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三省堂 「新歳時記」 虚子編から
季語の資料として引用しています。

九月の季語

九月(くぐわつ)

大気はすっかり澄んで爽涼を覚え、
野には秋草が咲き乱れ、
夜空には名月が上り、
いろいろの虫が鳴き、
秋正に旺んなる月である。
「繪歴の九月に入りし茶の間かな」しげ子

仲秋(ちゆうしう)
仲秋は三秋の中の月、陰暦の八月のことをいつたもの
であるけれども、陰暦を多く用ゐなくなつた今日では、
初秋が秋の初頃の意味に用ゐられるやうに、仲秋は秋
の中頃の季節と解していいであらう。
「仲秋や花園のものみな高し」青邨
「仲秋や忽ち曇る須磨の浦」躑躅
「仲秋や月にそむきて人去りし」沼蘋女
「仲秋をつつむ一句の主かな」虚子

二百十日(にひやくとをか)
9月1・2日の前後は気候の変わり目で、暴風雨が襲来す
ることが多い。立春から二百十日目に当たるので かう呼
ばれている。丁度稲の花期で、農家では特にこの日を警戒
する。二百二十日は二百十日から十日目で二百十日と同様、
南洋方面から台風が 恐れられる。農家ではこの両日を厄
日(やくび)としている。
「飛んで居る二百十日の蜻蛉かな」孤舟
「そこばくの畠物に二百十日かな」禾人
「鶏頭に二百十日の降るばかり」草秋
「裾長に二百十日の小百姓」同
「窓下の萩の嵐も厄日かな」柳浦
「帆襖や二百十日の沖つ凪」晩羊原
「荒海や二百十日も楫枕」甲祭
「荒れもせで二百十日のお百姓」虚子
広辞苑から。
にひゃく‐とおか【二百十日】‥トヲ‥
立春から数えて二一○日目。九月一日ころ。ちょうど中稲
(ナカテ)の開花期で、台風襲来の時期にあたるから、農家では
厄日として警戒する。季・秋。
そこで一句。
「おわら節二百十日の風の盆」よっち

颱風(たいふう)
八・九月、殊に二百十日・二百二十日前後には暴風雨
の襲来することが最も多い。フィリッピンの東方、マ
リアナ群島及びカロリン群島付近に発生する低気圧が、
秒速二十米、時によると五十米くらゐの颱風となつて
本邦に押寄せて来るのである。被害はたゞに農作物ば
かりでない。船舶を翻弄し、家屋を倒潰することも珍
しいことばかりでない。
「颱風や船員やめて小一年」きゆう
「颱風もそれたるらしや夕蜻蛉」同
「颱風や蟲の鳴きゐる石炭庫」一杉
「颱風に遭ひたる船のつきにけり」楠窓
「颱風や静けきものに金魚玉」夜情
「颱風の持てゆきし塀原つぱに」鯨洋
「颱風に吹きもまれつゝ橡は橡」風生
「颱風の名残の驟雨あまたゝび」虚子
広辞苑から。
たい‐ふう【台風・颱風】
(古くは暴風の意。中国語起源説・アラビア語起源説・
ギリシア語起源説があるが未詳) 北緯五〜二○度の西
太平洋上に発生してアジア大陸・フィリピン・日本列
島などに襲来する最大風速毎秒一七・二メートル以上の熱
帯低気圧。一七・二メートル未満のものは弱い熱帯低気圧
と呼ぶ。多くは盛夏から九月末にかけて襲来し、暴風
雨を伴い、往々海難・風水害を起す。タイフーン。
季・秋
そこで一句。
「台風や停電暗し南無阿弥陀」よっち

野分(のわき)
 秋の疾風を昔から野分と称している。
野も草も吹きわける風といふ意味である。
秋草の野を吹き回り、垣根等を倒した
野分後のありさまも哀れにもまた興味が深い。
野わけ。
吹飛ばす石は浅間の野分かな」芭蕉
「船頭の棹とられたる野分かな」蕪村
「塀こけて家あらはなる野分かな」子規
「雨やんで日の当り来し野分かな」立子
「鶏の空時つくる野分かな」虚子

三日月(みかづき)

陰暦八月三日の月をいふ。
夕空に三日月のちらとかかるのをみるのは楽しい。
新月(しんげつ)は三日月のことであるが、
その後、日が暮れてから僅かの間、 初めて西の空に現れそむる初月、
即ち二・三・四日の月をいふ場合もある。
天文学上ではその月を新月といふので、 地上からは見えない。
「三日月を見よといふなり蝦夷の旅」虚子

秋の夜(あきのよ)
秋になれば夜は段々長くなり、月は澄み、虫が鳴く。
秋の宵(よい)は秋の夜の未だ浅い間をいふのである。
「住む方の秋の夜遠き火影かな」蕪村
「軒に寝る人追声や夜半の秋」同
「庵主の秋の夜語なつかしや」句一歩
「秋の夜や蒲団をしきに男来る」虚子
広辞苑から。
あき‐の‐よ【秋の夜】
@秋の季節の夜。多く、夜の長いことを意味する。季・秋
A端唄・うた沢・小唄の曲名。恋人を待つ女心を秋の夜の月によせて表現。
「秋の夜のキー叩く音チャットかな」よっち

夜長(よなが)
九月にもなれば、めつきリ夜が長くなつたことが感
じられる。実際は冬の方が夜が長いのであるけれど
も、夜長を感ずることは秋が強いので、秋の季にな
つてゐるのである。長き夜。
「山鳥の枝踏かゆる夜長かな」蕪村
「長き夜を我に向うや屏風の絵」成美
<田中>
「一の湯へ灯貰ひに行く夜長かな」一茶
「長き夜や障子の外をともし行く」子規
「小提灯夜長の門を出でにけり」虚子

夜なべ
秋は日が短くなるので、自然夜の仕事が多くなる。
農家では取入れが近づくと、月夜などには庭に出て
夜なべにはげみ、又灯下に冬衣や蒲団の手入れ等を
する。夜仕事。
「夜なべの灯かたむけて見る時計かな」古鐘
「針に糸さして貰うて夜なべかな」澄水子
「夜なべする妻を不憫と思ひ病む」紅葉子
「眠りこけつつ尚止めぬ夜なべかな」虚子

