当科での卵巣腫瘍の腹腔鏡下手術についての詳しい説明です。

最新式のコンピューター制御電気メスであるリガシュア・アトラスにより右卵巣チョコレート嚢腫(←)を摘出しているところです。

まず、卵巣腫瘍の種類について述べさせていただきます。一口に卵巣が腫れているといってもいろいろな種類のものがあります。特に、最近の腟からあてる超音波(経腟超音波断層法といいますが)を用いることにより、かなりの頻度で卵巣の腫大が見つかってきます。従って、卵巣が腫れていることが、直ちに手術に繋がるわけではありません。卵巣が腫れているといわれる場合に最も頻度が高いのは、排卵に伴って、卵巣は周期的に腫れたり退いたりを繰り返しているわけですが、そのよう場合に、卵胞や黄体嚢胞といわれるものをみていることがあります。このような場合には期間をあけて観察すると、自然に消えるということがありますので、卵巣が腫れている場合には、超音波のパターン、CT、MRI等の画像診断をしっかりするおこない、その種類を同定していくことが重要です。

従って、ここでは、卵胞や黄体嚢胞を除外した状態で手術が必要となる疾患について述べさせていただきます。また、悪性腫瘍は腹腔鏡下手術の対象ではありませんので除外させていただきます。一方、子宮内膜症によるチョコレート嚢腫は、厳密な意味での卵巣腫瘍ではありませんが、含めて説明させていただきます。卵巣は正常では、親指の先ほどの大きさの小さな臓器ですが、多種類の卵巣腫瘍が発生してきます。非常に稀な腫瘍も時に見られますが、ここでは、最も一般的なものについて紹介させていただきます。

漿液性嚢腫は、さらさらのお水のような内容物を入れた嚢腫です。例えていうと、風船の中に水を入れて膨らませたような状態です。針を刺して、中味を抜けば、しぼんでしまいます。
粘液性嚢腫は、時に2−3kgもあるような巨大なものとなります。ブドウの房のような中がいくつかの部屋に分かれていて、中には、ゼリーのようなドロッーとした内容を入れています。正常部分の同定が難しく、また、他の腫瘍に比べて再発の率も高めですので、無理をせず、若い方でも、下記の付属器摘出術となることもあります。
胚細胞(簡単にいうと卵子の元になる細胞)より発生する腫瘍です。稀に未熟奇形腫と呼ばれる低悪性ー悪性のものもみられますが、殆どは成熟奇形腫と呼ばれるものです。成熟奇形腫は外胚葉へ分化した形質を持ちますので、嚢腫内面は毛髪を伴う皮膚の構造を持つことが多く、時に歯や骨の様な石灰化構造を持ちます。別名、皮様嚢腫、われわれはデルモイドと称しています。嚢腫の中は皮膚構造から分泌される皮脂で満たされています。後に述べる体外法の良い適応です。
内膜症性嚢胞は、古い血液を貯めているところから、別名チョコレート嚢腫と呼ばれます。本当の嚢腫ではなく、類腫瘍性病変あるいは偽嚢胞と呼ばれます。月経困難を伴い癒着性であるために、手術は困難なこともあります。若年の方にでる場合には、なるべく正常卵巣部分を残す努力をしていますが、再発率の高い疾患です。

卵巣腫瘍の手術方法には、腹腔鏡下手術においても開腹手術と同様に、嚢腫の出来た卵巣を卵管とともに摘出する付属器摘出術と正常卵巣部分を残して悪いところのみを切除する嚢腫核出術があります。

付属器摘出術とは、嚢腫の出来た側の卵巣も含めて摘出してしまう手法です。手術としては、比較的単純で、再発の危険性もなくなります。子供さんを作る予定のない方や悪性の疑われる場合に行われます。

嚢腫核出術とは、嚢腫の出来た悪い部分のみを摘出し、正常卵巣を残す方法です。これから、子供さんを作られる方の場合には、なるべく、この方法で行うようにしています。正常部分との境目がはっきりしない場合にはやむを得ず付属器摘出術を行うこともあります。また、嚢腫核出の場合には、核出した方の卵巣に再発することもあります。


腹腔鏡下卵巣腫瘍摘出術における体内法と体外法について

卵巣腫瘍に対する腹腔鏡下嚢腫核出術においては、体内法と体外法があります。左の図は当科での処置孔の位置ですので病院により大きさや位置は違うと思いますのでご了承下さい。

体内法は全ての処置を内視鏡下に行うため、傷は小さくて済みます(スコープ用に5mm、処置用に5mmと12mm)が、縫合を体内で行うために手術の難度が高くなります。癒着を伴うチョコレート嚢腫の場合には、非常に適した方法です。

一方、体外法は、体内法に比べて、腹腔鏡下で観察しながら嚢腫の中味を特殊な針を刺して抜いて小さくした後で、恥骨上の処置孔より体外へ引っぱり出して開腹手術と同じ方法で手術を行います。体外へ出す際に、嚢腫の大きさや中味により、やや、恥骨上の傷が15−30mmと大きくなる傾向にありますが、皮様嚢腫の場合や大きな嚢腫の場合に適した方法です。初心者でも容易に行うことが可能です。チョコレート嚢腫は癒着のために体外へ出すことが難しいのでこの方法は使われないことが多いと思います。