◆10月9日 お絵描き

   駄犬(えー)

  構図をもっと考えないといけんのう、と思う今日この頃。

   ◆9月20日 雑感

  

   今週のピクル。

   公開レイプキタコレ。護衛が仕事のボディガードが、守るべき対象であるピクルに全力で殴りかかっている

   のが良い。そこにシビれる憧れる。女性の下着やらキスシーンが大写しであっても私の下半身はピクリとも

   反応しませんでしたがそれもまた良し。あ、今、ピクリとピクルをかけました。

   少年誌でのレイプ(寝取られ)という表現はタブーとされているようで、割かしメジャーな表現に思います。も

   ちろん性交シーンは描かれなかったり未遂に終わることも多いですが、主人公とヒロインの絆をより強くする

   ための山場として描かれたり、相手を完全な悪役に仕立て上げるためのシチュエーションとして描かれたり。

   重要な要素として盛り込まれるわけです。

   ただ今回のレイプはピクルに現在の常識が全く通用しないことを表現するための手段だったわけで、上記の

   理由とは全く違うわけです。愛情は必要なかった。これは勇次郎がバキの母親相手にやったことのセルフパ

   ロディなんですかね。少なくとも私は二番煎じには感じませんでしたが。

   他にはストライダムの「答エテヨ」がツンデレの台詞っぽくて可愛かったり、お前が日本にピクルを連れて来い

   よなーとか思ったり。

   あと、ラッキーだったなストライダム。ピクルが両刀じゃなくて。アッー!  

  

   ◆9月14日 雑感

 

     l `t   ,-、      _,,,..,.,,.,.,,,,__、
   .、_j  ~`しイ ) /"~ヾ"ニ==----‐''~ー‐- 、.
          `-´  ノ"´  -‐'''ー=-、._ノ  `ヽ、
              i" Y i.       \  i´~~\
              フ レ」  _,,..==、.,  ヽ :|    \
      ね   人   `~ ノ /-=、r‐、`i     !  ,.=-、 i
                (´ ノ    ̄`'" ノ    i"r''>ノ .l
      エ   間    >K    l `^",-  ノノヽ~フ´  \
               `ー、l ノ    i彡-'"",イ" .. ̄~) ,;; ヽ.
       :    じ    ,,..、ノノ     |    ィ,(::フ j.入ヾi  l
       :       ノ l ;   L  ,ノ   ノ^l;l,>,;;iilllllliii、_  .!
       :    ゃ  ゝ,y'、        /,,;ill!!''",,..=-、,ノll  't
       :      ,,...,, ノ        l,,il'" j,イニ!ニ!=`iノ   i
      ,,,、  ,__ヽ T     l  / l ノ ,/;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;|    l
   .-っ  ,-l;;;;i r''ヾ / .人  :   ∧  ノ Y´;;;;;;;::r+ロ==ノ、   ,ノ
    / /  〉ノィ   i、l  i    l ,! 〈 `ii~´l ̄,,,   ノノ,)  /
    `''"  l'  ,,..-='''"'''''=ー-=、,_」  ノ ノ、 |       j !入 ,/
        ,」-''"          `ヽー-=、___;;; u l リ リ l       _,,.,.,
       ,,i"             `ゝヽー=、- \  j / u ノ、___,,.ィ"´ ̄
   .  ,i´                `i`  `i、ヽ``ー―=''"tー-、`i、
    /                   l i ヽ、\  `ヽ|  ゝ、 `i

  

   原始人ですから。えーっと。 

   今週のピクル。バキ本編を休載して、七週にわたって繰り広げられた短編ピクルですが、いや、もうさっぱり理

   解できません。この超展開は「考えるんじゃない、感じるんだ」の世界です。「独立した話として掲載するという

   ことはつまり、バキの世界観と切り離して考えるための措置なんじゃないのか。だからタイトルからも『バキ』の

   文字を消したんじゃないか」なんて突っ込みもお構いなしの結末。繋がるんですね、バキの世界に。じゃあ本編

   中の一エピソードとして描けばいいじゃん……死刑囚はそうだったじゃん……ぬふぅ。

   今更トーナメント戦が開かれることはない(と思いたい)のですが、ピクルを倒さないことには勇次郎と戦うことも

   ないでしょうし。

   テンションを最も上げた状態で勇次郎戦を迎えるための前座。それってオリバの役目だったんじゃ。むー。   

   

   ◆8月20日 お絵描き

   わさわさ
    ラヴユーオンリー

    世界の車窓から

   まだまだ描くよ! 描くよ!

  ◆7月27日 紹介

 

   http://www.ankohouse.com/j/Game1/u_haru2baki.html

  

   おおきく振りかぶっての二次創作ゲーム。クソレフトこと水谷を操作して、どこまで距離を延ばすことができるか

   競う横スクロールゲーム。操作やルールは単純ながらはまると病み付きになります。癖になりますよ。ちなみに

   現時点で記録二位の「デスノートにクソレと書いても効果なし」は私です。えっへん。

 

   ポイント。

   ※基本は高速飛行。理由は時間短縮のため。画面の右端中央付近を飛行しましょう。これは障害物を避けるため。

   ※高速飛行中はハートマークをとっても5ポイントしか加算されません。つまり、ハートが大量に出現した場合は

    速やかに高速飛行を中止して通常状態でとりましょう。これで通常通りの10ポイントです。減速の最中でも

    6〜8ポイントになります。コレが結構おおきい。少しでも満腹に近づけましょう。

   ※栄口が発生してもすぐにはとらず、高速飛行で栄口を引っ張ってきましょう。引っ張って引っ張って、空腹間際に

    なったときゲット。満腹の時にとってももったいないので最大限に活用しましょう。

   ※空腹になってもすぐにゲームオーバーにはなりません。水谷が落下し続け画面から消えたときにはじめてゲーム

    オーバーとなります。落下の最中ハートをとればまた、飛行を再開できるのです。信じて待ちましょう。

   ※空腹間際になれば画面左端、最上部に移動しましょう。ハートをキャッチするためであり、少しでも滞空時間を

    稼ぐためです。逆に言えば画面右下の隅で空腹状態なのは不味い。生き残りのチャンスが確実に減るわけで。

   ※以上を繰り返せば1000〜1500は堅いと思います。あとは、空腹のスピードが速まる後半戦に栄口が連続出

    現してくれれば3000も夢ではないのかも。

   ※クソレのママは可愛い。

   

   ◆7月22日 お絵描き

   

    「おおきく振りかぶって」より篠岡千代。あと、私はクソレ(水谷)が好きですわい。


   ◆7月20日 雑感

 

   生きております。リヴフォーエバー。で。

   

   >>更新楽しみにしております。

   八月頭ごろから更新を再開できそうな雰囲気です。どうやら七月一杯は手の休まる暇がないようですので、あと

   もう少しお待ちいただければと思います。平にご容赦ください。

 

   そうしてバキですが。やけに身長の高いヒゲ面の囚人は放置ですか? 疑問をもつと同時に「アンタら素人さんは

   しらんでもいいことですがな」としゃがれた声が聞こえました。あとそうですね。アイアン・マイケルも出所させてやれ

   よなー。所長が非合法な方法を使ってまでぶちのめそうとしたんですし。このことが明るみにでた方が大問題。あ

   とティラノサウルスといえば安達祐美主演の映画「レックス」思い出しました。 

 

   ◆6月20日 らき☆すた小ネタ

 

   オタク向け作品といえば二次創作同人。そして二次創作同人といえば性表現。つまりエロです。この方程式は例え

   全知全能神の力を持ってしても覆しようがないわけです。エロパロやら801という言葉が存在し、しっかりと市民権を

   勝ち得ていることからもそれは明白なのです。多分。

   で、その二次創作作品につけられているタイトルですが。大まかに分けて3パターンだと思います。

 

   1、作品タイトルや台詞そして主題歌タイトルをもじったもの

   2、古典小説のタイトルや俗語などと掛け合わせたもの。もしくはそのまんま
   3、完全創作

 

   1が最もメジャーな命名手段でしょうか。割かし簡単にアイデアが出てくる上に、お客さんにもアピールしやすいから

   でしょう。その分、つまらないタイトルならば凡タイトルの山に埋もれる可能性や他とかぶってしまうも高いのですが……

   今思いついた例 「萌え萌えでしょでしょ?」 「俺たちは登り始めるエロイエロイ坂道を」  

  

   2は二次創作元以外に作者さんの持っている知識と掛け合わせて相乗効果を狙います。ミクスチャーです。プログレッ

   シブです。おそらく1の手段では安直過ぎて良しとしないが、読者に判りやすさも残しておきたいと考える方が用いる

   手段ではないでしょうか。その際には、流行のポップミュージックや掛詞が材料として用いられることが多いと思います。
   今思いついた例 「粉雪(kanonの二次創作。もちろんレミオロメン)」 「灼眼のシャナに顔射だな(ダジャレ)」

  

   3は千差万別ですね。突拍子もないものがあればカッチリはまっているものまで。センスが試させるハイリスク・ハイリ

   ターン形式ですな。サークルの発刊番号そのままの順に本のタイトルが振られている場合もあるようですね。

   えー、最後に、今夏それなりの数が発刊されるであろう、らき☆すたエロ同人誌のタイトルを適当にいくつか予想して

   本日の〆にしたいと思います。

 

   すぺ☆るま(本命)  もってけ!ヴァージン(対抗。B面は『かえして!ヴァージン』)  ふたご姫(大穴。かがみとつかさのズーレー)

 

   おつかれさまでした(えぇー)。

    


   ◆6月12日 お絵描き

   

    反転。


   ◆5月4日 涼宮ハルヒSSというか小ネタ 【ないしょな二人】

 

   「どうしたのよキョン、さっきからそわそわして。見ているこっちが落ち着かないわ」
   「ああ、ハルヒ。少しばかり気になることがあってな。どう対処していいか悩んでいるんだ」
   「ふふふ、だったら何があったのか言ってみなさい。この涼宮ハルヒがどんな問題でもスパッと解決してあげるわ」
   「そうか……じゃあお願いしようか。早速聞いてくれ」
   「うんうん、素直なのは良いことよ。さぁ、どーんときなさい」
   「実は大きな声じゃ言えない恥ずかしい話なんだが。最近、こえすぎたかなと思ってさ」
   「……」
   「ちょっとばかり気になってな、どうしたもんかと思案していたんだ」
   「……」
   「俺のパブリックイメージに関る重要な、いや、そんなにたいそうなもんじゃないとは思うがな、ここはひとつ……ハルヒ?」
   「ちょっとばかりですって? こえすぎた、なんて今更何言ってんのよ。遅すぎ。入学した時からそうだったじゃない」
   「……マジでか」
   「大マジよ」
   「そ、そうだったのか。俺だけが無関心だったとは。ううむ、由々しき自体だな。早急に改善を図る必要があるなあ」
   「はぁっ!? 今のままでいいじゃない。変える必要なんて微塵も見当たらないわよ。皆に違和感を与える恐れだっ
   てあるわ。ううん、間違いなく与えちゃう。下手すると暴動起きるわよ。だから『キョン=こえ すぎた』このイメージを
   覆すなんて禁止、絶対に禁止! モチロン恥ずかしがることもないわ。変更なんて天が許してもあたしが許さないから」
   「つまりそれはアレか。長門は無口キャラ、朝比奈さんはロリキャラ、古泉は謎の転校生キャラを維持しているように
   俺にも『こえすぎたキャラ』を維持しろと言うことなのか? ……わかった、やってやるよ。見ていろよハルヒ」
   「ごちゃごちゃ言わないの! バカ! ずっと今のままでいいんだから。あとキョン、あんた太りすぎ。デブッ」
   「ええー!?」

 

 

 

   ◆4月22日 涼宮ハルヒSS 【かよわい絆はかない想い】

       

