ピエール・ド・ラ・リュー (ペテレン・ファン・ストラーテン)
Pierre de la Rue (Peteren van Straten)
1452年頃生-1518年11月20日没


MIDIサンプル 生涯 CDその他


MIDIサンプル


ミサ「マリアは天に召された」
Missa "Assumpta est Maria in caelum"
全曲
(32' 57)

キリエ
Kyrie
(3' 45)

グローリア
Gloria
(6' 42)

クレド
Credo
(8' 06)

サンクトゥス、ベネディクトゥス
Sanctus, Benedictus
(7' 05)

アニュス・デイ
Agnus Dei
(6' 57)


モテット「めでたし、最も聖なるマリア」
Motettus "Ave, sanctissima Maria"
(4' 27)
3声部がそれぞれカノンをつくり出す6声部のモテット。

写本画像は http://www.alamire.com/ で見る事が出来ます。
このサイトの英語ヴァージョンに行き、カタログの所をクリックして、
Scientific Fund をクリック、
さらに一番上のAlbum de Marguerite d'Autriche
B-Brussel, Koninklijke Bibliotheek, Ms. 228
をクリックします


モテット「喜べ、乙女よ」
Motettus "Gaude, virgo"
(7' 25)


第8旋法のマニフィカト
Magnificat octavi toni
第8旋法によるグレゴリオ聖歌のマニフィカトのメロディを様々な形で変奏した名作です。偶数声部のみポリフォニー化され、ラ・リュー独特の叙情的なメロディーを歌い上げます。最後の第12節は楽譜が全編着色譜となっており、現代で言えば4拍子の中に3連符が歌われる形になっていますが、途中で各声部が互い違いに2拍の休符を挟むことにより、ずれながら3連符を歌う形になって、この時代の記譜法ならではの非常に面白い対位法を作り始めます。それが計算ずくの音楽という印象をつくり出さず、それどころか独特の叙情性を産み出しているところがラ・リューの対位法の真骨頂を示しています。

歌詞対訳

全曲
(13' 07)

1. 我が心は主を讃う - 2. 我が心は歓喜せり
1. Magnificat anima mea Dominum-- 2. Exsultavit spiritus meus
(1' 33)

3. 卑しさを見返り給いしゆえ - 4. 我に偉大なるものをなし給いしゆえ
3. Quia respexit humilitatem-- 4. Quia fecit mihi magna
(2' 14)

5. そして彼の憐れみは- 6. 彼は権力を自らの手にしたり
5. Et misericordia eius-- 6. Fecit potentiam in brecchio suo
(2' 13)

7. 彼は権力者をその座より打ち払い- 8. 卑しき者を高めたり
7. Deposuit potentes de sede -- 8. et exaltavit humiles
(1' 56)

9. イスラエルを引き受けたり- 10. 語りし如くに
9. Suscepit Israel -- 10. Sicut locutus est
(2' 42)

11. 父と子と精霊に栄光あれ - 12. 始めにありし如く
11. Gloria patri et filio et spiritui sancto -- 12. Sicut erat in principio
(2' 32)


モテット「めでたし、女王」
Motettus "Salve regina"
(4' 08)


ミサ「アルマーナ」
Missa "Almana"
全曲
(25' 51)

キリエ
Kyrie
(3' 20)

グローリア
Gloria
(4' 28)

クレド
Credo
(6' 00)

サンクトゥス
Sanctus
(7' 11)

アニュス・デイ
Agnus
(4' 23)


ミサ「武装せる人」
Missa "L'homme armé"
全曲
(25' 53)
ラ・リューのミサの傑作の一つ。当時流行した「武装せる人」という流行歌を元に作られたものです。これはジョスカンの技法の限りを尽くして作られた『種々の音階上のミサ「武装せる人」』に、明らかにライバル意識を燃やして作られたもので、キリエ とアニュス・デイのカノンはそれを示していますが、全体としてもラ・リューの音楽語法の最先端をしめしている作品といっていいでしょう。全体の音域は低い方に密集しており、バスは最低音はLow Cに達する上、低いDにまでは頻繁に下がるので、通常の演奏では高い方に移調されるようですが、ここでは記譜されている音域でMIDIを作りました。

キリエ
Kyrie
(2' 48)
テノール/バス、テノール/コントラテノール、テノール/バスのカノン。

グローリア
Gloria
(4' 40)

