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Haieの久々コラム

2013年1月31日 (木) 

サメシンポジウム in 海遊館

〜日本板鰓類研究会主催 サメシンポジウム参加報告〜

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★ヒレが欠けてもたくましく


 サメとヒトとの関係。これは海を捉えるにあたって問い続けなければならない課題です。
今回の演題は、おそらく人間が傷つけたであろうサメを用いた興味深い研究です。

イタチザメ尾鰭上葉欠損個体の遊泳行動
  東京大学海洋大気研究所 ハワイ大学ハワイ海洋生物学研究所

近年特に進化の目覚ましい記録メディアや電子部品のダウンサイジング。PC98シリーズからパソコンを触り始めた世代には信じられないくらいに、高機能かつ軽く安く小さくなったITツールで大量のデータを微小なメディアに保存できるようになりました。
 この恩恵を強く反映した研究がいわゆる動物行動学の一分野である、バイオロギングと呼ばれるものです。

 以前にNHKの番組(の感想)をコラムにしたことがありましたが、あの時の対象は深海ザメの「ミツクリザメ」と「フトツノザメ」でした。
>NHK特集のコラム
 番組の企画上、ミツクリメインでしたが、サメに取り付けたデータロガーから解析してどのような行動経路をとったのかを明らかにしていました。
 こちらの演題は、オアフ島沖での2か月間の調査に基づいた7尾のイタチザメの遊泳記録をもとにしておられるようです。

 イタチザメは、前回のヨシキリザメに比べると生息範囲は狭く、世界の暖かい海の沿岸部に集中しており、赤道付近の南太平洋が主な生息域のようです。
 ハワイ諸島付近はそういった海域の一角をなす位置づけとなります。

⇒海遊館のイタチザメ(2008年写真)。外洋性のメジロザメの仲間でも特徴的な幅広の吻を持つ。

 日本では石垣島でのサメ退治でよくニュースにもなるイタチザメですが、人を襲う可能性の高い「危険ザメ」でもあり、マリンレジャーが盛んな地域ではシャークアタックの筆頭にあがると言ってもいい種類です。
 なので彼らの行動記録は、そういった人的被害を軽減する目的でハワイでは特に注目して研究をされておられるようです。調べますとハワイでは18世紀から1993年までに104件に及ぶ(致命的でないもの含む)サメの襲撃例が記録されており、多くは種を特定するに至らない大型種とされていますが、判明しているものでも突出しているのがイタチザメとなっています。(『Hawaii's Deadly Sharks』Mutual Pablishing刊より)

 今回のオアフ島の調査は、採餌行動の研究で捕獲したものを再放流する際に、データロガーを取り付けて行われたものだそうです。
 コバンザメのような研究調査ですが、ノウハウもある研究機関との同行調査というものは対費用面では制約の多いサメ研究の心強い味方に違いありません。
(ハワイ大学では、イタチザメ対象とした複数の調査プログラムも実施済→★Tiger Shark Research Program

 イタチザメの遊泳がどのような動きによってもたらされるのか明らかにする方法として、速度記録計と深度計、そして「3軸加速度記録計」を搭載したロガーが背びれに取り付けられました。
 この中の「3軸」は、いわゆるタテヨコ奥行きで、記録計は地磁気を用いて体のふり幅を記録するもののようです。尾ビレに直接つける訳にはいかないので、体をくねらせて泳ぐサメの動きから尾ビレの動きを導いて数値化する意味付けを成すのだと思います。

 さて、調査対象となった7尾の内訳は成熟したオスとメス、未成熟のメスの子ザメがそれぞれ2尾ずつの計6尾に加えて、一尾だけ尾ビレの上の部分を失ったメスの個体を含んでいるようです。