    平成十九年の三月中旬のある日です。

    その日、かねてよりの私の頭を悩ませていた謎がようやく消え去ったのです。偶然の結果めぐり合った謎は

   頭の片隅に図々しくも居座り続け、絶えず私を刺激し続けてきました。何をしていても心の片隅で、出番

   はまだか、とでしゃばる隙をうかがっています。

    突然抱え込むこととなった懸案をいつまでたっても退治できない。そんな日々にやきもきして、普段の生

   活をまるごとほっぽり出して謎解きだけに没頭したくなった瞬間もありました。

    煮え切らない状態にもはや我慢ならなくなるほど時間が過ぎて、ようやくけりをつけることができたのです。

   真相の上に積み重なったほこりを、閃きは容易く取り払い照らし出します。道は切り開かれて、突風が吹

   き飛ばしたように不可解はどこかへ行っていました。

    どれだけの時間を思索に費やし、季節が通り過ぎたでしょう。一つ二つでは数えたりないのです。ですから

   晴れることはないと思われていたもやもやが消え去った時には、これでもかというほどの清々しい気持ちを覚

   えました。

    ただ落とし穴がありました。その奥に隠されていたカラクリは奇怪な謎とは裏腹、ひどく単純で幼稚なもの

   だったのです。真相を知った私の中に巻き起こった感情といえば、氷解の疑問から導き出される歓喜とは

   程遠い、落胆に似た納得だけでした。広大で真っさらな空間に一粒だけぽとりと落とされた感覚に、手を

   打ち合わせて驚嘆することもなく、なるほどね、とこぼしただけです。空虚でくだらないとさえ思いました。

    じれったい思いで過ごした年月とは見合いそうもないが、さりとて残念な出来事でもない。謎解き自体は

   有意義だった。自分の感情に片をつけると、謎の存在そのものを葬って以前よりも仕事をこなすよう決めま

   した。

    だからでしょうか。楔を打ち込んだあの日から一週間が過ぎて、定例会議を終えて戻る道の最中、ここ最

   近森さんずっと嬉しそうですね、いいことあったんですか、とメンバーに尋ねられた時、私は驚きました。そんな

   まさかと思い、一旦足を止めて唇の形を指でなぞって確かめると、浅い皿の底のような曲線を描いています。

   傍目から見れば間違いなく微笑んでいるように見えるでしょう。目元もきっと。

    人の流れにまた乗りながら、機微を悟られないようにゆっくり時間をかけて原因を探します。謎解きに縛ら

   れていた抑圧からの解放でしょうか。

    まさか私は年甲斐もなく浮かれて、自覚さえもたずにいたのでしょうか。嘘をついてもしかたありませんから、

   己を恥じながら事実を認めます。よほどひどかったんでしょうねとたずね返すと、ひどくなんてありません、それ

   はもう至福の笑顔ですよ、毎日充実している様な。と評されます。噂好きで、あいつはどうも大げさだね、と

   語られるメンバーの言うことですから信じられたものではありませんが……

    のめりこむほどではないと思いながら、知らぬ間に心へと刻み付けられていたのでしょう。表情はおろか雰囲

   気や言動からもにじみ出ていたかもしれません。もっと自制して歩かなければ下の者にも示しがつかない。デ

   スクへと戻り、私が漏れたあたりをつけている間も追求をやめないメンバーの騒ぎ声を聞いて、他のメンバー

   が寄ってきました。曰く。

    ――あの森さんがニコニコ顔で仕事しているんですよ。移動の際にはステップを踏んで華麗にターンを決めも

   する。背中に「理由を聞いてみて、早く聞いてみて」と大きく書いてあるんです。信じられない。

    そう聞こえてくれば、まさかつい先ほども、なんて考えます。

    らしからぬ行動だからでしょう皆大盛り上がりです。あぁ私も見ましたよ、と嫌な合いの手さえも交えられ

   ます。

    藪をつついて蛇を出すわけにもいかず、いつか静かになるでしょうと放っていましたが、気付けば好奇の眼

   差しばかりが増えてこちらへと注がれ、誰も自分の持ち場に帰ろうとしません。

    これは、退屈を持て余したメンバーの暇つぶし材料とされることの予兆か。娯楽に餓えてフロアを徘徊し、

   人を茶化して羽目を外すような年頃でもないはずです。「いいかげん戻りなさい」と一睨みしますが、どうも

   皆獲物を逃すまいとしているのか収まりません。次から次につられてまた人が寄ってきて、説明はその度大

   げさになっていきます。

    視線にかまわず無言を貫いていましたが、思う以上に興味をそそる話題だったらしく、しばらくすれば私は

   取り囲まれて、話の種を提供する段取りとなっていました。

    休憩時間にはまだ少し早いのですがメンバー間には既に雑談ムードが蔓延しています。ネクタイを緩め

   ると机の上にだらしなく伸びる者がいれば、もう当番の手によって紅茶と茶菓子が席に用意されていま

   す。おもちゃにされては面白くない。きっかけを作ったメンバーも気楽なもので、飴を頬張りながら急かしてき

   ます。

    娯楽の要素なんてかけらもないから、期待にはそえないわよ、と前置きすれば森さんなら大丈夫と無責

   任なまでのなぐさめに促されます。幾度も暗に否定しますが受け入れられない。

    観念するべきでしょうか。疑問をいつまでも自分の気持ちの中にしまっておくことはできません。誰かに向

   けて吐き出したい本能があります。考え方如何によってはまたとない機会でしょうが、私の口元の様子が

   穏やかでない理由はひどくいびつではないかと思います。オチだけ明かして解散させればいいのかもしれませ

   んが……いいでしょう。

    私が口を開いたのは、なるたけ言葉を選びながら喋ろう、邪推されるようならすぐに打ち切ってしまおうと

   決めてからでした。

 

 

 

    機関に所属する古泉一樹。今は外出しているのですが、私がその古泉の立ち振る舞いに引っ掛かりを

    発見したことがきっかけです。去年の今頃でした。

    その日私は、たまたまトレーニングルームに設置されている自販機の前に立っている古泉の姿を目の当たり

    にしたのです。トレーニングを終えたばかりのようで、半そでを肩までまくり、額からは汗が伝っていました。硬

    貨を投入する瞬間から、銘柄を選択するボタンとボタンの間を指が迷い、水分補給のジュースを飲み干し、

    缶を捨てて角に消えていく間までの数分。私は衝立の陰に身を潜めて、古泉の一挙手一投足を見逃すま

    いと考えていました。古泉の動きに釘付けとなっていたのです。

     たった今、日常から非日常へと足を踏み入れた。自分の内に張られている白く細い糸が緊張し、そう教え

   てるようでした。

     ある決まった条件下で古泉の動作にはほんの数秒、わずかなとまどいが生れるのです。財布の中で何枚

    残っていたのかもわからない硬貨や、どこかにつっこんだまま忘れた切符の在り処を探すような意識下のとま

    どいではありません。もっと原始的な、無意識のうちに行う情景反射に似たものです。

     よどみのない動作は途絶え、不審なそぶりを見せてからまた日常へと溶け込んでいき、いつしかまた繰り返

    します。

     街中を歩いていると、意地の悪い友人から大きな声で呼び止められた小心者の姿を思い描いてもらえば

   いいかもしれません。頭から背中までぴくりと震える様子は、ささいな動きですが後ろから見ているとこっけいな

   ほどです。

    硬貨を投入する瞬間だけではありません、駅の改札口を通過する時や、部屋のドアーを開錠する時も同

    様でした。

     ここで一息つき、ちなみに誰か心当たりのある人はと周囲を見回してから、ちょうど飲みやすい温度になった

    紅茶でのどを潤します。メンバーは互いの顔を見合わせます。隣同士から、端と端の者同士まで次々視線が

    交錯し絡みあいました。

    しかし誰もが初耳だったようで、私の観察眼に感心するか、古泉にそんな癖あったのかと疑惑を抱くのみで

    す。諜報活動も行う機関員に向けて、探偵のようだと称して褒め言葉と拍手を贈られてもいかんせん喜べな

    いのです。

     ちんぷんかんぷんだが説明は理解している、だがそれと私の笑顔がどう関係あるのかと言っています。余計

    急かされる結果を招いただけのようで、人払いはできなくてもどうにか抜け出せないものかと考えながらしか

    たなく続けます。

     最初、私はこっそり面白がっていただけですが、あまりに毎回繰り返すので次第に好奇心が強くなってきま

    した。誰かに打ち明けるよりも先に我慢できなくなり、原因を突き止めてみようと思ったのですがこれが難航し

    ました。

     四六時中古泉と一緒にいるわけでもないし、現場では似たシーンをまた垣間見るだけで実りに欠ける。地

    道に、要点をピックアップして共通点を見つけることから始めようにも、どうも絞り込めない。

    屋内屋外といった場所によって影響されはしないようです。昼夜の時間も問いません。前触れもなく突如

   表れるのです。また古泉以外の人物から引っ掛かりを覚えたことはありません。

    メンタル的な発作の類かと思ってもみました。仕事が仕事ですから、重圧に耐え切れずストレスによって体

    調を崩す例も報告されています。機関内にはそれ専門のスタッフが常駐し、古泉のような超能力者にはカウン

    セリングの時間が設けられています。外部医師に委託する場合もあります。もしかするとずっと深刻な問題な

    のかと懸念を抱いたのですが、医師に伺っても古泉に症状や傾向は認められないそうです。

     手繰り寄せるための一本の糸さえ見出せない。いつまでたっても泣き止まないと知っている赤子をあやすよ

    うなもどかしさがありました。無意識の動作ですから本人に尋ねたって明確な答えは返ってこないでしょう。あ

    ざ笑うかのようにつきまとう謎にただ降参するのはしゃくでしたから。何故こうも惹かれるのかわからないまま、

    いつまでかかったとしても、独力で点と点を結び付けみようと私は観察を継続しました。

    「そして――」

    「ただいま帰りました。何やら盛り上がっているようですね、僕も宴に加えてもらいたいのですが」

     事の発端となった人物がやってきました。片手を挙げて挨拶します。後ろには運転手として同行していた

    新川の姿も見えます。

     おかえりなさい、お疲れ様の言葉に迎えられます。労いの言葉感謝します、おかげ様で……なんて受け答

    えしている間も古泉は笑顔を絶やしません。が、普段は休憩室にいても散り散りになっているメンバーが、一

    箇所に集って顔を寄せ合うようにしている。しわぶきひとつなく私の話に耳を傾ける光景を珍しく思っているよ

    うです。

    「古泉、あなたの話をしていたのよ」

    「僕ですか? 怖いですね内容を聞くのが」

    上着を脱ぐと背もたれにかけて、顔を斜めにすると天井に眼を投げました。深く息を吐いてもたれかかると

    そのまま椅子からずり落ちそうでおっと、と座りなおします。自覚症状はなくてもやはり学生業と機関員の兼

    務は堪えるのでしょうか。疲労がたまっているようです。

    「ほら、ジーンズの件よ。ちょっと前にでも教えてあげたでしょう」

     これだけでも十分伝わったようで、古泉は眉間を指で押さえてもみほぐします。どうも触れられることを好まな

    いようです。

    「……ずいぶんまずいタイミングで帰ってきてしまったようで。どこまで詳らかになったのでしょうか」

    「まだ序の口よ。改札や自販機の前での挙動不審な姿に私が興味を持った。我慢できず密かに探ってみよう

     と決心した。その説明が終わったばかりで原因は明らかになっていないわ」

     そこが一番重要な気がするのですけれど、困りましたね、とぎこちない調子で両の掌を上にします。

    「その先は秘密にしておきませんか? 少しばかり情けないエピソードですから、どうかお願いしたいのです。

    それにまだあの癖はちっとも治っていないんですよ。もう広まってしまった後ですけれど、必要以上に注目され

    てしまうと恥ずかしいので。これからは気配を確かめてからジュースを買わないといけないなんて、とてもとて

    も気が休まりません」

     古泉も覚悟していたでしょうが、周囲はそれじゃあ面白くないだろう、自分をさらけ出せよという非難の声ば

    かりです。確かに聞く側からすれば、今、お預けをくらってはたまらないでしょうね。

    しかし古泉は知られたくない。私は喋りたくない。丁度いい。休憩時間の暇つぶしの一環だから、どうせ明日

    になれば話題に上ったことさえほとんどのメンバーは忘れているでしょう。ならばここで煙に巻いてしまえばもう

    こちらのものか。

 

 

   「いいわ。じゃあここまで。私だけが頭をひねっただなんて損だしね、後は各自知恵を絞って考えなさい」

    お開きにしましょうかの言葉と同時に、予想通り一斉にブーイングが沸き起こります。

   「誰かが出した答えを聞いて待つだけのつもり? それに教えてあげないなんて言っていないでしょう。今は駄

   目。ヒントが出たでしょう、ジーンズ。私はノーヒントの状態から推理を始めたんだからコレだって譲歩している

   形よ。もちろん真相にたどり着いた場合ぼかしたりせずに正解だって認めるわ」

    まだ文句を連ねるようですが譲るつもりはありません。理由は他にもあります。先ほどのあまりに機関員とし

   て緊張感にかけただらしない態度。涼宮さんの精神が安定するにしたがって危機感を忘れているようですが、

   それを乱そうとする輩も多く存在します。敵対勢力を排斥することが本分にさえなりつつあるのですから。不要

   な弛みと馴れ合いを絶つためにも、享受するばかりの姿勢をこの機会に改めさせます。

   「助かります」

   「私のほうにも考えがあってね。意見の一致をみたのよ」

    誰かが挙手しました。きっかけとなったメンバーでした。笑顔は推理をする上で必要になるんですか? と言

   います。

    古泉が眼を瞬かせます。そう、古泉は居合わせていませんでしたね。この話の起点だから外せないポイント

   なのかどうか聞いているのよ、と付け加えました。一拍空けてあけてから、

   「はぁ」

    気の抜けたようなあくびのような声を出す古泉。きっと意外に思っているのでしょう。

    単純にここしばらく満面のそれとは縁遠かったですし、古泉の中に笑顔の私というイメージがないのかもしれま

   せん。実際部下には厳しくあるべきだと、そのつもりで接してきました。

    それに私が指摘した時は、閉鎖空間での報告を受けるついでに二言三言述べただけですから。あの時ばか

   りは間違いなく笑顔でなかったと断言できます。我が事ながら意識になかった事実を指摘された古泉のひど

   くうろたえる姿が思い出されました。回答を求めているのか視線をこちらによこしてきます。

   「……よっぽど嬉しかったんでしょうね、私は。笑顔だったなんて認めたくないけれど」

   「でしょうねって、自分のことなのに。自覚してください」

   「だから混乱の真っ只中よ。さっぱり整理できない」

   「堂々振舞っているようにしか見えませんよ」

    そんなつもりはないのだけれど。

   「直接の関係ないわ。私が浮かれていただけなんだから。それよりも古泉の行動の謎を探りなさい」

    これ以上聞いても仕方がないと判断したのか一旦、皆、黙ります。真面目に思惟にふけっているようで誰も

   がどんどん難しい顔つきとなり、紛らわせるように机を一定のリズムで小突いたり、髪をかきながら部屋の中

   をせかせか往ったり来たりします。なるほど、物音はしますが無駄口を叩こうとはしません。もしや杞憂だった

   かと思いましたがまだまだ。知恵を絞ってじっくり挑んでもらいます。

    私は飲みかけの紅茶をすすりながら、ぼんやりと古泉たちを視界に捕らえ、つい最近まで頭を悩ませていた

   懸案と、自身がこれまで言った内容を順になぞっていました。

    古泉の不審な動きや、直感的な閃きに救われるまで謎と格闘していた時の、あの、脳を外へと押し出され

   るような感覚といった、この空間を作り上げている要素がそろって甦ってきます。

    派手な事件ではありませんが私の関心を引くには十分でした、そしてそれが膨れ上がった結果この時間を

   もたらしたのですから不思議なものです。

   自分の手で紅茶を継ぎ足しながら時計の針の動きを追います。解決済みの私は手持ち無沙汰でほかに

    することもありません。

 

 

   

    ややあって同じく暇を持て余し気味だった古泉が口を開きます。いかにもこともなげに。

   「ヒントはいかがですか。きっと重要な手がかりとなりますよ」

   「あら、いいの? 自分の首を絞めることになるのよ」

   「サービス精神旺盛なんですよ」

    退屈に耐えかねたのではなく心からそう言っている様子でした。古泉が席を立ち上がってこちらにやってくる

   と耳打ちしてきます。

   「奇妙なものですね。知られたくないようで知られたいんです。変な奴だと言われたのに、嬉しいようなこそば

   ゆいようなあの気持ちに似ています。加えてかけがえのない同志がうんうん唸っている姿を見ると、どうも手を

   差し伸べずにはいられません。ひょっとすると道化師となって人に娯楽を提供することが病み付きになったの

   かもしれませんね」

   「じゃあ今度はあなたが死体役になりなさい」

    二人でこそこそ喋っているんじゃないよ、というメンバーに、

   「失礼。では無駄なことは言いませんから聞き逃さないでください。さてジーンズなのですけれど。僕が機関の

   仕事で初めて得た給料で買ったのが何を隠そうジーンズなんです。中学一年生になって、生意気におしゃれ

   になりたかったんですよ」

    古泉は続けます。給料が振り込まれる口座を持っていなかったものですからわざわざ開いたんですよ。郵便

   局に判子と千円札を持って行ってね。口座を作りたいんですけれど、と窓口のお姉さんに伝えるだけなのに、

   ずいぶん緊張したことを覚えています、できあがった通帳には頬擦りしたくらいですよ、なんて饒舌なまでに思

   い出を語っています。

   「念願かなってジーンズを手に入れて。機関に来る時しょっちゅうはいていましたよ、覚えていませんか? 成

   長期を見越してわざと大きめのサイズを買って、丈も詰めず、折ってはいてた黒っぽいジーンズですよ」

    誰かが、あぁ、と言いました。私はお世辞にも清潔そうに見えないジーンズを思い出しました。

   「両膝の部分なんて翌月には破れてしまって。どこもかしこも穴だらけだったのですけれど接ぎもせず、逆にそ

   れが格好いいと思ってはき続けたんですよ。ついには新川さんにだらしないと注意されちゃいましたね。本当

   にボロ雑巾と見間違うくらいまでお世話となりました。僕が高校へ入学しても現役だったのですけれど、まぁ、

   転校と同時にイメージの都合で引退しまして。今はタンスの奥でぐっすり眠っています。

    つまり、あのジーンズ無しでは僕の機関生活が語れない位です……さて今の話を加味してもう一度最初か

   ら練り直してください。重要なキーワードが含まれていました」

    パン、と激しく膝を叩く音が聞こえました。若い男のメンバーです。

    ――わかったよ、ジーンズのチャックでアレをはさんだんだね! 相当恥ずかしいからね!

