現代俳句選集平成251212日更新  


  あ行

  藍原弘和

   雨季冷えや胸の奥まで刺さる波       「吟遊」59

   死者の書の頁を閉じて夏の蝶          同

   天野原風を紡いで吾ひとり           同

   

  青柳志解樹

   きのこ食ふこの世の不思議思ひつつ     『山雨』牧羊社



  青山茂根

   羽ひらく孔雀のごとき湯ざめかな      『バビロン』ふらんす堂

   いつせいに星を廻せる鯨かな          同

   流れつく者にトマトを差し出しぬ        同

   最果ての地にも蒲団の干されけり        同



  赤尾恵以

   水仙に津波の来るといふしらせ       『春意』花神社



  秋尾敏

   黒揚羽風の隙間に納まらぬ         『納まらぬ』本阿弥書店



  秋山巳之流

   目玉よりばつた飛び立つ真昼かな      『御身』文學の森

   風花す御身の骨の軽さかな           同

   椿より椿へ移る手の白し            同

   夜の色にそまりゆくとき椎の花         同

   勾玉の臍もつをんな花ふぶき          同

   虹の立つ根方に隱れくち吸へり         同



  朝妻力

   石の弥陀石の明王梅白し          「雲の峰」20133月号

   ゆつくりと日は山の端に弥生尽       「雲の峰」20135月号

   香を散らしつつ十薬の乾きゆく       「雲の峰」20137月号



  朝吹英和

   言の葉の亀裂に立ちぬ冬の虹        『青きサーベル』ふらんす堂

   マーラーの凍てしホルンや座礁船        同

   天上に休止符ありし未草            同

   バッハ鳴る時の完熟唐辛子           同

   天鏡の亀裂を抜けし初燕            同

   フルートの開く地平や冬薔薇          同

   オルガンの啓示に光る秋の水        『光の槍』ふらんす堂

   サファイアに透けし座標や鶴来る        同

   虛深きコントラバスや木菟眠る         同

   空間となりゆく時間桐の花           同

   一面のロ短調から蝶生る            同

   空砲の遠き木霊や夏銀河            同

   マーラーの樹海に秋の夕焼けかな      『夏の鏃』ふらんす堂

   冬銀河零れて石の華開く            同

   朧夜の銀の時計に始まりぬ           同

   時磨く水琴窟や秋気澄む            同

   ひたすらに堪へし時や金魚玉          同



  あざ蓉子

   野苺や母に母あること忘れ         『夢数へ』本阿弥書店   

   人間へ塩振るあそび桃の花         『ミロの鳥』ふらんす堂

   膝頭春の空気をひらきけり           同

   人間に塩振るあそび桃の花           同

   十二月金魚はすこし男かな           同

   空蟬に静かな水位ありにけり        『猿楽』富士見書房

   首すぢにほつと螢の生まれけり         同

   虫籠のなかより出たる男女かな         同

   梅林やこの世にすこし声を出す         同

   元日の父の部屋まで旅をする          同

   蟬の穴のぞけば海の音がする          同

   虫籠に午前と午後のありにけり         同

   死後の水均してゐたり夕桜           同



  アビゲール 不二(Abigail Friedman

   first dream of the year carefully I polish these jade marbles

   初夢に翡翠の玉を磨き継ぐ         『私の俳句修行』岩波書店(訳=中野利子・黒田杏子)

   snow melting under the midday sun bamboo springs back

   雪解けて日輪に竹跳ね返る           同



  阿部完市

   少年来る無心に充分に刺すために      『絵本の空』海程社

   ローソクもつてみんなはなれてゆきむほん    同

   栃木にいろいろ雨のたましいもいたり    『にもつは絵馬』牧羊社

   Aへやまみち葉と葉と花子ちりながら      同

   むかしむかしへいろいろの蝶飛ばし居り     同

   東北行く額にいつぽんすすき生やし       同

   にもつは絵馬風の品川すぎている        同

   木にのぼりあざやかあざやかアフリカなど    同

   静かなうしろ紙の木紙の木の林         同

   風をみるきれいな合図ぶらさげて        同

   この野の上白い化粧のみんないる        同

   たとえば一位の木のいちいとは風に揺られる   同

   あんなところに一等賞の風が吹く      『軽のやまめ』角川書店

   ねぱーるはとても祭で花むしろ         同

   わがからだ虫かごであり大きい         同

   豊旗雲の上に出てよりすろうりい        同

   鮎食べてそつと重たくなりにけり        同

   かんたんをきく会のありゆらりと日       同

   いたりやのふいれんつえ遠しとんぼつり   『阿部完市句集』文學の森

   馬出生してすぐ空間に入りにけり        同

   勾玉をさがすころとはなりにけり        同



  安部元気



  新谷ひろし



  有澤榠樝

   耳あつる低き枕や天の川          「鷹」平成259月号



  有馬朗人

   梨の花郵便局で日が暮れる         『母国』春日書房

   青写真焼けば太陽と帆かけ船          同

   水中花誰か死ぬかもしれぬ夜も         同

   青写真焼けば太陽と帆かけ船          同

   ニュートンも錬金術師冬籠る          同

   光堂より一筋の雪解水           『天爲』富士見書房

   天皇と旅を語りて遅日かな         『立志』角川書店

   山は裂け海割れ続く実朝忌           同

   月よりも春の木魂ははるかより         同

   長崎の坂動きだす三日かな         『不稀』(角川書店)

   菜の花や西に遙かなぽるとがる         同

   逃げ水の逃れきつたる日本海          同

   天狼やアインシュタインの世紀果つ       同



  有馬ひろこ



  飯田龍太



  藺草慶子



  池田澄子

   茄子焼いて冷やしてたましいの話      『たましいの話』角川書店

   落椿あれっと言ったように赤          同

   地にとどくまでたのしかろ春の雪        同



  石寒太



  石崎素秋



  石嶌岳

   てのひらに月光掬う落葉かな        『虎月』角川書店

   青空を押し上げてゐし櫻かな          同



  石田阿畏子

   眠る子のちから抜かざる麦の禾       『麦の禾』角川書店



  石田勝彦

   これよりの幾霜ならむ墓ほとり       『秋興以後』ふらんす堂

   盆過ぎのつつぬけ空をふりかぶり        同

   数へ日のもららひとつの烏瓜          同



  石田郷子

   まだそこにきのふがありし落椿       『木の名前』ふらんす堂

   菜の花のふくらんでくる涙かな         同

   にはとりの尾の触れてゐる春の土        同

   堅香子にまみえむ膝をつきにけり        同



  石母田星人

   見つむれば落つる気配の寒椿        『濫觴』ふらんす堂

   体内に椿が燈り眠られぬ            同

   落ちざまを考えてゐる椿かな          同

   黄道光の真中にをりし蜆舟           同

   背泳ぎの指先星を生みにけり          同

   やはらかき谺をひとつ生む檸檬         同

   濫觴の光は自転する檸檬            同

   白鳥の蹼にある昏さかな          『膝蓋腱反射』ふらんす堂

   街中に冬夕焼けの棲む扉            同

   こめかみに谺を埋める黄砂かな         同

   立春の空へ膝蓋腱反射             同

   

  泉田秋硯

   逢ふ人に待たされてゐて月に逢ふ      『月に逢ふ』



  磯貝碧蹄館

   初凪にまで驅けりては馬頭琴        『馬頭琴』ふらんす堂

   磯巾着の觸手に鍵を預けておく         同



  伊丹公子

   食の幸賜る 冬至の陽をくぐり       「青群」2013年春号

   風花に淡く告げらる 一大事        「青群」2013年夏号



  伊丹啓子

   ねんねこの昔 ふくろうくん寝たか     「青群」2013年春号

   千年のヒマラヤ杉に 思惟の洞窟      「青群」2013年夏号



  伊丹三樹彦

   仏足石に 散華さながら沙羅紅葉      「青群」2013年春号

   高嶺の一滴も流れて 春の海        「青群」2013年夏号



  市堀玉宗

   衣更へて風を探しにゆくところ       市堀玉宗 Facebook

   ねぢ花へきれいな雨後の声とどく        同

   月影にけぶれる烏瓜の花            同

   朝顔や死ぬるいのちを寄せ合うて      ブログ『再生への旅』「朝顔」

   芋の露ひとりしふるへゐたりけり      市堀玉宗 Facebook 2013.8.23

   やがて死ぬ旅の途中のカシオペア        同



  伊藤敬子

   夕星の片寄りゐたる端居かな        『伊藤敬子句集』ふらんす堂

   日本の空を狹しと鳥渡る            同



  伊藤白潮

   一睡のあと蛤の舌白き           『ちろりに過ぐる』

   次の世の入口も黴びゐたりけり         同



  糸大八



  糸屋和恵

   天花粉打たるる口をひき結び        「藍生」平成258月号

   二階から見下ろしてゐる桜桃忌         同



  稲田眸子



  稲畑廣太郎



  稲畑汀子

   約束の時間過ぎたる夕焼かな        「俳句四季」20138月号

   淡々と冬日は波を渡りけり         「花鳥諷詠」平成259月号



  茨木和生

   お火焚きの炎掴んで身に塗れり       『徃馬』

   月読みのひかり氷室の桜咲く        『薬喰』邑書林



  今泉康弘

   屋根裏に原爆と寝て夏休み         「円錐」第58



  今井聖



  今瀬剛一

   紫陽花に紫陽花のほか見えぬなり      「対岸」20057月号

   白牡丹ふいと翳りて登志郎忌          同

   緑の夜ピアノ歯並びよかりけり         同

   誰よりも遠くへ伸びて踊りの手       「俳句四季」20138月号



  今村征一

   若葉風駿馬鬣より走る           「野鳥俳句会」ブログ 20130706

   噴水の足を投げ出すやうに止む       今村征一 Facebook 201383

   春燈をビルに積み上げ勤しめる       「玉藻」平成257月号



  岩切雅人

   戦ぐ枝そよがぬみどり薄暑かな       「紫」20138月号



  岩田由美

   鉄線の花の終わりかこれからか       『夏安』花神社

   麦秋の中なる水のほとりかな          同



  岩永佐保



  岩淵喜代子

   上海蟹に両手を使ふ真昼かな       「ににん」2013年春号

   灯ともせば闇のとけゆく人麿忌      「ににん」2013年夏号 



  上田玄

   テキーラや



   革命なぞも

   野の末に                 「鬣」第47



  上田日差子

   数へ日の音を積み積む積木かな       『忘南』

   月明の川を道とも賢治の忌         『和音』角川書店

   川音の駈け上るらむ枯木星           同

   桜貝重さなけれど重みあり           同

 

