ひらがな民法(読書用)

現代かなづかい、読みがな、読みかえ付き、全一頁


第1編 総則 第1章 人 第2章 法人 第3章 物 第4章 法律行為 第5章 期間 第6章 時効
第2編 物権 第1章 総則 第2章 占有権 第3章 所有権 第4章 地上権 第5章 永小作権 第6章 地役権 第7章 留置権 第8章 先取特権 第9章 質権 第10章 抵当権
第3編 債権 第1章 総則 第2章 契約 第3章 事務管理 第4章 不当利得 第5章 不法行為
第4編 親族 第1章 総則 第2章 婚姻 第3章 親子 第4章 親権 第5章 後見 第6章 扶養
第5編 相続 第1章 総則 第2章 相続人 第3章 相続の効力 第4章 相続の承認及び放棄 第5章 財産の分離 第6章 相続人の不存在 第7章 遺言 第8章 遺留分





──民法を読んで楽しもう

第1編 総則

第1条〔私権の基本原則、信義誠実の原則、権利濫用の禁止〕

 私権は公共の福祉に遵(したが)う。

 権利の行使及び義務の履行(りこう、実行)は信義に従い誠実に之(これ)を為すことを要す。

 権利の濫用(らんよう)は之を許さず。

第1条の2〔民法解釈の基準〕

 本法は個人の尊厳と両性の本質的平等とを旨(むね)として之を解釈すべし。


第1章 人

第1節 私権の享有

第1条の3〔権利能力の始期〕

 私権の享有(持つこと)は出生に始まる。

第2条〔外国人の権利能力〕

 外国人は法令又は条約に禁止ある場合を除く外(ほか)私権を享有す。

第2節 能力

第3条〔成年〕

 満20年を以て成年とす。

第4条〔未成年者の行為能力〕

 未成年者が法律行為を為すには其法定代理人の同意を得ることを要す、但(ただし)単に権利を得(え)又は義務を免(まぬが)るべき行為は此限(このかぎり)に在らず。

 前項の規定に反する行為は之を取消(とりけ)すことを得(う)。

第5条〔随意処分の許可〕

 法定代理人が目的を定めて処分を許したる財産は其目的の範囲内に於(おい)て未成年者随意(ずいい、勝手)に之を処分することを得、目的を定めずして処分を許したる財産を処分する亦(また)同じ。

第6条〔営業の許可〕

 一種又は数種の営業を許されたる未成年者は其営業に関しては成年者と同一の能力を有す。

 前項の場合に於て未成年者が未(いま)だ其営業に堪(た)えざる事跡(じせき、事情)あるときは其法定代理人は親族編の規定に従い其許可を取消し又は之を制限することを得。

第7条〔後見開始の審判〕

 精神上の障害に因(よ)り事理(じり、物の道理)を弁識(べんしき、認識)する能力を欠く常況(じょうきょ う、常態)に在る者に付ては家庭裁判所は本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人(後見を監督する人、第851条)、保佐人、保佐 監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求に因り後見開始の審判を為すことを得。

第8条〔成年後見人〕

 後見開始の審判を受けたる者は成年被後見人(禁治産者、後見される人)として之に成年後見人を付す。

第9条〔成年被後見人の行為能力〕

 成年被後見人の法律行為は之を取消すことを得、但日用品の購入其他日常生活に関する行為に付いては此限に在らず。

第10条〔後見開始の審判の取消〕

 第7条に定めたる原因止(や)みたるときは家庭裁判所は本人、配偶者、4親等内の親族、後見人(未成年後見人及び成年後見人を謂(い)う以下同じ)、後 見監督人(未成年後見監督人及び成年後見監督人を謂う以下同じ)、又は検察官の請求に因り後見開始の審判を取消すことを要す。

第11条〔保佐開始の審判〕

 精神上の障害に因り事理を弁識する能力が著しく不十分なる者に付ては家庭裁判所は本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求に因り保佐開始の審判を為すことを得、但第7条に定めたる原因ある者に付ては此限に在らず。

第11条の2〔保佐人〕

 保佐開始の審判を受けたる者は被保佐人(準禁治産者)として之に保佐人を付す。

第12条〔被保佐人の行為能力〕

 被保佐人が左に掲げたる行為を為すには其保佐人の同意を得ることを要す、但第9条但書に定めたる行為に付ては此限に在らず。
一 元本(がんぽん)を領収し又は之を利用すること。
二 借財又は保証を為すこと。
三 不動産其他重要なる財産に関する権利の得喪(とくそう、得失)を目的とする行為を為すこと。
四 訴訟行為を為すこと。
五 贈与、和解又は仲裁契約を為すこと。
六 相続の承認若(も)しくは放棄又は遺産の分割を為すこと。
七 贈与若(もし)くは遺贈を拒絶し又は負担付の贈与若くは遺贈を受諾すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕を為すこと。
九 第602条〔短期賃貸借〕に定めたる期間を超ゆる賃貸借を為すこと。

 家庭裁判所は第11条本文に掲げたる者又は保佐人若くは保佐監督人の請求に因り被保佐人が前項に掲げざる行為を為すにも亦其保佐人の同意を得ることを要する旨の審判を為すことを得、但第9条但書に定めたる行為に付ては此限に在らず。

 保佐人の同意を得ることを要する行為にして其同意又は之に代わる許可を得ずして為したるものは之を取消すことを得。

 保佐人の同意を得ることを要する行為に付き保佐人が被保佐人の利益を害する虞(おそれ)なきに拘(かかわ)らず同意を為さざるときは家庭裁判所は被保佐人の請求に因り保佐人の同意に代わる許可を与うることを得。

第13条〔保佐開始の審判の取消〕

 第11条本文に定めたる原因止みたるときは家庭裁判所は本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求に因り保佐開始の審判を取消すことを要す。

 家庭裁判所は前項に掲げたる者の請求に因り前条第2項の審判の全部又は一部を取消すことを得。

第14条〔補助開始の審判〕

 精神上の障害に因り事理を弁識する能力が不十分なる者に付ては家庭裁判所は本人、配偶者、4親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は 検察官の請求に因り補助開始の審判を為すことを得、但第7条又は第11条本文に定めたる原因ある者に付ては此限に在らず。

 本人以外の者の請求に因り補助開始の審判を為すには本人の同意あることを要す。

 補助開始の審判は第16条第1項の審判又は第876条の9第1項の審判と共に之を為すことを要す。

第15条〔補助人〕

 補助開始の審判を受けたる者は被補助人として之に補助人を付す。

第16条〔補助人の同意〕

 家庭裁判所は第14条第1項本文に掲げたる者又は補助人若しくは補助監督人の請求に因り被補助人が特定の法律行為を為すには其補助人の同意を得ることを要する旨の審判を為すことを得、但其同意を得ることを要する行為は第12条第1項に定めたる行為の一部に限る。

 本人以外の者の請求に因り前項の審判を為すには本人の同意あることを要す。

 補助人の同意を得ることを要する行為に付き補助人が被補助人の利益を害する虞なきに拘らず同意を為さざるときは家庭裁判所は被補助人の請求に因り補助人の同意に代わる許可を与うることを得。

 補助人の同意を得ることを要する行為にして其同意又は之に代わる許可を得ずして為したるものは之を取消すことを得。

第17条〔補助開始の審判の取消〕

 第14条第1項本文に定めたる原因止みたるときは家庭裁判所は本人、配偶者、4親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求に因り補助開始の審判を取消すことを要す。

 家庭裁判所は前項に掲げたる者の請求に因り前条第1項の審判の全部又は一部を取消すことを得。

 前条第1項の審判及び第876条の9第1項の審判を総(すべ)て取消す場合に於ては家庭裁判所は補助開始の審判を取消すことを要す。

第18条〔後見開始の審判〕

 後見開始の審判を為す場合に於て本人が被保佐人又は被補助人なるときは家庭裁判所は其本人に係る保佐開始又は補助開始の審判を取消すことを要す。

 前項の規定は保佐開始の審判を為す場合に於て本人が成年被後見人若くは被補助人なるとき又は補助開始の審判を為す場合に於て本人が成年被後見人若(もし)くは被保佐人なるときに之を準用す。

第19条〔制限能力者の相手方の催告権〕

 制限能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第16条第1項の審判を受けたる被補助人を謂う。以下同じ)の相手方は其制限能力者が能力者と為りた る後之に対して1个(か)月以上の期間内に其取消し得べき行為を追認するや否やを確答すべき旨を催告(さいこく、請求)することを得、若し其制限能力者が 其期間内に確答を発せざるときは其行為を追認したるものと看做(みな)す。

 制限能力者が未だ能力者とならざる時に於て其法定代理人、保佐人又は補助人に対し其権限内の行為に付き前項の催告を為すも其期間内に確答を発せざるとき亦同じ。

 特別の方式を要する行為に付ては右の期間内に其方式を践(ふ)みたる通知を発せざるときは之を取消したるものと看做す。

 被保佐人又は第16条第1項の審判を受けたる被補助人に対しては第1項の期間内に其保佐人又は補助人追認を得べき旨を催告することを得、若し其被保佐人又は被補助人が其期間内に右の追認を得たる通知を発せざるときは之を取消したるものと看做す。

第20条〔制限能力者の詐術〕

 制限能力者が能力者たることを信ぜしむる為め詐術を用いたるときは其行為を取消すことを得ず。


第3節 住所

第21条〔住所〕

 各人の生活の本拠を以て其住所とす。

第22条〔居所〕

 住所の知れざる場合に於ては居所(きょしょ、居場所)を以て住所と看做す。

第23条〔居所〕

 日本に住所を有せざる者は其日本人たると外国人たるとを問わず日本に於ける居所を以て其住所と看做す、但法例其他準拠法を定むる法律に従い其住所の法律に依るべき場合は此限に在らず。

第24条〔仮住所〕

 或行為に付き仮住所を選定したるときは其行為に関しては之を住所と看做す。

第4節 失踪

第25条〔不在者の財産の管理〕  

 従来の住所又は居所を去りたる者が其財産の管理人を置かざりしときは家庭裁判所は利害関係人又は検察官の請求に因り其財産の管理に付き必要なる処分を命ずることを得、本人の不在中管理人の権限が消滅したるとき亦同じ。

 本人が後日に至り管理人を置きたるときは家庭裁判所は其(本人の)管理人、利害関係人又は検察官の請求に因り其(家庭裁判所の)命令を取消すことを要す。

第26条〔管理人の改任〕

 不在者が管理人を置きたる場合に於て其不在者の生死分明(ぶんめい、明確)ならざるときは家庭裁判所は利害関係人又は検察官の請求に因り管理人を改任(かいにん、改めて選任)することを得。

第27条〔管理人の職務〕

 前2条の規定に依り家庭裁判所に於て選任したる管理人は其管理すべき財産の目録を調製(作成)することを要す、但其費用は不在者の財産を以て之を支弁(しべん、支払)す。

 不在者の生死分明ならざる場合に於て利害関係人又は検察官の請求あるときは家庭裁判所は不在者が置きたる管理人にも前項の手続を命ずることを得。

 右の外総て家庭裁判所が不在者の財産の保存に必要と認むる処分は之を管理人に命ずることを得。

第28条〔管理人の権限〕

 管理人が第103条〔権限の定めなき代理人の代理権の範囲〕に定めたる権限を超ゆる行為を必要とするときは家庭裁判所の許可を得て之を為すことを得、不在者の生死分明ならざる場合に於て其管理人が不在者の定め置きたる権限を超ゆる行為を必要とするとき亦同じ。

第29条〔管理人の担保提供、報酬〕

 家庭裁判所は管理人をして財産の管理及び返還に付き相当の担保を供せしむることを得。

 家庭裁判所は管理人と不在者との関係其他の事情に依り不在者の財産中より相当の報酬を管理人に与うることを得。

第30条〔失踪宣告〕

 不在者の生死が7年間分明ならざるときは家庭裁判所は利害関係人の請求に因り失踪の宣告を為すことを得。

 戦地に臨(のぞ)みたる者、沈没したる船舶中に在りたる者其他死亡の原因たるべき危難に遭遇したる者の生死が戦争の止みたる後、船舶の沈没したる後又は其他の危難の去りたる後1年間分明ならざるとき亦同じ。

第31条〔失踪宣告の効力〕

 前条第1項の規定に依り失踪の宣告を受けたる者は前条第1項の期間満了の時に死亡したるものと看做し、前条第2項の規定に依り失踪の宣告を受けたる者は危難の去りたる時に死亡したるものと看做す。

第32条〔失踪宣告の取消し〕

 失踪者の生存すること又は前条に定めたる時と異なりたる時に死亡したることの証明あるときは家庭裁判所は本人又は利害関係人の請求に因り失踪の宣告を取消すことを要す、但失踪の宣告後其取消前に善意を以て為したる行為は其効力を変ぜず。

 失踪の宣告に因りて財産を得たる者は其取消に因りて権利を失うも現に利益を受くる限度に於てのみ其財産を返還する義務を負う。


第5節 同時死亡の推定

第32条の2〔同時死亡の推定〕

 死亡したる数人中其1人が他の者の死亡後尚お生存したること分明ならざるときは此等の者は同時に死亡したるものと推定す。

第2章 法人

第1節 法人の設立

第33条〔法人設立の準則〕

 法人は本法其他の法律の規定に依るに非ざれば成立することを得ず。

第34条〔公益法人の設立〕

 祭祀、宗教、慈善、学術、技芸其他公益に関する社団又は財団にして営利を目的とせざるものは主務官庁の許可を得て之を法人と為すことを得。

第34条の2〔公益法人名称の使用禁止〕

 社団法人又は財団法人に非ざるものは其名称中に社団法人若くは財団法人なる文字又は此等と誤認せしむべき文字を使用することを得ず。

第35条〔営利法人の設立〕

 営利を目的とする社団は商事会社設立の条件に従い之を法人と為すことを得。

 前項の社団法人には総て商事会社に関する規定を準用す。

第36条〔外国法人の一般的不認許・権利能力〕

 外国法人は国、国の行政区画及び商事会社を除く外其成立を認許せず、但法律又は条約に依りて認許せられたるものは此限に在らず。

 前項の規定に依りて認許せられたる外国法人は日本に成立する同種の者と同一の私権を有す、但外国人が享有することを得ざる権利及び法律又は条約中に特別の規定あるものは此限に在らず。

第37条〔定款の必要的記載事項〕

 社団法人の設立者は定款を作り之に左の事項を記載することを要す。
一 目的
二 名称
三 事務所
四 資産に関する規定
五 理事の任免に関する規定
六 社員たる資格の得喪に関する規定

第38条〔定款の変更〕

 社団法人の定款は総社員の4分の3以上の同意あるときに限り之を変更することを得、但定款に別段の定あるときは此限に在らず。

 定款の変更は主務官庁の認可を受くるに非ざれば其効力を生ぜず。

第39条〔寄附行為の必要的記載事項〕

 財団法人の設立者は其設立を目的とする寄附行為を以て第37条第1号乃至(ないし)第5号に掲げたる事項を定むることを要す。

第40条〔寄附行為の補充〕

 財団法人の設立者が其名称、事務所又は理事任免の方法を定めずして死亡したるときは裁判所は利害関係人又は検察官の請求に因り之を定むることを要す。

第41条〔贈与・遺贈の規定の準用〕

 生前処分を以て寄附行為を為すときは贈与に関する規定を準用す。

 遺言を以て寄附行為を為すときは遺贈に関する規定を準用す。

第42条〔寄附財産の帰属時期〕

 生前処分を以て寄附行為を為したるときは寄附財産は法人設立の許可ありたる時より法人の財産を組成す。

 遺言を以て寄附行為を為したるときは寄附財産は遺言が効力を生じたる時より法人に帰属したるものと看做す。

第43条〔法人の権利能力の範囲〕

 法人は法令の規定に従い定款又は寄附行為に因りて定まりたる目的の範囲内に於て権利を有し義務を負う。

第44条〔法人の不法行為能力〕

 法人は理事其他の代理人が其職務を行うに付き他人に加えたる損害を賠償する責に任ず。

 法人の目的の範囲内に在らざる行為に因りて他人に損害を加えたるときは其事項の議決を賛成したる社員、理事及び之を履行したる理事其他の代理人連帯して其賠償の責に任ず。

第45条〔法人の設立登記〕

 法人は其設立の日より主たる事務所の所在地に於ては2週間、其他の事務所の所在地に於ては3週間内に登記を為すことを要す。

 法人の設立は其主たる事務所の所在地に於て登記を為すに非ざれば之を以て他人に対抗することを得ず。

 法人設立の後新に事務所を設けたるときは其事務所の所在地に於ては3週間内に登記を為すことを要す。

第46条〔登記事項・変更登記〕

 登記すべき事項左の如し。
一 目的
二 名称
三 事務所
四 設立許可の年月日
五 存立時期を定めたるときは其時期
六 資産の総額
七 出資の方法を定めたるときは其方法
八 理事の氏名、住所

 前項に掲げたる事項中に変更を生じたるときは主たる事務所の所在地に於ては2週間、其他の事務所の所在地に於ては3週間内に其登記を為すことを要す、登記前に在りては其変更を以て他人に対抗することを得ず。

 理事の職務の執行を停止し若くは之を代行する者を選任する仮処分又は其仮処分の変更若くは取消ありたるときは主たる事務所及び其他の事務所の所在地に於て其登記を為すことを要す、此場合に於ては前項後段の規定を準用す。

第47条〔登記期間の起算〕

 第45条第1項及び前条の規定に依り登記すべき事項にして官庁の許可を要するものは其許可書の到達したる時より登記の期間を起算す。

第48条〔事務所移転登記〕

 法人が主たる事務所を移転したるときは2週間内に旧所在地に於ては移転の登記を為し新所在地に於ては第46条第1項に定めたる登記を為し其他の事務所を 移転したるときは旧所在地に於ては3週間内に移転の登記を為し新所在地に於ては4週間内に第46条第1項に定めたる登記を為すことを要す。

 同一の登記所の管轄区域内に於て事務所を移転したるときは其移転のみの登記を為すことを要す。

第49条〔外国法人の登記〕

 第45条第3項、第46条及び前条の規定は外国法人が日本に事務所を設くる場合にも亦之を適用す、但外国に於て生じたる事項に付ては其通知の到達したる時より登記の期間を起算す。

 外国法人が始めて日本に事務所を設けたるときは其事務所の所在地に於て登記を為すまでは他人は其法人の成立を否認することを得。

第50条〔法人の住所〕

 法人の住所は其主たる事務所の所在地に在るものとす。

第51条〔財産目録・社員名簿〕

 法人は設立の時及び毎年初の3个月内に財産目録を作り常に之を事務所に備へ置くことを要す、但特に事業年度を設くるものは設立の時及び其年度の終に於て之を作ることを要す。

 社団法人は社員名簿を備へ置き社員の変更ある毎に之を訂正することを要す。

第2節 法人の管理

第52条〔理事〕

 法人には1人又は数人の理事を置くことを要す。

 理事数人ある場合に於て定款又は寄附行為に別段の定なきときは法人の事務は理事の過半数を以て之を決す。

第53条〔理事の代表権〕

 理事は総て法人の事務に付き法人を代表す、但定款の規定又は寄附行為の趣旨に違反することを得ず、又社団法人に在りては総会の決議に従うことを要す。

第54条〔代表権の制限〕

 理事の代理権に加えたる制限は之を以て善意の第三者に対抗することを得ず。

第55条〔代表権の委任〕

 理事は定款、寄附行為又は総会の決議に依りて禁止せられざるときに限り特定の行為の代理を他人に委任することを得。

第56条〔仮理事〕

 理事の欠けたる場合に於て遅滞の為め損害を生ずる虞あるときは裁判所は利害関係人又は検察官の請求に因り仮理事を選任す。

第57条〔特別代理人〕

 法人と理事との利益相反する事項に付ては理事は代理権を有せず此場合に於ては前条の規定に依りて特別代理人を選任することを要す。

第58条〔監事〕

 法人には定款、寄附行為又は総会の決議を以て1人又は数人の監事を置くことを得。

第59条〔監事の職務権限〕

 監事の職務左の如し。
一 法人の財産の状況を監査すること。
二 理事の業務執行の状況を監査すること。
三 財産の状況又は業務の執行に付き不整の廉あることを発見したるときは之を総会又は主務官庁に報告すること。
四 前号の報告を為す為め必要あるときは総会を招集すること。

第60条〔通常総会〕

 社団法人の理事は少くとも毎年1回社員の通常総会を開くことを要す。

第61条〔臨時総会〕

 社団法人の理事は必要ありと認むるときは何時にても臨時総会を招集することを得。

 総社員の5分の1以上より会議の目的たる事項を示して請求を為したるときは理事は臨時総会を招集することを要す、但此定数は定款を以て之を増減することを得。

第62条〔総会の招集手続〕

 総会の招集は少くとも5日前に其会議の目的たる事項を示し定款に定めたる方法に従いて之を為すことを要す。

第63条〔総会の権限〕

 社団法人の事務は定款を以て理事其他の役員に委任したるものを除く外総て総会の決議に依りて之を行う。

第64条〔総会の決議事項〕

 総会に於ては第62条の規定に依りて予め通知を為したる事項に付てのみ決議を為すことを得、但定款に別段の定あるときは此限に在らず。

第65条〔社員の表決権〕

 各社員の表決権は平等なるものとす。

 総会に出席せざる社員は書面を以て表決を為し又は代理人を出たすことを得。

 前2項の規定は定款に別段の定ある場合には之を適用せず。

第66条〔社員に表決権のない場合〕

 社団法人と或社員との関係に付き議決を為す場合に於ては其社員は表決権を有せず。

第67条〔法人の業務の監督〕

 法人の業務は主務官庁の監督に属す。

 主務官庁は法人に対し監督上必要なる命令を為すことを得。

 主務官庁は何時にても職権を以て法人の業務及び財産の状況を検査することを得。

第3節 法人の解散

第68条〔法人の解散事由〕

 法人は左の事由に因りて解散す。
一 定款又は寄附行為を以て定めたる解散事由の発生
二 法人の目的たる事業の成功又は其成功の不能
三 破産
四 設立許可の取消

 社団法人は前項に掲げたる場合の外左の事由に因りて解散す。
一 総会の決議
二 社員の欠亡

第69条〔解散の決議〕

 社団法人は総社員の4分の3以上の承諾あるに非ざれば解散の決議を為すことを得ず、但定款に別段の定あるときは此限に在らず。

第70条〔法人の破産〕

 法人が其債務を完済すること能わざるに至りたるときは裁判所は理事若くは債権者の請求に因り又は職権を以て破産の宣告を為す。

 前項の場合に於て理事は直ちに破産宣告の請求を為すことを要す。

第71条〔設立許可の取消し〕

 法人が其目的以外の事業を為し又は設立の許可を得たる条件若くは主務官庁の監督上の命令に違反し其他公益を害すべき行為を為したる場合に於て他の方法に 依り監督の目的を達すること能わざるときは主務官庁は其許可を取消すことを得、正当の事由なくして引続き3年以上事業を為さざるとき亦同じ。

第72条〔残余財産の帰属〕

 解散したる法人の財産は定款又は寄附行為を以て指定したる人に帰属す。

 定款又は寄附行為を以て帰属権利者を指定せず又は之を指定する方法を定めさりしときは理事は主務官庁の許可を得て其法人の目的に類似せる目的の為めに其財産を処分することを得、但社団法人に在りては総会の決議を経ることを要す。

 前2項の規定に依りて処分せられざる財産は国庫に帰属す。

第73条〔清算法人〕

 解散したる法人は清算の目的の範囲内に於ては其清算の結了に至るまで尚お存続するものと看做す。

第74条〔清算人〕

 法人が解散したるときは破産の場合を除く外理事其清算人と為る但定款若くは寄附行為に別段の定あるとき又は総会に於て他人を選任したるときは此限に在らず。

第75条〔裁判所による清算人の選任〕

 前条の規定に依りて清算人たる者なきとき又は清算人の欠けたる為め損害を生ずる虞あるときは裁判所は利害関係人若くは検察官の請求に因り又は職権を以て清算人を選任することを得。

第76条〔裁判所による清算人の解任〕

 重要なる事由あるときは裁判所は利害関係人若くは検察官の請求に因り又は職権を以て清算人を解任することを得。

第77条〔解散の登記と届出〕

 清算人は破産及び設立許可の取消の場合を除く外解散後主たる事務所の所在地に於ては2週間、其他の事務所の所在地に於ては3週間内に其氏名、住所及び解散の原因、年月日の登記を為し且つ之を主務官庁に届出つることを要す。

 清算中に就職したる清算人は就職後主たる事務所の所在地に於ては2週間、其他の事務所の所在地に於ては3週間内に其氏名、住所の登記を為し且つ之を主務官庁に届出つることを要す。

 前項の規定は設立許可の取消に因る解散の際に就職したる清算人に之を準用す。

第78条〔清算人の職務権限〕

 清算人の職務左の如し。
一 現務の結了
二 債権の取立及び債務の弁済
三 残余財産の引渡

 清算人は前項の職務を行う為めに必要なる一切の行為を為すことを得。

第79条〔債権申出の公告〕

 清算人は其就職の日より2个月内に少くとも3回の公告を以て債権者に対し一定の期間内に其請求の申出を為すべき旨を催告することを要す、但其期間は2个月を下ることを得ず。

 前項の公告には債権者が期間内に申出を為さざるときは其債権は清算より除斥せらるべき旨を附記することを要す、但清算人は知れたる債権者を除斥することを得ず。

 清算人は知れたる債権者には各別(かくべつ、個別)に其申出を催告することを要す。

第80条〔期間後の債権申出〕

 前条の期間後に申出てたる債権者は法人の債務完済の後未だ帰属権利者に引渡さざる財産に対してのみ請求を為すことを得。

第81条〔清算法人の破産〕

 清算中に法人の財産が其債務を完済するに不足なること分明なるに至りたるときは清算人は直ちに破産宣告の請求を為して其旨を公告することを要す。

 清算人は破産管財人に其事務を引渡したるときは其任を終わりたるものとす。

 本条の場合に於て既に債権者に支払い又は帰属権利者に引渡したるものあるときは破産管財人は之を取戻すことを得。

第82条〔解散・清算の監督〕

 法人の解散及び清算は裁判所の監督に属す。

 裁判所は何時にても職権を以て前項の監督に必要なる検査を為すことを得。

第83条〔清算結了の届出〕

 清算が結了したるときは清算人は之を主務官庁に届出つることを要す。

第4節 主務官庁の権限の委任

第83条の2〔権限の委任〕

 本章に定めたる主務官庁の権限は政令の定むる所に依り其全部又は一部を所属する行政庁に委任することを得。

第83条の3〔事務の区分〕

 本章に定めたる主務官庁の権限に属する事務は政令の定むる所に依り都道府県の知事其他の執行機関に於て其全部又は一部を処理することとすることを得。

 前項の場合に於て主務官庁は政令の定むる所に依り法人に対する監督上の命令又は設立許可の取消に付き都道府県の執行機関に対し指示を為すことを得。

 第1項の場合に於て主務官庁は都道府県の執行機関が其事務を処理するに当りて依るべき基準を定むることを得。

 主務官庁が前項の基準を定めたるときは之を告示することを要す。

第5節 罰則

第84条〔役員に対する罰則〕

 法人の理事、監事又は清算人は左の場合に於ては50万円以下の過料に処せらる。
一 本章に定めたる登記を為すことを怠りたるとき。
二 第51条〔財産目録・社員名簿〕の規定に違反し又は財産目録若くは社員名簿に不正の記載を為したるとき。
三 第67条〔業務の監督〕又は第82条〔解散・清算の監督〕の場合に於て主務官庁、其権限の委任を受けたる国に所属する行政庁若くは其権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関又は裁判所の検査を妨げたるとき。
三の2 主務官庁又は其権限の委任を受けたる国に所属する行政庁若くは其権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関の監督上の命令に違反したるとき。
四 官庁、主務官庁の権限に属する事務を処理する都道府県の執行機関又は総会に対し不実の申立を為し又は事実を隠蔽したるとき。
五 第70条〔法人の破産〕又は第81条〔清算法人の破産〕の規定に反し破産宣告の請求を為すことを怠りたるとき。
六 第79条〔債権申出の公告〕又は第81条〔清算法人の破産〕に定めたる公告を為すことを怠り又は不正の公告を為したるとき。

第84条の2〔公益法人名称使用禁止の罰則〕

 第34条の2の規定に違反したる者は10万円以下の過料に処せらる。

第3章 物

第85条〔物の意義〕

 本法に於て物とは有体物を謂う。

第86条〔不動産と動産〕

 土地及び其定著物は之を不動産とす。

 此他の物は総て之を動産とす。

 無記名債権は之を動産と看做す。

第87条〔主物と従物〕

 物の所有者が其物の常用に供する為め自己の所有に属する他の物を以て之に附属せしめたるときは其附属せしめたる物を従物とす。

 従物は主物の処分に随ふ。

第88条〔天然果実と法定果実〕

 物の用方(ようほう、性質)に従い収取(しゅうとく、取得)する産出物を天然果実(利益)とす。

 物の使用の対価(使用料)として受くべき金銭其他の物を法定果実とす。

第89条〔果実の取得〕

 天然果実は其元物(げんぶつ)より分離する時に之を収取する権利を有する者に属す。

 法定果実は之を収取する権利の存続期間日割を以て之を取得す。

第4章 法律行為

第1節 総則

第90条〔公序良俗違反〕

 公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は無効とす。

第91条〔任意規定と異なる意思表示〕

 法律行為の当事者が法令中の公の秩序に関せざる規定(任意規定)に異なりたる意思を表示したるときは其意思に従う。

第92条〔事実たる慣習〕

 法令中の公の秩序に関せざる規定に異なりたる慣習ある場合に於て法律行為の当事者が之に依る意思を有せるものと認むべきときは其慣習に従う。

第2節 意思表示

第93条〔心裡留保〕

 意思表示は表意者が其真意に非ざることを知りて之を為したる為め其効力を妨げらるることなし、但相手方が表意者の真意を知り又は之を知ることを得べかりしときは其意思表示は無効とす。

第94条〔通謀虚偽表示〕

 相手方と通じて為したる虚偽の意思表示は無効とす。

 前項の意思表示の無効は之を以て善意の第三者に対抗することを得ず。

第95条〔錯誤〕

 意思表示は法律行為の要素に錯誤(思い違い)ありたるときは無効とす、但(意思表示をした)表意者に重大なる過失ありたるときは表意者自ら其無効を主張することを得ず。

第96条〔詐欺と強迫による意思表示〕

 詐欺(だますこと)又は強迫に因る意思表示は之を取消すことを得。

 或人に対する意思表示に付き第三者が詐欺を行いたる場合(騙されてした意思表示)に於ては相手方が其事実を知りたるときに限り其意思表示を取消すことを得。

 詐欺に因る意思表示の取消は之を以て善意の第三者に対抗することを得ず。

第97条〔隔地者に対する意思表示〕

 隔地(かくち、遠方)者に対する意思表示は其通知の相手方に到達したる時より(相手が読まなくても)其効力を生ず。

 表意者が通知を発したる後に死亡し又は能力を失うも意思表示は之が為めに其効力を妨げらるることなし。

第97条の2〔公示による意思表示〕

 意思表示は表意者が相手方を知ること能わず又は其所在を知ること能わざるときは公示の方法に依りて之を為すことを得。

 前項の公示は公示送達に関する民事訴訟法の規定に従い裁判所の掲示場に掲示し且(かつ)其掲示ありたることを官報及び新聞紙に少くも1回掲載して之を為 す、但裁判所相当と認むるときは官報及び新聞紙の掲載に代へ市役所、町村役場又は之に準ずべき施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることを得。

 公示に依る意思表示は最後に官報若くは新聞紙に掲載したる日又は其掲載に代わる掲示を始めたる日より2週間を経過したる時に相手方に到達したるものと看做す、但表意者が相手方を知らず又は其所在を知らざるに付き過失ありたるときは到達の効力を生ぜず。

 公示に関する手続は相手方を知ること能わざる場合に於ては表意者の住所地、相手方の所在を知ること能わざる場合に於ては相手方の最後の住所地の簡易裁判所の管轄に属す。

 裁判所は表意者をして公示に関する費用を予納せしむることを要す。

第98条〔意思表示の受領能力〕

 意思表示の相手方が之を受けたる時に未成年者又は成年被後見人なりしときは其意思表示を以て之に対抗することを得ず、但其法定代理人が之を知りたる後は此限に在らず。


第3節 代理

第99条〔代理行為の要件と効力〕

 代理人が其権限内に於て本人の為めにすることを示して為したる意思表示は直接に本人に対して其効力を生ず。

 前項の規定は第三者が代理人に対して為したる意思表示に之を準用す。

第100条〔本人の為めにすることを示さざる意思表示〕

 代理人が本人の為めにすることを示さずして為したる意思表示は自己の為めに之を為したるものと看做す、但相手方が其本人の為めにすることを知り又は之を知ることを得べかりしときは前条第1項の規定を準用す。

第101条〔代理行為の瑕疵〕

 意思表示の効力が意思の欠缺、詐欺、強迫又は或事情を知りたること若くは之を知らざる過失ありたることに因りて影響を受くべき場合に於て其事実の有無は代理人に付き之を定む。

 特定の法律行為を為すことを委託せられたる場合に於て代理人が本人の指図に従い其行為を為したるときは本人は其自ら知りたる事情に付き代理人の不知を主張することを得ず、其過失に因りて知らざりし事情に付き亦同じ。

