なぜ被害女性は逃げないのか

別のコンテンツでも触れますが、現在の日本においては、DVの被害者女性は、その場から逃げなくてはいけません。
それは、現在の日本の法体系が、DV加害者である夫に対する排除の強制力をあまり持たないからです。
日本の警察の多くは、DVを「夫婦の問題」とし、「民事不介入」(刑事事件には積極的に介入するが、民事事件へは介入しない)を理由に帰っていってしまうのです。
警察が帰った後、妻に起こる悲劇は容易に想像がつくと思います。

となれば、女性に残された手段は「逃げる」ことだけです。

しかし、多くの女性は、「逃げる」という行為をなかなか選択しません。
以前は、この様な女性の側にも問題があるとする考え方もありましたが、その考えは誤っているということは、今は誰もが知っている常識です。

では、なぜ女性は逃げない(逃げられない)のでしょうか?

妻に対する夫の暴力は、長期にわたっており、その激しさも常軌を逸しています。
この様な状況下で、妻の側は、「もし逃げても見つかって連れ戻されてしまうのではないだろうか。」「連れ戻されれば、これまで以上にひどい暴力が待ち受けているのではないだろうか。」という心理的恐怖を感じます。
また、「子どもを抱えて、今後自立してやっていけるのだろうか」という経済的不安
また、夫を置いて逃げることで、「夫や私が恥をかく」ということに対するこだわり(そんなものは本来無意味なのですが)や、どこへ逃げたらよいのかがわからないという、情報不足
そして何より、「子どものために」という思いが、彼女達の行動を鈍らせます。

それに加えて、夫からの暴力による洗脳(私の努力が足りないから夫が暴力を振るうんだという考え)。

そして最近多いのは、「私が悪いんじゃない。相手が悪いのだから、夫がここを追われればいいんだ。悪くない私は出て行く必要が無いから、そのことを夫にわからせてやるんだ」という考えです。
ある意味、これは正しい考え方です。これも、DVの情報が正しく世の中に普及しだしたことの表れといえます(この事に対するマスコミの功績は計り知れません)。
しかし、この対決姿勢は、実は大きな危険をはらんでいます。なぜなら、腕力で絶対的に劣る妻が、いくら正論を夫に振りかざしたところで、逆にキレた夫によって、暴力を振るわれてしまうからです。

また、逃げようと試みて、最終的にそれを諦めてしまっている妻もいます。
この人たちは、何度も家出を試みましたが、そのたびに連れ戻されるという経験を持っています。
親戚、実家などに帰っても、夫が見つけて連れ戻しに来ます。外面のいい夫ですから、最初の数回は、実の親もころっとだまされます。それどころか、出てくる娘の忍耐力の無さを責めることさえあります。
そのうち、娘の行動が正しいとわかっても、今度は夫が本性を現し、親にさえ暴力を振るうようになります。そうなると、親に迷惑をかけられないということで、逃げ場がひとつ失われるのです。
その後は監視と暴力がひどくなってしまうのです。
また、警察に連絡をしても、「夫婦喧嘩」と取られ、「民事不介入」を理由に取り合ってくれません。もちろん、暴力を受けたときに、病院の診断書をもらい、その足で警察に駆け込んで、夫を告訴すれば、警察は夫を拘束してくれますが、なかなかそこまでする妻は居ません。夫も釈放後に妻への暴力をエスカレートさせてしまうかもしれません。
何より妻達は、公的機関の不親切な応対に、深い絶望感を抱きます
もちろん、すべての公的機関が不親切で不適切な応対をするということではありません。
しかし、中には、命からがら逃げてきた妻に、「あんたの努力不足だ」などと、1番言ってはいけない言葉で、暴力の渦中に引きずり戻してしまう相談員もいるということは、紛れも無い事実です。
そんな相談員に当たってしまったのは運が悪かったでは、済まされない問題です。

このように、妻達が、別れたいのに別れられない、逃げたいのに逃げられない理由というのは様々あるのです。

では、本当にこのような女性たちは逃げられないのでしょうか?

答えは「ノー」です。

どのようにして逃げるのか、その心理的な決断時期はいつなのか、どこに逃げるのか、などについては、別のコンテンツでご紹介しましょう。