クレド
Credo
(7' 20)
ラ・リューの可能な限りの作曲能力を尽くした曲だと思います。特に後半のCrucifixusでは、プロポルツィオと1970年代のポップスを思わせるシンコペーションを織りまぜられた独特の作風で、ルネサンスの音楽とは思えない世界を聴く事が出来ます。MIDI作成技術が追い付いているかどうか……。

サンクトゥス
Sanctus
(6' 17)

アニュス・デイ
Agnus Dei
(3' 35)
このアニュス・デイの第2アニュスでは、只一つの旋律から4種類のメンスレーション記号とプロポルツィオの組み合わせで4つの旋律が作られるカノンで出来ています。この曲の前に、ジョスカンはミサ「種々の音階上の武人」の第二アニュス・デイで1旋律から3声を紡ぎ出すカノンを作っており、ラ・リューはこれに対してそれを越えたカノンの技術を示そうとしたといえます。ラ・リューのこのアニュス・デイは当時の理論家たちから高く評価され、これを越えるものはありえないと言われたものです。


ミサ「おお聖なるアントニウス」
Missa "O Sacer Anthoni"

キリエ
Kyrie
(2' 55)


第6旋法のマニフィカト
Magnificat sexti toni
 ラ・リューの曲にしてはかなり前衛的なマニフィカトです。曲が進むにつれ、その傾向は強くなり、最後の12節は不協和音の満ちあふれる不思議な響きの曲になっています。第8節にはアグリーコラの語法を取り入れているように思われます。

歌詞対訳

全曲
(10' 23)

1. 我が心は主を讃う - 2. 我が心は歓喜せり
1. Magnificat anima mea Dominum-- 2. Exsultavit spiritus meus
(1' 29)

3. 卑しさを見返り給いしゆえ - 4. 我に偉大なるものをなし給いしゆえ
3. Quia respexit humilitatem-- 4. Quia fecit mihi magna
(1' 39)

5. そして彼の憐れみは- 6. 彼は権力を自らの手にしたり
5. Et misericordia eius-- 6. Fecit potentiam in brecchio suo
(1' 44)

7. 彼は権力者をその座より打ち払い- 8. 卑しき者を高めたり
7. Deposuit potentes de sede -- 8. et exaltavit humiles
(1' 25)

9. イスラエルを引き受けたり- 10. 語りし如くに
9. Suscepit Israel -- 10. Sicut locutus est
(1' 39)

11. 父と子と精霊に栄光あれ - 12. 始めにありし如く
11. Gloria patri et filio et spiritui sancto -- 12. Sicut erat in principio
(2' 26)


ミサ「汝の御加護のもと」
Missa "Sub tuum praesidium"
全曲
(25' 32)

キリエ
Kyrie
(3' 22)

グローリア
Gloria
(4' 28)

クレド
Credo
(5' 53)

サンクトゥス
Sanctus
(7' 33)

アニュス・デイ
Agnus Dei
(4' 08)


シャンソン「なぜにしないのか」
Chanson "Porquoy non"
(2' 08)
短いですが魅力的なシャンソン。歌詞は、「なぜ死ぬことで、自分を愛していない者を愛し、何の見返りもないのに身を尽くす人生を終わらせないのか」というものです。


死者のためのミサ
Missa pro defunctis
ラ・リューの作品の中では、録音の数には恵まれていますが、バスが最低音がLow Cを通り越してB♭も頻繁に出てくるため、通常の演奏では音域を上げて演奏されます。このMIDIでは本来の音域で作られています。
全曲
(27' 12)


入祭唱
Introitus
(4' 41)

キリエ
Kyrie
(2' 25)

詩編「あたかも鹿の如く」
Psalmus "Sicut cervus"
(3' 31)

オッフェルトリウム
Offertorium
(5' 06)

サンクトゥス
Sanctus
(4' 43)

アニュス・デイ
Agnus Dei
(3' 54)

コンムニオ
Communio
(2' 15)


モテット「おお、救いの犠牲よ」
Motettus "O salutaris hostia"
(1' 29)
NEW
現代譜 1 2
NEW
短いですが、魅力的なモテットです。リンクさせていただいているKuniさんのヴァーチャル・バード・クワイヤに、この楽譜での多重録音による素晴らしい実演がアップされています。是非御訪問下さい。