第102条〔代理人の能力〕

 代理人は能力者たることを要せず。

第103条〔代理人の権限〕

 権限の定なき代理人は左の行為のみを為す権限を有す。
一 (財産の)保存行為
二 代理の目的たる物又は権利の性質を変ぜざる範囲内に於て其利用又は改良を目的とする行為

第104条〔任意代理人の復任権〕

 委任に因る代理人は本人の許諾を得たるとき又は已むことを得ざる事由あるときに非ざれば復代理人を選任することを得ず。

第105条〔復代理人選任の責任〕

 代理人が前条の場合に於て復代理人を選任したるときは選任及び監督に付き本人に対して其責に任ず。

 代理人が本人の指名に従いて復代理人を選任したるときは其不適任又は不誠実なることを知りて之を本人に通知し又は之を解任することを怠りたるに非ざれば其責に任ぜず。

第106条〔法定代理人の復任権〕

 法定代理人は其責任を以て復代理人を選任することを得、但已むことを得ざる事由ありたるときは前条第1項に定めたる責任のみを負う。

第107条〔復代理人の権限〕

 復代理人は其権限内の行為に付き本人を代表す。

 復代理人は本人及び第三者に対して代理人と同一の権利義務を有す。

第108条〔自己契約・双方代理の禁止〕

 何人と雖(いえど)も同一の法律行為に付き其相手方の代理人と為り又は当事者双方の代理人と為ることを得ず、但債務の履行に付ては此限に在らず。

第109条〔表見代理−代理権授与の表示があるとき〕

 第三者に対して他人に代理権を与へたる旨を表示したる者は其代理権の範囲内に於て其他人と第三者との間に為したる行為に付き其責に任ず。

第110条〔代理権踰越のとき〕

 代理人が其権限外の行為を為したる場合に於て第三者が其権限ありと信ずべき正当の理由を有せしときは前条の規定を準用す。

第111条〔代理権の消滅事由〕

 代理権は左の事由に因りて消滅す。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡若くは破産又は代理人が後見開始の審判を受けたること

 此他委任に因る代理権は委任の終了に因りて消滅す。

第112条〔代理権消滅後の表見代理〕

 代理権の消滅は之を以て善意の第三者に対抗することを得ず、但第三者が過失に因りて其事実を知らざりしときは此限に在らず。

第113条〔無権代理〕

 代理権を有せざる者が他人の代理人として為したる契約は本人が其追認を為すに非ざれば之に対して其効力を生ぜず。

 追認又は其拒絶は相手方に対して之を為すに非ざれば之を以て其相手方に対抗することを得ず、但相手方が其事実を知りたるときは此限に在らず。

第114条〔相手方の催告権〕

 前条の場合に於て相手方は相当の期間を定め其期間内に追認を為すや否やを確答すべき旨を本人に催告することを得、若し本人が其期間内に確答を為さざるときは追認を拒絶したるものと看做す。

第115条〔相手方の取消権〕

 代理権を有せざる者の為したる契約は本人の追認なき間は相手方に於て之を取消すことを得、但契約の当時相手方が代理権なきことを知りたるときは此限に在らず。

第116条〔無権代理行為の追認〕

 追認は別段の意思表示なきときは契約の時に遡(さかのぼ)りて其効力を生ず、但第三者の権利を害することを得ず。

第117条〔無権代理人の責任〕

 他人の代理人として契約を為したる者が其代理権を証明すること能わず且本人の追認を得ざりしときは相手方の選択に従い之に対して履行又は損害賠償の責に任ず。

 前項の規定は相手方が代理権なきことを知りたるとき若くは過失に因りて之を知らざりしとき又は代理人として契約を為したる者が其能力を有せさりしときは之を適用せず。

第118条〔単独行為の無権代理〕

 単独行為に付ては其行為の当時相手方が代理人と称する者の代理権なくして之を為すことに同意し又は其代理権を争はさりしときに限り前5条の規定を準用す代理権を有せざる者に対し其同意を得て単独行為を為したるとき亦同じ。


第4節 無効及び取消

第119条〔無効行為の追認〕

 無効の行為は追認に因りて其効力を生ぜず、但当事者が其無効なることを知りて追認を為したるときは新なる行為を為したるものと看做す。

第120条〔取消権者〕

 能力の制限に因りて取消し得べき行為は制限能力者又は其代理人、承継人若くは同意を為すことを得る者に限り之を取消すことを得。

 詐欺又は強迫に因りて取消し得べき行為は瑕疵(かし)ある意思表示を為したる者又は其代理人若くは承継人に限り之を取消すことを得。

第121条〔取消の効果〕

 取消したる行為は初より無効なりしものと看做す、但制限能力者は其行為に因りて現に利益を受くる限度に於て償還の義務を負う。

第122条〔追認の効果〕

 取消し得べき行為は第120条に掲げたる者が之を追認したるときは初より有効なりしものと看做す、但第三者の権利を害することを得ず。

第123条〔取消・追認の方法〕

 取消し得べき行為の相手方が確定せる場合に於て其取消又は追認は相手方に対する意思表示に依りて之を為す。

第124条〔追認の要件〕

 追認は取消の原因たる情況の止みたる後之を為すに非ざれば其効なし。

 成年被後見人が能力者と為りたる後其行為を了知したるときは其了知したる後に非ざれば追認を為すことを得ず。

 前2項の規定は法定代理人又は制限能力者の保佐人若くは補助人が追認を為す場合には之を適用せず。

第125条〔法定追認〕

 前条の規定に依り追認を為すことを得る時より後取消し得べき行為に付き左の事実ありたるときは追認を為したるものと看做す、但異議を留めたるときは此限に在らず。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取消し得べき行為に因りて取得したる権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行

第126条〔取消権の短期消滅時効〕

 取消権は追認を為すことを得る時より5年間之を行わざるときは時効に因りて消滅す、行為の時より20年を経過したるとき亦同じ。



第5節 条件及び期限

第127条〔条件成就の効果〕

 停止条件附法律行為は条件成就の時より其効力を生ず。

 解除条件附法律行為は条件成就の時より其効力を失う。

 当事者が条件成就の効果を其成就以前に遡らしむる意思を表示したるときは其意思に従う。

第128条〔条件付法律行為より生ずべき利益の不可侵〕

 条件附法律行為の各当事者は条件の成否未定の間に於て条件の成就に因り其行為より生ずべき相手方の利益を害することを得ず。

第129条〔条件付権利の効力〕

 条件の成否未定の間に於ける当事者の(条件成就後に得られる)権利義務は一般の規定に従い之を処分、相続、保存又は担保(化)することを得。

第130条〔条件成就の妨害〕

 条件の成就に因りて不利益を受くべき当事者が故意に其条件の成就を妨げたるときは相手方は其条件を成就したるものと看做すことを得。

第131条〔既成条件〕

 条件が法律行為の当時既に成就せる場合に於て其条件が停止条件なるときは其法律行為は無条件とし解除条件なるときは無効とす。

 条件の不成就が法律行為の当時既に確定せる場合に於て其条件が停止条件なるときは其法律行為は無効とし解除条件なるときは無条件とす。

 前2項の場合に於て当事者が条件の成就又は不成就を知らざる間は第128条及び第129条の規定を準用す。

第132条〔不法条件〕

 不法の条件を附したる法律行為は無効とす、不法行為を為さざるを以て条件とするもの亦同じ。

第133条〔不能条件〕

 不能の停止条件を附したる法律行為は無効とす。

 不能の解除条件を附したる法律行為は無条件とす。

第134条〔純粋随意条件〕

 停止条件附法律行為は其条件が単に債務者の意思のみに係るときは無効とす。

第135条〔期限到来の効果〕

 法律行為に始期を附したるときは其法律行為の履行は期限の到来するまで之を請求することを得ず。

 法律行為に終期を附したるときは其法律行為の効力は期限の到来したる時に於て消滅す。

第136条〔期限の利益〕

 期限は債務者の利益の為めに定めたるものと推定す。

 期限の利益は之を放棄することを得、但之が為めに相手方の利益を害することを得ず。

第137条〔期限の利益の喪失〕

 左の場合に於ては債務者は期限の利益を主張することを得ず。
一 債務者が破産の宣告を受けたるとき。
二 債務者が担保を毀滅(きめつ)し又は之を減少したるとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合に於て之を供せざるとき。


第5章 期間

第138条〔本章の適用範囲〕

 期間の計算法は法令、裁判上の命令又は法律行為に別段の定ある場合を除く外本章の規定に従う。

第139条〔期間の起算点〕

 期間を定むるに時を以てしたるときは即時より之を起算す。

第140条〔期間の起算点〕

 期間を定むるに日、週、月又は年を以てしたるときは期間の初日は之を算入せず、但其期間が午前零時より始まるときは此限に在らず。

第141条〔期間の満了点〕

 前条の場合に於ては期間の末日の終了を以て期間の満了とす。

第142条〔期間の満了点〕

 期間の末日が大祭日、日曜日其他の休日に当たるときは其日に取引を為さざる慣習ある場合に限り期間は其翌日を以て満了す。

第143条〔暦による計算〕

 期間を定むるに週、月又は年を以てしたるときは暦に従いて之を算す。

 週、月又は年の始より期間を起算せざるときは其期間は最後の週、月又は年に於て其起算日に応当する日の前日を以て満了す、但月又は年を以て期間を定めたる場合に於て最後の月に応当日なきときは其月の末日を以て満期日とす。

第6章 時効

第1節 総則

第144条〔時効の遡及効〕

 時効の効力は其起算日に遡る。

第145条〔時効の援用〕

 時効は当事者が之を援用するに非ざれば裁判所之に依りて裁判を為すことを得ず。

第146条〔時効利益の放棄〕

 時効の利益は予め之を放棄することを得ず。

第147条〔時効の中断事由〕

 時効は左の事由に因りて中断す。
一 請求
二 差押、仮差押又は仮処分
三 承認

第148条〔時効中断の効力〕

 前条の時効中断は当事者及び其承継人の間に於てのみ其効力を有す。

第149条〔裁判上の請求〕

 裁判上の請求は訴の却下又は取下の場合に於ては時効中断の効力を生ぜず。

第150条〔支払督促〕

 支払督促は債権者が法定の期間内に仮執行の宣言の申立を為さざるに因り其効力を失うときは時効中断の効力を生ぜず。

第151条〔和解の呼出し・任意出頭〕

 和解の為めにする呼出は相手方が出頭せず又は和解の調わざるときは1个月内に訴を提起するに非ざれば時効中断の効力を生ぜず、任意出頭の場合に於て和解の調わざるとき亦同じ。

第152条〔破産手続参加〕

 破産手続参加は債権者が之を取消し又は其請求が却下せられたるときは時効中断の効力を生ぜず。

第153条〔催告〕

 催告は6个月内に裁判上の請求、和解の為めにする呼出若くは任意出頭、破産手続参加、差押、仮差押又は仮処分を為すに非ざれば時効中断の効力を生ぜず。

第154条〔差押え・仮差押え・仮処分〕

 差押、仮差押及び仮処分は権利者の請求に因り又は法律の規定に従わざるに因りて取消されたるときは時効中断の効力を生ぜず。

第155条〔差押え・仮差押え・仮処分〕

 差押、仮差押及び仮処分は時効の利益を受くる者に対して之を為さざるときは之を其者に通知したる後に非ざれば時効中断の効力を生ぜず。

第156条〔承認〕

 時効中断の効力を生ずべき承認を為すには相手方の権利に付き処分の能力又は権限あることを要せず。

第157条〔中断後の時効の進行〕

 中断したる時効は其中断の事由の終了したる時より更に其進行を始む。

 裁判上の請求に因りて中断したる時効は裁判の確定したる時より更に其進行を始む。

第158条〔制限能力者に対する時効の停止〕

 時効の期間満了前6个月内に於て未成年者又は成年被後見人が法定代理人を有せざりしときは其者が能力者と為り又は法定代理人が就職したる時より6个月内は之に対して時効完成せず。

第159条〔財産管理者に対する制限能力者の権利の時効の停止〕

 未成年者又は成年被後見人が其財産を管理する父、母又は後見人に対して有する権利に付ては其者が能力者と為り又は後任の法定代理人が就職したる時より6个月内は時効完成せず。

第159条の2〔夫婦間の権利の時効の停止〕

 夫婦の一方が他の一方に対して有する権利に付ては婚姻解消の時より6个月内は時効完成せず。

第160条〔相続財産に対する時効の停止〕

 相続財産に関しては相続人の確定し、管理人の選任せられ又は破産の宣告ありたる時より6个月内は時効完成せず。

第161条〔天災・事変による時効の停止〕

 時効の期間満了の時に当たり天災其他避くべからざる事変の為め時効を中断すること能わざるときは其妨碍の止みたる時より2週間内は時効完成せず。


第2節 取得時効

第162条〔所有権の取得時効〕

 20年間所有の意思を以て平穏且公然に他人の物を占有したる者は其所有権を取得す。

 10年間所有の意思を以て平穏且公然に他人の不動産を占有したる者が其占有の始(はじめ)善意にして且過失なかりしときは其不動産の所有権を取得す。

第163条〔所有権以外の財産権の取得時効〕

 所有権以外の財産権を自己の為めにする意思を以て平穏且公然に行使する者は前条の区別に従い20年又は10年の後其権利を取得す。

第164条〔取得時効の自然中断〕

 第162条の時効は占有者が任意に其占有を中止し又は他人の為めに之を奪われたるときは中断す。

第165条〔取得時効の自然中断〕

 前条の規定は第163条の場合に之を準用す。


第3節 消滅時効

第166条〔消滅時効の進行〕

 消滅時効は権利を行使することを得る時より進行す。

 前項の規定は始期附又は停止条件附権利の目的物を占有する第三者の為めに其占有の時より取得時効の進行することを妨げず、但権利者は其時効を中断する為め何時にても占有者の承認を求むることを得。

第167条〔債権・財産権の消滅時効〕

 債権は10年間之を行わざるに因りて消滅す。

 債権又は所有権に非ざる財産権は20年間之を行わざるに因りて消滅す。

第168条〔定期金債権の消滅時効〕

 定期金の債権は第1回の弁済期より20年間之を行わざるに因りて消滅す、最後の弁済期より10年間之を行わざるとき亦同じ。

 定期金の債権者は時効中断の証を得る為め何時にても其債務者の承認書を求むることを得。

第169条〔定期給付債権の短期消滅時効〕

 年又は之より短き時期を以て定めたる金銭其他の物の給付を目的とする債権は5年間之を行わざるに因りて消滅す。

第170条〔3年の短期消滅時効の債権〕

 左に掲げたる債権は3年間之を行わざるに因りて消滅す。
一 医師、産婆及び薬剤師の治術、勤労及び調剤に関する債権
二 技師、棟梁及び請負人の工事に関する債権、但此時効は其負担したる工事終了の時より之を起算す。

第171条〔3年の短期消滅時効の債権〕

 弁護士は事件終了の時より公証人は其職務執行の時より3年を経過したるときは其職務に関して受取りたる書類に付き其責を免る。

第172条〔2年の短期消滅時効の債権〕

 弁護士及び公証人の職務に関する債権は其原因たる事件終了の時より2年間之を行わざるに因りて消滅す、但其事件中の各事項終了の時より5年を経過したるときは右の期間内と雖も其事項に関する債権は消滅す。

第173条〔2年の短期消滅時効の債権〕

 左に掲げたる債権は2年間之を行わざるに因りて消滅す。
一 生産者、卸売商人及び小売商人が売却したる産物及び商品の代価
二 居職人及び製造人の仕事に関する債権
三 生徒及び習業者の教育、衣食及び止宿の代料に関する校主、塾主、教師及び師匠の債権

第174条〔1年の短期消滅時効の債権〕

 左に掲げたる債権は1年間之を行わざるに因りて消滅す。
一 月又は之より短き時期を以て定めたる雇人の給料
二 労力者及び芸人の賃金並に其供給したる物の代価
三 運送賃
四 旅店、料理店、貸席及び娯遊場の宿泊料、飲食料、席料、木戸銭、消費物代価並に立替金
五 動産の損料

第174条の2〔確定債権の時効期間〕

 確定判決に依りて確定したる権利は10年より短き時効期間の定あるものと雖も其時効期間は之を10年とす、裁判上の和解、調停其他確定判決と同一の効力を有するものに依りて確定したる権利に付き亦同じ。

 前項の規定は確定の当時未だ弁済期の到来せざる債権には之を適用せず。


第2編 物権

第1章 総則

第175条〔物権法定主義〕

 物権は本法其他の法律に定むるものの外之を創設することを得ず。

第176条〔物権の設定・移転の意思主義〕

 物権の設定及び移転は当事者の意思表示のみに因りて其効力を生ず。

第177条〔不動産物権の対抗要件〕

 不動産に関する物権の得喪及び変更は登記法の定むる所に従い其登記を為すに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず。

第178条〔動産物権の対抗要件〕


動産に関する物権の譲渡は其動産の引渡あるに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず。

第179条〔混同〕

 同一物に付き所有権及び他の物権が同一人に帰したるときは其物権は消滅す、但其物又は其物権が第三者の権利の目的たるときは此限に在らず。

 所有権以外の物権及び之を目的とする他の権利が同一人に帰したるときは其権利は消滅す、此場合に於ては前項但書の規定を準用す。

 前2項の規定は占有権には之を適用せず。


第2章 占有権

第1節 占有権の取得

第180条〔占有権の取得〕

 占有権(自分のものにする権利)は自己の為めにする意思を以て物を所持(管理)するに因りて之を取得す。

第181条〔代理占有〕

 占有権は代理人に依りて之を取得することを得。

第182条〔現実の引渡し、簡易の引渡し〕

 占有権の譲渡は占有物の引渡に依りて之を為す。

 譲受人又は其代理人が現に占有物を所持する場合に於ては占有権の譲渡は当事者の意思表示のみに依りて之を為すことを得。

第183条〔占有改定〕

 代理人が自己の占有物を爾後(じご)本人の為めに占有すべき意思を表示したるときは本人は之に因りて占有権を取得す。

第184条〔指図による占有移転〕

 代理人に依りて占有を為す場合に於て本人が其代理人に対し爾後第三者の為めに其物を占有すべき旨を命じ第三者之を承諾したるときは其第三者は占有権を取得す。

第185条〔自主占有への転換〕

 権原の性質上占有者に所有の意思なきものとする場合に於ては其占有者が自己に占有を為さしめたる者に対し所有の意思あることを表示し又は新権原に因り更に所有の意思を以て占有を始むるに非ざれば占有は其性質を変ぜず。

第186条〔占有の態様の推定〕

 占有者は所有の意思を以て善意、平穏且公然に占有を為すものと推定す。

 前後両時に於て占有を為したる証拠あるときは占有は其間継続したるものと推定す。

第187条〔占有の承継〕

 占有者の承継人は其選択に従い自己の占有のみを主張し又は自己の占有に前主の占有を併せて之を主張することを得。

 前主の占有を併せて主張する場合に於ては其瑕疵も亦之を承継す。


第2節 占有権の効力

第188条〔権利適法の推定〕

 占有者が占有物の上に行使する権利は之を適法に有するものと推定す。

第189条〔善意占有者と果実〕

 善意の占有者は占有物より生ずる果実を取得す。

 善意の占有者が本権の訴に於て敗訴したるときは其起訴の時より悪意の占有者と看做す。

第190条〔悪意占有者と果実、強暴・隠秘占有者と果実〕

 悪意の占有者は果実を返還し且其既に消費し、過失に因りて毀損(きそん)し又は収取を怠りたる果実の代価を償還する義務を負う。

 前項の規定は強暴又は隠秘に因る占有者に之を準用す。

第191条〔占有者の損害賠償義務〕

 占有物が占有者の責に帰すべき事由に因りて滅失又は毀損したるときは悪意の占有者は其回復者に対し其損害の全部を賠償する義務を負ひ善意の占有者は其滅 失又は毀損に因りて現に利益を受くる限度に於て賠償を為す義務を負う、但所有の意思なき占有者は其善意なるときと雖も全部の賠償を為すことを要す。

第192条〔善意取得〕

 平穏且公然に動産の占有を始めたる者が善意にして且過失なきときは即時に其動産の上に行使する権利を取得す。

第193条〔盗品・遺失物の回復〕

 前条の場合に於て占有物が盗品又は遺失物なるときは被害者又は遺失主は盗難又は遺失の時より2年間占有者に対して其物の回復を請求することを得。

第194条〔盗品・遺失物の回復〕

 占有者が盗品又は遺失物を競売若くは公の市場に於て又は其物と同種の物を販売する商人より善意にて買受けたるときは被害者又は遺失主は占有者が払いたる代価を弁償するに非ざれば其物を回復することを得ず。

第195条〔家畜外の動物の占有による取得〕

 他人が飼養せし家畜外の動物を占有する者は其占有の始善意にして且逃失の時より1个月内に飼養主より回復の請求を受けざるときは其動物の上に行使する権利を取得す。

第196条〔占有者の費用償還請求権〕

 占有者が占有物を返還する場合に於ては其物の保存(修理維持)の為めに費(ついや)したる金額其他の必要費を回復者より償還せしむることを得、但占有者が果実を取得したる場合に於ては通常の必要費は其負担に帰す。

 占有者が占有物の改良の為めに費したる金額其他の有益費に付ては其価格の増加が現存する場合に限り回復者の選択に従い其費したる金額又は増価額を償還せしむることを得、但悪意の占有者に対しては裁判所は回復者の請求に因り之に相当の期限を許与することを得。

第197条〔占有の訴え〕

 占有者は後5条の規定に従い占有の訴を提起することを得、他人の為めに占有を為す者亦同じ。

第198条〔占有保持の訴え〕

 占有者が其占有を妨害せられたるときは占有保持の訴に依り其妨害の停止及び損害の賠償を請求することを得。

第199条〔占有保全の訴え〕

 占有者が其占有を妨害せらるる虞(おそれ)あるときは占有保全の訴に依り其妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することを得。

第200条〔占有回収の訴え〕

 占有者が其占有を奪われたるときは占有回収(回復)の訴に依り其物の返還及び損害の賠償を請求することを得。

 占有回収の訴は侵奪者(しんだつしゃ、奪った人)の特定承継人(買った人)に対して之を提起することを得ず、但其承継人が侵奪の事実を知りたるときは此限に在らず。

第201条〔占有の訴えの提起期間〕

 占有保持の訴は妨害の存する間又は其止みたる後1年内に之を提起することを要す、但工事に因り占有物に損害を生じたる場合に於て其工事著手の時より1年を経過し又は其工事の竣成したるときは之を提起することを得ず。

 占有保全の訴は妨害の危険の存する間は之を提起することを得、但工事に因り占有物に損害を生ずる虞あるときは前項但書の規定を準用す。

 占有回収の訴は侵奪の時より1年内に之を提起することを要す。

第202条〔本権の訴えとの関係〕

 占有の訴は本権の訴と互に相妨ぐることなし。

 占有の訴は本権に関する理由に基きて之を裁判することを得ず。


第3節 占有権の消滅

第203条〔占有権の消滅事由〕

 占有権は占有者が占有の意思を放棄し又は占有物の所持を失うに因りて消滅す、但占有者が占有回収の訴を提起したるときは此限に在らず。

第204条〔代理占有の消滅事由〕

 代理人に依りて占有を為す場合に於ては占有権は左の事由に因りて消滅す。
一 本人が代理人をして占有を為さしむる意思を放棄したること。
二 代理人が本人に対し爾後自己又は第三者の為めに占有物を所持すべき意思を表示したること。
三 代理人が占有物の所持を失ひたること。

 占有権は代理権の消滅のみに因りて消滅せず。


第4節 準占有

第205条〔準占有〕

 本章の規定は自己の為めにする意思を以て財産権の行使を為す場合に之を準用す。


第3章 所有権

第1節 所有権の限界

第206条〔所有権の意義・内容〕

 所有者は法令の制限内に於て自由に其所有物の使用、収益及び処分を為す権利を有す。

第207条〔土地所有権の限界〕

 土地の所有権は法令の制限内に於て其土地の上下に及ぶ。

第209条〔隣地使用権〕

 土地の所有者は疆界(きょうかい)又は其近傍に於て牆壁(しょうへき)若くは建物を築造し又は之を修繕する為め必要なる範囲内に於て隣地の使用を請求することを得、但隣人の承諾あるに非ざれば其住家に立入ることを得ず。

 前項の場合に於て隣人が損害を受けたるときは其償金を請求することを得。

第210条〔囲繞地通行権〕

 或土地が他の土地に囲繞(いじょう)せられて公路に通ぜざるときは其土地の所有者は公路に至る為め囲繞地を通行することを得。

 池沼、河渠(かきょ)若くは海洋に由るに非ざれば他に通ずること能わず又は崖岸ありて土地と公路と著しき高低を為すとき亦同じ。

第211条〔囲繞地通行権〕

 前条の場合に於て通行の場所及び方法は通行権を有する者の為めに必要にして且囲繞地の為めに損害最も少きものを選ふことを要す。

 通行権を有する者は必要あるときは通路を開設することを得。

第212条〔囲繞地通行権〕

 通行権を有する者は通行地の損害に対して償金を払うことを要す、但通路開設の為めに生じたる損害に対するものを除く外1年毎に其償金を払うことを得。

第213条〔囲繞地通行権〕

 分割に因り公路に通ぜざる土地を生じたるときは其土地の所有者は公路に至る為め他の分割者の所有地のみを通行することを得、此場合に於ては償金を払うことを要せず。

 前項の規定は土地の所有者が其土地の一部を譲渡したる場合に之を準用す。

第214条〔自然流水の承水義務〕

 土地の所有者は隣地より水の自然に流れ来るを妨ぐることを得ず。

第215条〔疎通工事権〕

 水流が事変に因り低地に於て阻塞(そそく)したるときは高地の所有者は自費を以て其疏通に必要なる工事を為すことを得。

第216条〔予防工事などの請求権〕

 甲地に於て貯水、排水又は引水の為めに設けたる工作物の破潰(はかい)又は阻塞に因りて乙地に損害を及ぼし又は及ぼす虞あるときは乙地の所有者は甲地の所有者をして修繕若くは疏通を為さしめ又必要あるときは予防工事を為さしむることを得。

第217条〔費用負担の慣習〕

 前2条の場合に於て費用の負担に付き別段の慣習あるときは其慣習に従う。

第218条〔雨水注瀉工作物の禁止〕

 土地の所有者は直ちに雨水を隣地に注瀉(ちゅうしゃ)せしむべき屋根其他の工作物を設くることを得ず。

第219条〔水流変更権〕

 溝渠(こうきょ)其他の水流地の所有者は対岸の土地が他人の所有に属するときは其水路又は幅員を変することを得ず。

 両岸の土地が水流地の所有者に属するときは其所有者は水路及び幅員を変ずることを得、但下口に於て自然の水路に復することを要す。

 前2項の規定に異なりたる慣習あるときは其慣習に従う。

第220条〔余水排泄権〕

 高地の所有者は浸水地を乾かす為め又は家用若くは農工業用の余水を排泄する為め公路、公流又は下水道に至るまで低地に水を通過せしむることを得、但低地の為めに損害最も少き場所及び方法を選ふことを要す。

第221条〔通水用工作物の使用権〕

 土地の所有者は其所有地の水を通過せしむる為め高地又は低地の所有者が設けたる工作物を使用することを得。

 前項の場合に於て他人の工作物を使用する者は其利益を受くる割合に応じて工作物の設置及び保存の費用を分担することを要す。

第222条〔堰の設置・利用権〕

 水流地の所有者は堰を設くる需要あるときは其堰を対岸に附著せしむることを得、但之に因りて生じたる損害に対して償金を払うことを要す。

 対岸の所有者は水流地の一部が其所有に属するときは右の堰を使用することを得、但前条の規定に従い費用を分担することを要す。

第223条〔界標設置権〕

 土地の所有者は隣地の所有者と共同の費用を以て疆界を標示すべき物を設くることを得。

第224条〔界標設置権〕

 界標の設置及び保存の費用は相隣者平分して之を負担す、但測量の費用は其土地の広狭に応じて之を分担す。

第225条〔囲障設置権〕

 2棟の建物が其所有者を異にし且其間に空地あるときは各所有者は他の所有者と共同の費用を以て其疆界に囲障(いしょう)を設くることを得。

 当事者の協議調わざるときは前項の囲障は板塀(いたべえ)又は竹垣にして高さ2メートルたることを要す。

第226条〔囲障設置権〕

 囲障の設置及び保存(修理維持)の費用は相隣者平分して之を負担す。

第227条〔囲障設置権〕

 相隣者の1人は第225条第2項に定めたる材料より良好なるものを用い又は高さを増して囲障を設くることを得、但之に因りて生ずる費用の増額を負担することを要す。

第228条〔囲障設置権〕

 前3条の規定に異なりたる慣習あるときは其慣習に従う。

第229条〔境界線上の設置物の共有推定〕

 疆界線上に設けたる界標、囲障、牆壁及び溝渠は相隣者の共有に属するものと推定す。

第230条〔境界線上の設置物の共有推定〕

 1棟の建物の部分を成す疆界線上の牆壁には前条の規定を適用せず。

 高さの不同なる2棟の建物を隔つる牆壁の低き建物を踰(こ)ゆる部分亦同じ但防火牆壁は此限に在らず。

第231条〔共有牆壁の増築権〕

 相隣者の1人は共有の牆壁の高さを増すことを得、但其牆壁が此工事に耐へざるときは自費を以て工作を加へ又は其牆壁を改築することを要す。

 前項の規定に依りて牆壁の高さを増したる部分は其工事を為したる者の専有に属す。

第232条〔共有牆壁の増築権〕

 前条の場合に於て隣人が損害を受けたるときは其償金を請求することを得。

第233条〔竹木の剪除・截取権〕

 隣地の竹木の枝が疆界線を踰ゆるときは其竹木の所有者をして其枝を剪除(せんじょ)せしむることを得。

 隣地の竹木の根が疆界線を踰ゆるときは之を截取(せっしゅ)することを得。

第234条〔境界線近傍の建築〕

 建物を築造するには疆界線より50センチメートル以上の距離を存することを要す。

 前項の規定に違ひて建築を為さんとする者あるときは隣地の所有者は其建築を廃止し又は之を変更せしむることを得、但建築著手(ちゃくしゅ)の時より1年を経過し又は其建築の竣成したる後は損害賠償の請求のみを為すことを得。

第235条〔境界線近傍の建築〕

 疆界線より1メートル未満の距離に於て他人の宅地を観望すべき窓又は椽側(えんがわ)を設くる者は目隠を附することを要す。

 前項の距離は窓又は椽側の最も隣地に近き点より直角線にて疆界線に至るまでを測算す。

第236条〔境界線近傍の建築〕

 前2条の規定に異なりたる慣習あるときは其慣習に従う。

第237条〔境界線近傍の穿掘〕

 井戸、用水溜、下水溜又は肥料溜を穿(うが)つには疆界線より2メートル以上池、地窖(ちこう、穴蔵)又は厠坑(しこう)を穿つには1メートル以上の距離を存することを要す。

 水樋(すいとう)を埋め又は溝渠を穿つには疆界線より其深さの半(なかば)以上の距離を存することを要す、但1メートルを踰ゆることを要せず。

第238条〔境界線近傍の穿掘〕

 疆界線の近傍に於て前条の工事を為すときは土砂の崩壊又は水若くは汚液の滲漏(しんろう)を防ぐに必要なる注意を為すことを要す。


第2節 所有権の取得

第239条〔無主物の先占〕

 無主の動産は所有の意思を以て之を占有するに因りて其所有権を取得す。

 無主の不動産は国庫の所有に属す。

第240条〔遺失物の拾得〕

 遺失物は特別法の定むる所に従い公告を為したる後6个月内に其所有者の知れざるときは拾得者其所有権を取得す。

第241条〔埋蔵物の発見〕

 埋蔵物は特別法の定むる所に従い公告を為したる後6个月内に其所有者の知れざるときは発見者其所有権を取得す、但他人の物の中に於て発見したる埋蔵物は発見者及び其物の所有者折半して其所有権を取得す。

第242条〔不動産の附合〕

 不動産の所有者は其不動産の従として之に附合したる物の所有権を取得す、但権原に因りて其物を附属せしめたる他人の権利を妨げず。

第243条〔動産の附合〕

 各別の所有者に属する数個の動産が附合(ふごう、結合)に因り毀損するに非ざれば之を分離すること能わざるに至りたるときは其合成物の所有権は主たる動産の所有者に属す、分離の為め過分の費用を要するとき亦同じ。

第244条〔動産の附合〕

 附合したる動産に付き主従の区別を為すこと能わざるときは各動産の所有者は其附合の当時に於ける価格の割合に応じて合成物を共有す。

第245条〔混和〕

 前2条の規定は各別の所有者に属する物が混和して識別すること能わざるに至りたる場合に之を準用す。

第246条〔加工〕

 他人の動産に工作(加工)を加えたる者あるときは其加工物の所有権は材料の所有者に属す、但工作に因りて生じたる価格が著しく材料の価格に超ゆるときは加工者其物の所有権を取得す。