秋草(あきくさ)
秋の野や園を彩る色々の草花である。名もない千草
も、秋となればとりどりの花をつける。秋の草。色
草。千草。
「秋草の思ひ思ひに淋しいぞ」はじめ
「秋草に干して色なき蚊帳かな」瓦全
「秋草や畳替して百花園」水竹居
「四阿の日焼けし茣蓙や秋の草」風生
「秋草をもたらし塞ぐ灯下かな」草田男
<死戀>
「秋草の名もなきをわが墓に植ゑよ」虚子
広辞苑から。
あき‐くさ【秋草】
秋に花が咲く草本の総称。季・秋

七草(ななくさ)

萩・尾花・葛の花・撫子・女郎花・藤袴・桔梗が今
普通にいふ秋の七草である。昔は桔梗の代りに朝貌
之花といふのがあつたが、それは異説があつてよく
わからない。秋の千草を代表するものである。春に
も七草というのがある。
「駕籠にそゆる秋七草とその他かな」秀好
「子の摘める秋七草の葉短か」立子
広辞苑から。
あき‐の‐ななくさ【秋の七草】
秋の野に咲く代表的な七種の草で、萩・薄(ススキ)(尾
花)・葛(クズ)・撫子(ナデシコ)・女郎花(オミナエシ)・藤袴
(フジバカマ)・桔梗(キキヨウ)の称。万葉集では桔梗のかわ
りに朝顔を入れるが、この朝顔も桔梗のこと。季・秋。
そこで一句。
「デジカメに秋七草や帰り道」

芒(すすき)
野原到るところに生える。人間の背よりもつと高くなる
のもある。長い鋭い葉をつける。その穂を尾花ともいふ。
一寸の風にもゆらゆらと動き、夜目にもぼんやりと見え
る。秋風に吹きなびくところに風情がある。野分などに
もまれる時は凄壮ともいへる。山間の田畦にはよくこれ
を密植して、稲の風害に備へた所がある。薄(すすき)。
鬼芒。糸芒。ますほの芒。一叢芒(ひとむらすすき)。
一本芒(ひともとすすき)。花芒。芒散る。尾花散る。
芒野。芒原。
 <つくしよりかへりけるにひみといふ山ににて
 卯七に別て>
「君がてもまじる成べしはな薄」去来
「押分けて見れば水ある芒かな」北枝
「山は暮れて野は黄昏の芒かな」蕪村
 <鬼貫五十年懐舊>
「淋しさの年々高し花芒」几菫
「穂に出て山田に交る薄かな」二貞
 <秋江晩望>
「松芒その外のもの無かりけり」成美
「釣人のわめいて通る芒かな」梅室
「実方の芒は刈らず村の者」子規
「一面に尾花なびける野を急ぐ」あふひ
「子の持てる薄はなはだ太かりし」立子
「松山を薄の上に見下しぬ」虚子
広辞苑から。
すすき【薄・芒】
@むらがって生える草の総称。万七「妹等がりわが行く道
のしの―」
Aイネ科の多年草。土手・荒地などにしばしば大群落を作
る。毎年、宿根から新芽を生じ、高さ二メートルに達する。葉
は線状でとがる。秋、茎頭に大きい花穂をつけ十数枝を中
軸から出し、黄褐色を呈する。小穂の下部に白毛があり絹
糸状をなす。「尾花」と称し、秋の七草の一。茎葉は屋根
を葺くのに用いる。シマススキなど、観賞用の園芸品種も
ある。袖振草。季・秋。
万一○「さ男鹿の入野の―初尾花」
そこで一句。
「金田一温泉どこに枯尾花」よっち

桔梗(ききやう)
昔朝貌といつたのは桔梗のことであらうともいふの
で今は秋の七草の一とされてゐる、鐘状・五裂・紫
碧色の美花であるが、園養が盛んになつてから白色・
紫白色・二重咲なども多く見られるやうになつた。
きちかう。
「雨寒や石にもたれて桔梗咲く」みさ子
「みちのくの雨そゝぎゐる桔梗かな」秋櫻子
「こち向いてぽかりぽかりと桔梗かな」青邨
「山荘の霧にぬれたる桔梗かな」椎花
「桔梗の霧きびきびとありにけり」茅舎
「噴煙の凄まじきかな花桔梗」野菊
「桔梗は手折りて重き花なりし」月士
「桔梗をさちのはなとし職はげみ」曉水
「桔梗の紫さめし思ひかな」虚子
広辞苑から。
き‐きょう【桔梗】‥キヤウ
キキョウ科の多年草。茎は約一メートル。夏秋の頃、茎の
先端に五裂の青紫色または白色の美しい鐘形花を開く。
果実は〓果(サクカ)。山地・草原に自生し、秋の七草の一。
根は牛蒡(ゴボウ)状で太く、乾したものを生薬の桔梗根
とよび、去痰・鎮咳薬。古名、おかととき。きちこう。
季・秋。源手習「女郎花・―など、咲き始めたるに」
そこで一句。
「一年の前の瓦礫や桔梗咲く」よっち

女郎花(をみなへし)

秋の七草の一。小さい黄色の花が傘のやうにかたま
つて咲く。蕾のうちは粟粒のやうで、もつと黄色が
深い。「女郎花は、美人草・姫ゆりのなつかしさに
も超えてたはれたるかたにもいひなした、云々」と
「山之井」に見える。をみなめし。
「ひよろひよろと猶露けしや女郎花」芭蕉
「牛に乗る嫁御(よめご)落すな女郎花」其角
「兎角して一把に折りぬ女郎花」蕪村
「女郎花の中に休らふ峠かな」虚子

藤袴(ふぢばかま)

秋の七草の一で、主に庭園に栽培されるが河畔等に
も生える。三・四尺くらゐになつて、淡紫色の花を
つける。葉は通常三裂してゐる。乾かすと香りがよ
い。大和本草には「真蘭、和名藤袴、又あららぎと
いふ。古歌にらにとよめり」とある。蘭草(らんさ
う)。
「むらさきのひともと咲く藤袴」てい子
「押しそへてよしと思ひぬ藤袴」美恵女
「藤袴手に満ちたれど友来ずも」多佳女
「藤袴吾亦紅など名にめでて」虚子

