田舎

                                                              

水影の古都(ヴェネチア)  (油彩100号) 長谷川弘二  画

 靴形のイタリヤ半島、足の後ろ側付け根の位置にあたる所がヴェネチアである。

 “アドリヤ海の真珠” と謳われるこの美しい町は、この海のなかに造られている。

5世紀の中頃、北イタリヤの住民がゲルマン人など蛮族の侵略を逃れて海辺の干潟に避難し

住み付いたのが始まりとのこと。外敵の侵入を防ぐ為、敢えて生活条件の悪い場所を選んで

街づくりをしたのだ。人々は浅瀬の湿地に大量の丸太を打ち込みその上に石材を積み重ねて

基盤にして町にした。だから 「ヴェネチアを逆さまにすれば森ができる」 と言われるそうな。

それに一口に町といっても並大抵な町ではない。色彩豊な壁面と飾り窓の瀟洒な建物群、

絵画や彫刻で飾られた宮殿や教会堂、高い鐘楼、精巧な大理石のモザイクの床や階段、

路地を結ぶバランスのよい太鼓橋、総てがほかに類のない素晴らしい街並みである。

 町中は総て水路で連絡し、主要な交通、物流は小船が主役、お馴染ゴンドラも活躍する。

勿論、自動車などは使えない。歩行者は迷路のような路地をうまくすり抜け、あちこちに架け

られた大小の橋を渡りながら、たちまち目的地に辿り付く事が出来るようになっている。

 兎に角、創建時の人々の天外な発想、創意工夫、そして後継者に引き継がれた連帯感、

執念、といったものが、この世にも稀なる華麗な町を造り出した。そして、様々な外圧の中で

独立と不羈を手にし、時には世界に覇権を獲得して、アドリヤ海の盟主として今日まで魅力的

生活を維持しているのだ。実に驚異という他ない。創建時以来、この不屈の精神は、住民に

受け継がれ、町の繁栄の原動力となり、彼らの 「誇り」 とも繋がっているのだろう。

 

 この絵は、町の玄関口であり中心地のサンマルコ広場から北奥に入り、有名なリアルト橋で

大運河を渡った地区で、人通り少ない言わば裏町通りの水路を描いたものである。

,三月の春の陽は既に傾きかけてはいたが、辺りはまだ充分明るく、建物の壁を柔らかい光彩で

包んでいた。堀割りの静かな水面に映る建物の影の深みは、言い知れぬ哀愁を帯び、静かで、

古都らしい雰囲気を醸し出していた。壁の色合い殊に右手の宮殿風の建物の錆びた深い赤色と、

水影の微かに揺らぐ透明な蒼色の対比が印象的で、華やかな歴史の町の孤高な美しさを見た

気がして、何とかこれを表現したいものと思いカンヴァスに向かった次第。

 

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