 加工者が材料の一部を供したるときは其価格に工作に因りて生じたる価格を加えたるものが他人の材料の価格に超ゆるときに限り加工者其物の所有権を取得す。

第247条〔添附の効果〕

 前5条の規定に依りて物の所有権が消滅したるときは其物の上に存せる他の権利も亦消滅す。

 右の物の所有者が合成物、混和物又は加工物の単独所有者と為りたるときは前項の権利は爾後合成物、混和物又は加工物の上に存し其共有者と為りたるときは其持分の上に存す。

第248条〔添附の効果〕

 前6条の規定の適用に因りて損失を受けたる者は第703条〔善意の受益者の返還義務〕及び第704条〔悪意の受益者の返還義務〕の規定に従い償金を請求することを得。


第3節 共有

第249条〔共有者の使用権〕

 各共有者は共有物の全部に付き其持分に応じたる使用を為すことを得。

第250条〔共有持分の割合〕

 各共有者の持分は相均しきものと推定す。

第251条〔共有物の変更〕

 各共有者は他の共有者の同意あるに非ざれば共有物に変更を加うることを得ず。

第252条〔共有物の管理〕

 共有物の管理に関する事項は前条の場合を除く外各共有者の持分の価格に従い其過半数を以て之を決す、但保存行為は各共有者之を為すことを得。

第253条〔管理費の負担〕


 各共有者は其持分に応じ管理の費用を払い其他共有物の負担に任ず。

 共有者が1年内に前項の義務を履行せざるときは他の共有者は相当の償金を払いて其者の持分を取得することを得。

第254条〔共有物に関する債権〕

 共有者の1人が共有物に付き他の共有者に対して有する債権は其特定承継人に対しても之を行うことを得。

第255条〔持分の放棄〕

 共有者の1人が其持分を放棄したるとき又は相続人なくして死亡したるときは其持分は他の共有者に帰属す。

第256条〔共有物の分割請求〕

 各共有者は何時にても共有物の分割を請求することを得、但5年を超えざる期間内分割を為さざる契約を為すことを妨げず。

 此契約は之を更新することを得、但其期間は更新の時より5年を超ゆることを得ず。

第257条〔共有物の分割請求〕

 前条の規定は第229条〔境界線上の界標など〕に掲げたる共有物には之を適用せず。

第258条〔裁判上の分割請求〕

 分割は共有者の協議調わざるときは之を裁判所に請求することを得。

 前項の場合に於て現物を以て分割を為すこと能わざるとき又は分割に因りて著しく其価格を損する虞あるときは裁判所は其競売を命ずることを得。

第259条〔共有に関する債権〕

 共有者の1人が他の共有者に対して共有に関する債権を有するときは分割に際し債務者に帰すべき共有物の部分を以て其弁済を為さしむることを得。

 債権者は右の弁済を受くる為め債務者に帰すべき共有物の部分を売却する必要あるときは其売却を請求することを得。

第260条〔分割への参加〕

 共有物に付き権利を有する者及び各共有者の債権者は自己の費用を以て分割に参加することを得。

 前項の規定に依りて参加の請求ありたるに拘はらす其参加を待たすして分割を為したるときは其分割は之を以て参加を請求したる者に対抗することを得ず。

第261条〔担保責任〕

 各共有者は他の共有者が分割に因りて得たる物に付き売主と同じく其持分に応じて担保の責に任ず。

第262条〔証書の保存〕

 分割が結了したるときは各分割者は其受けたる物に関する証書を保存することを要す。

 共有者一同又は其中の数人に分割したる物に関する証書は其物の最大部分を受けたる者之を保存することを要す。

 前項の場合に於て最大部分を受けたる者なきときは分割者の協議を以て証書の保存者を定む若し協議調わざるときは裁判所之を指定す。

 証書の保存者は他の分割者の請求に応じて其証書を使用せしむることを要す。

第263条〔共有の性質を有する入会権〕

 共有の性質を有する入会権に付ては各地方の慣習に従う外本節の規定を適用す。

第264条〔準共有〕

 本節の規定は数人にて所有権以外の財産権を有する場合に之を準用す、但法令に別段の定あるときは此限に在らず。


第4章 地上権

第265条〔地上権の内容〕

 地上権者は他人の土地に於て工作物又は竹木を所有する為め其土地を使用する権利を有す。

第266条〔地代支払義務〕

地上権者が土地の所有者に定期の地代を払うべきときは第274条乃至第276条〔小作料〕の規定を準用す。

 此他地代に付ては賃貸借に関する規定を準用す。

第267条〔相隣関係の規定の準用〕

 第209条乃至第238条〔相隣関係〕の規定は地上権者間又は地上権者と土地の所有者との間に之を準用す、但第229条〔境界線上の界標などの共有推定〕の推定は地上権設定後に為したる工事に付てのみ之を地上権者に準用す。

第268条〔地上権の存続期間〕

 設定行為を以て地上権の存続期間を定めさりし場合に於て別段の慣習なきときは地上権者は何時にても其権利を放棄することを得、但地代を払うべきときは1年前に予告を為し又は未だ期限の至らざる1年分の地代を払うことを要す。

 地上権者が前項の規定に依りて其権利を放棄せざるときは裁判所は当事者の請求に因り20年以上50年以下の範囲内に於て工作物又は竹木の種類及び状況其他地上権設定の当時の事情を斟酌して其存続期間を定む。

第269条〔収去権・買取権〕

 地上権者は其権利消滅の時土地を原状に復して其工作物及び竹木を収去することを得、但土地の所有者が時価を提供して之を買取るべき旨を通知したるときは地上権者は正当の理由なくして之を拒むことを得ず。

 前項の規定に異なりたる慣習あるときは其慣習に従う。

第269条の2〔地下・空間を目的とする地上権〕

 地下又は空間は上下の範囲を定め工作物を所有する為め之を地上権の目的と為すことを得、此場合に於ては設定行為を以て地上権の行使の為めに土地の使用に制限を加うることを得。

 前項の地上権は第三者が土地の使用又は収益を為す権利を有する場合に於ても其権利又は之を目的とする権利を有する総ての者の承諾あるときは之を設定することを得、此場合に於ては土地の使用又は収益を為す権利を有する者は其地上権の行使を妨ぐることを得ず。


第5章 永小作権

第270条〔永小作権の内容〕

 永小作人は小作料を払いて他人の土地に耕作又は牧畜を為す権利を有す。

第271条〔永小作人の土地使用の制限〕

 永小作人は土地に永久の損害を生ずべき変更を加うることを得ず。

第272条〔永小作権の譲渡・小作地の賃貸〕

 永小作人は其権利を他人に譲渡し又は其権利の存続期間内に於て耕作若くは牧畜の為め土地を賃貸することを得、但設定行為を以て之を禁したるときは此限に在らず。

第273条〔賃貸借の規定の準用〕

 永小作人の義務に付ては本章の規定及び設定行為を以て定めたるものの外賃貸借に関する規定を準用す。

第274条〔小作料の減免〕

 永小作人は不可抗力に因り収益に付き損失を受けたるときと雖も小作料の免除又は減額を請求することを得ず。

第275条〔永小作権の放棄〕

 永小作人が不可抗力に因り引続き3年以上全く収益を得ず又は5年以上小作料より少き収益を得たるときは其権利を放棄することを得。

第276条〔永小作権の消滅請求〕

 永小作人が引続き2年以上小作料の支払を怠り又は破産の宣告を受けたるときは地主は永小作権の消滅を請求することを得。

第277条〔慣習の効力〕

 前6条の規定に異なりたる慣習あるときは其慣習に従う。

第278条〔永小作権の存続期間〕

 永小作権の存続期間は20年以上50年以下とす若し50年より長き期間を以て永小作権を設定したるときは其期間は之を50年に短縮す。

 永小作権の設定は之を更新することを得、但其期間は更新の時より50年を超ゆることを得ず。

 設定行為を以て永小作権の存続期間を定めさりしときは其期間は別段の慣習ある場合を除く外之を30年とす。

第279条〔収去権・買取権〕

 第269条〔収去権・買取権〕の規定は永小作権に之を準用す。


第6章 地役権

第280条〔地役権の内容〕

 地役権者は設定行為を以て定めたる目的に従い他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有す、但第3章第1節中の公の秩序に関する規定に違反せざることを要す。

第281条〔地役権の付従性〕

 地役権は要役地の所有権の従として之と共に移転し又は要役地の上に存する他の権利の目的たるものとす、但設定行為に別段の定あるときは此限に在らず。

 地役権は要役地より分離して之を譲渡し又は他の権利の目的と為すことを得ず。

第282条〔地役権の不可分性〕

 土地の共有者の1人は其持分に付き其土地の為めに又は其土地の上に存する地役権を消滅せしむることを得ず。

 土地の分割又は其一部の譲渡の場合に於ては地役権は其各部の為めに又は其各部の上に存す、但地役権が其性質に因り土地の一部のみに関するときは此限に在らず。

第283条〔地役権の時効取得〕

 地役権は継続且表現のものに限り時効に因りて之を取得することを得。

第284条〔地役権の不可分性〕

共有者の1人が時効に因りて地役権を取得したるときは他の共有者も亦之を取得す。

 共有者に対する時効中断は地役権を行使する各共有者に対して之を為すに非ざれば其効力を生ぜず。

 地役権を行使する共有者数人ある場合に於て其1人に対して時効停止の原因あるも時効は各共有者の為めに進行す。

第285条〔用水地役権〕

 用水地役権の承役地に於て水が要役地及び承役地の需要の為めに不足なるときは其各地の需要に応じ先つ之を家用に供し其残余を他の用に供するものとす、但設定行為に別段の定あるときは此限に在らず。

 同一の承役地の上に数個の用水地役権を設定したるときは後の地役権者は前の地役権者の水の使用を妨ぐることを得ず。

第286条〔承役地所有者の積極的義務〕

 設定行為又は特別契約に因り承役地の所有者が其費用を以て地役権の行使の為めに工作物を設け又は其修繕を為す義務を負担したるときは其義務は承役地の所有者の特定承継人も亦之を負担す。

第287条〔委棄による義務の免脱〕

 承役地の所有者は何時にても地役権に必要なる土地の部分の所有権を地役権者に委棄して前条の負担を免るることを得。

第288条〔工作物の共同使用〕

 承役地の所有者は地役権の行使を妨げざる範囲内に於て其行使の為めに承役地の上に設けたる工作物を使用することを得。

 前項の場合に於ては承役地の所有者は其利益を受くる割合に応じて工作物の設置及び保存の費用を分担することを要す。

第289条〔承役地の時効取得による地役権の消滅〕

 承役地の占有者が取得時効に必要なる条件を具備せる占有を為したるときは地役権は之に因りて消滅す。

第290条〔地役権消滅時効の中断〕

 前条の消滅時効は地役権者が其権利を行使するに因りて中断す。

第291条〔消滅時効期間の起算点〕

 第167条第2項に規定せる消滅時効の期間は不継続地役権に付ては最後の行使の時より之を起算し継続地役権に付ては其行使を妨ぐべき事実の生じたる時より之を起算す。

第292条〔地役権の不可分性〕

要役地が数人の共有に属する場合に於て其1人の為めに時効の中断又は停止あるときは其中断又は停止は他の共有者の為めにも其効力を生ず。

第293条〔地役権の一部の時効消滅〕

 地役権者が其権利の一部を行使せざるときは其部分のみ時効に因りて消滅す。

第294条〔共有の性質を有しない入会権〕

 共有の性質を有せざる入会権に付ては各地方の慣習に従う外本章の規定を準用す。

第7章 留置権

第295条〔留置権の意義〕

 他人の物の占有者が其物に関して生じたる債権を有するときは其債権の弁済を受くるまで其物を留置することを得。但其債権が弁済期に在らざるときは此限に在らず。

 前項の規定は占有が不法行為に因りて始まりたる場合には之を適用せず。

第296条〔留置権の不可分性〕

 留置権者は債権の全部の弁済を受くるまでは留置物の全部に付き其権利を行うことを得。

第297条〔果実から優先弁済を受ける権利〕

 留置権者は留置物より生ずる果実を収取し他の債権者に先ちて之を其債権の弁済に充当することを得。

 前項の果実は先づ之を債権の利息に充当し尚お余剰あるときは之を元本に充当することを要す。

第298条〔留置物の善管義務〕

 留置権者は善良なる管理者の注意を以て留置物を占有することを要す。

 留置権者は債務者の承諾なくして留置物の使用若くは賃貸を為し又は之を担保に供することを得ず、但其物の保存に必要なる使用を為すは此限に在らず。

 留置権者が前2項の規定に違反したるときは債務者は留置権の消滅を請求することを得。

第299条〔留置権者の費用償還請求権〕

 留置権者が留置物に付き必要費を出たしたるときは所有者をして其償還を為さしむることを得。

 留置権者が留置物に付き有益費を出たしたるときは其価格の増加が現存する場合に限り所有者の選択に従い其費したる金額又は増価額を償還せしむることを得。但裁判所は所有者の請求に因り之に相当の期限を許与することを得。

第300条〔被担保債権の消滅時効〕

 留置権の行使は債権の消滅時効の進行を妨げず。

第301条〔留置権の消滅〕

 債務者は相当の担保を供して留置権の消滅を請求することを得。

第302条〔留置権の消滅〕

 留置権は占有の喪失に因りて消滅す。但第298条第2項の規定に依り賃貸又は質入を為したる場合は此限に在らず。

第8章 先取特権

第1節 総則

第303条〔先取特権の意義〕

 先取(さきどり)特権者は本法其他の法律の規定に従い其債務者の財産に付き他の債権者に先(さきだ)ちて自己の債権の弁済を受くる権利を有す。

第304条〔物上代位〕

 先取特権は其目的物の売却、賃貸、滅失又は毀損に因りて債務者が受くべき金銭其他の物に対しても之を行うことを得。但先取特権者は其(金銭其他の物の)払渡又は引渡前に差押を為すことを要す。

 債務者が先取特権の目的物の上に設定したる物権の対価に付き亦同じ。

第305条〔不可分性〕

 第296条の規定は先取特権に之を準用す。


第2節 先取特権の種類

第1款 一般の先取特権

第306条〔一般の先取特権を有する債権〕

 左に掲げたる原因より生じたる債権を有する者は債務者の総財産の上に先取特権を有す。
一 共益の費用
二 雇人の給料
三 葬式の費用
四 日用品の供給

第307条〔共益費用の先取特権〕

 共益費用の先取特権は各債権者の共同利益の為めに為したる債務者の財産の保存、清算又は配当に関する費用に付き存在す。

 前項の費用中総債権者に有益ならざりしものに付ては先取特権は其費用の為め利益を受けたる債権者に対してのみ存在す。

第308条〔雇人給料の先取特権〕

 雇人給料の先取特権は債務者の雇人が受くべき最後の6个月間の給料に付き存在す。

第309条〔葬式費用の先取特権〕

 葬式費用の先取特権は債務者の身分に応じて為したる葬式の費用に付き存在す。

 前項の先取特権は債務者が其扶養すべき親族の身分に応じて為したる葬式の費用に付ても亦存在す。

第310条〔日用品供給の先取特権〕

 日用品供給の先取特権は債務者又は其扶養すべき同居の親族及び其僕婢の生活に必要なる最後の6个月間の飲食品及び薪炭油の供給に付き存在す。

第2款 動産の先取特権

第311条〔動産の先取特権を有する債権〕

 左に掲げたる原因より生じたる債権を有する者は債務者の特定動産の上に先取特権を有す。
一 不動産の賃貸借
二 旅店の宿泊
三 旅客又は荷物の運輸
四 公吏の職務上の過失
五 動産の保存
六 動産の売買
七 種苗又は肥料の供給
八 農工業の労役

第312条〔不動産賃貸の先取特権〕

 不動産賃貸の先取特権は其不動産の借賃其他賃貸借関係より生じたる賃借人の債務に付き賃借人の動産の上に存在す。

第313条〔目的物の範囲〕

 土地の賃貸人の先取特権は賃借地又は其利用の為めにする建物に備附けたる動産、其土地の利用に供したる動産及び賃借人の占有に在る其土地の果実の上に存在す。

 建物の賃貸人の先取特権は賃借人が其建物に備附けたる動産の上に存在す。

第314条〔賃借権の譲渡・転貸の場合〕

 賃借権の譲渡又は転貸の場合に於ては賃貸人の先取特権は譲受人又は転借人の動産に及ぶ。譲渡人又は転貸人が受くべき金額に付き亦同じ。

第315条〔総清算の場合の債権の範囲〕

 賃借人の財産の総清算の場合に於ては賃貸人の先取特権は前期、当期及び次期の借賃其他の債務及び前期並に当期に於て生じたる損害の賠償に付てのみ存在す。

第316条〔敷金ある場合〕

 賃貸人が敷金を受取りたる場合に於ては其敷金を以て弁済を受けざる債権の部分に付てのみ先取特権を有す。

第317条〔旅店宿泊の先取特権〕

 旅店宿泊の先取特権は旅客、其従者及び牛馬の宿泊料並に飲食料に付き其旅店に存する手荷物の上に存在す。

第318条〔運輸の先取特権〕

 運輸の先取特権は旅客又は荷物の運送賃及び附随の費用に付き運送人の手に存する荷物の上に存在す。

第319条〔善意取得の準用〕

 第192条乃至第195条の規定は前7条の先取特権に之を準用す。

第320条〔公吏保証金の先取特権〕

 公吏保証金の先取特権は保証金を供したる公吏の職務上の過失に因りて生じたる債権に付き其保証金の上に存在す。

第321条〔動産保存の先取特権〕

 動産保存の先取特権は動産の保存費に付き其動産の上に存在す。

 前項の先取特権は動産に関する権利を保存、追認又は実行せしむる為めに要したる費用に付ても亦存在す。

第322条〔動産売買の先取特権〕

 動産売買の先取特権は動産の代価及び其利息に付き其動産の上に存在す。

第323条〔種苗肥料供給の先取特権〕

 種苗肥料供給の先取特権は種苗又は肥料の代価及び其利息に付き其種苗又は肥料を用いたる後1年内に之を用いたる土地より生じたる果実の上に存在す。

 前項の先取特権は蚕種又は蚕の飼養に供したる桑葉の供給に付き其蚕種又は桑葉より生じたる物の上にも亦存在す。

第324条〔農工業労役の先取特権〕

 農工業労役の先取特権は農業の労役者に付ては最後の1年間工業の労役者に付ては最後の3个月間の賃金に付き其労役に因りて生じたる果実又は製作物の上に存在す。

第3款 不動産の先取特権

第325条〔不動産の先取特権を有する債権〕

 左に掲げたる原因より生じたる債権を有する者は債務者の特定不動産の上に先取特権を有す。
一 不動産の保存
二 不動産の工事
三 不動産の売買

第326条〔不動産保存の先取特権〕

 不動産保存の先取特権は不動産の保存費に付き其不動産の上に存在す。

 第321条第2項の規定は前項の場合に之を準用す。

第327条〔不動産工事の先取特権〕

 不動産工事の先取特権は工匠、技師及び請負人が債務者の不動産に関して為したる工事の費用に付き其不動産の上に存在す。

 前項の先取特権は工事に因りて生じたる不動産の増価が現存する場合に限り其増価額に付てのみ存在す。

第328条〔不動産売買の先取特権〕

 不動産売買の先取特権は不動産の代価及び其利息に付き其不動産の上に存在す。


第3節 先取特権の順位

第329条〔一般の先取特権の順位〕

 一般の先取特権が互に競合する場合に於ては其優先権の順位は第306条に掲げたる順序に従う。

 一般の先取特権と特別の先取特権と競合する場合に於ては特別の先取特権は一般の先取特権に先つ。但共益費用の先取特権は其利益を受けたる総債権者に対して優先の効力を有す。

第330条〔動産の先取特権の順位〕

 同一の動産に付き特別の先取特権が互に競合する場合に於ては其優先権の順位左の如し
第1 不動産賃貸、旅店宿泊及び運輸の先取特権
第2 動産保存の先取特権但数人の保存者ありたるときは後の保存者は前の保存者に先つ
第3 動産売買、種苗肥料供給及び農工業労役の先取特権

 第1順位の先取特権者が債権取得の当時第2又は第3の順位の先取特権者あることを知りたるときは之に対して優先権を行うことを得ず。第1順位者の為めに物を保存したる者に対し亦同じ。

 果実に関しては第1の順位は農業の労役者に第2の順位は種苗又は肥料の供給者に第3の順位は土地の賃貸人に属す。

第331条〔不動産の先取特権の順位〕

 同一の不動産に付き特別の先取特権が互に競合する場合に於ては其優先権の順位は第325条に掲げたる順序に従う。

 同一の不動産に付き逐次の売買ありたるときは売主相互間の優先権の順位は時の前後に依る。

第332条〔同一順位の先取特権の効力〕

 同一の目的物に付き同一順位の先取特権者数人あるときは各其債権額の割合に応じて弁済を受く。

第4節 先取特権の効力

第333条〔第三取得者への追及力〕

 先取特権は債務者が其動産を第三取得者に引渡したる後は其動産に付き之を行うことを得ず。

第334条〔動産質権との順位〕

 先取特権と動産質権と競合する場合に於ては動産質権者は第330条に掲げたる第1順位の先取特権者と同一の権利を有す。

第335条〔一般の先取特権の効力〕

 一般の先取特権者は先ず不動産以外の財産に付き弁済を受け尚お不足あるに非ざれば不動産に付き弁済を受くることを得ず。

 不動産に付ては先ず特別担保の目的たらざるものに付き弁済を受くることを要す。

 一般の先取特権者が前2項の規定に従いて配当に加入することを怠りたるときは其配当加入に因りて受くべかりしものの限度に於ては登記を為したる第三者に対して其先取特権を行うことを得ず。

 前3項の規定は不動産以外の財産の代価に先ちて不動産の代価を配当し又は他の不動産の代価に先ちて特別担保の目的たる不動産の代価を配当すべき場合には之を適用せず。

第336条〔一般先取特権の対抗力〕

 一般の先取特権は不動産に付き登記を為さざるも之を以て特別担保を有せざる債権者に対抗することを妨げず、但登記を為したる第三者に対しては此限に在らず。

第337条〔不動産保存の先取特権の保存〕

 不動産保存の先取特権は保存行為完了の後直ちに登記を為すに因りて其効力を保存す。

第338条〔不動産工事の先取特権の保存〕

 不動産工事の先取特権は工事を始むる前に其費用の予算額を登記するに因りて其効力を保存す。但工事の費用が予算額を超ゆるときは先取特権は其超過額に付ては存在せず。

 工事に因りて生じたる不動産の増価額は配当加入の時裁判所に於て選任したる鑑定人をして之を評価せしむることを要す。

第339条〔抵当権に対する優先効〕

 前2条の規定に従いて登記したる先取特権は抵当権に先ちて之を行うことを得。

第340条〔不動産売買の先取特権の保存〕

 不動産売買の先取特権は売買契約と同時に未だ代価又は其利息の弁済あらざる旨を登記するに因りて其効力を保存す。

第341条〔抵当権の規定の準用〕

 先取特権の効力に付ては本節に定めたるものの外抵当権に関する規定を準用す。

第9章 質権

第1節 総則

第342条〔質権の意義〕

 質権者は其債権の担保として債務者又は第三者より受取りたる物を占有し且其物に付き他の債権者に先ちて自己の債権の弁済を受くる権利を有す。

第343条〔質権の目的物〕

 質権は譲渡すことを得ざる物を以て其目的と為すことを得ず。

第344条〔設定契約の要物性〕

 質権の設定は債権者に其目的物の引渡を為すに因りて其効力を生ず。

第345条〔設定者による代理占有の禁止〕

 質権者は質権設定者をして自己に代はりて質物の占有を為さしむることを得ず。

第346条〔被担保債権の範囲〕

 質権は元本、利息、違約金、質権実行の費用、質物保存の費用及び債務の不履行又は質物の隠れたる瑕疵に因りて生じたる損害の賠償を担保す、但設定行為に別段の定あるときは此限に在らず。

第347条〔留置的効力〕

 質権者は前条に掲げたる債権の弁済を受くるまでは質物を留置することを得。但此権利は之を以て自己に対し優先権を有する債権者に対抗することを得ず。

第348条〔責任転質〕


 質権者は其権利の存続期間内に於て自己の責任を以て質物を転質と為すことを得。此場合に於ては転質を為さざれば生せざるべき不可抗力に因る損失に付ても亦其責に任ず。

第349条〔流質契約の禁止〕

 質権設定者は設定行為又は債務の弁済期前の契約を以て質権者に弁済として質物の所有権を取得せしめ其他法律に定めたる方法に依らずして質物を処分せしむることを約することを得ず。

第350条〔留置権・先取特権の規定の準用〕

 第296条乃至第300条及び第304条の規定は質権に之を準用す。

第351条〔物上保証人の求償権〕

 他人の債務を担保する為め質権を設定したる者が其債務を弁済し又は質権の実行に因りて質物の所有権を失ひたるときは保証債務に関する規定に従い債務者に対して求償権を有す。


第2節 動産質

第352条〔対抗要件〕

 動産質権者は継続して質物を占有するに非ざれば其質権を以て第三者に対抗することを得ず。

第353条〔質物の回収〕

 動産質権者が質物の占有を奪われたるときは占有回収の訴に依りてのみ其質物を回復することを得。

第354条〔質物による簡易な弁済充当〕

 動産質権者が其債権の弁済を受けざるときは正当の理由ある場合に限り鑑定人の評価に従い質物を以て直ちに弁済に充つることを裁判所に請求することを得。此場合に於ては質権者は予め債務者に其請求を通知することを要す。

第355条〔動産質権の順位〕

 数個の債権を担保する為め同一の動産に付き質権を設定したるときは其質権の順位は設定の前後に依る。


第3節 不動産質

第356条〔使用収益権〕

 不動産質権者は質権の目的たる不動産の用方に従い其使用及び収益を為すことを得。

第357条〔管理費用などの負担〕

 不動産質権者は管理の費用を払い其他不動産の負担に任ず。

第358条〔被担保債権の利息〕

 不動産質権者は其債権の利息を請求することを得ず。

第359条〔特約の効力〕

 前3条の規定は設定行為に別段の定あるときは之を適用せず。

第360条〔存続期間〕

 不動産質の存続期間は10年を超ゆることを得ず。若し之より長き期間を以て不動産質を設定したるときは其期間は之を10年に短縮す。

 不動産質の設定は之を更新することを得。但其期間は更新の時より10年を超ゆることを得ず。

第361条〔抵当権の規定の準用〕

 不動産質には本節の規定の外次章の規定を準用す。


第4節 権利質

第362条〔権利質の目的〕

 質権は財産権を以て其目的と為すことを得。

 前項の質権には本節の規定の外前3節の規定を準用す。

第363条〔要物契約性〕

 債権を以て質権の目的と為す場合に於て其債権の証書あるときは質権の設定は其証書の交付を為すに因りて其効力を生ず。

第364条〔指名債権質の対抗要件〕

 指名債権を以て質権の目的と為したるときは第467条の規定に従い第三債務者に質権の設定を通知し又は第三債務者が之を承諾するに非ざれば之を以て第三債務者其他の第三者に対抗することを得ず。

 前項の規定は株式には之を適用せず。

第365条〔記名社債質の対抗要件〕

 記名の社債を以て質権の目的と為したるときは社債の譲渡に関する規定に従い会社の帳簿に質権の設定を記入するに非ざれば之を以て会社其他の第三者に対抗することを得ず。

第366条〔指図債権質の対抗要件〕

 指図債権を以て質権の目的と為したるときは其証書に質権の設定を裏書するに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず。

第367条〔債権質権者の直接取立権〕

 質権者は質権の目的たる債権を直接に取立つることを得。

 債権の目的物が金銭なるときは質権者は自己の債権額に対する部分に限り之を取立つることを得。

 右の債権の弁済期が質権者の債権の弁済期前に到来したるときは質権者は第三債務者をして其弁済金額を供託せしむることを得。此場合に於ては質権は其供託金の上に存在す。

 債権の目的物が金銭に非ざるときは質権者は弁済として受けたる物の上に質権を有す。

第10章 抵当権

第1節 総則

第369条〔抵当権の意義〕

 抵当権者は債務者又は第三者が占有を移さすして債務の担保に供したる不動産に付き他の債権者に先ちて自己の債権の弁済を受くる権利を有す。

 地上権及び永小作権も亦之を抵当権の目的と為すことを得。此場合に於ては本章の規定を準用す。

第370条〔抵当権の効力の及ぶ範囲〕

 抵当権は抵当地の上に存する建物を除く外其目的たる不動産に附加して之と一体を成したる物に及ぶ。但設定行為に別段の定あるとき及び第424条の規定に依り債権者が債務者の行為を取消すことを得る場合は此限に在らず。

第371条〔果実に対する効力〕

 前条の規定は果実には之を適用せず。但抵当不動産の差押ありたる後又は第三取得者が第381条の通知を受けたる後は此限に在らず。

 第三取得者が第381条の通知を受けたるときは其後1年内に抵当不動産の差押ありたる場合に限り前項但書の規定を適用す。

第372条〔他の担保物権の規定の準用〕

 第296条、第304条及び第351条の規定は抵当権に之を準用す。


第2節 抵当権の効力

第373条〔抵当権の順位とその変更〕

 数個の債権を担保する為め同一の不動産に付き抵当権を設定したるときは其抵当権の順位は登記の前後に依る。

 抵当権の順位は各抵当権者の合意に依りて之を変更することを得。但利害の関係を有する者あるときは其承諾を得ることを要す。

 前項の順位の変更は其登記を為すに非ざれば其効力を生ぜず。

第374条〔被担保債権の範囲〕

 抵当権者が利息其他の定期金を請求する権利を有するときは其満期と為りたる最後の2年分に付てのみ其抵当権を行うことを得。但其以前の定期金に付ても満期後特別の登記を為したるときは其登記の時より之を行うことを妨げず。

 前項の規定は抵当権者が債務の不履行に因りて生じたる損害の賠償を請求する権利を有する場合に於て其最後の2年分に付ても亦之を適用す。但利息其他の定期金と通じて2年分を超ゆることを得ず。

第375条〔抵当権の処分〕

 抵当権者は其抵当権を以て他の債権の担保と為し又同一の債務者に対する他の債権者の利益の為め其抵当権若くは其順位を譲渡し又は之を放棄することを得。

 前項の場合に於て抵当権者が数人の為めに其抵当権の処分を為したるときは其処分の利益を受くる者の権利の順位は抵当権の登記に附記を為したる前後に依る。

第376条〔抵当権処分の対抗要件〕

 前条の場合に於ては第467条の規定に従い主たる債務者に抵当権の処分を通知し又は其債務者が之を承諾するに非ざれば之を以て其債務者、保証人、抵当権設定者及び其承継人に対抗することを得ず。

 主たる債務者が前項の通知を受け又は承諾を為したるときは抵当権の処分の利益を受くる者の承諾なくして為したる弁済は之を以て其受益者に対抗することを得ず。

第377条〔代価弁済〕

 抵当不動産に付き所有権又は地上権を買受けたる第三者が抵当権者の請求に応じて之に其代価を弁済したるときは抵当権は其第三者の為めに消滅す。

第378条〔滌除〕

 抵当不動産に付き所有権、地上権又は永小作権を取得したる第三者は第382条乃至第384条の規定に従い抵当権者に提供して其承諾を得たる金額を払渡し又は之を供託して抵当権を滌除することを得。

第379条〔滌除をなしえない者〕

 主たる債務者、保証人及び其承継人は抵当権の滌除を為すことを得ず。

第380条〔滌除をなしえない者〕

 停止条件附第三取得者は条件の成否未定の間は抵当権の滌除を為すことを得ず。

第381条〔滌除権者への抵当権実行の通知〕

 抵当権者が其抵当権を実行せんと欲するときは予め第378条に掲げたる第三取得者に其旨を通知することを要す。

第382条〔滌除の時期〕

 第三取得者は前条の通知を受くるまでは何時にても抵当権の滌除を為すことを得。

 第三取得者が前条の通知を受けたるときは1个月内に次条の送達を為すに非ざれば抵当権の滌除を為すことを得ず。

 前条の通知ありたる後に第378条に掲げたる権利を取得したる第三者は前項の第三取得者が滌除を為すことを得る期間内に限り之を為すことを得。

第383条〔滌除の手続〕

 第三取得者が抵当権を滌除せんと欲するときは登記を為したる各債権者に左の書面を送達することを要す。
一 取得の原因、年月日、譲渡人及び取得者の氏名、住所、抵当不動産の性質、所在、代価其他取得者の負担を記載したる書面
二 抵当不動産に関する登記簿の謄本但既に消滅したる権利に関する登記は之を掲くることを要せず。
三 債権者が1个月内に次条の規定に従い増価競売を請求せざるときは第三取得者は第1号に掲げたる代価又は特に指定したる金額を債権の順位に従いて弁済又は供託すべき旨を記載したる書面

第384条〔増価競売の請求〕

 債権者が前条の送達を受けたる後1个月内に増価競売を請求せざるときは第三取得者の提供を承諾したるものと看做す。

 増価競売は若し競売に於て第三取得者が提供したる金額より10分の1以上高価に抵当不動産を売却すること能わざるときは10分の1の増価を以て自ら其不動産を買受くべき旨を附言し第三取得者に対して之を請求することを要す。

第385条〔増価競売の通知〕

 債権者が増価競売を請求するときは前条の期間内に債務者及び抵当不動産の譲渡人に之を通知することを要す。

第386条〔増価競売請求の取消し〕

 増価競売を請求したる債権者は登記を為したる他の債権者の承諾を得るに非ざれば其請求を取消すことを得ず。

第387条〔抵当権者の競売請求権〕

 抵当権者が第382条に定めたる期間内に第三取得者より債務の弁済又は滌除の通知を受けざるときは抵当不動産の競売を請求することを得。

第388条〔法定地上権〕

 土地及び其上に存する建物が同一の所有者に属する場合に於て其土地又は建物のみを抵当と為したるときは抵当権設定者は競売の場合に付き地上権を設定したるものと看做す。但地代は当事者の請求に因り裁判所之を定む。