生涯


 ピエール・ド・ラ・リューは、父親ジャン・ド・ラ・リュー(Jehan de la Rue)と、母親ゲルトル・ド・ラエ(Gertrud de la Haye)の間に1452年頃トゥルネーに生まれ、その地の大聖堂聖歌隊員として教育されます。残っている限りで、成人してからの彼の最初の記録は1469/70年のブリュッセルの聖グドゥレー大聖堂で、次には、ヘントのヤコブス教会に1471/2年、ニューポールトのノートル・ダム教会(Onze Lieve Vrowkerk)には1472/3年から1477/8年の前、その後サンクト・オーデ、それからケルンに1489年まで滞在しています。1489年から1492年まではヘルトゲンボッシュ (ここではテノール歌手となっています)、その年の11月にはハプスブルク-ブルゴーニュ家の聖歌隊に加わります。ここに属している間にアグリーコラやペトルス・アラミレ、デ・オルトなどの著名な音楽家と同僚にもなっています。その間、当家のマクシミリアン、その息子フィリップ美男子王に随行して宮廷周辺を旅行して歩き、スペインにも出かけていますが、1506年には、その際の海難の為にイギリスのヘンリー7世の元に3月留まっています。1506年のフィリップ没後、彼の未亡人Juanaにも彼は仕え、1508年彼女から政権が奪われた後にラ・リューは北のフランドルに戻り、後のシャルル5世の摂政をしていたオーストリアのマルグリットに仕え、1516年、シャルル5世が成人した後にラ・リューはコルトレイクに引退します。彼はそこで同年6月16日には遺書を書き、1518年の11月20日に亡くなっています。結局、ラ・リューはフランドルの音楽家が新天地を求めて行くのが常であったイタリアの地は踏んではいないようです(もちろん、記録が欠落しているだけかもしれません)。

 彼の作品の中心は、大部分はミサで、真作としては29作が認められており、これがラ・リューの本領であったと言えるでしょう。特にカノンの技法に長けており、全編がカノンで成り立っている曲も作っております。その他、ミサ断片が6章、マニフィカトを8つの旋法それぞれで作曲(1つは消失)しています。モテットは彼の名前で23曲残されており、最近ジョスカン作とされていた我が子アブサロン(Absalon fili mi)は、ラ・リュー作に付け加えられている他、無名で伝わっている曲も数曲彼のものと考えられ得るようです。数の上ではモテットは少数ですが、曲の内容は芳醇で、ミサで用いた技法の凝縮されたものがここに見られます。世俗曲は間違ってラ・リュー作とされたもの、逆に無名で伝わった彼の作品などで、数は変動していますが、モテットを上回る数にはなるようです。当時はまだ、独立した作曲家の地位は確立していませんでしたが、ラ・リューは、イザークなどのように、その実質的な地位に大分近付いており、作曲以外に、写本作成にも携わっていたようです。

 ラ・リューは、直接仕えている宮廷や教会の他にも、多くの場所から恩賜などの収入を得ながら、かなり裕福な生活を送る事ができ、他の音楽家に比べると生活は非常に安定したものであったようです。そのような恵まれた環境の中で生まれたせいか、彼の曲は、穏やかで優雅かつ屈託のないメロディーと響きを持っていますが、それと同時に、同時代の宮廷で同僚であったアグリーコラの影響からか、またかなり前衛的な音楽への傾倒も持っています。



CDその他



Peñalosa-Ensemble, Raimund Schächer(オルガン):
Pierre de la Rue: Missa O gloriosa Margaretha, Orgelwerke.
Cornett Verlag, LC10382.
NEW

 ラ・リューの後期のミサの名作の一つとVexilla Regis, Considera Israelの2つのモテット、、それとは関係なくブクスハイマー・オルゲルブッフからの曲と、Hans Buchner、Johannes Kotter, Leonhard Kleberのオルガン曲がおさめられたCDです。ただし、関係ないとはいえ、オルガン曲は東フリースランドの村のRysumという所にある15世紀のオルガンで演奏されたものですから、この時代の音楽が当時の独特の音色で楽しめるもので、水増しでは決してありません。

 Peñalosa-Ensembleは我無人も今まで知りませんでしたが、1996年に南ドイツの小さな町のトロッシンゲンの音楽大学の古楽研究所学生によって作られた4人によるヴォーカル・アンサンブルで、ケンブリッジでヒリヤード・アンサンブルの薫陶を受けたそうです。

