ミステリアスな夜叉姫伝説のルーツを訪ねたい

夜叉姫伝説
 
むかしむかし、美濃の国の神戸というところに、安八太夫という長者がいました。
弘仁8年、(817年)、大変な日照りが続き、ほとんどの田んぼが干上がってしまいました。
太夫があぜ道に腰をおろして考えこんでいると、草むらからはいだした一匹の小さなヘビが、太夫の足もとにとぐろをまくので、太夫はおもわずこのヘビに「なあ、ヘビよ、天に昇って雨を降らしてくれ。そしたら、ほう美としておまえが望むものをくれてやるのに……。」と言うと、ヘビは草むらに姿を消してしまいました。
その日も夜を迎えようとしたその時、北西の山から、みるみる黒雲が湧き、空いっぱいに広がり、風がおこり、凄い稲妻・雷鳴がとどろきました。
 すると、大粒の雨が乾ききった大地に叩きつけられ、太夫は目を覚まし、喜びのあまりあたりをおどるように飛びはねました。
 雨はひっきりなしに降り続きました。みるみるうちに、田んぼは、一面の池のようにたっぷりと水をふくみ、草木はよみがえったのです。
 みの笠姿の太夫は、一日中広い田んぼを歩きまわり、うれしくて自然に笑いがこみあげてくるのでした。
 雨もようやく上がった日、太夫の家で宴を開いていると、若武者が訪ねてきて、自分はあの時のヘビ、美越の池に住む龍神で、雨を降らせたのだから約束どおり自分の望むもの、つまり太夫の娘三人のうち一人をもらいたいと言いました。
太夫はいまさらいやとも言えず、あわてて自分の部屋へ娘たちを呼んでいきさつを話しましたが、誰一人承知してはくれませんでした。
 しばらくして、二番目の娘の夜叉姫が入ってきて自分が行くと告げ、まもなく織りかけの麻布を身にまとい、若武者とともに水かさの増えた揖斐川の流れの中に旅立ったのであります。
 七日程たったある夜、太夫の枕もとに夜叉姫が立ち、紅、白粉、匂い袋がほしいと言い、姿を消しました。
 あくる日、太夫は池へ出かけると、水面は静まりかえっています。用意してきた品々を、ホオの木の葉にのせて浮かべると、風もないのに水面をすべるように動き、まん中あたりで、あっという間に水の中に消えました。
 太夫は時々夜叉ヶ池を訪ね、夜叉姫の姿を見たいと頼み続けたところ、あるとき池の中から大蛇の姿となってあらわれました。おもわず地に伏せ、やがて顔を上げると大蛇の姿はもうなく、二度と姿を見せることはありませんでした。