高知新聞 1999年2月22日 闘う顔 今を読む
日本に定住する外国人は「外国人登録証」を常に携
帯していなければ、外国人登録法(外登法)に基づき
逮捕され、懲役刑が科せられるようにもなっている。
兵庫県尼崎市で喫茶店を経営する在日朝鮮人二世の金
成日(キム・ソンイル)さん(四七)は九年前、当時の海部
俊樹首相あてに自分の登録証を郵送。国に「返上」
することで、外登法の不当性を訴え続けている。先ご
ろは、兵庫県が登録証を八年間「保管」したまま、金
さんにも法務省にも戻すことができず、たなざらしに
していたことが分かった。人権無視が指摘される外登
法のひずみがあらためて露呈した。
外国人登録証の不携帯を続ける 金成日さん(47)兵庫県在住
外登法は人権無視 重罰規定の見直しを
突然、刑事が家に
■外国人登録法への疑問はいつごろからわいたのですか。
今は十六歳で登録手続きをするのですが、私の時は十四歳でした。当時住んで
いた宝塚の市役所で申請したのですが、顔写真を持って行くのを忘れて受け付け
てもらえませんでした。結局、写真を添えて再度申請。指定された期限の二日
だけ遅れての登録となりました。ところが二年後、刑事が家に来て出頭を求めて
きたのです。
■役所からの連絡ではなく刑事がですか。
まだ十六歳の高校生です。警察の取調室で「何で登録が遅れたか思い出せ」
と間い詰められ、怖かったですね。その時、外登法というものをバジッとたたき
込まれたように思います。
指紋押なつを拒否.
■一九八六年、指紋押なつ拒否で逮捕されたことに対して不当との裁判を起こ
しましたね。
たまたま財布を落として登録証を紛矢し、再交付を申請しなければならなくな
ったのですが、その時に押なつを拒否しました。拒否者としては全国で百番目く
らいだったでしょうか。そして、逮捕です。「強制具」で指紋を取られました。
それは、力で「在日」の人間を抑え込もうとしているやり方の象徴でした。
そんなことがあって、提訴に至ったのです。残念ながら訴えは最高裁でも棄却さ
れました。
■法改正で指紋押なつは一九九三年から、いわゆる「在日」の人たちについて
は廃止されました。
指紋押なつ問題がクリアされても外登法自体が問題です。外登法は「在日」を
治安の対象とみて作られました。法律は新しく作り変えられなくてはなりません。
ですが、今はまず現行法で登録証携帯義務の廃止と、重い罰則規定の見直し
を求めたい。
海外に行けない?
■不携帯で生活上、困りませんか。
以前は交通違反や検問で登録証の提示も必ず求められるため、車に乗る時には
神経質にならざるをえませんでした。近年は、弾力的に運用されるようにもなっ
ていますから、日常的にさほど支障を感じません。ただ、海外旅行の際、再入国
許可証を取っておかなければなりませんが、登録証なしにその許可証が発行され
るかどうか、ですね。一度も海外に出てないので、そろそろ旅行したいと思って
います。
■定住外国人の参政権闇題でもそうですが、帰化すればいいと、いとも簡単に
言い切ってしまう日本人がいます。
帰化する人は確かに増えています。しかし、逆にいまなお全国54万人以上の朝鮮籍、
韓国籍の「在日」がいると言えます。現状では自発的に帰化を選択したといっても、
それ以外に権利が保障される道がないという社会的強制の下で、二者択一した結果で
す。結局は「帰化したら」も植民地時代の同化の強要と同じなのです。
■それだから、朝鮮籍を変えない?
中学校までふつうの子どもとして周りと付き合うため、日本名の通称名を使っ
ていました。その苦々しさがありますから、外国籍のままでいることへの「こだ
わり」は一層のものがあります。当たり前に朝鮮人だと言えるような杜会になれ
ば、国籍なんて意味なくなるんですがね。
「管理」意識ありあり
■国連の人権委員会が昨年、定住外国人の登録証携帯義務の廃止を日本政府に
勧告しました。
国内の人権意識もゆっくりとですが、高まっていると思います。
法を執行する側も、外登法が人権を無視したむちゃくちゃな法律だ
との認識はあるはずです。しかし、外登法は「在日」を管理するにはまことに都
合のいい法律なので、行政当局は議論をごまかし続けているのでしょう。そこに
は住民を管理しようとする意識がありありと見えます。総背番号制が取りざた
される今、「在日」だけの問題にとどまらないのではありませんか。