 最近はシンガー・プールなど、ドイツでは優れたヴォーカル・アンサンブルが生まれていますが、このPeñalosa-Ensembleも非常に優れた演奏で、ラ・リューが音に託したメッセージを殆ど余す所無く実現したといっていいでしょう。しばしばこの時代の演奏ではテンポの取り方が本来の楽譜の理解をしていればありそうもない設定になっていたりしますが、この団体のテンポの選択はまさに適切なもので、これによってディミヌツィオの部分が間延びする事無く演奏されています。(ただ、CDのライナーでも触れられている、ディミヌツィオの部分で、倍速く演奏するか、倍遅く演奏するか、という問題は、演奏者にとってはともかく、実は存在しておらず、少なくとも記譜法の教科書では、倍速く演奏するか、前の所よりも速く演奏するという選択肢が残されているだけなのは注意して置かなければなりません。)

 Peñalosa-Ensembleの演奏は、特にゆったりとしたラ・リューの独特のスタイルと、それが盛り上がってクライマックスで予想以上の激しい音楽的な動きを見せる部分などを、理想的に演奏しており、現時点ではラ・リューのCDの中では最もお勧めのCDだと思います。これに比較すると、先に紹介したカペラが引継いでいるレベッカ・スチュワート=カペラ・プラテンシスの演奏様式は、演奏者にとってはなにかやはり、表現力に対する枷になってしまう部分が少なくない気がします。



花井哲郎Maestro di Capella ヴォーカル・アンサンブル カペラ:
puer natus est! 幼子が生まれた!〜ルネサンスのクリスマス・ミサ.
Regulus, RGCD-1006
レコード芸術特選

 拙サイトで初の日本の演奏団体によるCDです。このCDは「レコード芸術」誌の特選になったものです。

 演奏団体は長くベルギーなどで研鑽を積まれた花井哲郎氏を中心にした、日本の古楽声楽のスペシャリストによって構成されたヴォーカル・アンサンブルのカペラで、本CDは彼らの2枚目のCDです。

 演奏されているのはラ・リューの待望のミサ曲で、クリスマスの日中に歌われるミサ曲の入祭唱Puer natus estを定旋律に作られたミサ「幼子が生まれた」で、これは恐らく初録音だと思います。それに加え、ジャン・ムトンによるモテットで、名作で割合知られているQueramus cum pastoribusとPuer natus estが収録されています。

 全体の演奏レベルは驚く程の高さで、特に一糸の乱れもないアンサンブルは、世界レベルの演奏水準を軽くクリヤしています。

 実際の演奏は、是非とも聴いていただいて判断して下さる事を切に希望します。決して買って損はないCDです。ただ、ラ・リューのMIDIを幾つか作っている身としては、少し気になるところもないわけではありません。

 このグループの特徴は、殆どレベッカ・スチュワートのカペラ・プラテンシスの演奏様式を引継いだものですが、これだけの完成度になると、逆にカペラ・プラテンシスの演奏様式の限界も見えて来ます。例えば両団体特有の極端なまでのレガートですが、殆ど全てをそれで通しているので、印象が一様に聞こえてしまう傾向があります。殆ど完璧なまでの音程の揃いのおかげで、曲の構成は僕にとってもMIDI作りの曲想付けの作業以上にクリヤに分かるのですが、ラ・リューの特徴の一つでもある甘美な旋律線を見事に再現するレガートは、この団体の強みですが、一方一つ一つのモチーフが次々にからみ合って、静ひつな音楽だったものがいつの間にか驚くべき感情表出に移行してクライマックスに至るラ・リュー特有の泣かせ所は、レガートにこだわり過ぎるあまりに盛り上がっていない嫌いがあります。特にグローリアのin gloria dei patris、クレドのDeum de deo、et homo factus estの辺りには歌詞としつこく繰り返される音形の点から見て、もうすこし畳み掛ける迫力が期待されていると思いますし、Crucifixus以下はもっと激しい緩急があってもいいのではないでしょうか。このCDではサンクトゥスが一番それがよく実現されていますが、それはクレドにも使われるべきだったと思います。

 もちろん、この演奏はラ・リューの意図しているところをかなり実現していると思いますが、もう一線先に行くためには、レベッカ・スチュワートの影響から少なくとも部分的には脱する必要があるような気がします。おそらくこのスタイルのままでは、ラ・リューのロム・アルメ・ミサ、それからミサ・アルマーナなどは非常に不十分な形の演奏になってしまうと思います。カペラ・プラテンシスと比較すると、発音の点では極端な鼻母音による演奏は緩和されていますが、私見ではフランス訛り自体は殆ど無くてもいいと思います。むしろ必要なのは言葉の意味の表出で、まだところどころの歌詞が必ずしも意味を咀嚼された言葉になり切っていないきらいがあります。