    その場にいた全員が呆気にとられてから、ケラケラと笑い声が起こります。

   「ははっ、残念。違います。前半の展開がすっぽり抜け落ちていますよ。でも狙いどころはあながち間違いでも

   ありませんね、その発想であたっていけばいずれ事件の輪郭が鮮やかになってくるかと」

   「やぁ、こんにちは。一樹君、ジーンズのチャックでアレをはさんだんだって? 痛いよね、わかるよ。持つべき

   ものは友だな、色んな意味で」

    遅れてやってきた多丸圭一と裕の姿が見えます。先ほどの波を飲み込むような悲鳴交じりの笑い声が起こ

   ります。

    圭一の方は席にどかりと座り込んで「疲れたねえ。お茶をもらえるかい」と言っていますが、裕は大きな荷物

   箱を抱えているのにも関らず欠片も疲労していません。箱を撫で回すと中身を取り出します。もしや、あれは

   苦痛の原因ではなく元気の源なのでしょうか、休憩時間にどこまで行って一体何を持ってきたのか。

   「wiiを手に入れたんですよ。ほら、ニュースでもしょっちゅう取り上げるくらい大人気でしょう。どこへ行っても品

   切れだったものでついには予約までしてね。入荷を今か今か、と待っていましたが店から連絡があったので、

   近場ですからさっき抜け出してきてようやく!」

    喜びを押さえ切れないのでしょうか、多丸裕は「いやあ楽しみだ」などと鼻歌を口ずさんでテレビと本体ケ

   ーブルを接続します。セッティングが終了し、スティック型のコントローラを操作するとゴルフゲームが始まりま

   す。裕の盛り上がりに引っ張られて、次第に興味と雰囲気は推理からゴルフへと移行していきます。

    一通りコースを回り終わると裕が隣の席へとプレイを勧め、コントローラが端から順に巡るうち、一樹君もどう

   だい、とお鉢が回ってきました。

    では、と古泉は画面正面に陣取り、ストラップをはめて軽く素振りします。本人の好きなジャンルですから目

   の奥に光が宿っているのはわかりますが、どうもギラついてやまないほど楽しみなようです。最も簡単なコ

   ースが選択されます。

    やけに入れ込む性質ですから、今は上下に変動するメーター値以外は視界に入ってこないようです。シ

   ョットの方向を決める際、必要もないのに体ごとそちらに傾くものですから噴出して手を叩く者がいたのですがそ

   れさえ意識の外。

    一打目は、メーターのピークを狙ったつもりが指と意識にタイムラグがあるせいで、結果半分もたまってもい

   ない状態で放たれました。ミスショット。二打目はそこをクリアしたものの方向が正反対でバンカーへ一直線。

   どちらも素人とはいえお粗末なものでした。本気を出します、なんて言っています。

    必要以上にぶんぶんと振り回しながらテレビに近づいていくので、予想される事態に備えて身構えます。古

   泉の内面的な昂ぶりも最高潮のようですから、そろそろでしょうか。

    次のショットの際に勢いあまって手首からすっぽ抜けたコントローラは、幸い誰にぶつかることもなく隅の観葉

   植物まで弧を描いて飛んでいき、鉢の中に隠れました。古泉はぽかんとしていましたが、すぐに身を縮こませ

   るようにしてコントローラを拾いに向かいます。

   「ヒートアップしすぎたね、どうなるなっちゃうのか冷や冷やしたよ」

   「壊しちゃ駄目だよ、それに危なっかしいね。もっと落ち着かないと」

    圭一と裕が笑いながらたしなめます。

   「すいませんでした。集中すると無意識のうちにやってしまうんです。アナログゲームでもしょっちゅう駒を指か

   ら滑らせたり、度を超えて長考するものですから相手から怒られたり。早急に改善しないといけません」

    コントローラについた土を払い、頭をかく古泉。そんな簡単に変えられるとは多分、圭一も裕も本人も思って

   いないでしょう。

    ゲームに参加せず黙って立っていた新川が、ふと口を開きます。

   「ゲームも一区切りついたようですしよろしいでしょうか。実は今日、携帯電話を新調しまして。もうずいぶん長

   い間使っていたせいなのかナンバー……何と言いましたか、そう、運悪くMNP適用外だったので電話番号が

   変更となりました。全員集合している今のうちに新しい番号をお教えします。ご準備願えますか」

    新川が言い終わるよりも先に、皆携帯電話を手にしていました。用件は一つでしょう。転送の手段はいくつ

   もありますが口頭で行うようです。

   「準備はよろしいですかな」

    いつでも、と言います。

   「すいませんもう少し待ってもらえますか。ええと、どこにやってしまったのか」

    古泉がポケットを叩いています。携帯電話を手にしていないのはもう古泉だけです。年かさの者を待たせて

   いる状況に焦りがひどくなり、昨日の時点ではあったのですけれど、就寝前に本部へメール送信したんです、と

   体中のポケットをまさぐって次に鞄を漁ります。

   「肌身離さず持っているのに本当どこへ置き忘れてしまったのか。メモを取ってあとでデータに移しておきます。

   お願いします」

   「一樹君これを使ったらどうだい」

    wiiのコントローラを携帯電話に見たてると、耳に押し当てて裕が言いました。それに乗っかった圭一と即

   興のやりとりをします。

   「もうっ。勘弁してください」

   「ははは、今日は全くいいところがありませんな。では、080−……」

    しゃがれた声でナンバーとメールアドレスが読み上げられ、登録が完了すると、気の早い者はもう新川にメ

   ールを送っていました。

    私はため息を一つつきます。皆察したようでめいめいの仕事に戻ります。休憩時間はとうに終わりを告げて

   いたのですが誰も触れようとしませんでした。

    誰かが、しかし携帯電話どこにおいてきちゃったんだろうね、と言いました。新川は「車の中を見てきます」と

   車の鍵を持って部屋を出て行きます。

    機関の連絡は基本的に携帯電話を通じて行われます。閉鎖空間の発生などいち早く情報を手に入れる

   ためにはやはり通信機器に頼ることとなり、情報改変の内容によっては早急な対応と人員数が求められます

   から、どうしても全員分のアドレスが必要不可欠となります。

    つながらなくなってから初めて機種変更による不通だと理由を知り、後日改めて相手の番号を知っては遅い

   のです。新川が切り出したのもそういった理由からでしょう。前線の超能力者につながらないなどあってはなら

   ないのです、仮のものでも今日中に用意させなければなりません。

   「まったくです、繕う言葉も見当たりません。しかし本当どこにやってしまったのやら。見つかるとは限りません

   から買い替えの準備、いや、それよりもまず悪用されないよう電話会社へと連絡をするべきでしょうか」

   「昨日まであったんでしょう。なら枕元にでも置きっぱなしじゃないの」

   「いえ、朝出かける時忘れないようしっかりと」

   「じゃあ学校の教室じゃないの。次に部室」

   「学校に置き忘れていたなら友人が回収して明日手に入れるのがベストなのですけれど。念のため学校に

   連絡をいれておきます。それと今日は団活動に参加していません、いえ正確には顔を出してたのですが五

   分もしないうちに部屋を出ました」

   「疑うほどでもないってこと? ふん……」

    新川が帰ってきます。

   「後部座席の下から助手席のダッシュボード、念のためトランクまでくまなく探してきましたが見当たりませ

   んでした」

    こちらの線も消えた。他人の手に渡る事だけは避けなければなりません。誰だってそうなのですが、仕事上

   古泉の携帯電話には公に出来ない秘密もあります。敵勢力の手に渡ったとなれば

   「そうでしたか、ありがとうございます。せっかく春の季節なのに、幸先悪いなあ」

   「疲れているのかもしれませんな。でも特に病むことはありません。働きづめでしたから、少し休暇をとられては

    いかがでしょうか」

   「でも自分が許せないんです、もっと引き締めなければ」

   「あまり気張るのも考えものです。軽く軽く、リラックスして自然体でいなければ」

    携帯電話の在り処云々よりもすでに二人は精神論ばかりで、機関員としての心構えの話となっています。だ

   からでしょうか。思考の軌道を元に戻さなければいけないでしょう、と思った瞬間でした。閃きが降ってきたの

   です。背筋に氷の槍を差し入れられたようなざわめき。

   「……そうか、新川の言う通りね。ああ、でもこの場合半分は私のせいなのかしら」

    古泉がはて、と首を傾げます。噛み合っていない私の発言の真意が飲み込めないようで、古泉だけでなく皆

   動きを止めました。愉快な気持ちになります、古泉の表情を見ていると特に。

    胸が波立つような気分でした。不思議なことですが私はこの状況に感謝していました。私自身は機関から

   出ていないのに、もう一人の自分が事情を俯瞰している。あの不可解な悩みに躓いてばかりの時間も、今こ

   の瞬間のためだったならば全て許してしまえそうでした。確証に満ちた考えに支えられて胸を張ります。もしか

   したら私は今、メンバーの言うところの満面の笑顔なのかもしれません。

   「去年から悩んでばかりだったからやっきになって知識を増やしたわ。読書量だって増えた。推理小説の古典

   から犯罪者の心理を記録した書記までね。おかげで鍛えられたんでしょう、驚くほどスムーズだったわ」

    私の気持ちを量りかねるのか怪訝の度合いばかりが増し、誰の頭の上にもクエスチョンマークが浮んで見え

   るようです。

    いち早く口を開いたのは古泉でした。

   「まさか――」

   「新川、車を回してくれちょうだい。さあ古泉の携帯電話を探しに行きましょう」

 

 

 

   「行き先がわからないことには車の回しようがありません。どちらに向かえばいいのでしょうか」

   「閉鎖空間よ」

    メンバー全員の表情、特に古泉を含めた超能力者の表情が著しく変化します。

   「現在、閉鎖空間の発生は確認されていませんが……それ以前につい先ほど収束したばかりです。新川さん

   の運転する車で閉鎖空間に出向き、僕は神人を退治してきたのですから。それ は同行していた新川さんが

   証明してくれます」

   「ここ最近ずいぶん盛んだもの、きっとすぐに発生するわ。あまり気分のいいことじゃないけれどね。もしかする

   と今この瞬間にもね」

    ふむ、と古泉は頷きますがまだ疑念はくすぶっているようです。

   「携帯電話を閉鎖空間に置き忘れたと考えられているようですが、何故そう言いきれるのでしょうか。僕は

   今日携帯電話を使用した覚えはありませんし、そもそもあそこには電波が届きませ んからもっていく必要もあ

   りません。それは森さんもご存知のはずです」

   「だから厄介なのよ。でも十中八九の確率で間違いないわね。確信というというよりそれ以外の可能性が残

   っていないのかしら。古泉の行動を信用するなら、少なくとも学校や通学路に落 としているみたいな偶然に

   頼った可能性より断然高いわね」

   「しかし今日一日の行動の中にヒントや材料があったのですか」

   「もちろんよ」

   「森さんが知っているのと全く同じ情報を、僕もすべて聞いているのですか? あれだけの中に推理するすべ

   ての材料と、あの少なくとも半径数キロに及ぶ閉鎖空間のどこで落としたかまで特 定されているのですか」

   「そういうこと、しかも古泉は皆よりも一つ多く得ているわよ。ジーンズの件よ」

    周囲がざわつきます。

   「この二つにつながりがあるとでも?」

   「その通り、大きな手がかりになっているわよ」

   「解けない問題集にとっかかっていると横にもう一冊ですか。僕にはどう考えても謎の片鱗さえつかめないの

   ですが」

   「二つで一冊だととらえていいわよ。この問題は互いの両端が絡みついているからね。ジーンズの件があっ

   たからこのミステリーは生じているのよ」

   「本部に帰還すれば隠しておきたい秘密が露見していて、突発推理大会が開催される。森さんが笑顔だった

   と知らされればゲームで恥をかいて、携帯電話を紛失していると気付けば再び 閉鎖空間へと赴く。せわしな

   いですね。大きな謎の餌食となっている気分ですよ」

    やれやれと古泉が言いました。

   「私はロビーで待機しております。発車準備を完了させておきますので閉鎖空間の発生を確認次第ご乗車

   ください」

    一礼して新川が出て行きます。

    私は仕事に戻りながらメンバーに伝えます。

   「私と古泉が帰ってくるまでが制限時間。その暁には全部の証拠を持ち帰ってきてあげる」

 

 

 