第389条〔抵当地上の建物の競売権〕

 抵当権設定の後其設定者が抵当地に建物を築造したるときは抵当権者は土地と共に之を競売することを得。但其優先権は土地の代価に付てのみ之を行うことを得。

第390条〔第三取得者の競買権〕

 第三取得者は競買人と為ることを得。

第391条〔第三取得者の費用償還請求権〕

 第三取得者が抵当不動産に付き必要費又は有益費を出たしたるときは第196条の区別に従い不動産の代価を以て最も先に其償還を受くることを得。

第392条〔共同抵当の代価の配当、次順位者の代位〕

 債権者が同一の債権の担保として数個の不動産の上に抵当権を有する場合に於て同時に其代価を配当すべきときは其各不動産の価額に準して其債権の負担を分つ。

 或不動産の代価のみを配当すべきときは抵当権者は其代価に付き債権の全部の弁済を受くることを得。此場合に於ては次の順位に在る抵当権者は前項の規定に従い右の抵当権者が他の不動産に付き弁済を受くべき金額に満つるまで之に代位して抵当権を行うことを得。

第393条〔代位の附記登記〕

 前条の規定に従い代位に因りて抵当権を行う者は其抵当権の登記に其代位を附記することを得。

第394条〔抵当不動産以外からの弁済〕

 抵当権者は抵当不動産の代価を以て弁済を受けざる債権の部分に付てのみ他の財産を以て弁済を受くることを得。

 前項の規定は抵当不動産の代価に先ちて他の財産の代価を配当すべき場合には之を適用せず。但他の各債権者は抵当権者をして前項の規定に従い弁済を受けしむる為め之に配当すべき金額の供託を請求することを得。

第395条〔短期賃借権の保護〕

 第602条に定めたる期間を超えざる賃貸借は抵当権の登記後に登記したるものと雖も之を以て抵当権者に対抗することを得。但其賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすときは裁判所は抵当権者の請求に因り其解除を命ずることを得。


第3節 抵当権の消滅

第396条〔抵当権の消滅時効〕

 抵当権は債務者及び抵当権設定者に対しては其担保する債権と同時に非ざれば時効に因りて消滅せず。

第397条〔目的物の取得時効による抵当権の消滅〕

 債務者又は抵当権設定者に非ざる者が抵当不動産に付き取得時効に必要なる条件を具備せる占有を為したるときは抵当権は之に因りて消滅す。

第398条〔抵当権の目的たる地上権・永小作権の放棄〕

 地上権又は永小作権を抵当と為したる者が其権利を放棄したるも之を以て抵当権者に対抗することを得ず。


第4節 根抵当

第398条の2〔根抵当権の意義と被担保債権〕

 抵当権は設定行為を以て定むる所に依り一定の範囲に属する不特定の債権を極度額の限度に於て担保する為めにも之を設定することを得。

 前項の抵当権(以下根抵当権と称す)の担保すべき不特定の債権の範囲は債務者との特定の継続的取引契約に因りて生ずるもの其他債務者との一定の種類の取引に因りて生ずるものに限定して之を定むることを要す。

 特定の原因に基き債務者との間に継続して生ずる債権又は手形上若くは小切手上の請求権は前項の規定に拘はらず之を根抵当権の担保すべき債権と為すことを得。

第398条の3〔優先弁済の限度と制限〕

 根抵当権者は確定したる元本並に利息其他の定期金及び債務の不履行に因りて生じたる損害の賠償の全部に付き極度額を限度として其根抵当権を行うことを得。

 2 債務者との取引に因らずして取得する手形上又は小切手上の請求権を根抵当権の担保すべき債権と為したる場合に於て債務者が支払を停止したるとき、債務者に 付き破産、再生手続開始、更生手続開始、整理開始若くは特別清算開始の申立ありたるとき又は抵当不動産に対する競売の申立若くは滞納処分に因る差押ありた るときは其前に取得したるものに付てのみ其根抵当権を行うことを得。但其事実を知らずして取得したるものに付ても之を行うことを妨げず。

第398条の4〔被担保債権の範囲・債務者の変更〕

 元本の確定前に於ては根抵当権の担保すべき債権の範囲の変更を為すことを得。債務者の変更に付き亦同じ。

 前項の変更を為すには後順位の抵当権者其他の第三者の承諾を得ることを要せず。

 第1項の変更に付き元本の確定前に登記を為さざるときは其変更は之を為さざりしものと看做す。

第398条の5〔極度額の変更〕

 根抵当権の極度額の変更は利害の関係を有する者の承諾を得るに非ざれば之を為すことを得ず。

第398条の6〔確定期日〕

 根抵当権の担保すべき元本に付ては其確定すべき期日を定め又は之を変更することを得。

 第398条の4第2項の規定は前項の場合に之を準用す。

 第1項の期日は之を定め又は変更したる日より5年内たることを要す。

 第1項の期日の変更に付き其期日前に登記を為さざるときは担保すべき元本は其期日に於て確定す。

第398条の7〔確定前の被担保債権の譲渡等と根抵当権〕

 元本の確定前に根抵当権者より債権を取得したる者は其債権に付き根抵当権を行うことを得ず。元本の確定前に債務者の為めに又は債務者に代はりて弁済を為したる者亦同じ。

 元本の確定前に債務の引受ありたるときは根抵当権者は引受人の債務に付き其根抵当権を行うことを得ず。

第398条の8〔確定前の被担保債権についての更改〕

 元本の確定前に債権者又は債務者の交替に因る更改ありたるときは其当事者は第518条の規定に拘はらず根抵当権を新債務に移すことを得ず。

第398条の9〔確定前の根抵当権者または債務者の相続〕

 元本の確定前に根抵当権者に付き相続が開始したるときは根抵当権は相続開始の時に存する債権の外、相続人と根抵当権設定者との合意に依り定めたる相続人が相続の開始後に取得する債権を担保す。

 元本の確定前に債務者に付き相続が開始したるときは根抵当権は相続開始の時に存する債務の外根抵当権者と根抵当権設定者との合意に依り定めたる相続人が相続の開始後に負担する債務を担保す。

 第398条の4第2項の規定は前2項の合意を為す場合に之を準用す。

 第1項及び第2項の合意に付き相続の開始後6个月内に登記を為さざるときは担保すべき元本は相続開始の時に於て確定したるものと看做す。

第398条の10〔確定前の根抵当権者または債務者の合併〕

 元本の確定前に根抵当権者に付き合併ありたるときは根抵当権は合併の時に存する債権の外合併後存続する法人又は合併に因りて設立したる法人が合併後に取得する債権を担保す。

 元本の確定前に債務者に付き合併ありたるときは根抵当権は合併の時に存する債務の外合併後存続する法人又は合併に因りて設立したる法人が合併後に負担する債務を担保す。

 前2項の場合に於ては根抵当権設定者は担保すべき元本の確定を請求することを得。但前項の場合に於て其債務者が根抵当権設定者なるときは此限に在らず。

 前項の請求ありたるときは担保すべき元本は合併の時に於て確定したるものと看做す。

 第3項の請求は根抵当権設定者が合併ありたることを知りたる日より2週間を経過したるときは之を為すことを得ず。合併の日より1个月を経過したるとき亦同じ。

第398条の10の2〔確定前の根抵当権者または債務者の分割〕

 元本の確定前に根抵当権者を分割を為す会社とする分割ありたるときは根抵当権は分割の時に存する債権の外分割を為したる会社及び分割に因りて設立したる会社又は営業を承継したる会社が分割後に取得する債権を担保す。

 元本の確定前に債務者を分割を為す会社とする分割ありたるときは根抵当権は分割の時に存する債権の外分割を為したる会社及び分割に因りて設立したる会社又は営業を承継したる会社が分割後に負担する債務を担保す。

 前条第3項乃至第5項の規定は前2項の場合に之を準用す。

第398条の11〔転抵当以外の第375条による処分の禁止〕

 元本の確定前に於ては根抵当権者は第375条第1項の処分を為すことを得ず、但其根抵当権を以て他の債権の担保と為すことを妨げず。

 第376条第2項の規定は前項但書の場合に於て元本の確定前に為したる弁済に付ては之を適用せず。

第398条の12〔根抵当権の全部譲渡・分割譲渡〕

 元本の確定前に於ては根抵当権者は根抵当権設定者の承諾を得て其根抵当権を譲渡すことを得。

 根抵当権者は其根抵当権を2個の根抵当権に分割して其一を前項の規定に依り譲渡すことを得。此場合に於ては其根抵当権を目的とする権利は譲渡したる根抵当権に付き消滅す。

 前項の譲渡を為すには其根抵当権を目的とする権利を有する者の承諾を得ることを要す。

第398条の13〔根抵当権の一部譲渡〕

 元本の確定前に於ては根抵当権者は根抵当権設定者の承諾を得て其根抵当権の一部譲渡を為し之を譲受人と共有することを得。

第398条の14〔根抵当権の共有関係〕

 根抵当権の共有者は各其債権額の割合に応じて弁済を受く。但元本の確定前に之と異なる割合を定め又は或者が他の者に先ちて弁済を受くべきことを定めたるときは其定に従う。

 根抵当権の共有者は他の共有者の同意を得て第398条の12第1項の規定に依り其権利を譲渡すことを得。

第398条の15〔順位譲渡等の受益者たる根抵当権者の譲渡等の効果〕

 抵当権の順位の譲渡又は放棄を受けたる根抵当権者が其根抵当権の譲渡又は一部譲渡を為したるときは譲受人は其順位の譲渡又は放棄の利益を受く。

第398条の16〔共同根抵当〕

 第392条及び第393条の規定は根抵当権に付ては其設定と同時に同一の債権の担保として数個の不動産の上に根抵当権が設定せられたる旨を登記したる場合に限り之を適用す。

第398条の17〔共同根抵当に関する変更・譲渡、確定〕

 前条の登記ある根抵当権の担保すべき債権の範囲、債務者若くは極度額の変更又は其譲渡若くは一部譲渡は総ての不動産に付き其登記を為すに非ざれば其効力を生ぜず。

 前条の登記ある根抵当権の担保すべき元本は1の不動産に付てのみ確定すべき事由が生じたる場合に於ても亦確定す。

第398条の18〔累積式の根抵当〕

 数個の不動産の上に根抵当権を有する者は第398条の16の場合を除く外各不動産の代価に付き各極度額に至るまで優先権を行うことを得。

第398条の19〔設定者の確定請求権〕

 根抵当権設定者は根抵当権設定の時より3年を経過したるときは担保すべき元本の確定を請求することを得。但担保すべき元本の確定すべき期日の定あるときは此限に在らず。

 前項の請求ありたるときは担保すべき元本は其請求の時より2週間を経過したるに因りて確定す。

第398条の20〔確定事由〕

 左の場合に於ては根抵当権の担保すべき元本は確定す。
一 担保すべき債権の範囲の変更、取引の終了其他の事由に因り担保すべき元本の生ぜざることと為りたるとき。
二 根抵当権者が抵当不動産に付き競売又は第372条に於て準用する第304条の規定に依る差押を申立てたるとき。但競売手続の開始又は差押ありたるときに限る。
三 根抵当権者が抵当不動産に対し滞納処分に因る差押を為したるとき。
四 根抵当権者が抵当不動産に対する競売手続の開始又は滞納処分に因る差押ありたることを知りたる時より2週間を経過したるとき。
五 債務者又は根抵当権設定者が破産の宣告を受けたるとき。

 前項第4号の競売手続の開始若くは差押又は同項第5号の破産の宣告の効力が消滅したるときは担保すべき元本は確定せざりしものと看做す。但元本が確定したるものとして其根抵当権又は之を目的とする権利を取得したる者あるときは此限に在らず。

第398条の21〔極度額減額請求権〕

 元本の確定後に於ては根抵当権設定者は其根抵当権の極度額を現に存する債務の額と爾後2年間に生ずべき利息其他の定期金及び債務の不履行に因る損害賠償の額とを加えたる額に減ずべきことを請求することを得。

 第398条の16の登記ある根抵当権の極度額の減額に付ては前項の請求は1の不動産に付き之を為すを以て足る。

第398条の22〔物上保証人等の根抵当権消滅請求権〕

 1 元本の確定後に於て現に存する債務の額が根抵当権の極度額を超ゆるときは他人の債務を担保する為め其根抵当権を設定したる者又は抵当不動産に付き所有権、 地上権、永小作権若くは第三者に対抗することを得べき賃借権を取得したる第三者は其極度額に相当する金額を払渡し又は之を供託して其根抵当権の消滅を請求 することを得。此場合に於ては其払渡又は供託は弁済の効力を有す。

 第398条の16の登記ある根抵当権は1の不動産に付き前項の請求ありたるときは消滅す。

 第379条及び第380条の規定は第1項の請求に之を準用す。


第3編 債権

第1章 総則

第1節 債権の目的

第399条〔債権の目的〕

 債権は金銭に見積ることを得ざるものと雖も之を以て其目的と為すことを得。

第400条〔特定物引渡債権における保存義務〕

 債権の目的が特定物(特定の商品)の引渡なるときは債務者は其引渡を為すまで善良なる管理者の注意を以て其物を保存することを要す。

第401条〔種類債権〕

 債権の目的物を指示するに種類のみを以てしたる場合(不特定物)に於て法律行為の性質又は当事者の意思に依りて其品質を定むること能わざるときは債務者は中等の品質を有する物を給付することを要す。

 前項の場合に於て債務者が物の給付を為すに必要なる行為を完了し又は債権者の同意を得て其給付すべき物を指定したるときは爾後其物を以て債権の目的物とす。

第402条〔金銭債権〕

 債権の目的物が金銭なるときは債務者は其選択に従い各種の通貨を以て弁済を為すことを得、但特種の通貨の給付を以て債権の目的と為したるときは此限に在らず。

 債権の目的たる特種の通貨が弁済期に於て強制通用の効力を失ひたるときは債務者は他の通貨を以て弁済を為すことを要す。

 前2項の規定は外国の通貨の給付を以て債権の目的と為したる場合に之を準用す。

第403条〔外貨建金銭債権〕

  外国の通貨を以て債権額を指定したるときは債務者は履行地に於ける為替相場に依り日本の通貨を以て弁済を為すことを得。

第404条〔民事法定利率〕

 利息を生ずべき債権に付き別段の意思表示なきときは其利率は年5分とす。

第405条〔法定重利〕

 利息が1年分以上延滞したる場合に於て債権者より催告を為すも債務者が其利息を払はざるときは債権者は之を元本に組入るることを得。

第406条〔選択債権〕

 債権の目的が数個の給付中選択に依りて定まるべきときは其選択権は債務者に属す。

第407条〔当事者の選択権の行使〕

 前条の選択権は相手方に対する意思表示に依りて之を行う。

 前項の意思表示は相手方の承諾あるに非ざれば之を取消すことを得ず。

第408条〔選択権の移転〕

 債権が弁済期に在る場合に於て相手方より相当の期間を定めて催告を為すも選択権を有する当事者が其期間内に選択を為さざるときは其選択権は相手方に属す。

第409条〔第三者の選択権〕

 第三者が選択を為すべき場合に於ては其選択は債権者又は債務者に対する意思表示に依りて之を為す。

 第三者が選択を為すこと能はず又は之を欲せざるときは選択権は債務者に属す。

第410条〔不能による選択債権の特定〕

 債権の目的たるべき給付中始より不能なるもの又は後に至りて不能と為りたるものあるときは債権は其残存するものに付き存在す。

 選択権を有せざる当事者の過失に因りて給付が不能と為りたるときは前項の規定を適用せず。

第411条〔選択の遡及効〕

 選択は債権発生の時に遡りて其効力を生ず、但第三者の権利を害することを得ず


第2節 債権の効力

第412条〔履行期と履行遅滞〕

 債務の履行に付き確定期限あるときは債務者は其期限の到来したる時より遅滞の責に任ず。

 債務の履行に付き不確定期限あるときは債務者は其期限の到来したることを知りたる時より遅滞の責に任ず。

 債務の履行に付き期限を定めざりしときは債務者は履行の請求を受けたる時より遅滞の責に任ず。

第413条〔受領遅滞〕

 債権者が債務の履行を受くることを拒み又は之を受くること能わざるときは其債権者は履行の提供ありたる時より遅滞の責に任ず。


第414条〔強制履行〕

 債務者が任意に債務の履行を為さざるときは債権者は其強制履行を裁判所に請求することを得、但債務の性質が之を許さざるときは此限に在らず。

 債務の性質が強制履行を許さざる場合に於て其債務が作為を目的とするときは債権者は債務者の費用を以て第三者に之を為さしむることを裁判所に請求することを得、但法律行為を目的とする債務に付ては裁判を以て債務者の意思表示に代ふることを得。

 不作為を目的とする債務に付ては債務者の費用を以て其為したるものを除却し且将来の為め適当の処分を為すことを請求することを得。

 前3項の規定は損害賠償の請求を妨げず。

第415条〔債務不履行〕

 債務者が其債務の本旨に従いたる履行を為さざるときは債権者は其損害の賠償を請求することを得債務者の責に帰すべき事由に因りて履行を為すこと能わざるに至りたるとき亦同じ。

第416条〔損害賠償の範囲・相当因果関係〕

 損害賠償の請求は債務の不履行に因りて通常生ずべき損害の賠償を為さしむるを以て其目的とす。

 特別の事情に因りて生じたる損害と雖も当事者が其事情を予見し又は予見することを得べかりしときは債権者は其賠償を請求することを得。

第417条〔金銭賠償の原則〕

 損害賠償は別段の意思表示なきときは金銭を以て其額を定む。

第418条〔過失相殺〕

 債務の不履行に関し債権者に過失ありたるときは裁判所は損害賠償の責任及び其金額を定むるに付き之を斟酌す。

第419条〔金銭債務の特則〕

 金銭を目的とする債務の不履行に付ては其損害賠償の額は法定利率に依りて之を定む但約定利率が法定利率に超ゆるときは約定利率に依る。

 前項の損害賠償に付ては債権者は損害の証明を為すことを要せず、又債務者は不可抗力を以て抗弁と為すことを得ず。

第420条〔賠償額の予定〕

 当事者は債務の不履行に付き損害賠償の額を予定することを得、此場合に於ては裁判所は其額を増減することを得ず。

 賠償額の予定は履行又は解除の請求を妨げず。

 違約金は之を賠償額の予定と推定す。

第421条〔賠償額の予定〕

 前条の規定は当事者が金銭に非ざるものを以て損害の賠償に充(あ)つべき旨を予定したる場合に之を準用す。

第422条〔損害賠償者の代位〕

 債権者が損害賠償として其債権の目的たる物又は権利の価額の全部を受けたるときは債務者は其物又は権利に付き当然債権者に代位す。

第423条〔債権者代位権〕

 債権者は自己の債権を保全する為め其債務者に属する権利を行うことを得、但債務者の一身に専属する権利は此限に在らず。

 債権者は其債権の期限が到来せざる間は裁判上の代位に依るに非ざれば前項の権利を行うことを得ず、但保存行為は此限に在らず。

第424条〔債権者取消権〕

 債権者は債務者が其債権者を害することを知りて為したる法律行為の取消を裁判所に請求することを得、但其行為に因りて利益を受けたる者又は転得者が其行為又は転得の当時債権者を害すべき事実を知らざりしときは此限に在らず。

 前項の規定は財産権を目的とせざる法律行為には之を適用せず。

第425条〔債権者取消権行使の効果〕

 前条の規定に依りて為したる取消は総債権者の利益の為めに其効力を生ず。

第426条〔債権者取消権行使の期間制限〕

 第424条の取消権は債権者が取消の原因を覚知したる時より2年間之を行わざるときは時効に因りて消滅す行為の時より20年を経過したるとき亦同じ


第3節 多数当事者の債権

第1款 総則

第427条〔債権債務分割の原則〕

 数人の債権者又は債務者ある場合に於て別段の意思表示なきときは各債権者又は各債務者は平等の割合を以て権利を有し又は義務を負う。

第2款 不可分債務

第428条〔不可分債権〕

 債権の目的が其性質上又は当事者の意思表示に因りて不可分なる場合に於て数人の債権者あるときは各債権者は総債権者の為めに履行を請求し又債務者は総債権者の為め各債権者に対して履行を為すことを得。

第429条〔一債権につき生じた事項の効果〕

 不可分債権者の1人と其債務者との間に更改又は免除ありたる場合に於ても他の債権者は債務の全部の履行を請求することを得、但其1人の債権者が其権利を失はざれば之に分与すべき利益を債務者に償還することを要す。

 此他不可分債権者の1人の行為又は其1人に付き生じたる事項は他の債権者に対して其効力を生ぜず。

第430条〔不可分債務〕

 数人が不可分債務を負担する場合に於ては前条の規定及び連帯債務に関する規定を準用す、但第434条乃至第440条〔連帯債務者の1人について生じた事項の効力〕の規定は此限に在らず。

第431条〔可分債務への変更〕

 不可分債務が可分債務に変じたるときは各債権者は自己の部分に付てのみ履行を請求することを得又各債務者は其負担部分に付てのみ履行の責に任ず。

第3款 連帯債務

第432条〔履行の請求〕

 数人が連帯債務を負担するときは債権者は其債務者の1人に対し又は同時若くは順次に総債務者に対して全部又は一部の履行を請求することを得。

第433条〔一債務者についての無効・取消し〕

 連帯債務者の1人に付き法律行為の無効又は取消の原因の存する為め他の債務者の債務の効力を妨ぐることなし。

第434条〔請求の絶対効〕

 連帯債務者の1人に対する履行の請求は他の債務者に対しても其効力を生ず。

第435条〔更改の絶対効〕

 連帯債務者の1人と債権者との間に更改ありたるときは債権は総債務者の利益の為めに消滅す。

第436条〔相殺の絶対効、他人の相殺権援用〕

 連帯債務者の1人が債権者に対して債権を有する場合に於て其債務者が相殺を援用したるときは債権は総債務者の利益の為めに消滅す。

 右の債権を有する債務者が相殺を援用せざる間は其債務者の負担部分に付てのみ他の債務者に於て相殺を援用することを得。

第437条〔免除の絶対効〕

 連帯債務者の1人に対して為したる債務の免除は其債務者の負担部分に付てのみ他の債務者の利益の為めにも其効力を生ず。

第438条〔混同の絶対効〕

 連帯債務者の1人と債権者との間に混同ありたるときは其債務者は弁済を為したるものと看做す。

第439条〔時効の絶対効〕

 連帯債務者の1人の為めに時効が完成したるときは其債務者の負担部分に付ては他の債務者も亦其義務を免る。

第440条〔相対効の原則〕

 前6条に掲げたる事項を除く外連帯債務者の1人に付き生じたる事項は他の債務者に対して其効力を生ぜず。

第441条〔連帯債務者の破産〕

 連帯債務者の全員又は其中の数人が破産の宣告を受けたるときは債権者は其債権の全額に付き各財団の配当に加入することを得。

第442条〔連帯債務者間の求償〕

 連帯債務者の1人が債務を弁済し其他自己の出捐を以て共同の免責を得たるときは他の債務者に対し其各自の負担部分に付き求償権を有す。

 前項の求償は弁済其他免責ありたる日以後の法定利息及び避くることを得ざりし費用其他の損害の賠償を包含す。

第443条〔請求の通知、出捐の通知〕

 連帯債務者の1人が債権者より請求を受けたることを他の債務者に通知せずして弁済を為し其他自己の出捐を以て共同の免責を得たる場合に於て他の債務者が 債権者に対抗することを得べき事由を有せしときは其負担部分に付き之を以て其債務者に対抗することを得、但相殺を以て之に対抗したるときは過失ある債務者 は債権者に対し相殺に因りて消滅すべかりし債務の履行を請求することを得。

 連帯債務者の1人が弁済其他自己の出捐を以て共同の免責を得たることを他の債務者に通知することを怠りたるに因り他の債務者が善意にて債権者に弁済を為し其他有償に免責を得たるときは其債務者は自己の弁済其他免責の行為を有効なりしものと看做すことを得。

第444条〔償還無資力者ある場合〕

 連帯債務者中に償還を為す資力なき者あるときは其償還すること能わざる部分は求償者及び他の資力ある者の間に其各自の負担部分に応じて之を分割す、但求償者に過失あるときは他の債務者に対して分担を請求することを得ず。

第445条〔連帯の免除と償還無資力者の負担部分〕

 連帯債務者の1人が連帯の免除を得たる場合に於て他の債務者中に弁済の資力なき者あるときは債権者は其無資力者が弁済すること能わざる部分に付き連帯の免除を得たる者が負担すべき部分を負担す。

第4款 保証債務

第446条〔保証債務の内容〕

 保証人は主たる債務者が其債務を履行せざる場合に於て其履行を為す責に任ず。

第447条〔保証債務の範囲〕

 保証債務は主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償其他総て其債務に従たるものを包含す。

 保証人は其保証債務に付てのみ違約金又は損害賠償の額を約定することを得。

第448条〔保証債務の付従性〕

 保証人の負担が債務の目的又は体様に付き主たる債務より重きときは之を主たる債務の限度に減縮す。

第449条〔取り消しうべき債務の保証〕

 能力の制限に因りて取消すことを得べき債務を保証したる者が保証契約の当時其取消の原因を知りたるときは主たる債務者の不履行又は其債務の取消の場合に付き同一の目的を有する独立の債務を負担したるものと推定す。

第450条〔保証人を立てる義務〕

 債務者が保証人を立つる義務を負う場合に於ては其保証人は左の条件を具備する者たることを要す。
一 能力者たること。
二 弁済の資力を有すること。

 保証人が前項第2号の条件を欠くに至りたるときは債権者は前項の条件を具備する者を以て之に代ふることを請求することを得。

 前2項の規定は債権者が保証人を指名したる場合には之を適用せず。

第451条〔他の担保の供与〕

 債務者が前条の条件を具備する保証人を立つること能わざるときは他の担保を供して之に代ふることを得。

第452条〔催告の抗弁権〕

 債権者が保証人に債務の履行を請求したるときは保証人は先づ主たる債務者に催告を為すべき旨を請求することを得、但主たる債務者が破産の宣告を受け又は其行方が知れざるときは此限に在らず。

第453条〔検索の抗弁権〕

 債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告を為したる後と雖も保証人が主たる債務者に弁済の資力ありて且執行の容易なることを証明したるときは債権者は先づ主たる債務者の財産に付き執行を為すことを要す。

第454条〔連帯保証人と抗弁権〕

 保証人が主たる債務者と連帯して債務を負担したるときは前2条に定めたる権利を有せず。

第455条〔催告・検索の懈怠の効果〕

 第452条〔催告の抗弁権〕及び第453条〔検索の抗弁権〕の規定に依り保証人の請求ありたるに拘はらず債権者が催告又は執行を為すことを怠り其後主た る債務者より全部の弁済を得ざるときは保証人は債権者が直ちに催告又は執行を為せば弁済を得べかりし限度に於て其義務を免る。

第456条〔共同保証と分別の利益〕

 数人の保証人ある場合に於ては其保証人が各別の行為を以て債務を負担したるときと雖も第427条〔分割債務〕の規定を適用す。

第457条〔主たる債務の時効中断の効力、保証人の相殺権〕

 主たる債務者に対する履行の請求其他時効の中断は保証人に対しても其効力を生ず。

 保証人は主たる債務者の債権に依り相殺を以て債権者に対抗することを得。

第458条〔連帯保証の特則〕

 主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合に於ては第434条乃至第440条〔連帯債務者の1人について生じた事由の効力〕の規定を適用す。

第459条〔受託保証人の求償権〕

 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証を為したる場合に於て過失なくして債権者に弁済すべき裁判言渡を受け又は主たる債務者に代はりて弁済を為し其他自己の出捐を以て債務を消滅せしむべき行為を為したるときは其保証人は主たる債務者に対して求償権を有す。

 第442条第2項〔弁済した連帯債務者の求償権の範囲〕の規定は前項の場合に之を準用す。

第460条〔受託保証人の事前求償権〕

 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証を為したるときは其保証人は左の場合に於て主たる債務者に対して予め求償権を行うことを得。
一 主たる債務者が破産の宣告を受け且債権者が其財団の配当に加入せざるとき。
二 債務が弁済期に在るとき但保証契約の後債権者が主たる債務者に許与したる期限は之を以て保証人に対抗することを得ず。
三 債務の弁済期が不確定にして且其最長期をも確定すること能わざる場合に於て保証契約の後10年を経過したるとき。

第461条〔主債務者の免責請求〕

 前2条の規定に依り主たる債務者が保証人に対して賠償を為す場合に於て債権者が全部の弁済を受けざる間は主たる債務者は保証人をして担保を供せしめ又は之に対して自己に免責を得せしむべき旨を請求することを得。

 右の場合に於て主たる債務者は供託を為し、担保を供し又は保証人に免責を得せしめて其賠償の義務を免るることを得。

第462条〔委託なき保証人の求償権〕

 主たる債務者の委託を受けずして保証を為したる者が債務を弁済し其他自己の出捐を以て主たる債務者に其債務を免れしめたるときは主たる債務者は其当時利益を受けたる限度に於て賠償を為すことを要す。

 主たる債務者の意思に反して保証を為したる者は主たる債務者が現に利益を受くる限度に於てのみ求償権を有す、但主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有せしことを主張するときは保証人は債権者に対し其相殺に因りて消滅すべかりし債務の履行を請求することを得。

第463条〔求償要件としての通知〕

 第443条〔求償の要件としての通知〕の規定は保証人に之を準用す。

 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証を為したる場合に於て善意にて弁済其他免責の為めにする出捐を為したるときは第443条〔求償の要件としての通知〕の規定は主たる債務者にも亦之を準用す。

第464条〔連帯・不可分債務の保証人の求償権〕

 連帯債務者又は不可分債務者の1人の為めに保証を為したる者は他の債務者に対して其負担部分のみに付き求償権を有す。

第465条〔共同保証人間の求償権〕

 数人の保証人ある場合に於て主たる債務が不可分なる為め又は各保証人が全額を弁済すべき特約ある為め1人の保証人が全額其他自己の負担部分を超ゆる額を弁済したるときは第442条乃至第444条〔連帯債務者の求償権〕の規定を準用す。

 前項の場合に非ずして互に連帯せざる保証人の1人が全額其他自己の負担部分を超ゆる額を弁済したるときは第462条〔委託なき保証人の求償権〕の規定を準用す。

第4節 債権の譲渡

第466条〔債権の譲渡性〕

 債権は之を譲渡すことを得、但其性質が之を許さざるときは此限に在らず。

 前項の規定は当事者が反対の意思を表示したる場合には之を適用せず、但其意思表示は之を以て善意の第三者に対抗することを得ず。

第467条〔指名債権譲渡の対抗要件〕

 指名債権の譲渡は譲渡人が之を債務者に通知し又は債務者が之を承諾するに非ざれば之を以て債務者其他の第三者に対抗することを得ず。

 前項の通知又は承諾は確定日附ある証書を以てするに非ざれば之を以て債務者以外の第三者に対抗することを得ず。

第468条〔異議を留めない承諾の効果〕

 債務者が異議を留めずして前条の承諾を為したるときは譲渡人に対抗することを得べかりし事由あるも之を以て譲受人に対抗することを得ず、但債務者が其債 務を消滅せしむる為め譲渡人に払渡したるものあるときは之を取返し又譲渡人に対して負担したる債務あるときは之を成立せざるものと看做すことを妨げず。

 譲渡人が譲渡の通知を為したるに止まるときは債務者は其通知を受くるまでに譲渡人に対して生じたる事由を以て譲受人に対抗することを得。

第469条〔指図債権譲渡の対抗要件〕

 指図債権の譲渡は其証書に譲渡の裏書を為して之を譲受人に交付するに非ざれば之を以て債務者其他の第三者に対抗することを得ず。

第470条〔指図債権の債務者の保護〕

 指図債権の債務者は其証書の所持人及び其署名、捺印の真偽を調査する権利を有するも其義務を負うことなし但債務者に悪意又は重大なる過失あるときは其弁済は無効とす。

第471条〔記名式所持人払債権の債務者の調査権〕

 前条の規定は証書に債権者を指名したるも其証書の所持人に弁済すべき旨を附記したる場合に之を準用す。

第472条〔指図債権の譲渡と抗弁の制限〕

 指図債権の債務者は其証書に記載したる事項及び其証書の性質より当然生ずる結果を除く外原債権者に対抗することを得べかりし事由を以て善意の譲受人に対抗することを得ず。

第473条〔無記名債権の譲渡と抗弁権の制限〕

 前条の規定は無記名債権に之を準用す。


第5節 債権の消滅

第1款 弁済

第474条〔第三者の弁済〕

 債務の弁済は第三者之を為すことを得、但其債務の性質が之を許さざるとき又は当事者が反対の意思を表示したるときは此限に在らず。

 利害の関係を有せざる第三者は債務者の意思に反して弁済を為すことを得ず。

第475条〔引き渡した他人の物の取戻し〕

 弁済者が他人の物を引渡したるときは更に有効なる弁済を為すに非ざれば其物を取戻すことを得ず。

第476条〔譲渡能力のない所有者の取戻し〕

 譲渡の能力なき所有者が弁済として物の引渡を為したる場合に於て其弁済を取消したるときは其所有者は更に有効なる弁済を為すに非ざれば其物を取戻すことを得ず。

第477条〔債権者の善意の消費と譲渡〕

 前2条の場合に於て債権者が弁済として受けたる物を善意にて消費し又は譲渡したるときは其弁済は有効とす、但債権者が第三者より賠償の請求を受けたるときは弁済者に対して求償を為すことを妨げず。

