Photo Album

 

 

 

 

 

 

 

 

PHOTO ALBUM  世界のすべて

 

暗い廊下に続く部屋と その先に見える 窓の景色

それが 今私が知る

世界のすべてである

ここの家族に拾われて まもなく20年

視力はすっかり衰えた

ときどき テラスに出てはみるが、そとはとてもまぶしくて

両の前足のまわり以外 はっきりとは見えない

もう 高くは跳べない 走ることも できなくなった

あまりに長く 生きた

かろうじて 毛並みと童顔に救われてはいるが すでに体は老いはてた

 

まだ私が元気だった頃

夕暮れ時に漂ってきた あの 秋刀魚の焼けるにおいは どうだったろうか

私が獲り尽くした ゴキブリや蛾の味は

そして この生涯を通じてただ一度捕らえた すずめの断末魔は

靄がかかったように 詳細がはっきりしない

今日もここで じっと目を閉じて 過去を振り返る

 

そろそろ 終わりのときが 近づいているようだ

ただ だからといって 哀れみを受けるのは 心外である

これまで我慢を強いられたことはない

ジャッキーチェンのように家中の壁を走ったし

植村直己に負けじと網戸にもカーテンにもよじ登ってみたりもした

そして 今

私は 私の世界のすべてを手中におさめ 支配し 何不自由ない生活を送っている

一切の憂いも恐れも持たず 好きなときに食べ 眠り

誰にも邪魔されない 追憶の日々を過ごし

鋭い猫歯(人は犬歯と呼んでいる)で至福のときをかみしめているのだ

 

 

No.92 2006.08.26

きじ猫ホームズ 

翻訳:花与草兵衛

 

 

 

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