  植村文

   街の灯の河に輝く野分後          『さくらんぼ』



  宇咲冬男



  丑丸敬史

   ふるさとはとほきに蟻をあゆまする     「LOTUS」第25



  宇多喜代子

   天皇の白髪にこそ夏の月          『宇多喜代子句集』

   よく笑う海女の年齢不詳なる        『象』角川書店

   八月の窓の辺にまた象が来る          同

   われに尾のありし日のこと日雷       『記憶』角川学芸出版

   夏草となるまでわたしは死なぬ         同

   石人の眉間をひらく山桜            同



  内田麻衣子

   母の手で父の知らない花咲かす       『好きになってもいいですか』



  内田美紗



  浦川聡子

   水買ひに出てたくさんの春の星       『眠れる木』深夜叢書社

   菜の花を巻きこむ空のかたちかな        同

   菜畑や幾万の星ひそみをり           同

   竜天に登る雲より雲の出て           同

   くらやみの薄墨桜に銀河系           同

   薄墨桜絶対音の中の我             同

   荒星は消え水の神山の神            同

    八田木枯先生

   春の月欠け来て君を攫ひたる          同

   紫陽花の蕾の中の宇宙かな        「晨」平成257月号



  江里昭彦

   笑う首が水族館を満たしをり        『クローン羊のしずかな瞳』



  榎本バソン了壱

   ゆく夏やマツコデラックスの空気ぬく    「かいぶつ句集」第68



  榎本好宏



  遠藤若狭男

   死は黒き一点となり螢籠          『船長』



  大井恒行

   針は今夜かがやくことがあるだろうか    『大井恒行句集』



  大石悦子



  大石香代子



  大石雄鬼

   街に肉あふれてインフルエンザかな     「陸」平成256月号

   神田川の底のあらはに子供の日       「陸」平成258月号

   光あるところを掃いて雛の日        「豆の木」No.17



  大木あまり

   一島を潮の支ふる曼珠沙華         『火のいろに』牧羊社

   竹林をはみだせる竹凉しけれ        『雲の塔』花神社

   月光の色して梅の傾けり          『火球』ふらんす堂

   秋風や人と羊のうちまじり           同

   秋薊水の落ちあふところかな          同

   越えてきし山に灯のつく秋薊          同



  大木孝子

    夫逝く

   死ひたひた白陶すべりくる春夜       「刈安」第9   



  大串章

   今年竹光を水に通しけり          『百鳥』

   螢狩り大きな闇を見て帰る         『天風』

   かなかなのこゑ淵となり滝となり        同

   朝顔は天へ行く道知るごとし          同

   山彦に桜の声の加はりぬ          『大地』(角川書店)

   今年竹空をたのしみはじめけり         同

   冷し瓜回して水の流れ去る           同

   厳冬の波濤に舳先向けにけり        「百鳥」20133月号

   幼子の声に氷柱のかがやけり          同

   凍蝶に指触れ枷を解いてやる        「百鳥」20134月号



  太田うさぎ

   手鏡を伏せれば蝶の溺れけり        「雷魚」95



  太田土男



  大高翔

   くちづけのあとの真っ赤なトマト切る    『17文字の孤独』角川書店

   鍵なげて枯野の夕日に立ちつくす        同



  大高芭瑠子

   左眼は良く見ゆ先づは蕗の薹        『朱夏』文學の森

   探梅のいつか高みに来てをりし         同



  大谷弘至

   蓬萊へ海の道また空の道          『大旦』角川学芸出版

   波寄せて詩歌の国や大旦            同         

   稲架かけて対馬に神の山いくつ         同

   秋風にすこし後れて君来たる          同

   われもまた海月でありし頃のこと        同

   狐火の燃えのこりたる屑ならん         同



  大津留直

   烏瓜コヲロコヲロと陽を反す        「俳句スクエア」平成245月号

   葉脈の水音たどるかたつむり        「俳句スクエア」平成247月号

   鴉さへうすむらさきの初景色        「俳壇抄」第40



  大場鬼怒多

   青葉風図書館にある資本論         「小熊座」平成257月号



  大穂照久

   渋滞の解けるところ熱帯夜         「豆の木」No.17



  大牧広

   冬帽子昭和一桁はるかなり         『昭和一桁』



  大峯あきら

   七夕の大河音無く流れけり         『宇宙塵』ふらんす堂

   この頃は竹伐る音に住みにけり         同

   歯朶の塵こぼれて畳うつくしき         同

   金星の生まれたてなるとんどかな        同

   草枯れて地球あまねく日が当たり      「晨」平成253月号

   大和の日のぼりつめたる彼岸かな      「晨」平成255月号

   すこしづつ土蔵かたむく枇杷の花        同

   灌仏の畦うつくしき大和かな          同

   消えがての昼の月あり青嵐         「晨」平成257月号

   灌仏の雨は明るくなるばかり          同



  大森健司

   夕ざくら脳の抽斗濡れてをり        「森」20133月句会報

   深海に落ちてゆくなり紅椿         「森」20134月句会報

   わが野性椅子にきしませ五月逝く      大森健司 Facebook 2013.10.4

   あるがまま生きて朝焼け泳ぎけり        同

   日の暮れておのれに残る裸かな         同

   裏窓に海ひろがりぬ晩夏かな          同

   竹の子を父なる人と食べにけり       『あるべきものが…』日本一行詩協会

   シャワー浴ぶ魚の目冷めしごとくかな      同

   湯ざめしてかはらぬ空のありにけり       同

   天の川柱にもたれゐたりけり          同

   ちぐはぐな歯ブラシならぶ秋の風        同

   四本の木のいつぽんに秋の風          同

   熱帯魚真昼の水をこぼしけり          同

   バレンタインデー町の音すこしとぎれをり    同

   竹の子や新たな雲の生まれをり         同   

   飛魚に手つかずの空ありにけり         同

   いきいきと女が墓を洗ひけり          同

   ねむる蚕の遠くの海が光りけり         同

   白息を吐く惑星のひとつにて          同

   父と子のあひだに百合が活けてあり       同

   遅き日のわたり来し橋いくつかな        同        



  大屋達治



  岡井省二

   猩々に糞投げられし春の晝         『猩々』

   呼氣の間の山ざくら山櫻かな        『鯨と犀』

   ドーナツの穴のいづれも山眠り       『鯛の鯛』

   大日や年の天狼海の上           『大日』



  岡崎桂子

   含羞の人を師とせり雁渡し         『応援歌』



  岡崎るり子



  小笠原靖和

   罪ならぬ罪黒揚羽くろく透き        「韻」第13



  岡田耕治

   理科室の全身に雷走りけり         岡田耕治 Facebook 2013.6.20

   大粒の枇杷にしてすぐ食べ了る       岡田耕治 Facebook 2013.6.21

   梅雨の傘体育館に辿り着く          同

   こんなにも風鈴の鳴る最期かな        同



  岡田由季

   流し雛すこし過去より出発す              「豆の木」No.17



  岡村知昭

   空腹を指南する天の川かな         「豈」54



  岡本高明

   夜に入りし月に力や椿の実         「雷魚」93

   墓荒ひしあと母洗ふ水の音           同

   父の忌の寝足りて眠し枇杷の花         同

   逝く年のあぶくをひとつ山椒魚         同

   雨あとの夕日ふたたび金魚玉          同



  小川軽舟

   波音の引く音ばかり星祭          『近所』(富士見書房)