第478条〔債権の準占有者への弁済〕

 債権の準占有者に為したる弁済は弁済者の善意なりしときに限り其効力を有す。

第479条〔受領権のない者への弁済〕

 前条の場合を除く外弁済受領の権限を有せざる者に為したる弁済は債権者が之に因りて利益を受けたる限度に於てのみ其効力を有す。

第480条〔受取証書持参人への弁済〕

 受取証書の持参人は弁済受領の権限あるものと看做す、但弁済者が其権限なきことを知りたるとき又は過失に因りて之を知らざりしときは此限に在らず。

第481条〔差押債権の弁済〕

 支払の差止を受けたる第三債務者が自己の債権者に弁済を為したるときは差押債権者は其受けたる損害の限度に於て更に弁済を為すべき旨を第三債務者に請求することを得。

 前項の規定は第三債務者より其債権者に対する求償権の行使を妨げず。

第482条〔代物弁済〕

 債務者が債権者の承諾を以て其負担したる給付に代へて他の給付を為したるときは其給付は弁済と同一の効力を有す。

第483条〔特定物の現状引渡し〕

 債権の目的が特定物の引渡なるときは弁済者は其引渡を為すべき時の現状にて其物を引渡すことを要す。

第484条〔弁済の場所〕

 弁済を為すべき場所に付き別段の意思表示なきときは特定物の引渡は債権発生の当時其物の存在せし場所に於て之を為し其他の弁済は債権者の現時の住所に於て之を為すことを要す。

第485条〔弁済の費用〕

 弁済の費用に付き別段の意思表示なきときは其費用は債務者之を負担す、但債権者が住所の移転其他の行為に因りて弁済の費用を増加したるときは其増加額は債権者之を負担す。

第486条〔受取証書請求権〕

 弁済者は弁済受領者に対して受取証書の交付を請求することを得。

第487条〔債権証書返還請求権〕

 債権の証書ある場合に於て弁済者が全部の弁済を為したるときは其証書の返還を請求することを得。

第488条〔指定弁済充当〕

 債務者が同一の債権者に対して同種の目的を有する数個の債務を負担する場合に於て弁済として提供したる給付が総債務を消滅せしむるに足らざるときは弁済者は給付の時に於て其弁済を充当すべき債務を指定することを得。

 弁済者が前項の指定を為さざるときは弁済受領者は其受領の時に於て其弁済の充当を為すことを得、但弁済者が其充当に対して直ちに異議を述へたるときは此限に在らず。

 前2項の場合に於て弁済の充当は相手方に対する意思表示に依りて之を為す。

第489条〔法定弁済充当〕

 当事者が弁済の充当を為さざるときは左の規定に従い其弁済を充当す。
一 総債務中弁済期に在るものと弁済期に在らざるものとあるときは弁済期に在るものを先にす。
二 総債務が弁済期に在るとき又は弁済期に在らざるときは債務者の為めに弁済の利益多きものを先にす。
三 債務者の為めに弁済の利益相同じきときは弁済期の先ず至りたるもの又は先ず至るべきものを先にす。
四 前2号に掲げたる事項に付き相同じき債務の弁済は各債務の額に応じて之を充当す。

第490条〔1個の債務についての法定弁済充当〕

 1個の債務の弁済として数個の給付を為すべき場合に於て弁済者が其債務の全部を消滅せしむるに足らざる給付を為したるときは前2条の規定を準用す。

第491条〔費用・利息・元本間の法定弁済充当〕

 債務者が1個又は数個の債務に付き元本の外利息及び費用を払うべき場合に於て弁済者が其債務の全部を消滅せしむるに足らざる給付を為したるときは之を以て順次に費用、利息及び元本に充当することを要す。

 第489条〔法定弁済充当〕の規定は前項の場合に之を準用す。

第492条〔弁済提供の効果〕

 弁済の提供は其提供の時より不履行に因りて生ずべき一切の責任を免れしむ。

第493条〔提供方法・現実の提供と口頭の提供〕

 弁済の提供は債務の本旨に従いて現実に之を為すことを要す、但債権者が予め其受領を拒み又は債務の履行に付き債権者の行為を要するときは弁済の準備を為したることを通知して其受領を催告するを以て足る。

第494条〔供託による免責〕

 債権者が弁済の受領を拒み又は之を受領すること能わざるときは弁済者は債権者の為めに弁済の目的物を供託して其債務を免るることを得弁済者の過失なくして債権者を確知すること能わざるとき亦同じ。

第495条〔供託の方法〕

 供託は債務履行地の供託所に之を為すことを要す。

 供託所に付き法令に別段の定なき場合に於ては裁判所は弁済者の請求に因り供託所の指定及び供託物保管者の選任を為すことを要す。

 供託者は遅滞なく債権者に供託の通知を為すことを要す。

第496条〔供託物の取戻し〕

 債権者が供託を受諾せず又は供託を有効と宣告したる判決が確定せざる間は弁済者は供託物を取戻すことを得、此場合に於ては供託を為さざりしものと看做す。

 前項の規定は供託に因りて質権又は抵当権が消滅したる場合には之を適用せず。

第497条〔自助売却金の供託〕

 弁済の目的物が供託に適せず又は其物に付き滅失若くは毀損の虞あるときは弁済者は裁判所の許可を得て之を競売し其代価を供託することを得其物の保存に付き過分の費用を要するとき亦同じ。

第498条〔供託物還付の要件〕

 債務者が債権者の給付に対して弁済を為すべき場合に於ては債権者は其給付を為すに非ざれば供託物を受取ることを得ず。

第499条〔任意代位〕

 債務者の為めに弁済を為したる者は其弁済と同時に債権者の承諾を得て之に代位することを得。

 第467条〔指名債権譲渡の対抗要件〕の規定は前項の場合に之を準用す。

第500条〔弁済者の法定代位〕

 弁済を為すに付き正当の利益を有する者は弁済に因りて当然債権者に代位す。

第501条〔弁済による代位の効果・代位者相互の関係〕

 前2条の規定に依りて債権者に代位したる者は自己の権利に基き求償を為すことを得べき範囲内に於て債権の効力及び担保として其債権者が有せし一切の権利を行うことを得、但左の規定に従うことを要す。
一 保証人は予め先取特権、不動産質権又は抵当権の登記に其代位を附記したるに非ざれば其先取特権、不動産質権又は抵当権の目的たる不動産の第三取得者に対して債権者に代位せず。
二 第三取得者は保証人に対して債権者に代位せず。
三 第三取得者の1人は各不動産の価格に応ずるに非ざれば他の第三取得者に対して債権者に代位せず。
四 前号の規定は自己の財産を以て他人の債務の担保に供したる者の間に之を準用す。
五 保証人と自己の財産を以て他人の債務の担保に供したる者との間に於ては其頭数に応ずるに非ざれば債権者に代位せず、但自己の財産を以て他人の債務の担保に 供したる者数人あるときは保証人の負担部分を除き其残額に付き各財産の価格に応ずるに非ざれば之に対して代位を為すことを得ず。
右の場合に於て其財産が不動産なるときは第1号の規定を準用す。

第502条〔一部弁済による代位〕

 債権の一部に付き代位弁済ありたるときは代位者は其弁済したる価額に応じて債権者と共に其権利を行う。

 前項の場合に於て債務の不履行に因る契約の解除は債権者のみ之を請求することを得、但代位者に其弁済したる価額及び其利息を償還することを要す。

第503条〔弁済による代位と債権証書・担保物〕

 代位弁済に因りて全部の弁済を受けたる債権者は債権に関する証書及び其占有に在る担保物を代位者に交付することを要す。

 債権の一部に付き代位弁済ありたる場合に於ては債権者は債権証書に其代位を記入し且代位者をして其占有に在る担保物の保存を監督せしむることを要す。

第504条〔債権者の担保保存義務〕

 第500条の規定に依りて代位を為すべき者ある場合に於て債権者が故意又は懈怠に因りて其担保を喪失又は減少したるときは代位を為すべき者は其喪失又は減少に因り償還を受くること能わざるに至りたる限度に於て其責を免る。

第2款 相殺

第505条〔相殺の概念〕

 2人互に同種の目的を有する債務を負担する場合に於て双方の債務が弁済期に在るときは各債務者は其対当額に付き相殺に因りて其債務を免るることを得、但債務の性質が之を許さざるときは此限に在らず。

 前項の規定は当事者が反対の意思を表示したる場合には之を適用せず、但其意思表示は之を以て善意の第三者に対抗することを得ず。

第506条〔相殺の方法と遡及効〕

 相殺は当事者の一方より其相手方に対する意思表示に依りて之を為す、但其意思表示には条件又は期限を附することを得ず。

 前項の意思表示は双方の債務が互に相殺を為すに適したる始に遡りて其効力を生ず。

第507条〔履行地の異なる債務の相殺〕

 相殺は双方の債務の履行地が異なるときと雖も之を為すことを得、但相殺を為す当事者は其相手方に対し之に因りて生じたる損害を賠償することを要す。

第508条〔時効消滅した債権による相殺〕

 時効に因りて消滅したる債権が其消滅以前に相殺に適したる場合に於ては其債権者は相殺を為すことを得。

第509条〔不法行為債権を受働債権とする相殺の禁止〕

 債務が不法行為に因りて生じたるときは其債務者は相殺を以て債権者に対抗することを得ず。

第510条〔差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止〕

 債権が差押を禁じたるものなるときは其債務者は相殺を以て債権者に対抗することを得ず。

第511条〔支払差止債権を受働債権とする相殺の禁止〕

 支払の差止を受けたる第三債務者は其後に取得したる債権に依り相殺を以て差押債権者に対抗することを得ず。

第512条〔相殺充当〕

 第488条乃至第491条〔弁済の充当〕の規定は相殺に之を準用す。

第3款 更改

第513条〔更改の意義と効果〕

 当事者が債務の要素を変更する契約を為したるときは其債務は更改に因りて消滅す。

 条件附債務を無条件債務とし、無条件債務に条件を附し又は条件を変更するは債務の要素を変更するものと看做す、債務の履行に代へて為替手形を発行する亦同じ。

第514条〔債務者の交替による更改〕

 債務者の交替に因る更改は債権者と新債務者との契約を以て之を為すことを得、但旧債務者の意思に反して之を為すことを得ず。

第515条〔債権者の交替による更改〕

 債権者の交替に因る更改は確定日附ある証書を以てするに非ざれば之を以て第三者に対抗することを得ず。

第516条〔債務者の異議なき承諾〕

 第468条第1項〔指名債権譲渡の債務者の承諾の効果〕の規定は債権者の交替に因る更改に之を準用す。

第517条〔旧債務不消滅の場合〕

 更改に因りて生じたる債務が不法の原因の為め又は当事者の知らざる事由に因りて成立せず又は取消されたるときは旧債務は消滅せず。

第518条〔担保の移転〕

 更改の当事者は旧債務の目的の限度に於て其債務の担保に供したる質権又は抵当権を新債務に移すことを得、但第三者が之を供したる場合に於ては其承諾を得ることを要す。



第4款 免除

第519条〔免除の効果〕

 債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したるときは其債権は消滅す。


第5款 混同

第520条〔債権の混同〕


 債権及び債務が同一人に帰したるときは其債権は消滅す、但其債権が第三者の権利の目的たるときは此限に在らず。


第2章 契約

第1節 総則

第1款 契約の成立

第521条〔承諾期間の定めのある申込み〕  


 承諾の期間を定めて為したる契約の申込は之を取消すことを得ず。

 申込者が前項の期間内に承諾の通知を受けざるときは申込は其効力を失う。

第522条〔承諾延着とその通知〕

 承諾の通知が前条の期間後に到達したるも通常の場合に於ては其期間内に到達すべかりし時に発送したるものなることを知り得べきときは申込者は遅滞なく相手方に対して其延著の通知を発することを要す、但其到達前に遅延の通知を発したるときは此限に在らず。

 申込者が前項の通知を怠りたるときは承諾の通知は延著せざりしものと看做す。

第523条〔遅延した承諾の効力〕

 遅延したる承諾は申込者に於て之を新なる申込と看做すことを得。

第524条〔承諾期間の定めのない申込み〕

 承諾の期間を定めずして隔地者に為したる申込は申込者が承諾の通知を受くるに相当なる期間之を取消すことを得ず。

第525条〔申込者の死亡・能力喪失〕

 第97条第2項〔表意者の死亡・能力喪失〕の規定は申込者が反対の意思を表示し又は其相手方が死亡若くは能力喪失の事実を知りたる場合には之を適用せず。

第526条〔契約成立時期〕

 隔地者間の契約は承諾の通知を発したる時に成立す。

 申込者の意思表示又は取引上の慣習に依り承諾の通知を必要とせざる場合に於ては契約は承諾の意思表示と認むべき事実ありたる時に成立す。

第527条〔申込取消しの延着と通知〕

 申込の取消の通知が承諾の通知を発したる後に到達したるも通常の場合に於ては其前に到達すべかりし時に発送したるものなることを知り得べきときは承諾者は遅滞なく申込者に対して其延著の通知を発することを要す。

 承諾者が前項の通知を怠りたるときは契約は成立せざりしものと看做す。

第528条〔変更を加えた承諾〕

 承諾者が申込に条件を附し其他変更を加へて之を承諾したるときは其申込の拒絶と共に新なる申込を為したるものと看做す。

第529条〔懸賞広告〕

 或行為を為したる者に一定の報酬を与ふべき旨を広告したる者は其行為を為したる者に対して其報酬を与うる義務を負う。

第530条〔懸賞広告の取消し〕

 前条の場合に於て広告者は其指定したる行為を完了する者なき間は前の広告と同一の方法に依りて其広告を取消すことを得、但其広告中に取消を為さざる旨を表示したるときは此限に在らず。

 前項に定めたる方法に依りて取消を為すこと能わざる場合に於ては他の方法に依りて之を為すことを得、但其取消は之を知りたる者に対してのみ其効力を有す。

 広告者が其指定したる行為を為すべき期間を定めたるときは其取消権を放棄したるものと推定す。

第531条〔報酬受領権者〕

 広告に定めたる行為を為したる者数人あるときは最初に其行為を為したる者のみ報酬を受くる権利を有す。

 数人が同時に右の行為を為したる場合に於ては各平等の割合を以て報酬を受くる権利を有す、但報酬が其性質上分割に不便なるとき又は広告に於て1人のみ之を受くべきものとしたるときは抽籤を以て之を受くべき者を定む。

 前2項の規定は広告中に之に異なりたる意思を表示したるときは之を適用せず。

第532条〔優等懸賞広告〕

 広告に定めたる行為を為したる者数人ある場合に於て其優等者のみに報酬を与ふべきときは其広告は応募の期間を定めたるときに限り其効力を有す。

 前項の場合に於て応募者中何人の行為が優等なるかは広告中に定めたる者之を判定す若し広告中に判定者を定めざりしときは広告者之を判定す。

 応募者は前項の判定に対して異議を述ぶることを得ず。

 数人の行為が同等と判定せられたるときは前条第2項の規定を準用す。


第2款 契約の効力

第533条〔同時履行の抗弁権〕  


 双務契約当事者(売り手と買い手)の一方は相手方が其債務の履行を提供するまでは自己の債務の履行を拒むことを得、但相手方の債務が弁済期に在らざるときは此限に在らず。

第534条〔特定物に関する危険負担〕

 特定物に関する物権の設定又は移転を以て双務契約の目的と為したる場合に於て其物が債務者の責に帰すべからざる事由に因りて滅失又は毀損したるときは其滅失又は毀損は債権者の負担に帰す。

 不特定物(商品の種類だけ指定)に関する契約に付ては第401条第2項〔種類債権の特定〕の規定に依りて其物が確定したる時より前項の規定を適用す。

第535条〔停止条件付双務契約における危険負担〕

 前条の規定は停止条件(第127条)附双務契約の目的物が条件の成否未定の間に於て滅失したる場合には之を適用せず。

 物が債務者の責に帰すべからざる事由に因りて毀損したるときは其毀損は債権者の負担に帰す。

 物が債務者の責に帰すべき事由に因りて毀損したるときは債権者は条件成就の場合に於て其選択に従い契約の履行又は其解除を請求することを得、但損害賠償の請求を妨げず。

第536条〔債務者主義の原則〕

 前2条に掲げたる場合を除く外当事者双方の責に帰すべからざる事由に因りて債務を履行すること能わざるに至りたるときは債務者は反対給付を受くる権利を有せず。

 債権者の責に帰すべき事由に因りて履行を為すこと能わざるに至りたるときは債務者は反対給付を受くる権利を失はず、但自己の債務を免れたるに因りて利益を得たるときは之を債権者に償還することを要す。

第537条〔第三者のためにする契約〕

 契約に依り当事者の一方が第三者に対して或給付を為すべきことを約したるときは其第三者は債務者に対して直接に其給付を請求する権利を有す。

 前項の場合に於て第三者の権利は其第三者が債務者に対して契約の利益を享受する意思を表示したる時に発生す。

第538条〔第三者の権利の確定〕

 前条の規定に依りて第三者の権利が発生したる後は当事者は之を変更し又は之を消滅せしむることを得ず。

第539条〔債務者の抗弁権〕

 第537条に掲げたる契約に基因する抗弁は債務者之を以て其契約の利益を受くべき第三者に対抗することを得。


第3款 契約の解除

第540条〔解除権の行使〕  

 契約又は法律の規定に依り当事者の一方が解除権を有するときは其解除は相手方に対する意思表示に依りて之を為す。

 前項の意思表示は之を取消すことを得ず。

第541条〔履行遅滞による解除権〕

 当事者の一方が其債務を履行せざるときは相手方は相当の期間を定めて其履行を催告し若し其期間内に履行なきときは契約の解除を為すことを得。

第542条〔定期行為の解除権〕

 契約の性質又は当事者の意思表示に依り一定の日時又は一定の期間内に履行を為すに非ざれば契約を為したる目的を達すること能わざる場合に於て当事者の一方が履行を為さずして其時期を経過したるときは相手方は前条の催告を為さずして直ちに其契約の解除を為すことを得。

第543条〔履行不能による解除権〕

 履行の全部又は一部が債務者の責に帰すべき事由に因りて不能と為りたるときは債権者は契約の解除を為すことを得。

第544条〔解除権の不可分性〕

 当事者の一方が数人ある場合に於ては契約の解除は其全員より又は其全員に対してのみ之を為すことを得。

 前項の場合に於て解除権が当事者中の1人に付き消滅したるときは他の者に付ても亦消滅す。

第545条〔解除権行使の効果〕

 当事者の一方が其解除権を行使したるときは各当事者は其相手方を原状に復せしむる義務を負う、但第三者の権利を害することを得ず。

 前項の場合に於て返還すべき金銭には其受領の時より利息を附することを要す。

 解除権の行使は損害賠償の請求を妨げず。

第546条〔解除と同時履行〕

 第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は前条の場合に之を準用す。

第547条〔催告による解除権の消滅〕

 解除権の行使に付き期間の定なきときは相手方は解除権を有する者に対し相当の期間を定め其期間内に解除を為すや否やを確答すべき旨を催告することを得、若し其期間内に解除の通知を受けざるときは解除権は消滅す。

第548条〔毀損等による解除権の消滅〕

 解除権を有する者が自己の行為又は過失に因りて著しく契約の目的物を毀損し若くは之を返還すること能わざるに至りたるとき又は加工若くは改造に因りて之を他の種類の物に変じたるときは解除権は消滅す。

 契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失に因らずして滅失又は毀損したるときは解除権は消滅せず。


第2節 贈与

第549条〔贈与の意義〕  

 贈与は当事者の一方が自己の財産を無償にて相手方に与うる意思を表示し相手方が受諾を為すに因りて其効力を生ず。

第550条〔書面によらない贈与の取消し〕

 書面に依らざる贈与は各当事者之を取消すことを得、但履行の終わりたる部分に付ては此限に在らず。

第551条〔贈与者の担保責任〕

 贈与者は贈与の目的たる物又は権利の瑕疵又は欠缺に付き其責に任ぜず、但贈与者が其瑕疵又は欠缺を知りて之を受贈者に告げざりしときは此限に在らず。

 負担附(条件付き)贈与に付ては贈与者は其負担の限度に於て売主と同じく担保の責(第570条等)に任ず。

第552条〔定期贈与〕

 定期の給付を目的とする贈与は贈与者又は受贈者の死亡に因りて其効力を失う。

第553条〔負担付贈与〕

 負担附贈与に付ては本節の規定の外双務契約に関する規定を適用す。

第554条〔死因贈与〕

 贈与者の死亡に因りて効力を生ずべき贈与は遺贈に関する規定に従う。


第3節 売買

第1款 総則

第555条〔売買の意義〕  

 売買は当事者の一方が或財産権を相手方に移転することを約し(口約束)相手方が之に其代金を払うことを約するに因りて其効力を生ず。

第556条〔売買の一方の予約〕

 売買の一方の予約は相手方が売買を完結する意思を表示したる時より売買の効力を生ず。

 前項の意思表示に付き期間を定めざりしときは予約者は相当の期間を定め其期間内に売買を完結するや否やを確答すべき旨を相手方に催告することを得、若し相手方が其期間内に確答を為さざるときは予約は其効力を失う。

第557条〔手付〕

 買主が売主に手附を交付したるときは当事者の一方が契約の履行に著手するまでは買主は其手附を放棄し売主は其倍額を償還して契約の解除を為すことを得。

 第545条第3項〔損害賠償〕の規定は前項の場合には之を適用せず。

第558条〔売買費用〕

 売買契約に関する費用は当事者双方平分して之を負担す。

第559条〔有償契約一般への準用〕

 本節の規定は売買以外の有償契約に之を準用す、但其契約の性質が之を許さざるときは此限に在らず。


第2款 売買の効力

第560条〔他人物売買の売主の義務〕  

 他人の権利を以て売買の目的と為したるときは売主は其権利を取得して之を買主に移転する義務を負う。

第561条〔売主の担保責任〕

 前条の場合に於て売主が其売却したる権利を取得して之を買主に移転すること能わざるときは買主は契約の解除を為すことを得、但契約の当時其権利の売主に属せざることを知りたるときは損害賠償の請求を為すことを得ず。

第562条〔売主の解除権〕

 売主が契約の当時其売却したる権利の自己に属せざることを知らざりし場合に於て其権利を取得して之を買主に移転すること能わざるときは売主は損害を賠償して契約の解除を為すことを得。

 前項の場合に於て買主が契約の当時其買受けたる権利の売主に属せざることを知りたるときは売主は買主に対し単に其売却したる権利を移転すること能わざる旨を通知して契約の解除を為すことを得。

第563条〔権利の一部が他人に属する場合の担保責任〕

 売買の目的たる権利の一部が他人に属するに因り売主が之を買主に移転すること能わざるときは買主は其足らざる部分の割合に応じて代金の減額を請求することを得。

 前項の場合に於て残存する部分のみなれば買主が之を買受けざるべかりしときは善意の買主は契約の解除を為すことを得。

 代金減額の請求又は契約の解除は善意の買主が損害賠償の請求を為すことを妨げず。

第564条〔前条の権利行使の期間〕

 前条に定めたる権利は買主が善意なりしときは事実を知りたる時より悪意なりしときは契約の時より1年内に之を行使することを要す。

第565条〔数量不足・物の一部滅失の場合の担保責任〕

 数量を指示して売買したる物が不足なる場合及び物の一部が契約の当時既に滅失したる場合に於て買主が其不足又は滅失を知らざりしときは前2条の規定を準用す。

第566条〔用益的権利・留置権・質権がある場合の担保責任〕

 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的たる場合に於て買主が之を知らざりしときは之が為めに契約を為したる目的を達すること能わざる場合に限り買主は契約の解除を為すことを得其他の場合に於ては損害賠償の請求のみを為すことを得。

 前項の規定は売買の目的たる不動産の為めに存せりと称せし地役権が存せざりしとき及び其不動産に付き登記したる賃貸借ありたる場合に之を準用す。

 前2項の場合に於て契約の解除又は損害賠償の請求は買主が事実を知りたる時より1年内に之を為すことを要す。

第567条〔担保物権がある場合の担保責任〕

 売買の目的たる不動産の上に存したる先取特権又は抵当権の行使に因り買主が其所有権を失ひたるときは其買主は契約の解除を為すことを得。

 買主が出捐を為して其所有権を保存したるときは売主に対して其出捐の償還を請求することを得。

 右孰れの場合に於ても買主が損害を受けたるときは其賠償を請求することを得。

第568条〔強制競売における担保責任〕

 強制競売の場合に於ては買受人は前7条の規定に依り債務者に対して契約の解除を為し又は代金の減額を請求することを得。

 前項の場合に於て債務者が無資力なるときは買受人は代金の配当を受けたる債権者に対して其代金の全部又は一部の返還を請求することを得。

 前2項の場合に於て債務者が物又は権利の欠缺を知りて之を申出でず又は債権者が之を知りて競売を請求したるときは買受人は其過失者に対して損害賠償の請求を為すことを得。

第569条〔債権売買における資力担保〕

 債権の売主が債務者の資力を担保したるときは契約の当時に於ける資力を担保したるものと推定す。

 弁済期に至らざる債権の売主が債務者の将来の資力を担保したるときは弁済の期日に於ける資力を担保したるものと推定す。

第570条〔瑕疵担保責任〕

 売買の目的物に隠れたる瑕疵ありたるときは第566条〔担保責任〕の規定を準用す、但強制競売の場合は此限に在らず。

第571条〔担保責任と同時履行の抗弁権〕

 第533条〔同時履行〕の規定は第563条乃至第566条〔担保責任〕及び前条の場合に之を準用す。

第572条〔担保責任免除の特約〕

 売主は前12条に定めたる担保の責任を負はざる旨を特約したるときと雖も其知りて告げざりし事実及び自ら第三者の為めに設定し又は之に譲渡したる権利に付ては其責を免るることを得ず。

第573条〔代金支払時期〕

 売買の目的物の引渡に付き期限あるときは代金の支払に付ても亦同一の期限を附したるものと推定す。

第574条〔代金支払場所〕

 売買の目的物の引渡と同時に代金を払うべきときは其引渡の場所に於て之を払うことを要す。

第575条〔果実の帰属・代金の利息〕

 未だ引渡さざる売買の目的物が果実を生じたるときは其果実は売主に属す。

 買主は引渡の日より代金の利息を払う義務を負う、但代金の支払に付き期限あるときは其期限の到来するまでは利息を払うことを要せず。

第576条〔他人が権利を主張する場合の代金支払拒絶権〕

 売買の目的に付き権利を主張する者ありて買主が其買受けたる権利の全部又は一部を失う虞あるときは買主は其危険の限度に応じ代金の全部又は一部の支払を拒むことを得、但売主が相当の担保を供したるときは此限に在らず。

第577条〔担保物権の存する場合〕

 買受けたる不動産に付き先取特権、質権又は抵当権の登記あるときは買主は滌除の手続を終わるまで其代金の支払を拒むことを得、但売主は買主に対して遅滞なく滌除を為すべき旨を請求することを得。

第578条〔代金供託請求権〕

 前2条の場合に於て売主は買主に対して代金の供託を請求することを得。


第3款 買戻

第579条〔買戻しの特約〕  

 不動産の売主は売買契約と同時に為したる買戻の特約に依り買主が払いたる代金及び契約の費用を返還して其売買の解除を為すことを得、但当事者が別段の意思を表示せざりしときは不動産の果実と代金の利息とは之を相殺したるものと看做す。

第580条〔買戻しの期間〕

 買戻の期間は10年を超ゆることを得ず若し之より長き期間を定めたるときは之を10年に短縮す。

 買戻に付き期間を定めたるときは後日之を伸長することを得ず。

 買戻に付き期間を定めざりしときは5年内に之を為すことを要す。

第581条〔買戻特約の対抗要件〕

 売買契約と同時に買戻の特約を登記したるときは買戻は第三者に対しても其効力を生ず。

 登記を為したる賃借人の権利は其残期1年間に限り之を以て売主に対抗することを得、但売主を害する目的を以て賃貸借を為したるときは此限に在らず。

第582条〔買戻権の代位行使〕

 売主の債権者が第423条〔債権者代位〕の規定に依り売主に代はりて買戻を為さんと欲するときは買主 は裁判所に於て選定したる鑑定人の評価に従い不動産の現時の価額より売主が返還すべき金額を控除したる残額に達するまで売主の債務を弁済し尚お余剰あると きは之を売主に返還して買戻権を消滅せしむることを得。

第583条〔買戻しの実行〕

 売主は期間内に代金及び契約の費用を提供するに非ざれば買戻を為すことを得ず。

 買主又は転得者が不動産に付き費用を出たしたるときは売主は第196条〔占有者の費用償還請求権〕の規定に従い之を償還することを要す、但有益費に付ては裁判所は売主の請求に因り之に相当の期限を許与することを得。

第584条〔共有持分の買戻特約〕

 不動産の共有者の1人が買戻の特約を以て其持分を売却したる後其不動産の分割又は競売ありたるときは売主は買主が受けたる若くは受くべき部分又は代金に付き買戻を為すことを得、但売主に通知せずして為したる分割及び競売は之を以て売主に対抗することを得ず。

第585条〔共有持分の買戻特約〕

 前条の場合に於て買主が不動産の競売の買受人と為りたるときは売主は競売の代金及び第583条に掲げたる費用を払いて買戻を為すことを得、此場合に於ては売主は其不動産の全部の所有権を取得す。

 他の共有者より分割を請求したるに因り買主が競売の買受人と為りたるときは売主は其持分のみに付き買戻を為すことを得ず。


第4節 交換

第586条〔交換の意義〕  

 交換は当事者が互に金銭の所有権に非ざる財産権を移転することを約するに因りて其効力を生ず。

 当事者の一方が他の権利と共に金銭の所有権を移転することを約したるときは其金銭に付ては売買の代金に関する規定を準用す。



第5節 消費貸借

第587条〔消費貸借の意義〕  

 消費貸借は当事者の一方が種類、品等及び数量の同じき物を以て返還を為すことを約して相手方より金銭其他の物を受取るに因りて其効力を生ず。

第588条〔準消費貸借〕

 消費貸借に因らずして金銭其他の物を給付する義務を負う者ある場合に於て当事者が其物を以て消費貸借の目的と為すことを約したるときは消費貸借は之に因りて成立したるものと看做す。

第589条〔消費貸借の予約と破産〕

 消費貸借の予約は爾後当事者の一方が破産の宣告を受けたるときは其効力を失う。

第590条〔貸主の担保責任〕

 利息附の消費貸借に於て物に隠れたる瑕疵ありたるときは貸主は瑕疵なき物を以て之に代ふることを要す、但損害賠償の請求を妨げず。

 無利息の消費貸借に於ては借主は瑕疵ある物の価額を返還することを得、但貸主が其瑕疵を知りて之を借主に告げざりしときは前項の規定を準用す。

第591条〔返還時期〕

 当事者が返還の時期を定めざりしときは貸主は相当の期間を定めて返還の催告を為すことを得。

 借主は何時にても返還を為すことを得。

第592条〔返還不能による価額償還〕

 借主が第587条の規定に依りて返還を為すこと能わざるに至りたるときは其時に於ける物の価額を償還することを要す、但第402条第2項〔強制通用力の喪失〕の場合は此限に在らず。



第6節 使用貸借

第593条〔使用貸借の意義〕  

 使用貸借は当事者の一方が無償にて使用及び収益を為したる後返還を為すことを約して相手方より或物を受取るに因りて其効力を生ず。

第594条〔借主の使用収益権〕

 借主は契約又は其目的物の性質に因りて定まりたる用方(ようほう、使用方法)に従い其物の使用及び収益を為すことを要す。

 借主は貸主の承諾あるに非ざれば第三者をして借用物の使用又は収益を為さしむることを得ず。

 借主が前2項の規定に反する使用又は収益を為したるときは貸主は契約の解除を為すことを得。

第595条〔費用の負担〕

 借主は借用物の通常の必要費を負担す。

 此他の費用に付ては第583条第2項〔買戻権者に対する費用償還請求権〕の規定を準用す。

第596条〔貸主の担保責任〕

 第551条〔贈与者の担保責任〕の規定は使用貸借に之を準用す。

第597条〔借用物の返還時期〕

 借主は契約に定めたる時期に於て借用物の返還を為すことを要す。

 当事者が返還の時期を定めざりしときは借主は契約に定めたる目的に従い使用及び収益を終わりたる時に於て返還を為すことを要す、但其以前と雖も使用及び収益を為すに足るべき期間を経過したるときは貸主は直ちに返還を請求することを得。

 当事者が返還の時期又は使用及び収益の目的を定めざりしときは貸主は何時にても返還を請求することを得。

第598条〔借主の収去権〕

 借主は借用物を原状に復して之に附属せしめたる物を収去することを得。

第599条〔借主の死亡による終了〕

 使用貸借は借主の死亡に因りて其効力を失う。

第600条〔賠償・償還請求の除斥期間〕

 契約の本旨に反する使用又は収益に因りて生じたる損害の賠償及び借主が出だしたる費用の償還は貸主が返還を受けたる時より1年内に之を請求することを要す。


第7節 賃貸借

第1款 総則

第601条〔賃貸借の意義〕  

 賃貸借は当事者の一方が相手方に或物の使用及び収益を為さしむることを約し相手方が之に其賃金を払うことを約するに因りて其効力を生ず。

第602条〔短期賃貸借〕

 処分の能力又は権限を有せざる者が賃貸借を為す場合に於ては其賃貸借は左の期間を超ゆることを得ず。
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借は10年
二 其他の土地の賃貸借は5年
三 建物の賃貸借は3年
四 動産の賃貸借は6个月。

