携帯電話:
心の命綱 九大病院では病室原則解禁 体外式ペースメーカー専用袋開発も

 病院で携帯電話の「使用解禁」の動きが広がっている。ロビーや医療機器がない個室などに限った部分解禁が大半だが、全面禁止の病院でも、今後、解禁を検討している病院も多い。ペースメーカーを使う患者たちからは、事前調査やマナー厳守の徹底を求める声が上がっている。【清水優子、写真も】

 ◇公衆電話へ移動困難な人のため

 患者中心の参加型医療を求めて活動する市民団体「ヘルスケア・リレーションシップ・マーケティング(HCRM)研究会」は4月、300床以上の600病院にアンケートし、70病院から回答を得た。

 病院内での携帯電話の使用状況を聞いたところ、通話やメールの送受信を「全く認めていない」は50%で最多だったが、「院内の一部で認めている」(27%)、「現在は全面禁止だが今後検討」(20%)を合わせると「解禁容認派」も5割近かった。

 「全館禁止」「今後検討」と答えた病院に理由(複数回答)を尋ねると、全病院が「電磁波による医療機器への影響」と回答。ほかに▽「他の患者に迷惑」74%▽「患者の安静が保てない」43%−−などが続いた。入院中のコミュニケーション手段は公衆電話(60%)が一番多かった。

 HCRM研究会代表幹事の和田ちひろさん(32)は「公衆電話への移動が難しい人もいるし、多忙な看護師には連絡役を頼みにくい。一方的な全面禁止はむしろ隠れて使う患者を増やす」と指摘する。

 慶応大病院(東京都新宿区)は8月から、1階の待合席の一部にマナーモードで使える区域を設け、メールの送受信のみ認める。反応を見ながら徐々に区域を広げる方向だが、「電源オフ」地域も必ず設ける。相川直樹院長(60)は「外来患者は1日約4300人と多く待ち時間も長い。会社や家庭からの連絡が全くとれないと支障もある。今後は患者の安全と利便性を第一に考えながら、病室や他のフロアでも検討したい」と話す。

 九州大病院(福岡市)は昨年7月、待合室や心電図などを使わない病室で原則解禁とした。手術室や集中治療室などは除いた。同院は「いまや携帯電話は心の命綱で、友人や家族の声を聞くだけで元気や安心を得られる。マナー厳守を求めたうえで部分解禁、が妥当と判断した」と話す。

 ◇体内式使用安全距離、22センチ以上に

 こうした緩和化の背景には、さまざまな影響調査の裏づけがある。不要電波問題対策協議会が97年に出した指針は、体内にペースメーカーを植え込む「体内式」の場合、携帯電話の使用安全距離を「22センチ程度以上」とした。02年の総務省調査では「体内式」への影響が少ない、出力の小さい携帯電話の普及に伴い、影響を受ける距離は最長11・5センチまで縮まり、最新式の携帯電話では1・8〜1センチだった。

 三井記念病院(東京都千代田区)は02年1月、各階ロビーと医療機器がない個室で解禁した。独自調査で、携帯電話が医療機器に影響を及ぼすのは10センチ以内と確認。さらに、体外式ペースメーカーを使う患者のため、業者と連携して専用袋を開発した。

 医療機器の安全管理を担当するMEサービス部の臨床工学技士、加納隆さん(54)は「解禁の流れは自然だが、臨床工学技士ら専門家による綿密な影響調査が前提」と指摘する。

 ◇病院側の慎重な対応求める声も

 こうした動きについて、日本心臓ペースメーカー友の会(東京都世田谷区)の日高進副会長(74)は「最近、電磁波を防ぐペースメーカーの性能は高まっているが、電磁波の影響を受けやすい古いタイプを使い、不安を感じている人も多い。部分解禁に踏み切る際は、病院側は慎重に対応してほしい」と注文する。

毎日新聞 2004年7月20日 東京朝刊