R E P O R T

チベット式葬儀


人は絶対にいつか死ぬ。

死んだあと、葬儀が行われる。
日本の葬儀は、火葬、アメリカは土葬。ほかには水葬がある。
チベットは、「鳥葬」だ。「天葬」ともよばれる。
どんなイメージを持つだろうか?
そう、そのイメージ通り、鳥が死体を食べる葬儀のことをいう。
日本人から見るとやや残酷にも思えるが、チベットの人々にとっては実に自然なこと。
魂のなくなった肉体を他の生物に布施し、鳥とともに空高く舞い上がり、天に還る。
チベットでは、死後数日が経過すると死体から魂が抜けるといわれている。
魂を呼び戻さないために、死後数日間は死者の名前は口に出してはいけない。
鳥葬はチベットの自然条件にも合っている。チベットは、樹木が乏しく火葬にするための燃料が不足しているし、岩場や凍土も多いので、土葬にも向かないのだ。

鳥葬を公開しているところは、現在1ヶ所。そこまで行くには、車で4時間かかる。
僕とごうさんで鳥葬のツアーを企画することにした。車をチャーターし、定員6名を集めるのである。
3月11日ツアーが決行される日がやってきた。
6名のメンバーは、僕、ごうさん、ラオスのバンビエンで会ったマメ、ラオスのビエンチャンでシェアしていたカメ、美術家の卵しょうくん、しんくん。

朝5時、真っ暗な中出発。
昨晩、雨が降っていたので心配したが、今はやんでいる。
しかし、猛烈に寒い。オンボロのランクルは暖房が効かないようだ。車内は運転手含め7名が乗っているが寒い。足先に鋭い痛みを感じる。ニューバランスのスニーカーでは寒いのは当然だ。

1時間ほど車は舗装路を快調に走る。
雲はさらに厚くなり、雪がちらつき始める。こんな状況で葬儀やるのか?
車が砂利道に突入すると、あたりは雪景色に変わった。
ここらへんは、昨夜雨ではなく雪が降り続いていたようだ。まわりは銀世界。
道なき道をボロランクルは進む。
日の出前の9時ころにようやく山の中腹にある寺が見えてきた。
山道をスタッドレスのランクルは登り始める。
が、すぐに止まった。通常なら寺まで行けるが雪でこれ以上通行ができないようだ。
無理です!この靴で!
なんとか雪はやんだが、10センチは積もっている。
ここまできて、歩かないと見ることができない・・・。
歩くしかないだろ!

すぐに靴はぐちょぐちょになった。指の感覚はない。最悪。
しかも高度は4,300M。歩くだけでしんどいのに登山。雪山をチノパン&スニーカーで。
絶対おかしい!
1時間半かけてやっとやっと寺に到着した。
雪山を歩ききったことで精一杯。鳥葬なんてどうでもよくなってしまいました。
ここで鳥葬の公開料として一人25元を徴収される。
衝撃の言葉が寺の坊さんから発せられる。
葬儀場はさらに上だと言う。
「えーーーーーーーーーーーー」
どうやらここからさらに20分登った山の上にあるようです。
ここがゴールではなく、さらに登山は続くのだ。
さっきより急な山道に変わる。スニーカーは底面に凹凸がないので滑る。ころびまくった。
やっと本当のゴールに到着。次々とむしろにくるまれた死体も運ばれてくる。

葬儀場はフェンスに囲まれていた。敷地内は100×100Mくらいだろう。その中に土俵みたいな円形の処理場がある。
上座に坊さんが座りお経をあげ始めた。
僕らは下座にいるよう指示される。土俵までの距離5M。
天葬師とよばれる人が前掛けをして登場。
はしっこで巨大ナイフ(ナタ)をしゃかしゃか研ぎ始めた。
『ま、まさか・・・。この姿、肉屋とおなじ・・・。』
空を見上げると、体調2Mあろうかと思われるハゲタカが集まり始めた。
でかい。でかすぎる。このハゲタカに捕まれたらそのまま空に連れ去られそうな感じがする。
そのハゲタカが100羽ちかく集まり始める。そのほか、カラスぐらいの大きさの鳥も空いている敷地に着地し晩餐の開催を待ちわびている。

