神奈川県の「山の仲間 浮雲」の記録です


山行記録

八ヶ岳(稲子岳南壁左方カンテ〜小同心クラック)

2017年5月27日〜28日



"嬉しい瞬間であり、憧れのアルパインデビュー出来た事に感無量”



 5月のG/Wから、この八ヶ岳デビュー戦に合わせてHさんとトレーニングを行い、 天気もなんとかなる予報で、予定通り行く事が出来ました。 前夜、予想に反して車の屋根を激しく打つ雨音で目が覚める。 「岩は濡れていて もしかしたら初日の登攀は諦めないといけないかもしれない」と、 山行決定をする前からHさんに言われていて、それも経験という事で決行した。

 27日4時過ぎ、前日の雨がやっと上がり、濃いガスの中ヘッデンを付けて唐沢鉱泉を出発。 前回の三つ峠の時より水3.5Lが無い分、荷物は軽いはずが足取りは重い。 中山峠でガチャ類をつけ、荷物のデポをする頃は天気はすっかり回復していたが、 上空の雲がびゅんびゅん流れ、とにかく風が強く寒さで震える。 こんな強風で登攀できるのか、不安に思いながら中山峠の急斜面を下る。 物凄い急登だ。雪はあるもののなんとか交わせたので、そのまま取りつき地点までぐんぐん下る。 ふと顔を上げると、南壁が目の前に現れる。

 ゲレンデ以外の初の本番・・・この日の為に約一ケ月トレーニングを積んできた。 そう思うととても緊張した。そしてとにかく強風で寒くて自分に余裕がない。 幸い岩は5月の日差しを存分に受け、完璧に乾いている。素晴らしい。 1ピッチ目、いつもならこの辺でピッチを切る頃なのにな・・・ と思うが、ロープはどんどん引かれる。 あっという間に半分までロープが出て、慌てて「ロープ半分―っ!」 とコールする。・・・が、この強風で声はかき消される。 「残り10mっー!」いくら叫んでも聞こえていない。(と、思う) コール無しを練習していて本当に良かったと実感し、 パーティーをつくる為にトレーニングをする事がどれだけ重要か理解する。 ロープいっぱいからかすかに「いいよー」と聞こえた気がした。 少しするとロープが引かれたので、登り始める。 岩は想像以上に冷たく直ぐに手がかじかみ始めた。 ここは早く抜けたいと必死で登った。 とにかく緊張していたのと、ゴォーゴォー言う風の音が気持ちを騒がせ、おまけに気を抜くとそいつに体ごと持って行かれる。 5ピッチと聞いていたところ、4ピッチで抜けて、上で待つHさんとがっちり握手。

 嬉しい瞬間であり、憧れのアルパインデビュー出来た事に感無量。 せっかくなので、稲子岳の山頂に行ってみようと、足を延ばす。 山頂は特に何もなく、休憩を1本入れて足早に中山峠まで引き返し、 いざオーレン小屋のテン場へ。 箕冠山からオーレンまでの下りはずっと雪道で何度も踏み抜き、 荷物に振られ転倒し無駄に体力を消耗してしまった。 だが、こういうグサグサの雪道歩きも私にとっては良い経験である。  

 28日、3時起床4時20分出発。 今日は、夏沢峠経由硫黄岳〜横岳手前までを全装で歩く。 オーレン小屋から硫黄岳までは6年前に来た事がある思い出の場所。 あの時は、膝蓋靭帯炎をやったばかりで、 ほぼ空身でも下りは1歩出すごとに悲鳴を上げていた。 まさか6年後にアルパインデビューで自分がここを歩いてるとは、 想像もしなかった。 あの時の 「もう山なんてやれないのかも・・・」 という弱気の自分に 上書き保存が出来た気がして、嬉しい。 諦めない強い気持ちが、ここまでやれるようになれた。

 昨日登った稲子岳を左に見て、後ろには北・中央・南アルプスオールスターが勢ぞろい。 雲海から登る朝日が美しく、何よりも自分の足で登っている事に感謝し必死で足を前に出した。 が、 夏沢峠から硫黄岳まで1時間以上と時間がかかり過ぎ、私の様子を判断したHさんから 「荷物を振ろう」と恐れていた一言。 こんなにヘタレだったら、いつか言われるんじゃないかと内心思っていただけに、 自分の体力の無さに悲しくなったし、悔しかった。 結局、下降地点までの最後の登りで私の分のロープを振ることになり、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