第603条〔短期賃貸借の更新〕

 前条の期間は之を更新することを得、但其期間満了前土地に付ては1年内建物に付ては3个月内動産に付ては1个月内に其更新を為すことを要す。

第604条〔賃貸借の存続期間〕

 賃貸借の存続期間は20年を超ゆることを得ず若し之より長き期間を以て賃貸借を為したるときは其期間は之を20年に短縮す。

 前項の期間は之を更新することを得、但更新の時より20年を超ゆることを得ず。


第2款 賃貸借の効力

第605条〔不動産賃貸借の対抗要件〕  

 不動産の賃貸借は之を登記したるときは爾後其不動産に付き物権を取得したる者に対しても其効力を生ず。

第606条〔賃貸人の修繕義務〕

 賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要なる修繕を為す義務を負う。

 賃貸人が賃貸物の保存に必要なる行為を為さんと欲するときは賃借人は之を拒むことを得ず。

第607条〔賃借人の意思に反する保存行為〕

 賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為を為さんと欲する場合に於て之が為め賃借人が賃借を為したる目的を達すること能わざるときは賃借人は契約の解除を為すことを得。

第608条〔賃借人の費用償還請求権〕

 賃借人が賃借物に付き賃貸人の負担に属する必要費を出たしたるときは賃貸人に対して直ちに其償還を請求することを得。

 賃借人が有益費を出だしたるときは賃貸人は賃貸借終了の時に於て第196条第2項の規定に従い其償還を為すことを要す、但裁判所は賃貸人の請求に因り之に相当の期限を許与することを得。

第609条〔減収と借賃減額請求権〕

 収益を目的とする土地の賃借人が不可抗力に因り借賃より少き収益を得たるときは其収益の額に至るまで借賃の減額を請求することを得、但宅地の賃貸借に付ては此限に在らず。

第610条〔減収と契約解除権〕

 前条の場合に於て賃借人が不可抗力に因り引続き2年以上借賃より少き収益を得たるときは契約の解除を為すことを得。

第611条〔賃借物の一部滅失と借賃減額請求権〕

 賃借物の一部が賃借人の過失に因らずして滅失したるときは賃借人は其滅失したる部分の割合に応じて借賃の減額を請求することを得。

 前項の場合に於て残存する部分のみにては賃借人が賃借を為したる目的を達すること能わざるときは賃借人は契約の解除を為すことを得。

第612条〔賃借権の譲渡および転貸の制限〕

 賃借人は賃貸人の承諾あるに非ざれば其権利を譲渡し又は賃借物を転貸することを得ず。

 賃借人が前項の規定に反し第三者をして賃借物の使用又は収益を為さしめたるときは賃貸人は契約の解除を為すことを得。

第613条〔転貸の効果〕

 賃借人が適法に賃借物を転貸したるときは転借人は賃貸人に対して直接に義務を負う此場合に於ては借賃の前払を以て賃貸人に対抗することを得ず。

 前項の規定は賃貸人が賃借人に対して其権利を行使することを妨げず。

第614条〔借賃の支払時期〕

 借賃は動産、建物及び宅地に付ては毎月末に其他の土地に付ては毎年末に之を払うことを要す、但収穫季節あるものに付ては其季節後遅滞なく之を払うことを要す。

第615条〔賃借人の通知義務〕

 賃借物が修繕を要し又は賃借物に付き権利を主張する者あるときは賃借人は遅滞なく之を賃貸人に通知することを要す、但賃貸人が既に之を知れるときは此限に在らず。

第616条〔使用貸借の規定の準用〕

 第594条第1項〔使用収益〕、第597条第1項〔返還時期〕及び第598条〔収去〕の規定は賃貸借に之を準用す。


第3款 賃貸借の終了

第617条〔解約の申入れ〕  

 当事者が賃貸借の期間を定めざりしときは各当事者は何時にても解約の申入を為すことを得、此場合に於ては賃貸借は解約申入の後左の期間を経過したるに因りて終了す。
一 土地に付ては1年。
二 建物に付ては3个月。
三 貸席及び動産に付ては1日。

 収穫季節ある土地の賃貸借に付ては其季節後次の耕作に著手する前に解約の申入を為すことを要す。

第618条〔解約権の留保〕

 当事者が賃貸借の期間を定めたるも其一方又は各自が其期間内に解約を為す権利を留保したるときは前条の規定を準用す。

第619条〔黙示の更新〕

 賃貸借の期間満了の後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合に於て賃貸人が之を知りて異議を述べざるときは前賃貸借と同一の条件を以て更に賃貸借を為したるものと推定す、但各当事者は第617条の規定に依りて解約の申入を為すことを得。

 前賃貸借に付き当事者が担保を供したるときは其担保は期間の満了に因りて消滅す、但敷金は此限に在らず。

第620条〔解除の非遡及効〕

 賃貸借を解除したる場合に於ては其解除は将来に向てのみ其効力を生ず、但当事者の一方に過失ありたるときは之に対する損害賠償の請求を妨げず。

第621条〔賃借人破産による解約の申入れ〕

 賃借人が破産の宣告を受けたるときは賃貸借に期間の定あるときと雖も賃貸人又は破産管財人は第617条の規定に依りて解約の申入を為すことを得、此場合に於ては各当事者は相手方に対し解約に因りて生じたる損害の賠償を請求することを得ず。

第622条〔損害賠償・費用償還請求権の除斥期間〕

 第600条〔除斥期間〕の規定は賃貸借に之を準用す。


第8節 雇傭

第623条〔雇用の意義〕  

 雇傭は当事者の一方が相手方に対して労務に服することを約し相手方が之に其報酬を与うることを約するに因りて其効力を生ず。

第624条〔報酬の支払時期〕

 労務者は其約したる労務を終わりたる後に非ざれば報酬を請求することを得ず。

 期間を以て定めたる報酬は其期間の経過したる後之を請求することを得。

第625条〔労務に関する権利義務の非融通性〕

 使用者は労務者の承諾あるに非ざれば其権利を第三者に譲渡すことを得ず。

 労務者は使用者の承諾あるに非ざれば第三者をして自己に代はりて労務に服せしむることを得ず。

 労務者が前項の規定に反し第三者をして労務に服せしめたるときは使用者は契約の解除を為すことを得。

第626条〔5年以上の期間を定めた雇用の解除〕

 雇傭の期間が5年を超過し又は当事者の一方若くは第三者の終身間継続すべきときは当事者の一方は5年を経過したる後何時にても契約の解除を為すことを得、但此期間は商工業見習者の雇傭に付ては之を10年とす。

 前項の規定に依りて契約の解除を為さんと欲するときは3个月前に其予告を為すことを要す。

第627条〔解約の申入れ〕

 当事者が雇傭の期間を定めざりしときは各当事者は何時にても解約の申入を為すことを得、此場合に於ては雇傭は解約申入の後2週間を経過したるに因りて終了す。

 期間を以て報酬を定めたる場合に於ては解約の申入は次期以後に対して之を為すことを得、但其申入は当期の前半に於て之を為すことを要す。

 6个月以上の期間を以て報酬を定めたる場合に於ては前項の申入は3个月前に之を為すことを要す。

第628条〔やむことをえない事由による解除〕

 当事者が雇傭の期間を定めたるときと雖も已むことを得ざる事由あるときは各当事者は直ちに契約の解除を為すことを得、但其事由が当事者の一方の過失に因りて生じたるときは相手方に対して損害賠償の責に任ず。

第629条〔黙示の更新〕

 雇傭の期間満了の後労務者が引続き其労務に服する場合に於て使用者が之を知りて異議を述べざるときは前雇傭と同一の条件を以て更に雇傭を為したるものと推定す、但各当事者は第627条の規定に依りて解約の申入を為すことを得。

 前雇傭に付き当事者が担保を供したるときは其担保は期間の満了に因りて消滅す、但身元保証金は此限に在らず。

第630条〔解除の非遡及効〕

 第620条〔解除の非遡及効〕の規定は雇傭に之を準用す。

第631条〔使用者の破産による解約の申入れ〕

 使用者が破産の宣告を受けたるときは雇傭に期間の定あるときと雖も労務者又は破産管財人は第627条の規定に依りて解約の申入を為すことを得、此場合に於ては各当事者は相手方に対し解約に因りて生じたる損害の賠償を請求することを得ず。


第9節 請負

第632条〔請負の意義〕  

 請負は当事者の一方が或仕事を完成することを約し相手方が其仕事の結果に対して之に報酬を与うることを約するに因りて其効力を生ず。

第633条〔報酬の支払時期〕

 報酬は仕事の目的物の引渡と同時に之を与うることを要す、但物の引渡を要せざるときは第624条第1項〔賃金の後払〕の規定を準用す。

第634条〔請負人の担保責任〕

 仕事の目的物に瑕疵あるときは注文者は請負人に対し相当の期限を定めて其瑕疵の修補を請求することを得、但瑕疵が重要ならざる場合に於て其修補が過分の費用を要するときは此限に在らず。

 注文者は瑕疵の修補に代へ又は其修補と共に損害賠償の請求を為すことを得、此場合に於ては第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定を準用す。

第635条〔請負人の担保責任〕

 仕事の目的物に瑕疵ありて之が為めに契約を為したる目的を達すること能わざるときは注文者は契約の解除を為すことを得、但建物其他土地の工作物に付ては此限に在らず。

第636条〔請負人の担保責任〕

 前2条の規定は仕事の目的物の瑕疵が注文者より供したる材料の性質又は注文者の与へたる指図に因りて生じたるときは之を適用せず、但請負人が其材料又は指図の不適当なることを知りて之を告げざりしときは此限に在らず。

第637条〔担保責任の存続期間〕

 前3条に定めたる瑕疵修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は仕事の目的物を引渡したる時より1年内に之を為すことを要す。

 仕事の目的物の引渡を要せざる場合に於ては前項の期間は仕事終了の時より之を起算す。

第638条〔担保責任の存続期間〕

 土地の工作物の請負人は其工作物又は地盤の瑕疵に付ては引渡の後5年間其担保の責に任ず、但此期間は石造、土造、煉瓦造又は金属造の工作物に付ては之を10年とす。

 工作物が前項の瑕疵に因りて滅失又は毀損したるときは注文者は其滅失又は毀損の時より1年内に第634条の権利を行使することを要す。

第639条〔特約による存続期間の伸長〕

 第637条及び前条第1項の期間は普通の時効期間内に限り契約を以て之を伸長することを得。

第640条〔担保責任免除の特約〕

 請負人は第634条及び第635条に定めたる担保の責任を負はざる旨を特約したるときと雖も其知りて告げざりし事実に付ては其責を免るることを得ず。

第641条〔注文者の解除権〕

 請負人が仕事を完成せざる間は注文者は何時にても損害を賠償して契約の解除を為すことを得。

第642条〔注文者の破産の場合〕

 注文者が破産の宣告を受けたるときは請負人又は破産管財人は契約の解除を為すことを得、此場合に於ては請負人は其既に為したる仕事の報酬及び其報酬中に包含せざる費用に付き財団の配当に加入することを得。

 前項の場合に於ては各当事者は相手方に対し解約に因りて生じたる損害の賠償を請求することを得ず。


第10節 委任

第643条〔委任の意義〕  

 委任は当事者の一方が法律行為を為すことを相手方に委託し相手方が之を承諾するに因りて其効力を生ず。

第644条〔事務処理に関する善管義務〕

 受任者は委任の本旨に従い善良なる管理者の注意を以て委任事務を処理する義務を負う。

第645条〔受任者の報告義務〕

 受任者は委任者の請求あるときは何時にても委任事務処理の状況を報告し又委任終了の後は遅滞なく其顛末を報告することを要す。

第646条〔受任者の受取物等の引渡義務〕

 受任者は委任事務を処理するに当りて受取りたる金銭其他の物を委任者に引渡すことを要す、其収取したる果実亦同じ。

 受任者が委任者の為めに自己の名を以て取得したる権利は之を委任者に移転することを要す。

第647条〔受任者の金銭消費の責任〕

 受任者が委任者に引渡すべき金額又は其利益の為めに用ゆべき金額を自己の為めに消費したるときは其消費したる日以後の利息を払うことを要す、尚お損害ありたるときは其賠償の責に任ず。

第648条〔受任者の報酬請求権〕


 受任者は特約あるに非ざれば委任者に対して報酬を請求することを得ず。

 受任者が報酬を受くべき場合に於ては委任履行の後に非ざれば之を請求することを得ず、但期間を以て報酬を定めたるときは第624条第2項〔報酬の後払〕の規定を準用す。

 委任が受任者の責に帰すべからざる事由に因り其履行の半途に於て終了したるときは受任者は其既に為したる履行の割合に応じて報酬を請求することを得。

第649条〔受任者の費用前払請求権〕

 委任事務を処理するに付き費用を要するときは委任者は受任者の請求に因り其前払を為すことを要す。

第650条〔受任者の費用償還請求権等〕

 受任者が委任事務を処理するに必要と認むべき費用を出たしたるときは委任者に対して其費用及び支出の日以後に於ける其利息の償還を請求することを得。

 受任者が委任事務を処理するに必要と認むべき債務を負担したるときは委任者をして自己に代はりて其弁済を為さしめ又其債務が弁済期に在らざるときは相当の担保を供せしむることを得。

 受任者が委任事務を処理する為め自己に過失なくして損害を受けたるときは委任者に対して其賠償を請求することを得。

第651条〔委任の相互解除の自由〕

 委任は各当事者に於て何時にても之を解除することを得。

 当事者の一方が相手方の為めに不利なる時期に於て委任を解除したるときは其損害を賠償することを要す、但已むことを得ざる事由ありたるときは此限に在らず。

第652条〔解除の非遡及効〕

 第620条〔解除の非遡及効〕の規定は委任に之を準用す。

第653条〔委任の終了原因〕

 委任は委任者又は受任者の死亡又は破産に因りて終了す受任者が後見開始の審判を受けたるとき亦同じ。

第654条〔委任終了時の緊急処分義務〕

 委任終了の場合に於て急迫の事情あるときは受任者、其相続人又は法定代理人は委任者、其相続人又は法定代理人が委任事務を処理することを得るに至るまで必要なる処分を為すことを要す。

第655条〔委任終了の対抗要件〕

 委任終了の事由は其委任者に出でたると受任者に出でたるとを問わず之を相手方に通知し又は相手方が之を知りたるときに非ざれば之を以て其相手方に対抗することを得ず。

第656条〔準委任〕

 本節の規定は法律行為に非ざる事務の委託に之を準用す。


第11節 寄託

第657条〔寄託の意義〕  

 寄託は当事者の一方が相手方の為めに保管を為すことを約して或物を受取るに因りて其効力を生ず。

第658条〔第三者による保管〕

 受寄者は寄託者の承諾あるに非ざれば受寄物を使用し又は第三者をして之を保管せしむることを得ず。

 受寄者が第三者をして受寄物を保管せしむることを得る場合に於ては第105条〔復代理人選任の責任〕及び第107条第2項〔復代理人の権利義務〕の規定を準用す。

第659条〔無償の受寄者の注意義務〕

 無報酬にて寄託を受けたる者は受寄物の保管に付き自己の財産に於けると同一の注意を為す責に任ず。

第660条〔受寄者の通知義務〕

 寄託物に付き権利を主張する第三者が受寄者に対して訴を提起し又は差押を為したるときは受寄者は遅滞なく其事実を寄託者に通知することを要す。

第661条〔寄託者の損害賠償義務〕

 寄託者は寄託物の性質又は瑕疵より生じたる損害を受寄者に賠償することを要す、但寄託者が過失なくして其性質若くは瑕疵を知らざりしとき又は受寄者が之を知りたるときは此限に在らず。

第662条〔寄託者の寄託物返還請求権〕

 当事者が寄託物返還の時期を定めたるときと雖も寄託者は何時にても其返還を請求することを得。

第663条〔受寄者の返還時期〕

 当事者が寄託物返還の時期を定めざりしときは受寄者は何時にても其返還を為すことを得。

 返還時期の定あるときは受寄者は已むことを得ざる事由あるに非ざれば其期限前に返還を為すことを得ず。

第664条〔寄託物の返還の場所〕

 寄託物の返還は其保管を為すべき場所に於て之を為すことを要す、但受寄者が正当の事由に因りて其物を転置したるときは其現在の場所に於て之を返還することを得。

第665条〔委任の規定の準用〕

 第646条乃至第649条及び第650条第1項、第2項〔受任者の権利義務〕の規定は寄託に之を準用す。

第666条〔消費寄託〕

 受寄者が契約に依り受寄物を消費することを得る場合に於ては消費貸借に関する規定を準用す、但契約に返還の時期を定めざりしときは寄託者は何時にても返還を請求することを得。


第12節 組合

第667条〔組合の意義〕  

 組合契約は各当事者が出資を為して共同の事業を営むことを約するに因りて其効力を生ず。

 出資は労務を以て其目的と為すことを得。

第668条〔組合財産の共有〕

 各組合員の出資其他の組合財産は総組合員の共有に属す。

第669条〔金銭出資遅滞者の責任〕

 金銭を以て出資の目的と為したる場合に於て組合員が其出資を為すことを怠りたるときは其利息を払う外尚お損害の賠償を為すことを要す。

第670条〔業務執行方法〕

 組合の業務執行は組合員の過半数を以て之を決す。

 組合契約を以て業務の執行を委任したる者数人あるときは其過半数を以て之を決す。

 組合の常務は前2項の規定に拘はらず各組合員又は各業務執行者之を専行することを得、但其結了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたるときは此限に在らず。

第671条〔業務執行組合員に委任の規定の準用〕

 組合の業務を執行する組合員には第644条乃至第650条〔受任者の権利義務〕の規定を準用す。

第672条〔業務執行組合員の辞任・解任〕

 組合契約を以て1人又は数人の組合員に業務の執行を委任したるときは其組合員は正当の事由あるに非ざれば辞任を為すことを得ず又解任せらるることなし。

 正当の事由に因りて解任を為すには他の組合員の一致あることを要す。

第673条〔組合員の財産検査権〕

 各組合員は組合の業務を執行する権利を有せざるときと雖も其業務及び組合財産の状況を検査することを得。

第674条〔損益分配の割合〕

 当事者が損益分配の割合を定めざりしときは其割合は各組合員の出資の価額に応じて之を定む。

 利益又は損失に付てのみ分配の割合を定めたるときは其割合は利益及び損失に共通なるものと推定す。

第675条〔組合員に対する債権者の権利行使〕

 組合の債権者は其債権発生の当時組合員の損失分担の割合を知らざりしときは各組合員に対し均一部分に付き其権利を行うことを得。

第676条〔持分処分の制限および組合財産分割の禁止〕

 組合員が組合財産に付き其持分を処分したるときは其処分は之を以て組合及び組合と取引を為したる第三者に対抗することを得ず。

 組合員は清算前に組合財産の分割を求むることを得ず。

第677条〔組合債務者の相殺の禁止〕

 組合の債務者は其債務と組合員に対する債権とを相殺することを得ず。

第678条〔任意脱退〕

 組合契約を以て組合の存続期間を定めざりしとき又は或組合員の終身間組合の存続すべきことを定めたるときは各組合員は何時にても脱退を為すことを得、但已むことを得ざる事由ある場合を除く外組合の為め不利なる時期に於て之を為すことを得ず。

 組合の存続期間を定めたるときと雖も各組合員は已むことを得ざる事由あるときは脱退を為すことを得。

第679条〔非任意脱退〕

 前条に掲げたる場合の外組合員は左の事由に因りて脱退す。
一 死亡。
二 破産。
三 後見開始の審判を受けたること。
四 除名。

第680条〔除名〕

 組合員の除名は正当の事由ある場合に限り他の組合員の一致を以て之を為すことを得、但除名したる組合員に其旨を通知するに非ざれば之を以て其組合員に対抗することを得ず。

第681条〔脱退組合員の持分の払戻し〕

 脱退したる組合員と他の組合員との間の計算は脱退の当時に於ける組合財産の状況に従い之を為すことを要す。

 脱退したる組合員の持分は其出資の種類如何を問わず金銭を以て之を払戻すことを得。

 脱退の当時に於て未だ結了せざる事項に付ては其結了後に計算を為すことを得。

第682条〔解散事由〕

 組合は其目的たる事業の成功又は其成功の不能に因りて解散す。

第683条〔組合員の解散請求権〕

 已むことを得ざる事由あるときは各組合員は組合の解散を請求することを得。

第684条〔解除の不遡及効〕

 第620条〔解除の不遡及〕の規定は組合契約に之を準用す。

第685条〔清算人の選任〕

 組合が解散したるときは清算は総組合員共同にて又は其選任したる者に於て之を為す。

 清算人の選任は総組合員の過半数を以て之を決す。

第686条〔清算人の業務執行方法〕

 清算人数人あるときは第670条〔業務執行の方法〕の規定を準用す。

第687条〔清算人の辞任・解任〕

 組合契約を以て組合員中より清算人を選任したるときは第672条〔業務執行者の辞任・解任〕の規定を準用す。

第688条〔清算人の職務権限、残余財産分割方法〕

 清算人の職務及び権限に付ては第78条〔法人の清算人の職務権限〕の規定を準用す。

 残余財産は各組合員の出資の価額に応じて之を分割す。


第13節 終身定期金

第689条〔終身定期金契約の意義〕  

 終身定期金契約は当事者の一方が自己、相手方又は第三者の死亡に至るまで定期に金銭其他の物を相手方又は第三者に給付することを約するに因りて其効力を生ず。

第690条〔終身定期金の計算〕

 終身定期金は日割を以て之を計算す。

第691条〔終身定期金契約の解除〕

 定期金債務者が定期金の元本を受けたる場合に於て其定期金の給付を怠り又は其他の義務を履行せざるときは相手方は元本の返還を請求することを得、但既に受取りたる定期金の中より其元本の利息を控除したる残額を債務者に返還することを要す。

 前項の規定は損害賠償の請求を妨げず。

第692条〔解除と同時履行〕

 第533条〔同時履行の抗弁権〕の規定は前条の場合に之を準用す。

第693条〔定期金債権存続の宣告〕

 死亡が定期金債務者の責に帰すべき事由に因りて生じたるときは裁判所は債権者又は其相続人の請求に因り相当の期間債権の存続することを宣告することを得。

 前項の規定は第691条に定めたる権利の行使を妨げず。

第694条〔終身定期金の遺贈〕

 本節の規定は終身定期金の遺贈に之を準用す。



第14節 和解

第695条〔和解の意義〕  

 和解は当事者が互に譲歩を為して其間に存する争を止むることを約するに因りて其効力を生ず。

第696条〔和解の効果〕

 当事者の一方が和解に依りて争の目的たる権利を有するものと認められ又は相手方が之を有せざるものと認められたる場合に於て其者が従来此権利を有せざりし確証又は相手方が之を有せし確証出でたるときは其権利は和解に因りて其者に移転し又は消滅したるものとす。



第3章 事務管理

第697条〔管理者の管理義務〕  

 義務なくして他人の為めに事務の管理を始めたる者は其事務の性質に従い最も本人の利益に適すべき方法に依りて其管理を為すことを要す。

 管理者が本人の意思を知りたるとき又は之を推知することを得べきときは其意思に従いて管理を為すことを要す。

第698条〔緊急事務管理〕

 管理者が本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れしむる為めに其事務の管理を為したるときは悪意又は重大なる過失あるに非ざれば之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ぜず。

第699条〔管理者の通知義務〕

 管理者は其管理を始めたることを遅滞なく本人に通知することを要す、但本人が既に之を知れるときは此限に在らず。

第700条〔管理者の管理継続義務〕

 管理者は本人、其相続人又は法定代理人が管理を為すことを得るに至るまで其管理を継続することを要す、但其管理の継続が本人の意思に反し又は本人の為めに不利なること明かなるときは此限に在らず。

第701条〔委任の規定の準用〕

 第645条乃至第647条〔受任者の権利義務〕の規定は事務管理に之を準用す。

第702条〔管理者の費用償還請求権〕

 管理者が本人の為めに有益なる費用を出だしたるときは本人に対して其償還を請求することを得。

 管理者が本人の為めに有益なる債務を負担したるときは第650条第2項〔受任者〕の規定を準用す。

 管理者が本人の意思に反して管理を為したるときは本人が現に利益を受くる限度に於てのみ前2項の規定を適用す。



第4章 不当利得

第703条〔不当利得の要件と効果〕  

 法律上の原因なくして他人の財産又は労務に因り利益を受け之が為めに他人に損失を及ぼしたる者は其利益の存する限度に於て之を返還する義務を負う。

第704条〔悪意の受益者の返還義務〕

 悪意の受益者は其受けたる利益に利息を附して之を返還することを要す、尚お損害ありたるときは其賠償の責に任ず。

第705条〔非債弁済〕

 債務の弁済として給付を為したる者が其当時債務の存在せざることを知りたるときは其給付したるものの返還を請求することを得ず。

第706条〔期限前の弁済〕

 債務者が弁済期に在らざる債務の弁済として給付を為したるときは其給付したるものの返還を請求することを得ず、但債務者が錯誤に因りて其給付を為したるときは債権者は之に因りて得たる利益を返還することを要す。

第707条〔他人の債務の弁済〕

 債務者に非ざる者が錯誤に因りて債務の弁済を為したる場合に於て債権者が善意にて証書を毀滅し、担保を放棄し又は時効に因りて其債権を失ひたるときは弁済者は返還の請求を為すことを得ず。

 前項の規定は弁済者より債務者に対する求償権の行使を妨げず。

第708条〔不法原因給付〕

 不法の原因の為め給付を為したる者は其給付したるものの返還を請求することを得ず、但不法の原因が受益者に付てのみ存したるときは此限に在らず。


第5章 不法行為

第709条〔不法行為の要件と効果〕  

 故意又は過失に因りて他人の権利を侵害したる者は之に因りて生じたる損害を賠償する責に任ず。

第710条〔非財産的損害の賠償〕

 他人の身体、自由又は名誉を害したる場合と財産権を害したる場合とを問わず前条の規定に依りて損害賠償の責に任ずる者は財産以外の損害に対しても其賠償を為すことを要す。

第711条〔生命侵害に対する慰謝料〕

 他人の生命を害したる者は被害者の父母、配偶者及び子に対しては其財産権を害せられざりし(害せざりし)場合に於ても損害の賠償を為すことを要す。

第712条〔未成年者の責任能力〕

 未成年者が他人に損害を加えたる場合に於て其行為の責任を弁識するに足るべき知能を具えざりしときは其行為に付き賠償の責に任ぜず。

第713条〔弁識する能力を欠く者の責任能力〕

 精神上の障害に因り自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態(泥酔状態)に在る間に他人に損害を加えたる者は賠償の責に任ぜず、但故意又は過失に因りて一時其状態を招きたるときは此限に在らず。

第714条〔責任無能力者の監督者の責任〕

 前2条の規定に依り無能力者に責任なき場合に於て之を監督すべき法定の義務ある者は其無能力者が第三者に加えたる損害を賠償する責に任ず、但監督義務者が其義務を怠らざりしときは此限に在らず。

 監督義務者に代わりて無能力者を監督する者も亦前項の責に任ず。

第715条〔使用者の責任〕

 或事業の為めに他人を使用する者は被用者が其事業の執行に付き第三者に加えたる損害を賠償する責に任ず、但使用者が被用者の選任及び其事業の監督に付き相当の注意を為したるとき又は相当の注意を為すも損害が生ずべかりしときは此限に在らず。

 使用者に代わりて事業を監督する者も亦前項の責に任ず。

 前2項の規定は使用者又は監督者より被用者に対する求償権の行使を妨げず。

第716条〔注文者の責任〕

 注文者は請負人が其仕事に付き第三者に加えたる損害を賠償する責に任ぜず、但注文又は指図に付き注文者に過失ありたるときは此限に在らず。

第717条〔土地の工作物の占有者・所有者の責任〕

 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵あるに因りて他人に損害を生じたるときは其工作物の占有者は被害者に対して損害賠償の責に任ず、但占有者が損害の発生を防止するに必要なる注意を為したるときは其損害は所有者之を賠償することを要す。

 前項の規定は竹木の栽植又は支持に瑕疵ある場合に之を準用す。

 前2項の場合に於て他に損害の原因に付き其責に任ずべき者あるときは占有者又は所有者は之に対して求償権を行使することを得。

第718条〔動物の占有者の責任〕

 動物の占有者は其動物が他人に加えたる損害を賠償する責に任ず、但動物の種類及び性質に従い相当の注意を以て其保管を為したるときは此限に在らず。

 占有者に代わりて動物を保管する者も亦前項の責に任ず。

第719条〔共同不法行為者の責任〕

 数人が共同の不法行為に因りて他人に損害を加えたるときは各自連帯にて其賠償の責に任ず共同行為者中の孰れか其損害を加えたるかを知ること能わざるとき亦同じ。

 教唆者及び幇助者は之を共同行為者と看做す。

第720条〔正当防衛・緊急避難〕

 他人の不法行為に対し自己又は第三者の権利を防衛する為め已むことを得ずして加害行為を為したる者は損害賠償の責に任ぜず、但被害者より不法行為を為したる者に対する損害賠償の請求を妨げず。

 前項の規定は他人の物より生じたる急迫の危難を避くる為め其物を毀損したる場合に之を準用す。

第721条〔損害賠償請求権における胎児の地位〕

 胎児は損害賠償の請求権に付ては既に生まれたるものと看做す。

第722条〔損害賠償の方法、過失相殺〕

 第417条〔債務不履行〕の規定は不法行為に因る損害の賠償に之を準用す。

 被害者に過失ありたるときは裁判所は損害賠償の額を定むるに付き之を斟酌することを得。

第723条〔名誉毀損における特則〕

 他人の名誉を毀損したる者に対しては裁判所は被害者の請求に因り損害賠償に代へ又は損害賠償と共に名誉を回復するに適当なる処分を命ずることを得。

第724条〔損害賠償請求権の消滅時効〕


 不法行為に因る損害賠償の請求権は被害者又は其法定代理人が損害及び加害者を知りたる時より3年間之を行わざるときは時効に因りて消滅す不法行為の時より20年を経過したるとき亦同じ。


第4編 親族

第1章 総則

第725条〔親族の範囲〕  

 左に掲げる者は、これを親族とする。
一 6親等内の血族。
二 配偶者。
三 3親等内の姻族。

第726条〔親等の計算〕

 親等は、親族間の世数を数えて、これを定める。

 傍系親族の親等を定めるには、その1人又はその配偶者から同一の始祖にさかのぼり、その始祖から他の1人に下るまでの世数による。

第727条〔縁組による親族関係〕

 養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけると同一の親族関係を生ずる。

第728条〔姻族関係の消滅〕

 姻族関係は、離婚によって終了する。

 夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様である。

第729条〔離縁による親族関係の消滅〕

 養子、その配偶者、直系卑属及びその配偶者と養親及びその血族との親族関係は、離縁によって終了する。

第730条〔親族間の互助義務〕

 直系血族及び同居の親族は、互に扶け合わなければならない。



第2章 婚姻

第1節 婚姻の成立

第1款 婚姻の要件

第731条〔婚姻適齢〕

 男は、満18歳に、女は、満16歳にならなければ、婚姻をすることができない。

第732条〔重婚禁止〕

 配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

第733条〔再婚禁止期間〕

 女は、前婚の解消又は取消の日から6箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。

 女が前婚の解消又は取消の前から懐胎していた場合には、その出産の日から、前項の規定を適用しない。

第734条〔近親婚の禁止〕

 直系血族又は3親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない。但、養子と養方の傍系血族との間では、この限りでない。

 第817条の9〔特別養子縁組による親族関係の終了〕の規定によって親族関係が終了した後も、前項と同様とする。

第735条〔直系姻族間の婚姻禁止〕

 直系姻族の間では、婚姻をすることができない。第728条〔姻族関係の消滅〕又は第817条の9〔特別養子縁組による親族関係の終了〕の規定によって姻族関係が終了した後も、同様である。

第736条〔養親子関係者間の婚姻禁止〕

 養子、その配偶者、直系卑属又はその配偶者と養親又はその直系尊属との間では、第729条〔離縁による親族関係の消滅〕の規定によって親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない。

第737条〔未成年者の婚姻〕

 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない。

 父母の一方が同意しないときは、他の一方の同意だけで足りる。父母の一方が知れないとき、死亡したとき、又はその意思を表示することができないときも、同様である。

第738条〔成年被後見人の婚姻〕

 成年被後見人が婚姻をするには、その成年後見人の同意を要しない。

第739条〔婚姻の方式〕

 婚姻は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによって、その効力を生ずる。

 前項の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上から、口頭又は署名した書面で、これをしなければならない。

第740条〔婚姻届出の審査〕

 婚姻の届出は、その婚姻が第731条乃至第737条〔婚姻の実質的要件〕及び前条第2項の規定その他の法令に違反しないことを認めた後でなければ、これを受理することができない。

第741条〔在外日本人間の婚姻の方式〕

 外国に在る日本人間で婚姻をしようとするときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる。この場合には、前2条の規定を準用する。


第2款 婚姻の無効及び取消

第742条〔婚姻の無効〕

 婚姻は、左の場合に限り、無効とする。
一 人違その他の事由によって当事者間に婚姻をする意思がないとき。
二 当事者が婚姻の届出をしないとき。但、その届出が第739条第2項〔婚姻の届出の方法〕に掲げる条件を欠くだけであるときは、婚姻は、これがために、その効力を妨げられることがない。

第743条〔婚姻の取消し〕

 婚姻は、第744条乃至第747条の規定によらなければ、これを取り消すことができない。

第744条〔婚姻取消事由および取消権者〕

 第731条乃至第736条〔婚姻の実質的要件〕の規定に違反した婚姻は、各当事者、その親族又は検察官から、その取消を裁判所に請求することができる。但、検察官は、当事者の一方が死亡した後は、これを請求することができない。

