第1回俳句大学大賞

 

杉山久子『泉』(ふらんす堂)             選・宮崎斗士

 

 特に惹かれた作品

  日輪や切れてはげしき蜥蜴の尾

  水の香の灯を入れしより風の盆

  わが杖となる木に雪の記憶あり

  ラブホテルある日土筆にかこまるゝ

  春月や足湯あがりの脚ゆらゆら

  ぼうたんにたわたわと昼すぎゆけり

  雨粒を背負ひて蟻の立ちあがり

  秋天やポテトチップス涙味

  隕石の地球の石となる小春

  やはらかに畳の沈む遍路宿

  人悼む白シャツにかすかなフリル

  未来とは鍬形虫の背の光

  類想と片づけられておでん煮る

  しづけさの罅をそだてゝ寒卵

  冬眠の尻尾ときをりふれあへる

 

 

 

 

第1回俳句大学新人賞              選・宮崎斗士

 

一位 無題 小西瞬夏

二位 無題 牟礼鯨

三位 真夜中の遺書 松本青山

 

 第一回俳句大学新人賞、応募された皆様のひたむきな情熱、自らを開拓していこうとする俳句作家としての意気にまずは敬意を表したい。

 選考にあたり、まず全句(三十句×18名)を数回に渡って熟読。その上で、惹かれた句(佳作と思われる句)に○、特に惹かれた句(秀逸と思われる句)にを付していった。〇を1点、を2点として集計、その総得点に基づいて推薦作を決めさせていただいた。三十句全体のバランスの良し悪し、著しい誤字、語法の誤りなどのマイナスポイントも選考の上で考慮に入れることとした。

 

第一位 9「無題」 小西瞬夏 14点(×2 〇×10) 

 の句は

  ハンガーにしづかな冬日吊りにけり 

  小鳥追ふ少女イヴのごとく素足

 〇の句は

  髪梳けばどこかで雪の崩るる音

  母の手の置きどころなき花の昼

  蝶群がりし水際の昏さかな 

  ゴム製の蜥蜴反抗期に終はり 

  包帯をほどけばふゆる夜の黴 

  しほざゐや素足もつとも透きとほる 

  花瓶の水ほど満たされて蛍の夜 

  だまし絵の道化の泪夏寒し 

  紫陽花として日曜を濡らすなり

  蛍を受くに差し出すからだかな 

 作者自身の素顔、息遣い、漂泊感含みの日常が詩情をもって描かれている。自らを取り巻く世界、そのひとつひとつの掴み方が何とも瑞々しい作品群だった。三十句全体のバランス、安定感という意味でも今回の応募作品の中で際立っていた。

 

第二位 4「無題」 牟礼鯨 12点(×3 〇×6) 

 の句は

  膝裏のほくろ二つや猫の恋 

  花曇もう十分に生きた犬

  道はみな鏡に果つや朧月

 〇の句は

  春の水に鳥でありし日のにほひ

  まるめろの花や横隔膜ひらく 

  雲の峰主婦らは骨を正しうす 

  月酔ひの蝶に小径を譲りをり 

  外套は少年隠し出航す 

  階下より若き吾の来る去年今年  

 共鳴句はいずれも季語の持つ世界観をしっかりと捉え、しっかりと伝えている。「もう十分に生きた犬」の諧謔は、「花曇」の空気感と極めてよくマッチすると思うし、「膝裏のほくろ二つ」と「猫の恋」との配合は何ともスリリングである。「道はみな鏡に果つ」「月酔ひの蝶」「階下より若き吾の来る」といったフレーズの滋味、切れ味も上々。作者の俳句作家としての並々ならぬ力量、詩的センスを感じた。

 ただ三十句の中に

  ゴムタイヤ三つ立てかけ花水木

  自転車のサイドミラーやけしの花

  きのふより二度ひくき日の氷菓かな

  夕闇へ投ぐるピーマン袋ごと

 といった、ただごと俳句、意図不明な句も散見されるのが残念。ここのところぜひ留意されたい。

 

第三位 16「真夜中の遺書」 松本青山 9点(×2 〇×5)

 の句は

  初蝶は披露宴までいくといふ 

  春の海誰も降りない観覧車 

 〇の句は

  流灯会星のけむりをみなそこに 

  草笛や西も東も星ばかり 

  筍の背割れしてゐる文殊かな 

  終戦忌蜂が音なく貌にくる 

  終戦日玄関に立つ九条かな 

  「初蝶は」の斬新、ユーモラスな展開。「春の海」の穏やかな風情の表出など手応え十分。「終戦日」をテーマにした二句からも、その鋭敏な感覚が汲み取れる。

 惜しむらくは表題作の

  去年今年真夜中の遺書のこしけり

 が私にはもう一つ響いて来なかった。「去年今年」と「遺書」の配合は良いのだが、「真夜中の」がどうだろうか‥‥

 

 その他、1 「媼」瓦すずめ、5「クラインの壺」清水憲一、13「星流る」石原百合子、14「無題」野島正則、15「君影草」大関博美、17「夏目雅子」髙橋雅城に注目した。

 以下、共鳴句を掲げる。

  ふらここや懺悔してゐるホームレス 瓦すずめ

  増税に耐へる形の烏賊炙る 山梨明彦

  桜蘂降るや古希なる足取りに 桑本栄太郎

  炎上の金閣見上ぐ蜥蜴かな 清水憲一 

  麦笛や我も現在進行形 砂山恵子

  繰り言の減らぬ畳の子規忌かな 菊池宇鷹

  ひろしまや米大統領に水の音 瀬川泰之

  立ち漕ぎの自転車の風昭和の日 谷原恵理子

  青空を巻き込むやうな二羽の蝶 手塚偉智朗 

  ががんぼや夢二のをんな首傾ぐ 山野邉草民

  世論とはどこからのこゑ鰯雲  石原百合子

  母の焼く卵の厚み山笑ふ 野島正則

  針箱の君の釦や六花舞ふ 大関博美

  のどぼとけ寒し亜細亜の街におり 髙橋雅城

  草叢や宇宙に浮かぶ蝉時雨 亜仁子

 

 

第1回俳句大学評論賞              選・宮崎斗士

 

第一位

俳句の基底部と干渉部   Dr Papp Aniko

 

第二位

高野素十の句における表現技巧切れ字と体言止めを中心に    涼野海音

 

第三位

第二芸術第二論 グレン・グールドのパラドックス   高橋雅城