ニコラ・ゴンベール
Nicolas Gombert
1500年頃生-1557年頃没



MIDIサンプル


モテット「天の女王」
Motettus "Regina caeli"
(4' 07)


モテット「聖なるマリアよ」
Motettus "Sancta Maria"
(2' 48)


モテット「聖なる乙女カタリーナよ」
Motettus "Virgo sancta Katharina"
(2' 39)


モテット「ああ、ああ、バビロンよ」
Motettus "Vae, vae, Babylon"
(10' 53)
歌詞対訳


モテット「おお、栄光の女主人よ」
Motettus "O gloriosa Domina"
(3' 58)




生涯


 ニコラ・ゴンベールは1500年頃、フランス側のフランドルのリール(Lille)の西の村で生まれております。1504年から、その地から40キロほど離れたコンデにいたジョスカンに恐らく指導を受け、その後1526年にスペインで皇帝カール5世の宮廷礼拝堂の歌手となり、CourtraiとBethuneで聖職として受給を認められています。その後ゴンベールはスペインの主要都市などを転々とし、その間に極めて高い名声を得ているようです。1529年には宮廷少年合唱隊長に命ぜられ、少年合唱隊の音楽面ももちろん、全ての教育福祉の面倒をみながら、その一方で、帝国領域を移り歩く皇帝とともに合唱隊と旅行をしながら、さらに作曲をし続けるという激務をこなします。1535年にはゴンベールはスペインに戻りますが、今度は合唱隊を伴わずに戦地にゆくカール5世の遠征中、フランドルに音楽家や礼拝堂の人材をリクルートに行きます。

 そのような多忙な生活を送っていた彼は、1538年には宮廷礼拝堂隊員であった事は確かですが、その後、少年合唱隊員を乱暴するという罪を犯し、三段櫂船に鎖でつながれ、当然全ての職から解かれて、公の記録はなくなってしまいます。激務と、芸術家にしばしば見られるある種の狂気がそうさせたのでしょうか。記録にはrursus「再び」という副詞がついているため、一度ならぬ過ちであったようです。しかし鎖に繋がれたまま彼は作曲を続け、数々の名作によって恩赦を受け、もはや聖職に戻る事はできなかったにせよ、鎖を離れて安楽に暮らせるようにはなり、皮肉なことですが、1557年に死ぬまでの間、極めて充実した創作活動が可能となり、また、すでに根付いていた楽譜出版活動が、生前から名声の高かった彼の作品の矢継ぎ早な出版を可能にしたため、現在全集で十数巻になるほどの多くの作品が伝わっています。

 彼の曲の特徴は、当時フランドルに影響を与え始めたイタリアの音楽家の影響を殆ど受けていない、つまり、調性、半音階的進行、感情表出を何れも嫌ったこと、また、師匠のジョスカンの開拓した、二声の掛け合いなどを曲間にはさみ、曲を分断することも好まなかったことがあげられるでしょう。一旦曲が始まるとかなり密な間隔で声部が模倣を繰り返して、その後途切れなく次々にテーマを繰り広げて最後まで行く、という形式を好んでいます。そして、さらには二度で音がぶつかりあう事を決して避けなかったことも特徴的です。



CDその他



Paul Van Nevel指揮Huelgas Ensemble:
Nicolas Gombert: Music from the Court of Charles V.
Sony Vivarte, SK 48289.
NEW

 ゴンベールの作品をまとまった形で世界に紹介したのはこのCDが初めてだったと思います。今でもゴンベールの名盤の一つだと思います。

 演奏しているのは、ルエサンス音楽ファンにはすでにお馴染みのネーヴェル指揮ウェルガス・アンサンブルです。

 演奏されているのはモテットから12声のRegina coeli, 6声のIn te Domine speraviと Media vita, 6声のシャンソンのTous les regrets, 6声のモテットJe prens congie、それに第2旋法のマニフィカト(2-5声)と、大作の一つ、復活節のミサです。

 いきなり12声のモテットが、聴き手をぐいぐいと引っ張ってくれます。12声の密集した和声の中で、時々軋むように入るイギリス風カデンツァの不協和音が耳を驚かせますが、これこそがゴンベールのゴンベールたる所以です。収録されているモテットはどれも完成度の高い曲ばかりですが、とくにJe prens congieは寄せ手は返す並みのような悲し気な旋律と不協和音、それから歌手が即興で入れているビブラートで、まれに見る名演になっています。

 残念ながら、マニフィカトの方は悪くはありませんが、若干カデンツァの部分でぶれが聴かれてしまい、モテットのレベルの演奏にはなっていないのが残念です。

 しかしなんといっても、目玉の演奏はミサ曲でしょう。このミサ曲は6声が基本ですが、クレドは8声、そして第3アニュス・デイは12声にまで声部が拡大しています。まさにゴンベール芸術の粋とも言えるミサ曲なのですが、演奏もかなり高いレベルです。最後の第3アニュス・デイは、ブリュメルの12声のミサEcce ancilla Dominiを聴いている方ならすぐに気付かれると思いますが、この曲のオマージュで、同じ定旋律が用いられており、同じスタイルで書かれています。

