じぶん更新日記

1997年5月6日開設
Copyright(C)長谷川芳典



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 日本心理学会第71回大会の会場となった東洋大学・白山キャンパスの正門。この大学は、1887年に井上円了により創設された哲学の専修学校である私立哲学館が前身となって設立された。写真上は、太陽をバックに撮影した井上円了先生像。写真下は、正門入り口の噴水。



9月20日(木)

【思ったこと】
_70920(木)[心理]日本心理学会第71回大会(3)キャンパスの中の「カルト」(1)

 東洋大学で開催された日本心理学会第71回大会の参加感想の3回目。

 大会1日目(9月18日)の夕刻には、

●キャンパスの中の「カルト」〜心理学は何をすべきか〜

という、公開シンポジウムに参加した。なお、現存のカルト宗教信者等から登壇者が危害や嫌がらせを受ける恐れがあるため、このシンポに限っては、固有名詞の使用は極力避けることにしたい。また以下に記す内容の文責はすべて長谷川にある。

 さて、日本心理学会では、今から11年前の60回大会(立教大学・池袋)でこの問題が大きく取り上げられたことがあった。この時は私はまだWeb日記を書いていなかったが、公式サイトの中の学会参加記録の中に、感想の残骸が残っている(リンク切れ多し)。そこには
会場は立ち見も出るほどの大盛況でした。オウム真理教の事件のほか、当日の朝に、日本ハムの上田監督の御家族の統一教会に絡む問題が報道され、この問題に対する心理学者の関心の高さが示されました。もっとも、単に江川さんの顔を見たくて参加した人もいたかもしれません(私もその一人?)。
という記録があり大勢の参加者があったことは今でも記憶に残っているが、その後、心理学者たちの間では次第に関心が薄れていったのだろうか、今回のシンポは、大ホールで行われたものの空席が目立ち、開始時の参加者数は50人前後にとどまっていた。

 もっとも、関心が低くなったからといって、カルト宗教の影響が低下したわけではない。ウィキペディアの当該項目にも記されているように
2006年7月28日、朝日新聞が大阪本社版朝刊において「教祖 性的暴行繰り返す 韓国発祥カルト『摂理』」、小見出し「被害信者100人超か 国内、学生ら2000人登録」と題して一面トップ及び社会面で大きく報じ、テレビ各局などマスメディアも後に続いて大々的に報じた。
ということなどもあって、再び注目されるようになり、今年6月27日付け読売新聞記事では、
教祖による女性信者への性的暴行が問題となった韓国発祥のカルト集団「摂理」が、多くの大学生を信者にしてきたことを教訓に、大阪大が勧誘の標的になりやすい1年生を対象に必修の特別講義を行っている。約2700人全員に受講を義務づけるカルト対策の講義は全国でも例がない。【以下略】
といった情報が伝えられている。

 また、北海道大で2001年と2006年に実施した学生生活実態調査(学部生20%、大学院生50%の無作為抽出)を比較したところ、
  • カルト宗教団体や自己啓発セミナーなどへの参加勧誘を受けて嫌な思いをしたことがある:21.9%(2001年)→25.9%(2006年)
  • 他者が勧誘を受けて困っているのを見たり、聞いたりした:27.6%(2001年)→36.7%(2006年)
というように、少なくとも5年前よりは増加傾向にあることが分かる(今回の話題提供者のお一人がお示しになったデータによる。但し、数値の上昇は、大学側の注意・指導が徹底し勧誘の実態を知る学生が増えたことの証しになっているという解釈もできる)。




 さて、上記の阪大ほどではないが、10年前あるいは5年前に比べれば、カルト宗教の勧誘に注意を促すといった程度の指導は、かなりの大学で行われるようになっている。しかし、

●カルトの勧誘に注意しよう!
●宗教の勧誘に気をつけよう!
●怪しい団体に気をつけよう!

という呼びかけは、いちばんダメな注意喚起の例だ、というのが今回の登壇者の共通した見解であった。なぜなら、そもそもカルト宗教団体は、自分から「私はカルト宗教の信者ですが、布教のためにあなたとお話に来ました」とは名乗らない。また、最初から怪しいと分かっているような団体だったら、近づくはずがない。

 本当に注意しなければならないのは、偽装サークルや偽装イベントの勧誘なのだが、これはそう簡単にはバレないようになっている。しかも最近の勧誘のしかたはますます巧妙になり、

●一人で歩いている人などに近づき、まず、親しい友達関係を気づいてから、対象者の興味・関心に一致した偽装サークル・イベントに誘う

という手口をとるようになっているという。そのきっかけは「道を訊く」、「一緒にアルバイトしよう」などであり、従って、一生懸命に丁寧に道を教えようとする人ほど勧誘されやすいことになる。そして、その対象者がスポーツに関心があればバレーボール、楽器が演奏できるならば音楽イベント、というように、相手に合わせて個別の勧誘メニューを用意する、というのが大きな特徴であるようだ。

 対象者のほうも最初からそういう誘いにあっさり応じるわけではない。しかし、相手(=勧誘員)から親切にされたり(=「恩」を売られる)、何度も電話をかけられると、「悪いなあ。とりあえず1度だけ」という形で誘いに応じるようになる(返報性)。そしていったんそういうものに参加すると、いままで経験したことのないような形で褒められたり自分の価値を認められたりして、そこから離れにくくされてしまう。そのあとは、対象者の変化に応じて、個別に「教化」が開始されるようになっていく。


 次回に続く。