   長崎道鳥栖に分かるる暮春かな         同

   ソーダ水方程式を濡らしけり          同

   たんぽぽに昔の空のひびきあり         同

   むつかしく考へてゐる糸瓜かな         同

   綿虫のあたりきのふのあるごとし      「鷹」平成252月号

   住む町を見下ろす神社初鴉           同

   枯草や鉄路車輪に磨かるる         「鷹」平成253月号

   電球の素直なひかり節分会           同

   立春や橋の真中に川見る子         「鷹」平成254月号

   廁また闇に返せり雛祭             同

   春潮や太陽系の星の位置          「鷹」平成255月号

   雨聞いて眠気待ちをりヒヤシンス        同

   宝石屋時計屋質屋春の月            同

   春暁や妻に点りし厨の灯          「鷹」平成256月号

   遠くから来て近所のごとし花祭         同

   厭離穢土欣求浄土と囀れる           同

   晩春や人の手首に時間見て           同

   てぬぐひの沈く手桶や若楓         「鷹」平成257月号

   旅先に妻と落ち合ふ穂麦かな          同

   独り寝は己が消す灯よほととぎす      「鷹」平成258月号

   青梅の尻見えそむる夜明かな          同

   虎が雨執念く肘を濡らすなり        「鷹」平成259月号

   梅雨明や夕雲高き松林             同



  小川双々子



  奥坂まや

   枯れきつて芒自在のひかりなり       「鷹」平成255月号

   啓蟄や水力発電所が唸る          「鷹」平成256月号

   春夕焼それぞれ水に映りて独り         同

   蛙鳴き天にさざなみ立ちしかな       「鷹」平成257月号

   蛍の夜鏡がわれを引き寄する        「鷹」平成258月号



  奥田艶子

   海へ海へさるのこしかけ量るかな      『耳のそばで』TARO冠者



  小倉喜郎

   金魚屋を出て人声のする方へ        『あおだもの木』ふらんす堂

   ベッドから見ている向日葵畑かな        同

   薬瓶の口欠けている冬銀河           同

   湯冷めして思い出せない本能寺         同

   竹藪に父の自転車置いてくる          同

   階段に視線を向けるダライ・ラマ        同

   遠雷やとっくに飯は炊けている         同

   深海にゆっくり届く簞笥かな          同



  小澤實

   本の山くづれて遠き海に鮫         『砧』牧羊社

   金色の仏壇のある海の家            同

   太陽の黒点増ゆる春の風邪           同

   さらしくぢら人類すでに黄昏れて        同

   よろしき句大き鮑とたとへたる         同

   ふはふはのふくろふの子のふかれをり      同

   夏芝居監物某出てすぐ死          『立像』角川書店

   露の玉考へてをりふるへをり          同

   蓬莱をこぼるるもののなかりけり      『瞬間』角川書店

   水音の貴船に降りぬ竜の玉           同

   わが細胞全個大暑となりにけり         同

   こがね打ちのべしからすみ炙るべし       同

   諸仏諸天かつ雪嶺の加護なせる         同



  越智友亮

   流星やドロップや海静かなり        『新撰21』邑書林

   古墳から森のにおいやコカコーラ        同

   たましいのかたち整う桜の夜          同

   星の夜の林檎に蜜のたまりゆく         同

   手を振って駅は無人の金木犀          同

   数学をやめ台風を待っている          同

   いわしぐも脳は指令をするばかり        同

   今日は晴れトマトおいしいとか言って      同

   菜の花や大声で呼ばれて困る          同

   しゃぼん玉空を平らに伸ばすなり        同

   夕桜じゃあねと肩に手を置きぬ         同

   月光の糸をほどいてひとりかな         同

   討ち入りの日のストローを折り曲げる      同

   呼吸して錆びゆく肺や冬銀河        「鏡」第7



  小津由実

   身に近きところから吹く秋の風       「現代俳句」平成259月号



  小野裕三

   赤紐を林間学校へと通す          「豆の木」No.17

   桃剥いて雨降る街の誤植かな          同



  表健太郎

   ひるがほや梵天の穴つひに見ず       「LOTUS」第25



  小宅容義



  男波弘志

   喉なくて口開くマネキン枯の中       「里」20133月号

   天道虫鑑真までを歩きをり         「里」20136月号



  か行

  櫂未知子

   ぎりぎりの裸でゐる時も貴族        『貴族』邑書林

   白梅や父に未完の日暮あり         『蒙古斑』角川書店

   いきいきと死んでゐるなり水中花        同

   雪まみれにもなる笑つてくれるなら       同

   春は曙そろそろ帰つてくれないか        同

   佐渡ヶ島ほどに布団を離しけり         同

   晩年のごと花開く日傘かな         「鬼」2002No.10

   青山を借景として金魚かな         「鬼」2002No.9

   祖父の名に明治の匂ひいなびかり        同

   前が開いていますよ十一月ですよ      「里」20041月号

   大寒や時代後れのストーカー        「里」20042月号



  柿本多映

   人体に蝶のあつまる涅槃かな        『蝶日』富士見書房

   花野から大きな耳の垂れてくる       『肅祭』思潮社

   二つ目の穴掘つてゐる朧かな        『仮生』現代俳句協会

   空箱を踏んでしまつて春たけなは        同



  鍵和田柚子

   火も水も星もありけり年新た        『胡蝶』角川書店

   白鳥といふやはらかき舟一つ          同

   晩節や岩に吹き出す歯朶の芽は         同

   未来図は直線多し早稲の花         『未来図』卯辰山文庫



  片山由美子

   ここまでは来ぬはずの波さくら貝      『雨の歌』牧羊社

   鏡なす代田に雲のとどまらず          同

   昼寝覚め手枷のごとく腕時計          同

   波音の耳をはなれず原爆忌           同

   てのひらを返しては夜の蟻這はす        同

   湯上がりのほてりうなじに星祭         同

   流灯のゆづり合ひては急がざる         同

   灯の島となる流灯のとどこほり         同

   暁の星にこたへてかなかなかな         同

   みちのくの星を殖やして芽吹山       『水精』本阿弥書店

   太陽が歪んで沈む麦の秋            同

   仲直りしてぶつけ合ふ雪礫           同

   まだ声に出さざる言葉あたたかし      『天弓』角川書店

   うしろ手に障子閉ざして朧かな         同

   人よりも山おとろへて晩夏かな         同

   みづからのしぶきにけぶり那智の滝       同

   くるぶしの砂におぼるる浜豌豆         同

   カステラに沈むナイフや復活祭       『片山由美子句集』ふらんす堂

   まだもののかたちに雪の積もりをり     『風待月』角川書店



  桂信子

   雪たのしわれにたてがみあればなほ     『草影』ふらんす堂

   黄落の底にたしかな石畳          『女身』琅玕洞

   ゆるやかに着てひとと逢ふ螢の夜      『月光抄』星雲社



  加藤郁乎

   晩節や生死命あり雪じもの         『晩節』角川書店

   山低ふ尊し浅草富士詣             同

   なんのかの生涯やなぎ茂りけり         同

   雨やどり西瓜が割れてゐるわいな        同

   心に入る老いてし光むらぎもの         同

   惡態に祝詞夜ごとや六夜待           同

   秋なすびこんなことつてあるんだな       同

   炭をつぐ比翼の紋は失せにけり         同

   敷島の道がほそりてしぐれかな         同

   勘九郎初役に泣く年のくれ           同

   日かみなり立ち働きの締括り          同

   彌勒の世伊都賣近し初観音           同



  加藤昌一郎

   咲けり津波に裏返されしままの坂     「俳句スクエア」平成2311月号

   春雨に濡れて無口な滑り台         「紫」20136月号

   浮世絵の中で金魚がふえている       「俳句飄遊」平成259月句会



  加藤直克

   まぶしさも命なりけり秋簾         『葆光』文學の森

   落下しておのれ知らざる華厳滝         同

   崩れゆく雲の放てる昼の月           同

   草かげろうひたいに星を宿したり        同

   沈む日の大きさのまま冬終わる         同



  角川春樹

   滝となる熊野も奧の天の川         『存在と時間』河出書房新社

   目に見ゆる色なき風を虚子と居り        同

   遠くより見る桐の木に桐の花          同

   棕櫚咲くや動くともなく雲動く         同

   存在と時間とジンと晩夏光           同

   真夏日や逃げても逃げても非常口        同

   雨欲しき日となりにけり原爆忌         同

   原爆の海に月夜の海月かな           同

   長き夜や我に手紙を書いてをり         同

   元日の橋がゆふべとなりにけり         同

   涼しさや水を離るる空の色           同

   曼珠沙華あをあをと血の流れをり        同

   西へ行く旅はひとりの吾亦紅          同

   春の月地球は欠伸してをりぬ        『いのちの緒』角川春樹事務所

   月はこころ花もこころぞ西行忌         同

   海胆食つて少し空気を汚したる         同

   月赤く海月が人を食らひけり          同

   年ゆくや天につながるいのちの緒        同



  金子敦

   本ひらくやうに牡丹の崩れけり       「あすてりずむ」第二号



  金子兜太

   わが行けばどんぐり光り触れ合えり     『少年』風発行所

   緑陰に星のごとくに蝶いたり          同

   なめくじり寂光を負い鶏のそば         同

   犬は海を少年はマンゴーの森を見る       同

   暗闇の下山くちびるをぶ厚くし         同

   子はゴムの木が好き父は鼻毛むしり       同

   銀行員等朝より螢光す烏賊のごとく     『金子兜太句集』風発行所

   湾曲し火傷し爆心地のマラソン         同

   殉教の島薄明に錆ゆく斧            同

   粉屋が哭く山を駈けおりてきた俺に       同

   夜の鏡に星が導く海のうねり          同

   果樹園がシヤツ一枚の俺の孤島         同

   火星汚れて会議のあとの窓を飾る        同

   暗黒や関東平野に火事一つ         『暗緑地誌』牧羊社

   人体冷えて東北白い花盛り         『蜿蜿』三青社

   梅咲いて庭中に鮫が来ている        『遊牧集』蒼土社

   よく眠る夢の枯野が青むまで        『東国抄』花神社

   蛇穴を出て詩の国の畑径          「海程」20131月号

   北武蔵雲行き人行き狐火も         「海程」201323月号

   眼科医が呟く目白来てそこに        「海程」20134月号

   雛祭隕石がびゆーんととんだ          同

   渕走る蛇に夜明けの蚕飼かな        「海程」20135月号

   上溝桜いつきに咲きて亡妻佇てり        同

   人声のしみる立夏の暑さかな        「海程」20136月号

   夜明けの灯宇宙飛行士の影も          同

   花は葉に鹿撃たれ谷川に墜ちる         同

   即身佛の誰彼あやめ咲きにけり         同

   アマゾンに鰐ありわが庭に土竜         同

   牛蛙腰のふらつく月日かな           同

   緑陰に津波の破船被曝せり         「海程」20137月号

   科の花かくも小さき寝息かな          同

   胡蝶翅ひらき閉ず被曝なき国を       「海程」平成2589月号 



  金子皆子

   雪柳散る白く斜めに夫の休息        『黒猫』花神社

   馥郁と臘梅咲いて探しもの         「俳句研究」20055月号



  鎌倉佐弓

   サイネリア待つといふこときらきらす    『潤』牧羊社

   ポストまで歩けば二分走れば春       『走れば春』東京四季出版



  亀丸公俊



  川越歌澄

   蟬落ちて眼にいつぱいの空の色       『雲の峰』文學の森

   梨の刃を当てて夜汽車の響きかな        同

   陽炎のはじめを鴉伸び上がる          同

   天上はいつも快晴朴の花            同



  川崎展宏

   「大和」よりヨモツヒラサカスミレサク   『義仲』牧羊社

   あらぬ方へ手毬のそれし地球かな      『冬』ふらんす堂



  河西志帆

   寒晴の定規をつかっても曲る        「海程」20137月号

   からすのえんどうクレーンが海を吊る    「里」20137月号

   雛壇のいちばん下に人座る         「海程」平成2589月号

   水音をふろしきに入れ長崎忌        『水を朗読するように』邑書林

   人体に貝塚のあり蕎麦の花           同 



  姜琪東

   職を捨て通名を捨て青き踏む        『ウルジマラ』文學の森

   秋日没るそこは韓くに民溢る          同

   海峡といふ断絶や星飛びぬ           同

   わが始祖は騎馬民族と月仰ぐ          同

   はるかなる吾が祖を想ふ寒昴          同

   海に雪降る日は恋し父母のくに         同

   海峡に二つの呼び名雪荒ぶ           同

   春の闇その奥にわが修羅のさま       『嘘』文學の森

   星を見に行かうと電話くる霜夜         同

   秋の浜指一本に妻隱る             同

   

