感傷旅行ーセンチメンタル・ジャーニィ

したたかにも、哀れにも、人間が俎上で跳ねている・・・そんな小説です。

辟易するような、と同時にひきつれるような郷愁を感じるヒロイン森有以子の口紅は、

唇からはみだしていて、彼女は号泣する時オレンジ色のハンカチを引きずり出す。

何て、適確な視線。

そうそう、そうでなくっちゃ、と読者は舌なめずりして、

この小説のおいしさに幻惑されていきます。

肉体の生々しさ、精神と呼ぶにはあまりに卑近な心根が、ドクドクと描かれます。

子猫を抱き上げた時、その細い胴まわりが、

思いがけない強さで脈打っている、それを感じた時の、

ある種の怯みがこの小説の中にはあると思いました。

全集に納められているこの作品を久しぶりに読み返してみて、

何もかもが十分に用意されている小説だと改めて感じ入りました。

勿論、用意されているのは、この後に続く田辺聖子という作家の開花、結実です。

もっと、簡単にいえば、これ、凄い、隅から隅まで田辺聖子!(それも原液)

-2004.4.29- byUTA