 ムジカ・フィクタについては、解説にも書かれているように、色々問題がありそうで、この演奏では十分問題を解決していると思いますが、個人的には幾つかの♭(第2キリエ最後のソプラノパートなど)はない方が演奏効果が上がりそうな気がします(個人的にはあまり♭が多すぎると頭を押し込められているような印象があります(笑))。

 とはいえ、ラ・リューのミサ曲でここまで完成度の高いCDが、日本から出た事は本当に嬉しく、カペラの今後の活躍が楽しみです。



Zoltán Kalmanovits指揮Corvina Consort:
Pierre de La Rue: Chansons from the Album of Marguerite of Austria.
HUNGAROTON, HCD 32018.

 ラ・リューの中心的な創作ジャンルはミサ曲でしたが、それより規模の小さい小品にも佳作は少なくありません。このCDは、恐らく初めてラ・リューの世俗曲のみに照準を絞ったCDです。

 演奏しているのはハンガリーの演奏団体で、この時代の演奏団体としては珍しく、歌手は楽器も担当しています。声の質は若干東欧的なアクセントがないわけではありませんが、しっとりとした歌い方で好感が持てます。特にソプラノが素晴らしいのびのある声で、また重低音のバスはちょっと日本の合唱では聴かれないものです。

 このCDでは、彼らはオーストリアのマルガリータ(1480-1530)のために作られたブリュッセル王立図書館の写本MS228と11239の写本の中におさめられているラ・リューのシャンソンを演奏しています。部分的には主旋律のみ声楽だったり、アカペラで歌われたりとヴァリエーションがありますが、聞き通すのは少々大変かもしれません。とはいえ、本来は実際に詩を味わいつつ聴く、あるいは実際に歌に参加するための音楽で、73分のCDにするための物ではありませんから、実際に味わう際には歌詞などを照らし合わせつつ1曲1曲楽しむべきでしょう。

 全部の曲に付いて解説するわけにはいきませんから、2つの非常に興味深いシャンソンにだけコメントしてみます。

 拙サイトでMIDIにされている曲 Porquoy nonは、ペトルッチの印刷本によるものですが、このCDではこれより4度低く歌われているところを見ると、どうもMS228ではそのように記譜されているようです。そのため、バスは極めて低い音域まで下がり、音全体が低音域に密集した独特のラ・リューの音楽になっています。

 このCDに一番最後の収録されているのは、シャンソン・モテットで、一声部はレクイエムの有名なDies illaの一節を歌い、その他はフランス語でルクセンブルクのジャンの死を嘆く歌詞を歌うものです。ここまで書くと、ジョスカンなどに馴染みのある方ならピンと来るかも知れませんが、ジョスカン有名なオケゲムの追悼の歌と同じパターンで、良く聴いていると、ジョスカンの曲と同じメロディーもところどころで聞こえて来ます。恐らくは「武装せる人」ミサでもそうであったように、ここでもラ・リューはジョスカンを意識していたのかもしれません。

 このCDで、ラ・リューの30曲程度はあると思われるシャンソンのうち、半分は聴けることになり、世俗曲のアウトプットについては、全体の鳥瞰はあらかたできたと思います。後はまだまだ半分もCD化されていないミサ曲、それも全体が全てカノンからできているミサ「めでたし、最も聖なるマリア」をはじめとする名作ミサなどをどんどんCD化してもらいたいものです。



Bo Holten指揮Vocal Group Ars Nova:
Pierre de La Rue: Missa L'homme Armé, Nicolas Gombert: 2 Motets.
Kontrapunkt, 32008.