葛の花(くずのはな)
豆かであるから花も豆の花に似てゐる。紫赤色で五・
六寸の穂をなして咲くが、葉が大きく繁るのでその蔭
に隠されがちである。
「雨晴や煙のこもる葛の花」嵐竹
「葛の花水に引ずる嵐かな」一茶
「山中は積置柴に葛の花」古泉
「玉葛の花ともいはず刈り干しぬ」鳴雪
「湯気立てゝ廻る水車や葛の花」灯雨
「花葛にこまごまと居て蝶黄なり」せん女
「花葛やおのが葉風に散りそめし」晩紅里
「奥つ瀬のこだまかよふや葛の花」秋櫻子
「今落ちしばかりの葛は紅きかな」立子
「むづかしき禅門出れば葛の花」虚子
広辞苑から。
くず【葛】
(奈良県国栖クズの地名に因むという)
マメ科の大形蔓性の多年草。山野に多く、蔓の長さは
一○メートル以上にも達する。葉は三小葉の複葉で大きく、
裏面は白っぽい。秋、葉腋に花穂をつけ、紫紅色の蝶
形花を総状に咲かせ、花後、ひらたい莢(サヤ)を生じる。
根は肥大し、生薬の葛根(カツコン)として解熱薬に用い、
また、葛粉を採る。蔓の繊維をとって葛布(クズフ)を織
り、また蔓で行李などをつくる。秋の七草の一。くず
かずら。「葛」「葛の花」「葛の葉」は季・秋。万
一四「箱根の山に延ふ―の」
そこで一句。
「縄文の遺跡の跡や葛の花」よっち

萩(はぎ)

古来、七草の冠頭におかれているが、やかましくいふと草
ではないであらう。紅紫色の花は可憐である。異名も多く
種類も多い。山萩。野萩。白萩。小萩。眞萩。萩散る。こ
ぼれ萩。乱れ萩。萩原。萩の戸。萩の宿。萩の主。萩見。
「一つ家に遊女も寝たり萩と月」芭蕉
「しら露もこぼさぬ萩のうねりかな」同
「浪の間や小貝に交る萩の塵」同
「ほろほろと秋風こぼす萩がもと」召波
「枝に葉に花の付たり雨の萩」闌更
「捨石に花うつ萩の夕かな」同
 <清女が簾かゝげたるそれは雲の上の御事これは
  根岸の隅のあばらやに親一人子二人の侘生活>
「いもうとが日覆をまくる萩の月」子規
「灯さぬ灯篭萩に沈みあり」耕雪
「荒壁のまゝの茶席や萩の風」同
「拡がりし萩紅白や留守の邸」野鳥
「白萩のはやくも過ぎし萩の花」草亡川
「雨風や最も萩をいたましむ」虚子
広辞苑から。
はぎ【萩・芽子】
@マメ科ハギ属の小低木の総称。高さ約一・五メートルに達し、
叢生。枝を垂れるものもある。葉は複葉。夏から秋、多数
総状に紅紫色または白色の蝶形花をつけ、のち莢(サヤ)を結
ぶ。種類が多い。観賞用、また、家畜の飼料。普通にはヤ
マハギ・ミヤギノハギを指す。秋の七草の一。胡枝花。
季・秋。万一五「秋の野をにほはす―は咲けれども」
A襲(カサネ)の色目。表は蘇芳(スオウ)、裏は青。秋に用いる。
B紋所の名。ハギの葉・花・枝にかたどったもの。
そこで一句。
「一陣の風舞いたるや萩の花」よっち

露(つゆ)
露は秋季に最も多いので単に露といへば秋になってゐ
る。晴天の夜が多く、夕方、稲の葉や笹の葉等に置く
露は大きくなりつつ葉末の方へ登っていく。露は草木
や虫類にとっては生命の糧である。露の袖といったり、
露の世・露の身などといふのは、涙や人生のはかなさ
などをたとへたものである。白露、朝露、夕露、夜露、
露の玉、露消し、露しぐれ、露葎(つゆむぐら)、露
の秋。
「野の露によごれし足を洗ひけり」杉風
「大比叡や運ぶ野菜の露しげし」野童
「帆柱に横たふ露や星明り」除風
「旅人の火を打こぼす秋の露」蕪村
「白露や猟夫(さつを)の胸毛ぬるゝほど」同
「白露や茨の刺に一つづゝ」同
<由井の濱づたひして>
「朝露や浪やはらかに磯の露」太祗
「露けしや朝草喰ふた馬の鼻」召波
「狩入て露打払う靱かな」同
「今貸した提灯の灯や草の露」几菫
「家は皆露の中にて打つ火かな」成美
<草庵>
「客人の草履に置く門の露」一茶
<さと女夭折>
「露の世は露の世ながらさりながら」同
<病臥一年有半、露泣老遂に逝く>
「露の秋十萬億土結構かや」月尚
「もの言ひて露けき夜と覚えたり」虚子
広辞苑から。
つゆ【露】
1[名]
@空気が冷えて露点以下に達し、大気中の水蒸気が地物
の表面に凝結した水滴。季・秋。万二「―こそば朝に
置きて夕には消ゆと言へ」。「―にぬれる」
A涙にたとえていう語。伊勢「わが袖は草の庵にあらね
ども暮るれば―の宿りなりけり」
Bわずかなこと。源帚木「―にても心に違ふ事はなくも
がな」。「―の間(マ)」
Cはかなく消えやすいこと。「―のいのち」
D紐などの垂れた先端の称。
@水干・狩衣(カリギヌ)などの袖ぐくりの緒の垂れた端。
A帳(トバリ)・几帳(キチヨウ)などの上差(ウワザシ)の緒やのれん
の乳(チ)のあまりの両端に垂れた部分。
B巻物や掛軸の留め紐の先端。また、そこにつける装飾
的な金具。
C太刀の冑金(カブトガネ)の眼(メ)から下げる腕貫(ウデヌキ)
の緒の先端につける金物。
D茶杓の名所(ナドコロ)。その先端をいう。
E豆板銀(マメイタギン)のこと。つゆがね。一代男一「前巾着
に細かなる―を盗み溜めて」
2[副](下に打消の語を伴って) 少しも。まったく。今
昔一「家貧しくて―供養し奉るべき物なし」。「そうと
は―知らず」
そこで一句。
「アスファルトの雑草にも朝の露」よっち