    閉鎖空間発生の報告はその日の夕方近くにやってきました。機関本部から数十キロはなれた市街地を中

   心に発生したため、一旦本部に集合する案は却下され、能力者が活動に従 事していた場所からめいめいの

   方法で閉鎖空間へと赴くことになりました。

    私と古泉は新川の運転するタクシーで向かいます。車中、古泉は鞄から取り出したピンク色の冊子を膝の上

   に広げていました。ト書きの文章が写植されて、所々に蛍光マーカーでライン がひかれています。台詞直しが

   幾度となく行われ、隅っこにはデフォルメされたキャラクターが落書きされています。映画の台本ですか。

   「ようやくクランクアップしたんです。監督から前回を大幅に上回る演技を要求されていたものですから、ずいぶ

   ん入念にチェックをしていたんです。そうしないと本番のとき頭の中が真っ白にな ってしまうんです」

   「撮影は終わったんでしょう、じゃあどうして」

   「時間を無駄にしてはいけないと閉鎖空間に向かう途中もよく目を通していたんです。涼宮さんの意向で特定

   のシーンを撮りなおすこともしょっちゅうでしたから。もしやまた、なんてね。つい広 げてしまいました」

   「入れ込んでいたのね、ずいぶん」

    前作はチープさ加減も加わってほとんど理解不能でしたが、見る側と撮る側は違うのでしょう。古泉は妙に満

   足げでした。

   「映画撮影に限らずSOS団の活動は楽しいですから、自然と熱もこもるんですよ」

   「機関員の前でよく言うわね、もっと嘘を覚えなさい」

   「取り繕ってもきっと、『上には黙っておくから本当のことを言いなさい』なんて詰問されそうでしたので」

   「否定はしないけれどね」

    困ったものですと古泉は言います。

   「森さんは機関とメンバーのことをどう思っていますか。四年前から自分を拘束している機関での暮らしを後悔

   していませんか」

    古泉は冊子を閉じて表紙を撫でながら呟きます。背表紙にはSOS団員の名前と役割が印刷されていまし

   た。副団長である古泉は上から二番目に記されています。

   「……かけがえのない一生ものの友人かしら。人生に影を落とすような辛いこともあったけれど逃げ出せるもの

   じゃないし、もうすっかり染まってしまったわ。楽しいこともあったから自分を不幸だ なんて言えないわ」

    今日の休憩室の光景などを見ていれば、本当に心からそう思います。

   「仲違してしまい、永遠にそれっきりの友人だって世の中には沢山います」

   「ひどい前提ね」

   「切っても切れない関係は存在しうるのか。赤い糸に喩えられるような絶対的な縁は存在しうるのか。僕は

   永遠なんてものを信用していません。新川はどうお考えですか」

    新川が言います。

   「家族でしょうか。いえ、志や生死さえも共にする者と四年間一緒に過ごして家族以上の絆が生れたのかもし

   れません。離れていてもどこかで繋がっているような縁です。今はもう息子や孫 同然の目に入れても痛くない

   者ばかりです」

    最初はいささかまとまりにかける集団でしたが、と苦笑して付け加えます。

   「連日メンバー同士でいさかいが起こる、パトロン探しに難航して財政難に陥る、上部と現場で意見が対立す

   る……創立したての頃から目的こそハッキリしていましたが、組織として機能す るには手探りから始めなけれ

   ばなりませんでした。今ではどれも必要な通過儀式だったと思えますが、当時はずいぶん手を焼いたものです。

   激昂してぶつかり合うメンバーに死線で背中を任 せられるでしょうか。偶然を装って背中からブスリと、なんて

   想像もしました。

    寝つきのいい日など数えるほどしかありませんでしたね。やっていけるはずないと。ぶつかるうちにいつかし

   ら結束が 生れましたが、あのまま歯車が噛み合わなかったら世界のバランスはとっくに傾いていたのでは、

   と思います。

    いつぞや、SOS団の皆様が孤島で合宿を行ったことがありましたな。あの時我々は偽殺人事件の一環とし

   て芝居をうったわけですが、言い争いの場面などはどうも不安に駆られたもので す。そうです、「本当に演技

   でここまでやれるものだろうか。ひょっとして、昔を思い出して知らず知らずのうちに本気でなじりあっているの

   では」と思っていました。あの程度は日常茶飯事でした からな。もちろんそんなことはありませんでしたが、あ

   の二人にも相容れない時期がありました」

    休憩室で見た圭一と裕の姿。wiiのコントローラを使って古泉を茶化す姿は仮初のものではありません。しか

   しそれは深い溝を長い時間かけて埋めたからこそ今の姿があるのです。

    古泉は冊子に眼を落としたまま黙っています。

   「機関も設立から四年。あと数ヶ月すれば五年目に突入でしょうか、早いものです」

    窓の外にはもう夕闇が迫っていました。

 

 

 

    駅前のロータリーで降ろされて数分歩きます。オフィス街の中心より少し外れた場所の横断歩道につくと、

   古泉が目で合図してきます。仕事帰りの人々が立ち寄る繁華街と繁華街をつ なぐ通りが閉鎖空間と現

   実の境です。

    どうぞ、と言う古泉の手にひかれながら信号をわたると色彩に乏しい無人の空間でした。喧騒は立ち消

   えて、世界が静寂につつまれます。色を失った だけで印象は一変して寒々しいものへと変わり、セピアのよう

   に郷愁を誘うことはなく、青と灰に塗りこめられた空虚な空間。創造主の想いがそこかしこに満ち溢れているよ

   うでした。

    見晴らしのいい場所を確保するためにビルに入って屋上を目指します。閉鎖空間に出現することまではわか

   っても、いつ何時どの地点に神人が発生するかまでは、つまり涼宮さんのスト レスが最高潮に達するかまで

   は予測できません。不測の事態に備えるためです。数キロ先に現れるやも知れない神人の早期発見のため、

   地上にいれば逃げ場もないほど落下してくるガラ ス片に対処するため、こういった手段がとられています。

    懐中電灯で前方を照らしながら非常階段を使ってひたすら昇ります。私と古泉の足音が暗い響きをもって

   通路に入り乱れます。いくらかすれば踊り場の窓から見える車がミニチュア模型 と大差ないほどのサイズにな

   りました。

    後ろをついてくる古泉は、私に話しかける風でもなく、かと言って自分自身に言い聞かせる風でもなく、ただ

   淡々と事実を述べるように口を動かします。

   「朝比奈さんは自分達の信じる未来のため指令に従って動く。長門さんは涼宮さんの起こす情報フレアの観

   測のため、情報統合思念体の考えの元に動く。僕は機関のためです。涼宮さ んは何も知らされていない。

    実質身軽なのは彼くらいですか。でも彼だってこのパワーゲームを覆す力を持っているわけではない。強いて

   言えばドローに持ち込むための権利くらいですか、それさえも不確実なカードですが。我々とは違った意味で

   縛られています。

    この一年間、SOS団の進行方向が足並みも含めて一緒だったというのはもしかして奇跡かもしれません。

    均衡は何をきっかけに揺り動かされ崩壊するかわかりません。あまりに脆いものだということは承知していま

   す、互いの情によってあの部室は何とか成り立っているのですから。全く抜き差しならない関係ですよね。で

   すが放課後に部室でゲーム片手にガヤガヤ過ごす時間は本当に楽しいものです。ついつい、どうせならもう

   少しこのままでなんてね」

   「ふん……」

   「そんな人たちと裏をかかないでやっていける方法はないか。はまり込んでいくほどに壮大なばかしあいの一

   部分だと思えてくるけれど、楽しいと感じている僕の感情は本物です。穏やかな気 持ちでくつろいでいる自分

   がいます。

    わかっているのに抜け出せない。もし団員から『お願い』をされた時、私情を挟むことなく世界にとって最善

   の策を選ぶことができるのか。僕は確かめる術 を持ちません。このままミイラ取りがミイラになりそうです」

    階段を昇って屋上に出れば周囲を取り囲むようにぐるりとプランターが置かれています。憩いのためのベンチ

   とパラソルが数組、動物を模した子供用の乗り物、中央には小さなショーを行う ためのステージが設置され

   ています。前後左右に遮蔽物はなく高さも十分、視界は開け良好でした。

    まだ神人は出現していません。この機に、私は休憩室卓上のキャンディーボックスから拝借してきた飴玉を

   数粒、古泉の制服ポケット、それもズボンのポケットに押し込みます。

   「どうしたんですか、急に」

    そわそわと落ち着かない様子でした。取り出そうとするので制します。

   「飴を二三個入れただけよ。取り出しちゃ駄目。もちろん食べても駄目。ちょっと検証につきあってもらうわ」

    古泉はポケットを叩いて感触を確かめました。

   「いやはや実験体ですか」

    物欲しそうにしているので仕方なくもう一粒だけ手渡します。ベンチに腰かけて飴玉の封を切る古泉の隣に

   座ります。

    飴をなめながらどこからか吹いてくる風になぶられていると、ぽう、と遠くに光の柱が見えました。古泉も気付

   いたようです。

    ビルとビルの谷間に現れたそれは次第に人の形をとりながら立ち 上がります。頭部と首に区別がなく唇とも

   鼻ともつかない器官を顔に備えています。上半身がやけに発達し指の先は地面に届こうかというほど長いが、

   足はまがり一歩ずつ踏みしめながら 移動し、服をまとわず、体の内側は満天の星空を思わせるほど煌いて

   いる。

    何よりも空を我が物にせんばかりの巨躯はひとつの大陸を想像させるほどでした。

    神人は標的を目の前のビルへと定めると思いっきり手を引き絞りました。ぐらりと体が傾いだかと思うと、雷

   のような凄まじい轟音がして土砂煙が巻き起こります。手を無造作に振り回した だけの一撃がビルを半分削

   って、残りをあっけなく倒壊させます。

    以前撮影された映像で見た神人は、粉塵の奥でめったやたらと手足を振り回していました。倒壊した数十階

   建てのビルを持ち上げていとも容易く放り投げる姿は、忘れられるものではあ りません。こうしていても鈍重で

   すが空気を震わせるようなすさまじい動きをして見せます。空気に澱みが増した気がして目を細めます。

   「では行ってきます」

    手早くかたづけます、そう言いたげでした。古泉の体が舞い上がると火花が散って赤い光に包まれます。飛

   び立ったかと思えば、古泉はもう神人のそばまでやってきていました。やってきた 蚊を追い払うような手を避

   けて輪切りにします。一人の能力者が神人の気を引いている隙に古泉が突撃し、たじろいた隙に一斉突撃す

   るとすでに厄介な両腕は切り離されていました。 切り取られ宙に浮かんだ神人の肉片が霧になって解けてい

   きます。赤い球を見やるだけの木偶がいなくなるまでものの数分でした。手際の良さに感心しているとひゅ

   ん、と戻ってきます。

    古泉はため息を一つついて肩を回します。

   「お疲れ様、さてポケットを見せなさい」

    不審気でしたが表情はすぐに一転します。

   「……不思議なものですね」

    古泉のポケットからは飴玉が一つ残らずなくなっていました。私に仕組まれた行動をとってみると、神人を退

   治している間にポケットから飴玉が消え去った。古泉にとっては不可解な出来 事でしょうが――失う飴の個数

   はともかく――私には予想のついた出来事でした。ああ、やはりと私は得心します。マジックを解き明かそうと

   する少年の様に古泉が寄って来ます。

   「どういったトリックでしょうか」

   「何もしていないわ。予想が証明されただけよ。ホッとしたわ、つまりそういうことよ」

   「一人で納得しないでください。説明していただけますか」

   「さぁ、今度は携帯電話を探しに行きましょうか。この前に神人が出現したのはどのあたりなの?」

   「質問に答えてくださいっ」

   「ほら歩きなさい、私は知らないのよ」

   「もうっ。北高です。それもグラウンド周辺に出現しました」

    ビルを降りて線路に沿って歩いてから、丘の上を目指して坂を上ります。始終古泉はぶつぶつ言っているよ

   うでした。

 

