平成十八年 一月二の腕のかくやわやわと初湯かな 初雪や聾なる母の耳に降る 陽あたりて廃屋の廃燦然と 不倫なり倫(みち)ならずなりそれが何? |
二月蜜柑剥いて夫福々と無言なり 新店や先ず菜の花の向こう付け 低く来て尚低く去る凍え蝶 二ン月の花無き庭に光るもの ためいきはひとのつばさを背にたたむおと |
三月一顧だにせず猫よぎる春の墓地 少年は微熱のかをり雨上がる 俳句好き俳人嫌い黄砂降る |
四月ジャム香る四月の雨の朝の雅歌なれ 通夜の客は茶髪ばかりや朧月 葉桜や我が葬列の短かけれ |
五月老女形顎(あぎと)可憐に藤娘 五月のセスナ受胎告知の如く来る 無季 独り居の母の財布や傷無数 ベランダに薔薇病んでいる雨しきり |
六月無季 レントゲン深海のごと骨光る 六月の雨の真夜なり薔薇を剪る |
七月ボルドーのラベルのピエロ汗かいて 蟻光る漁師の町の無縁墓 手ぬぐひの隈取の口紅く夏 夏帯に蟹の帯止め旧銀座 |