蟲(むし)
秋鳴く蟲を総称していふ。蟲の音は秋のあはれを象徴す
る自然の楽音である。野によく籠によく、月によく露に
よい。蟲合せは蟲の鳴き声を相競はしむること。蟲時雨
は蟲の音が繁くて時雨るゝ音のやうなのにいふ。蟲の音。
蟲の声。蟲籠。蟲の秋。
「行水の捨所なき蟲の声」鬼貫
「行水も日まぜになりぬ蟲の声」来山
「蟲の音や夜更てしずむ石の中」園女
「蟲の音に挟まれて行く山路かな」風國
「蟲啼や河内通ひの小提灯」蕪村
「立出でて鎖せばあとは蟲の声」暁臺
「更る夜や草を離るゝ蟲の声」桐雨
「しめし障子にその人影や蟲の声」満天星
「昼の蟲しらじらしくもなきにけり」草城
「幽かにも鳴く蟲ありぬ暴風雨」蜈橋
「蟲一つ浴衣の客に鳴きそめし」花蓑
「雨音のかむさりにけり蟲の宿」たかし
「逢はで発つ義理や乳母知る蟲時雨」雉子郎
「其中に金鈴をふる蟲一つ」虚子
広辞苑から。
むし【虫】
@本草(ホンゾウ)学で、人類・獣類・鳥類・魚介以外の小動物
の総称。昆虫など。万三「来む生(ヨ)には―に鳥にもわれは
なりなむ」
Aその鳴き声を愛して聞く昆虫。鈴虫・松虫など。季・秋。
「―の声」
B蠕形(ゼンケイ)動物の称。特に回虫(カイチユウ)。
C回虫などによって起ると考えられていた腹痛など。虫気
(ムシケ)。癇の俗称。狂、煎じ物「―の薬も加へ加へて煎じた
る煎じ物」
D潜在する意識。ある考えや感情を起すもとになるもの。
古くは心の中に考えや感情をひき起す虫がいると考えてい
た。「ふさぎの―」
E癇癪(カンシヤク)。浮世風呂二「わつちも―を持つてる人間だ
から」
F愛人。情夫。隠し男。
G産気づいて起る陣痛。
H
@あることに熱中する人。「本の―」
Aちょっとした事にもすぐにそうなる人、あるいは、そう
した性質の人をあざけっていう語。「弱―」「泣―」
そこで一句。
「蟲の音や我が身にすがる捨子猫」よっち

鈴虫(すずむし)
りーんりーんと鳴き、色も形も西瓜の種子に酷似して
ゐる。松虫より一寸小さい。昔は「まつ虫」とよばれた。
「鈴虫や羽根もをさめず次の声」不蜚
「鈴虫は鳴きやすむなり虫時雨」たかし
「鈴虫の鳴く叢のニ三人」晴子

蟋蟀(こほろぎ)

昔からすつかり「きりぎりす」と混同されてしまつてゐる。
「えんまこほろぎ」はコロコロリンリンと鳴き、「つゞれ
させ」はリーリー リーリーと鳴き、「みつかどこほろぎ」
はリリ・・・・・・リリと鳴き、「おかめこほろぎ」はリ
リリリッリリリリッと鳴く。ちちろ虫。つづれさせ。
「蟋蟀が髭をかつぎて鳴きにけり」一茶
「こほろぎや水の浸りし百花園」水竹居
「ほそぼそと啼きはじめしはつゞれさせ」羽公
「ちゝろ蟲二つと思ふ一つとも」煤六
「西風の土間の隅よりつゞれさせ」文城
「子を負へば父もねむたしちゝろ虫」兎徑子
「楽しさはふえし蔵書にちちろ蟲」秋櫻子
「住みかはる窓の灯色やちゝろ蟲」爽雨
「太き竃寒蛩(こほろぎ)ないて用ゐざる」虚子
広辞苑から。
こおろぎ【蟋蟀】コホロギ
@バッタ目コオロギ科の昆虫の総称。体長は二センチメートル内外。
楕円形で、全体黒褐色。触角は体より長く、二対の翅と尾
端に一対の尾毛を持つ。後肢は長く、跳ねるのに適する。
草地などに多く、物の陰にかくれ、雄は夏から秋にかけて
鳴く。大形のエンマコオロギを始め種類が多い。作物の芽
をかじるので有害。いとど。ちちろむし。古名きりぎりす。
季・秋
A古くは、秋鳴く虫の総称。万一○「わが宿の浅茅がもと
に―鳴くも」
そこで一句。
「ちゝろ蟲今日の雨にも鳴きにけり」よっち

蟷螂(たうらう)
前肢を鎌とも斧とも見立てられてゐるが、如何なる
大敵にもこれをかざして敢えて辞せない。交尾しな
がら雌は平気で雄を食ふことがある。時々拝むやう
な真似をする。緑色のも褐色のもゐる。かまきり、
いぼむしり。
「風の薄蟷螂何を顧る」霜蹟
「蟷螂の蟷螂を食ふあぎとかな」木水
「蟷螂に負けて吼立つ小犬かな」鬼城
「いぼむしり狐の如く振りむける」剣々子
「かまきりのすがれる草もあらしかな」みよし
「草むらや蟷螂蝶を捕へたり」虚子

放屁虫(へひりむし)

危難を知ればすぐガスを出す。皮膚につくと、赤黄
色のしみが出来てなかなか落ちない。黄色をした七・
八分の虫である。
「放屁虫二匹にそ見え朝日影」青畝
「蟻の穴いちいちのぞき放屁虫」巴泉
「放屁虫あとしざりにも歩むかな」素十
「放屁虫俗論黨をにくみけり」虚子

蓑虫(みのむし)
 昔から蓑虫鳴くとして季題とした。
秋夜「父恋ひし」と鳴くといふ説からである。
枕草子にも「八月ばかりになれば、 ちちよちちよとはかなげに鳴く、
いみじくもあはれなり」 とある。
大概、枝からぶら下がって危なげにゆれている。
「蓑虫の父よと鳴きて母もなし」虚子

月(つき)

