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この文書は綾瀬さとみ「スケッチ」(「夏色ショウジョ」に収載)に感動し「続編読みてー」と思ったため、まず第一歩として「スケッチ」の話自体を知って貰おうと思いまして製作しました。では。

綾瀬さとみ「スケッチ」

もう夕暮れ、と言ってもいいような時間、柳香織は委員会の用事を中座して、教室に忘れ物を取りに行く途中、部室が開いているのに気が付いた。
―――明けっ放しにすると怒られるじゃない。部長、こういうの恐いんだよ――――
心の中で毒づきながら香織は部室を閉めようと近づいた。
――――あれ、先輩じゃん――――
部室の中には一心不乱にキャンバスに向かっている木下由里がいた。
「先輩、まだ残っていたんですか?」
「うん、コンクールが近いでしょ、時間がないのよ」
――――うわー、どんくせー、木下先輩、こういう所がだめなんだよ、この分じゃ、結構かかりそうじゃん、最後は木下先輩に戸締まりお願いしよう――――――
香織は独りごちるとキャンバスに目を向けた。
以前木下が書いていたのはキャンバスに得体の知れない文様が書かれているとしか言えないもので、同輩と「あの先輩、なんだかなー、いつも訳わかんないの書いてるし」「あの髪型、ちょーダサ、ありえない!」「ファッションがイモ過ぎ」等と言合っていたのだが・・・・
木下の向かっているキャンバスには、得体の知れない文様から明瞭な像が立ち上がりつつあった。それはこちらを睥睨する高圧的な女性と思しき人間の目だった。
香織は瞬時にして今までの木下への評価を恥じた。
その瞬間、ファッションがダサい、髪型が有り得ない!という負の評価がアーティストにありがちなアートに集中した結果、身なりに無関心、という印象に変化した。
何を考えているのか分からない目もインスピレーションを虚空の彼方に追い求める芸術家として立ち上ってきた。
香織の木下への人物評価は一変した。
「うわ、迫力」
「ふふ、ありがとう」
――――あー、あたしの馬鹿馬鹿、普段どうってことのないなんて思ってすみません木下先輩、こんなに凄い人だったんじゃん。すげえ、先輩!――――
「でも先輩」
「なあに?」
「なにかこの絵の人、恐いです」
「そう?」
「あ、でもそれだけ先輩の画力が凄いって事ですよ。ちょっとカンディンスキーに似てますね、このタッチ」
香織は自分でも言っている事が支離滅裂になっているのが分かった。目の前の人間がいきなり憧れの人になった訳で焦るのは当たり前なのだが。
「誰かモデルがいるんですか、この人」
「きれいな子よ」
その時の木下由里は複雑な目の色を見せた。
「・・・・?」
香織はその時、この話題はまだ木下が自分に話す準備が整っていない事を悟った。
「あ、あの、私、委員会の途中なんです。早く戻らなきゃ。じゃあ、あたし、委員会があるんで、これで失礼します。戸締まりお願いします」
「分かったわ」
香織を見送った後、由里はキャンバスへと向かった。
そう。私は未だに引きずっている。あの子の事はもう忘れなければならないと。覚えていても何一つ良い事はないのだから。
それでもなお思い出してしまう。
思い出さずにはいられない。
もう思い出すのはやめよう、と考えた。思い出しても何一つ自体は解決しない。だから忘れる。今度こそ間違いなく。
だからこうしてキャンバスに彼女の姿を封じ込めようとしたのだ。
でも私を見下ろす蔑すみを含んだ冷酷な彼女の目を一度たりとも忘れる事は出来ない。出来ないのだ。
――――――6年前―――――――
その日、由里は母に編んでもらった三つ編みに気分が高揚していた。小学生とはいえ慎ましいオシャレとは言わば言え・・・と思っていたのも教室に入るまでだった。
・・・・またノートが滅茶苦茶に・・・・
それは先日隠されたノートだった。
ボロボロに破られ「バカ」「ブス」等罵詈雑言が書かれていた。
教室は皆由里に悪意を向けいて。
それはクラスのボス的存在である宮下ひろみが命じたからだ。

転入生である由里はひろみの命令でいじめられていた。何故自分のような目立たない人間がひろみの気に障るのか分からない。が、彼女の攻撃衝動のはけ口として痛めつけられているのは事実だった。
ひろみはいわゆる美人だった。同性の目から見てもまぶしい位の。また高圧的な性格でもあった。
ひろみは美貌と人格から教室を支配していた。しかし教室にとっては彼女は慈悲深い女王であり、決して暴君ではなかった。何故由里だけに執拗に攻撃するのか。