土俵の上では、むしろから出された死体が置かれて準備は整った。
僕のイメージでは、死体を横たえ、ハゲタカがそれをついばむというものだった。
天葬師は、左手にS字フック、右手にナタを持ち土俵に上がった。
この展開、どうやらイメージと違うようだ。

ついに、葬儀の儀式が始まる。
まずはフックで死体を起こす、ナタで首を落とす。3度振った。頭が転がる。その頭を天葬師は僕らのいるほうに投げた。土俵から落ちたところで止まった。
前列で見ていたごうさんとカメの手前2Mのところである。顔はこっちを向いている。
続いて背中や腹の肉に刻みを入れて切り離す。その肉を鳥が集まっているほうへ投げ入れた。
ハゲタカは激しく奪い合う。鳥にとっても肉は好物らしい。
10分もすると、人間の原型をとどめていない状態になった。
しかも天葬師は素手で行っている。血まみれ。
土俵からは人間の体液の臭いが『むぁっ』と流れてくる。なんともいえない臭いが鼻をつく。気分が悪くなる。
前列のごうさん、カメは金縛りにあったように動くことができない。

『すごいすごすぎる。人が人を解体するなんて。ありえない・・・。いくら死体とはいえ、扱い方がモノ。人ではないようだ』

続いてあばらを砕き、内臓を取り出す。死体は時間が経っているようで、内臓が緑や黄色になっている。内臓を鳥の群れに投げ入れるが、あまり食べようとはしない。贅沢だぞ。怒りを覚える。
足の肉を投げ入れると、再び激しく奪い合う。くちばしでひっぱりあい、皮が伸びては切れる。スローモーションのように見えた。
2体目も同じ要領で裁かれていく。一通り解体しハゲタカをけん制していた人が離れると一気にハゲタカは土俵上に来て奪い合う。
ものすごい光景だった。この光景は自然なのかなと思ったりもした。
ハゲタカの翼が揺れるたびに、人の体液の臭いやハゲタカの獣の臭いが鼻をつく。思わず顔をそむけてしまった。
持っていった数珠でひたすら成仏できるようお祈りした。
ハゲタカが食べ残したものをカラスらしきものが食べている。
一通り食べ終わると、円形の台座の上に頭を置き、大型ハンマーで叩き割る。やはり脳みそは珍味なのだろうか。全てを天に還す。

昼近くになり、太陽もでてきた。雪のせいもあって遅れて5体の死体が運ばれてきた。
これ以上見る気はもうない。
帰ろうとすると、人間の足を引きずりながら天葬師が近寄ってきて帰り道を教えてくれた。
最後の最後まですごい光景だった。

帰り道ようやくみんな口を開き始めた。
僕にとってすごい衝撃だった。価値観が変わった。みんな同じようである。
人間死んだら終わりだ。生きてて魂があってナンボ。生きなければいけないと強く思った。
僕が死んでも鳥葬だけはやめてください。火葬でお願いします。

溶けはじめた雪道に足をとられながら、寺まで戻った。
天気も回復し晴れてきた。
改めて景色を見渡す。すごい景色だ。普段はただの山かもしれないが、今はまわりの山に雪がかぶり、とてもきれいだった。
帰り道に天然の温泉による。標高4,500Mにあるため10分も入っているとのぼせてしまう。久々にお風呂に入り最高に気持ちよかった。
今日のすべての景色、異世界にいる感じがした。この景色、一生忘れないだろう。

17時、ラサに無事到着。
夜はみんなで鍋を食べに行くことになった。みんなしばらくご飯食べれないと言っていたが、昼のことを忘れて肉を食べていた。旅人はタフです。


2004年8月現在、鳥葬を公開している寺はなくなった。
鳥葬は写真を撮るなと厳しく言われいた。(撮っていいといわれても、動けなかったが・・・。)
中国人観光客が写真を撮ったらしく、公開が禁止されたそうだ。残念。


2004年3月11日
チベット、ラサ