月雪花などいつて、月は自然界で最も世人に耽美せられ
るものの一つである。殊に秋は四季の中で一番さやけく
清いために、「月」といへば秋の月をいふのである。月
白(つきしろ)は月が出ようとして空の明るくなるのを
いふ。月の秋。月夜。月の出。月明。月の道。遅月。弓
張月。宿の月。庵の月(いほのつき)。閨の月(ねやの
つき)。夜夜の月。
「馬に寝て残夢月遠し庵の月」芭蕉
<元禄二年つるがの港に月を見て気比の明神に詣
 遊行上人の古例をききて>
「月清し遊行のもてる砂の上」同
「馬の子の濱かけ廻る月夜かな」去来
「庵の月主をとへば芋掘に」蕪村
「煤臭き畳も月の夜なりけり」一茶
「藍色の海の上なり須磨の月」子規
「雲去れば月の歩みのゆるみつつ」たかし
「へなへなと光れる月や硝子越」立子
「ふるさとの月の港をよぎるかな」虚子
広辞苑から。
つき【月】
地球の衛星。半径一七三八キロメートル。質量は地球の約八一
分の一。大気は存在しない。自転しつつ約一ヵ月で地球を
一周し、自転と公転の周期がほぼ等しいので常に一定の半
面だけを地球に向けている。太陽に対する位置の関係によ
って新月・上弦・満月・下弦の位相現象を生ずる。わが国
では古来「花鳥風月」「雪月花」などと、自然を代表する
ものの一つとされ、特に秋の月を賞美する。太陰。つく。
つくよ。月輪。季・秋。万一「熟田津(ニキタツ)に船乗りせ
むと―待てば」。古今秋「―見ればちぢに物こそ悲しけれ」
A衛星。「木星の―」
B月の光。万七「春日山おして照らせるこの―は妹が庭に
も清(サヤ)けかりけり」
C暦の上で一年を一二に区分した一。それぞれ各種の名称
をもって呼ぶ。太陽暦では一・三・五・七・八・一○・一
二の各月を三一日とし、他は三○日、二月のみを平年二八
日、閏年二九日とする。太陰暦では二九日または三○日を
一月とする。
D一ヵ月の称。源松風「―に二度ばかりの御契りなめり」。
「―払い」
E月経。記中「おすひの裾に―たちにけり」
F紋所の名。月の形を描いたもの。
G香の名。
H近世、大坂新町で、揚げ銭一匁の端女郎。がち。
そこで一句。
「拉致されし異国の空や秋の月」よっち

待宵(まつよひ)
陰暦八月十四日の夜をいふ。明日の名月を待つ宵と
の意である。待宵といふのは十六夜(いさよい)の
場合に於けるのと同じやうに、多分に其夜の月をも
意味する。句に依つて月をいふ場合もあり夜をいふ
場合もある。小望月(こもちづき)は十五日の望月
に尚満たぬ望月である。
「待宵や女あるじに女客」蕪村
「待宵や暮るるに早き家の奥」太祗
「待宵やところどころに女郎花」蓼太
「待つ宵をたゞ漕行くや伏見舟」几菫
「待宵や妻も水仕を早仕舞」樂南
「待宵の雲うすうすと流れ居り」水士英
広辞苑から。
まつ‐よい【待宵】‥ヨヒ
@訪れて来るはずの人を待っている宵。新古今恋
「―にふけゆく鐘の声きけばあかぬ別れの鳥は物
かは」
A(翌日の十五夜を待つ意から) 陰暦八月一四日の夜。
季・H。一代男一「十三夜の月、―、名月」
そこで一句。
<新発田の菊水ふなぐちを買いに走る>
「待宵や故郷の酒買いに行く」よっち
昨日の月で一句。

名月(めいげつ)
陰暦八月一五日、中秋の月をいふのである。三秋の
月の中でもこの夜が一番明澄である上に、恰も秋の
真中で、秋草は咲き乱れ、露置き、虫啼き、 気候亦
快適で、四辺の風物が更に月を清く風情あらしむる
もののやうである。各戸では月に供物して祀る。一
五夜は陰暦八月一五日の夜のことであるけれど、其
の夜の月として句にする場合が多い。明月。望月。
満月。今日の月。 月今宵(つきこよい)。芋名月
(いもめいげつ)。
「名月や門へさしくる潮頭」芭蕉
「名月や児たち並ぶ堂の縁」同
「三井寺の門叩かばや今日の月」同
「名月や畳の上に松の影」其角
「木母寺に歌の会あり今日の月」同
「早雲寺名月の雲早きなり」嵐雪
「名月や縁とりまはす黍の虚」去来
「名月や処は寺の茶の木はら」昌房
「望汐の橋の低さよ今日の月」利牛
「ふたつあらばいさかひやせん今日の月」智月
「名月や夜は人住まぬ峰の茶屋」蕪村
「花守は野守に劣る今日の月」同
「名月や君かねてより寝ぬ病」太祗
「名月や船なき磯の岩伝ひ」同
「名月や高観音の御膝元」一茶
「名月を取ってくれろと泣く子かな」同
「名月や八重山吹の帰り道」同
「名月も御覧の通り屑家かな」同
「名月や臺上の人登れといふ」虚子
そこで一句。
「名月や猫が傍で欠伸する」よっち

無月(むげつ)
陰暦八月十五日の夜、雲が畳んで中秋の名月に接す
ることが出来ないことである。雨が降つた場合は「
雨月」といふ題が別にあるけれども、無月といへば
雨月をも含んだ広い意味になるのである。
「はし借りて腰をかけてゐる無月かな」青畝
「ガラス越し雨がとびつく無月かな」 〃
「亭を出て無月の空を仰ぎけり」霞村
「霧雨の又襲い来し無月かな」春来
「灯の明き無月の庵かな」虚子

雨月(うげつ)
名月が雨にために全く見られないのをいふ。
「ふりかねてこよひになりぬ月の雨」尚白
「雨の月どこともなしの薄明り」越人
「古樋の走り洩りして雨月かな」櫻城
「女傘さして出でたる雨月かな」霞村

芋(いも)
里芋を普通単に芋といふ。甘藷や馬鈴薯などと違つて随
分古くから栽培されてゐるので、いもの名を独占したも
のであらう。色々種類も多い。葉は何れも楯の如く濶大
である。秋堀りとつて蔵ふ。多く煮て食べる。葉柄もず
ゐきといつて、乾したりそのまゝゆでたりして食べる。
八頭。親芋。子芋。芋の秋。芋の露。芋畑。芋掘り。
「浦風に蟹も来にけり芋畠」太祗
「諭されて醜女娶りぬ芋の秋」武子
「一口のさそはれ講や芋の秋」砂村
「奇無き句の太(はなは)だ芋に適ひけり」へき生
「送らる茎高まりつ芋の風」桃孫
「芋の葉の相うつや人歩み出て」水陽
「芋の闇提灯貸して別れけり」彩虹
「我土に天下の芋を作りけり」虚子
広辞苑から。
いも【芋・藷・薯】
@サトイモ・ツクネイモ・ヤマノイモ・ジャガイモ・サ
ツマイモなどの総称。季・秋。
武烈紀(図書寮本)永治頃点「使掘薯預イモホラシム」
A植物の地下茎または根の発達したもの。