    古泉の携帯電話は予想通り北高グラウンドに落ちていました。二手に分かれて探していると、ピッチャーマ

   ウンド付近を捜していた古泉から「信じられません」と声があがったのです。近寄っ てみれば、端の部分が割

   れてメッキがはがれているものの携帯電話は液晶部分とデータは無事でした。古泉はますます食いついて

   きました。

   「どうか種明かしをしてください。好奇心をもう押さえつけられそうにありません」

   「二度手間は面倒だからメンバーの前で披露する時でいいじゃない。また私に教えてもらうつもり?」

   「もっと時間があれば考えるのですけど、今は早く知りたいんです。そこをどうにか」

   「考えている格好だけじゃない。だらしない。それよりも気になることがあるわ」

    後ろから子犬みたいについてきた古泉と向き合います。睨み付けると距離をとって本気なのだと伝えます。

   「古泉、ビルでの発言を忘れていないでしょうね。SOS団と機関の使命で揺れているなんて言いたかったので

   しょうけれど。

    私の質問に包み隠さず答えなさい。あなたは自分がSOS団に欠 かせない存在と成り得た、そう確信したか

   らあんなことを言ったのでしょう。一年が過ぎて団員として団の一角を占めることに成功したと判断したから、わ

   ざわざ私に聞かせたんじゃないの。そう でなければそれとなく匂わせたとしても他のメンバーの前で漏らすなんて

   軽率な真似はしないはずよ。どう、図星でしょう」

    古泉は足を止めて直立しました。次から次へと濁流のように押し寄せる感情を言葉にして浴びせかけます。

   「わかりません」

   「今後は下手を打つようなことがあっても、謀反の可能性を理由に切り捨てられないだろうと考えた。損得勘定

   をすれば機関としてもあなたをSOS団に通わせるべき。間近で得られる情 報は何より代えがたいものだから

   ね。去年の春頃ならいざ知らず、今あなたがいなくなったら涼宮さんの精神はどうなるか。必死の捜索が行わ

   れるでしょう。

    仮にどこかの組織の手によって拉 致監禁されたとしても、涼宮さんが不安に思い願った結果あなたはいつ

   のまにか元の場所に無事開放されていたりするかもしれない」

   「それもわかりません」

   「あなたの行動はSOS団員としてのそれよ。機関員じゃなくてね。どういった心づもりなの」 

   「……確かにそうでしょう」

    心情を吐露しただけの古泉に、どうして私はこんなことを言わなければならないのか。閉鎖空間の拡大を防

   ぎ涼宮さんの行動を監視するための機関に所属している、という同僚よりも もっと大きな私たちを結ぶ絆。

    それだけの理由によるものです。もしかしたらたった今私たちの間には決定的な、修復不可能な亀裂ができ

   たかもしれません。これからまだまだ広がっていくだ けの溝が私たちの袂を分けたなら、遅かれ早かれいずれそう

   なる運命にあったのでしょう。

    とっくに古泉の気持ちは離れていた、踏ん切りをつけられないだけだったのかも、といじけた内省の声に踊らさ

   れるままで私は抗いもしませんでした。

   「帰ってからじっくり聞かせてもらうから覚悟を決めておきなさい。吊るし上げるつもりはないけれど今日は見逃

   せない発言ばかりだったわ。許して頂戴」

   「話を聞いてください」 違うと主張したいのでしょう。

    古泉がついと一歩踏み出して地面の水溜りを跳ねたのです。しかししぶきが起こらずぬかるみに突っ込んだ

   ように足をとられたので、傍目にも変だなと理解した瞬間、爆発的な勢いで水 溜りが隆起しました。

    地面から次々と光が染み出して、やがてひとつの柱になります。膨張を続ける光はどこまでも空間を侵食し

   続けて、天の月に届くほどとなってようやく全貌を現しました。間近で見れば見 上げることもかなわないほどの

   巨躯が青白くてらてら光っています。

    わずかに動いただけで私たちはその足の下敷きとなってしまいそうでした。

    足首を絡めとられて逆立ちのまま古泉は持ち上げられます。暗闇の奥でうごめく器官と視線が交差して、嫌

   悪感に駆られた古泉は脱出しようともがきました。神人とすればこそばゆくて 身震いした程度だったのでし

   ょう。

    しかしそれなりの背があるといえ神人の大きさとは比べ物にならない古泉は街路樹の頂ほどの高さから

   放り出されたました。古泉は、どうにかバランスをとって体勢を変えますが変身する間もありません。私が危

   ないと思って手をのばすよりも先に、背中から地面へと叩きつけられていました。体がバウンドして鈍い音が連

   続で響きます。神人は 知らん顔で揺れていました。

    ひっ、と咽喉元まで競りあがった悲鳴を殺して駆け寄って見ると、古泉はうずくまって苦悶の表情で痛みを

   耐えています。もしもっと勢いをつけて放り出されていたなら、無事ではいられなか ったでしょう。出血はない

   ようですが、傷口を確かめるために触れるだけで体を丸めてから逃れようとします。

    私は古泉の体を強引に担ぐとその場を離れます。背中のすぐそばで聞こえる泣き声に似たうめきが耐えられ

   ず、一刻も早くその場を逃れようとしました。障害物の見当たらないグラウンドに 現れたことは私たちにとって

   幸運だったのでしょう。当り散らす獲物を見つけられない神人はのたのたと――しかしほんの数歩で――校舎

   に向かいます。とにかくこの学校から脱出しなければ。

    大丈夫、きっとすぐに支援の能力者がやってくると自分を奮い立たせました。

    痛みを我慢できず私を引っ掻く古泉に苦労しながらグラウンドを駆け抜けます。校舎を叩き潰すたびに伝わ

   る地震に腐心しながらも、どうにかもう少しで校門を潜り抜けられるところでし た。

    灰色の陽光の下にいた私たちにふと影がさしたのです。より一層退廃に近づいた空間を奇怪に思い振り返

   って見ると、千切られた旧校舎がグラウンドに叩きつけられ地表がめくれあがった瞬間でした。影の正体に驚

   くよりも早く耳をつんざくような衝撃音と衝撃に吹き飛ばされ、古泉共々地面に這い蹲ります。転がった体に爆

   風が覆いかぶさり、耳鳴りが止まず吐き気を催 しました。

    ゴミ同然に吹き飛ばされたガラス片や椅子がここまで飛び散ってきました。砂塵が消えやらないうちに第二

   波第三波がやってきて、安全な場所など世界のどこにもないようでした。

    運動場は深くえぐられ、付近の建物は根こそぎ破壊されました。身を縮こめ、どうにか脱出のチャンスをうか

   がう私に立ち上がった古泉が言います。

   「少し落ち着きました。ありがとうございます、そして申し訳ありません」

    私の首筋の引っ掻き傷を見て言います。

    粉塵の奥では数体の神人たちが破壊の対象を探していました。

   「じっとしていなさい。こんな傷よりも、叩きつけられたあなたの方がひどいんだから」

   「同志が戦っているのです。どうして僕一人が逃げ出すことができるでしょう」

    ようやくやって来た能力者も、粉塵に隠れた神人に狙いを定められないようでただ旋廻を繰り返すばかりで

   した。飛んでくる破片を避けるだけで精一杯。いつもと同じ相手なのに近寄るこ とすらままならない。古泉は落

   ち着いたと言っているものの、脂汗が浮かべてどうにか片膝立ちの体勢を維持しているだけです。

    何度も咳き込み、つついただけで倒れてしまいそうなのに虚勢 を張って神人を黙視します。

   「フラフラの癖につよがるんじゃないの。怪我人が飛び込んでも迷惑なだけよ」

   「行きます。火花に巻き込まれては危ないから離れてください」

   「無理をしてどうするの、死んだら元も子もないわよ」

   「覚悟の上です」

    この地域をあらかた壊し終えたのか神人は学校を抜け出そうとしていました。

    どうしてこう聞き訳がないのでしょう。古泉を止められるのなら、と目一杯肺に空気を送り込んで、私は言っ

   てみせます。

   「あなたが今さら機関のために命を捨てて何になるの!」

   「違います!」

    古泉が吠えて携帯電話を掲げます。

    待ち受けに設定された、新川、圭一、裕、私、メンバー、そして古泉の集合写真。結成時のものでした。

   「機関が僕を変えてくれたんです! ある日突然、自分は命がけで世界を救うために戦わなければらないと知

   って、部屋の隅で震えていただけの自分と決別させてくれました。要請に応じず怯えて逃げ出した僕を何度で

   も迎え入れてくれました。中学生になったばかりの子供まで戦わせるのは忍びない、この子だけは日常に帰し

   てあげてもいいんじゃないかとさえ。飛び回るだけの僕を 必死でフォローしてくれました。

    計り知れない恩恵です。誰だって恐怖から逃げ出したかったでしょう、甘ったれていた僕には一生分の借りが

   あるんです。

    だから今、逃げません」

    古泉が光に包まれます。火花は古泉の体力そのもののようで弱く散っただけでした。

    復活した古泉のおかげでしょうか、ようやく一体撃破したものの次々に神人は現れます。能力者はその度飛

   んで行きます。

    私は立ち上がって頬の汚れをぬぐい、戦いを見ていました。神人があちこちに現れるたびに方向を変えます。

    しばらくすると一つの赤い球がふらふらとビルの陰に消えていきました。私は我慢できずに迷惑を承知でそ

   の地点へと向かいます。目測だけでその場所をどうにか探し当てる頃になっても戦 いは続いていました。

    道路に倒れこんでいた古泉はもう立ち上がることもできません。変身も解け、倒れ伏したままひゅうひゅうと

   浅い呼吸を繰り返していました。

    ――お願いだからもう出てこないで。

    無常にもすぐそこのビルの向こう隣で光の柱が立ちました。次の神人が生れた証でしょう。底無しに増殖す

   る神人に抗う術を持たず、古泉を庇うようにしたままただ震えるだけ。どうしよう、 古泉だけ置いて逃げるわけ

   にはいきません。他の能力者の限界も近いでしょう、万策尽きたのかと思いました。

    しかしいつまでたっても破壊活動の音が聞こえてきません。微生物さえ存在しない閉鎖空間で聞こえてくる

   音といえば、神人のもたらす轟音だけです。静けさが破れないことを不思議に思い恐る恐る眼を開けてみれ

   ば、巨人は微動だにせず廃墟の中で遠くを見据えてただ立ち尽くしています。

    どういったつもりなの、涼宮さん。

    先ほどまでの世界を破壊しつくさんと暴れまわる神人と何ら変わりない姿なのに 、魂を抜き取られたように

   棒立ちでいます。最初の一体からどれだけの時間が過ぎたのか、増殖もようやく止まったようでした

    能力者によって神人は総べて撃破され、ようやく私たちは現実空間へと帰還しました。

 

 

    結局神人の行動は涼宮さんの精神状態の変化と判断されましたが、これといった証拠は挙がっていません。

   幾度も会議が紛糾した結果、以前と変わりなく油断することのないよう対処 するようにと通告がありました。

    体を強く打ったものの古泉の体に異常はありません。日常生活に支障が出ることもなく、週に二回の通院治

   療が義務付けられ、痛み止めが処方されるとしばらくは運動そのものをを控えるよう言いつけられました。

    翌日、気分転換に散歩したいのですが、という古泉に連れられて外に出ました。あからさまな嘘だとわかり

   ながらもついていきます。

    睡眠不足なのか慢性的な疲労なのか、古泉は眠たげに眼をこすります。しかし恒例行事の市内探索を休む

   つもりはないようです。

    ここしばらく忙しく、団活動にもほとんど参加していなかったですから。昨日も部室に顔を見せただけだと言

   っていましたね。

    疑問が一つ。出かけようとする古泉がはいているのは、謎の転校生というイメージのため出番を失ったボロ

   ボロのジーンズでした。普段身につけている清潔そうなシャツやスラックスとは正反 対の薄汚れた衣装で

   す。上着もそれにマッチしたものを選んでいるので見ず知らずの素行不良者みたいですが、間違いなく古泉一

   樹本人でした。

   「涼宮さんの機嫌を損ねるような服装はつつしみなさい。自分の立場がわかっているの」

   「謎の転校生キャラもいいかげんマンネリで新鮮味が薄れてきていると思います。一年経って、新入生も訪れ

   る春の季節ならなおさら。ここは打開策としてアウトローな部分を垣間垣間で 見せていく、なんてどうでしょう。

    肩を怒らせて町を徘徊すれば、昨日までの僕を知る人はビックリすること請け合いです。電車でご老人に

   席を譲らない現代の若者像もいいですね。どうです、涼宮さんの好きそうな秘密の匂いがするでしょう」

   「ずいぶんなキャラ設定ね、もしかして地?」

   「さあどうでしょう」 心底楽しくて仕方ないと笑います。

   「人を煙に巻いて楽しむのが本当に好きなのね」

   「それに今、涼宮さんの関心は僕たちには向けられていません。想い人である彼の、いわゆる元カノ――本人

   はきっぱり否定していましたけれど――が現れてからというものの団活動に没頭して いるようでその実、元カ

   ノのことで頭が一杯なんじゃないでしょうか。活動計画は立てたものの団員への指示も忘れてぼうっとしてい

   ることがあるほど。気になって仕方がないのでしょう。

    僕は閉鎖空間の一件もそこがキーポイントなんじゃないかと思います」

    早速観察対象となった少女。報告写真の中で彼女はやんわりとしていながらも不敵に笑っていました。

   「古泉の服装なんて優先順位からいえば圏外ってことね」

   「それはそれで寂しいものですけれどね。まぁ馴れたものです」

    白い粉がぱっと舞い上がったようでした。花びらが散って風に運ばれていきます。植えられた桜はすでに半

   分葉桜となっていました。もったいない。機関員は休みをとって花見をする暇もな いのです。

   「ジーンズくたびれているわね」

   「ええ」

    古泉がポケットをつまんで裏返すとぽっかり穴が開いています。特に右の穴は拳ほどの大きさとなっていま

   す。何も入りそうにありません。尻のポケットも大差ないそうです。

   「てっきり所持品だとばかり思っていたわ。でも違った。環境じゃなくて問題はあなた自身だったのね」

   「森さんに指摘されたときは驚いたんですから」 肩をすくめます。

   「ポケットが使いものにならないだなんてよく気付いたわ。自分を褒めたいくらいよ」

   「癖が抜けきらないんですよ。愛用していたものですから生活リズムまでこのジーンズに合わせるようになって。

    体がついていかず、役に立たないポケットへ誤って手を入れてしまいそうで。服を変えても毎回びくりと震えて

   いただなんてみっともないことこの上ない」

   「だからコントローラを飛ばした時に閃いたのよ、ああコレも無意識なのかなって。古泉がどうしようもなく無意

   識にならざるを得ない場所ってどこだろうって。辿っていったら見事的中していたわ 。でも閉鎖空間で飴を

   突っ込ませてようやく確信がもてたのよ。

    今だからいうけれど休憩室の時なんて賭け同然だった。あれだけ啖呵を切ったから間違えていた日には生

   き恥だったわ」

   「森さんが半分私のせいといったのもそのためですか。意識にのぼっていなければ落とす事もなかった。しか

   し、電話が無事でよかったですよ。下手すると高度何百メートルから落としていたんですから、全壊は免れな

   かったでしょう。実にラッキーでした。

    四年分と一年分の動画やら写真が無駄になってしまうところだったんですから、日頃の行いがよいおかげか、

   はたまた神様がどこかで見ていてくれたのか。

    閉鎖空間 で過ごした時間は僕の方がずっと長いのに、森さんから知らされるとはちょっとショックですよ」

   「ここでも涼宮さんの登場ね」

    一年分のところで嫌でも気付かされます。そう、問い詰めてやろうと思っていたのですが、古泉が怪我をして

   帰ってきたためお流れとなっていたのですね。

   「今度は私たちが聞かせてもらおうかしら、機関とメンバーのことをどう思っているの」

    怪我をしているからメンバーの前で晒すのだけは勘弁してあげるわ、とおまけします。古泉はややあって

   口を開きました。

   「僕は以前、一度だけ機関を裏切ってでもあなたたちの味方をする、と言いました」

   「どうして」 地面がぐらついたような感覚。少なからず私はショックを受けました。

   「ただそれだけです。僕がSOS団で築いた信頼関係そのものがこの一言にこめられています」

   「この薄情者」 

    古泉のそばによってシャツの端をつまみました。涼宮さんのそばにいるあなたの行動によって機関員皆が

   生死を分かつかもしれないのに。シャツを強くつまみなおしてから言いました。

   「一度だけ。絶対に一度だけにするって、私に誓いなさい」

   「僕は――」

   「今ここで約束しなさい」

   「ええと……」

   「できないの?」

    シャツをつかんで引き寄せ、すがりつきたい気持ちをどうにかしてこらえます。醜い情で気をひいてはいけな

   いのです。本心から機関に帰りたいと古泉が思っていなければ何の意味もないのですから。古泉は低く「あぁ」と

   肯定にも否定にもとれる返事をしました。それがどうしようもなく悔しくて、力を込めて古泉を突き放します。

    驚いた顔に、

   「帰ってきたらジーンズを私のところに持って来なさい。縫ってあげるわ。不便でしょう」

    私なりに、いってらっしゃいの意味を込めて送り出します。しかしぴしゃりと。

   「遠慮しておきます」

    当然不満な私ににべもなく言います。

   「このジーンズは破れているからいいんですよ。縫ってしまうと価値がなくなっちゃうんです。だってそうでしょう、

   機関でのありのままの思い出が詰まっているんですから。綺麗に縫ってしまえばいつしかこのポケットが破れ

   ていたことさえ忘れちゃいます。余計なものがここを占領したら寂しいじゃないですか。

    さて、余計な出費をするわけにもいきませんので、この辺りで」

    言ってから古泉は、迷いを吹っ切るように元気よく歩き出しました。

 