 第732条〔重婚禁止〕又は第733条〔再婚禁止期間〕の規定に違反した婚姻については、当事者の配偶者又は前配偶者も、その取消を請求することができる。

第745条〔不適齢婚取消権の消滅〕

 第731条〔婚姻適齢〕の規定に違反した婚姻は、不適齢者が適齢に達したときは、その取消を請求することができない。

 不適齢者は、適齢に達した後、なお3箇月間は、その婚姻の取消を請求することができる。但、適齢に達した後に追認をしたときは、この限りでない。

第746条〔再婚禁止期間内の婚姻の取消権の消滅〕

 第733条〔再婚禁止の期間〕の規定に違反した婚姻は、前婚の解消若しくは取消の日から6箇月を経過し、又は女が再婚後に懐胎したときは、その取消を請求することができない。

第747条〔詐欺・強迫による婚姻の取消し〕

 詐欺又は強迫によって婚姻をした者は、その婚姻の取消を裁判所に請求することができる。

 前項の取消権は、当事者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免かれた後3箇月を経過し、又は追認をしたときは、消滅する。

第748条〔婚姻取消しの効果〕

 婚姻の取消は、その効力を既往に及ぼさない。

 婚姻の当時その取消の原因があることを知らなかった当事者が、婚姻によって財産を得たときは、現に利益を受ける限度において、その返還をしなければならない。

 婚姻の当時その取消の原因があることを知っていた当事者は、婚姻によって得た利益の全部を返還しなければならない。なお、相手方が善意であったときは、これに対して損害を賠償する責に任ずる。

第749条〔離婚の規定の準用〕

 第766条乃至第769条〔離婚の効果〕の規定は、婚姻の取消につきこれを準用する。


第2節 婚姻の効力

第750条〔夫婦の氏〕

 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。

第751条〔生存配偶者の復氏〕

 夫婦の一方が死亡したときは、生存配偶者は、婚姻前の氏に復することができる。

 第769条〔離婚による復氏の際の祭祀供用物の承継〕の規定は、前項及び第728条第2項〔生存配偶者の姻族関係終了の意思表示〕の場合にこれを準用する。

第752条〔同居・協力・扶助義務〕

 夫婦は同居し、互に協力し扶助しなければならない。

第753条〔婚姻による成年化〕

 未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。

第754条〔夫婦間の契約取消権〕

 夫婦間で契約をしたときは、その契約は、婚姻中、何時でも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。但、第三者の権利を害することができない。



第3節 夫婦財産制

第1款 総則

第755条〔夫婦の財産関係〕

 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次の款に定めるところによる。

第756条〔夫婦財産契約の対抗要件〕

 夫婦が法定財産制と異なる契約をしたときは、婚姻の届出までにその登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。

第758条〔夫婦財産関係の変更〕

 夫婦の財産関係は、婚姻届出の後は、これを変更することができない。

 夫婦の一方が、他の一方の財産を管理する場合において、管理が失当であったことによってその財産を危うくしたときは、他の一方は、自らその管理をすることを家庭裁判所に請求することができる。

 共有財産については、前項の請求とともにその分割を請求することができる。

第759条〔夫婦財産関係変更の対抗要件〕

 前条の規定又は契約の結果によって、管理者を変更し、又は共有財産の分割をしたときは、その登記をしなければ、これを夫婦の承継人及び第三者に対抗することができない。


第2款 法定財産制

第760条〔婚姻費用の分担〕

 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。

第761条〔日常家事による債務の連帯責任〕

 夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責に任ずる。但、第三者に対し責に任じない旨を予告した場合は、この限りでない。

第762条〔特有財産、帰属不明財産の共有推定〕

 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産とする。

 夫婦のいずれに属するか明かでない財産は、その共有に属するものと推定する。


第4節 離婚

第1款 協議上の離婚

第763条〔協議上の離婚〕

 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。

第764条〔成年被後見人の離婚、離婚の届出、詐欺・強迫による離婚〕

 第738条〔成年被後見人の婚姻〕、第739条〔婚姻の方式〕及び第747条〔詐欺・強迫による婚姻の取消し〕の規定は、協議上の離婚にこれを準用する。

第765条〔離婚届出の審査〕

 離婚の届出は、その離婚が第739条第2項〔婚姻の届出の方法に関する要件〕及び第819条第1項〔協議上の離婚の場合における親権者の決定〕の規定その他の法令に違反しないことを認めた後でなければ、これを受理することができない。

 離婚の届出が前項の規定に違反して受理されたときでも、離婚は、これがために、その効力を妨げられることがない。

第766条〔子の監護者の決定〕

 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者その他監護について必要な事項は、その協議でこれを定める。協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、これを定める。

 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の監護をすべき者を変更し、その他監護について相当な処分を命ずることができる。

 前2項の規定は、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生ずることがない。

第767条〔離婚による復氏〕

 婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。

 前項の規定によって婚姻前の氏に復した夫又は妻は、離婚の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離婚の際に称していた氏を称することができる。

第768条〔離婚による財産分与〕

 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。

 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。但、離婚の時から2年を経過したときは、この限りでない。

 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

第769条〔離婚による復氏の際の祭祀供用物の承継〕

 婚姻によって氏を改めた夫又は妻が、第897条第1項〔祭祀供用物の承継〕の権利を承継した後、協議上の離婚をしたときは、当事者その他の関係人の協議で、その権利を承継すべき者を定めなければならない。

 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、前項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。


第2款 裁判上の離婚

第770条〔裁判上の離婚原因〕

 夫婦の一方は、左の場合に限り、離婚の訴を提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が3年以上明かでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込がないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

 裁判所は、前項第1号乃至第4号の事由があるときでも、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。

第771条〔協議上の離婚の規定の準用〕

 第766条乃至第769条〔協議上の離婚の効果〕の規定は、裁判上の離婚にこれを準用する。


第3章 親子

第1節 実子

第772条〔嫡出の推定〕

 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

 婚姻成立の日から200日後又は婚姻の解消若しくは取消の日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。


第773条〔父を定める訴え〕

 第733条第1項〔再婚禁止期間〕の規定に違反して再婚をした女が出産した場合において、前条の規定によってその子の父を定めることができないときは、裁判所が、これを定める。

第774条〔嫡出の否認〕

 第772条の場合において、夫は、子が嫡出であることを否認することができる。

第775条〔嫡出否認の訴え〕

 前条の否認権は、子又は親権を行う母に対する訴によってこれを行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

第776条〔嫡出の承認〕

 夫が、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、その否認権を失う。

第777条〔否認権の出訴期間〕

 否認の訴は、夫が子の出生を知った時から1年以内にこれを提起しなければならない。

第778条〔成年被後見人の否認権の出訴期間〕

 夫が成年被後見人であるときは、前条の期間は、後見開始の審判の取消しがあった後夫が子の出生を知った時から、これを起算する。

第779条〔認知〕

 嫡出でない子は、その父又は母がこれを認知することができる。

第780条〔認知能力〕

 認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときでも、その法定代理人の同意を要しない。

第781条〔認知の方式〕

 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってこれをする。

 認知は、遺言によっても、これをすることができる。

第782条〔成年の子の認知〕

 成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。

第783条〔胎児・死亡子の認知〕

 父は、胎内に在る子でも、これを認知することができる。この場合には、母の承諾を得なければならない。

 父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、これを認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。

第784条〔認知の遡及効〕

 認知は、出生の時にさかのぼってその効力を生ずる。但、第三者が既に取得した権利を害することができない。

第785条〔認知撤回の禁止〕

 認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。

第786条〔認知に対する反対事実の主張〕

 子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができる。

第787条〔認知の訴え〕

 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴を提起することができる。但、父又は母の死亡の日から3年を経過したときは、この限りでない。

第788条〔子の監護者の決定〕

 第766条〔離婚の際における子の監護者の決定〕の規定は、父が認知する場合にこれを準用する。

第789条〔準正〕

 父が認知した子は、その父母の婚姻によって嫡出子たる身分を取得する。

 婚姻中父母が認知した子は、その認知の時から、嫡出子たる身分を取得する。

 前2項の規定は、子が既に死亡した場合にこれを準用する。

第790条〔子の氏〕

 嫡出である子は、父母の氏を称する。但、子の出生前に父母が離婚したときは、離婚の際における父母の氏を称する。

 嫡出でない子は、母の氏を称する。

第791条〔子の氏の変更〕

 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。

 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。

 子が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前2項の行為をすることができる。

 前3項の規定によって氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。




第2節 養子

第1款 縁組の要件

第792条〔養子をする能力〕

 成年に達した者は、養子をすることができる。

第793条〔尊属養子・年長者養子の禁止〕

 尊属又は年長者は、これを養子とすることができない。

第794条〔後見人・被後見人間の縁組〕

 後見人が被後見人(未成年後見人及び成年被後見人をいう。以下同じ。)を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。後見人の任務が終了した後、まだ管理の計算が終わらない間も、同様である。

第795条〔配偶者のある者の未成年者縁組〕

 配偶者のある者が未成年者を養子とするには、配偶者とともにしなければならない。ただし、配偶者の嫡出である子を養子とする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。

第796条〔配偶者のある者の縁組−配偶者の同意〕

 配偶者のある者が縁組をするには、その配偶者の同意を得なければならない。ただし、配偶者とともに縁組をする場合又は配偶者がその意思を表示することができない場合は、この限りでない。

第797条〔15歳未満の養子−代諾養子〕

 養子となる者が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、縁組の承諾をすることができる。

 法定代理人が前項の承諾をするには、養子となる者の父母でその監護をすべき者であるものが他にあるときは、その同意を得なければならない。

第798条〔未成年の養子〕


 未成年者を養子とするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。但、自己又は配偶者の直系卑属を養子とする場合は、この限りでない。

第799条〔成年被後見人の縁組、縁組の届出〕


 第738条〔成年被後見人の婚姻〕及び第739条〔婚姻の方式〕の規定は、縁組にこれを準用する。

第800条〔縁組届出の審査〕

 縁組の届出は、その縁組が第792条乃至前条〔縁組の要件〕の規定その他の法令に違反しないことを認めた後でなければ、これを受理することができない。

第801条〔在外日本人間の縁組の方式〕

 外国に在る日本人間で縁組をしようとするときは、その国に駐在する日本の大使、公使又は領事にその届出をすることができる。この場合には、第739条〔婚姻の方式〕及び前条の規定を準用する。


第2款 縁組の無効及び取消

第802条〔縁組の無効〕

 縁組は左の場合に限り、無効とする。
一 人違その他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
二 当事者が縁組の届出をしないとき。但、その届出が第739条第2項〔婚姻の届出の方法に関する要件〕に掲げる条件を欠くだけであるときは、縁組は、これがために、その効力を妨げられることがない。

第803条〔縁組の取消し〕

 縁組は、第804条乃至第808条の規定によらなければ、これを取り消すことができない。

第804条〔養親が未成年の縁組の取消し〕

 第792条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消を裁判所に請求することができる。但、養親が、成年に達した後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。

第805条〔養子が尊属または年長者である縁組の取消し〕

 第793条〔尊属養子・年長者養子の禁止〕の規定に違反した縁組は、各当事者又はその親族から、その取消を裁判所に請求することができる。

第806条〔後見人・被後見人間の無許可縁組の取消し〕

 第794条〔後見人・被後見人間の縁組〕の規定に違反した縁組は、養子又はその実方の親族から、その取消を裁判所に請求することができる。但、管理の計算が終わった後、養子が追認をし、又は6箇月を経過したときは、この限りでない。

 追認は、養子が、成年に達し、又は能力を回復した後、これをしなければ、その効力がない。

 養子が、成年に達せず、又は能力を回復しない間に、管理の計算が終わった場合には、第1項但書の期間は、養子が、成年に達し、又は能力を回復した時から、これを起算する。

第806条の2〔配偶者の同意のない縁組等の取消し〕

 第796条〔配偶者の同意〕の規定に違反した縁組は、縁組の同意をしていない者から、その取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その者が、縁組を知った後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。

 詐欺又は強迫によって第796条の同意をした者は、その縁組の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その者が、詐欺を発見し、若しくは強迫を免れた後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。

第806条の3〔監護者の同意のない縁組等の取消し〕

 第797条第2項〔監護者の同意〕の規定に違反した縁組は、縁組の同意をしていない者から、その取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その者が追認をしたとき、又は養子が15歳に達した後6箇月を経過し、若しくは追認をしたときは、この限りでない。

 前条第2項の規定は、詐欺又は強迫によって第797条第2項の同意をした者にこれを準用する。

第807条〔養子が未成年の無許可縁組の取消し〕

 第798条〔未成年の養子〕の規定に違反した縁組は、養子、その実方の親族又は養子に代わって縁組の承諾をした者から、その取消を裁判所に請求することができる。但、養子が、成年に達した後6箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。

第808条〔詐欺・強迫による縁組の取消し、縁組取消しの効果・祭祀供用物の承継、復氏〕

 第747条〔詐欺・強迫による婚姻の取消し〕及び第748条〔婚姻取消しの効果〕の規定は、縁組にこれを準用する。但、第747条第2項〔取消権の消滅〕の期間は、これを6箇月とする。

 第769条〔離婚による復氏の際の祭祀供用物の承継〕及び第816条〔離縁による復氏〕の規定は、縁組の取消にこれを準用する。


第3款 縁組の効力

第809条〔嫡出親子関係の発生〕

 養子は、縁組の日から、養親の嫡出子たる身分を取得する。

第810条〔養子の氏〕

 養子は、養親の氏を称する。ただし、婚姻によって氏を改めた者については、婚姻の際に定めた氏を称すべき間は、この限りでない。


第4款 離縁

第811条〔協議上の離縁等〕

 縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。

 養子が15歳未満であるときは、その離縁は、養親と養子の離縁後にその法定代理人となるべき者との協議でこれをする。

 前項の場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、その一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。

 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、前項の父若しくは母又は養親の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。

 第2項の法定代理人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、養子の親族その他の利害関係人の請求によって、養子の離縁後にその未成年後見人となるべき者を選任する。

 縁組の当事者の一方が死亡した後に生存当事者が離縁をしようとするときは、家庭裁判所の許可を得て、これをすることができる。

第811条の2〔養親が夫婦である場合の離縁〕

 養親が夫婦である場合において未成年者と離縁をするには、夫婦がともにしなければならない。ただし、夫婦の一方がその意思を表示することができないときは、この限りでない。

第812条〔成年被後見人の離縁、離縁の届出、詐欺・強迫による離縁の取消し〕

 第738条〔成年被後見人の婚姻〕、第739条〔婚姻の方式〕、第747条〔詐欺・強迫による婚姻の取消し〕及び第808条第1項但書〔詐欺・強迫による縁組の取消権行使の期間〕の規定は、協議上の離縁にこれを準用する。

第813条〔離縁届出の審査、違法届出受理の効力〕

 離縁の届出は、その離縁が第739条第2項〔婚姻の届出の方法に関する要件〕、第811条〔協議上の離縁等〕及び第811条の2〔養親が夫婦である場合の離縁〕の規定その他の法令に違反しないことを認めた後でなければ、これを受理することができない。

 離縁の届出が前項の規定に違反して受理されたときでも、離縁は、これがために、その効力を妨げられることがない。

第814条〔裁判上の離縁原因〕

 縁組の当事者の一方は、次の場合に限り、離縁の訴えを提起することができる。
一 他の一方から悪意で遺棄されたとき。
二 他の一方の生死が3年以上明らかでないとき。
三 その他縁組を継続し難い重大な事由があるとき。

 第770条第2項〔婚姻の継続を相当と認める場合の裁判所の離婚請求棄却〕の規定は、前項第1号及び第2号の場合にこれを準用する。

第815条〔協議権者からの離縁の訴え〕

 養子が満15歳に達しない間は、第811条の規定によって養親と離縁の協議をすることができる者から、又はこれに対して、離縁の訴を提起することができる。

第816条〔離縁による復氏〕

 養子は、離縁によって縁組前の氏に復する。ただし、配偶者とともに養子をした養親の一方のみと離縁をした場合は、この限りでない。

 縁組の日から7年を経過した後に前項の規定によって縁組前の氏に復した者は、離縁の日から3箇月以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、離縁の際に称していた氏を称することができる。

第817条〔離縁による復氏の場合の祭祀供用物の承継者〕

 第769条〔離婚による復氏の際の祭祀供用物の承継〕の規定は、離縁にこれを準用する。


第5款 特別養子

第817条の2〔特別養子縁組の成立〕

 家庭裁判所は、次条から第817条の7までに定める要件があるときは、養親となる者の請求により、実方の血族との親族関係が終了する縁組(この款において「特別養子縁組」という。)を成立させることができる。

 前項に規定する請求をするには、第794条〔後見人・被後見人間の縁組〕又は第798条〔未成年の養子〕の許可を得ることを要しない。

第817条の3〔養親の夫婦共同縁組〕

 養親となる者は、配偶者のある者でなければならない。

 夫婦の一方は、他の一方が養親とならないときは、養親となることができない。ただし、夫婦の一方が他の一方の嫡出である子(特別養子縁組以外の縁組による養子を除く。)の養親となる場合は、この限りでない。

第817条の4〔養親の年齢制限〕

 25歳に達しない者は、養親となることができない。ただし、養親となる夫婦の一方が25歳に達していない場合においても、その者が20歳に達しているときは、この限りでない。

第817条の5〔養子の年齢制限〕

 第817条の2に規定する請求の時に6歳に達している者は、養子となることができない。ただし、その者が8歳未満であって6歳に達する前から引き続き養親となる者に監護されている場合は、この限りでない。

第817条の6〔父母の同意〕

 特別養子縁組の成立には、養子となる者の父母の同意がなければならない。ただし、父母がその意思を表示することができない場合又は父母による虐待、悪意の遺棄その他養子となる者の利益を著しく害する事由がある場合は、この限りでない。

第817条の7〔特別養子縁組の成立基準〕

 特別養子縁組は、父母による養子となる者の監護が著しく困難又は不適当であることその他特別の事情がある場合において、子の利益のため特に必要があると認めるときに、これを成立させるものとする。

第817条の8〔縁組前の監護〕

 特別養子縁組を成立させるには、養親となる者が養子となる者を6箇月以上の期間監護した状況を考慮しなければならない。

 前項の期間は、第817条の2に規定する請求の時から起算する。ただし、その請求前の監護の状況が明らかであるときは、この限りでない。

第817条の9〔養子と実方との親族関係の終了〕

 養子と実方の父母及びその血族との親族関係は、特別養子縁組によって終了する。ただし、第817条の3第2項ただし書に規定する他の一方及びその血族との親族関係については、この限りでない。

第817条の10〔離縁〕

 次の各号のいずれにも該当する場合において、養子の利益のため特に必要があると認めるときは、家庭裁判所は、養子、実父母又は検察官の請求により、特別養子縁組の当事者を離縁させることができる。
一 養親による虐待、悪意の遺棄その他養子の利益を著しく害する事由があること。
二 実父母が相当の監護をすることができること。

 離縁は、前項の規定による場合のほか、これをすることができない。

第817条の11〔離縁による実方との親族関係の回復〕

 養子と実父母及びその血族との間においては、離縁の日から、特別養子縁組によって終了した親族関係と同一の親族関係を生ずる。



第4章 親権

第1節 総則

第818条〔親権者〕

 成年に達しない子は、父母の親権に服する。

 子が養子であるときは、養親の親権に服する。

 親権は、父母の婚姻中は、父母が共同してこれを行う。但、父母の一方が親権を行うことができないときは、他の一方が、これを行う。

第819条〔離婚および認知した場合の親権者〕

 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。

 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の一方を親権者と定める。

 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母がこれを行う。但、子の出生後に、父母の協議で、父を親権者と定めることができる。

 父が認知した子に対する親権は、父母の協議で父を親権者と定めたときに限り、父がこれを行う。

 第1項、第3項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。

 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。


第2節 親権の効力

第820条〔監護・教育の権利義務〕

 親権を行う者は、子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。

第821条〔居所指定権〕

 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。

第822条〔懲戒権〕

 親権を行う者は、必要な範囲内で自らその子を懲戒し、又は家庭裁判所の許可を得て、これを懲戒場に入れることができる。

 子を懲戒場に入れる期間は、6箇月以下の範囲内で、家庭裁判所がこれを定める。但、この期間は、親権を行う者の請求によって、何時でも、これを短縮することができる。

第823条〔職業許可権〕

 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。

 親権を行う者は、第6条第2項〔未成年者にまだ営業に堪えない事跡がある場合〕の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。

第824条〔財産管理権と代理権〕

 親権を行う者は、子の財産を管理し、又、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。但、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。

第825条〔共同親権者の一方が共同名義でした行為〕

 父母が共同して親権を行う場合において、父母の一方が、共同の名義で、子に代わって法律行為をし、又は子のこれをすることに同意したときは、その行為 は、他の一方の意思に反したときでも、これがために、その効力を妨げられることがない。但、相手方が悪意であったときは、この限りでない。

第826条〔親権者と子の利益相反行為〕

 親権を行う父又は母とその子と利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その1人と他の子との利益が相反する行為については、その一方のために、前項の規定を準用する。

第827条〔親権者の注意義務〕

 親権を行う者は、自己のためにすると同一の注意を以て、その管理権を行わなければならない。

第828条〔財産管理の計算〕

 子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。但、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益とこれを相殺したものとみなす。

第829条〔特例〕

 前条但書の規定は、無償で子に財産を与える第三者が反対の意思を表示したときは、その財産については、これを適用しない。

第830条〔第三者が子に与えた財産の管理〕

 無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものとする。

 前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求によって、その管理者を選任する。

 第三者が管理者を指定したときでも、その管理者の権限が消滅し、又はこれを改任ずる必要がある場合において、第三者が更に管理者を指定しないときも、前項と同様である。

 第27条乃至第29条〔不在者財産管理人の権利義務〕の規定は、前2項の場合にこれを準用する。

第831条〔委任の規定の準用〕

 第654条〔委任終了時の緊急処分義務〕及び第655条〔委任終了対抗要件〕の規定は、親権を行う者が子の財産を管理する場合及び前条の場合にこれを準用する。

第832条〔管理に関する親子間の債権の消滅時効〕

 親権を行った者とその子との間に財産の管理について生じた債権は、その管理権が消滅した時から5年間これを行わないときは、時効によって消滅する。

 子がまだ成年に達しない間に管理権が消滅した場合において子に法定代理人がないときは、前項の期間は、その子が成年に達し、又は後任の法定代理人が就職した時から、これを起算する。

第833条〔子の親権の代行〕

 親権を行う者は、その親権に服する子に代わって親権を行う。



第3節 親権の喪失

第834条〔親権喪失の宣告〕

 父又は母が、親権を濫用し、又は著しく不行跡であるときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その親権の喪失を宣告することができる。

第835条〔管理権喪失の宣告〕

 親権を行う父又は母が、管理が失当であったことによってその子の財産を危うくしたときは、家庭裁判所は、子の親族又は検察官の請求によって、その管理権の喪失を宣告することができる。

第836条〔失権宣告の取消し〕

 前2条に定める原因が止んだときは、家庭裁判所は、本人又はその親族の請求によって、失権の宣告を取り消すことができる。

第837条〔親権・管理権の辞任および回復〕

 親権を行う父又は母は、やむを得ない事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を辞することができる。

 前項の事由が止んだときは、父又は母は、家庭裁判所の許可を得て、親権又は管理権を回復することができる。


第5章 後見

第1節 後見の開始

第838条〔後見開始の原因〕

 後見は、次の掲げる場合に開始する。
一 未成年者に対して親権を行う者がないとき、又は親権を行う者が管理権を有しないとき。
二 後見開始の審判があったとき。




第2節 後見の機関

第1款 後見人

第839条〔未成年後見人の指定〕

 未成年者に対して最後に親権を行う者は、遺言で、未成年後見人を指定することができる。ただし、管理権を有しない者は、この限りでない。

 親権を行う父母の一方が管理権を有しないときは、他の一方は、前項の規定によって未成年後見人の指定をすることができる。

第840条〔未成年後見人の選任〕

 前条の規定によって未成年後見人となるべき者がいないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。未成年後見人が欠けたときも、同様である。

第841条〔未成年後見人の選任請求〕

 父若しくは母が親権若しくは管理権を辞し、又は親権を失ったことによって未成年後見人を選任する必要が生じたときは、その父又は母は、遅滞なく未成年後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

第842条〔未成年後見人の数〕

 未成年後見人は、1人でなければならない。

第843条〔成年後見人の選任〕

 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。

 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求によって、又は職権で、成年後見人を選任する。

 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に掲げる者若しくは成年後見人の請求によって、又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。

   成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有 無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意 見その他一切の事情を考慮しなければならない。

第844条〔後見人の辞任〕

 後見人は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

第845条〔後見人の選任請求〕

 後見人がその任務を辞したことによって新たに後見人を選任する必要が生じたときは、その後見人は、遅滞なく新たな後見人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。

第846条〔後見人の解任〕

 後見人に不正な行為、著しい不行跡その他後見の任務に適しない事由があるときは、家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族若しくは検察官の請求によって、又は職権で、これを解任することができる。

第847条〔後見人の欠格事由〕

 左に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人又は保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者及びその配偶者並びに直系血族
五 行方の知れない者


第2款 後見監督人

第848条〔指定後見監督人〕

 未成年後見人を指定することができる者は、遺言で、未成年後見監督人を指定することができる。

第849条〔選任後見監督人〕

 前条の規定によって指定した未成年後見監督人がない場合において必要があると認めるときは、家庭裁判所は、未成年被後見人、その親族若しくは未成年後見 人の請求によって、又は職権で、未成年後見監督人を選任することができる。未成年後見監督人の欠けた場合も、同様である。

第849条の2〔選任後見監督人〕

 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、成年被後見人、その親族若しくは成年後見人の請求によって、又は職権で、成年後見監督人を選任することができる。

第850条〔後見監督人の欠格事由〕

 後見人の配偶者、直系血族及び兄弟姉妹は、後見監督人となることができない。

第851条〔後見監督人の職務〕

 後見監督人の職務は、左の通りである。
一 後見人の事務を監督すること。
二 後見人が欠けた場合に、遅滞なくその選任を家庭裁判所に請求すること。
三 急迫の事情がある場合に、必要な処分をすること。
四 後見人又はその代表する者と被後見人との利益が相反する行為について被後見人を代表すること。

第852条〔注意義務・辞任・解任・欠格事由〕

 第644条〔受任者〕、第654条、第655条、第843条第4項、第844条、第846条、第847条、第859条の2、第859条の3、第861条第2項及び第862条の規定は、後見監督人について準用する。


第3節 後見の事務

第853条〔財産調査・財産目録調製〕

 後見人は、遅滞なく被後見人の財産の調査に著手し、1箇月以内に、その調査を終わり、且つ、その目録を調製しなければならない。但、この期間は、家庭裁判所において、これを伸長することができる。

 財産の調査及びその目録の調製は、後見監督人があるときは、その立会を以てこれをしなければ、その効力がない。

第854条〔目録調製前の権限〕

 後見人は、目録の調製を終わるまでは、急迫の必要がある行為のみをする権限を有する。但、これを善意の第三者に対抗することができない。

第855条〔被後見人に対する後見人の債権債務の申出〕

 後見人が、被後見人に対し、債権を有し、又は債務を負う場合において、後見監督人があるときは、財産の調査に著手する前に、これを後見監督人に申し出なければならない。

 後見人が、被後見人に対し債権を有することを知ってこれを申し出ないときは、その債権を失う。

第856条〔被後見人が包括財産を取得した場合への準用〕

 前3条の規定は、後見人が就職した後被後見人が包括財産を取得した場合にこれを準用する。

第857条〔未成年者の身上に関する権利義務〕

 未成年後見人は、第820条から第823条まで〔子の監護・教育・居所指定・懲戒・職業許可〕に規定する事項について、親権を行う者と同一の権利義務を 有する。ただし、親権を行う者が定めた教育の方法及び居所を変更し、未成年被後見人を懲戒場に入れ、営業を許可し、その許可を取り消し、又はこれを制限す るには、未成年後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。

第858条〔成年被後見人の療養看護〕

 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

第859条〔財産管理と代理権〕

 後見人は、被後見人の財産を管理し、又、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。

 第824条但書〔子の行為を目的とする債務と本人の同意〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。

第859条の2〔共同成年後見人〕

 成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、数人の成年後見人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる。

 家庭裁判所は、職権で、前項の規定による定めを取り消すことができる。

 成年後見人が数人あるときは、第三者の意思表示は、その1人に対してすれば足りる。

第859条の3〔家庭裁判所の許可〕

 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その住居の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。

第860条〔後見人と被後見人の利益相反行為〕

 第826条〔親権者と子の利益相反する行為と特別代理人の選任〕の規定は、後見人にこれを準用する。但、後見監督人がある場合は、この限りでない。

第861条〔支出金額の予定〕

 後見人は、その就職の初において、被後見人の生活、教育又は療養看護及び財産の管理のために毎年費すべき金額を予定しなければならない。

 後見人が後見の事務を行うために必要な費用は、被後見人の財産の中から支弁する。

第862条〔後見人の報酬〕

 家庭裁判所は、後見人及び被後見人の資力その他の事情によって、被後見人の財産の中から、相当な報酬を後見人に与えることができる。

第863条〔後見事務の監督〕

 後見監督人又は家庭裁判所は、何時でも、後見人に対し後見の事務の報告若しくは財産の目録の提出を求め、又は後見の事務若しくは被後見人の財産の状況を調査することができる。

 家庭裁判所は、後見監督人、被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求によって、又は職権で、被後見人の財産の管理その他後見の事務について必要な処分を命ずることができる。

第864条〔法定代理権および同意権の制限〕

 後見人が、被後見人に代わって営業若しくは第12条第1項に掲げる行為をし、又は未成年被後見人がこれをすることに同意するには、後見監督人があるときは、その同意を得なければならない。ただし、元本の領収については、この限りでない。

第865条〔前条違反の効果〕

 後見人が、前条の規定に違反してし、又は同意を与えた行為は、被後見人又は後見人において、これを取り消すことができる。この場合には、第19条〔無能力者の相手方の催告権〕の規定を準用する。

 前項の規定は、第121条乃至第126条〔取消の効果・追認〕の規定の適用を妨げない。

第866条〔被後見人からの財産等の譲受け〕

 後見人が被後見人の財産又は被後見人に対する第三者の権利を譲り受けたときは、被後見人は、これを取り消すことができる。この場合には、第19条〔相手方の催告権〕の規定を準用する。

 前項の規定は、第121条乃至第126条〔取消の効果・追認〕の規定の適用を妨げない。

第867条〔親権の代行〕

 未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行う。

 第853条乃至第857条〔被後見人の財産の調査、目録の調製等〕及び第861条乃至前条〔後見の報酬・監督等〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。

第868条〔財産に関する権限のみの後見人〕

 親権を行う者が管理権を有しない場合には、未成年後見人は、財産に関する権限のみを有する。

第869条〔注意義務、管理権の制限〕

 第644条〔受任者の善管義務〕及び第830条〔第三者が子に与えた財産の管理〕の規定は、後見にこれを準用する。


第4節 後見の終了

第870条〔管理の計算〕

 後見人の任務が終了したときは、後見人又はその相続人は、2箇月以内にその管理の計算をしなければならない。但、この期間は、家庭裁判所において、これを伸長することができる。

第871条〔後見監督人の立会い〕

 後見の計算は、後見監督人があるときは、その立会を以てこれをする。

第872条〔未成年者・後見人間の契約の取消し〕

 未成年被後見人が成年に達した後後見の計算の終了前に、その者と未成年後見人又はその相続人との間にした契約は、その者においてこれを取り消すことができる。その者が未成年後見人又はその相続人に対してした単独行為も、同様である。

 第19条〔相手方の催告権〕及び第121条乃至第126条〔取消の効果・追認等〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。

第873条〔後見人および被後見人の利息支払義務〕

 後見人が被後見人に返還すべき金額及び被後見人が後見人に返還すべき金額には、後見の計算が終了した時から、利息をつけなければならない。

 後見人が自己のために被後見人の金銭を消費したときは、その消費の時から、これに利息をつけなければならない。なお、損害があったときは、その賠償の責に任ずる。

第874条〔委任の規定の準用〕

 第654条〔委任終了時の緊急処分義務〕及び第655条〔委任終了と相手方対抗〕の規定は、後見にこれを準用する。

第875条〔後見に関する債権の消滅時効〕

 第832条〔管理に関する親子間の債権の消滅時効〕に定める時効は、後見人又は後見監督人と被後見人との間において後見に関して生じた債権にこれを準用する。

 前項の時効は、第872条の規定によって法律行為を取り消した場合には、その取消の時から、これを起算する。


第5章の2 保佐及び補助

第1節 保佐

第876条〔保佐開始の審判〕

 保佐は、保佐開始の審判によって開始する。

第876条の2〔保佐人の選任〕

 家庭裁判所は、保佐開始の審判をするときは、職権で、保佐人を選任する。

 第843条第2項から第4項まで及び第844条から第847条までの規定は、保佐人について準用する。

 保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については、保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、保佐監督人がある場合は、この限りでない。

第876条の3〔保佐監督人の選任〕

 家庭裁判所は、必要がある認めるときは、被保佐人、その親族若しくは保佐人の請求によって、又は職権で、保佐監督人を選任することができる。

 第644条、第654条、第655条、第843条第4項、第844条、第846条、第847条、第850条、第851条、第859条の2、第859条の 3、第861条第2項及び第862条の規定は、保佐監督人について準用する。この場合において、第851条第4号中「被後見人を代表する」とあるのは、 「被保佐人を代表し、又は被保佐人がこれをすることに同意する」と読み替えるものとする。

