで良い。
どんよりとした寂しげな海岸でひとり笛を吹いている情景が浮かぶ。
 
(4)遠い唄   とおいうた 
シンプルだが歯切れの良いお囃子にのせて
畠山孝一の伸びのある声(多重録音)が響きわたる。
力強さの中に哀感が漂う。まさに魂の唄・北人霊歌である。
間奏の笛のメロディーが泣けてくる。
すべてのパートを生楽器で演奏したヴァージョンを、ぜひライブで聴いてみたい。
 
(5)十三の砂山〜雁供養〜   とさのすなやま 〜がんくよう〜 
『姫神伝説』収録のご当地作品を11年ぶりにリメイク。
パーカッションの使用を控えてしっとりとしたアレンジが施されている。
新たにフィーチャーされた二胡の流れるような響きが素晴らしい。
許可が、身体全体を使って情感込めて弾いている姿が目に浮かぶ。
 
(6)幻想・東日流   げんそう・つがる
7部からなる壮大な組曲。
 
 一.鎮魂(原題「あどはだり」)   ちんこん
津軽といえば三味線。この曲は山田千里作曲による三味線の独奏曲が原曲らしい。
津軽三味線は基本的にジャストビートで演奏する楽器なので、
跳ねるようなリズムとは相性が良くないように思うのだが、
この曲のバッキングは三味線のビートを強調する好ましい仕上がり。
曲中で三味線を演奏しているのは渋谷和生。
 
 二.海の刻   うみのとき
 三.哀想   あいそう
 四.月まんどろに   つきまんどろに
この3曲は曲間がなく一続きになっている。
『イーハトーヴォ日高見』のころのようなシンフォニック路線。
具体的に何を描写したのかよくわからないけれど、聴き手各自の解釈に委ねることとしよう。
『海の刻』は、神秘的なイントロで始まり、嵐を連想させる荒々しいサウンドへ。
やがて細かいシーケンスにのせて幻想的なシンセヴォイス。ここらへんはほとんど冨田勲の世界。
タイトルは『哀想』に変わり、VL1らしき笛の旋律が流れてくる。
しばらくゆったりしたフレーズが続き、それが不安げな響きに変わると『月まんどろに』。
畠山孝一のドラマティックなスキャットが悲壮感を感じさせる。
姫神らしいこぶし笛やファンファーレで一気に盛り上がるが…
 
 五.十三夜曲   とさやきょく
一転、静かな夜の湖面に二胡とハープの音が響く。
二胡に代表される胡弓の音色は他の楽器にはない独特の「情感」を含んでいて、
シンセの打ち込みをもってしても再現しきれない。
この曲のメロディーラインも、二胡だからこそ引き立つのかもしれない。
 
 六.風の子守歌   かぜのこもりうた 
姫神のアルバムに歌詞付きの「歌もの」が登場するのはこれが初めてになる。
オユンナが自作の詞をモンゴル語で唄う。大陸に残してきた母親を想う内容。
激しくこぶしを回す大陸的な笛の音。
それにしても彼女の歌唱力はさすがである。
唄の意味はわからずとも、心に訴えかけてくるものがある。
 
 七.流転(原題「あどはだり」)   るてん
『鎮魂』のショートヴァージョン。アレンジは大差ない。

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