 

  ◆4月3日 ネタバレ雑感

 

   えー、涼宮ハルヒ新刊。読了しました。お話がどういう結末を迎えるのか気になるわけですが、さらに

  気になるのはキョンの本名。あと「変な女」像が確定してしまったことによりどれだけのSSネタやトリッ

  クが死没することになったのか、ですが。さてさて。いくつかのヒントが今作で出たわけですが。

   1、音はキョンと掛け離れてる 2、漢字にしたときキョンに近い 3、どことなく壮大で高貴

   作者から与えられた以上のヒントを元に考えた私の予想。

 

  458 名前: 名無しさん@お腹いっぱい。 [sage] 投稿日: 2007/04/02(月) 23:22:33 ID:uvuwQBvI

       >>439
       臣人(おみと)とかどうだろうか。「巨」と「臣」をひっかけているということで。
       欠点はどうしても男塾の槍使いの中の人を思い出すことだが。

 

   きょじん→キョン。キョンの本名が最後まで明かされる事がなくとも考えること自体が楽しく有意義なわ

  けで。間違っていたとしても、そこを死角として脚本を練る事ができるなら、斬新な発想にたどり着けるな

  らと考えつつ続刊を待ちます。

 

   ◆3月29日 涼宮ハルヒSS 【お馬鹿】

 

   春休み間近の物憂い放課後だった。部室でめいめいの時間を過ごしていると団長から号令がかかった。
  凄い発見をしたかもしれないわ、皆、駆け足で集合しなさい、とハルヒが大きく手招きする。
   ひとまずボードゲームを中断して立ち上がる俺と古泉。切りのいい場所まで読み終え、本に栞を挟んでか
  ら来た長門。そして湯飲みを布巾で拭いていた朝比奈さんが最後。ネットの海を徘徊しているうちに興味を
  引く画像でも発見したのだろうか。さて何が映っているのかと確かめてたがブラウザは閉じられ、パソコンの
  画面には味気ない壁紙のみが表示されている。ということはパソコンがらみじゃないのか。
   ハルヒは全員の顔を見回してから、唇の前で人差し指を立てる。
  「小さく輪になって。もっと、もっとよ。互いの肩が触れるくらいに小さく小さく」
  素直に従うがどうも様子が変だ。あまりにもらしくない。コイツはいつだって人の都合なんてお構い無しにそ
  の場で用件をまくし立てるだけの、まさに要求突きつけ魔なんだが、今だけはひっそりと内緒話をしたいと?
  ここまでして一体どうしたんだ、と聞けば、絶対に内緒よ家族にも口外せず胸に秘めておいて、と前置きす
  る。雰囲気から察するにこれは、少なくとも耳元で「わっ!」なんて戯れじゃなさそうだな。古泉も朝比奈さ
  んも、長門さえも表情を引き締める。ハルヒは皆の頷きを確かめてから、心して聞いてねと言葉をつむぐ。
  「皆、タクシーが給油している場面に遭遇したことある? あたしは、ないわ」
   人目を忍ぶように低く小さな声で喋る。表情は珍しいほど緊張に満ち、一言一言選びながら話している。
  おっといけない、とハルヒは俊敏な動きで背後の開放されていた窓を閉める。カーテンを引いてしまえば運
  動場から旧校舎まで届く運動部連中の掛け声も、吹奏楽部の時々音を外すパート練習の音も消えて、無
  音の薄暗がりが部屋を覆った。ハルヒは闇に揺り動かされるようにまた一つトーンを下げる。
  「無数にタクシー会社が存在して、あれだけタクシーが走りまわっているのよ。駅前なんて客待ちのタクシー
   であふれ返っているわ。個人経営のタクシーを含めれば一県だけでも相当な数にのぼるでしょうね。数千
  台は……ううん、大都市ならそれこそ数万数十万台のタクシーが走っているはずよ」
   ここまでは良いわね、そう、もしかしたら皆、薄々勘付いているかもねとハルヒは言う。
  「……大丈夫、続けて」
   長門。
  「車が走るためになくてはならないものガソリン。おかしいじゃない。もちろん見逃しだってあると思うわ。でも
   十数年生きてきてたったの一度もないの。数万台のタクシーが消費するガソリン。膨大な量でしょうね。
  それがどこから来ているのか。今の今までどうしてこんな単純な謎に気付けなかったんだろう。不思議なもの
  よね。日常の陰に隠れていた謎っていうのかな。今度の議題はコレ。もしかしたら結成以来一番の大仕事
  かも知れないわね。きっと、民間人のあずかり知らないところで秘密裏に結ばれた契約があって――」
  「涼宮さん」
   もう耐え切れない、とでも言いたげに朝比奈さんが口を開いた。
   む、と顔をしかめるハルヒをまっすぐに見据えてから、
  「タクシーはガソリンを必要としないんです。ガソリンスタンドでタクシーを見かけないのはそのためなんです」
  「あのね、そんなわけないじゃない。じゃあ何を動力に奴らは街中走っているのよ。辻褄が合っていないでし
   ょう。いい?あたしが推測するところでは――」
  「お願いします、信じてください」  優しい、なんて言葉だけで包んでしまいたくない。優しいだけじゃなくて朝

  比奈さんは強い。ありきたりの言葉で片付けてしまえば朝比奈さんという人間を取り違えたことになる。口火

  を切ること即ち、オブラートで包んだとしてもちょっとばかり勘違いしていますよ、と真っ先に言ったのと同義だ

  からだ。それに朝比奈さんは真っ先に志願した。とてもじゃないが俺にはできやしない。
   だが聞く耳なんて持っちゃいない。奴の熱弁は続く。しかし。
  最初こそハルヒは強気の口調でありえないような持論を展開していた。秘密結社やCIAやKKKといった
  単語が飛び交う。だが、俺たちの雰囲気で伝わったのだろうしだいに語気が弱くなり、終いには、弱く「あ
  たしがガス欠になっちゃった」と言っていた。誰一人としてハルヒと視線を合わせようとしない。一縷の望
   みをこめて見遣った相手は。
  「ね、ねぇ古泉君」
   神様直々のご指名に、顔を上げてしかたなく、真一文字に結んだ口をほどく古泉。審判が下される。
  「……本当です。ほとんどのタクシーは液化石油ガス、いわゆるプロパンガスを燃料として走っています。
   これはガソリンとは全く違う種類の燃料なんです」
  「じゃあどうやって――」 落胆、失望、羞恥が入り混じった声。
  「表通りで見かけることはほとんどありませんが専用のスタンドがあるんです。一般車両に混じって給油して
   いては、給油に手間取って、大事なお客様をお待たせすることになりかねませんから。税金の問題もある
   そうです。それに大規模なタクシー会社の場合、事務所にスタンドが併設されていることもあるとか」
  「詳しいのね、古泉君」
  「ええ、実は、僕の遠い親戚がタクシー会社を経営していまして」
  「それってこの前の孤島の人と同じ人?」
  「そうです」
   さらりと嘘をつくんだな。それが悪いなんて言えないが。
  古泉がカーテンを引き、朝比奈さんがそっと窓をそっと開けた。花曇りの天気の奥から淡い光が差して、温
  い風が一陣吹く。またあの掛け声が戻ってくる。
   まあ気にするなよ、と苦笑しながら背中を叩いてやると、「どうせ心の中で馬鹿にしているんでしょ!? 悪
  かったわね」の怒鳴り声と共に三倍四倍にして返された。制服の上から跡がつくかと思った。どうして善意を
  仇で返すかね。団長様にとってお恥ずかしい結末となった今日の部活。あまりの的外れっぷりに周囲でも苦
  笑いが絶えない。からかってやりたいところだがこのまま全てをやり過ごして何事もなかったように明日を迎
  えるべきかね。皆同じ気持ちのようだった。それじゃまた明日。
   ゲームを片付けて鞄を持ち、部屋を出る。一番に退室した団長様は振り向くこともなく足早に去っていく。
  おー、おー、ついには走り出したよ。そんなに恥ずかしかったか。そこで長門が一言。

  「……私たちも帰タクシーましょう」

  「――ユニークだなっ」

 

   ※ラストのダジャレが言いたかった。うむ。

 

   ◆3月21日 お絵描き

   10 10 10 10

   ◆3月17日 雑感

 

   今週の刃牙。薀蓄オリバさん。頑張らないと19倍が手に入らないから、人は、頑張るんじゃなか

   ろうかっ。しかし驚きの展開ですね。このままじゃオリバのプライドを粉砕することによって勝負を

   つける、なんてことになりそうな予感。肉体を粉砕するのではなく、精神を破壊して決着をつける。

   漫画餓狼伝でありましたよね。寸止め空手の神山さんが格の違いを見せることによって、相手を

   傷つけることなく敗北を認めさせた試合が。いかに自分が勉強不足であるか認めさせ、戦意を奪う。

   必ずしも肉体的に怪我をさせる必要はないわけで。

   オリバの場合ですが、今、バキと勝負し完全な勝利を収めたとしても『自分は不自由である』から

   逃れられなければ、その勝利は無意味です。高級ワインと一杯の水の対比のごとく、どれだけ強

   い相手に勝ったとしても本当の意味で価値はないわけで。プライドを捨て去ってしまわなければ

   いけないオリバ。つまり、この場合、自分が不自由であると認める=アンチェインを捨てること。

   さて、どうなる、どうするオリバ。  

 

   ◆3月13日 雑感

 

   今週の刃牙。よっぽど悔しかったのな、オリバさん。無表情で尿を引っ掛ける辺り、まだまだ意地

   悪してやろうって気なのでしょうかね。自分こそが唯一無二のアンチェインである、というプライドか

   らくるのでしょうか。自分はハンドポケット真似して勝利につなげたくせにね。

   あと、バキは思い切り啖呵を切りましたが、実際には、オリバと試合する展開に持ち込むことさえ

   できれば良いのであって、発言がそのまま真実にならなくてもいい訳で。マリアと一緒にいる寝

   込みの時を襲ってしまえば「戦ってくれ」なんて懇願せずも激怒の状態で襲ってくるでしょうし。無

   理が通れば通りは引っ込むわけで。なんなら指錠を引きちぎって今、襲っても……うぅむ。

   しかしどうも最近はオリバさんの精神的に軟弱な部分が強調されていますね。気高いプライドを持

   ちつつも強いキャラでいて欲しかったなあ、と思うのです。花山みたいにね。

   あと、前日の晩、ジャンケンゲームの後にはマリアに違う液体を引っ掛けたんでしょうね(はぁと)。

   

   ◆3月9日 お絵描き

   はじめまして相沢BLACK祐一です。ランクはSSで属性は光です(大嘘)

   こういう絵は久方ぶり。しかし、黒人の吸血鬼ってあんまり見ませんね。あと、吸血鬼と言えばあなたは誰を思い浮かべますか、
   と聞かれて真っ先にアルクェイドとDIOを思い出した辺り、自分を形成している知識の根幹はオタク知識なんだなあと驚き。
   酒! 飲まずにはいられないッ! あのクズのような父親と同じことをしている自分に荒れているッ! とか言いたい気分(嘘)。


   ◆3月4日 お絵描き

   

  久しぶりにお絵描き。一月ぶり。できることならイルカや鮫みたいな海洋生物も画面に入れて、一層シュール感を
  増したかったのですが、地上の生き物だけでも一杯だったため、断念。さて、次は誰を描こうか。


  
◆3月1日 雑感

 

  今週のオリバ。じゃんけんといえば「ガラスのシャワーだ!!」ですが。どうしたオリバ。しかし、

  刃牙はオリバを挑発して試合に持ち込もうとしているんでしょうか。うーむ、となると一番効率よさ

  そうな手段はメアリーを誘惑ですか。どうやって。SAGA2でしょうか。私は一向に構わん。

  ゲバルとの試合最中、添い寝しただけで激怒していたので引火させるのは簡単そうですが、今

  週愛というテーマを提示されただけに、いざ肝心の試合となった時にどうなることやら。最近勝負

  そのものでなく『志』に重点がおかれているので(ゲバルのように志を大切にするか、勇次郎のよ

  うにコケにするかどうかさておき)オリバとの試合も愛というテーマで決着さえ曖昧にしてしまわな

  いかどうか。決着後に『敗北のショックで全部筋肉がなくなってしまったよ』とか言いそうでガクガ

  クしながらも、来週を待ちます。

 

  ◆2月25日 涼宮ハルヒSS 【頭髪検査】

 

   差し込む陽光で目を覚まして起き上がると、頭の中に一つの疑問があった。夢の中から引っ張

  ってきたものだった。夢の内容はもうぼやけてしまっていたが、土産にもたされた疑問はしっかり

  と頭の片隅を占めて、早く早くと解答を求めていた。
   階下に降りていき、朝食のシリアルをほおばる妹を見やる。弁当の用意をする母親への挨拶も
  そこそこに、食卓へ座り、隣の席の妹の髪を指で梳いてみた。ポンポン付きのゴムで結ばれてお
  らず、下ろされた髪はシンプルで見慣れきったものだがなかなか悪くない。指で触れて確かめる

  と、頭のてっぺんから毛先まで一度もひっかかりなく梳けた。ガキんちょのくせに普段から手入れ

  しているのだろうか、艶が指先に残っているようだった。
   妹はスプーンを持つ手を止めて、こちらを向いた。どうしたの寝ぼけているの、顔洗ってきたらと
  心配されたが、いいや全く、と返しておいた。
  「なあ、お前の髪どうなっているんだ。不思議なもんだな」
   言葉足らずだっただろうか。本意がわからないのか説明を求めてきた。ついさっき夢の中で見た
  んだがなと前置きしてから、
  「普段、お前は頭の右のてっぺん辺りで髪の毛をくくっているよな」
   妹の頷きを見て頷き返す。指でいじって髪の感触を楽しみながら続けた。
  「じゃあ、括られた髪の毛はその周辺の分だけのはずだ。当たり前だよな」
   集められて垂れ下がった髪の毛を想像する。そう、ポンポン付きのゴムで括られた部分へと髪が
  流れていくだけ。そう、結果、右と左がちぐはぐなへんてこセミショートが出来上がるはずなのだ。だ
  がどうだ? お前の左の耳脇にあるはずの髪さえいつの間にやら消えてしまっている。ショートヘア

  ーと右上で括られた尻尾だけになっているのだ。今まで何故気付けなかったのだろうか、湧き上

  がった謎を解き明かしたい。どうか諸兄も想像して、そして違和感を覚えて欲しい。
  あの、鼻歌を歌いながらハサミを奪いにきた時の髪型と、普段のコイツの髪型。ありえないだろう。
  対角まで引っ張っていくほど髪の毛は存在しないし、仮にそうだとするならば括られた髪の量が少な
  すぎるし、第一普段から左右の長さが違うはずだ。何故だ。しかも髪を下ろせば元通り。信じられる

  だろうか。コイツは家族である俺の目さえも欺いていたのだ。
  「やだなぁ、そんなことあるわけないじゃない。気のせいだよ」
   なめんなよ。そんなわけあるか。ちょっと試してみろ。
   ご飯食べているのに、と渋る妹にゴムを渡して、普段どおりくくってみるよう言いつけた。こうなれば
  この目で確かめるしかあるまい。
  「これでいいの?」
  「おおい! 今、思いっきり『にゅるん』って!」
   一度両手でまとめてから括った瞬間、いつの間にか消え去っていた。そうして、髪を下ろして、二、
  三回整えるために叩いたかと思ったら俺をあざ笑うようにまた伸びている。何度試してみても同じだ
  った。伸びたり縮んだりしていやがる。もちろんウィッグなどではない、正真正銘コイツの地毛だった。
  「大丈夫? キョン君ちょっとおかしいよ?」
  「おかしくない! おかしくあるものか!」
   信じられるだろうか。そこにあるべきものがなく、ないはずのものがあるのだ。兄の威厳を失いなが
  ら俺は朝食をとった。誰でもいい。誰か、俺に代わってこの疑問を解いてくれないだろうか。髪の毛の
  問題なだけに交代(後退)したくはないが……
  「キョン君、うまいこと言ったー」

 

 

  >>ところで勇次郎は何時まで大統領とドライブしたままなんでしょうか?

