神奈川県の「山の仲間 浮雲」の記録です


山行記録

越後山脈の秘峰・未丈ヶ岳敗退記

2016年4月10日



"緩やかな尾根はブナの疎林となっていて快適だった”



 未丈ヶ岳は標高は1550mと低いものの、堂々たる山容と奥深い立地から存在感のある山だ。 しかし300名山にもなっていない。マイナーな山を好む人は300名山のようなタイトルなど必要しない。 少し北にある毛猛山とともにマイナールート愛好家には隠れた人気の山だと思う。



 私は20代の後半にこの山を目指したことがあった。 5月下旬という時期から尾根には中途半端に雪があり、藪のうるささのために敗退したことがあった。 ルートは現在唯一の登山道のある西側に延びる尾根である。 敗退を早めに決めたために途中で簡素な小屋に泊ってゼンマイ取りをしていた人に招かれて 山菜をごちそうになったことが「よき記憶」となっている。 このルートは登山地図に載っているが最近の台風で荒れたままになっていると聞く。 その後は未丈ヶ岳に行こうと考えたことはなかった。

 最近になって銀山平から気楽に登れる山として日向倉山を知った。 夏道はないので銀山平に車で入れる残雪期のルートである。 計画を立てているうちに、せっかく遠くまで行くので欲を出して未丈ヶ岳まで足を延ばしてみようと思うようになった。 長いコースなので山中で1泊してののんびり山行を考えたが、同行者が現れず日帰りでの計画とした。 当初は単独で行くことにしていたが、直前になってFさんが同行することになった。 Fさんとは銀山平起点の何回かの山(春と夏の越後駒ケ岳、荒沢岳)を一緒している。


 銀山平へのアクセス道である奥只見シルバーラインは夜間通行止めになっているとの情報で計画した。 前夜は関越道の大和パーキングで車中泊し、シルバーラインのゲートが開く6時を目指して車を走らせた。 しかしシルバーラインは前日から終日通行可能となっていた。そのために計画より早い時間に銀山平に着いた。 トンネルを出るとすぐに駐車スペースがあり、すでに3台ほどが停まっていた。 フロントガラスが凍っていた車は前日に入山したと思われる。 仕度をしていると次々と車が着き、駐車場は満車状態となった。 雪は少なく、周囲の積雪は数十センチで山の斜面にはほとんど雪が付いていない。 ちなみに銀山平の標高は760m。2週間前に行った浅草岳の積雪状況から、もっと雪があると思っていた。

 稜線へと登る登路としては2ルートが考えられた。 日向倉山と赤崩山との最低鞍部(1110m)からの沢の左岸尾根と右岸尾根である。 左岸尾根は駐車場のすぐ目の前だが雪がほとんどない。右岸尾根は尾根には雪が続いているが遠回りなルートだ。 少し登れば雪が出てくるだろうと登路として近い左岸尾根を選択した。適当に木のまばらな所を選んで登り始めた。 斜面は一面にイワウチワがあったが花の時期はもう少し先のようだ。 斜面は急だが藪というほどではない。すぐに雪があり固いのでアイゼンを出した。 雪は少し登ると消え、近くの雪に移るということを繰り返した。 朝などで元気だったこともあり順調に高度を獲得できた。1時間ほど登ると傾斜も緩み雪稜を歩くようになった。 出発時は寒かったので雨具の上下を着た。非常に暖かい日で1枚また1枚と夏同然の軽装になった。 空気は生ぬるく、風の陰となるとむっとする。天気は高曇りで時々薄日が差したが、 サングラスは必要なかった。

 緩やかな尾根はブナの疎林となっていて快適だった。 振り返って見る越後駒ケ岳と中ノ岳、そして荒沢岳が徐々に大きくなっていった。 左手には目指す未丈ヶ岳がどっしりとした姿を現した。 やがて日向倉山の山頂が指呼の距離となり、頂上直下を登る2人組が見えた。 後ろには同時刻に駐車場に着いた2人組みが続いているようだが、この2パーティーとの距離は終始そのままだった。 駐車場の車の台数からは予想しなかった静かな行動となったのは好ましかった。 日向倉山へは2箇所ほど雪が切れていたが、順調に行程ははかどり、2時間半ほどで丸い山頂を持つ日向倉山に着いた。 山頂にはテントが張られ、住人は未丈ヶ岳に向かっているようだ。