 拙MIDIでもキリエとアニュス・デイのみ紹介しているラ・リューの名作の一つ、「武装せる人」ミサの録音です。

 演奏しているのは、デンマークの現代音楽作曲家でもあるBo Holtenの指揮するアンサンブルArs Novaです。北欧の独特の澄んだ声が魅力的な合唱団です。

 全体としてはまあ雰囲気をつかむには十分ですが、色々難がないわけではありません。全体を混声合唱にあわせて高く移調していますが、フランドルの音楽ではしばしば非常な低音が好まれていることは明らかで、ここは北欧独特の超低音バスに唱ってもらいたかったところです。また、現代譜を使った弊害で、テンポの取り方を明らかに間違っているかなり多く、非常に残念です。例えば、クリステは¢が使われており、続く第2キリエでは¢ 3となっていますから、クリステでの2拍に第2キリエの3拍が対応していなければならないのですが、この演奏では第2キリエはずっとゆっくりの演奏になってしまっています。グロリア、クレドでもそうで、特にクレドでは、メンスレーションの入れ代わりを用いて、1960-70年代のニューミュージックを思わせるような独特の音楽をつくり出していますが、それを表現するよりは、むしろ一般に受け入れられているミサの雰囲気にあわせて作り上げてしまっています。第3アニュスもやはり遅過ぎになっていますが、第2アニュスの有名なquattuor in unum のカノン(1声部から4つの旋律が紡がれるカノン)は、ドイツのDas Chorwerkの版を使っているため、一ケ所カノンの解釈を間違っているのもそのまま引継いでしまっています。テンポの設定の誤りは、しかしこのミサの本当の姿を全く隠してしまうことになり、致命的と言えるでしょう。もちろん、校訂楽譜が、定量記譜法の知識と、写本を実際に閲覧することができなくとも十分にテンポなどの対比が分かるように書かれていないことにも問題があると言えなくもないでしょうが(残念ながら、日本で出版されている楽譜もこの点は不明瞭で、合唱コンクールのために準備されている楽譜ですら同様の問題を抱えています)。

 ラ・リューの他に、このCDではゴンベールのモテットが収録されています。そのうちの一つはジョスカンの挽歌で、これは既にPCAによる演奏などがあるものの、実に美しい演奏になっております。もう一つはLugebat David Absalonで、これの前半はゴンベールのシャンソンをそのまま用いたもので、第2部は、もしそれがゴンベールの手によるなら、ゴンベール自身が付け加えたモテットですが、作者はまだ決定的には分かっていません。これも立派な演奏になっており、愛聴盤にするに値するCDです。それだけに、ラ・リューのミサについて、しっかりした音楽学者の意見をうかがうべきだったと思います。



Paul Hillier指揮The Hilliard Ensemble:
Pierre de La Rue: Missa cum iocunditate, motets.
Virgin Classics (Veritas Edition), 7243 5 61392 2 0.

 ヒリヤードの唯一のラ・リューアルバムで、ヒリヤー在籍中のCDのうちでも最高レベルの出来だと思います。

 ミサはいわゆるオスティナート様式で、テーマになる音型が引きのばされたり縮められたりしながら数多く繰り返されるもので、この曲ではソミソラソソの繰り返しが頻繁に行われます。モテットは拙HPでも紹介しているGaude Virgoが極めて良質の演奏で、Vexilla regis, Plorer gemier, Considera Israel, O salutaris Hostia, Ave Regina celorum, Delicta iuventutisと、ラ・リューの宗教曲作品の代表作品が網羅されています。

 ヒリヤードの演奏は、ここでは他の曲の演奏以上にフレキシブルで、優雅なラ・リューのメロディーを見事に表しています。Capilla FlamencaのCDと並んで、強くお勧めできるCDだと思います。



Christpher Page指揮GOTHIC VOICES:
Pierre de La Rue: Missa de Feria, Missa Sancta Dei genitrix.
Hyperion, CDA67010.

 ラ・リューのミサの2つを中心にしたCDで、演奏は音楽学者でもあるChristpher Pageが指揮するGOTHIC VOICESで、この団体はどちらかといえば中世・初期フランドル楽派の、特に世俗曲を中心に演奏しており、ラ・リューの演奏はかなり例外的なレパートリーです。

 演奏される2つのミサ曲はラ・リューの特徴を良く示しているものですが、演奏はどちらかといえば少し機械的なリズム感に支えられており、音量の幅も殆どなく単調なため、わざわざフランス語の訛りも付けているにもかかわらず、ラ・リューのたゆたうような旋律美がなかなか見えにくくなっています。しかし、声楽陣の実力は極めて高く、全体としては十分鑑賞できるCDだと言えますが(ただしMissa de FeriaのGloriaの先唱はちょっと異様です)。

 ミサの他にモテット4曲が含まれていますが、Pater de celis Deusのみが声楽で唱われ、残りの3曲、O domine Jesu Christe, Regina celi, Salve reginaはChristpher whilsonとShirley Rumseyによるリュートで演奏されています(Pierre Phalèseの編曲)。

 Christpher Pageの楽曲解説は、残念ながら音楽学者とは思えない程深みがなく、特にMissa Sancta Dei genitrixについては殆ど解説がありません(演奏はこちらのほうが面白いのですが)。専門でない分野でしょうから、致し方ないのかも知れませんが。また生涯の解説にも、ラ・リューがコルトレイクで生涯を終えた事はなぜか省かれています。

 ラ・リューのミサは確実な真作だけでも29曲もあるので、ジョスカンなどに比べると遥かに全集が困難な作曲家かもしれません。そのミサ曲のうち、2曲も水準以上の演奏で聞けるこのCDは、それだけでもラ・リューファンには嬉しい贈り物であることは確かですが、今一つ面白みにかけるのが残念です。



Edward Wickham指揮The Clerks' Group:
Pierre de La Rue: Missa de sancta cruce, Considera Israel, Salve regina, Vexilla regis, De Quadris - Lamentations.
ASV Gaudeamus, GAU 307.

