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おやじの足跡 (2010年度の活動実績)

2010年10月24日(日)
乙武洋匡氏 講演会 みんなちがってみんないい

テレビにも出演され「五体不満足」の著者でもある乙武洋匡氏の講演会に参加しました。この講演会は、県民文化大祭典2010実行委員会主催の、オータムフェスティバルとして開催されたものです。

なお、この記事は講演中にとったメモを再構成したものであり、聞き違いなどがあるかもしれませんが、ご了承ください。

近況報告

講演会場

五体不満足を書いてから12年経ち、今年34歳になった。 この夏に次男が生まれた。上の子は2才になり、来年春から幼稚園。 今は慣れるためにプレ幼稚園に通っている。 見に行ったら、粘土で遊ぼうと言ってきた。 ハンバーグを作ったり、私の手を作ってくれたりした。

家でも息子がいろいろと手伝ってくれる。 電気ヒゲソリの電源を入れて、持っていてくれる。 ノートパソコンの画面の角度を動かして見やすい?と聞いてくる。 メガネを持ってきてくれるが、レンズを手で持つのでベタベタ。指紋だらけだ。

まだ小さいのに、オムツを換えるのがいやな時は、 「今、腰が痛いからさわらないで!」と言う。 そんなコトバをどこで覚えてきたのか?  2-3日経ったら今度は「今日は忙しいからダメ!」と言う。 最近の2才児は忙しいらしい。 別の日のこと。プールで水をかぶったらしく、すぐに帰ってきた。 次の日に、「今日はプールどうするの?」と聞くと、「あしたにする…」。 いやな事はもう既に先延ばしするのだ。

教員生活

期間限定の契約で3年間、杉並区の小学校教師をした。  小学生といっても、去年まで幼稚園だった1年生と、 来年は中学生になる6年生ではまったく違う。

低学年

低学年は素直。「手足がどうしてないの?どうやって(車椅子を)動かすの?」 といちいち聞いてくる。 ボクはたいていのことは自分でできるが、食事の時に困るのは、カニやミカンが剥けないことだ。 給食にカニは出ないが、ミカンは出る。 もう一つ困るのが、牛乳瓶のキャップを開けられないこと。 「先生ボクが開けてあげる!」と だれがキャップを開けるかで小競り合いになる。

ペットボトルをどうやって飲むか、やってみましょうか。 (乙武さんが器用に飲み口をはさんで飲むと、会場から拍手) 今日の皆さんはリアクションがいいですね!やりやすい! 子どもたちの前で飲んでも、同じように拍手が沸きます。 そしてマネをする子が出てくる。 私が10年かけて習得したこの技を、2-3日で出来るはずがない。 こぼしたり落としたりする。

ある子が「先生の手は秋になるとどうなるの?」 「うーん、実がなったりはしないけどね…。」

高学年

高学年の子はボクの体のことが気にはなっているが、 聞いてはいけないのかと思って、あまり障害のことに触れてこない。 低学年がガン見ならば、高学年はチラ見だ。 ある日5年生の子が上履きのサイズの話をしていた。 「先生は靴のサイズいくつ?」「先生、靴はかないから…」 確かに最初ボクの体を見たときは驚いたが、いつの間にか手足がないことを感じなくなっていた。 ごく自然に、足のサイズは?と聞いてきたのかなと思って嬉しくなった。

学校の杞憂

教員になって学校で驚いたのは、その忙しさ。 子どもは3時に帰るし、夏休みも冬休みもあるし、暇じゃない? と思われるかもしれないが、今は作らなければいけない書類が山ほどある。 しかもそのほとんどが「アリバイ作り」。  低学年と高学年の子が遊んでいて、ケガをした。 学校は何をしていたのかと裁判になって、学校が負けた。 先生がどんなに注意していても限界がある。 ボクは、先生が訴えられるような状況では、子どもを預かれないと思う。 訴えられないために…、訴えられた時のために… というほんのわずかな可能性のために、山のような書類を作り、 しかも校長や教育委員会の認可がいる。 昔の教員は子どもに向かっていたが、今の教員は文書に向かっている。

学校では「杞憂」のために、実現できないことが多い。 いんげん豆を作って、収穫祭でみんなで食べようと考えていたが、 学校で給食以外のものを食べさせてはいけないと中止になった。 子どもたちは豆を持ち帰ったが、それを家で食べて食中毒になるかもしれない。 ただ問題を先送りしているばかりか、自分達で育てて収穫して食べる喜びを奪っている。

