案内 / ブログ / リンク集 / 管理人紹介 ※ お詫び ※ 家庭のプロバイダの契約を変更した関係で、 当サイトが秋から閲覧出来ない状態になっていたようです。 申し訳ありませんでした。 I am still alive now. 2011.01.08(センター試験一週間前!!) + One Dream of Two Lovers + 2010.04.13
 まるで夢物語だ。

 原色のヒーローたちが野球部に現れては、試合で大暴れの活躍を見せ、救って行った。
彼らの活躍は、最初こそ俺たちを刺激したけれど、やがて俺たちに『ヒーローなんかには
なれやしないし敵いもしない』のだと絶望を与え、そして野球部は彼らに乗っ取られた。
 彼らは町の平和だって守ろうとしていた。ワルクロ団、なんて組織と敵対し、商店街や
その他諸々の場所で衝突を繰り返していた。
 そう……世間的には『正義のヒーロー』として認知されていたに違い無い彼らなのに。
どうして俺たちの野球部なんかに関わっていたのだろう。どうして野球だったのだろう。

 なんて不思議なヒーローたちなんだろう。

 ……彼らの存在に対して疑問を抱くなら、俺の方はどうして野球部を選んだのだろう?
どうして毎日毎日汗を流して、泥に塗れて、……それでもプロの選手を夢見るのだろう?

 なんて不思議なヒーローたちに囲まれて、なんて不思議な夢を見ている俺なんだろう。

「あたし、決めたんだ。高也から、離れる事」

 綺麗な夕日が見渡せる丘で、緑髪の彼女から不意に告げられた言葉も。

 ……果たして夢物語だろうか?


                    + +                   


「リコ。お前、何て――」
「高也から、離れる事を決めたんだ」
 頭の中で反芻される、突然の決別の言葉。……いや、本当は不意でも無ければ突然でも
無かった。
 前兆なら、感じていた。今日と言う一日の大部分を、俺とリコは遊園地にて過ごした。
今度はそっちのアトラクション、その次はあっちの――そんな具合に俺を連れ回したリコ
だったが、俺の腕を引っ張る彼女の力には普段と違う『重さ』を感じた。いつもならば、
俺が『急かすな』と振り解いていたかもしれないのに。決してそんな事はさせてくれない
『何か』が、俺を強く拘束していたような。そんな気がしてならなくて。
「あたしね、高也と居ると自分がわからなくなるんだよ」
 弱々しい微笑みを浮かべながら、リコは言葉を紡ぐ。ああ、弱々しくない微笑み、って
どんな微笑みだっただろう? 今、俺が思い出せるリコの笑顔と言えば、今日一日ずっと
遊園地で見ていた『はず』の笑顔。……その笑顔も又、弱々しいものだった。
「学校をやめて、変わらない毎日から抜け出そうとしたのは自分の夢を叶える為なんだ」
 その言葉に俺は戸惑う。
「……夢? お前、そんなものは無いって……」
 かつて、夕暮れの土手で『夢』の存在を否定したリコは泣きそうな怒り顔だった。
「そう、夢なんか無い……。だから、夢を見付けようって……夢を探そうって思ってた。
……でもね」
 今はただ、泣きそうな顔。
「高也と一緒に居ると、そんな自分の夢を探す事が、どうでも良くなっちゃってたんだ」
「……っ」
 畜生、一体何なんだ。どう言い返せば良い?
 焦るな?
 急ぐな?
 慰めは、逆効果?
「……今は、どうでも良くなっていたって。自覚があるなら、これからだってゆっくりと
探して行けるんじゃないのか」
 お前には俺だって居る――そう続けようとした矢先に、
「それは、無理だよ」
 リコが即座に否定する。
「だって、高也と一緒に居れば居るほど、このままで良いって感じちゃうんだよ」
 俺の存在を、否定する。
 高也、高也って俺の名前を何度も口にしながら……否定を繰り返す。
「なら、このままだって構わないじゃないか!」
 もう、これ以上は否定されたくなくて、不覚にも投げ槍な態度を取ってしまう。
「それじゃあ、ダメなの! 今のままじゃ、高也と肩を並べて歩いて行けないよ」
「うるさい! 俺たちなら歩いて行ける!」
 否定が否定を否定して、堂々巡りに陥ってしまいそうで。強がりでも肯定的なセリフを
吐き出してみたくて……俺は、叫んでいた。
 でも、冷静になるのも早かった。しっかり言葉を伝えようと、リコの瞳を見据えたのが
いけなかった。俺はリコの儚げな表情を見てしまったから。
「わからないんだよ。夢を持って、それに向かって進んでいる高也に、あたしの気持ちが
わかるはずないよ。いつでもあたしは、高也に対して劣等感を持って付き合って行く事に
なるんだよ。あたしに無くて、高也にある、『夢』ってもののせいで」
 俺たちなら歩いて行ける――それが、俺の言い分なのに。
「そんなの……上手く付き合って行ける訳無いよ」
 俺たちだからこそ、歩いて行けないのだと。リコは断言する。
「……それで離れる、って言うのか?」
「うん……。でもね、きっと戻って来るから」
「え……?」
「夢を見付けて戻って来るから。あたしは、高也が大好きだから」
 今度こそ、不意打ちだった。
 こんな事を、精一杯の笑顔で言われたら、俺は。
「このままここに居ると離れたくなくなるし、泣いちゃうからもう行くね」
 本当に、リコを離してしまいそうで。
 ……そんな展開を、リコは望んでいたのだろうが。
「バイ……」
「待て」
 別れの挨拶を残して去ろうとしたリコを、俺は低い声で制する。