ビクッ。
「おはよー、由里」
ノートの姿にショックを受けたその時、由里は後ろから肩に手を回された。
「ひろみちゃん」
教室の女王、ひろみだった。
ひろみがわざわざ好意で挨拶する訳がない。また何か仕掛けられるのだろうか。
身構え脅えた由里にむかい
「髪の毛、きれいに編み込んでるね、お母さん?」
にこやかに由里に尋ねる。
「え、えぇ」
脅えながらも、暴力に訴える気は無さそうなひろみに由里がほっとしかけた瞬間
「生意気」
罵声が飛んだ。
「似合わねぇ髪型してくんなよ!」
ひろみは由里の髪をつかむと由里の顔を床に叩き付けるように振り回した。
そして間髪をいれず顔を蹴飛ばした
「痛い!痛いよ!や、やめて」
恐怖にひきつり懇願する由里にお構いなしに蹴りが入る。ガツン!五発、十発とケリが入る。
しばらくしてひろみが教室をねめ回すと
「面白えー!俺もやる」
「俺も俺も!」
クラスの悪ガキも同調し由里を蹴飛ばした

・・・・由里は覚えている。クラスの人間に蹴飛ばされた自分を見下ろす蔑みを含んだ冷酷なひろみの目を・・・・・
・・・・そしてその時の彼女の目をどうしても書かずにはいられない。

――――――5年前―――――――
校内放送ががなり立てる
・・・・コップと歯ブラシは持ってきましたか?
給食の後には歯磨きをしましょう・・・・
学校で食事の後のハミガキ励行のアナウンスだ。
だが由里はハミガキをする事が出来ない。
ひろみにコップを取られてしまったからだ。

ドン・ドン。
遠慮がちにトイレの個室を叩く。
ひろみがコップを持ったまま、トイレにこもったからだ。
一時期の強圧的ないじめは息を潜めたが、ひろみの逆鱗に触れると圧倒的な暴力にさらされる事には変わりなかった。
何をするつもりなのか分からないが、少なくともひろみが由里をおそれいてる事だけはない。
「ひろみちゃん、コップを返して!ねぇ」
由里はか細い声でこういうのがやっとだった。

このまま個室にこもったままなのだろうか。
しかし直接顔を合わせない今の方が直接攻撃を受けないという意味では安心かもしれない・・・等と由里がドアの前で逡巡していると、由里のコップを手にひろみが出てきた。
「はい」
ひろみは由里にコップを手渡した。満面の笑みをたたえて。
由里は一瞬これだけで済んだ事にほっとした。
が。
コップの中には。
黄金色の液体が入っていた。
「あたしのオシッコ」
「!」
あはははははは・・・・!
哄笑とともにひろみは去っていった。

由里はオシッコの入ったコップを持ってただ立ちつくすだけだった。
・・・・由里は覚えている。その時の蔑みを含んだ冷酷なひろみの目を・・・・・

・・・そしてその時の彼女の目をどうしても書かずにはいられない。
記憶を反芻しながらスケッチブックに向かう。
思い出すまいと思いつつまた過去に引き戻されてしまう。
由里の部屋からデッサンする音が聞こえてくる・・・・

――――――2年前―――――――
卒業を間近に控えた早春の日だった。その日は早春にしては暖かな日だった。

おおむねひろみの由里にたいするいじめは6年前がピークであった。ひろみの興味は時が経つにつれて学外、学内の異性含む交友に広がって行き、校内の人間関係に関心が薄くなっていった。
時たまひろみの(意味のない)逆鱗に触れ暴力をふるわれる事はあっても頻度は少なくなっていた。それでも噴出する暴力に触れた時にはただやり過ごすために身を屈めて通り過ぎるのを待つしかなかった。
ただそれもこの春までだ。
高校は別々になる。あと半月もすればまったく顔を合わす事も無くなるだろう。
穏やかな気候が由里の心も穏やかにしていた。
そう。これで終わりだ。

そんな気分のまま由里は下校した。校門を過ぎるとひろみがいた。友人とかしましく話していたようだった。由里は無視もできず(シカトすんな!と何度攻撃を受けた事か)さりとて積極的に話もできず、会釈して過ぎ去ろうとした。
「あー、じゃーねー」ひろみは友人との会話を打ち切って由里に向かって言った。
「由里、たまには一緒に帰ろうか、な」
そう言われて由里にどんな選択肢があっただろうか。
ただうなずくしか出来ない。

