朝日新聞 2000年5月10日 (阪神版 他)

外登法問題から日本社会を見据える 前世紀的な考えから脱却を

5.3 問われること 朝日新聞阪神支局襲撃事件から13年

外国人登録証を国に返上した 金成日さん(48)


 石原慎太郎・東京都知事の「三国人」発言を聞いて、久々にムラムラと怒り
がわいてきた。とても侮べつ的な言葉だ。イントネーションや便われる場面で
言葉は生きた意味を持つのだから、辞書に載ってますよって言い方はナンセンス
だ。
 日本では長いこと単一民族神話が言われてきた。在日韓国・朝鮮人に対して
も、同化政策で民族の持つ文化を否定してきた。そういう考え方の潮流は今も
あるし、石原発言も出るべくして出たという気がする。 日本に住む外国人は
これからもっと増える。異質なものとの共存を真剣に考えるべき時代が来てい
る。

 ■四月一日、改正外国人登録法が施行され、指紋押なつ制度は全廃された。
外登法は在日の朝鮮人を危険な存在とみなして管理するための法だった。核心
部分の登録証の常時携帯義務が残る以上、「改正」されたとは言えない。
外登法を守らないと怖い、とたたき込まれたのは十六歳の時だ。十四歳で登
録証の交付を受けた際、写真を忘れて申請期限を一、二日過ぎてしまった。
これが法律違反だと言って、二年後に突然刑事が自宅に訪ねてきた。
あの年齢で刑事に事情聴取されるなんて、大変なショツクだった。
指紋を拒否して逮捕されるまで頑張ったり、一九九〇年に登録証を首相あてに
返上したりするという思い切った抵抗をしたのも、その時の体験があったから。

この法律は日本版の「アパルトヘイト」だと言い続けてきた。社会的に温存され
ている差別も間題だけど、法律として抑圧的な制度を維持している。

■ 一方で、永住外国人に地方参政権を認める法案が国会に提出されている。
永住外国人とひとくくりに蕎っても、朝鮮人は歴史的ないきさつから日本に住
むことを余儀なくされてきた。だから、外登法の適用を根本的に改めた上で、国
政も合めて参政権を認めるべきだ。
帰化ずれぱ済むことじゃないか、といろんな日本人に言われる。だけど、我点
が何代にもわたって日本国籍を取侵しないでいる意味を少し考えてほしい。日本
社会がしっかりと開かれ、異質なものどうしが尊重し合えるようになるならは、
国籍にこだわる理由がなくなるかもしれない。でも排外的な杜会であり続ける限
り、朝鮮人の立場にこだわり続ける。

記者二人が殺傷された朝日新聞阪神支局襲撃事件。気にいらないものを力
で押しつぶそうとするやり方は、在日に対する差別的な扱いと共通しているとも
いえる。銃の乱射事件が続発している米国で銃規制が進まないのは、「力に対しては力
で」といら発想が根強いからだと思う。朝日の襲撃事件もそう。一人が死んで一
人が重傷を負ったという客観的事実以上に、自由な言論に対し、脅威を与えたと
思う。
外国人の排斥や軍事的抑止力という考え方も同じだ。例えは、朝鮮民主主義
人民共和国(北朝鮮)のミサイル間題を契機に、新しい日米防衛協力のための指
針(ガイドライン)関遵法が成立した。両国の軍事同盟の強化に、北朝鮮は脅威
を感じさらに対抗しようとする。その繰り返しでは、互いに不信感を募らせるだ
 
 個々の人聞を命を持ったものとしてしっかりと見つめず、「犯罪」や「脅威」
など一部分だけをクローズアップして、杜会をあおろうとするやり方に怒りを感
じる。在日や周囲の国々の不信感を取り除くには、まず日本政府が内外に向けて
人権と平和構築のための一石を投じるべきだ。百万のリツプサービスよりまず実
践すること。外登法の罰則もそうだが、力で抑え込むような、前世紀的な考え方
からの脱却が求められている。

ロ ロ 昨年十一月、関西学院大で朝鮮人を差別する内容の落書きが昆つかった。
尼崎市役所の男子トイレでも今年一月、人権を侵害する落書きがあった。同様な
「事件」はあちこちで起きているのだろう。金さんの経営する喫茶店「どるめん」に
は、学者、演劇家、画家、音楽家といった様々な人たちが集まる。コーヒーやア
ルコールを手に、好き勝手に議論をぶつけ合っている。そこには、日本人も在
日朝鮮人もない。互いを認めあう「人聞」がいるだけだ。 (前田貴生)

 

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