子宮内膜症についての説明


はじめに
●子宮内膜症は、その病態や治療を理解するのが非常に難しい疾患だと思います。長い間、いくつかの病院に受診を続け、様々な治療(特に高価な薬剤の投与や民間療法的な薬による治療)を受け、そして、手術を希望されて、私の外来を受診される方が、おられます。そこで、その患者さん達に、子宮内膜症とはどういう病気ですかと聞いたときに、まともな返事が返ってくる方は、10分の1以下でしょうか。いろいろな方がいて、「以前、内膜症といわれていましたが、最近、月経困難症が改善しているので、内膜症は治りました」と言われるに至っては、もう、何とも説明の仕様もありません。他力本願的に、日本子宮内膜症協会のホームページを紹介して、ここを隅から隅まで読んでみて下さいと言ったこともありました。

●私自身も、以前は、あまり、子宮内膜症の治療に興味を持ってはおらず、分娩出産を終えた方であれば、根治手術をして子宮や卵巣を摘出すれば、それで終わりという感覚でした(もちろん、その意義を十分、患者さんに説明した上でですが)。しかしながら、腹腔鏡下手術の導入と共に、卵巣腫瘍の紹介患者さんが急増してくる中で、やはり、卵巣チョコレート嚢腫の患者さん、それも、若い方、未婚の方、不妊の方等が増えてきました。患者さんの絶対数の増加もあるとは思いますが。

●そこで、自分なりに解説を試みましたが、間違っている点もあるかもしれません。なにしろ、医学の進んだ現在でも、子宮内膜症が、なぜ、起こるのかという明確な理由が明かではないのですから。


解説

●子宮内膜症、英語では、endometriosis(エンドメトリオージス)といいますが、その定義としては、子宮内膜あるいはそれの類似組織が、子宮内腔以外の所に発生し増殖する疾患です。病気それ自身は悪性ではありませんが、女性ホルモンに依存して増殖し、周辺の組織に浸潤し(入り込み)、癒着を形成する不思議な疾患です。子宮内膜は本来は子宮の内側を覆い、月経時に剥がれて出血起こす部分です。以前は、子宮の外に発生するものを、外性子宮内膜症と呼び、子宮筋層内に発生するものを子宮腺筋症(後述)と呼んでいましたが、種々の研究の結果から、その発生機序が異なると考えられることから、現在は子宮内膜症と言えば、以前、外性内膜症と呼んでいたものを指すことになっています。この図でみられる斑点のようなものが、いわゆるブルーベリースポット呼ばれる内膜症の病変です。

●子宮内膜症は、子宮筋腫に比べると、若い年齢に発症することが多く、主訴としては、月経痛を中心とした疼痛と不妊が中心となります。初経後3-4年を経過して発症し、女性ホルモン分泌が活発になる20-30歳代にかけて進行していき、女性ホルモン分泌が低下する40歳後半以降は低下すると言われています。生殖可能年齢婦人の5-10%は内膜症の病変を持つと言われていますので、患者さんが思っているよりは、はるかに頻度が高い疾患です。


子宮内膜症の発生機序

●子宮内膜症が、どの様に発生し、どの様な自然経過をたどるのか?については、明確な答えが得られていません。現在の所、提唱されている有力な説としては、1927年にSampsonが提唱した子宮内膜播種着床説と1898年にIwanoff、1919年にMeyerが提唱した体腔上皮化生説があります。現時点では、全ての内膜症病変をひとつの仮説で説明することは困難で、両者ありうるという複合説が有力です(ということは、ほぼ、提唱後に100年経っても原因論については殆ど進歩がないということでしょうか?)

●子宮内膜播種着床説について:以前より、月経中に女性のお腹の中には血液が貯まっていることが知られていました。これは、月経血が卵管を通して、お腹の中に流れ込んでいるということです。月経の出血は卵巣から分泌される黄体ホルモンレベルが下がることにより、子宮内膜が剥がれて起こる訳ですから、月経血は単なる血液ではなくて、血液と剥離した内膜組織が混ざったものです。従って、月経血がお腹の中に流れ込むということは、本来、子宮の内側のみに存在する子宮内膜組織が、毎月、お腹の中に流れていき、そこに、付着するということになります。そして、様々な場所、特に、お腹の中で一番低い場所になるダグラス窩(子宮と直腸の間)(上の図の青い矢印の部分)や卵巣表面に定着し、卵巣からのホルモンに反応して、成長し出血を繰り返すようになります。このように、説明するとなるほどと思いますが、これだけでは、説明できない色々と複雑な現象もありますが、ここでは触れません。