▼前掲と同じメスのイタチザメ。油壷の個体に比べ模様がやや不明瞭。

 イタチザメの尾ビレは、多くのサメの特徴でもある、異尾(いび)という上下で異なった長さをしています。それはちょうど手のひら横向きで親指を上下にパクパクと大きく開けた形に似ています。
(※あなたの手で再現してみてください)
 その長い方の指をギュッと握った姿が、尾びれの上側を失った状態となります。ちょうどそのように尾ビレの上側が欠けた個体との比較で、欠けた部位の機能的な意味をデータから見出そうということなのですね。

 1週間前後記録したのち、例によって切り離されたロガーを回収してデータを採取します。

 数字の上では、欠損個体は普通に泳ぐ速度そのものは大きな差はないものの、やはり「水を掻く」力そのものが弱いせいか、より小刻みに尾ビレを振るそうです。
 さらに、欠けた個体が浮上のために上昇する際は、整った個体よりさらに尾ビレの振りが盛んになったとのこと。
 上向きにした体躯を押し上げるための強い「かき」では、尾ビレがないと不自由であるようです。ちなみにサメが沈降する際は、ヒレをほとんど動かさずに吻を下向けにして自由落下に潜るようで、全く差はなかったようです。

 比較するサンプル数は少ないように思えますが、それぞれの大きさや性別・成長具合を絞られていた無理のない比較であるように思います。

 ただ、ターゲットを絞って餌を捕えるといったピンポイントの行動時に、どのような動きをするのかも非常に興味がわきました。
 データの蓄積が進めば、そのような行動もきっと明らかになることでしょう。

 しかし、この調査手法からもわかるように、イタチザメがハワイ諸島に留まって行動しているようにも思え、彼らにとって重要な生息域であることがうかがえます。
 それがゆえに、マリンレジャーの隆盛で人間と彼らが遭遇する機会が増えてしまったことは、必ずしも悪い結果ばかり生じたのではないように思います。
 ISAF(国際サメ被害目録)の記録では、オアフ島では92年以降、マウイ島では04年以降死亡に至る襲撃報告がないことからもわかるよう、人間の側で彼らへの意識改革が進んだ証拠でもあるように思います。
 →★国際サメ被害目録 ハワイ編

 しかし、それは根本的な危険がなくなったわけではなく、あくまでリスク管理の観点から不用意な事故を避ける最善の手段を人間の側が身につけただけのことです。ハワイ大学での研究でも、そういったソフト面での啓蒙も含まれていました。

 海と陸、この境界を超えているのは明らかに我々なのだ、という意識があるかないかで結果は大きく異なるはずですから。

 さて今回の欠損個体は、何によってケガをさせられたのでしょうか。ヒレだけをかみついて食べ尽くすような生き物はいないはず(かじるだけなら"ヤツ"がいる)。
 主に海外のサメ本には、ヒレを失ったり、網に絡まったりしたサメが写真つきで紹介されています。フィニング以外でヒレを失うおもな原因は、釣りなどでエサを追う際に、誤ってモーターボートのスクリューに巻き込まれるケースだそうです。
 どれほど恐れられているサメでも、機械文明の前には成す術はありません。

 バイオロギングは、協力してもらうイタチザメ自身の負担が少ない最善の手法でもあることから、互いの関係を導く素晴らしいツールであると言えるでしょう。


▼サイト内関連リンク
  >油壷マリンパークのイタチザメ
▼関連書籍
  『Hawaii's Deadly Sharks』Mutual Pablishing 1993(英書)
  『バイオロギング』日本バイオロギング研究会著 京都通信社
  (※サメは載ってませんが、同じ装置の説明あり)

一個のテーマに時間をかけすぎている…でも調べたくなっちゃうんだよぉ〜

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次回、怒涛の南国サメ調査、やっとここまでたどりついた!



開催地:大阪港天保山 大阪海遊館
 http://www.kaiyukan.com/(公式サイト)
主催:日本板鰓類研究会
 http://jses.ac.affrc.go.jp/ 

→サイト内関連リンク
2005年 日本板鰓類研究会主催サメシンポジウム(東大)


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