――何故一緒に帰ろうとしているの?――
過去の事を謝ろうとしている?まさか。
理由は分からないまま、由里は不安を抱えつつ、ひろみと一緒に帰る以外にどうできたろうか。
ひろみが由里に用がある時は暴力をふるうときだけだ。
であるからには今日もそういう事なのだろうか。
ただ今まではこんなに前振りをする事は無かった。
単刀直入に暴力をふるうだけなのだ。
こんな回りくどいやり方、ひろみのやり方ではない。それともまた新しい彼女の「あそび」なのだろうか。

ひろみはたわいもない話をしながら(特に返事は期待してないようだった)、ちょっと遠回りし、あまり人のいない河川敷の公園に入っていった。公園といっても浸水区域になっているためにちょっとしたベンチのあるほかには何もない、灌木が繁茂し虫も多い為、ほとんど利用されていない所だった。利用者もいないが、繁華街からも遠いため、危険な場所というイメージはない場所だった。
だからこそ由里も何も警戒せずにひろみについていったのだ。

「ちょっと冷えてきたなー。ごめんね」
そう言うとひろみはしゃがんで用を足しはじめた。
由里は「ひろみちゃん、いくらなんでもここでは・・誰か見てるかも」
「だったら由里が見張っててよ」平然とひろみは答えながら行為を続けた。

「あー、まいったな、ティッシュ持ってきてなかった」ひろみは用たしを終えた時そう呟いた。

ティッシュなら持っている、そう由里が答えようとしたときに、ひろみは開脚すると

「由里、あんた舐めてきれいにしてよ」ひろみがそう言った。いじめる時の嗜虐的な表情を浮かべながら。
「えっ?え・・・・?あ・・・・」由里はどうすればいいのか分からずにうろたえるだけだった。本当に舐めなければいけないのだろうか?
「早く!」ひろみの怒号が発せられた。苛立ちが表情に浮かんでいる。
もはや由里にはひろみのオシッコを舐めるしかない所まで来ていた。
由里はおそるおそるひろみに近寄っていった。頭を足と足の間に入れる。

ゴキン!

そのときひろみのケリが由里の頭にさく裂した。
「がふっ!」由里の鼻がつぶれて血が出た。
衝撃とともに、由里は鼻から広がる熱と鉄の味がする液体が喉を通して口の中に広がるのを感じた。
「ほんとにやんじゃねーよ!」ひろみの怒号が響いた。「気持ワリィなぁ!!!」
荒い息をついだひろみの前で由里は激痛にはいつくばった。「あ・・・あがぁ・・・」
由里を見下ろしたひろみは携帯をだすと男に電話した。
「あ、あたしだけどさ、男ども、集められるだけ集めて来て・・ううん、・・・うん」
――何が始まるの?――
由里は恐怖におののきながら、激痛にのたうちまわりながら聞き耳をたてた。それは直ぐに分かった。
「ムカつく女がいるの、輪姦(まわ)しちゃってよ」
由里はいっその事気絶してしまいたいと思った。
その後の事は最悪だった。

「それ、そっち足つかめ、足」
「ひぁっ、や゛だ、やめて」
「うるせぇ」ボコッ
「う゛っ」
「はーい、失礼します」
「や゛、やだ、やぁぁぁぁッ」
「おー、やっぱ処女だったか」「おふっ、キツくていいカンジ」
「あああああああっ」
「やべ、もう出る」「おいおい早いよ」
「う゛あああ」
「ヌルヌルしてて気持良いなぁおい」
やめてやめてやめてやめて、助けて。ひろみちゃんお願い。
ひろみは嗜虐的な表情苦しんでいる由里を見下ろして叫んだ
「あははははは、泣けよ!もっと泣け」
「それ、出すぞ、出すぞ」
「や゛、や゛あ、や゛だあああああ」