勤務していた学校の中には、珍しく田んぼがある。 そこで田植えをするのだが、子どもたちは靴下をはいている。 田んぼにガラスなどが落ちているかもしれないから…。 はだしで味わう土のねちょねちょ感は体感できない。

保護者との信頼関係

信頼できる男の先生ならいいが、そうでない先生が逆上がりできない子のお尻をポンと押したら、セクハラで訴えられちゃう。 会社で上司が、週末何してるの?と聞くと、セクハラだというのと同じ。 大切なのは、学校と保護者の信頼関係だと思う。

保護者と信頼関係を築くため、どうしたか。 小渕首相が「ブッチホン」と呼ばれた電話魔だったように、私も保護者に電話をした。 問題が起きた時ではなく、「逆上がり頑張った」「委員に立候補したよ」と話す。 結果が出れば通知表にかけるが、ダメだった事は書けない。 頑張っても逆上がりできないこともある。一生懸命やっても落選することもある。 そんな結果に結びつかない頑張りを、電話で知らせた。 学校から電話をすると、最初は「えっ、今日うちの子何かしたんですか?」と言われた。

モンスターペアレントとよく言われるが、私はそんな人はいないと思う。 モンスターにしているのは、お互いの疑心暗鬼ではないか。 始めから信頼していない。教師と保護者は、敵対する関係ではない。 本当は、目の前の子どもを伸ばしていくパートナー。 そのやり方が食い違うことはあるが、信頼関係があれば解決する。

どこの学校にも多かれ少なかれいじめはある。 しかし学校はいじめを認めたがらないから、子ども同士の人間関係でしょうと言う。 いじめでも人間関係でもどちらでもいいが、子どもの問題に保護者が入ってくると余計こんがらがってしまう。 普段から保護者との信頼関係を築いておけば、ここは先生に任せようとなり、 先生は子ども同士のもつれた糸を解きほぐすことに専念できる。  ただ子どもと接するのは得意だが、大人(保護者)と話すのは苦手な先生もいるので、 保護者との信頼関係を築くということも簡単ではない。

エピソード

私は人と違うことをやったので、睨まれることもあった。 年度が替わった4月には、決め事が多くて子どもも飽きて来ちゃう。 「ねえ、花見しない?」「学級会どうするの?」「桜の下でやらない?」 ブルーシートとホワイトボードを校庭に持ち出して、学級会をしたら、 後で怒られた。その理由は「他のクラスでやってないから」…。 「何で1組ではやらないの?」といわれると困るから…。 先生は、結構横並び意識が強い。

運動会の80m走では、各クラスで2人ずつ走る。 私のクラスの子たちは闘争心が弱いので、何とかしようと思い、 子どもと目標を立てることにした。
「11レースすべてでクラスの誰かが1位になったら、先生ボウズになる!」 と言ったら、みんなの眼の色が変わった。とてもやる気になったので 「すぐに速く走れるようになる」本を買ってきて、 そこに書いてあった股関節を柔らかくすることを実践した。 その日から毎日みんなでしこを踏んでいると、 「乙武先生のクラスは、いつから相撲部屋になったのですか?」と言われた。

結果は11レース中8レースで1位。残念ながら全レースで1位にはなれなかった。 「大人になったら結果を求められるが、今はみんなの成長、頑張りがうれしかった。 だから先生ボウズになる!」と言うと、みんなワーっと湧いた。 隠し持っていたバリカンを取り出して、その場でみんなに少しずつ刈ってもらった。 しかしこれでまた、職員室でこっぴどく叱られた…。

ホウレン「ソウ」

社会人の基礎はホウレンソウ(報告・連絡・相談)。 でも学校の9割は杞憂なので、ホウレンソウしたら、やりたいことの1割もできない。 だからボクは相談も連絡もせず、やってから報告だけして怒られていた。

PTA主催で、学校に一泊するサマーキャンプがある。 普段私は、介助員の人がいて、板書などをしてもらう。 しかし当日介助員の方の都合がつかないため、サマーキャンプには行けない。 すると子どもが「ボクたちが先生の世話するよ!」と言ってくれた。

ぶっつけ本番ではいけないので、見つからないように車椅子用トイレで 汗だくになって、服を脱がす練習をした。 クラスの保護者には本当の話をしたら、貴重な体験をありがとうと言われた。 キャンプ本番までにチャックの上げ下げを練習する子。 先生を風呂に入れるんだと、姉を持ち上げる練習をしていた子もいたと聞いた。