 いよいよ装備を付けて大同心ルンゼを懸垂2ピッチで下りた。 ゴロゴロした岩が足を置く場所に不安定にあり、 落石を起こすんじゃないかとかなり慎重になった。 また、ザックを背負っての懸垂も初で、 念の為ワンターン制動をかけた。2ピッチの懸垂なのにとても時間がかかる事がわかり、 こういう時間もリーダーは読んでいるんだな・・・と、パーティーの総合力で判断しているとわかる。 大同心基部にザックをデポして、小同心クラックまで草付きのザレザレを這い上がり、馴れないアプローチシューズで 緊張する。慎重に慎重に。。。

 やっと小同心取りつきに到着。ここでまたもや強風に凍え、 Hさんも「クラックだから寒い」と言っていた。ビレイグローブのまま登りたい気分だ。 ホールドや足場は沢山あるので、岩が意外と脆いという注意事項を念頭に しっかり確認しながら、慎重に登る。 途中から寒さも高さも忘れてやっと楽しくなる。 チムニーはつっぱって登り、さすがにこの高度感にビビる。 小同心のピークに立つと、その素晴らしい景色に感激した。 ピークから横岳への細い尾根はコンテで行き、 このまま稜線に抜けると思いきや、頂上直下のショートピッチで リードを体験させてもらう事に。 突然の振りに1秒驚いたが、リードは今回は無理だなぁと思っていただけに、嬉しかった。 今までHさんがやってきたプロテクションの取り方や、カムの設置など良く思い出し、 屈曲してる時はどうしたら良いか、ロープは流れるか、フォローが登るときの事、自分が落ちた時の事を考えながらルートを見る。 スピードには程遠いけれど、本番での貴重なリードの体験。どんなに簡単な所であろうと、経験すること、数をこなすことが一番だと分かっていたので、Hさんの配慮に感謝である。

 貴重な体験はクライミングだけではなく、一般登山道ではないガレガレやザレザレ、浮石だらけの ルートを、取り付きまで行くその過程全てが私には貴重な体験だ。 登りつめた先は横岳山頂ドンピシャで、遠くを眺めていた一般登山客が、急に足元の見えない岩場からひょっこり人間が出てきたので、 声を上げてびっくりしていた。 何か話しかけられていたようだが、こちらはすぐに支点作成に確保器の準備に忙しく、お構いなしで「解除ー!!」と腹の底から声をだす。 3秒まっても応答なし。もう一度大声でコールするが、応答ないのでロープを引く。不安になったが、練習してきたから大丈夫と落ち着いてもくもくとロープを引く。 間もなく、Hさんが姿を現す。横岳山頂でがっちり握手。練習で入れたカムは3個中2個が効いてなかったという。 どう噛ませたらよいか、再度教わり、後はとにかく経験する事が大事と思った。全てを総合してとても勉強になるデビュー戦だった。 再び大同心ルンゼを下降し、デポした荷物をひろい慎重に大同心稜を下山した。 美濃戸口で改めてリーダーHさんと握手を交わし、GWからのトレーニングを思い出した。 緊張しっぱなしだったけど、あっという間だったなぁと、感慨深い1か月だった。

 山に行かないと分からない事が沢山ある。 山に行けば何かしら課題ができ、同時に解決できることもある。 もっともっと山に行かないとなぁと、心底思った山行でした。 これからも、もっとトレーニングを積んで、前進したいと思います。 この体験で今まで全く知らなかった山の一面に触れる事ができ、 ますますアルパインクライミングにはまって行くと確信しました。 今回リーダーHさんの忍耐強い指導のおかげで無事にデビューする事ができました。 Hさん、本当にありがとうございました。
(記事:Kw)

5月27日晴れ
唐沢鉱泉P0400〜0620黒百合〜0630中山峠〜0840南壁左カンテ取付〜1030終了点〜1120稲子岳〜1220中山峠〜1410東天狗岳〜1440根石岳〜1550オーレン小屋

5月28日晴れ
オーレン小屋0420〜0450夏沢峠〜0550硫黄岳〜0710大同心ルンゼ下降〜0910小同心クラック取付〜1210横岳〜1450赤岳鉱泉〜1620美濃戸〜1710美濃戸口〜タクシー〜1740唐沢鉱泉P

メンバー:H、Kw