  神原栄二

   蓮の実に原爆の図の色を見し        『人日』北溟社

   散るさくら光りつつ水ふくらめる        同

   人日やなにを尽くさば妻癒えむ        



  如月真菜

   太宰治にカブレる二人花粉症        『蜜』蝸牛社

   くやしくて一人で花火してをりぬ        同

   龍天に昇る体中かゆし             同

   一つ葉のひとつだけではゐられない       同

   印度ムード歌謡真白きダチュラ咲く       同

   もう一人足の出ている毛布かな         同

   のりかえる電車待つ間の桜かな         同



  如月美樹



  岸本尚毅

   てぬぐいの如く大きく花菖蒲        『鶏頭』牧羊社

   手をつけて海のつめたき桜かな       『舜』花神社

   健啖のせつなき子規の気なりけり      『健啖』花神社

   日沈む方へ歩きて日短           『感謝』ふらんす堂

   その上に月美しく扇風機            同



  岸本マチ子

   うりずんのたてがみ青くあおく梳く     『うりずん』牧羊社



  北原志満子

   鵲の巣の昏くやさしき高さ想え       『北原志満子』花神社

   冬薔薇旅人めきて師の去れり        「穹」20021月号



  九堂夜想

   からすうり夜を青火事と過ぐるらん     「LOTUS」第25



  九里順子

   遠景は葛ヶ原なり爆死せり         『静物』邑書林

   三日月は天窓にあり放尿す           同



  久保純夫

   かたちから忘れゆくなり露の玉       『比翼連理』草子舎

   抱き眠る八十八夜の火縄銃         『熊野集』弘栄堂書店

   水際に兵器性器の夥し             同



  隈治人

   雲が首灼く浦上花をもっと蒔こう      『隈治人句集・柔和な雲』

   原爆忌腕鈴なりの電車過ぐ           同



  熊谷愛子

   死のまぶた天井に火蛾追ひつめし      『旋風』花神社



  毬月

   ほうたるのはうへはうへと喉仏       『俳句スクエア第4集』

   薫風の回りだしたる私かな         「俳句スクエア」平成247月号



  倉阪鬼一郎

   光あれこの世の果てに鷹柱         『アンドロイド情歌』マイブックル

   蛍光灯のこの世の数や冬館         「豈」54

   枯野道Ωを一つ拾ひけり            同

   

  倉田紘文

   秋の灯にひらがなばかり母の文       『慈父慈母』木耳社



  倉橋羊村

   黄落を瀧つらぬけり落ちて藍        『渾身』牧羊社



  栗林浩

   流氷の折り重なりて月あかり        「小熊座」平成255月号

   呑む水の涙となりて海月浮く        「小熊座」平成257月号



  黒田杏子

   白葱のひかりの棒をいま刻む        『木の椅子』牧羊社

   まつくらな那須野ヶ原の鉦叩        『一木一草』花神社

   涅槃図をあふるる月のひかりかな      『花下草上』角川書店

   みんな過ぎ那須野を奔るけふの月      「藍生」平成2412月号

   野分過ぎゆくくろばねの月の句座        同

   しぐれ忌と書きてたちまちしぐれけり    「藍生」平成251月号

   おもひ出のやう日にひらく冬櫻         同

   たつぷりと生きよ旅人初しぐれ         同

   蒼天に句座を納めて七十四         「藍生」平成252月号

   初夢の那須野たばしる玉霰           同

   朱鷺の往き白鳥の往く天に雪          同

   地吹雪の熄みたる銀河山河かな       「藍生」平成253月号

   探梅のこころ大川わたりけり          同

   往診の父手にかざす田螺籠         「藍生」平成254月号

   本売つて譲つて捨てて花を待つ         同

   三月十一日『龍宮』を語りけり       「藍生」平成255月号

   春月の家おぢいさんおばあさん         同

    わが庭

   牡丹の日々とく起きて早寝して       「藍生」平成256月号

   日光月光白牡丹黒牡丹             同

   海底のみどり柏の花月夜            同

   ひらきつぐ大山蓮華深山霧         「藍生」平成257月号

   庵主さま九十一歳賀茂祭            同

   明易の互ひに覚めてゐたりけり       「藍生」平成258月号

   噴井めぐりていづくかへひきがへる       同

   山蟻の列なす秩父音頭かな         「藍生」平成259月号

   杖ついて四万六千日夜風            同

   土用満月睡り落つ海底に            同        



  桑原三郎

   赤ん坊を吹いてさまして天花粉       「犀」第188



  小池康生

   星飛んで人は痩せたり太つたり       『旧の渚』ふらんす堂

   さいごまであたまの味の目刺かな        同

   冬の蜂その扉開ければ薬師仏          同

   鉄の船木の船のゆく稲光            同



  神野紗希

   鉛筆を舐めれば冬の虹の味         『光まみれの蜂』角川書店

   ホットココア星を見ている人へ運ぶ       同

   水ありて地球は丸し春休            同

   白南風や山脈育つ海の底            同

   淋しさやサルノコシカケ二つある        同

   冬の水流れて象の足元に            同

   神無月魚のはやさで絵をめぐる         同

   クリスマス木の倒れる音がして         同

   凍星や永久に前進する玩具           同

   桃咲いて骨光りあう土の中           同

   この星を見ている人がぶらんこに        同

   流星や寝つきの悪き馬のいて          同

   コンビニのおでんが好きで星きれい       同

   世界ありけり崖上の鹿の眼に          同

   水道管は鈴虫を聞いている           同

   人類以後コインロッカーに降る雪        同

   少年は佇つ蛍に選ばれて            同

   信号は青を忘れず夏の空            同

   老いてゆく宇宙 鹿の眼黒く澄む        同

    

  古賀まり子

   閂のことりと桜月夜かな          「俳句研究」20055月号



  木暮陶句郎

   アパートのみんなの庭の花八手       「YUKI2002年春No.29

   太陽の見つけてくれし芹を摘む       「YUKI2002年夏No.30

   背泳や東京の空近づけて          「YUKI2002年秋

   風音に横顔めきし夕花野          「YUKINo.32

   露けしや行けば必ず戻る径           同

   末枯れて風に従ふ心なく            同

   秋風や次々開く野の扉           「YUKI」冬No.6

   人生も鰯も小骨多かりき          「ひろそ火」201212月号

   青空の食ひ込んでゐる破芭蕉          同

   輪廻てふ退屈なもの蓮の実           同

   月光が隙間を埋めて冬木立         「ひろそ火」20132月号 

   錆びてゐる鉄扉も噛んで大氷柱       「ひろそ火」20134月号

   ストーブの音にランプの灯の揺るる       同

   春霙降りたる泪色の街             同

   雛流す人も流転の中にあり         「ひろそ火」20135月号

   それぞれの太陽を負ひ野に遊ぶ         同

   星々も物芽も芯に燃ゆるもの          同

   花冷の真ん中に酒注ぎ込む         「ひろそ火」20136月号

   くれなゐは捨て身の色や桜蘂          同

   傾けるままのシーソー花は葉に         同

   図書館に肘の触れ合ふ更衣         「ひろそ火」20137月号

   短夜や人にふたつの水晶体           同

   命とはときに尖りて青嵐            同

   雨女来て十薬を喜ばず           「ひろそ火」20138月号

   蛍火の草のしづくに燃え移る          同 



  こしのゆみこ

   かなしみは縄飛びの外にださない      「豆の木」No.17



  後藤昌治

   田に水が張られ精神平らなり        「韻」第13



  五島高資

   胸そらしそのまま染井吉野かな       『海馬』東京四季出版

   山桜ブラックホールから湧けり         同

   ぬばたまの闇夜に滑り込む対馬         同

   全力で立つ空びんに薔薇の花          同

   春の雲になれず発電所のけむり         同

   半身を魚に囲まれている土曜          同

   たっぷりゆれる竜の落し子尾根を来て      同

   海峡を鮫の動悸と渡るなり           同

   短夜の左目にミトコンドリア          同

   あらみたまバックミラーにあふれたり      同

   きさらぎは雀飛び立つ硯かな       『雷光』角川書店

   菜の花が菜の花をはみ出しており        同

   立ったまま眠っていたり白木蓮         同

   野薊は花を残して立ち去れり          同

   山藤が山藤を吐きつづけおり          同

   玉繭の外にいて玉繭のなか           同

   龍天に登る月夜の蘇鉄かな           同

   逆さまの椅子がずらりと誕生日         同

   途中には睡蓮ランゲルハンス島         同

   口開けて叫ばずシャワー浴びており       同

   空と海と結んで蘇鉄咲きにけり         同

    貴船・ひろや

   闇を出て山吹に遇う流れかな          同

   まだ奥に部屋ありそうな水羊羹         同

   帰郷後を鮑の殻の照り合えり          同

   白鷺の崩れんとして発ちにけり         同

   夕立あと東京に谷あまたあり          同

   手と足と分からなくなる熱帯夜         同

   いなびかり鼻から鼻へ走りけり         同

   たまきわる紅葉かつ散るがらんどう       同

   鍵をかけ忘れていたり天狗茸          同

   胡桃割る夜や天体の遠ざかる          同

   クリスマスツリーは逆さまだと思う       同

   売れ残るラピスラズリに六連星         同

   塩を吹きそうなコインロッカーの冬       同

   一九九九年の破魔矢かな            同

   風邪引いて木星の重さだろうか         同

   シリウスや地球が燃える日を哭けり       同   

   不知火にムー大陸の横たわる        『五島高資句集』文學の森

   顔洗う手に目玉あり原爆忌         『蓬莱紀行』富士見書房

   首上げて水光天に長崎忌            同

   ひさしぶり星を見ている鯨かな         同

   星空のうらはひねもす凪いでおり        同

   三日月にひらく扉のありにけり         同

   落椿辿って水をむすびけり           同

   加速するものこそ光れ初御空          同

   夕顔咲く静の海のほとりかな          同

   くれないにみどり鮑の殻光る        「読売新聞」2008531

   鹿の子の眼のみどりなす常夜かな        同 

    西海紀行

   山は海へ滴る白鳥神社かな         「詩歌梁山泊」201178日号

   天数う沈む大和や大瀬崎            同

   本涯を辞す鯨海や大西日            同

   天離る向こうガス田子安貝           同                    

   逃げ水やゆれる原子力発電所        「毎日新聞」2012311

   東天を支えて松葉海へ散る           同

   みちのくへ葉は葉をむすびつらなれる      同

   龍淵に元荒川は野に潜む          「俳句αあるふぁ」201210月号

   たそがれて撲る鏡に入む身かな       「俳句空間-豈」54

   山めぐり獄(ひとや)の外も雨の檻       同

   常世へと富士沈みゆく冬茜           同

   人間と人の間や蜻蛉飛ぶ            同

   透きとおる柱いろいろ冬銀河          同

   烟りつつ室の八島の霧晴るる          同

   三つ星をならべ千座の置戸かな       「俳句飄遊」20131月句会

   鷹一つそしてつぎつぎ筑紫かな       「海程」全国大会 in 長崎 佳作(金子兜太選)

   手を浸しすべてつながる青葉潮       「海程」全国大会 in 長崎 秀逸(金子兜太選)