「お前、むかつくんだよ」

 振り向いたリコの表情は、驚きに満ちていた。
「言いたい放題じゃねぇかよ、さっきから。俺たちが付き合い始めた日と同じだ」
「同じ……?」
 あの時も、リコは俺から離れようとした。
「そう、同じだ。何一つ変わっちゃいない。我侭で、自分勝手で、うんざりする。それが
『むかつく』って事だよ」
 それでも、今まで付き合って来れたのは。
「でもな、あの時と一つだけ違う事があるんだ」
「何? 何一つ変わっちゃいない、って言ったのは高也なのに……」
「黙れ、強調したかっただけだ。……俺とお前は、もう別々の道を歩いていないんだよ。
付き合い始めたあの日から、同じ道を歩き始めたんだ。それは、俺の錯覚だったのか?」
「そんな事無いっ!」
 懸命に首を振るリコ。俺が求めていた、嬉しい否定。
「だけど、このままじゃ……」
 リコは、その否定さえもすぐに覆してしまおうとするけれど。
 俺には次の言葉が言えた。
「なあ、リコ。俺と一緒のものを見ないか? 目に見えるものじゃなくて、俺たち二人の
未来を」
 気障過ぎる言葉が言えるんだ。
「俺の夢をお前の夢にして欲しいんだ。そして、一緒にずっと歩いて行こう」
「高也……」
「もし、今の夢が叶ったら。二人で新しい夢を見付けよう。だから……」
 夢の中でも口にするのを躊躇うような言葉が言えるから、大丈夫なんだ。
「……だから、ずっと隣に居てくれ。俺と一緒に同じものを見よう。幸せを二人で一緒に
感じよう。ダメか?」
「……ダメな訳無い。ズルいよ高也。そんな事言われたら何も言えないよ」
 うん、大丈夫。リコは、目を少し潤ませながらも、笑ってくれた。
「でもね。あたしは、高也と一緒に歩いて行かないからね」
「あん? 何も言えない、って言った傍から何を――」
「あたしは、二人の道を走って行くんだよ。ゆっくり歩いて行くなんて勿体無いよ。……
だから、高也と一緒に同じ道を走って行くんだ。ちゃんと、引っ張って行ってね」
 ……なんだ、そんな事か。
「どうせ、リコが俺を引き摺り回すんだろ?」
 俺が冗談を口にした途端、
「打ち首で、晒し首だね」
 そう切り返して、リコは目を光らせた。数十秒前までは潤んでいるように見えたリコの
双眸は、もう乾いているようだった。
「まぁ、時代錯誤な事は言ってくれるなよ。それで、俺の『今の夢』は知ってるよな?」
「……プロの野球選手、でしょ?」
「その通りだ。まず甲子園に行って、……えーっと、ヒーローたちのお陰で手が届きそう
なんだけど、甲子園は。でも、そこから先は俺自身が活躍しなきゃいけない。スカウトに
注目されなきゃいけないんだ」
「ヒーローの連中も、ドラフト候補には入ってるの?」
「さあ、どうだかな。ヒーロー以外の選手の活躍を霞ませている事だけは確かだろうよ。
……そこで、『もう一つの夢』が必要なんだ。ただ試合に勝つだけじゃ物足りない」
 飽くまで、真顔で。俺は言い放つ。

「俺は、ヒーローになりたい」

「えっ……高也は、何色のヒーローが希望な訳?」
「違うんだよ、バカ!」
 真面目に取り合ってくれなかったリコに、調子を狂わされてしまう。
「……あー、もう良い。機会を改めないと」
「ちょっと、気になるじゃん!」
「お前が茶化すからだ」
「ヒーローなんて言われたら、イメージするのはアイツらじゃない!」
 原色のスーツに、傲慢な言動に……その他諸々って所か。
「……それなりの結果を出してから、もう一度言ってやる。きっと、それからでも遅くは
無いからさ」
「本当に?」
「安心しろ、俺の中では決意が纏まってんだから。リコだって、元通りになってくれたし
……平気だ」
 今此処に、俺たちの未来図は描かれているから。二人で、踏み固めて行けば良いんだ。