ある日、モミアゲをイナズマカットにしてきた子がいた。 おやじに切られたという。「かっこいいじゃない」と言うと、 「じゃあ先生もやってよ!」と言う。 その場は笑って済ませたが、2週間後、なぜオレもイナズマカットにしなかったんだろうと後悔した。 いつの間にか子どもたちではなく、職員室の方を向いている自分に気がついた。 そして子どものためにやれることをやろうと思った。

「だいじょうぶ3組」

先生という立場になって、一番言いたかったことを、 多くの人に伝えたくて「だいじょうぶ3組」という小説を書いた。 その本で伝えたかったのは2つ。

だいじょうぶ

だいじょうぶだよというと、子どもの自己肯定感を育む。 「ダメなキャッチャーはピッチャーに細かく指示する。 いいキャッチャーは信頼して思い切って投げろという(野球の城島捕手)。」  子どもも同じ。「だいじょうぶだ。どんなボールでも受け止めてあげるよ」 という気持ちで接することが大切。 みんないい所があるのに、保護者はうちの子のココがダメなんですよと言う。

みんなちがってみんないい

「私と小鳥と鈴と」という金子みすずさんの詩がある。

私が両手をひろげても、
お空はちっとも飛べないが、
飛べる小鳥は私のやうに、
地面(じべた)を速くは走れない。

私がからだをゆすっても、
きれいな音は出ないけど、
あの鳴る鈴は私のやうに、
たくさんな唄は知らないよ。

鈴と、小鳥と、それから私、
みんなちがって、みんないい。

できない事しか言っていない。 はじめて教壇に立った時に、ボクはこう言った。 「先生には手足がありません。できないことがたくさんあります。 だから、みんな手伝って下さい。」

今まで先生は子どもの前で弱点を見せなかった。 ボクは弱点だらけでできない事がたくさんある。 でも手足がない車イスのボクだからできることを、大切にしたいと思った。

その活動をまとめたのが、「だいじょうぶ3組」という本。 ぜひ読んでください。

質問

会場:うちの子は左手がない。よく周りからまあかわいそうと言われるが、 そんな時うまく相手に理解してもらえる言い方はあるか?

乙武:一番大事なのは両親がどう考えているか。 今日、何百人の会場の中で最初に左手がないと発言していただいた。 ご両親が障害を理解している、お子さんのことを認めていると感じたので安心した。 よかったなと思う。周りはあまり重要ではない。
かわいそうと言われた人と今後どういう関係を望むかによるが、 さらりと軽く話してもいいし、友人となる大切な相手ならばちゃんと説明した方がいい。


会場:先生から保護者に電話されるという話だったが、そんな先生は少ない。 私はPTA役員だったので、自分から先生に話をして わかってもらってきたが、このことをどうお考えか?

乙武:目指すのはコミュニケーションだから、どちらからでもよいと思う。 確かに自分から話せない先生もいるので、親から話してもらえるといい。 若手教師は上司に萎縮していることもある。 先生もほめて育ててほしい。お世辞でも頑張れる。 若者は打たれ弱いという批判ばかり。 それより、だからどうしていきたいかが重要なので、 自分から一歩歩み寄ってみて下さい。


会場:どなたを目標に教師になられたのか?

乙武:特定の尊敬する人はいないが、大きな影響を受けているのは両親。 「五体不満足」の読者から、よく母のことをほめていただくが、 実は母は「ど天然」だ。 電話をしたら、いきなり「今、嫁の電話が鳴っているかと思ったら自分のだった。わっはっは!」 と笑う。冷蔵庫を閉めるときに扉に顔をはさまれたり…。 ただ手を出さない、口を出さない。過保護でなく、 危ないから止めなさいということがなかったので、ボクは自分がやりたいことに取り組めた。


会場:ボクも障害を持っているが、普通の学校に通っていた。 今は普通の企業でエンジニアをしているが、 障害を持つ自分だからできること、社会に貢献できることを探している。 乙武さんが次に活動してみたいことは何か?

乙武:教師は3年契約だったので、今年退職して本を書いた。 常に現場の様子を伝えたいので、また教育に戻りたい。 幼稚園を作りたいと思っている。子どもたちにいろんな体験をさせたい。  だから興味があれば、教員になってほしい。 子どもの個性を認めるために、教師も個性が必要!  ご自分の特徴を子どもたちの教育に生かしてほしい。

(文責:おやじの会 伊藤)

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