  ん? ホワイトハウスに到着してSPと一悶着ありましたよ。まあ、そこで「お前の師匠を食ってみてえ」とか言っていた勇次郎は

  それっきり行方不明ですが。しかしゲバルの故郷の島にたどり着いた勇次郎が、ゲバルを秒殺すればまた新たな噛ませ犬伝

  説の幕開けなのですが……噛ませ犬多すぎますな。末堂こそどうなったのか気になります。まだ包帯グルグルの車椅子状態で

  遊園地にいるのでは。新しいアトラクションの一つに思われていそうです。

 

 

  ◆2月23日 雑感

 

  今週の刃牙。いやー、オリバが大人げなかったですね。が、しかしひとしきり笑った後に気付きます。

  オリバは特別短気なわけでもなければ並外れて高い自尊心の持ち主でもないと。烈海王は敵に逃

  げられたというだけで世話になっている神心会道場の床を踏み抜いていますし、郭海皇は弟子三人

  の右手をまとめて切断しています。柳と独歩そしてアライは執念深く町中を徘徊して、重症の、満足に

  闘う事の出来ないアライJrを叩きのめしています(しかもプライドを傷つける形で)。勇次郎にいたって

  は前科ありすぎ。オリバだけを責めるわけにはいきません。強いんだ星人全員を責めましょう。

  これからも刃牙が見逃せません。

 

  ◆2月19日  涼宮ハルヒSS 【愛想が尽きるような時ほど She so cute】

 

 「あーもう、世の中退屈すぎるのよ! 何か面白いことはないのっ!?」
  放課後とはいえまだまだ日は高い。SOS団は今日も活動中なのだが。
  ハルヒの退屈許せない症候群の発作がまた始まった。主治医を呼べ。まったく、ネットサーフィンに飽きることが何故世界の

 終焉と地続きなのだろうと疑問に思う。判らんが。

  ほのぼの空間が終わりをつげると、古泉は「ふむ困りましたね」と言って、朝比奈さんは部屋の中のあっちこっちで可愛らしく
 おろおろ、長門は変わらず読書を継続、俺は嘆息する。全くこのお嬢さんはのんべんだらりと過ごす日常に楽しみを見出すこ
 とができないのかね。ハルヒ、どうせならもっとゆっくりまったりと生きようじゃないか。人生長いんだぜ。
 「アンタは人生を浪費していることにまだ気付いていないだけよ。そうしてうだつのあがらない中年になった頃にようやく気付くの。

 それで言い張るのね『もっと違った人生を歩むことができたんじゃないか。そうさ、俺の価値はこんなもんじゃない』なんてね。
 はぁ、ヤダヤダ。重要なのは今よ、今なのよ」
  将来面白いことが約束されていると思っているなんて、何かもう負け犬コース一直線ねぇと、人生の落伍者を見る目つきをする
 ハルヒ。凄い言い草だな。まだ負けてねえよ。っていうかまだ始まってさえいねえよ。2ケツのチャリで校庭をグルグル走りたくは
 ない。
  だが今重要なことは隠居した老人のような台詞を吐くことではないということは俺にもわかっている。学習しているさ。今、成すべ
 きことはハルヒの不満を解消してやることなんだろ。
 「じゃあゲームするか? オセロでも将棋でもトランプでも、それこそ賭けポーカーでもいいぞ」 違法だけど。
 「嫌よ。もっと血沸き肉踊るようなイベントじゃないと燃えないわ」
  コイツ。妥協するということを知らんのか。古泉と対戦するようになってから見直したが、面白いんだぞ、ボードゲーム。しかし
 この流れのままではまた朝比奈さんが生贄となってしまう、それだけは避けねば、さてどうするかな、と思案しているとハルヒが
 言った。
 「ねぇ有希、何か面白いことない?」
  長門に話を振る。長門は読書を中断して顔を上げた、が、ちゃんと話の流れを把握しているかな。
 悪く言うつもりはないが、長門ほど高校生らしい、そしてハルヒのいうところの血沸き肉踊るようなイベントと無縁の存在もそういな
 いだろうなあ。本当の本当の部分は違うんだけどさ。ファッション、ゲーム、友人と駄弁り、旅行、カラオケ、ナンパ……うぅむ、どれも
 これも俺たちが長門を誘いはするが誘われはしない分野だ。はてさて。ここでハルヒの望むような面白い回答が返ってくるだろうかと
 問われれば、ぶっちゃけて限りなく0に近い気がするんだが……。
  しかし長門は、わかった、と、本に栞を挟んで立ち上がると、自分の鞄から一枚のメモ用紙とペンケースを取り出してそこに筆を
 走らせて、その用紙をハルヒの元に持っていく。俺と古泉は長机の席を立ってハルヒのいる団長席の後ろに回りこむと、どれどれと
 そいつを確認してみる。綺麗な文字が躍っている。

  クイズ キスが悩み 秘密は何処 皆家鴨と行き去る

  用紙にあるのはたったこれだけの文字だった。
 「これを解いて欲しい」

 「ふぅん……ま、いいじゃない。見てなさいよ、さくっと解いてあげるから」
  ハルヒがにんまりする。スーパーウーマン長門からの出題だからだろうか、はてさてめったにお目にかかれないアクティブ長門から
 の挑戦だからだろうか。どうやらこのクイズはハルヒのお眼鏡にかなったようだ。サンキュー、長門恩にきる。古泉も感謝しているよう
 で長門に向かってウィンクして、朝比奈さんは長門におかわりを注いでいた。
  じゃあ。いざシンキングタイムだ。持てる知恵を振り絞ってこのクイズに望みたい……んだが。待ってくれ長門。俺のスカスカの脳み
 そには少しばかりハードルが高いようだ。ヒントが足りない。だってこの文字が何を指し示しているかさえ解らないんだよ。
 「駄目。制限時間は設けないからゆっくり考えて欲しい」
  これだけの文字から何を導き出すんだよ。『犯人は誰?』や『犯行の動機は?』の誘導さえないんだぜ。ぬう。
 ハルヒは何か思うところがあるのかしばらくして「キスなんて別に悩みじゃないわ」と言う。口にチャックしてくれよ。思い出すと恥ずか
 しくなってくるだろうが。頼むから謹んで欲しいよ。
  長門が用意したクイズは少しばかり難問なのか、ハルヒも古泉も朝比奈さんも頭を捻っている。読書を再開した出題者の横顔を
 見て見ると、うんうん唸っている俺たちが愉快なのか長門は少しだけ自慢げだ。ほぅ。いいね。あのポーカーフェイス長門が自慢げに
 しているんだぜ。喜ばしいじゃないか、願うことならスパッとこのクイズを解いて、驚いた長門の表情をカメラに収めてやりたいもんだ。
 とはいえどうしたものか……どうかヒントをお代官様ーと命乞いをする悪役のようにすがってみた。うるせえ、情けないとか言うな。

 

 「鍵」

  一言ヒントをこぼして今度こそ長門は完全に沈黙する。おいおい、俺にはどうも縁のある言葉なんだが。鍵か。やっぱりわかんねえ。
 「鍵ですか。かぎ……KAGI、KEY、鍵穴、錠、門、扉、暗号、秘密、南京錠、、セキュリティ、オープン」
  古泉は連想される単語を呟いてノートに書き連ねている。白いノートが雑な字でどんどん埋まってはいくが、なかなか正解には近づ
 いていけないようで苦闘している。このヒントをどこまで頼っていいものか。麗しの朝比奈さんといえば、
 「ええと、『か』と『ぎ』の文字を消して読んでも意味が成り立たないし、一文字前後にずらしても駄目だし……がき。ぎぐ。がぎ。さじ」
  こちらも苦戦中だった。ミステリ小説などにも用いられる、暗号を解く際に用いられる解凍(解答)法である。初歩的なものしか知らな
 いが俺もいくつの方法を当てはめてみた。結果は玉砕だったが。
  ハルヒは用紙を睨み付けたまま黙り込んでいる。解決の糸口さえ見つけ出せないのか不機嫌オーラ全開だ。悔しいのだろう眉間に

 ずいぶんしわが寄っている。おいおいこれが解けないからって
 閉鎖空間発生とかやめてくれよ。本末転倒どころか洒落にならん。
  意見交換をしてみたりもするが答えは得られず、ただただ時間が経過する。すると、長門がやってきた。どうしたんだと聞くより先に
 「もう一問追加」

  墨名綱も認知口砂国

   何?
   おいおい、皆ビックリしているだろ。一問済んでいないのに追加かよ。それに今日はずいぶんとアクティブじゃないか。手厳しいね。
  勘弁して欲しいと言いたいところだがこうなりゃ意地でも二問とも解いてやるよ。なぁ、長門、念のため聞いておくがこっちのクイズは
  完全に独立しているんだよな。『鍵』という言葉は一問目のヒントであって二問目とは無関係であり、一問目を解かないと二問目が
  解けないなんてことはないんだよな? さらに言えば一門目の解答は二問目のヒントでもないよな。
  「そう」
   OK、やってやる。とはいえこっちも難しそうだな……知恵熱出そうだ。
  「あぁ、こっちは簡単ね。ウォーミングアップにこっちを出してくれたらよかったのに」
  「そのようですね。では再び第一問に取り掛かります」
  「はい、私にも解けました」
   馬鹿じゃないぞ、俺は多分。さて、やれるだけやってみよう……

  「ギブアップだ。お手上げだよ」
   格好つけて啖呵を切ったまでは良かったものの、本日の活動終了を告げる下校のチャイムが鳴り、寸分違わぬタイミングで
  長門が本を閉じた。タイムオーバーである。結局二問とも解けずじまいとなった俺は、全面降伏、と両手をあげる。制限時間が
  設けられていないクイズとはいえ実質これは落第と同義だろう。本当にしまり悪いな。窓の向こうで沈んでいく夕日がにじんで
  見えるのは、決して俺の瞳が潤んでいるからではない。そう、事実を認めてしまえば負けなんだと自分に強く言い聞かせる。だが
  袖口で顔を拭えばくっきりと色鮮やかなオレンジが否応無しに視界に飛び込んできた。オゥ、ジーザス。
  「ふっふーん、正解を教えて欲しい? 胸のつかえを取り去ってしまいたいでしょ?」
   ハルヒが教えたくて仕方ないといった表情で近寄ってきて俺の周りをぐるぐる回りはじめた。高慢というより浮かれているのか、
  声の調子がずいぶん高い。ハイテンションなのは結構だが、こんな光景、幼稚園か小学生の時分によく遭遇したな。覚えがある
  から共感はできるがそこまで嬉しいかよ。はいはい、正直解答を教えて欲しくてたまりません。
  「教えを請う態度じゃないわね。真心が足りないんじゃないの」
   腕組みしてねちっこく言ってのける声さえも楽しそうだ。ああそうかい。
  「ならお前には頼らん。すいません朝比奈さん、どうか教えていただけませんか――」
  「まぁいいわ。この手のクイズは問題文だけで完結しているのよ。アンフェアなクイズはともかく問題自体がフェアなら穿った見
  方をする必要なんてないわ。視点を変えれば答えがそっくりそのまま隠されているんだから」
   お前は子供か。名探偵の役目を譲る気はないようで、発言を遮ってとうとうと解説を始めるハルヒに俺だけでなく皆呆気にとら
  れそうになる。いや、素直に折れなかった俺もいい勝負なんだろうがお前には負けるよ。
  「張り切って答えあわせしようじゃないの。『墨名綱も認知口砂国』だけどなんて読むか解る? 第一歩目のここが一番肝なんだ
  けど」
  「『ぼくめいつなもにんちくちさこく』か? 他には思いつかんな」
  「ブー」 胸の前で大きくペケマークを作るハルヒ。勝者の余裕か嬉しそうなもんだ。
  「じゃあ前提からして間違っているのかよ。報われねえぞ」
  「墨名(とな)って読むのよ。後半も正しちゃうと『となつなもにんちくちすなくに』が正解。パソコンの文字変換機能に落とし込んで
  実行すればなんてことないわ。アンタもそうすればよかったのに」
   墨名、ね。お前がそのパソコンを独占さえしていなければ、紙の辞書にいちいち頼らないで済むんだがな。すみとぼく以外の読
  み方知らなかったよ。面倒くさがらずコンピ研から頂いたノートを立ち上げるべきだった。すまんゲイツ。そこで、ふと俺はひらめく。
  「じゃあもしかすると――」
   ひょっとしたら、と微かな期待を胸にパソコンへ近づこうとすると行く手を阻まれた。言わずもがなハルヒだ。
  「駄目よ。補習コースの生徒は最後の最後まで黙って先生の講義を聴くべきなんだから。変な癖がつく前に、筋道立てて教えて
  あげるからじっとしていなさい」