  後藤比奈夫

   蛞蝓といふ字どこやら動き出す       『祇園守』牧羊社



  小西瞬夏

   冬瓜をどう刻んでも真昼なり        『めくる』吉備人出版

   何の刑ですか蛍は光ります         「海程」平成2589月号



  小林貴子

   海市見せむとかどはかされし子もありき   『海市』牧羊社

   星々の軋み大原雑魚寝かな         『北斗七星』本阿弥書店



  小檜山繁子

   桃の花川はひかりを流しをり        『流水』角川書店

   片付けぬから片づかず春の夢          同



  さ行

  堺谷真人

   桐咲けり金環蝕に通す紐          「豈」54

   空蝉のとなり空蝉きて並ぶ           同



  榮猿丸

   裸なり朝の鏡に入れる君          「澤」20077月号

   ローリング・ストーンズなる生身魂       同

   指の肉照る箱庭に灯を入れて          同



  酒巻英一郎

   三つに割け           

   ひとつに割れて

   桃ぞ吹く                 「LOTUS」第25



  坂本昭子

   光渦巻き黄落の大樹なり          『追伸』本阿弥書店



  坂本宮尾



  櫻井ゆか

   葱折れて次の記憶へ辿りつく        「雷魚」95



  佐々木国広

  瓔珞のひとつこぼれて恋螢         『恋螢』沖積社

  アンテナのそっぽ向き合ふ春の風        同



 佐々木敏光

  スサノヲもゼウスも集へ富士火口      『富士・まぼろしの鷹』邑書林

  冬の日や呼吸してゐる富士の影         同

  大学の闇の深さよ青葉木菟           同

  草の実をつけ教壇にもどりをり         同

  広島のまつかな釣瓶落しかな          同

  遅参する金木犀の香る中            同

  俳句史の死屍累累と晩夏かな          同



 佐々木とみ子

  冬桜さてゆくところまでゆくか       『氷河の音』津軽書房

  国後島(くなしり)は天に浮かびて昆布引く    同

  星月夜それは氷河のきしむ音          同

  桃の花水晶体を入れかえる           同

  栗の花空も満ち干をくり返し          同

  送り火へうしろ姿の重なりし          同

  ししうどや秩父に金子伊昔紅          同

  縄を曳き林道もまた冬に入る          同

  水澄むや交脚弥勒菩薩へと           同

  骨に咲く花もあるべし帰り花          同

  断水の夜の荒星うつくしき           同

  小葭切泣き疲れればかるくなる         同

  明日かもしれぬまだかもしれぬ冬葎       同

  口寄せや春の沖から火皿貝           同

  テンバツもゲンパツもなき涅槃図よ       同

  少年の名札だけあるなつやすみ         同



 佐藤郁良

  代田いま星の呼吸をしてをりぬ       『星の呼吸』角川書店

  海へゆく小さき階夏の蝶            同



 佐藤きみこ



 佐藤成之

  鬼房の国の戸の開く日永かな        「小熊座」平成255月号

  人間に犬歯四本風光る           「小熊座」平成256月号

   阿修羅にも涙があれば五月雨るる      「小熊座」平成257月号



 佐藤文香

  眉尻の岬へつづく冬日和          「鏡」第7

  画鋲買ひ通りすがりの遅桜         「里」20136月号

  初夏の鳩の声して石畳             同

  家並みに雲まぎれこむ芽吹かな       「鏡」第九号



 佐怒賀正美

  ほの見えてひびきは胸に天の川       『光塵』角川書店

  渦潮や真上に滲むルドンの目          同



 澤好摩

  落蟬の動かざるゆゑ暮れ泥む        「円錐」第56

  行く秋の水より皿をとりだしぬ         同

  霜月の鱗こぼるる虚空かな           同

  思し召しとて今生を海鼠かな          同

  日と月と蝶さへ沈み真葛原         『光源』書肆麒麟

  空蟬に燈の宿りたる妻籠かな          同

  山吹の花影に崖ありにけり           同

  寂しけれひかりの中の日のかたち        同

  耳鐘の鳴り止まざるを黄のカンナ      「円錐」第58

  閻王の目玉に及ぶ西日かな           同

  

  柴田美佐

  弾け散る寸前の色いぬふぐり        『榠りん』ふらんす堂

  コスモスや自転車ばらばらに止めて       同



 塩野谷仁

  行く春の鏡に隠れ損ねたる         「海程」平成2589月号



 志賀康

  話さなくなりて程なく稲に花        「LOTUS」第24

  まず鍬が声出せ沖の験しなら          同

  天人や若葉は水を吸い上ぐる        LOTUS」第25

  蜘蛛の囲よ空の崩るるにはあらず      『幺』邑書林

  身の内に透く骨ありて青嵐           同

  木の国の深山は音が炎ゆるのか         同

  悲は麻に怒りは絹に包みおり          同

  頭から尾の先までの稲光            同

  穂が出れば見返るようになる峠         同

  どの花も行きて戻りし翳なるか         同



 しなだしん

  春休みときわ荘からインド人        「豆の木」No.17



 澁谷道

  花満つを暗と呼ぶ峠かな          『蘡』角川書店

  寒卵振ればちからのあるゆらぎ         同



 島田牙城

  さづかれる罪のごとくにおめでたう     『誤植』邑書林

  太宰を知らず三島を知らず冬立ちぬ       同

  夕顔の實やたましひのわすれもの        同

  稲妻が太し兜太の町通過            同

  荒くれの葉脈もあり里の春           同

  誤りて植ゑたる文字へ雪明り          同

   雪固め涅槃兎と申すべく          「里」20133月号

   ゴスペルのゴが目に入り彌生盡       「里」20134月号

   春といふ字を見てゐたる寫生かな        同

   何もかも妻に任する實梅かな        「里」20136月号

   五月雨に餃子を作る腹づもり        「里」20137月号

   炎晝ひとり校庭のどまんなか        「里」20138月号



  嶋田麻紀

   寒月光まなじり濡れて目覚めをり      「麻」20132月号

   花過ぎの大枝ゆるる一日かな        「麻」20134月号

   アネモネの芯のあたりの暗さかな      「麻」20135月号

   天地返しの田畑くろぐろ穀雨かな        同

   俳人に三分の狂気麦の秋          「麻」20136月号

   泉への道や心の洗はるる            同



  白木忠

   水仙を活ける心臓より高く         「韻」第13



  杉浦典子

  花の雨逆さに地図を見てゐたる       『岬馬』ふらんす堂

  ムーミンの採り残したる茸かな         同



 鈴木伸一

  黄沙降る神は沈黙し給へり         「日々の1句」2013316

  夕焼にひれ伏す街や神なき世        「日々の1句」201362

  春の雪世界をまやかしが覆ふ        「吟遊」第59

  花冷や甲状腺を手でさぐる           同

  春月赤し冥府の烙印のやうに          同

  民主的法治国家に蠅生まる           同

  

  鈴木鷹夫



 鈴木紀子

  忘我の果て氷の下の水動く         「紫」20133月号

  みぞおちにとび込んできた流れ星        同

  きのふより今日の水音春近し        「紫」20135月号

  問診のなか春めくといふ一語          同

  咲く花の数だけ言葉ありにけり       「紫」20136月号

  夏雲雀消えた辺りが天の底         「紫」20138月号 

  

  須藤徹

  体内の水傾けてガラス切る         『荒野抄』鳥影社

  葡萄吸えば星痕の空深くあり          同

  地は空に吸われゆくなり大夕立         同

  料峭やこめかみに音たまりいて       「ぶるうまりん」26

  鎖骨の中木耳の踊っている           同



 須山つとむ

  賢治のように下着をたたむ冬銀河      『ダリの椅子』青磁社

  逃げ水の東に市場ダリの椅子          同



 関悦史

  人類に空爆のある雑煮かな         『六十億本の回転する曲つた棒』邑書林

  核の傘ふれあふ下の裸かな           同



 攝津幸彦

  曙や屋上の駅永遠に            『與野情話』沖積社

  天体に身を差し入れし髭くぢら         同

  階段を濡らして昼が来てゐたり       『鳥屋』冨岡書房

  曼珠沙華思へば船の出る所           同

  信長に信長触れぬ十六夜            同

  生き急ぐ馬のどのゆめも馬           同

  国境の他に何もなし春の部屋        『陸々集』弘栄堂書店

  国家よりワタクシ大事さくらんぼ        同

  露地裏を夜汽車と思ふ金魚かな         同



 仙田洋子



 宗左近

  よかです 大学やめなさい カンナは赤いばい 

                       『不知火』北溟社

  原爆忌 表のない夢 裏のない鏡        同

  神はなくても罰 罰はなくても神 遠花火    同

  川の底の石に宿る月 と 空の奥の月に宿る石  同

  息とめる 波の間から 月が出て        同

  美しい罪こそ未来の灯 初日の出        同

  お星さま 生きかえらないため 男は恋をするとです  同



 宗田安正

  水なりと突然椿のつぶやけり        『百塔』花神社

  日と月を穴と思へば白牡丹           同

  ふるさとの芒の原の理趣経           同

  次の世に厠のありて揚雲雀           同

  あきらかに空海のいろ麦の秋          同

  この国の言葉をつかふ芒原           同

  水いろのいろおそろしき夏の空         同

  今生より来世なつかし薺粥           同

  凍蝶はこときれしよりはじまりぬ        同



  た行

  高岡修

   かたつむり虚無に半身いれている      「現代俳句」平成257月号

   殺意なら森商店の裏にある           同

   爆心に来てひるがおが顔を脱ぐ         同

   あおあおと銀河にもある津波痕         同



  高澤晶子

   爪先を水に浸して梅雨に入る        「花林」2013

     