子宮内膜症のBeecham分類

●子宮内膜症の診断は、開腹手術や腹腔鏡検査により直視下に下すことが原則ですし、このような方法による進行度の分類は、予後や治療法を選択する上で最も有用なものです。病変の部位と程度をスコアー化して、その重症度を判定する場合には、アメリカ不妊学会のrAFS(今は、r-ASMR)分類が、その代表として用いられているわけですが、日常の診療、特に一般病院の診療では、必ずしも、全ての内膜症の患者さんのお腹の中をみて診断するわけにはいきません。そこで、簡便さを目的として、用いられるのがBeecham分類です。

●Beecham博士は、1966年に1度から4度までの進行度分類を報告しましたが、1度が開腹時所見(今では、腹腔鏡所見)に基づいてはいますが、それ以外は、内診所見で分類する方法です。実際の開腹所見あるいは腹腔鏡所見とは所見が食い違う可能性はありますが、日常診療においては、手術療法や薬物療法を考慮する際には、有用であると思います。

Beecham分類1度:子宮や卵管の表面に内膜組織片が付着し、局所で出血を繰り返すことにより、ブルーベリー様の着色を示す状態です。お腹の中を直接観察しなければ、診断がつかない状態です。患者さんが生理痛を訴えますが、内診ではよくわからない状態と考えられます。
Beecham分類2度:ブルーベリー色の病変が硬いしこりを作り、内診で、しこりを触れたり、圧痛があります。超音波等でも、画像上は所見がはっきりしません。骨盤内の他の臓器とは癒着を形成していません。この頃までに、適切な治療を受けることが理想ですが、なかなか、患者さんの理解も得られにくいので、難しいと思います。
Beecham分類3度:骨盤内の卵巣や子宮といった臓器の癒着ひどくなり、卵巣も腫大しますので、画像上も明らかとなります。子宮も癒着して、動きが悪くなります。この状態となると、保存手術(子宮や卵巣の機能を残した手術)が考慮されるべきです。
Beecham分類4度:腫れ上がった卵巣が破れ、なかから、古い血液(チョコレート状)が漏れ出るほか、他の臓器とも癒着し骨盤の中が一塊りとなり(frozen pelvis:凍結骨盤と呼ばれますが)、内診では、個々の臓器の区別が困難となります。ここまで、進行すると、根治手術(子宮や卵巣を摘出する)が必要となることが多いと思います。この状態まで進むと、生理痛が軽減するような方もみられますので、病気が治ったと自己判断しないように、注意が必要です。

子宮腺筋症について

●以前は、子宮筋層内に発生するという意味で内性内膜症といわれていましたが、現在では、子宮内膜症とは発生年齢や臨床症状が異なる点から、別途に取り扱われるようになり、子宮腺筋症といわれます。発生メカニズムの詳細は明かではありませんが、元々、子宮内腔を覆う子宮内膜組織が、今のところ明かではない機序により、子宮筋層内に侵入し、筋層の中で増殖して病変を作ります。月経時には、そのような病変でも出血が起こりますので、小さな出血点が筋層内に多数みられます。

●子宮腺筋症は、見かけ上は子宮が大きくなり、貧血等の症状も似ていることから、以前は、子宮筋腫と混同されていることが多かったと思います。しかしながら今は、経腟超音波断層法の進歩、MRI解像度の向上、腫瘍マーカーであるCA125が高い、月経困難症が筋腫よりは強い等の理由で、実際は、子宮筋腫との鑑別は容易です。この鑑別は、エコー所見やMRI所見により比較的容易に行えるようになってきていますが、子宮全摘術の場合よりは筋腫核出術の際により重要です。とういうのも、腺筋症においては、子宮筋腫のように正常部分との境界が明らかではありませんので、病巣を除去するとともに、正常子宮の形を残すという点で、かなりの無理が出てきます。従って、将来、妊娠を希望する方の腺筋症の病巣除去は、妊娠時の子宮破裂等の問題もあり、慎重に対処する必要があると思います。