霧(きり)
昔は霧も霞も区別がなかつたやうであるが、今では春は
霞、秋は霧と定まつた。「霞は朝うすく夕に深し。霧は
朝深く夕にうすし」といふ古諺がある。朝霧。夕霧。夜
霧。海の霧。川霧。海霧(がす)。さ霧。霧雨(きりさ
め)。
「帆柱の並ぶや霧の向ひ島」北枝
「霧雨や貴船の神子と一咄し」曲翠
「霧ながら大きな町へ出にけり」移竹
「霧晴れて高砂の町まのあたり」蕪村
「朝霧や杭ゼ打音丁々たり」同
「霧立て遠里小野となりにけり」召波
「傘さして霧分け行や山法師」闌更
「秋霧に河原撫子見ゆるかな」一茶
「一藪は別の夕霧かかるなり」同
「薄霧の引からまりし垣根かな」同
「土塊を放るゝ霧や耕しぬ」桐家
「のぼる霧くだる霧あり谷向ひ」泊月
「自動車の止まりて灯消す夜霧かな」立子
「山間の霧の小村に人と成る」虚子
広辞苑から。
きり【霧】
@地面や海面に接した気層中で水蒸気が凝結し、無数の
微小な水滴となって大気中に浮遊し、煙のように見える
もの。古くは春秋ともに霞(カスミ)とも霧ともいったが、平
安以降、春立つのを霞、秋立つのを霧と呼び分ける。
季・秋。万五「春の野に―立ち渡り」。「―がかかる」
A人の吐く息。万一五「わぎもこが嘆きの―に飽かまし
ものを」

蜻蛉(とんぼ)
非常に種類が多い。真直ぐに進んできて、急に角を
つけて曲つたりして飛ぶ。恐ろしく大きな眼を持つ
てゐるが、子供達によく捕へられる。秋晴の天地を
どんなに賑やかにしてくれるかしれない。とんぼう。
あきつ。やんま。赤蜻蛉。精霊蜻蛉。とんぼつり。
「蜻蛉や村なつかしき壁の色」蕪村
「白壁に蜻蛉過ぐる日影かな」召波
「秋の季の赤蜻蛉に定まりぬ」白雄
「蜻蛉のつゝとぬけたる廊下かな」斜嶺
「流れ竿追うて離れて蜻蛉かな」雉子郎
「踏めばゆるぐ埋地の土や赤蜻蛉」瓦全
「翅摘まれながら蜘蛛噛む蜻蛉かな」柿巷
「千種に影落しとぶ蜻蛉かな」致格
「一杭にとまらんとして二蜻蛉」途子
「とんぼうや水輪の中に置く水輪」烏頭子
「蜻蛉のさらさら流れ止まらず」虚子
広辞苑から。
とんぼ【蜻蛉】
トンボ目(蜻蛉類)に属する昆虫の総称。体は細長く、
腹部は円筒状。細長い透明な二対の翅は非常に強く
よく飛ぶ。眼は複眼で大きく、触角は小さい。幼虫
は「やご」といい、水中に生活。成虫・幼虫共に他
の昆虫を捕食。ギンヤンマ・アキアカネ・シオカラ
トンボ・カワトンボ・イトトンボ・オハグロトンボ
・ムカシトンボなど。せいれい。かげろう。あきず。
とんぼう。季・秋

秋の蝶(あきのちょう)
秋晴の園・磧・小菜畑・花畑など至るところに秋の
蝶はこまごまと飛んでゐる。
「ながらへて野分にあへる胡蝶かな」鹿卜
「菜畑やこまかくなりし秋の蝶」白貧
「秋の蝶潮に追はれて渚草」寶水
「秋の蝶飛び行く園の広さかな」虚子

秋の蝿(あきのはへ)
うるさい蝿も、秋になるとさすがに気力がうすれる。
「飯盛れば這て来るなり秋の蝿」蓼太
「干繭に足釣られゐぬ秋の蝿」不棲魚
「夜の客に翅ひゞかせて秋の蝿」蛇笏
「頁返すまで書に在りぬ秋の蝿」紫鳥
「宿出でてまだついてくる秋の蝿」貝花
「秋の蝿打てば減りたる淋しさよ」 虚子

秋扇(あきあふぎ)
秋になつて尚ほ用ゐてゐる扇か、若しくは不用にな
つてもしばらくは手近な所にころがつてゐる扇をい
ふ。涼しくなると遂忘れられ勝になり、いつか影を
ひそめてしまふ。扇置く。捨扇。忘れ扇。
「狩衣の袖より捨つる扇かな」蕪村
「覚書して捨られぬ扇かな」也有
「つくづくと絵を見る秋の扇かな」小春
「ひろげ見る忘扇の絵様かな」砧女
「村ゑがく董が忘れし白扇に」虚子

秋彼岸(あきひがん)
大抵九月二十一日・二日に入り、二十七・八日に明ける。
仏事など春の彼岸とあまり変りはない。後の彼岸。
「風もなき秋の彼岸の綿帽子」鬼貫
「秋彼岸雨の御堂のこぼれ銭」綾華
「奥能登はしぐれもよひや秋彼岸」雪女
「秋彼岸にも忌日にも遅れしが」虚子

燕帰る(つばめかへる)
燕は春に来、秋に去る。 いつの間にか来なくなった
巣をのぞいて見ても、 なにも残っていない。
帰る燕。去ぬ燕(いぬつばめ)。 帰燕(きえん)。秋燕。
「わだつみにむれて燕の去ぬ日かな」 章

曼珠沙華(まんじゅさげ)

秋の彼岸頃、花茎だけを一尺くらゐに伸して、真
赤な花を輪状に咲かせる。堤や川岸などに叢がり
咲く。葉を持たぬ花はあまりに妖凄、死人花・幽
霊花・捨子花などと呼ばれたり、狐花・狐の嫁子
などと呼ばれたりされてゐる。毒草でもある。杖
をふれば花は忽ちは摧ける。佛の説教する時分に
曼珠沙華が天から降つて来るなどといふことが御
経にある。彼岸花。
「曼珠沙華に稲被さるや土手の秋」碧堂
「戻路や再び土手の曼珠沙華」玻美
「道すじをなしてさかりや曼珠沙華」草秋
「曼珠沙華どこそこに咲き畦に咲き」左右
「野路晴れて我杖に飛ぶ曼珠沙華」たかし
「曼珠沙華抱くほどとれど母恋し」汀女
「曼珠沙華あらば必ず鞭うたれ」虚子