  高野ムツオ

   石鏃やこの世の外へ虫時雨         「小熊座」平成251月号

   木の国のここが女陰や炭を焼く       「小熊座」平成253月号

   我もまた一塵蕪村忌を修す           同

   星雲は宇宙のとぐろ春を待つ        「小熊座」平成255月号

   柊にいつ刺されしか眼が痛い          同

   波はきらめき人はまたたき三月へ      「小熊座」平成256月号

   椰子の実を抱き椰子の木揺れ通し      「小熊座」平成257月号



  鷹羽狩行

   星へ掛けおく煤払ひ終へし竹        『十五峰』角川書店

   年といふ大いなるもの守りにけり        同

   鐘聞かぬこといくとせぞ除夜の星        同



  高橋悦男



  たかはししずみ

   眠る子を横たえ誰かの日永かな      「海程」20136月号

   戦敗国の女が焼いている鹿肉       「海程」平成2589月号



  高橋修宏

   散りながら骨となりゆくさくらかな    『虚器』草子舎



  高橋信之

   ドイツアヤメ咲く青年のジョギングに   「花冠」平成257月号

   空晴れて今日の自由を得し揚羽      「花冠」平成259月号



  高橋将夫

   うららかな末法の世に放射能       「槐」平成255月号

   花万朶宇宙に隠れなき地球        「槐」平成256月号

   言霊に玉虫ついてをりにけり       「槐」平成258月号



  高橋正子

    山あじさい辿れる道をふさぎ咲く    「花冠」平成258月号

    あまねく光り泰山木の花にじむ     「花冠」平成259月号



  高橋睦郎

   魂座に叶ふ軽さよ籠枕           『百枕』書肆山田

   土用波砂の枕を崩しては            同

   われは知り枕は知らず夢はじめ         同

   草枕旅のはじめは五月こそ           同

   枕一つ風鈴一つ雨上る             同

   鯔子の枕ざまなる見事さよ           同



  高原耕治

   巖も

   桃も

   靈光す

   素粒子の髙祖よ              「未定」第95



  髙柳克弘

   てのひらの色ともちがふさくらかな     「俳句研究」20057月号

   ビルの裏すぐに川ある聖夜かな       「鷹」平成253月号

   水洟の我の残れる港かな            同

   星々よふかきねむりを裸子に        「鷹」平成257月号

   魚はねて水すぐ平ら桜咲く         「鷹」平成257月号



  高山れおな

   毛野や毛の人、雨さへ霽らす 胴間声    『俳諧曾我』書肆絵と本

   天の河

   右や

   左の

   お星さま                   同

   赦されて 舞ふ、麦秋の 髪光らせ       同

   生まれヘ生まれて 勝名荒神宮。蒙し      同

   金泥もて写さむ 絡まる根 オヱ!       同



  瀧澤和治

   空海の三鈷見てゐる春著かな        「今」2013年春-創刊号

   雪折れの竹をくぐりて前の世へ         同

   かたかごの花群れ雲の入れ替り         同

   薫風の及べる役小角かな          「今」2013年第2

   石積みて地水火風空竹落葉           同    



  武田伸一

   蛇穴を出る日当たりながら泣きながら    「海程」20136月号

   山ざくら記紀読み直す夜に垂るる        同

   爆心地わが亡き後の黒揚羽           同



  田島健一

   遠雷やぽっかり空いている南              「豆の木」No.17



  田中亜美

   如月や鉛筆で描く原生林          「海程」20136月号

   藤垂れて先進国といふ疲労         「海程」平成2589月号



  田中裕明

   一身に心がひとつ烏瓜           『夜の客人』ふらんす堂

   遠くより子に呼ばれけり盆の道         同

   鐘聞かぬこといくとせぞ除夜の星        同

   字を書いて消して港の日短か          同

   椎若葉をみなに鰭のあるごとし         同

   ことに暗し子の忘れたる螢籠          同

   空へゆく階段のなし稲の花           同

   あそびをり人類以後も鳴く亀と         同

   糸瓜棚この世のことのよく見ゆる        同



  田中陽

   フクシマ後の土につながる土を掘ってる   「俳句界」20132月号



  棚山波朗



  谷口慎也

   ひだり手を見ればみぎ手に春の山      『俳諧ぶるーす』文學の森

   星見えていま放電の柿の花           同

   空蝉を押せば青空くぽむかな          同

   椿ひとつ竈がふたつ武家屋敷          同

   天の川やさしきものから溺れゆく        同

   一度だけ目を開いて蓮枯れる          同

   勝てば官軍負けてもいいの草の花        同

   原子炉もあやめも濡れているところ       同

   帰りなん出雲八重垣いわし雲        「連衆」65

   正しくは真っ向鯨座礁せり           同



  谷雅子

   赤まんま稲と一緒に縛らるる        「鏡」第七号

   稲刈つてたどり着きたる星月夜         同

   飛行機は出雲へ急ぐ五月富士        「鏡」第九号



  樽本いさお

   ざわざわの父の帰宅や青あらし       「里」20137月号



  たむらちせい



  月野ぽぽな

   流氷は光の棲家冬はじめ          「海程」20134月号

   健康な兵士から蜃気楼になる        「里」20135月号

   風紋のささやきオリオンのつま先      「海程」20136月号

   白夜から戻りて遠浅のからだ        「豆の木」No.17

   日にいくたび陽は戦争の上とおる      「海程」平成2589月号



  筑紫磐井

   屁のやうな氣炎が花鳥だと思ふ       『花鳥諷詠』

   見たことも来たこともなき宇都宮      『現代俳句一〇〇人二〇句』邑書林



  佃悦夫

   冬日向前方後円の男来る          「海程」20136月号



  津沢マサ子

   灰色の象のかたちを見にゆかん       『楕円の昼』

   おぼろ夜の鍋の底へと降りてゆく      『0への伝言』深夜叢書社

   澄みきって無意味にならぶガラスびん      同

   にんげんに辿りつきたる昼の桃         同



  辻美奈子



  辻桃子



  対馬康子

    死と生と月のろうそくもてつなぐ     『天之』富士見書房

    猿神の舞を受け継ぐ蛍の夜          同



  坪内稔典

   カステラも冬のベンチも端が好き      「船団」第96

   豆の花遣唐使船いるような         『月の光』毎日新聞社

   桜散る男はことに座礁して           同

   膝抱けば錨のかたち枇杷熟れる         同

   秋の蚊の目玉がなぜか重くって         同

   どこからかはみ出たばかりかたつむり      同

   枇杷咲いてオランダの窓開くような       同

   龍天に昇る肩にはサロンパス          同

   

  寺井谷子



  寺澤一雄

   紫雲英蒔く姿を猪に見られたる       「鏡」第七号

   小春日の漁協の前の世界地図          同

   落第が三月二十日頃わかる         「雷魚」94

   笹舟を作る秘密を打ち明ける        「鏡」第九号

   玉葱の干されてゐたが抜け落ちる      「雷魚」95



  照井翠



  土肥あき子



  鴇田智哉

   十薬にうつろな子供たちが来る      『こゑふたつ』木の山文庫

   また空がひらいて空のざくろかな       同

   電線は冬の海よりはじまれり         同

   狐火の乗りものめいてくることも     『新撰21』邑書林

   雷の来さうな石を拾ひたる          同

   蝉が鳴く傘立てに傘立つたまま        同

   風船になつてゐる間も目をつむり       同



  冨田拓也

   曼珠沙華ふたたび時の流れだし      「豈」54



  友岡子郷



  豊口陽子

   口空いて死が横たわる夏の月        『籔姫』風蓮舎

   月光の第一関節が折れている          同



  鳥居真里子

   春の月噴水は水脱ぎにけり         『鼬の姉妹』本阿弥書店

 

  な行

  永井江美子

   葉桜や生きて眉間を明るくす        「韻」第13



  中内亮玄

   ガザ空爆飯を喰う手はどっちだ       『蒼の麒麟騎士団』狐尽出版

   依願退職耳が軋んで真葛原           同

   バラ届く全然うれしいって君は言う       同

   水牛となりビルの谷間の繁茂を往く       同

   海も空もよく見れば手も足も青         同

   月を手にひとりの窓を持っている        同      



  中尾杏子

   曼珠沙華炎走りは西へかな         『ながさき曼陀羅』ゆるり書房

   川と川出合ふ色なき風のなか          同

   潜らねば空には触れず橋つばめ         同



  中岡毅雄



  仲寒蟬

   立春の爪切ればよく飛ぶことよ       「里」20133月号

   片われは竜宮にあり桜貝          「里」20135月号

   裏道の集まるところ桐の花         「里」20136月号

   封切れば薫風の入るエアメール       「里」20137月号

   首都圏の外に置かれて日向水        「里」20138月号



  中嶋憲武

   毛皮夫人蝶のまなこをしてみたり      「豆の木」No.17



  中嶋鬼谷

   この星を月離れゆく霞かな         「晨」平成255月号



  永島靖子

   ゆふぐれの潮満ち来り藺座布団       「鷹」平成258月号       



  中田剛



  中田尚子



  永田満徳

   肩書の取れて初心の桜かな         永田満徳 Facebook

   鏡より物のあふるる春の雷         『寒祭』文學の森

   行く秋や檻の外には人の群           同

   冬の日矢あまた射し入る原城址         同

   憂国忌飛んで消えたる輪ゴムかな        同

   雲育つ宇奈利の白さ御田植         永田満徳 Facebook 2013.7.28



  中西夕紀

   秋蝶や湯殿の神の照りまさり        「都市」通巻31

   玻璃籠めに人の働く冬の星           同

   太々と煙のあがる寒さかな           同

   桜湯に薄き唇あてにけり          「都市」創刊5周年記念8月号

   栗の花夜雨聞きつつ墨すりぬ          同



  中原道夫

   飛込の途中たましひ遅れけり        『アルデンテ』ふらんす堂

   瀧壺に瀧活けてある眺めかな          同

   一齊をこころがけてはゐる櫻          同

   嚔たて続け藤壺のはがれさう          同

   六道のおぼろを言ひつ舟を出す       『銀化』花神社

   秋口の入れ替へきかぬ玉と魂          同

   油壓もて日月あがる松の芯           同

   はいかいのやまひみちゆきふゆもみぢ      同

   かはほりのぶつかつて空暗くなる      『巴芹』ふらんす堂

   春暁の寝返る方に海を置く           同

   盥ごと顔を捨てたる朝曇            同

   しやぼん玉流言蜚語の詰まりをり        同

   龍天に登り掌中の珠曇る            同

   東征や夏荒星の尾に觸るる           同

   初蝶や斯くて始まる千字文         『天鼠』沖積舎

   神将も阿修羅出拂ふ花ぐもり          同

   丸薬の成分マリアの木の葉髪          同

   むらぎものさ揺れ狐火消えてより        同

   狐火の語るに落ちるところかな         同



  長嶺千晶

   太宰忌や男にいつも雨の音         『白い崖』文芸社

   人間は檻を作れり蝶白し            同

   独逸語の怒れるごとく胡桃割る         同

   階段に鉄の隙間の薄暑かな           同



  中村和弘

   暗黒に土星浮きたり雛まつり        「陸」平成254月号

   熱湯は動き尽に青葉かな          「陸」平成256月号

   中空に幹の裂けたる今年竹         「陸」平成257月号

   金星の欠片のごとき守宮かな        「陸」平成258月号



  中村裕

   シヤンプーが目に入る闇の虫のこゑ     「鏡」第7

 

