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今月のトピックス
こちらの今月のトピックスのコーナーでは、毎月新しい治療例や歯に関するちょっと気になる話題などを紹介していきます。これから矯正治療を始めたい方も、現在治療中の方も、このホームページを通してよりいっそうのご理解を深めていただければと思いますので、ご意見ご要望などおよせください。どうぞよろしくお願いいたします。
注: |
当院のホームページにおける症例写真はすべて実際に当院で治療した症例であり、患者の皆様の協力の下に承諾を得て掲載せていただいております。 |
2011年12月 「噛む」と「咬む」 −良い咬み合わせのために良く噛む−
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今月はのタイトルは 『噛む』と『咬む』、ややこしいですが、この漢字の使い分けしてますか?
一般的にパソコンの漢字変換で最初に出てくるのはこちらの「噛む」です。文章中で「良く噛んで食べましょう」などといった表現のときに使われます。
しかし、我々歯科で良く使われるのは主にこちらの「咬む」で、「咬み合わせがいい」とか「前歯が咬んでない」といったときに使います。
イメージ的には、物を食べるときにかみ砕く(咀嚼)ことを表す時には「噛む」を、上下の歯を合わせた静止状態の時には「咬む」を使っているようです。
前置きが長くなりましたが、なぜこんな話をしているかといいますと、「良い咬み合わせ」を作るためには「良く噛む」ことが大切だからです。
当院は矯正歯科ですので、「うちの子咬み合わせが悪いんです」とか「咬み合わせが悪くてかみにくいんです」といった相談が多くよせられます。
しかし、そもそも、「良い咬み合わせ」どはどんなものでしょう?凸凹がなくてきれいに並んでいれば「良い咬みあわせ」でしょうか?
こちらの写真をご覧ください。
 
一見、そこそこきれいに並んでいます。しかし、よく見ると奥歯を咬み合わせているはずなのに上下の前歯が咬み合わず、かなり開いた状態になっています。あごを動かして咬む位置を変えても前歯を咬み合せることができません。
これは「開咬」と呼ばれる不正歯列のひとつです。
つまり、「きれいに並んでいる=咬み合わせが良い」ではなく、良い咬み合わせとは上下の歯が緊密に接触して、物を咀嚼する(噛む)ことができるということです。
治療後の咬み合わせです。
 
上下の歯が隙間なく咬み合っています。特に前から4番目以降の臼歯がしっかり咬み合っているのが大切で、下図のように1歯に対し2歯接触しているのが良い状態です。

前歯に関しては奥歯を咬み合せた静止状態では、上の前歯の先端が下の前歯の先端3分の1程度重なった状態で、接触していないのが正常です。
よく勘違いされやすいのですが、マンガのキャラクターのように上下の前歯が先端であたっているのは、むしろ咬み合せとしてはよくありません。

前歯はものを噛みきる為にありますので、下あごを前にずらして上下の先端の位置を合わせた時にはじめて接触します。この際、奥歯は接触せず、あごを自由に前後左右に動かすことができます。こうして前歯先端のみをすり合わせることで咬む力が集中し、物を噛み切ることができるのです。

さて、良い咬み合わせがわかったところで、話をもどします。
「良い咬み合わせ」を作るためには「良く噛む」ことが大切、という話ですが、これは、矯正治療を受ける方にも、されない方にも関わってくる話です。
例えば矯正治療を受けられている方の場合で、正しい動きで良く噛んでいる方と、そうでない方では治療の進む速さが違ってきます。
あまり噛まずに早食いしたり、飲み物で流し込むような食べ方をしていると、歯に適度な圧力が加わらず、歯の動きが遅かったり、動いてほしくない部分の歯が勝手に動いてしまったりしますので、治療に余分な時間がかかってしまいます。
また、片方の歯ばかりで噛んだり、食いしばりの癖のある方も歯の動きが悪くなります。
反対に良く噛んでいる患者さんは治療自体が驚くほどスムーズです。特に治療の最終仕上げの段階で、ほとんど手を加えなくても自然にしっくり咬み合って、治療後の安定もよく、きれいな歯並びが長期的に維持できます。
これは、歯並びが生まれつきの要素だけでなく、「噛む」という日常的な機能でも影響されているからです。よく、筋肉や脳など使わないと衰えるといいますが、歯にも似たようなことが言えます。
前述の「開咬」と呼ばれる歯並びの方は、柔らかい食べ物を好む傾向や咬む力が弱かったりする場合が多くみられます。奥歯に咬む力があまり加わらないので、奥歯が伸びあがって前歯が開いてしまうのが原因のひとつです。ほかにも唇を閉じる力が弱かったり、舌を前歯に乗せる癖など、開咬は主に後天的な生活習癖でおこる歯列不正の代表格です。
また、「叢生」と呼ばれるでこぼこの歯並びは、歯の大きさと顎の大きさのバランスが悪く、小さい顎に歯が並びきれずにおこるといわれていますが、顎の大きさだけでなく、歯の傾きにも影響されています。
永久歯の奥歯は生えるときに少し内側に傾斜した状態で生えてくるのですが、しっかり噛むことで、咬合力をささえるためにまっすぐに立ち上がってきます。
同じ顎の大きさでも、内向きに傾斜していれば当然歯並びのアーチは小さくなりますから、生え変わりの時期にあまり噛む習慣がないと歯がしっかり立ち上がらずでこぼこになりやすくなってしまうのです。

この場合のしっかり噛むとは、ある程度噛みごたえのあるものを噛むことが大切です。
硬いものを噛もうとすると、無意識により力を入れやすい場所を求めて顎を少し前後左右に水平的に動かしながら噛みます。この刺激が歯によいのです。
反対に柔らかい食べ物では軽い力で顎を垂直に動かすだけで噛み砕けてしまうので、あまり刺激が伝わりません。さらに、ほとんど噛まずに飲み物で流し込むような食べ方は論外です。
噛み応えのある食べ物としては、もちろんするめやビーフジャーキーのようなものが望ましいですが、塩分も高く、毎日多量に食べ続けるのは難しいですので、注意したいのは各家庭での食事のスタイルです。
例えばメニューとしてはハンバーグよりはお肉のソテー、ポテトサラダよりは野菜サラダ、また、野菜は大きめに切る、火を通しすぎないなど、ちょっとした気配りで、噛み応えを増やすことができます。
ご飯を硬めに炊くとか、玄米をまぜるなども良いかもしれません。
食事中の飲み物はお口の中の食べ物を飲み込んでから、飲むように心がけましょう。
変わったところでは、(株)ライオンから噛む力をトレーニングする硬質ガムも発売されています。硬質といってもむやみに硬いわけでなく味もなかなか美味でしたので、補助的に利用するとよいでしょう。
肝心なのは、噛むことへの意識と日常生活として継続していくことです。
日々の些細な生活習慣が、自分自身や大切なお子さんの身体を作っていくのだということを意識してください。
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