1999.8.27 毎日新聞 記者の目

外国人登録法改正  大平 誠(松江支局)

「管理の本質変わらず」 むしろ国全体に拡大

 
指紋押なつ全廃を柱とする改正外国人登録法(外登法)が、通常国会
で成立した。80年に始まり、1万人の拒否者、大量の逮捕者を出した
在日外国人の闘争の成果だ。しかし、指紋押なつ全廃は、管理の一手段
の改変に過ぎず、国際的にも批判の強い外国人登録証明書(外登証)の
常時携帯義務や重罰規定の存続など、外国人政策の本質は全く変わらな
い。
 一方で、通信傍受法や住民基本台帳法改正による国民総背番号制導入
といった、日本人にまで対象を広げた管理強化策が強行採決された。戦
後54年。外国人を一貫して「管理」してきた思想が今、国全体を支配し
ようとしている危険性を強く感じる。

 90年8月。大阪、兵庫、愛知3府県在住の在日韓国・朝鮮・中国人の5人
が、外登法の抜本的改正を求め、それぞれの外登証を首相あてに郵送した。
それから9年間、彼らが常時携帯義務違反で検挙されたことは一度もない。
全員が不携帯状態で支障なく生活している。日本人の住民票にあたる
登録済証明書はいつでも発行されるし、海外旅行にも行ける。

 しかし、返上者にも不安はあった。張征峰さん(37)=大阪市=は学生時代、
警宮から不携帯をとがめられ、「ここにぷち込むことも出来るのだぞ」と
留置場を指さされた恐怖の記憶が忘れられない。外登証の提示拒否には、
依然として禁固刑を含む重罰規定が残っている。

 法務省登録課は「以前は公衆浴場の出口で外登証の提示を求め、検挙する
といったケースがあり、人権上配慮に欠けると批判された。付帯決議
の趣旨を尊重し、最近では他の犯罪捜査とともに間題になることはあっても
、不携帯というだけで官憲が踏み込んで問題にすることはない」との見解を
示している。実際、外登証不携帯での起訴件数は、96年からはゼロだ。

 付帯決議とは前回、92年の外登法改正案可決の際に衆参両院が行った
「外国人の人権を尊重して諸制度の在り方について検討し、速やかな時期
までに適切な措置を講ずること」というもの。その後、在日韓国・朝鮮人
が多く住む大阪府は、大阪市などとともに再三、国などに常時携帯義務
の抜本的見直しを柱とする要望をしてきた。
 また、国連の規約人権委員会は93年に続いて昨年、外国人にのみ常時携帯
を強いる不自然さに、「このような差別的な制度は廃止されるべきだ」と
厳しい勧告をしている。

 ここまで批判され、実態も伴わない制度を維持する目的は何なのか。
返上者の一人で、指紋押なつ拒否闘争で逮捕経験もある金成日さん(48)=
兵庫県尼崎市=は「人権だけの問題ならとっくに廃止されているはず。
常時携帯制度は形がい化しているのではなく、政府が『有事』の治安管理、
弾圧の道具として残している」と背景に言及する。外登法第1条の「外国人の公正な
管理」という法目的が、指紋に代わる管理手段を生み出す根拠なのだ。

 人間を対象に「管理」という表現を用いている日本の法律は、外登法と
出入国管理及び難民認定法(入管法)だけ。両法は、日本生まれの旧植民
地出身者3世、4世と子々孫々にまで常時携帯を強制し、再入国許可制度に
みられるように、在留を「資格」として「許可」する思想に成り立っている。
 両法の根幹にある「有事」と「管理」の思想は、日米防衛指針関連法や
通信傍受法、日の丸・君が代の法制化を急いできた政府の動きと符号する。

 特に住民基本台帳法改正で導入が検討されているICカード(情報集積回路を
埋め込んだ身分証)は、外国人における外登証に相当するものだ。
 同法改正論議の中で小沢一郎・自由党党首は「公安秩序管理のために住民票
コードを使うのでなけれぱ意味がないと発言した。
 これは国民総背番号制が外登法のように、ICカードの常時携帯を罰則付きで
強制することにつながる可能性を示唆しているのではないか。そして、IC
カードの情報容量を考えれば、指紋をはるかにしのぐ強カな管理手段になり得る。

「外登証を持つメリツトなんて私たちには何にもない。返上して本当にスッキリ
した」と張さんは言う。常時携帯で縛られることがどれほど重圧だったかという
ことの裏返しだ。そして今回、法案が国会に上程されている間にも、関西在住の
5人が法務大臣あてに外登証を返上した。目立たないが、切り替え登録の更新を
拒み、外登証自体を持たない在日外国人も大勢いる。

 外国人はとっくに総背番号化され、弾圧を“肌身に感じて生きてきた。
「管理」目的の法律の危険性を身に染みて感じている。現在、外国人登録者は150
万人以上。彼らの外登証返上行動は、「外登法」という法律による人権侵書を
存続させ、さらに社会全体に広げようとしている日本への間いかけではないだ
ろうか。

                                

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