第876条の4〔代理権の付与〕

 家庭裁判所は、第11条本文に掲げる者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。

 家庭裁判所は、第1項に掲げる者の請求によって、同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる。

第876条の5〔保佐の事務〕

 保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。

 第644条、第859条の2、第859条の3、第861条第2項、第862条及び第863条の規定は、保佐の事務について、第824条ただし書の規定は保佐人が前条第1項の代理権を付与する旨の審判に基づき被保佐人を代表する場合について準用する。

 第654条、第655条、第870条、第871条及び第873条の規定は保佐人の任務が終了した場合について、第832条の規定は保佐人又は保佐監督人と被保佐人との間において保佐に関して生じた債権について準用する。



第2節 補助

第876条の6〔補助開始の審判〕

 補助は、補助開始の審判によって開始する。

第876条の7〔補助人の選任〕

 家庭裁判所は、補助開始の審判をするときは、職権で、補助人を選任する。

 第843条第2項から第4項まで及び第844条から第847条までの規定は、補助人について準用する。

 補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については、補助人は、臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、補助監督人がある場合は、この限りでない。

第876条の8〔補助監督人の選任〕

 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被補助人、その親族若しくは補助人の請求によって、又は職権で、補助監督人を選任することができる。

 第644条、第654条、第655条、第843条第4項、第844条、第846条、第847条、第850条、第851条、第859条の2、第859条の 3、第861条第2項及び第862条の規定は、補助監督人について準用する。この場合において、第851条第4号中「被後見人を代表する」とあるのは、 「被補助人を代表し、又は被補助人がこれをすることに同意する」と読み替えるものとする。

第876条の9〔代理権の付与〕

 家庭裁判所は、第14条第1項本文に掲げる者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

 第876条の4第2項及び第3項の規定は、前項の審判について準用する。

第876条の10〔代理権の付与〕

 第644条、第859条の2、第859条の3、第861条第2項、第862条、第863条及び第876条の5の規定は、補助の事務について、第824条ただし書の規定は補助人が前条第1項の代理権を付与する旨の審判に基づき被補助人を代表する場合について準用する。

 第654条、第655条、第870条、第871条及び第873条の規定は補助人の任務が終了した場合について、第832条の規定は補助人又は補助監督人と被補助人との間において補助に関して生じた債権について準用する。


第6章 扶養

第877条〔扶養義務者〕

 直系血族及び兄弟姉妹は、互に扶養をする義務がある。

 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合の外、3親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。

 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。

第878条〔扶養の順位〕

 扶養をする義務のある者が数人ある場合において、扶養をすべき者の順序について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、 家庭裁判所が、これを定める。扶養を受ける権利のある者が数人ある場合において、扶養義務者の資力がその全員を扶養するに足りないとき、扶養を受けるべき 者の順序についても、同様である。

第879条〔扶養の程度または方法〕

 扶養の程度又は方法について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所が、これを定める。

第880条〔扶養関係の変更または取消し〕

 扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消をすることができる。

第881条〔扶養請求権の処分禁止〕

 扶養を受ける権利は、これを処分することができない。


第5編 相続

第1章 総則

第882条〔相続開始原因〕

 相続は、死亡によって開始する。

第883条〔相続開始の場所〕

 相続は、被相続人の住所において開始する。

第884条〔相続回復請求権〕

 相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間これを行わないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様である。

第885条〔相続財産に関する費用〕

 相続財産に関する費用は、その財産の中から、これを支弁する。但、相続人の過失によるもの(費用)は、この限りでない。

 前項の費用は、遺留分権利者が(他の相続人の)贈与の減殺によって得た財産を以て、これを支弁することを要しない。




第2章 相続人

第886条〔胎児の相続権〕

 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。

 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、これを適用しない。

第887条〔子・代襲相続〕

 被相続人の子は、相続人となる。

 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲(代わりに相続)して相続人となる。但、被相続人の直系卑属(子・孫・曾孫)でない者は、この限りでない。

 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合にこれを準用する。

第889条〔直系尊属・兄弟姉妹〕

 左に掲げる者は、第887条の規定によって相続人となるべき者がない場合には、左の順位に従って相続人となる。
第1 直系尊属(父母・祖父母)。但、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
第2 兄弟姉妹。

 第887条第2項の規定は、前項第2号の場合にこれを準用する。

第890条〔配偶者〕

 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、前3条の規定によって相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

第891条〔相続欠格事由〕

 左に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位に在る者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者。
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。但、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、これを取り消し、又はこれを変更することを妨げた者。
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、これを取り消させ、又はこれを変更させた者。
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者。

第892条〔推定相続人の廃除〕

 遺留分を有する推定相続人が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

第893条〔遺言による推定相続人の廃除〕

 被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく家庭裁判所に廃除の請求をしなければならない。この場合において、廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

第894条〔廃除の取消し〕

 被相続人は、何時でも、推定相続人の廃除の取消を家庭裁判所に請求することができる。

 前条の規定は、廃除の取消にこれを準用する。

第895条〔廃除確定前の相続開始〕

 推定相続人の廃除又はその取消の請求があった後その審判が確定する前に(死んで)相続が開始したときは、家庭裁判所は、親族、利害関係人又は検察官の請求によって、遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。廃除の遺言があったときも、同様である。

 家庭裁判所が管理人を選任した場合には、第27条乃至第29条〔不在者財産管理人の権利義務〕の規定を準用する。



第3章 相続の効力

第1節 総則

第896条〔相続の一般的効力〕

 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。但、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。

第897条〔祭祀供用物の承継〕

 系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを承継する。但、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が、これを承継する。

 前項本文の場合において慣習が明かでないときは、前項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所がこれを定める。

第898条〔共同相続−相続財産の共有〕

 相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。

第899条〔同前−権利義務の承継〕

 各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。


第2節 相続分

第900条〔法定相続分〕

 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、左の規定に従う。
一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。但、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。

第901条〔代襲相続分〕

 第887条第2項又は第3項〔代襲相続〕の規定によって相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じである。但、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。

 前項の規定は、第889条第2項〔兄弟姉妹の子の代襲相続〕の規定によって兄弟姉妹の子が相続人となる場合にこれを準用する。

第902条〔指定相続分〕

 被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。但、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。

 被相続人が、共同相続人中の1人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定によってこれを定める。

第903条〔特別受益者の相続分〕

 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時に おいて有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前3条の規定によって算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除し、 その残額を以てその者の相続分とする。

 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思表示は、遺留分に関する規定に反しない範囲内で、その効力を有する。

第904条〔特別受益者の相続分〕

 前条に掲げる贈与の価額は、受贈者の行為によって、その目的たる財産が滅失し、又はその価格の増減があったときでも、相続開始の当時なお原状のままで在るものとみなしてこれを定める。

第904条の2〔寄与分〕

 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加につき特別の 寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみな し、第900条から第902条までの規定によって算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。

 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した額を超えることができない。

 第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。

第905条〔相続分の取戻し〕

 共同相続人の1人が分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

 前項に定める権利は、1箇月以内にこれを行わなければならない。


第3節 遺産の分割

第906条〔遺産分割の基準〕

 遺産の分割は、遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする。

第907条〔分割の実行〕

 共同相続人は、第908条の規定によって被相続人が遺言で禁じた場合を除く外、何時でも、その協議で、遺産の分割をすることができる。

 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その分割を家庭裁判所に請求することができる。

 前項の場合において特別の事由があるときは、家庭裁判所は、期間を定めて、遺産の全部又は一部について、分割を禁ずることができる。

第908条〔遺言による分割の指定または禁止〕

 被相続人は、遺言で、分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間内分割を禁ずることができる。

第909条〔分割の遡及効〕

 遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。但、第三者の権利を害することができない。

第910条〔相続開始後の被認知者の分割請求〕

 相続の開始後認知によって相続人となった者が遺産の分割を請求しようとする場合において、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしたときは、価額のみによる支払の請求権を有する。

第911条〔遺産分割による担保責任〕

 各共同相続人は、他の共同相続人に対して、売主と同じく、その相続分に応じて担保の責に任ずる。

第912条〔債権についての担保責任〕

 各共同相続人は、その相続分に応じ、他の共同相続人が分割によって受けた債権について、分割の当時における債務者の資力を担保する。

 弁済期に至らない債権及び停止条件附の債権については、各共同相続人は、弁済をすべき時における債務者の資力を担保する。

第913条〔無資力者の担保責任の分担〕

 担保の責に任ずる共同相続人中に償還をする資力のない者があるときは、その償還することができない部分は、求償者及び他の資力のある者が、各々その相続分に応じてこれを分担する。但、求償者に過失があるときは、他の共同相続人に対して分担を請求することができない。

第914条〔遺言による別段の定め〕

 前3条の規定は、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、これを適用しない。


第4章 相続の承認及び放棄

第1節 総則

第915条〔承認・放棄の期間〕

 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。但、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において、これを伸長することができる。

 相続人は、承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

第916条〔承認・放棄の期間〕

 相続人が承認又は放棄をしないで死亡したときは、前条第1項の期間は、その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から、これを起算する。

第917条〔承認・放棄の期間〕

 相続人が未成年者又は成年被後見人であるときは、第915条第1項の期間は、その法定代理人が未成年者又は成年被後見人のために相続の開始があったことを知った時から、これを起算する。

第918条〔相続財産の管理〕

 相続人は、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財産を管理しなければならない。但、承認又は放棄をしたときは、この限りでない。

 家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、何時でも、相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。

 家庭裁判所が管理人を選任した場合には、第27条乃至第29条〔不在者財産管理人の権利義務〕の規定を準用する。

第919条〔承認・放棄の取消し〕

 承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、これを取り消すことができない。

 前項の規定は、第1編及び前編の規定によって承認又は放棄の取消をすることを妨げない。但、その取消権は、追認をすることができる時から6箇月間これを行わないときは、時効によって消滅する。承認又は放棄の時から10年を経過したときも、同様である。

 前項の規定によって限定承認又は放棄の取消をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

第2節 承認

第1款 単純承認

第920条〔単純承認の効果〕

 相続人が単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

第921条〔法定単純承認〕

 左に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。但、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は放棄をしなかったとき。
三 相続人が、限定承認又は放棄をした後でも、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを財産目録中に記載しなかったとき。但、その相続人が放棄をしたことによって相続人となった者が承認をした後は、この限りでない。


第2款 限定承認

第922条〔限定承認の効果〕

 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、承認をすることができる。

第923条〔共同相続人の限定承認〕

 相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

第924条〔限定承認の方式〕

 相続人が限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間〔3か月〕内に、財産目録を調製してこれを家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

第925条〔相続人・被相続人間の権利義務の不消滅〕

 相続人が限定承認をしたときは、その被相続人に対して有した権利義務は、消滅しなかったものとみなす。

第926条〔限定承認後の相続財産の管理〕

 限定承認者は、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財産の管理を継続しなければならない。

 第645条〔受任者の報告義務〕、第646条〔受任者の受取物等の引渡義務〕、第650条第1項、第2項〔受任者の費用償還請求権等〕及び第918条第2項、第3項の規定は、前項の場合にこれを準用する。

第927条〔相続債権者・受遺者に対する公告および催告〕

 限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、一切の相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。但、その期間は、2箇月を下ることができない。

 第79条第2項及び第3項〔法人の清算における公告および催告の方法〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。

第928条〔催告期間中の弁済拒絶権〕

 限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

第929条〔配当弁済〕

 第927条第1項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産を以て、その期間内に申し出た債権者その他知れた債権者に、各々その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。但、優先権を有する債権者の権利を害することができない。

第930条〔期限前の債務等の弁済〕

 限定承認者は、弁済期に至らない債権でも、前条の規定によってこれを弁済しなければならない。

 条件附の債権又は存続期間の不確定な債権は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、これを弁済しなければならない。

第931条〔受遺者への弁済〕

 限定承認者は、前2条の規定によって各債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができない。

第932条〔相続財産の換価〕

 前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付しなければならない。但、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。

第933条〔相続債権者等の競売または鑑定参加〕

 相続債権者及び受遺者は、自己の費用で、相続財産の競売又は鑑定に参加することができる。この場合には、第260条第2項〔共有分割への参加請求の効果〕の規定を準用する。

第934条〔不当弁済の責任〕

 限定承認者が、第927条に定める公告若しくは催告をすることを怠り、又は同条第1項の期間内にある債権者若しくは受遺者に弁済をしたことによって他の 債権者若しくは受遺者に弁済をすることができなくなったときは、これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。第929条乃至第931条の規定に違反して 弁済をしたときも、同様である。

 前項の規定は、情を知って不当に弁済を受けた債権者又は受遺者に対する他の債権者又は受遺者の求償を妨げない。

 第724条〔損害賠償請求権の消滅時効〕の規定は、前2項の場合にも、これを適用する。

第935条〔期間内に申し出なかった債権者および受遺者〕

 第927条第1項の期間内に申し出なかった債権者及び受遺者で限定承認者に知れなかったものは、残余財産についてのみその権利を行うことができる。但、相続財産について特別担保を有する者は、この限りでない。

第936条〔共同相続財産の管理人〕

 相続人が数人ある場合には、家庭裁判所は、相続人の中から、相続財産の管理人を選任しなければならない。

 管理人は、相続人のために、これに代わって、相続財産の管理及び債務の弁済に必要な一切の行為をする。

 第926条乃至前条の規定は、管理人にこれを準用する。但、第927条第1項に定める公告をする期間は、管理人の選任があった後10日以内とする。

第937条〔共同相続における法定単純承認〕

 限定承認をした共同相続人の1人又は数人について第921条第1号〔相続財産の処分〕又は第3号〔相続財産の隠匿・消費・財産目録不記載〕に掲げる事由 があるときは、相続債権者は、相続財産を以て弁済を受けることができなかった債権額について、その者に対し、その相続分に応じて権利を行うことができる。


第3節 放棄

第938条〔放棄の方式〕

 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

第939条〔放棄の効力〕

 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初から相続人とならなかったものとみなす。

第940条〔相続放棄者の管理継続義務〕

 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけると同一の注意を以て、その財産の管理を継続しなければならない。

 第645条〔受任者の報告義務〕、第646条〔受任者の受取物等の引渡義務〕、第650条第1項、第2項〔受任者の費用償還請求権等〕及び第918条第2項、第3項〔家庭裁判所による管理人の選任等〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。


第5章 財産の分離

第941条〔第1種の財産分離〕

 相続債権者又は受遺者は、相続開始の時から3箇月以内に、相続人の財産の中から相続財産を分離することを家庭裁判所に請求することができる。相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その期間の満了後でも、同様である。

 家庭裁判所が前項の請求によって財産の分離を命じたときは、その請求をした者は、5日以内に、他の相続債権者及び受遺者に対し、財産分離の命令があった こと及び一定の期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければならない。但、その期間は、2箇月を下ることができない。

第942条〔財産分離の効果〕

 財産分離の請求をした者及び前条第2項の規定によって配当加入の申出をした者は、相続財産について、相続人の債権者に先だって弁済を受ける。

第943条〔財産分離後の相続財産の管理〕

 財産分離の請求があったときは、家庭裁判所は、相続財産の管理について必要な処分を命ずることができる。

 家庭裁判所が管理人を選任した場合には、第27条乃至第29条〔不在者財産管理人の権利義務〕の規定を準用する。

第944条〔財産分離後の相続財産の管理義務〕

 相続人は、単純承認をした後でも、財産分離の請求があったときは、以後、その固有財産におけると同一の注意を以て、相続財産の管理をしなければならない。但、家庭裁判所が管理人を選任したときは、この限りでない。

 第645条乃至第647条〔受任者の義務と責任〕及び第650条第1項、第2項〔受任者の費用償還請求権等〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。

第945条〔財産分離の対抗要件〕

 財産の分離は、不動産については、その登記をしなければ、これを第三者に対抗することができない。

第946条〔物上代位〕

 第304条〔先取特権の物上代位〕の規定は、財産分離の場合にこれを準用する。

第947条〔相続債権者および受遺者への弁済〕

 相続人は、第941条第1項及び第2項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

 財産分離の請求があったときは、相続人は、第941条第2項の期間の満了後に、相続財産を以て、財産分離の請求又は配当加入の申出をした債権者及び受遺 者に、各々その債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。但、優先権を有する債権者の権利を害することができない。

 第930条乃至第934条〔限定承認者の弁済〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。

第948条〔相続人の固有財産からの弁済〕

 財産分離の請求をした者及び配当加入の申出をした者は、相続財産を以て全部の弁済を受けることができなかった場合に限り、相続人の固有財産についてその権利を行うことができる。この場合には、相続人の債権者は、その者に先だって弁済を受けることができる。

第949条〔財産分離の阻止〕

 相続人は、その固有財産を以て相続債権者若しくは受遺者に弁済をし、又はこれに相当の担保を供して、財産分離の請求を防止し、又はその効力を消滅させる ことができる。但、相続人の債権者が、これによって損害を受けるべきことを証明して、異議を述べたときは、この限りでない。

第950条〔第2種の財産分離〕

 相続人が限定承認をすることができる間又は相続財産が相続人の固有財産と混合しない間は、その債権者は、家庭裁判所に対して財産分離の請求をすることができる。

 第304条〔先取特権の物上代位〕、第925条〔限定承認における相続財産と相続人の財産との分離〕、第927条乃至第934条〔限定承認における相続 財産の清算〕、第943条乃至第945条〔第1種の財産分離における相続財産の管理・対抗要件〕及び第948条〔第1種の財産分離における相続人の固有財 産からの弁済〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。但、第927条〔債権者に対する公告および催告〕に定める公告及び催告は、財産分離の請求をした債 権者がこれをしなければならない。



第6章 相続人の不存在

第951条〔相続財産法人〕

 相続人のあることが明かでないときは、相続財産は、これを法人とする。

第952条〔相続財産管理人の選任〕

 前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の管理人を選任しなければならない。

 家庭裁判所は、遅滞なく管理人の選任を公告しなければならない。

第953条〔管理人の権利義務等〕

 第27条乃至第29条〔不在者財産管理人の権利義務〕の規定は、相続財産の管理人にこれを準用する。

第954条〔管理人の財産状況報告義務〕

管理人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、これに相続財産の状況を報告しなければならない。

第955条〔相続財産法人の不存立〕

 相続人のあることが明かになったときは、法人は、存立しなかったものとみなす。但、管理人がその権限内でした行為の効力を妨げない。

第956条〔管理人の代理権の消滅時期〕

 管理人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。

 前項の場合には、管理人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。

第957条〔相続財産の清算〕

 第952条第2項に定める公告があった後2箇月以内に相続人のあることが明かにならなかったときは、管理人は、遅滞なく一切の相続債権者及び受遺者に対し、一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。但、その期間は、2箇月を下ることができない。

 第79条第2項、第3項〔法人の清算に関する公告と催告の方法〕及び第928条乃至第935条〔限定承認における相続財産の清算〕の規定は、前項の場合にこれを準用する。但、第932条但書〔鑑定人の評価による価額弁済〕の規定は、この限りでない。

第958条〔相続人捜索の公告〕

 前条第1項の期間の満了後、なお、相続人のあることが明かでないときは、家庭裁判所は、管理人又は検察官の請求によって、相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。但、その期間は、6箇月を下ることができない。

第958条の2〔公告の効力〕

 前条の期間内に相続人である権利を主張する者がないときは、相続人並びに管理人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行うことができない。

第958条の3〔特別縁故者への分与〕

 前条の場合において相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。

 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内に、これをしなければならない。

第959条〔相続財産の国庫帰属〕

 前条の規定によって処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合には、第956条第2項〔管理人の計算義務〕の規定を準用する。



第7章 遺言

第1節 総則

第960条〔遺言の要式性〕

 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、これをすることができない。

第961条〔遺言能力〕

 満15歳に達した者は、遺言をすることができる。

第962条〔制限能力者の遺言能力〕

 第4条〔未成年者〕、第9条、第12条及び第16条の規定は、遺言には、これを適用しない。

第963条〔遺言能力を要する時期〕

 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

第964条〔包括遺贈・特定遺贈〕

 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。但、遺留分に関する規定に違反することができない。

第965条〔受遺者の能力・欠格事由〕

 第886条〔胎児の相続権〕及び第891条〔相続欠格事由〕の規定は、受遺者にこれを準用する。

第966条〔被後見人の遺言の制限〕

 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。

 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、これを適用しない。


第2節 遺言の方式

第1款 普通の方式

第967条〔普通方式の種類〕

 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってこれをしなければならない。但、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

第968条〔自筆証書遺言〕

 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日附及び氏名を自書し、これに印をおさなければならない。

 自筆証書中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を附記して特にこれに署名し、且つ、その変更の場所に印をおさなければ、その効力がない。

第969条〔公正証書遺言〕

 公正証書によって遺言をするには、次の方式に従わなければならない。
一 証人2人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前4号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

第969条の2〔公正証書遺言〕

 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第 2号の口授に代えなければならない。この場合における同条第3号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述」又は「自 書」とする。

 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第3号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。

 公証人は、前2項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。

第970条〔秘密証書遺言〕

 秘密証書によって遺言をするには、左の方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印をおすこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章を以てこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人1人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日附及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印をおすこと。

 第968条第2項〔自筆証書遺言の加除訂正〕の規定は、秘密証書による遺言にこれを準用する。

第971条〔秘密証書遺言の転換〕

 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第968条の方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。

第972条〔口が聞けない者の遺言〕

 口がきけない者が秘密証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、その証書は自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を通訳人の通訳により申述し、又は封紙に自書して、第970条第1項第3号の申述に代えなければならない。

 第1項の場合において、遺言者が封紙に自書したときは、公証人は、その旨を封紙に記載して、第970条第1項第4号の規定する申述の記載に代えなければならない。

 前項の場合において、遺言者が通訳人の通訳により申述したときは、公証人は、その旨を封紙に記載しなければならない。

第973条〔成年被後見人の遺言〕

 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない。

 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名 し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書によって遺言をする場合には、その封紙に右の記載をし、署名し、印をおさなければならない。

第974条〔証人・立会人の欠格事由〕

 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人、受遺者及びその配偶者並びに直系血族
三 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記及び雇人

第975条〔共同遺言の禁止〕

 遺言は、2人以上の者が同一の証書でこれをすることができない。

第2款 特別の方式

第976条〔死亡危急者の遺言〕

 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人3人以上の立会いをもって、その1人に遺言の趣旨を口授して、これをす ることができる。この場合には、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを 承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。

 口がきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述して、同項の口授に代えなければならない。

 第1項後段の遺言者又は他の証人が耳が聞こえない者である場合には、遺言の趣旨の口授又は申述を受けた者は、同項後段に規定する筆記した内容を通訳人の通訳によりその遺言者又は他の証人に伝えて、同項後段の読み聞かせに代えることができる。

 前3項の規定によってした遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力がない。

 家庭裁判所は、遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。

第977条〔伝染病隔離者の遺言〕

 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官1人及び証人1人以上の立会を以て遺言書を作ることができる。

第978条〔在船者の遺言〕

 船舶中に在る者は、船長又は事務員1人及び証人2人以上の立会を以て遺言書を作ることができる。

第979条〔船舶遭難者の遺言〕

 船舶遭難の場合において、船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人2人以上の立会を以て口頭で遺言をすることができる。

 口がきけない者が前項の規定によって遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。

 前2項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の1人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力がない。

 第976条第5項〔家裁の確認〕の規定は、前項の場合について準用する。

第980条〔遺言関係者の署名押印〕

 第977条及び第978条の場合には、遺言者、筆者、立会人及び証人は、各自遺言書に署名し、印をおさなければならない。

第981条〔署名押印不能の場合〕

 第977条乃至第979条の場合において、署名又は印をおすことのできない者があるときは、立会人又は証人は、その事由を附記しなければならない。

第982条〔普通方式遺言の規定の準用〕

 第968条第2項〔遺言の加除訂正〕及び第973条乃至第975条〔成年被後見人の遺言、証人または立会人の欠格事由、共同遺言の禁止〕の規定は、第976条乃至前条の規定による遺言にこれを準用する。

第983条〔遺言者の生存による特別方式遺言の失効〕

 第976条乃至前条の規定によってした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6箇月間生存するときは、その効力がない。

第984条〔在外日本人の遺言の特則〕

 日本の領事の駐在する地に在る日本人が公正証書又は秘密証書によって遺言をしようとするときは、公証人の職務は、領事がこれを行う。


第3節 遺言の効力

第985条〔遺言の効力発生時期〕

 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。

 遺言に停止条件を附した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

第986条〔遺贈の放棄〕

 受遺者は、遺言者の死亡後、何時でも、遺贈の放棄をすることができる。

 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

第987条〔利害関係人の催告権〕

 遺贈義務者その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨を受遺者に催告することができる。若し、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。

第988条〔受遺者の相続人の承認・放棄〕

 受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、承認又は放棄をすることができる。但、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第989条〔遺贈の承認・放棄の取消し〕

 遺贈の承認及び放棄は、これを取り消すことができない。

 第919条第2項〔相続の承認・放棄の取消許容〕の規定は、遺贈の承認及び放棄にこれを準用する。

第990条〔包括受遺者の権利義務〕

 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

第991条〔受遺者の担保請求権〕

 受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。停止条件附の遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様である。

第992条〔受遺者の果実取得権〕

 受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。但、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第993条〔遺贈義務者の費用償還請求権〕

 遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を出したときは、第299条〔留置権者の費用償還請求権〕の規定を準用する。

 果実を収取するために出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。

第994条〔遺言の効力発生以前の受遺者の死亡〕

 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。

 停止条件附の遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様である。但、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第995条〔遺贈の無効・失効の場合における目的財産の帰属〕

 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力がなくなったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。但、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第996条〔相続財産に属しない権利の遺贈〕

 遺贈は、その目的たる権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。但、その権利が相続財産に属すると属しないとにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認むべきときは、この限りでない。

第997条〔相続財産に属しない権利の遺贈における遺贈義務者の責任〕

 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条但書の規定によって有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得してこれを受遺者に移転する義務を負 う。若し、これを取得することができないか、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、その価額を弁償しなければならない。但、遺言者がその 遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第998条〔不特定物の遺贈義務者の担保責任〕

 不特定物を遺贈の目的とした場合において、受遺者が追奪を受けたときは、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責に任ずる。

 前項の場合において、物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物を以てこれに代えなければならない。

第999条〔遺贈の物上代位〕

 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。

 遺贈の目的物が、他の物と附合し、又は混和した場合において、遺言者が第243条乃至第245条〔動産の附合および混和〕の規定によって合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は共有権を遺贈の目的としたものと推定する。

第1000条〔第三者の権利の目的たる財産の遺贈〕

 遺贈の目的たる物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。但、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。

第1001条〔債権の遺贈の物上代位〕

 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、且つ、その受け取った物が、なお、相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。

 金銭を目的とする債権については、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときでも、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。

第1002条〔負担付遺贈〕

 負担附遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責に任ずる。

 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者が、自ら受遺者となることができる。但、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第1003条〔負担付遺贈の受遺者の免責〕

 負担附遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴によって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じてその負担した義務を免かれる。但、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。


第4節 遺言の執行

第1004条〔遺言書の検認・開封〕

 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様である。

 前項の規定は、公正証書による遺言には、これを適用しない。

 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会を以てしなければ、これを開封することができない。

第1005条〔前条違反の制裁〕

 前条の規定によって遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、5万円以下の過料に処せられる。

第1006条〔遺言執行者の指定〕

 遺言者は、遺言で、1人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

 遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。

 遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。

第1007条〔遺言執行者の就職〕

 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。

第1008条〔遺言執行者就職の催告〕

 相続人その他の利害関係人は、相当の期間を定め、その期間内に就職を承諾するかどうかを確答すべき旨を遺言執行者に催告することができる。若し、遺言執行者が、その期間内に、相続人に対して確答をしないときは、就職を承諾したものとみなす。

第1009条〔遺言執行者の欠格事由〕

 未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

第1010条〔遺言執行者の選任〕

 遺言執行者が、ないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

第1011条〔財産目録の調製〕

 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を調製して、これを相続人に交付しなければならない。

 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会を以て財産目録を調製し、又は公証人にこれを調製させなければならない。

第1012条〔遺言執行者の職務権限〕

 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

 第644条乃至第647条〔受任者の義務と責任〕及び第650条〔受任者の費用償還請求権等〕の規定は、遺言執行者にこれを準用する。

第1013条〔相続人の処分権喪失〕

 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

第1014条〔特定財産に関する遺言の執行〕

 前3条の規定は、遺言が特定財産に関する場合には、その財産についてのみこれを適用する。

第1015条〔遺言執行者の地位〕

 遺言執行者は、これを相続人の代理人とみなす。

第1016条〔遺言執行者の復任権〕

 遺言執行者は、やむを得ない事由がなければ、第三者にその任務を行わせることができない。但、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。

 遺言執行者が前項但書の規定によって第三者にその任務を行わせる場合には、相続人に対して、第105条〔復代理人の選任・監督に関する代理人の責任〕に定める責任を負う。

第1017条〔共同遺言執行者〕

 数人の遺言執行者がある場合には、その任務の執行は、過半数でこれを決する。但、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 各遺言執行者は、前項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

第1018条〔遺言執行者の報酬〕

 家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。但、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。

 遺言執行者が報酬を受けるべき場合には、第648条第2項及び第3項〔受任者の報酬の支払方法〕の規定を準用する。

第1019条〔遺言執行者の解任・辞任〕

 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。

 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。

第1020条〔任務終了と委任の規定の準用〕

 第654条〔委任終了後の善処義務委任〕及び第655条〔委任終了の対抗要件〕の規定は、遺言執行者の任務が終了した場合にこれを準用する。

第1021条〔遺言執行の費用〕

 遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。但、これによって遺留分を減ずることができない。


第5節 遺言の取消

第1022条〔遺言取消しの自由と取消しの方式〕

 遺言者は、何時でも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を取り消すことができる。

第1023条〔抵触する後の遺言または処分による取消し〕

 前の遺言と後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなす。

 前項の規定は、遺言と遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合にこれを準用する。

第1024条〔遺言書または遺贈の目的物の破棄による取消し〕

 遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を取り消したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様である。

第1025条〔取り消された遺言の復活〕

 前3条の規定によって取り消された遺言は、その取消の行為が、取り消され、又は効力を生じなくなるに至ったときでも、その効力を回復しない。但、その行為が詐欺又は強迫による場合は、この限りでない。

第1026条〔遺言の取消権の放棄〕

 遺言者は、その遺言の取消権を放棄することができない。

第1027条〔負担付遺贈遺言の取消し〕

 負担附遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行を催告し、若し、その期間内に履行がないときは、遺言の取消を家庭裁判所に請求することができる。


第8章 遺留分

第1028条〔遺留分権利者とその遺留分〕

 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、左の額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1
二 その他の場合には、被相続人の財産の2分の1

第1029条〔遺留分算定の基礎となる財産〕

 遺留分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加え、その中から債務の全額を控除して、これを算定する。

 条件附の権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選定した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

第1030条〔算入せられる贈与の範囲〕

 贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限り、前条の規定によってその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、1年前にしたものでも、同様である。

第1031条〔遺贈・贈与の減殺〕

 遺留分権利者及びその承継人は、遺留分を保全するに必要な限度で、遺贈及び前条に掲げる贈与の減殺を請求することができる。

第1032条〔条件付権利等の贈与または遺贈の一部減殺〕

 条件附の権利又は存続期間の不確定な権利を贈与又は遺贈の目的とした場合において、その贈与又は遺贈の一部を減殺すべきときは、遺留分権利者は、第1029条第2項の規定によって定めた価格に従い、直ちにその残部の価額を受贈者又は受遺者に給付しなければならない。

第1033条〔減殺の順序〕

 贈与は、遺贈を減殺した後でなければ、これを減殺することができない。

第1034条〔目的物の価額による遺贈の割合減殺〕

 遺贈は、その目的の価額の割合に応じてこれを減殺する。但、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

第1035条〔贈与の減殺の順序〕

 贈与の減殺は、後の贈与から始め、順次に前の贈与に及ぶ。

第1036条〔受贈者の果実の返還〕

 受贈者は、その返還すべき財産の外、なお、減殺の請求があった日以後の果実を返還しなければならない。

第1037条〔受贈者の無資力による損失の負担〕

 減殺を受けるべき受贈者の無資力によって生じた損失は、遺留分権利者の負担に帰する。

第1038条〔負担付贈与の減殺〕

 負担附贈与は、その目的の価額の中から負担の価額を控除したものについて、その減殺を請求することができる。

第1039条〔不当対価による有償行為の減殺〕

 不相当な対価を以てした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、これを贈与とみなす。この場合において、遺留分権利者がその減殺を請求するときは、その対価を償還しなければならない。

第1040条〔贈与の目的物を処分した場合の減殺〕

 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。但、譲受人が譲渡の当時遺留分権利者に損害を加えることを知ったときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。

 前項の規定は、受贈者が贈与の目的の上に権利を設定した場合にこれを準用する。

第1041条〔価額による弁償〕

 受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免かれることができる。

 前項の規定は、前条第1項但書の場合にこれを準用する。

第1042条〔減殺請求権の消滅時効〕

 減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から、1年間これを行わないときは、時効によって消滅する。相続の開始の時から10年を経過したときも、同様である。

第1043条〔遺留分の放棄〕

 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。

 共同相続人の1人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

第1044条〔代襲相続および相続分の規定の準用〕

 第887条第2項、第3項〔代襲相続〕、第900条〔法定相続分〕第901条〔代襲相続分〕、第903条及び第904条〔特別受益者の相続分〕の規定は、遺留分にこれを準用する。
     
   

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