・・・・由里は覚えている。その時の蔑みを含んだ冷酷なひろみの目を・・・・・

・・・そしてその時の彼女の目をどうしても書かずにはいられない。
記憶を反芻しながらスケッチブックに向かう。
思い出すまいと思いつつまた過去に引き戻されてしまう。

由里は不意にスケッチブックを手にとり、外に出た。

同時刻。
ひろみは「あの」公園で男とSEXしていた。二人とも制服のまま、前をはだけ、下半身を露出して。
「ハァ、ハァ ひろみぃ」男があえぎ声と共に呟く。
「ん?」
「見たぞ、今日。また違う男と歩いていたろ。何人男がいるんだよ、お前」
「さぁ?いい男とはみーんな寝たいわ、はぁん」
「そういうスケベな所、好きだけどな、う」
クチャ、クチャ、猥褻な音が鳴っている。ひろみの腰にまとわりつくスカートも今やグチャグチャだ。
「そういえばここって・・・・はぁん」
「どうした」
「クククク、昔ちょっといじめてた女がいてさ、ここで輪姦(まわ)しちゃった事があったんだ」
「うわ、悪ィなぁ。じゃあその女おまえの事、相当恨んでじゃねぇ?どーする?刃物かなんか持ってきたら?」
「あははは、あいつにそんな度胸あるわけ無いじゃん、んんんっ」
「はぁっ」
「でも、それはそれで面白いかも、はぁんんんっ」ひろみの腰の旋動が強まった。
「どっちにしろ由里なんて全然怖くないわよ」そう言い切ったひろみの瞳はかっての由里を見下ろしたあの瞳の色だった。

ガツゥ!

突然の打撃音とともに男は白目をむいていきなりひろみに倒れてきた!
「……ヒッ」ひろみはパニックに襲われた。
なぜなら今まで話していた由里が角棒を持って立っていたからだった。
由里が角棒で男を強打したのだ・・・・と理屈では分かっても自分の前の光景が現実とは思えなかった。

これが由里だろうか。由里の瞳は焦点が合わないような思い詰めた目で自分を見ている。

当然由里の次の目的は自分にあるはずだ。しかも凶器をもっているとなれば次は自分がやられる番だ。そこまでは理解してる。が、何も行動に移せずただ震えているだけの自分に気が付く。

ゆっくりと由里が近づく。
「あ、あんた何のつもりよ!」ようやく声を出す事が出来た。恐怖に駆られてひろみが叫ぶ。

「なつかしいね、この場所。あのときのままだね」由里が口を開く。角棒は手放したのか、今は手元にスケッチブックを抱えているだけだ。だが、どこか焦点の定まらない瞳はそのままだった。
あのときの復讐をするために由里はここに来たのか?
ひろみは事の成り行きにどこか現実味を感じないまま、ただ得体の知れない恐怖を感じた。
「学校をでてひろみちゃんはそれで終わりだったかもしれないけど」機械のように感情のこもらない声で由里は続けた。「私の中では6年間……ずっと……続いていたの」
ざっ、ざっ。
あれは何の音だ?ああ、由里が近づいてくる足音か・・・ひろみの耳にやけに大きく足音が響く。
「行き帰り…休日…いつもいつも見ていたよ」
ざっ、ざっ、ざっ
いやだ、この音。うるさい。
「ちょ、冗談でしょ」ひろみは震える声でそう答えた。身体を守るように手をかき抱いた。
「ずっと我慢するつもりだったけど……もう限界!」
バッ!由里は脇に抱えたスケッチブックをつかむと放り投げた。
「ヒッ」ひろみは何が来るのか反射的に身構えた。
夜空にスケッチブックに書かれた絵が一面に舞う。それは・・・・

数百枚とあったスケッチが夜空に舞った。それは幻想的な光景であったと言えるかもしれない。
空一面のスケッチ・・・・そこには・・・

それはひろみの裸体、局部、ひろみと由里の裸体、ひろみと由里のキス、そしてひろみと由里が愛を交わしている、愛を交わしている、愛を交わしている、スケッチの数々だ。

スケッチを撒いた由里は緊張が抜けて脱力したらしく、ペタンと地面にへたり込んだ。
「何…、何これ?」ひろみは落ちてきた一枚のスケッチを見てこう呟いた。そこには由里とひろみの愛を交わしているスケッチだった。
「…何考えてんの?あんた…」その時のひろみの表情は由里のなじみのあの軽蔑に満ちた高慢なものだった。
「あっ、頭おかしいんじゃないの?」吐き捨てるようにひろみが叫ぶ。

――こんな思い・・・叶わないって分かってる――
由里は絶望と陶酔の混じった心のなかで呟いた
――知っている?ひろみちゃん。私はあなたのオシッコを入れたコップを渡された時、本当に飲みたかった。舐めて綺麗にしろ、と言われた時本当に舐めたかった。――

「変態!変態!変態!変態!」罵倒の声が容赦なく飛んだ!