                    + +                   


 緑髪の彼女との、そんな遣り取りを終えて。我が花丸高校野球部が甲子園行きの切符を
掴み、慌しさと熱気の絶頂を迎えようとしていた、夏のある日。俺は、「生身の人間」の
チームメイトだけを率い、野球の勝負を以てヒーロー軍団を打倒した。
 前々から気にしていた彼女のバイト先。それがワルクロ団だった事が判明して驚愕し、
その線から俺は更なる事実を知り愕然とした。ヒーローとワルクロ団は日頃から共謀し、
勧善懲悪のショーを行っていたのだ。ヒーローは従うべき相手でも無ければ、憧れるべき
相手でも無い――そう判断した俺に、他の皆も付いて来てくれた。
 ヒーローたちとは違い、野球の能力だけが全てでは無かった俺たち。高らかな想いと、
時には運だって味方にし、最終的には甲子園大会で優勝するに至った。「生身の人間」の
俺たちには、どう仕様も無いくらい甘美な歓びが降り注いだ。
 そんな狂乱状態がまだ落ち着かないうちに、ヒーローは再び俺たちの前へと舞い戻り、
武力行使に及んで来た。……特撮みたいな話だが、俺がロボットを操縦して、ヒーローを
野球に続き武力でも打ち負かす事に成功した。そして今度こそヒーローは消滅したのだ。
 あれだけ世間を騒がせていたくせして、彼らは人々の記憶からも消滅した。それはもう
信じられないくらいのスピードで忘れ去られてしまった。ただ、俺を含む野球部のチーム
メイトたちの記憶からは消える事が無かったし、忘れようも無かった。


 ――季節は秋になって。
 ドラフト会議で、とある球団に指名された俺を、報道関係者たちは質問で攻め立てた。
「今の率直な心境は?」
「プロ一年目の抱負は?」
「対戦してみたい選手は?」
 有り触れた質問に対し、俺は何処までも当たり障りの無い回答しか出来なかった。特に
台本が用意されていた訳では無い。淡白な応答を好み、選んだのは俺だった。俺の本心、
それはメディアの向こう側、不特定多数の人々へ届けるには勿体無い言葉でしか表せない
……そんな気がして。その勿体無さ――俺の口を無意識に制御するブレーキ――の正体は
解り切っていた。


 俺が報道陣から解放されたのは、もう夕日がすっかり沈んでしまった頃だった。秋風に
吹かれ、冷え行く身体。それでも両足は、約束の丘へと急ぎ、走るのを止めない。もう、
ブレーキなんて関係が無かった。
「悪い、待たせちまったな。……リコ」
 息を切らして登場した俺を、緑髪の彼女は呆れたような微笑みで迎える。
「プロになるのに、そんな体力で良いの? 高也」
「流石に……最近は運動不足だったかもしれない」
 両膝に手を付き、呼吸が楽になるのを待つ。ブレーキが完全に壊れるのを待つ。
 俺があの日に伝えたかった言葉。
 俺がその日からずっと伝えたいと思っていた言葉。
 俺がこの日になってやっと伝えられるようになった言葉を。今なら、絶対。
「俺は、ヒーローになりたい。……あの日、この場所で俺は言ったな」
 彼らが着ていたような、色取り取りのスーツとは違って。他の皆と同じユニフォームを
身に纏った、身近な存在。
「甲子園で活躍が出来た。皆に援助して貰えた。プロにも行ける事が決まった。――俺の
なりたかったヒーローに、俺はなれたんだ」
 リコは俺の言葉に頷く。
「うん。……頑張ったよ、高也」
 今にも泣き出しそうな笑顔。素敵な笑顔。
「夢を、叶えたんだよね」
「ああ。いつだって何処だって、お前が応援してくれてた……俺は、感じてた」
 遠くに居るのに、近くに感じた。
 隣に居ないのに、声が聞こえた。
「でも、まだ夢は続いてるぜ」
 あのヒーローたちのように、多くは要らないけれど。
 やっぱり俺は、彩りを求めてしまうから。
 リコの緑色の髪を撫でては、抱き寄せる。

「俺は、ヒーローになれたよ。幸せ者だよ。……でも、ヒーローの隣にはヒロインが居て
欲しい。ほら、お前の事だよ、リコ」

 そう言い終えた時、リコが俺の胸で身体を震わせた。
「プロの世界は当然厳しいし、いつまで元気でやれるのか、知れたもんじゃないけどさ。
辛くたって……辛いだけじゃない、長い旅にするから。……暫くは、幸せな結婚生活でも
夢見ようぜ」
「ありがと……ありがと、高也」
 リコの両目から、涙が溢れ出す。俺の心まで染み渡って来る。何を意味する涙なのか、
語らずとも理解する。
「泣くなってば。新しい夢……見付かったんだぜ?」
「高也も一緒に泣いてよ。一緒の夢を見てるんでしょ?」
「嫌だ。ヒーローは泣かないぞ」
 嫌だと言いつつ、俺も密かに泣いていた。嬉しくて、泣けた。

 ああ。こんな時、あのヒーローたちが被っていたマスクがあれば良いのに、と思った。


                    + +                   


 春が来て、花が咲く。鮮やかに。
 俺たちの、旅立ちを。祝福する。

 なんて喜ばしい世界なんだろう。

 遠くに居るのに、近くに感じる。
 隣に居ないのに、声が聞こえる。

 なんて不思議な二人なんだろう。

 まるで夢物語だ。又は超能力だ。
 ……テレパシー。今、夢を繋ぐ。
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