蜉蝣(かげろう)
昔はとんぼのこともかげろうといった。
蜻蛉より細く、糸のやうに長い尾をもっている。
幼虫は三年間くらい水中に棲んでいるが、
羽化して卵を産むと数時間で死ぬといはれている。
みた感じもひどく弱々しい。
「かげろうの歩けば見ゆる細き髭」 立子

秋刀魚(さんま)
背の青い細長い魚である。九十九里浜など本場であ
る。多くあま塩にする。
「いつまでもいぶれる炭に秋刀魚焼く」刀水

鶏頭(けいとう)

花の色も形も、鶏冠(とさか)ににているといふのでつけた名前である。
妖艶といふよりどこか陰鬱の感じがあつて佛花などによく切られる。
白・黄等その他の変種も多い。
小さい花が無数にむらがり咲いているのであるが、霜が降るはじめる
頃まで枯れない。よく見ると小さい実を一杯持っている。
鶏頭花(けいとうくわ)
「島見えずなりて鶏頭に降り出せし」虚子

秋の海(あきのうみ)
秋天の下の海、秋雨のふる海など、 夏に比べて淋しい。
秋の浪。秋の濱。
「引上ぐる船を追ひうつ秋の波」虚子

鰯(いわし)
九十九里濱や長崎近海は産地として名高い。その他何処
でも産する。漁獲が多いので値はやすいが裂鱠にすると
うまい。肥料にもする。鰮。真鰯。秋鰯。鰯売。
「皿ほのと染めて鰯の火屑かな」雨石
「いづもれて鰯の中の船釣瓶」耿陽
「真白き鰯の山や夕間暮」同
「たらたらと籠にうつせる鰯かな」秋圃
「ばらばらとこぼしはかれる鰯かな」三三
「はつきりと鰯の波の見えて来し」双曹子
「舷を光りこぼるゝ鰯かな」龍王
「鰯不魚千鳥の駆けてゐるばかり」玻美
「海荒れて膳に上るは鰯かな」虚子
広辞苑から。
いわし【鰯・鰮】
(弱シの転か)
マイワシ・ウルメイワシ・カタクチイワシなどの総称。
普通にはマイワシを指す。いずれもニシン科またはカタ
クチイワシ科の海産の硬骨魚で、水面近くを群泳。秋が
旬とされ、目刺・干物・油漬などに加工、また鰯油をと
り、肥料や飼料にも用いる。季・秋。〈新撰字鏡九〉

鰯雲(いわしぐも)
秋空に時として、白い雲が鯖の斑紋の如く、魚鱗の如く、
或いは波の如く現れることがある。
古来、この雲が現れると、鰯の大漁があるといふので
鰯雲と呼ばれた。 そのほか、地方々々によって、
降雨の前兆とも、 台風の前兆とも、いろいろな気持ちで
眺められている。
「鰯雲日和いよいよ定まりぬ」虚子

鯊(はぜ)
鯊はあまり大きくはないが、口が大きく一寸愛嬌のある魚で、
海と川の境くらいの処に多い。 砂礫のやうな斑点を持っている。
わけもなく釣れるので面白がられる。
秋彼岸の中日の鯊は中風の薬になるといふ俗説もある。
ふるせ。鯊の秋。鯊の潮。鯊日和。
「鯊の潮芥たたへて満ちにけり」 虚子

紫苑(しをん)

菊の属で、淡紫色、単弁の花をつける。
多く園養されて、六尺くらいにもなっているのがある。
「ふる雨のいま斜なる紫苑かな」 歌陽

コスモス

植物学上では「おほはるしやぎく」といふ名前を
持つてゐるが、矢張りコスモスの名で呼ばれる方
がふさわしい。葉も細く茎もヒヨロヒヨロと長い。
白色・淡黄・紅紫などいろいろある。花園の花で
あるが、わけなく栽培出来るので、畑のすみでも
垣根でも、路傍でも川原でもみだれ咲く。秋櫻。
「温泉の町にまじる農家や秋櫻」風也
「コスモスの影はつきりと出来し時」松毬路
「コスモスや風に撓みてもれもなし」爽雨
「コスモスに朝の洗濯終りけり」一草
「吹き立ちて花のかたまる秋櫻」夕洋子
「煙突の大きな影や秋櫻」芋銭郎
 <長女早逝>
「コスモスに遊ぶよその子ばかりなり」吐苦老
「コスモスや一人暮しも小一年」俊子
「コスモスの花吹きしなひ立ちもどり」虚子
広辞苑から。
コスモス【kosmos ギリシア・cosmos イギリス】
@秩序。転じて、それ自身のうちに秩序と調和とを
もつ宇宙または世界の意。「ミクロ‐―」 〓カオス。
A〔植〕キク科の一年草。メキシコ原産。高さ約一・
五メートルに達する。葉は線状に細裂。秋、大形の頭花を
開く。色は白・淡紅・深紅など。秋桜。季・秋

露草(つゆくさ)

畑や湿地などに自生する。路地にもよく見かける。
竹の葉に似た葉をつけてニ尺くらゐに伸びるが、大
概地に伏してゐて、頭の方だけ少し擡げて蛾形に花
をつける。藍色である。月影に咲くといふので、月
草とも呼ばれる。ほたる草とかばうし花とか其他異
名が多い。
「つゆくさや飯(いい)ふくまでの門あるき」久女
「露草のをがめる如き蕾かな」たかし
「露草の瑠璃をとばしぬ鎌試し」禅寺洞
「蝶とりし網を伏せおく蛍草」立子
「月草の花に離れてうてなかな」虚子