  中村安伸



  七田谷まりうす



  夏井いつき



  夏石番矢

   天ハ固体ナリ山頂ノ蟻ノ全滅        『真空律』思想社



  成田千空



  鳴戸奈菜

   春の闇瑪瑙をひとつ孕みけり        『イヴ』琴座俳句会

   夕桜ときに背鰭の如きもの           同

   なめくじり夢のとなりを飛んでおり       同

   銀漢のとなりに眼鏡置き忘れ        『天然』深夜叢書社

   女を嫌い男を嫌い夕立かな           同

   雨の夜のからだ全体が花である         同

   そよそよと言葉と言葉関係す        『微笑』毎日新聞社

   合歓の花この世のような景色かな        同

   戸口まで道が来ており冬の月          同

   落椿この世の人に踏まれけり        『永遠が咲いて』現代俳句協会

   永遠が咲いているなりモネの池         同

   天の川水飲むことのあわれかな         同

   死んだ人そうでない人蜜柑かな         同

   この世でもあの世でもなく桜の世        同

   病院の裏の茸はよく踏まれ           同

   昼の月道を外れて歩きけり           同

   夢に見し桜うつつに散りぬるか         同

   人間をやめていつしか雲に鳥          同

   亀鳴くを待てばいつしか亀となる        同



  南野耕平

   冬ざれて街は四角き背中かな        『俳句スクエア・第一集』北溟社

   象の目に映る日本の春の坂           同

   液晶の海を横切るクリスマス          同

   

  西川徹郎



  西谷孝



  西宮舞



  西村和子



  西山常好

   生くるとは人送ること花は葉に       「俳句四季」20138月号



  新田歩

   虫かごに捕まえたるは夕日のみ       第6回日本俳句大賞        



  仁平勝

   汗の引くまで零戦を見てをりぬ       『黄金の街』ふらんす堂

   秋天に白球を追ひ還らざる           同

   あしびきの山手線より初景色          同

   原つぱに斬られて死ぬる涼しさよ        同

   男なれども春愁の髪を切る           同

   合鍵を忘れてもどる冬銀河           同

   欠伸して涙を流す秋の暮            同

   合鍵を忘れてもどる冬銀河           同

   台風の近づいてゐる神社かな          同

   ぶらんこの夜霧に腰かけてしまふ        同

   春昼の廊下のごとき電車かな          同

   二階から声をかけたる祭かな          同

   春を待つかたちに人の列があり         同

   来そうなと思はせて来る夕立かな        同



  野木桃花



  野中亮介



  能村研三

   杉ぶすま直立にして雪しまく        「沖」平成252月号

   寒雲を支ふ仁王の怒髪像            同

   柊挿す我が背丈よりやや高く        「沖」平成253月号

   一筋は心鎮めの野火けむり         「沖」平成254月号



  野元恵理衣

   灰新緑の眩しさにただ吹かれ立つ      『晴れの靴』角川書店



  は行

  嘴朋子

   ピーマンを切ればムンクの叫びめく     『象の耳』ふらんす堂

   

  橋本榮治



  橋本直

   万緑のその幻聴は知っている        「現代俳句」平成257月号



  長谷川櫂

   風鈴や天駆け巡りくる風に         『虚空』花神社

   朝顔の破れて風と遊びをり           同

   この星のさびしき秋を昼寝して         同

   天上を吹く春風に富士はあり        『富士』ふらんす堂

   乾坤に投げ入れてある椿かな          同

   山はみな浮きつ沈みつ桜かな          同

   わだつみの神の玉なる鮑とる          同

   火の神のたたら踏みけん落椿          同

   走り出て湯は瀧となる桜かな          同

   大蓮華印結びて氷りけり          『新年』角川書店

   餅ふくる崑崙山も天山も            同

   揺らめいて水は金魚となりにけり        同

    蓬萊柿てふ無花果、出雲にあり

   八雲たつ出雲無花果作るかな          同

   銀河系ますみの屠蘇をすすりけり        同

   檳榔樹の島を娶りし神の春           同

   龍の目をのぞくがごとく初鏡        『鶯』角川書店

   金剛の人となるべく昼寝かな          同

   ものの芽の何かはしらず大事かな        同

   須佐之男の留守を預かる子猫かな        同

   人間に河豚ほどの毒あらまほし         同

   睡蓮の花にきのふはなかりけり         同

   荒海のごとくに煮ゆるおでんかな        同

   大根にからすみの朱を重ねけり       『唐津』花神社

   弁当の箱の田の字や山桜            同

   月のぼる月に心のあるごとく          同

   空よりも大きな月の上りけり          同

   太陽と月さながらに朝寝かな          同

   我すでにそこにはあらず籠枕          同

   この星をひつぱる蜘蛛の糸のあり        同

   雲の峰みちのくに立つ幾柱         『震災句集』中央公論社

   幾万の声なき声や雲の峰            同

   湯豆腐や瓦礫の中を道とほる          同

   日本の三月にあり原発忌            同

   一枚の龍のうろこを初硯          『柏餅』青磁社

   俳諧の国の守りや福笑             同

   天と地の反りあふごとし椿餅          同

    自照

   図体にのつてのどかな頭かな          同

   海底のグランドピアノ秋に入る         同

   外套を月の光に掛けておく           同

   また生まれ替はるしかなき浴衣かな       同

   

  秦夕美



  八田木枯

   洗ひ髪身におぼえなき光ばかり       『汗馬楽抄』深夜叢書社

   竹を伐る夢精のごとく日がさして      『於母影帖』端渓社

   秋風のつまづきしかばナフタリン      『あらくれし日月の抄』富士見書房

   晝顔や死んで生きるといふ手ふり      『夜さり』角川書店

   子どもには子どもが見えて秋のくれ       同

   ぼうたんの崩るるときや全て見ゆ      『鏡騒』ふらんす堂

   冬ふかし柱が柱よびあふも           同



  服部一彦



  花谷和子

   咎めるも許すもわれへ梅白し        「藍」平成254月号

   人にのみ罪ありわれも蟻つぶす       『歌時計』角川書店

   海の日や湯沸室の昼灯り            同

   月光の髪ひといろに海鳴れり          同

   おのずからまことのみどり梅雨の樹々    「藍」平成258月号



  花谷清

   梟のあたためている風の音         「藍」平成254月号

   大の字に地球を背負う子供の日       「藍」平成256月号

   眼が合えば眼から寄りくる春の鹿      「藍」平成257月号

   海からの風ここからは薔薇の風       「藍」平成258月号



  羽村美和子

   余震なお薊がふえる夜の底         『堕天使の羽』文學の森

   方舟の先へ先へと紅葉して           同

    

  林桂

   天狗巣に

   月の

   朧の

   闇集ふ                  「鬣」第47

   葉渡りの

   風の

   命を

   産む茎茎立                  同



  林翔



  林誠司

   雀化して蛤となるカルテかな        『退屈王』文學の森

   毬栗のすぐそばにある太平洋          同

   大南風鱗はがれてゆくやうな          同

   先のこと何もわからず泳ぎけり         同

   わが空にきてシリウスは踊りだす        同

   神武とはうつくしき名ぞ鷹渡る         同

   山は日矢つきさして神送りたり         同

   竹の子の竹になる気でありにけり        同

   銀漢の若草山に触れてをり           同

   てのひらをすべてひたして春の潮        同

   手をひらくやうに海あり晩夏光         同

   鷹渡る空にけがれのなかりけり         同



  東直子

   くちなはのあらはれ風の止まりけり     「鏡」第九号  



  日原傳



  檜山哲彦

   天に声置いて雲雀の戻り来る        『天響』角川書店



  平岡正子

   牡丹の闇動かして崩れけり         「ひろそ火」20138月号



  平田雄公子

   自らの影を遊ばせ蝶の昼          「谺」平成176月号



  ひらのこぼ

   日本は言霊の國初日の出          「里」30133月号



  廣瀬直人



  深谷雄大



  福井隆子

   足湯して遠くに雪の降りはじむ       『手毬唄』角川書店



  福島せいぎ

   馬蛤の穴つぎつぎ塩を入れて待つ      『遊戯』文學の森

   どんぐりを踏みしたたかにたたら踏む      同



  福田甲子雄    

     比叡山根本中堂

   奈落より湧く経文の声凉し         『草虱』花神社

   星からのこゑとも閻魔蟋蟀は          同

   綿虫の空より湧きて燈をふやす         同

   わが額に師の掌おかるる小春かな      『師の掌』角川書店

   暁暗の月見団子に星の渦

   散る花の石に巌に行く雲に



  藤田湘子

   愛されずして沖遠く泳ぐなり        『途上』

   揚羽より速し吉野の女学生         『春祭』

   木蓮の声なら判る気もすなり        「鷹」200556月号

   柳絮とぶ言と事とのあはひかな         同

   われのゐぬ所ところへ地虫出づ         同

   草川の水の音頭も春祭             同



  藤村真理

   湯の中に湯の吹きいづる淑気かな      『からり』富士見書房

   うすずみは白よりあはし天の川         同

   トンネルの出口のやうな春の月         同



  坊城俊樹



  坊城中子



  星野高士

   湖に少し波立つ神送            『顔』角川書店

   春めくや雨の水の輪重ならず        『平成二十四年度玉藻特選句集』玉藻社

   祭髪結ひてどこへも行かざりし         同

   日蝕のその後の空を夏の蝶           同



  星野恒彦



  星野椿

   踏切が鳴つて大きな寒椿          『平成二十四年度玉藻特選句集』玉藻社



  堀瞳子

   いちまいは風の断片白木蓮         「鳳」20134

   就中龍笛ひびく桜の夜             同

   手を当てて木肌確かむ夏の果        「鳳」20135

   葛かづら編めば日向の匂ひせり       『山毛欅』ふらんす堂

   階段の上に真夏の空ありぬ           同

   さんらんぼ光零さぬやう抓む          同



  本多俊子

   文覚と明恵の出会ひ冬すみれ        『光のうつは』文學の森

   山繭に海のあをさのにじみたる         同

   端渓の海を色なき風わたる           同

   火星まで水汲にゆく万愚節           同

   海神は光のうつは鳥帰る            同

   