 このCDがリリースされたのは10年以上前ですが、アンサンブルのメンバーをみると、アルトにLa VenexianaのリーダーClaudio Cavina、それからバッハ・コレギウム・ジャパンでも来日している名手Spéphane Van DijckとHarry Can der Kampfが参加しています。



Thomas E Bauer指揮Vocalsolisten Ratisbona:
Nicolas Gombert: Media Vita.
Luca Scandali (オルガン), Mauro Occhionero (パーカッション):
Intabolatura di Balli.
(2枚組)
ORF ALTE MUSIK, ORF CD 333.

 ゴンベールのミサ曲で待ちわびた一枚でしょう。演奏するVocalsolisten Ratisbonaはレーゲンスブルク・ドームシュパッツェンのメンバーが主になって構成しています。というと、ルネサンス・ヴォーカルアンサンブルのファンも、メンバーの確認までするマニア級になると、シンガー・プールを思い出すかもしれませんが、実際指揮者のThomas E Bauerはジンガー・プールのバリトンで、メンバーも参加経験者が3人含まれています。また、ヒリヤード・アンサンブルだったJohn Potterが参加していますが、これは頻繁にヒリヤード・アンサンブルとジョイント・コンサートをしていたことを考えると不思議ではないでしょう。

 ミサ曲は5声で、ゴンベール独特の、全く切れ目のない、密な対位法が繰り広げられるスタイルが満喫できる名作です。ヒリヤード・アンサンブルは以前レパートリーにしながらCDを出さなかったのですが、ほぼそれと同レベルのCDが登場した事は本当に喜ばしいことです。

 ミサ曲の合間には、ブリュメルとラ・リュー、クレキョンのエレミア哀歌が一曲ずつ入っています。これはミサの形式とは本来異なるもので、それを意図してもいないようです。曲としては、ラ・リューのエレミア哀歌がきけるのは、ラ・リューファンとしては嬉しい付録で、素直に喜ぶべきでしょう。ただ、ライナー・ノーツに、イタリアに行った形跡のないラ・リューが若い頃にイタリアから帰ってきたなどと書いているのは少々不思議です。ライナー・ノーツは短すぎで、残念ながらお世辞にも出来が良いとは言えません。演奏がこれだけよいのに少々残念です。

もう一枚はルネサンス後期のオルガン曲の概要を描こうとする企画で、スザートやホフハイマー、アンティーコ、ガブリエル他のオルガン・タブ譜による曲を紹介しています。パーカッションが小気味良く、この時代の鍵盤楽器曲を聴きたい人にはよいCDでしょうが、タイプが似通っているため、ずっと聴くのは少々飽きて来ますが、演奏としては優れたものだと思います。

 お勧めのCDではありますが、新発売なのに、なぜか全く関係のない演奏者と曲目で、2枚組である理由はどうも良く分かりません。



Paolo Da Col指揮Odhecaton:
Nicolas Gombert: A la incoronation: Musiche per l'incoronazione imperiale di Carlo V - Bologna 1530.
Bongiovanni, GBBB5083-2.

 カール5世の1530年のボローニャでの戴冠式を再現したCDです。

 演奏しているのはイタリアのグループで、ペトルッチの初の印刷楽譜のタイトルから名前をとったオデカトンと、それから今やバッハ・コレギウム・ジャパンなどとの共演で有名になったブルース・ディッキーが率いる器楽陣、それにEnsemble Pian & Forteです。

 ミサは、ゴンベールがジャン・リシャフォールのシャンソンSur tous regretsを元に作った5声部のパロディ・ミサです。ここでは歌唱は10人前後で唱われており、最上声はカウンター・テノールで、柔らかくうねるようなゴンベールの音楽を見事に描き出しています。ミサはカール5世の入場のファンファーレから始まり、途中にオルガンや器楽曲が挟まれつつ、当時の式典の音楽を再現しています。ミサは殆ど休止なく対位法が重なり続けるゴンベールの典型的なスタイルで、豊富な和声の合間に軋むような不協和音が聴かれます。

 ミサの他には有名なモテットIn illo temporeも素晴らしい演奏で聴く事ができます。このモテットはモンテヴェルディが渾身の力を振り絞ってパロディ・ミサを作っています。また、これも有名な12声部のモテット、Regina celiに加えて、ジョスカンのO bone et dulcissime Iesuも収録されています。ジョスカンのこの曲は、ヘレヴェッヘの演奏では残念ながら今一つなのですが、これを補ってくれる名演になっています。

 ゴンベールを聴くには実に格好のCDだと言えるでしょう。その他、珍しい式典の器楽と、ブルース・ディッキーらのコルネットによる合奏が実に名演です。CDでは、その式典にまつわる興味深い話があって、これも面白く読めます。是非強くお勧めしたいCDです。




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