日本軍「慰安婦」についての文献


 ここに掲載したのは、石出法太氏と金富子さんの3人で編集した『「日本軍慰安婦」をどう教えるか』(梨の木舎、1997年8月刊、1500円)の中に収録されている日本軍慰安婦についての参考文献を紹介した文章です。この本は、日本軍慰安婦についての基本的な説明、Q&Aに加えて、小学校、中学校、高校、短大でどのようにこの問題を教えるのかについての教育実践、授業でも使える基本資料などからなるものです。私がこの参考文献や歴史的な事実についての説明を書いています(1997年春の時点で書いたものです)。学校の先生だけでなく、日本軍慰安婦について基礎的なことを知りたいという方にはぜひよんでほしい本です。  1999.4.1


 日本軍慰安婦についての先駆的な仕事として千田夏光『従軍慰安婦』正・続(三一書房、一九七八年、正編の初版は双葉社、一九七三年)があり貴重な内容が含まれている。その後、一九九〇年代に入ってから、日本軍慰安婦に関する資料が次々に見つけられ、元慰安婦の方々の証言も多数紹介されるようになってきた。そうした資料に基づいた新たな研究もおこなわれてきている。ここではすべてを紹介することはできないが、この問題を理解するうえで重要な基本的な文献(単行本)を中心に紹介したい。

 まず最新の研究成果をふまえてまとめられ、日本軍慰安婦の全体像を描いたものとしては、吉見義明『従軍慰安婦』(岩波新書、一九九五年)と吉見義明・林博史編著『共同研究 日本軍慰安婦』(大月書店、一九九五年)がある。従来は朝鮮人慰安婦に焦点があてられていたが、これらの研究は中国や東南アジアを含めて全体像に迫ろうとしたもので、この二つを読めば研究の到達点はほぼ確認できるだろう。後者は日本の戦争責任資料センターの研究者の共同研究である。

 慰安婦に関する基本的な資料は、吉見義明編『従軍慰安婦資料集』(大月書店、一九九二年)に収録されている。この本は慰安婦問題を議論するうえで必携の資料集である。

 中高生にも薦められる本としては、西野留美子『従軍慰安婦のはなしー十代のあなたへのメッセージ』(明石書店、一九九三年)、金富子・梁澄子ほか『もっと知りたい「慰安婦」問題』(明石書店、一九九五年)がある。前者は一二歳の少女との会話をきっかけにそうした年代の少年少女にもこの問題を考えてもらいたいと書かれたものであり、後者は在日韓国人の元慰安婦宋神道さんのくわしい証言と慰安婦問題のわかりやすい解説からなる本で、これまでのところ最も信頼できる入門書である。

 元慰安婦の方々の証言はたくさんの本が出されている。ただ集会での証言のような場合、その場の雰囲気や時間的な制約などさまざまな理由で証言の内容に違いが生じてくることがしばしばあることに留意して扱う必要がある。韓国の元慰安婦の証言に関して、最も信頼できるものとして、韓国挺身隊問題対策協議会・挺身隊研究会編(従軍慰安婦問題ウリヨソンネットワーク訳)『証言 強制連行された朝鮮人慰安婦たち』(明石書店、一九九三年)があげられる。この本は挺対協のメンバーがくり返し証言を聞き、内容を確かめながらまとめた証言集である。先に紹介した宋神道さんを支える運動をしながらその証言をまとめた、川田文子『皇軍慰安所の女たち』(筑摩書房、一九九三年)やフィリピン人元慰安婦の回想記である、マリア・ロサ・ヘンソン(藤目ゆき訳)『ある日本軍「慰安婦」の回想』(岩波書店、一九九五年)も推薦できる。慰安婦問題が国内外で大きく問われるようになる大きなきっかけとなった国際公聴会の記録、国際公聴会実行委員会編『世界に問われる日本の戦後処理@』(東方出版、一九九三年)には南北朝鮮、中国、台湾、フィリピン、オランダの元慰安婦の証言が収録されている。中国人元慰安婦の証言はまだ本になっていないが、「元中国人『慰安婦』の証言」(『季刊戦争責任研究』一五号、一九九七年三月)に四人の証言が紹介されている。

 日本軍慰安婦制度が国際法に照らしてどうだったのかについては、国際法律家協会(自由人権協会・日本の戦争責任資料センター訳)『国際法からみた「従軍慰安婦」問題』(明石書店、一九九五年)がくわしい分析をおこなっている。国連人権委員会で慰安婦問題を取り上げる理論的基礎を固めた『ファン・ボーベン国連最終報告書』と被害者への国家補償などを勧告した『クマラスワミ国連報告書』も翻訳出版されている(いずれも日本の戦争責任資料センターで翻訳出版)。

 慰安婦制度と公娼制の関係については、両者ともに性奴隷制であるという理解では共通しつつも、慰安婦制度は軍による公娼制であるという議論と、慰安婦制度は公娼制とは区別されるべき性奴隷制であるという議論がある(本書は後者の考えで書かれている)。前者としては鈴木裕子『「従軍慰安婦」問題と性暴力』(未来社、一九九三年)、後者としては川田文子『戦争と性―近代公娼制度・慰安所制度をめぐって』(明石書店、一九九五年)、上杉聰「『慰安婦』は商行為かー『慰安婦』問題の真実」(『歴史地理教育』一九九七年一月・二月号)がある。後者の二つは慰安婦制度と公娼制の関係についてくわしく展開している。

外国の軍隊との比較については吉見義明『従軍慰安婦』と吉見・林『共同研究 日本軍慰安婦』でも取り上げているが、ほかに田中利幸『知られざる戦争犯罪』(大月書店、一九九三年)が軍隊の持つ性暴力としての本質について興味深い分析をしている。ナチス・ドイツの慰安所制度については、クリスタ・パウル(イエミン恵子ほか訳)『ナチズムと強制売春―強制収容所特別棟の女性たち』(明石書店、一九九六年)がくわしい。

 なお前記の『従軍慰安婦資料集』刊行後、発見された慰安婦関係資料や慰安婦に関する研究成果は『季刊戦争責任研究』(日本の戦争責任資料センター発行、一九九七年六月までに一六号刊行)に逐次掲載されており、ここで最新の研究動向がわかる。

 慰安婦問題だけではないが、日本がおこなった戦争犯罪の全体像については、小田部雄次・林博史・山田朗『キーワード日本の戦争犯罪』(雄山閣、一九九五年)、戦後補償問題の全般については、内海愛子ほか『増補版 ハンドブック戦後補償』(梨の木舎、一九九四年)が便利である。

 慰安婦の記述を教科書から削除せよなどという議論に対する批判はさまざまな所でおこなわれているが、まとまった本としては、藤原彰・森田俊男編『近現代史の真実は何か』(大月書店、一九九五年)、教科書検定訴訟を支援する全国連絡会議編『教科書から消せない戦争の真実』(青木書店、一九九六年)、梅田欽治・佐藤伸雄編『いま学びたい近現代史』(教育史料出版会、一九九七年)などがある。

日本の戦争責任資料センターが開設したホームページには、平和博物館がオープンしており、ほかにも関連する情報が得られる。