  ま行

  前川弘明

   水平線のように朝寝をしておりぬ      『月光』拓思舎

   ロッカーの荷と月光を入れ替える        同

   花の雨ガス管に家つながれて          同

   刃を入れて桃を愛していたと思う      「海程」20136月号



  前田吐実男

   魚屋の魚寝ており春の昼          「俳句界」20057月号



  正木ゆう子

   進化してさびしき体泳ぐなり        『夏至』春秋社

   寝返りて蠍座と向き合へるかな         同

   太陽のうんこのやうに春の島          同

   水の地球すこしはなれて春の月       『静かな水』春秋社

   しづかなる水は沈みて夏の暮          同

   いま遠き星の爆発しづり雪           同

   やがてわが真中を通る雪解水          同

   人体に蝶のあつまる涅槃かな        『蝶日』富士見書房

   花野から大きな耳の垂れてくる       『肅祭』思潮社



  増田陽一

   仙人掌に見つからぬやう春の昼       『ファーブルの机』ふらんす堂

   珊瑚海海戦在りし夜の蝉            同

   降りてまた階段のあり黴の花          同

   玉葱の転びて南海電車かな         「雷魚」95



  松井国央

   善人になるも退屈蕗の薹          『典型的な午後』山河叢書

   一刻を組み換えている蜆採り        「山河」第322



  松浦敬親

   聖灰へ霾る日々の歩みかな         「麻」20134月号

   発生の闇とびとびに蝌蚪の紐        「麻」20135月号



  松澤昭

   夏の木のかけがへのない高さかな      「四季」平成176月号

   夏の月とつても遠いひとかけら         同



  松澤雅世



  松本龍子

   星からの光が氷柱磨きけり         「俳壇抄」第40



  マブソン青眼

   星空やおのおのをののいて         『渡り鳥日記』参月庵

   指先の湯花も月のひかりかな          同



  真矢ひろみ

   実柘榴の大きく傾げゆく宇宙        「豈」54



  黛執

   山ねむる眠らぬ山に見守られ        「晨」平成253月号

   弾み合ひぶつかり合ひて水温む       「晨」平成255月号

   夕ひばり空を濁して戻りけり        「晨」平成257月号 



  黛まどか

   星凉しここにあなたのゐる不思議      『B面の夏』PHP

   母の日の母を泣かせてしまひけり        同

   泳ぎ来て果実のやうな言葉投ぐ         同

   入口も出口もなくて大花野           同

   風邪ひいて金魚に見つめられてをり       同

   花筵風が遊んでゆきにけり         『京都の恋』PHP

   涼しさの貴船にすすぐ旅の衣          同

   夏料理風添へられて運ばるる          同

   京扇子はるかな風を呼びにけり         同

   大文字消えて戻りし星の位置          同

   逢へぬ日を重ねて古都の月あかし        同

   星なべて月に離りし菊膾            同

   日を閉ぢ込めて春を待つ万華鏡         同

   ややありて流れはじめし雛かな       『忘れ貝』文學の森

   日溜まりのあと月光のすみれかな        同

   いろいろとの灯を抜けて来し花衣        同

   行きたい方へそれからのしゃぼん玉       同

   さくらさくらもらふとすればのどぼとけ     同

   鑑真忌波のひとつが巌を越え          同

   海の日の銀座の角を曲がりけり         同

   半身を木蔭にあづけ眠りつぐ          同

   舂くと囁き合うてかほがはな          同

   野にあれば星をたよりに百世草         同

   冬の虹消えたるあたり濡れてをり        同

   雪しまく睡眠薬は海の色            同

   冬銀河身ぬちに残る舟の揺れ          同

   あやとりの川から橋へ日脚伸ぶ         同

   わらんべも仏も濡れて花まつり       『てつぺんの星』本阿弥書店

   花よりも水に添ひたる花衣           同

   転びたる子がすぐ立てる花吹雪         同

   篁を風の離れぬ利休の忌            同

   五大堂したたる山を収めたり          同

   漆黒の硯の海も鑑真忌             同

   木漏れ日を胸に集めて三尺寝          同

     NHK「アースウォッチャー 月から見た地球」に寄せて

   その中のしたたる星として現るる        同

   くれなゐを支え切れずに薔薇崩る        同

   思案橋色なき風と渡りけり           同

   てつぺんの星が傾げる聖樹かな         同

   からゆきの島々かけて時雨虹          同



  三島広志

   身の丈に余る魂初桜            「藍生」平成257月号

   桐の花空は極みの明るさに         「藍生」平成258月号

   桐の花町の裏側晴れ渡り          「藍生」平成259月号



  水野真由美

   春昼の赤子秤られゐて眠る         「鬣」第47

   ひめしやらや水に言葉を傾けて       「鬣」20138月号



  水原春郎



  三森梢

   少年の地下駅にとる夜食かな        「都市」通巻31



  皆吉司



  峯尾文世



  三村純也



  三宅やよい

   木洩れ日の呼吸している冬の森        「豆の木」No.17



  宮坂静生

   文旦に刃を入れ魂に触りけり        『雛土蔵』角川書店

   宙に花とどめ青面忿怒仏            同

   枯れ尽くすまで触れ合へり麦の禾        同

   田に塔を建つるごとくに蛙鳴く         同

   田亀をる後醍醐帝の剛気かな          同 

    志賀高原にて

   山頂に天牛とゐて夏終る            同

   茸狩しばらくこの世はなれをり         同

   春の潮ニライ・カナイへ糸電話         同

   極道にあこがるる婿すべりひゆ         同

   八月の雨からまつにみつめられ         同

   海光を撓め蜜柑を捥ぎにけり          同

   ひとの世の火の気斥け雛土蔵          同

   苧の花観音へ一つ径              同



  宮崎斗士

   花だいこん本貸す時こんな笑顔       「青山俳句工場」第47

   いま内視鏡遠く林檎の花揺れる       「海程」全国大会 in 長崎 第一次句会

   野遊びのあの子編集者のセンス       「海程」平成2589月号

   キリンに生まれて雲に近くてしかも初夏   「青山俳句工場」第49



  宮本佳世乃

   ともだちと雛が鏡に入りにけり       「豆の木」No.17



  村井康司

   蛇笏忌の風吹き通る髑髏かな        「鏡」第七号

   織姫を刺し貫けり霹靂神          「鏡」第九号



  村田由美子

   石 穿ち

   肉 穿つ

   楔形文字

   の 反乱                 「未定」第95



  茂田慶花

   蜃気楼わたしゃやっぱり団子練る      『雪だるま』ウエップ

   吊橋を色なき風とわたるかな          同

   箒目の渦にあつまる淑気かな          同

   願いごとひとつは忘れ初不動          同



  森澄雄

   われ亡くて山べのさくら咲きにけり     『所生』

   こころにもゆふべのありぬ藤の花      『天日』

   ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに     『鯉素』

   西國の畦曼珠沙華曼珠沙華           同

   年ゆくと水飮んで水しみとほり       『四遠』

   磧にて白桃むけば水過ぎゆく        『花眼』



  森大鈴

   胴上げの花に届かんばかりなる       『薄墨桜』出島文庫

   椿壽忌の雲行く先の遙かかな          同 

   鴨の水尾向きを変へたるとき光る        同   



  森賀まり



  や行

  八木原祐計



  矢島渚男



  山尾玉尾

   探梅の途中高山右近像          「火星」平成253月号

   へうたんの酒鳴りにけり椿山       「火星」平成255月号

   麦熟るる中を深層水さげて        「火星」平成256月号

   たくさんの星とまみえし梅筵       「火星」平成257月号

   日が月をゆつくり送る余り苗       「火星」平成258月号

   ぼうふりの水に日の射す祓かな        同

   奥の間へ夜風のとほる星迎          同

   夫のせて来よまるぽちやの茄子の馬      同

   へうたんの花に風立つ四天王       「火星」平成259月号

   かけがへなき音に苧殻を折りにけり      同



  山口優夢

   あぢさゐはすべて残像ではないか     『残像』角川学芸出版

   台風や薬缶に頭蓋ほどの闇          同

   桃咲くやこの世のものとして電車       同

   心臓はひかりを知らず雪解川         同

   わが影にアイスクリームこぼれをり      同

   問診は祭のことに及びけり          同

   踊りたる隅の公衆電話かな          同

   オリオンや眼鏡のそばに人眠る        同

   投函のたびにポストへ光入る         同

   

  山﨑十生

   霜柱滅する力蓄へる           「紫」20135月号

   人間も瓦礫に如かず春浅し        「紫」20136月号

   菜の花の海へ特急弥勒号         「紫」20137月号

   1/fの天蓋青あらし           「紫」20138月号

   

  山田耕司

   雷が落ちてカレーの匂ひかな       『大風呂敷』 大風呂敷出版局

   少年兵追ひつめられてパンツ脱ぐ       同

   黒揚羽耳の奥より逃げ出しぬ         同

   月曜日ずらりとベンチ孤独なベンチ      同

   手をひつぱる鬼は夕焼け色だつた       同

   のどぼとけくらべてをはる九月かな      同

   狼に降る雪と決め舌を出す          同

   春の夜に釘たつぷりとこぼしけり       同

   おとうとよみな左向くたいやきよ       同

   最果ての雪野が傘の上にある       「円錐」第56

   去年今年両膝をつき両手つき         同

   脱がせあふ服は迷彩ほととぎす      「円錐」第58



  山中多美子

   初鏡かもめのこゑのふえきたる      『かもめ』本阿弥書店



  山中正己

   勾玉のかたちに寝まる寒の入       『地球のワルツ』角川書店



  山西雅子



  山根真矢



  山本一歩

   物音を閉ぢ込めてゐる代田かな      「谺」平成176月号



  山本恵子

   心太食ふ半身に日の差して        『先づもつて』ふらんす堂

   葉の上の葉の下の蓮咲きにけり        同



  山本左門

   水に皿沈めて八十八夜かな        「韻」第13



  山本奈良夫



  山本洋子

   柊のはなのそばにて話しこむ       「晨」平成253月号

   人のせし砂採舟や涅槃西風        「晨」平成255月号

   蕗の薹摘みに岬をまはりけり         同

   ぶつかつてはなれて伊賀の蝶々かな    「晨」平成257月号



  柚木紀子



  横山房子



  好井由江

   遠火事や折鶴紙に戻りつつ        『風の斑』ウエップ



  吉田鴻司



  吉田汀史

   山藤のほしいままなる花の位置      『一切』航標俳句会



  四ッ谷龍



  依光陽子



  ら・わ行

  鷲谷七菜子

   書より眼をあげしひととき山笑ふ     「俳句研究」20055月号



  和田耕三郎



  和田悟朗



  渡辺誠一郎

   太陽を濡らして来る鯨かな        『数えてむらさきに』銀蛾舎

   蓮の実の飛んで天上天下かな         同

   散る桜解けし修羅の影ばかり       「小熊座」平成256月号

   原子炉へ水打つ女が夢枕         「小熊座」平成257月号




この現代俳句選集は、俳句スクエアへご恵贈頂いた句集、俳誌等から五島高資が感銘句を抄出し、俳人別に編輯したものです。漸次更新中。



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