  「そう言うな。自分の手で解いて初めて勉学は身につくものだろうが」
   俺が動いた方向に体をはすにするハルヒ。動きを牽制するようににじり寄ってきた。
  「駄ぁ目。絶対許さないから」
  「意地悪するなよ。第一、出題者の長門にならともかくお前は一解説者だろう。そこまで言われる筋合いはない」
   一気に横を通り抜けて、文句を言いながら髪の毛やらネクタイやらを引っ張るハルヒの妨害に腐心しながら、メモ帳を開いて
  操作する。終始、真横で「あぁ、もう!」などと喚き声がしていた。

   墨名綱も認知口砂国 

   となつなもにんちくちすなくに

   ……すずみやはるひ。
   どうやら正解だったようで、画面では変換を待ちわびるすずみやはるひの文字が点滅している。紙吹雪が舞って、効果音つきで
  派手に高速点滅しないものかね。何てことはない。解読方法自体は特別な知識を要するものでもなく、俺も聞いたことはあったが、
  持ちこもうとした文章がいびつだったため試そうともせず考えただけで止めたものだった。
   ローマ字入力の陰に隠れて、滅多に出番のないかな入力モードに変更後、キーボードを叩いて件の文章を入力する。そうすると
  見知った人名が上がってくるという寸法だった。キー配置の死角をついた謎か。俺にとっちゃこのクイズは仕掛けがどうこうより隠
  れているのが団長様という点がミソであり粋なんだと思う。
   おめでとうの言葉とともに古泉と朝比奈さんの拍手に迎えられると、やはり気持ちいいもんだね。ヒントつきとはいえ解いてみた
  後の気分は爽快で、団長の手によるひん曲がったネクタイと不必要なほどの無造作ヘアーも勲章に思えた。だと思い込むことに
  する。
   その団長はどうも面白くないようでブツブツと小言ばかり言いながら髪をもてあそんでいた。ふてるなよ。よほど俺相手に教鞭を
  執りたかったようだが放課後まで退屈な講義を聴く授業で占められるのは勘弁して欲しい。
   その仕草は、いつかの、肩の荷が下りたはずなのに酷く空虚でやるせない時の気持ちを思い出させた。
  ハルヒの姿が、母親に頼まれた用事を頑ななまでに一人でこなそうとするウチの妹、それも俺が手伝おうとするとすれば、ひと
  りでできるもん! と歯を剥きだして追い払おうとする懸命な姿とダブった。危なっかしい手つきに任せておけず、母親の「キョン君
  に助けてもらいなさい」の一言ともに仕方無く共闘――いや、単なる洗濯物の取り込みなんだが――してみれば恨みがましい非難
  の目を向けられた挙句、「キョン君、要らんことしぃ!」の言葉を添えて、次の日まで尾を引くほどに機嫌を損ねる羽目になった。
   立場は違うがどちらも、私の仕事をとらないで、だろう。妹はともかくハルヒの場合、せっかくのお楽しみを横取りされてしまう……
  なんて、折り合いのつけられない年ではない気がするがね。団員を信じて欲しいものなんだが、うぅむ、兼業兄としちゃあ少しばか
  り大人げない行動だっただろうか。
  「次回、次回があるなら、その時こそはゆっくり教えてもらうことにするよ」
   返事は返ってこない。無視されたよ。部室を出て校門をくぐって下校の最中もバカキョンと連呼された。隣で不満げにされちゃあ

  素直に喜べないだろうが、はぁ。
   でもな、お前だって結局一問目は解けなかったじゃねえかよ。お仲間だ、馬鹿仲間。五十歩百歩の諺ぐらい知っているだろう。
  すると、む、と言ってハルヒの表情が暗転する。

 

   問一であり、本丸でもある『キスが悩み 秘密は何処 皆家鴨と行き去る』はついに誰一人として解けず終いだった。ゲーム
  好きの誰かさんなんざ、退屈しのぎだと捉えていたハルヒよりも虜となったようで、第二第三のヒントを要求していたほどだった。
  平穏そうな顔でいて、その実、未だににあきらめきれないでいるかもしれない。
   身の毛もよだつ猟奇殺人の動機であれ、用意周到に仕組まれた四重密室のトリックであれ、世界と天秤にかけられた暇つぶし
  であれ、不可解な謎は心をひきつけて止まない。いつか解き明かされ、衆目に晒された真実は時間が経つと忘れ去られ部屋の隅っ
  こで埃をかぶった。そうして愛好家が次の謎を用意すると誰かが飛びつき、繰り返される。最先端のトリックは流行のアクセサリの
  ようで移り変わりが激しい。ミステリに興味のない人間にすれば酷く滑稽なのかもしれない。
   長い坂を下りきっていくつ目かの交差点が、本当の解散地点だった。ここで、皆、足の向かう方向が違うのだ。
   誰からでもなく答えを尋ねると、もったいぶることもなく長門は、問一も問二も同じ、と前置きしてから説明に入った。
   輪になって、用紙を持った長門の手の動きを追ううちに、朝比奈さんが「えっ!?」と声を上げたんだが俺も同感だったよ。なんと
  まあ。
  「この『クイズ』の文字は題字じゃなく、暗号の一つに含まれていたんですか?」
  「ちょっと有希、ズルくない」
  「これは……そうでしたか」
   三者三様のリアクションに長門がしてやったりと顔をほころばせる。回答者としてはしくじった俺だが、ここはぬかりないぜ。
  用意しておいた携帯のカメラで決定的瞬間をしっかりおさえておく。でもひっかけなんてズルいぞ。
   用紙の下半分に問題文がひらがなに変えて書き写される。
   クイズ キスが悩み 秘密は何処 皆家鴨と行き去る 

   くいず きすがなやみ ひみつはいずこ みなあひるとゆきさる
  「この、意味を成さない文字の羅列を組みなおせばいい」 ペンで丸く囲む。あっさりと佳境を迎えるらしい。
   さらりと次に進むから聞き逃してしまいそうになったがこいつはパズルだったらしい。しかもよくあるパターンと言ってのけられる。
  ハルヒの言ったとおり、答えはクイズに内包されていた。もちろん俺はここにさえたどり着いておらず、それどころか訳されたひらがな
  の文字に「やがも」じゃないと知らされた。あひるね。どうやら俺の鈍くさい頭は基礎の基礎から学びなおさなければいけないほどお
  粗末なようで恥ずかしい限りだ。
   熱意を買われたんだろう、あなたに任せる、と古泉に用紙とペンが渡された。
   古泉がメモ用紙と格闘している間、俺の役目といえばそこのコンビニで人数分のジュースを買って待機することだった。行き交う車
  両がライトを灯しだす程陽が暮れた時間になり、我が家では俺抜きで夕食が始まっているんだろうが、一足早くここを抜けようなんて
  幾許も思わない。明日口頭で伝えられるんじゃなくて、どうしても、今、感動のフィナーレを見届けたかった。
   頭の中にメッセージはとっくに刷り込まれていたが俺はあえてそれに手をつけず、ただただじっと待った。緩慢だが退屈ではない
  時間だった。500mlのパックジュースを飲み干したハルヒが二本目をせがむ頃になって、古泉の対面で一緒に頭を悩ませていた朝
  比奈さんが沸いた。
   完成したんだろうか。ずいぶん悪戦苦闘したようで、古泉の掌の中には破りとられた用紙が数枚あった。そこここにぐじぐじと斜線
  が引かれて要らない文字跡が多く見える。朝比奈さんの手には清書された文字が綴られた用紙がある。欠けず余らず、意味を成す
  二十六文字に目が惹きつけられた。

 

   すずみやはるひ こいずみいつき あさひなみくる ながとゆき

   おいおい。
   そう正解は、と一旦言葉を切る。八つの真剣な目が揃って俺に注がれた。長門が、あなた、と俺を指差した。

   長門にしてみれば全員脱落は意外だったらしい。これでも簡単なお題を用意したつもりだろうがお前の尺度で測らないで欲し
  いよ。一方、結束が弱まっている証拠なのかな不味いわ、なんてハルヒはしょうもない危機感を覚えていた。要らん心配だよ、
  捨てておけ、そもそも頭脳と信頼は別物なんじゃないのか。
   そうしてこの突発クイズ大会は幕を閉じたように思われた。少なくとも俺には。だが隠しだまが残っていた。ハルヒの、その言

  葉の後に
  「からくりはわかったんだけど、腑に落ちない部分がまだあってさ――」
   心地よい疲労と共に帰宅しようと我が家のほうに足を向けようとしたところで呼び止められた。俺の意識は既に今晩の夕食予想
  モードだったが、現実に引き戻される。
  「どうしてキョンが鍵なの? キョンって直接言っちゃってもクイズには差し支えないでしょう。そう、鍵に例えた理由がまだ残ってい
  るじゃない」
   生来のものか、SOS団の活動で培われたものか要らん探究心を発揮してくれた。血の気が引くとはこういうことか。気のおけな
  い仲間との会話がぷつりと途切れ、示し合わせたように誰もが顔を強張らせた。朝比奈さんなど表情のバランスがとれないのか口
  元にはだらしない笑みが浮かんでは消えていた。
   誰も口にこそ出さなかったが、あのヒントに俺たちは納得していた。だが「誰」の中にハルヒは含まれちゃいない。
  世界の中心人物でありながら蚊帳の外にいるハルヒにとっちゃ単純な疑問なんだろうが、それを説明すること即ち世界の崩壊に
  繋がりかねない。俺自身は認めちゃいないが世間から認定されてしまったのだから仕方あるまい。一切合切が終わりを迎えるまで
  秘匿すべき事項なのだ。涼宮ハルヒにとっての鍵は即ち俺だという事実。忘却していたもう一つの十二月と世界がすぐそこまで迫っ
  て、背中の向こうで手招きしているようで怖気が走る。
   最後こそ美しく飾りたいわねと言うハルヒは期待しているのだろう、目が爛々としていやがる。
  落ち着いて考えてみれば、部室にいた時ハルヒの前で長門は確かに言った。鍵だと。クイズのヒントであり又隠されていた謎その
  もの。
   もしや長門の失策だろうか。万能選手だと思われているが長門とてごく稀にミスをすることがある。いつぞや眼鏡の再構成を忘れ
  たことなどがそれに当たるだろう。普段ならば可愛らしいミスだと笑い飛ばすのだろうが、今ばかりは命とりでしかない。未来人超能
  力者一般人総動員で隠ぺい工作を行わなければならない。瓦解する日常が脳裏によぎり本日幾度目かの自身への落胆が襲った。
  無駄口を叩けばいいってもんじゃない。矛先をずらさねばいけないが言い訳の一言目からボロを出して自爆するイメージばかりだ。
  どうすればいい。一部を除いて和やかムードはとうに失せている。長門、こうなればいつぞやのように、禁則事項、とでも誤魔化して
  くれ。世界が傾くより閉鎖空間だ。目配せする。やれ、やっちまえ。
   だが当人は動じる風でもなく説明する。
  「『鍵』とかけまして」
   長門が一歩ハルヒの前へと踏み出した。
  「う、うん『鍵』とかけまして?」
  「『彼』と解く」 長門がまた俺を指差した。
  「その心は!?」
   盛り上がっているのはハルヒだけだ。胸の前で腕をねじ込むようにしゃくって、長門は言った。

  「……どちらも突っ込み役」

 

  「……もおおおおおお!! 有希超可愛いいいい!! もぅ、もぅ、もおおおおおお!!」 
   牛かよ。そんなオーソドックスな突っ込みさえ許されざる状況だった。出来ることなら一つの細かいボケも見逃さずあますことなく
  大きな声で指摘してやりたい。世間様から奇異の目を集めてもいい、蔑みさえも突っ込みの対象だ。会場の視線を独り占めかよ!
   しかし今突っ込むことは突っ込みに非ず。それはボケを彩る花飾りではなくフィーバーするハルヒを際立たせるだけなのだ。舞台
  に立った演者へ向けて観客が発する拍手であり、完成されたステージに乱入しようとする見苦しい嫉妬にすぎない。意味を成さない
  突っ込みに存在価値などないと断言させていただこう。
   道行く人々が皆こちらを見ている気がするが、ぎゃあぎゃあ騒ぐハルヒを注意する気力など残っていなかった。確実に思われた世

  界改変を免れた僥倖と、 この銀河を統括する情報統合思念によって創られた対有機生命亭有希の掛け言葉に、安堵の虚脱―

  ―付け加えるなら宇宙人に直々突っ込み役に認定されたショックもか――でへたり込むだけの情けない俺。突如俺を襲ったトリプル

  パンチの衝撃に、突っ込みをセーブするだけで精一杯だ。 普段からそうだが、今の俺たちは格別シュールな集団だろう。あぁ、トリ

  プルの次ってクアドラプルらしいぜ。
   長門にすればハルヒが話を振った時すでに予想のついた展開の一つだったんだろうが、心臓はついていけずまだ高鳴っている。
  好意的に解釈すればちょっとしたお茶目なんだろうが、これをしょっちゅう繰り返されるとなれば俺が不整脈で搬送される日はそう遠
  くない。長門が冗談の魅力にとりつかれないうちに釘をさしておこう。宇宙パワー全開で挑まれてしまえば、この世界の謎々なんて

  倍の数になるだろう。寒風吹きすさぶ季節なのにあごを伝って汗が滴り落ちる、確実に寿命が縮まっただろうな。仲間が二人もいる

  のがせめてもの救いである。
   ハルヒは獲物である長門にかじりついて、頭を撫で回し、耳たぶを食み、摩擦熱も何のそのの勢いで頬擦り、とやりたい放題だ。
  おそらく奴の中での長門に対する認識は「万能選手」から「萌えキャラ」へと改められた事だろう。滅多なことでもない限りお目にか
  かれない光景も心労の原因でしかないのは残念だが一件落着か。ギャップ萌えを体現した長門は明日コスプレを要求されるんだろ

  う。今回ばかりはミラクルみくるじゃなくて、ミラクル有希だね、全く。
   心身ともにどうにか復活した俺は、いつまでも長門から離れようとしないハルヒと、へたり込んだままの古泉朝比奈さんに手を振っ
  て、コートの襟元に首をうずめて帰路についた。夕飯食った後に、問題を適当にいじって妹に出してみようか。

  そうそう。携帯をチェックすれば愛想無しの長門の笑顔がデータとなって焼きついていた。一人ほくそえむ。ピューリッツァー賞もの
 だね。忘れないうち保存と消去防止のロックをかけておいた。翌日披露してみると、残念ながら誰もが「口元が緩んでいる気はするが

 普段と変わらないよ」の感想を漏らすことになる。

 

  ※お終い。あぁ、そう言えば突っ込むのは●も得意でしたね(はぁと)。

 

   
  
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