――でもあなたにどう思われようと――
そう、今はこの軽蔑に満ちた高慢な視線は私だけのものだ、他の誰でもない、ひろみちゃんは今わたしだけを見ている。
総てが破局してもなお、いや、それ故に由里はひろみの視線を欲していた。
私を見て欲しい。私だけを見て欲しい。
そう、そして今確かにひろみは由里だけを見ている!
「きれい・・・ひろみちゃんきれい・・・・」
由里は涙が溢れ出てきたのを感じた。総てが破滅した今でも、破滅したからこそようやく見る事のできるこの時だからこそ涙が出てきたのだ。
この結果を大切に思って?それとも後悔して?
二人の間に静かにスケッチが舞っている・・・・

その時だった。

由里は信じられないものを見た。ひろみは信じる事が出来なかった。
ふたりとも声がもれた
「「えっ・・・」」

ひろみの股間から愛液がたれてきた。

「何、これ・・・」ひろみ自分の股間を触ると濡れた自分の手を見ながらぼう然と呟いた。自分に何が起きているのか全く理解できていない様に。

しかし由里は何が起こっているのか悟ると、憑かれたように立上り、ゆっくりと、しかしひろみに向かって歩きだした。

「!」ひろみは何故由里が歩きだしたのか、ようやく理解した。
由里は自分に交わるつもりなのだ。
「こ、来ないで!」ひろみが由里に対して初めて懇願した。
勿論由里には届かない。

「く、来るな!」
ひろみがそう叫んだ時には既に由里はひろみの股間にとりついていた。

「変態!変態!きゃ!」罵声はやまないが、バランスをくずしてひろみは尻餅をついた。
素足を抱えた由里の手の感触に体中に得体の知れない衝撃を受けたからだ。
ひろみはそれを嫌悪感だと思いたかった。
ひろみは由里の手が触れた瞬間、脊髄にズシンと走る得体の知れない情動を感じ、その瞬間足の力が抜けた。
ひろみはそれも嫌悪感だと思いたかった。

由里はそれにはかまわず、ひろみの股間を舐めはじめた。
「はむっ、うっ、はうっ」
由里が6年間ずっと熱望したひろみのクレヴァスを舐める。
その時間はもう由里にとって至福の一語につきた。
舐め、啜り込む毎に奥から湧いてくる、わき出てくる愛液と由里の唾液が混じってクチャクチャと音が鳴った。
自分の舌を動かす事で出てくる音だ。
由里は自分がその音と味覚のプールの中で沈んでいくのを感じた。
他の一切が知覚から消えてゆく。

ひろみは由里の舌を下の口で感じた。
「やめろ!はなせ!この!この!この!変態!変態!」
ひろみは由里の体を手当たり次第にぶった。由里をののしった。
しかし由里は歯牙にもかけないようだ。まったく変わらない。
「はなせ!」
由里を引き離す様に手を頭に乗せ、手を押した。
だが、その手の力は弱く、すぐに止まってしまった。

ちゅう、ちゅ、ちゅっ、由里のクンニリングスの音が響く。
もう自分をごまかすのは無理だった。
今、由里から受けているそれは、性的な快感だった。それも圧倒的な。

はぁはぁはぁ、由里の声が響く。
由里の舌が這い回る度に、股間から脳天までもの凄い熱い固まりが上ってくる。
そして脳天の中で溶けて体中の力が抜けていく。

「はむ、むぅ、あむぅ」由里の声が響く。
今までの少なくない体験を圧倒的に凌駕する性的快感。それが股間を中心に炎のようにひろみの体を駆けめぐる。乳房はパンパンに張り、乳首は堅く尖り、ジンジンとし、愛撫を待ちこがれている。
子宮はギュンギュン絞り上がり下腹部に降りてきている。

もう限界だった。
限界までため込んだダムから水が奔流のように流れ出るように体中の甘い痺れとともにひろみから声が漏れた。
「あぁっ、はぁん、あぁ」
ひろみの瞳が霞んできた。口からは涎が垂れ、腰は知らず知らずのうちにうねっている。そう、はっきりとひろみの体は快感をむさぼり始めた。

由里が上目遣いにひろみの顔を見上げた。ひろみの様子が変わったのに気が付いた。
そして、由里の動きが変わった事に気が付いたひろみは、下をみた。
その時二人の視線が絡んだ。
そう、ひろみは由里の目をみた。
その目は6年前から見知った、あの目だ。

――ああ、そうか――
ひろみはその時に悟った。
私は由里に見て欲しかったら、私だけ見て欲しかったから、ああしたんだ。
最後のあの時も、私はホントは由里に舐めて欲しかったんだ。
だけどそれは「イケナイコト」と思ったから、ああしてしまった。

私はあの事を一生忘れない。
私は臆病で嘘つきだ。

ひろみは心の中に由里への愛がわき出てあふれ出るのを感じた。
同時に瞳から涙があふれ出た。
それは愛を知った歓喜の涙だったのか、それとも悔恨の涙だったのか。

そしてひろみは由里の頭をかき抱いた。震える涙声で由里にこう囁いた。
「あんたのその目がいけないんだよ」

おしまい。


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