 既にオケゲムミサ全集、ジョスカンのCDなどで名盤を出しているThe Clerks' Groupですが、ついにラ・リューのミサ曲の録音を出しました。

 ミサはヨーロッパ北部で祝われていた聖十字架の発見の祝日のためのミサのためのものだそうですが、どうも現在の典礼文にはそれらしい祝日とそのためのグレゴリオ聖歌は見当たりません(ご存じの方はお知らせ下さると嬉しいです)。どちらかと言えばThe Clerks' Groupの歌い方は全体としてテキパキとした感じで、ラリューのゆったりした波打つようなフレーズが多少犠牲になっているようなところも無きにしもあらずですが、それでもモチーフが細かく変奏されている部分などは、この団体ならではの、細かい音符までくっきり見える演奏は強みを発揮していると思います。

 ミサの後にはラ・リューのモテット3曲が演奏されています。それぞれ十分いい演奏ですが、もう少しゆったりとたゆたうような旋律の感じが出ているといいような気がします。個人的にはCapilla Flamencaの歌い方のほうが、さすが本場だけあってこの作曲家のスタイルにぴったりあっているような気がしますが、The Clerks' Groupのほうが好きだと言う人もいておかしく無いほど十分素晴らしい演奏ではあります。Vexilla Regisはその中でも特にラ・リューらしい雰囲気が出ている演奏です。

 珍しいところで、このCDにはJohannes de Quadrisという、殆ど無名の作曲家のエレミア哀歌が録音されています。これは当時、アマチュアでも歌えるということで非常に流行したBicinium「二声部曲集」に含まれているものです。とはいえ、曲も十分鑑賞に耐えるものです。録音などでは決して日の目を見ないであろう名曲がどれほど多いか、改めてルネサンス音楽の芳醇さを知させてくれる録音でもあります。

 演奏も十分素晴らしいですから、お勧めのCDなのですが、以下は個人的な好みでの判断です。The Clerks' Groupはかなりビブラートをとったストレートな声で、ジョスカンなどではそれは強みになっていると思いますが、ラ・リューにはこのタイプの完全に近い程のノン・ビブラートの歌唱は少々そぐわないような気がしました。もうすこし自然に声の揺らぎがあるといいような気がします。録音もいつも通り残響を少なくしているのも、ラ・リューでは少し裏目に出ていると思います。



Dirk Snellings指揮CAPILLA FLAMENCA, PSALLENTES:
Pierre de La Rue: Missa de septem doloribus.
Musique en Wallonie, MEW 0207.

 Capilla flamencaの演奏によるラ・リューの名盤の一つでしょう。

 演奏される曲は、これもラ・リューの代表作の一つ、ミサ「7つの悲しみ」です。15世紀になって聖母マリア信仰の一つの現れとして、「7つの悲しみの聖母」の祝日が祝われるようになります(棕櫚の日曜日の前日の土曜日か受難節の次の日曜日)が、その為に作曲されたミサがこの曲です。

 ミサ曲はラ・リューの音楽の魅力が十分味わえるものです。叙情的でゆったりとした波打つような旋律が、彼らのフランス語のアクセントのついた(ただしCappella Pratensisほど激しく無い)歌声は本当に魅力的です。通常の彼らの演奏のように、ミサの形式にあわせてグレゴリオ聖歌をはさみながら演奏されますが、この曲が含まれている写本にあるグレゴリオ聖歌を用いています(これらは現代の典礼文には見当たらないようです)。中でも3拍子系で歌われて、即興的に和声がつけられているAstat virgoは非常に印象的な演奏です。

 曲の冒頭にはジョスカンのスターバト・マーテルが演奏されていますが、これも実に素晴らしい演奏です(ただし音は下げて歌っています)。実際のミサの中では、Credoの前に来るのが普通ですが。

 ちなみにラ・リューのこの曲は、別の団体の演奏で廉価盤のNaxosのCDでも聴くことができますが、演奏はあまりよくありません。是非ともこのCDで聴かれることをお勧めします。



Orland Consort
Pierre de La Rue: Missa de Sancto Job, Pour ung jamais, Salve Regina, Pourquoy tant me fault il, Il viendra de jour désiré, Salve Mater Salvatoris.
ORF, EDITION ALTE MUSIK. ORF CD 150.