蕎麦の花(そばのはな)
蕎麦は真紅な根茎、緑の葉の上に、小さいが真白な花を
つけて如何にも美しい。匂ひも高くて遠くまで匂ふ。三
角形の実をつけると花は穢くなる。
「馬の背の高きに登り蕎麦の花」移竹
「黒谷の隣は白し蕎麦の花」蕪村
「道のべや手よりこぼれて蕎麦の花」同
「月出でて明るく暗し蕎麦の花」零餘子
「ほそぼそと起き上がりけり蕎麦の花」鬼城
「僧園の大蕎麦畑咲きにけり」同
「提灯の破れ明りや蕎麦の花」泉水
広辞苑から。
そば【蕎麦】
@(古名「そばむぎ」の略) タデ科の一年生作物。原産地
は東アジア北部とされ、中国・朝鮮から日本に渡来。ソ
連に栽培が多い。多くの品種があり夏ソバ・秋ソバに大別。
茎は赤みを帯び、花は白。収穫までの期間が短く、荒地に
もよく育つ。果実の胚乳で蕎麦粉を製する。「蕎麦の花」
は季・秋。著聞一二「ぬす人は…―を取りてぞはしりさ
りぬる」
A(「そばきり」の略) 蕎麦粉・小麦粉にヤマイモ・卵白
などを入れ、こねて細く線状に切った食品。ゆでて、つゆ
をかけ、またはつゆに浸して食う。

鬼灯(ほほづき)
袋の中に指の頭くらゐn丸い実をならせる。それが
秋になると色がついて赤くなるのである。袋はフワ
フワだが、実は気持よくはり切つてゐる。それに小
さく穴をあけて中から種子を抜き出し、口にふくん
で鳴らすとグーグー鳴る。田舎に行くと、子守女な
どがよくやつてゐるのを見かける。大概庭や畑の隅
などに植ゑてある。酸漿(ほほづき)蟲鬼灯(むし
ほほづき)
「弟子尼の鬼灯植ゑて置にけり」一茶
「鬼灯もぐや茎に応へて皆揺るゝ」燦生
「鬼灯や二百十日の草の中」草秋
「鬼灯はまことしやかに赤らみぬ」虚子

秋茄子(あきなす)
秋生る茄子である。からからになつた茎を引く時分、
一つ二つ小さくしわんだのが付いてゐるのはわびし
い。「秋茄子は嫁に食はすな」といふ俗語がある。
あまりにうないからださうである。「あきなすび」
とも読む。
「秋茄子や肥につられて一盛」非石
「梨買にやれば秋茄子買うて来し」萋子
「おほかたの葉を振りおとし秋茄子」水陽
「秋茄子の笊をかゝへてとぼとぼと」虚子

唐辛(たうがらし)
種類が多くて形も色も様々であるが何れも辛い。普
通のものは秋になると赤くなる。垂れないで上を向
いてゐるところから、天井守(てんじやうまもり)
・天竺守(てんぢくまもり)等の名がある。餘所の
畑からとつて来たものは餘計に辛いといつて、だま
つてもいで来たりする所もある。田舎に行くと、よ
く束にして天井や庇下の壁などにぶら下げてある。
蕃椒(たうがらし)。唐辛子(とうがらし)。
「たうがらしつれなき人にまゐらせん」百池
「皆尻を曲げて色づけ唐辛子」橙黄子
「むきむきに赤とみどりの唐辛子」我鬼
「唐辛子のこりて赤き道のはた」凡秋
「これやこの天井守り辛きこと」田士英
「とり入るゝ夕の色や唐辛子」虚子

玉蜀黍(たうもろこし)
田舎に行くと、畑の縁や家のまはりなどに七・八尺
にも伸びた茎の葉腋に、淡紅色の苞をかぶつて生つ
てをり、その頭から赤紫言色のやうなものを出して
ゐるのを見る。焼いたり、ふかしたりして食べる。
大豆くらゐの実が縦に行儀よく並んだのを、ぐるぐ
る廻しながら噛るのである。唐黍。もろこし。
「唐黍の房も眺や草の宿」白汀
「唐黍の焼けて居るなり二三本」水竹居
「もつてくる玉蜀黍の見えてくる」何蝶
「時化雲のはしる唐黍もぎにけり」風生
「もろこしを焼くひたすらになつてゐし」汀女
「唐黍のもたげる一葉道の上」凡秋
「作男月の唐黍かいて来し」三木
「玉蜀黍の葉をもて二本縛り合ひ」虚子
広辞苑から。
とう‐もろこし【玉蜀黍】タウ‥
(「唐もろこし」の意) イネ科の一年生作物。中南米の
原産とされる。世界各地に栽培され、小麦・稲に次ぎ
食用作物で三位。わが国には一六世紀に渡来。茎は一
〜三メートルで、直立。葉は互生し幅五〜一○センチメートル、長
さ約一メートル。雄花穂は茎頂に、雌花穂は葉腋に付く。
粒は澱粉に富み、食用、工業原料。茎葉は青刈り飼料・
サイレージとし、飼料作物として最も重要。変種にデ
ント・フリント・ポップ・スイートなどがある。トウキ
ビ。ナンバンキビ。トウマメ。コウライ。ツトキビ。マ
キビ。アメリカ名、コーン。英語名、インディアン‐
コーン。季・秋。
そこで一句。
「唐黍を茹でてあるなり里の家」よっち

木犀(もくせい)
仲秋、芳香を持つ白色の花をつける。これが銀木犀
であるが、一種、黄色の花を咲かせる金木犀がある。
観賞用として庭園などに植ゑられる。
「過ぎ行くや木犀匂ふ夜の門」竹の門
「校庭や木犀に寄る女の子」袖浦
「この門の木犀の香に往来かな」素十
「木犀の雨とまをさく降れるかな」てい子
「木犀の香にはたと会う夜道かな」康之
「木犀や家風に馴れて静ごころ」水巴
「木犀の香にたゝずみて行かれけり」惠葉
「木犀や巫女の下り立つ神の庭」奈王
「木犀の香にあけたての障子かな」虚子
広辞苑から。
もく‐せい【木犀】
キンモクセイ・ウスギモクセイ・ギンモクセイなど
の総称。普通、植物分類上はギンモクセイを指す。
季・秋。
そこで一句。
「木犀の香漂う小路奥」よっち

爽やか(さわやか)
秋は気清く、明らけく、快適な季節で爽やかさを覚ゆる。
また空気が乾燥して清澄であるため、何でもはっきりした
感じがする。さやけしといふのである。
「過ちは過ちとして爽やかに」 虚子

冷やか(ひややか)
秋になつて感ずる冷やかさをいふ。石の上に、或は
板間につめたさを感ずるくらゐの冷やかさである。
「冷かや朝夕替ゆる作業服」天雪
「冷かな灯にかがみ書く畳かな」零餘子
「冷やかになりしと思ひ嗽(すすぎ)けり」碧汀
「冷やかや湯治九旬の峰の月」虚子