 日向倉山に立つとこれから向かう未丈ヶ岳のルートが一直線となって見える。 途中のピークが重なっているので近くに見えるが距離は4キロぐらいありそうだ。 しばらくはブナの広い尾根を快適に下る。 このあたりはかってFさんと歩いた南会津のブナ街道を思わせた。 こんな雰囲気のよい尾根もすぐに終わり、ブッシュが少しうるさく感じる斜面を歩くようになる。 1272mの小ピークをなんとなく越えると1376m峰への140mの登りとなる。このピークは低いが形がよいが無名のようだ。 国土地理院の地図では標高が入っていないが、昭文社の地図では独立標高点のようになっている。 このあたりで泊まり装備の3人組みとすれ違う。 縦走ですかと聞くと、未丈の往復登山で未丈の山頂にテントを張ったという。 「途中の藪が・・・」と話すが聞き流した。そして女性だけの5人組みともすれ違う。 彼女らは日向倉山山頂のテントのパーティーだった。

 1376m峰に登ると未丈ヶ岳がぐっと近づいた。時間はまだ10時で登頂は確実と思った。 まず80mを下ると後は緩い登りが260mあるだけだった。ところが少し下ると雪が切れている。 右手には雪があるがズタズタで藪の密生した痩せ尾根を忠実に進むしかない。藪は比較的こぎやすかった。 しかし時間はかかる。先のルートが見渡せず、もう終わったかと思うと雪に乗り移れず、まだ藪が続く。 思ったより時間がかかり、根気負けして敗退を決めてしまった。 今回のコースはアップダウンが多くあり、帰路もかなりの労力が必要だ。余力を残しておきたいという考えもあった。


 1376m峰に戻ると私たちの後ろを歩いていた2人に会った。藪の話をすると彼らもここで戻ることになった。 日向倉山に戻る240mの登りでは2回も休憩を入れた。 敗退を決めて、時間は十分あるので二人共のんびりムードになった。 日向倉山山頂では20人はいると思われる大パーティーが休んでいた。 地元の山岳会のパーティーで中型バスをチャーターして来ていた。 靴は山スキー靴だが2人を除いてスキーではなかった。 どうやら滑れる状態ではないのでスキーは途中に置いてきたらしい。 彼らのおかげで帰りのルートはよく踏み固められていた。 暖かいので帰路は踏み抜きを心配したが陽がでなかったこともあり雪はあまり緩まなかった。 午後になっても展望はきき、ゆったりとした雪の尾根歩きは気持ちよかった。 登りでは注意を払わなかった小さなアップダウンがきつく感じた。 駐車場への最後の下りは登路として候補になった尾根に踏み跡が続いていた。 この尾根を降りるには最低鞍部から小さな登りがあるが、雪が終始続き正解だった。

 残念な結果に終わってしまったが、二人ともちゃんと雪のある時期に歩いたらよいルートになるという認識で一致した。 またきついコースであることも。 再度のチャレンジは同じコースでは新鮮味がないので、丸山スキー場から1376m峰を使うのも面白そうだと思った。 雪がたっぷりある年なら、まだ雪の残る斜面のブナが芽吹きタムシバの花が咲く時期に歩いたら最高のように思える。

 下山後の温泉はいつもの「白銀の湯」にした。昨日が今シーズンのオープンだった。 温泉へ行くには越後駒の登山口である石抱橋を通る。 昨年GWの越後駒の時はここは駐車が禁止されていたが、この日は路駐の車が並んでいた。 するとなんと友人の車があるではないか。入浴の後で置手紙をワイパーに挟んだ。 後でメールが来たが、雨になりワイパーを回して初めて置き手紙に気づいたという。 白銀の湯の浴槽からは越後駒と中ノ岳が眺められる。 私は下山後の温泉の評価を登った山が見えるかどうかを重要視している。 登った山は裏手でもちろん見えないが、雪がまだたっぷりある山々を 湯気で霞むガラス越に山行の余韻に浸るかのようにぼんやりと眺めた。
(記事:S)

天気:うすぐもり
銀山平6:10〜8:40日向倉山〜9:50(P1376)〜藪10:15〜12:05日向倉山〜13:55銀山平

メンバー:S、F