 オルランド・コンソートの中でもかなり出色の出来のCDです。

 このCDもCapilla FlamencaのCDと同じく、フランドルの環境の中での音楽をテーマにしており、オーストリアのマルガリータの為に書かれたであろうラ・リューの曲を集めています。

 中心となるミサは、苦難を耐えたユダヤの長で、音楽家や病院の守護者であるヨブに捧げられたラ・リューのミサで、同様に苦難を耐えねばならなかったマルガリータの為に書かれたものです。全体としてはラ・リューとしては派手さはなく、むしろじっくりと響きを聞かせる曲ですが、それでもラリュー独特の素朴な響きが堪能できる曲です。オルランド・コンソートのやや禁欲的な響きがこのミサには非常にぴったりとあっており、35分のミサ曲ですが、長さを感じさせずに聴く事ができます。

 ミサの他はシャンソンが3曲とモテットが2曲入っており、これらはラ・リュー本来の叙情的で屈託のない節回しを聴く事ができます。シャンソンのPour ung jamaisは彼が仕えたオーストリアのマルガリータが作詩した曲ですが、苦難を耐えしのんだマルガリータの心境が現れた詩で、それにラ・リューは見事な曲をつけています。モテットSalve ReginaはMIDIで紹介しているものですが、これも名演で、実はプロ・カンツィオーネ・アンティークヮが既に演奏したCDがありますが、それ以上の名演となったといえるでしょう。それ以外の曲も実にいい仕上がりですが、世俗曲も全く同じ環境で録音しているため、ミサやモテットとの雰囲気の違いがあまりでないのはすこし残念です。

 ですが全体としての出来は素晴らしく、ラ・リューファンなら必聴の盤と言えるでしょう。



Dirk Snellings指揮CAPILLA FLAMENCA, LA CACCIA,
KNABEN DER SCHOLA CANTORUM CANTATE DOMINO AALST,
SCHOLA GREGORIANA LOVANIENSIS, Joris Verdin (オルガン):
Margarete Maximilian I.
ORF, EDITION ALTE MUSIK. ORF CD 265.

 Capilla Flamencaはベルギーのルネサンス・ヴォーカル・グループで、柔らかな旋律の紡ぎだしかたが魅力的なグループです。

 このCDは、オーストリアのハプスブルク家マクシミリアンの宮廷で、フランドルからリクルートされて来た音楽家たちによって執り行われたであろうミサと、世俗曲の演奏を再現するという試みのものです。

 1枚目は当時しばしば用いられたオルガンによる固有文がミサに取り込まれた形できく事ができます。ラ・リューのミサは、"Missa Iste est speciosa"で、ミサの固有文の選択は聖母マリアの生誕ミサに相応しいものを選択しています。一部のオルガンの旋律は合唱1声部によって歌われ、オルガンの響きと少年合唱が混ざりあって独特の雰囲気をかもし出しています。ミサ曲そのものも、傑作と言われるだけあって非常に質の高いもので、演奏もそれに劣らず優れたものです。演奏はCapella Pratensisに近く、旋律は常に滑らかに紡がれて行きますが、こちらは男声のみで歌われていることもあってか、響きはより自然に聞こえます。

 2枚目は様々なフランドルの世俗曲をまさに概観させてくれる、世俗曲名曲集となっています。曲はオケゲムを始めとして、アグリーコラ、オブレヒト、ラ・リューらの時には良く知られたもの、時には殆ど初録音のものなどが演奏され、声楽・器楽曲ともにどれも見事な演奏です。中でもオケゲムの"Petit camusette"、それからラ・リューの"Tous les regretz"、"Tous nobles cuers"は素晴らしい演奏できく事ができ、特にラ・リューの2曲はあまり録音されないラ・リューの世俗曲の才能を垣間みさせてくれます。

 解説も当時の宮廷生活と音楽について色々興味深い記述がされており、これも勉強になります。英語の解説には同じ文章が2回書かれているという誤植がありましたが、御愛嬌でしょう。是非お勧めしたいCDです。




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